7月7日物語 ナイラーザ×レシア
;7月7日の物語 ナイラーザ×レシア

「ハグハグッ♪モグモグッ♪」

真上から照り付ける太陽が差す屋上で
幸せそうにクリームパンを頬張る
小さな少女。
あの一件から一カ月たったある日、
ここに二人で来るのが当たり前
の様になった。

「ハグハグッ♪モグモグッ♪」

この暑さの中でお構いなしに頬を
リスのように膨らましてる能天気な小娘。
まぁ……見慣れた光景なのだが。

最近俺の周りで二つの変化があった。
一つは女にクリームパンをおごって
しまう不抜けた男になった事。

もちろん、犯人は隣にいるこいつ。
俺が昼食に行く時間になったら
チョコチョコと後ろに着いてくる。
そしてクリームパンと俺を
交互に見つめる。
それだけならいいのだが一つ問題がある。
俺たちの身長差だ。

レシアは小柄で身長は153p。
一方俺は175p。
常にレシアは俺を見上げる形で
話さなくてはならない。
いわゆる上目遣いだ。
あの純真な瞳に誰が勝てよう
というものか?

もう一つは、
屋上でも隣同士で
話すようになった事だ。

「あ〜、美味しかった。
 今日もありがとね、ナイラーザ君。」

この本当に幸せそうな顔を見ると、
誘惑に負けてよかったなとつくづく思う。

「ところでさぁ、
 ナイラーザ君は『七夕』って
 聞いたことある?」

「正直聞いたことが無い。
 何かの祭りか?」

「結構近いよ。
 最近読んだ『世界の星たち』っていう
 本を読んだらその話が載ってたの。
 すっごく興味があるんだ。」

掻い摘んで話すとどこかの世界で
『七夕』と呼ばれる一種の風物詩が
あるらしい。

織姫という女性と彦星という男性が
年に一度天の川を渡って出会う。

その夜に夜空を見上げれば
彦星と織姫を準えた一際明るい星を
見る事ができるという。


「どう?ロマンティックな話でしょ?」

「確かに風流な感じがする。
 その世界の人たちは繊細な感覚を
 持っているんだな。」

「だよねぇ?」

夜空に瞬く星に大切な人
との出会いを重ねる。
なかなか興味の持てる話だ。

「それで物は相談だけど、
 今日の夜10時位に外で星空見ない?」

突然のレシアからの誘い。

「まぁ……別に構わないが。
 そんないい場所でも知ってるのか?」

「エヘヘ……。」

何かを企んでいるかの
ようににんまりと笑うレシア。

「たぶんナイラーザ君も分かる
 場所だから、絶対に来てね!
 約束だよ!」

そう言い放つとタッタカと
駆け出すレシア。
結構すばしっこいので
もう姿は見えなくなってしまった。

「俺でもわかる場所……?」

今日一日はこの場所が
どこなのか考えていて、
物事に集中できなかった。

そのあと場所を聞いても
教えてくれず、頭を悩ませる。

直に家に帰宅し
午後9時30分をまわった。
いまだに答えが出てこない。
俺もレシアもよく知っている場所、
そして高いところがよく見える
見晴らしのいい場所…………。




なんだ、あの場所か。

昼から抱えていた疑問符を
やっと払拭できた。
割とワフ格好に着替え、家を飛び出す。
さすがに男が待たせてはいけないだろう。

向かう先はノーマ学園。
20分ほどで到着すると、
暗闇の中で振る手が見える。

「ナイラーザ君っ!ここだよっ!」

いつもより涼しげな格好を
しているレシア。
俺を見つけるや否や駆け寄って来る。

「よくこの場所がわかったね。
 嬉しいな。」

「結構必死に頭をひねった。
 学校の授業よりも難しかった。」

「ところでどうやって学校に入るんだ?」

「ギリギリまで学校に残ってある場所を
 開けておきました。こちらです。」

誇らしげに胸を張って歩いていく。
しばらくして付いた場所を指さ
しながら窓を開ける。
不法侵入だぞとツッコミを
入れてやりたい。

無事不法侵入をした
俺たちは暗がりの校内を進む。
ここを照らすのは町中の街灯だけ、
中に光は無い。

そして行き着いた先は、
すべてを語る必要はない。

そう、
俺たちは学校の屋上に来ていたのだ。
この周辺では間違いなく一番高い場所、
故に夜空に一番近い場所。

「………今日はちょっと曇ってるね。」

「ああ、そうだな。」

俺たちの期待を
裏切るかのような曇天模様。
せっかくの楽しい気分が台無しに
なってしまう。



「彦星さんと織姫さんが会えないよ。」

「一体どういうことだ?」

「天の川がきれいに架からないと
 二人は会う事が出来ないって
 言われてる の。」

ならば今日は最悪の日だ。
一年しか会えないのにそれをも
許されないとは……

「………ごめんね。
 せっかく来てくれたのに、」

「別に大丈夫だぞ?」

「たまにはゆっくりと
 過ごせる時間があっても
 いいじゃないか。」

「確かにね。
 家ではなかなか心が休まらないし。」

「ナイラーザ君の
 傍にいた方が楽しいし、
 安心できるから。」



他愛もない会話を続けた後、
しばしの沈黙。

俺もなんとなく時間を過ごす、

ふと気がついて腕時計を見る。

時間は12時を回っていた。
夜空を見上げる。

「…………。」
夜空に渡された白銀の河、
いつしか雲は流れていた。

ある世界ではこれを『天の川』と呼ぶ。
その川を隔てて見える二つの眩い星。
俺には心なしか二つの星が近付いていく
ように見えた。

「おい、レシア……」





起こそうと思ったが
次の瞬間には止めた。

俺の肩を枕代わりにして
眠ってしまっている。

誘っておきながら……
と思いつつも悪い気はしない。

また話せばいいか、
レシアにとって新しい記憶となるように。

そして最後に俺は思う。
「彦星じゃなくて良かったな……」と。

Fin、
刹那雪
2009/07/07(火)
18:58:43 公開
■この作品の著作権は刹那雪さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのコメント
ハイ、
インデレに突き進む者、刹那雪です。

今回は時事ネタですねぇ。
彦星と織媛があえるかわからないけれど
夏の夜長の退屈凌ぎにしていただければ
幸いです。

この作品の感想をお寄せください。
感想ありがとうございます。
レシアは割と好評ですねぇ〜〜。嬉しいです。
「彦星じゃなくて良かったな‥‥」これは必要なセリフなのれす。
Name: 刹那雪
PASS
■2009-07-12 12:57
ID : 0YgQRQCk6a6
いやはや、いいです。
レシアに萌えます。
そして時々素直になるナイラーザがすごくいい。
彦星じゃなくて良かったな……。うはっ(何
Name: ねろ
PASS
■2009-07-12 01:12
ID : uoIGA1haTlA
取敢えず味をつけて食べようね‥‥(何
一応季節に合った話にしてみました。
それでは。
Name: 刹那雪
PASS
■2009-07-07 19:26
ID : 0YgQRQCk6a6
ハイ、早々読みました。(
相変わらず、凄いですよもう。
これだけでミツバ二束食べられる!!
Name: シャンベル
PASS
■2009-07-07 19:22
ID : M1.0HMHDDp.
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