蝉と祭りと君の声。(ナイラーザ×レシア)
#1

羽の生えた蝉は

ひと夏で命を終える。

祭りの賑わいも

夏が過ぎれば忘れられる。

できれば

お前への気持ちは永遠に。

お前への思いは永遠に・・・・






「ナイラーザ君っ!!」

「ガフッ!!」

腹部に重いものを感じ飛び起きると、
能天気な笑顔でクリームパンを頬張っている少女が目の前に座っていた。

少女の名前はレシア。
ここはノーマ学院の屋上。

俺は本を読んでいるうちに、いつの間にか
寝ていたようだ。


「〜っ・・・レシア、起こすならもう少し
マシな起こし方をしてくれ。」

「だって、ゆすってもナイラーザ君、全然起きないんだもん。」

レシアが膨れっ面で言った。
それでもクリームパンを食べるのを止めないので、
膨れているは怒っているのかパンのせいなのかさっぱり分からない。



まだ寝ぼけた状態の俺の顔面に、レシアが何かを突きつけた。

「これ!夏祭り!!昨日言ってたでしょ?
一緒に行こうって!!」

少し距離を離して見ると、蝉や提灯の描かれた夏祭りのポスターだった。

「・・・あぁ。確かに言ったな。で?いつだ?」

レシアはもっと顔を膨らせ、屋上中に響くぐらいの大声で叫んだ。

「今晩っっ!!!!」



・・・・暫らくレシアの声のエコーが響いていた。

「目、覚めた?」

先ほどまでの膨れっ面はどこへやら。
レシアは純粋な笑顔で尋ねる。

「あぁ。覚めた。もう寝れないかと思うぐらいな。」

レシアの右頬をつまみながら俺は言った。

あぁ、もう。未だに頭の中がグラグラする・・・


レシアはというと、そんなのお構いナシに
話を続けた。

「じゃあ、中央公園に集合ね。持ち物は適当、格好は祭りらしいので!」


それと同時に昼休み終了のチャイムが鳴った。

「あ、授業始まるね。行こっか!」

「分かった。・・・その前にどいてくれ。
お前が乗っていると動けない。」

レシアは下を見た。

レシアは、最初に俺を起こすときに乗っかって、それ以降動いていなかったのだ。


#2

・・・夜。

「・・・ふむ、まぁ良いか。」

俺は家にある鏡を見て言った。

レシアが祭りらしい格好と言ったので
家中を探して浴衣を引っ張り出したのだ。

紺地で地味だが、男物の浴衣というのは大抵こんなものだ。

早足に家を出ると、そのまま俺は
中央公園へと一直線に向かった。


流石祭り、と言うべきか。
人が多く、どこが公園の噴水なのか分からない。

「あっ!ナイラーザ君!!」

声のする方を見ると、
人ごみの中に満面の笑顔をしたレシアが居た。

ぱたぱたと足音を立てて俺に駆け寄ると、
軽く顔を上げた。

「待ったか?」

「うん。」

・・・・ここはベタに
「ううん、私も今来たの。」
とか言うべきだろう。

本当に、レシアは素直だ。

「じゃあ、早く行こうよ。色んな所回りたいし。」

レシアは俺の手を引くと、人ごみの中に突っ込んだ。

レシアは真っ先に金魚すくいの屋台に来た。

「金魚♪金魚っ♪」

「好きなのか?」

「うんっ!!」

レシアは金魚の描かれた浴衣の懐から
財布を取り出すと、お金を渡して金魚すくいを始めた。

「ナイラーザ君もやる?」

ひょいひょいと手に持っているボウルに
金魚を移しながらレシアは言った。

「そうだな、やってみるか。」


・・・なかなか上手くいくものではない。

すくってもすくっても
金魚は尾びれを使ってひらりと逃げる。

仕舞いには紙が破れる始末だ。

レシアのボウルは既に金魚でいっぱいだ。

「コツ、教えてあげようか?」

ひょっこりとレシアが横から顔を出した。

「・・・いい。別に教わらなくても出来る。」

「金魚一匹も捕まってないのに?」

レシアは素直だ。

そして、素直に酷い。



・・・・・・それから

「兄ちゃん、いい加減あきらめたらどうだい?」

店の人はもう呆れている。

「まだだ!まだ終わらない!」

レシアも袋に赤と黒の金魚を一匹ずつ入れてあくびをしている。


その時だった。
出目金が思いっきり頭突きで俺のポイの紙を突き破った。

「残念だったな。とりあえずコレでもやるよ。」

店の人は俺に金魚のキーホルダーを手渡した。

しかし

「まだだ!!もう一回やる!!!」

俺は諦めない。

「ナイラーザ君、終わったんだから別の所
行こうね〜。」

レシアに手を引かれ俺は無理矢理ながら
金魚すくいの屋台を後にした。


#3

川沿いの人ごみの道をキーホルダーのつける場所に悩みながら
俺とレシアは歩いていた。

「くそぅ・・・次こそは、次こそは一匹でも・・・」

「うん、そうだね。来年頑張ろうね。」

レシアは呆れかけている。


その時だった。

反対方向に歩いていた人とぶつかり、
持っていたキーホルダーがどこかに落ちてしまった。

「なんだテメェ、気をつけろ!!」

俺も言い返そうと顔を上げたが、止めた。

いかにも不良っぽいツラに、青いバンダナ。

俺でも知っている。蒼蛇だ。

しかしレシアは蒼蛇の男を見て、はっきりと言った。

「ナイラーザ君、
この人いかにも漫画とかに出てきそうなヤラレ役っぽい。」

それを聞いた蒼蛇の男は顔を真っ赤にした。

それと同時に俺は真っ青になった。

俺は蒼蛇の男が口を開く前に、レシアを掴んで逃げ出した。

ここで喧嘩にでもなってみろ。
俺は知識はあるが拳なんて交えた事が無い。

しかし息を切らして言葉は声にならない。

まったく、こんなことになるならもっと体力、つけとくんだった。


その時。


手がいきなり軽くなるのを感じた。

振り返ると、レシアがいない。



「・・・・・レシア?」


#4

走った。

周りの人など忘れ、祭りという事も忘れ、只ひたすら走った。

先ほどの疲れも感じない。

それより

レシアの事で頭がいっぱいだった。


只1人の女の事でパニックになるなんて、俺はどうにかしてしまったと思う。

でも今はどうにかなっている方がいい。

祭り騒ぎみたいに、一日一日を過ごす方が楽しいと、
レシアを見て俺は思ったのだ。



中央公園の噴水の前に着いた。

しかし、レシアの姿は無い。

本当に、レシアは何処へ行ってしまったのだろう。

「どうしたの?」

後ろからいきなり声をかけられたので、驚いて後ろを振り向いた。

しかし、誰も居ない。

「あの〜、下、見てくれない?」

「下?」

下を見てみると、小柄なメガネ男子が立っていた。

「ふん、何だ?医学部に入れなかった落ちこぼれに用は無い。」

俺は慌てて平静を装う。

「レシアって子、探してるの?」

・・・・ちょっと待て。

何でコイツがレシアの事を知っているんだ!!

「やっぱり。顔が言ってるよ。」

「だって、屋上って薬学部の菜園があるんだもの。分かるよ。」

俺は焦った。

「ということは・・・?」

エシュターは何を言いたいのか察したらしく、あっさりと言った。

「知ってるよ。キミと、レシアさんが屋上でいつも会ってるの。」

俺は赤面した。

見られていた。

よりにもよって、俺が「落ちこぼれ」と貶した奴に。

「おいエシュター、早く行こうぜ。」

エシュターは声のする方を向くと、「分かった。」と返事をした。

そして別れぎわに、俺に言った。

「ちょっと思い出してみなよ。そして、レシアさんがやりそうな事、考えてみて。」

そう言い残すと、凄い勢いで走っていった。

思い出す?レシアのやりそうな事?






「あ」

頭の中のもやが晴れた。

そして、走った。

「何でもっと早く気付かなかったんだ。」

俺は誰にでもなく舌打ちした。




川沿いの道に着くと、
レシアが川のギリギリの所で草を掻き分けていた。

「あった!」

レシアは立ち上がると、ぱっ、と腕を上げた。

俺が落としたキーホルダーがレシアの手の
中で光を反射してキラキラしている。

レシアは俺に気付くと、笑顔で言った。

「ナイラーザ君!あったよ、キーホルダー!」



その時



レシアは足を滑らせ、川に落ちそうになった。

「レシア!!」

俺は急いで走り、レシアの手を掴んだ。

しかし、走ったはずみか、それとも単に俺に人一人支える力が無かったのか、

そのまま二人一緒に川に落っこちた。

あぁ、もう。浴衣がぐしょぐしょだ。

それでもレシアは笑顔だった。

俺にキーホルダーを手渡して、あはは、と笑った。

「川、浅くてよかったね。」

レシアは立ち上がると、俺の手を引いて持ち上げた。

・・・俺より、レシアの方が力があるのか。
そう考えると、なんだか悲しい。

しかしレシアは気にしないで続けた。

「また、来年来ようね!夏祭り!」

「あぁ・・。」

月を背にしたレシアは、羽の生えたばかりの蝉のように儚く、美しかった。





















・・・翌日談・・・

レシアは学校を休んだ。

やはり昨日ずぶ濡れになったのがいけなかったのか、風邪だという。

俺は何故かピンピンしている。

今日はレシアが居ないのか、と思いつつも
やはりいつものように屋上で昼食をとっていた。

すると、セト、テレス、パルシアの三人が来た。

この三人の組み合わせとは、珍しいものだ。

何故か三人はこちらへ来る。

「ナイラーザさん、聞いていいですか?」

いきなりセトが口を開いた。

「・・・なにをだ。」

かまわず麦茶を飲みながら聞き返す。

「あなた、レシアさんと付き合っているって、本当?」

「!?」

危うく麦茶を噴き出すところだった。

「昨日、私とお姉ちゃん、見たのよ。」

「二人で手をつないで歩いてる所。」

「私も見ましたよ、ナイラーザさんが慌てて走ってたの!」

そうか、祭りだものな。こいつらも来てるに決まってるよな。

頭はもうパンクしそうだ。

周りでは色んな蝉が喚いている。


・・・お願いだ。

この恥ずかしさと気まずさを、お前たちの声でかき消してくれ。
シャンベル
http://id15.fm-p.jp/222/inderedoumei/index.php?nocnt=1&prvw=RjAwbDlVREVoR3hiR2JNalpWTmdYdz09
2009/07/10(金)
21:04:40 公開
■この作品の著作権はシャンベルさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのコメント
こんにちは初めまして。シャンベルと申すインデレ道を進む者です。

初書きです。先に刹那雪さんの「ナイラーザのある二日間。」を読んだ方がキャラを掴みやすいです。あと、キャラの使用は少し(?)違います。混乱なさらぬよう。以上。誤字は優しさでカバーしてくだい(==;

テキストBBSに載せるのはこれが初めてです。・・・ていうか、小説自体初めてに等しいです。
少しでも楽しんでいただけますよう・・・



あとがき

初書きです。なんか色々すいません。
とりあえず色々なキャラを出せたので私的には満足です。
いまいち”君の声”の部分が表現できなかったけど、気にしない!(ぇ
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

最後に。
インテリ系ツンデレの時代よ、来い!!

この作品の感想をお寄せください。
小説拝見しました。
ナイラーザよ……来年こそは金魚すくいがんばれw
これからも小説がんばってください。
Name: まむぅ
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■2009-09-11 02:46
ID : N/QMgFMlodg
感想遅れてごめんなさいねろです。
いやはや、良い作品でした。
レシアの素直さもナイラーザの負けん気もほんと良い感じに出てましたよ。
終わり方もその後ナイラーザがどのように対応するか、読者個人に想像させる感じでグッドでした。
ごちそうさまでしたb
Name: ねろ
PASS
■2009-07-15 15:57
ID : ioCIpIJzcJU
まずは完結お疲れ様、
私の生み出したナイレシの
スピンオフとっても良かったです。

今回、
特別レンタルを心から
良かった選択だと思いました。

また新たなキャラを
生み出して物語を綴っててください。

願わくば二人に幸が降り注がんことを‥‥(何
Name: 刹那雪
PASS
■2009-07-10 21:09
ID : 0YgQRQCk6a6
感想どうもありがとうございます☆
これから頑張って進めますので
裏の参謀・刹那雪さん、共にインデレ同盟頑張りましょうd
Name: シャンベル
PASS
■2009-07-07 20:41
ID : M1.0HMHDDp.
んちゃ、インデレ同盟の裏の参謀、刹那雪です。
ナイラーザとレシアの夏祭りのお話ですか‥‥。
楽しそうです。

やっぱり新たな視点で書いて
もらえるとキャラが変わりますね。
楽しみにします。
Name: 刹那雪
PASS
■2009-07-07 20:33
ID : 0YgQRQCk6a6
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