ナイラーザ×レシア 〜last story〜


「「いつもと違う帰り道」」

「「ふと見上げた空に、
  茜色のシャボン玉一つ。」」

「「転がるように漂う、
  一人ぼっちの姿の姿がまるで」」

「「自分みたいだなって呟いた。」」

「「またある日」」

「「ふと見上げた空に、
  茜色のシャボン玉」」

「「今度は二つ、
  ちょっと大きなシャボン玉と
  すごく小さなシャボン玉」」

「「二つのシャボン玉が
  寄り添うように転がり漂う。」」

「「また空に転がる二つの
  シャボン玉を見つけた。」」

「「でも……」」

「「踏切越しの夕焼けの中で
  すっと消えてしまった……」」

「「夕焼けが紅く焼けていて
  どちらのシャボン玉が消えたのかは
  見えなかった……」」




ここはある家族の住む家。
母親一人、娘一人。いわゆる母子家庭だ。
普通に考えるのならたった一人の娘を
より慈しむだろう。


だが……
相反する罵声が聞こえてくる……

「このノロマ!知恵遅れ!
 大したこと出来ないくせに金だけ
 吸い尽くして!」

「一体どれだけ補講代が
 かかっているんだよ?
 頑張るから、頑張るからって
 レベルの高い医学部に入学して……」

「ヒッ……!
 ゴメンナサイ、お母さん………。」


「これから進級試験だってのに、
 良く夜に出歩くし、大して勉強
 してないし……」

この女は
娘のひだむきな努力など知らない。
ましてや見せた事など無い、

認められない事、
受け入れてもらえない事は
当の昔に知っているのだから。

「ま、せいぜい頑張りなさい?」

「…………。」

唇をギュッと
噛み締めて高ぶる感情を抑えつける。
不条理な馬頭を……
言い返さない自分に苛立ちを感じながら。



「またギャンブルに負けたから
 苛立っているのでしょ?
 八つ当たりしないでよ。」

こんな事が
言えたらどんなに楽だろう……。
言えない自分が悔しい、情けない、
息苦しい。
どうすれば楽になるのだろう……?

次々と折り重なる
ストレスに苛まれ少女は
暗い部屋で佇む。

その家の表札には
「ライア・ガレット、レシア・ガレット」と二人の名が刻まれていた……。



桜の花が綻びはじめた3月。
過ごしやすい陽気になってきたなと
感じるようになった。


と言っても呑気に過ごせる季節でも無い。
少なくとも学生にとっては。進級試験やら
卒業試験やら卒業論文やら忙しくなる時期なのだ。

他人事だったら
どんなに楽なのだろう?
とくだらない事を考えている
俺の名はナイラーザ。
ノーマ学院の医学部に通う学生だ。

最早定番のスポットと
なった学院の屋上。レシアと
いつも通りの会話を交わしながら
昼食を取っていた。




「そろそろ進級試験の季節だな。」

「うん……、そうだね……」

「浮かない顔をしているな?不安か?」

「進級試験だけは補講を受けられない
 みたいなんだよね。つまり、試験で
 合格ライン以上の点数を取るしかない
 って事。」

レシアは
ある事情で勉学には相当苦労している。

「記憶不全症候群」……
彼女が生まれながらに背負う病気。
新しく記憶した物事の定着が著しく低い
先天性の疾患。その過去を知ったのもこの場所だった。

「流石に
 進級試験には特別な
 措置が下りないのか…」

「そうみたい……現実は厳しいね。」

底抜けの明るさが
何処かへ遁走しているかのよう。

どうにかして
元気になってもらいたいが、
相手を置き去りにした同情は
ただただ無意味なだけ。

「周りを上手く利用していってくれ。
 もちろん俺もいつでも力になる。」

「うん……頑張るから……
 ナイラーザ君が美味しい
 クリームパン奢ってくれたらもっと
 元気になれるかもよ?」

財布にやさしい彼女だ。高い服をねだる
わけでもなく、アクセサリーをねだるわけでもなくクリームパンが欲しいという。

「考えてやってもいいぞ。」

「ハイ♪おとなしく楽しみにしてます♪」

少し明るさを取り戻してくれたか。

「さて……そろそろ戻るか。」
「うん、そうだね。」

屋上を後にして教室へと戻る俺たち。
何も変わらないただ一つの日常だった……








2;
「ん〜っと、ここは覚えられたかな。」

ふと立ち寄った
放課後の図書館で銀髪の女性が
勉強している。

同じクラスのセトさんだ。


「およ?レシアさんも勉強ですか?」
「うん、そろそろ進級試験が近いし。」

最近やっと人と関われるようになった。
そのきっかけを作ってくれたのは
ナイラーザ君。

クラスのなかで
良く話すのはセトさんと彼。

「にしても……
 進級試験って大変ですよね。
 すべての教科のテストをしなく
 ちゃならないです。」

「進級試験だからね……。」

「と言っても日々努力を
 している私にとっては何の問題も
 ありません!努力は必ず報われる
 のです。」



「………セトさんは凄いね。」

「レシアさんにそんな事言われたら
 謙遜しちゃいます。そろそろ失礼
 しますね。」

キビキビと
した動きで図書館を去って行った。

チクチクと刺さるセトさんの言葉、
暗い感情が私の中に芽生えてしまう。
いわゆる「バカにされた感じ」。


「常に私は努力している」=
「私はあなたより優れている。」

「努力は必ず報われる」=
「努力が報われている人の勝手な
 言い分。」

「レシアさんにそんなこと
 言われたら謙遜しちゃいます。」

=「勝てると
  分かっているから言えるセリフ。」

今の私は
本当に卑しい顔をしていると思う。

セトさんの言葉に殺気立って、
苛立って、傷ついて。
もしかしたら私の誤解に
過ぎないのかもしれない。

発した後の言葉に人は
それほど責任や意味を
感じていないのだから。

いろいろと御託を
並べたが自分自身は
気が付いていないのだった。


「すべての重圧と
 柵から逃げ出したい。
 人と同じ努力で次の
 クラスへと進みたい。
 
「いつもと変わらない
 日常を彼と過ごしたい……」

という
防衛機制の塊になっている事を……。

いつもの私とは
正反対の方向に荒んでいる事を……


〜ナイラーザ宅〜

「よし……
 今日はこのあたりで終えよう。」

夕食を終えてから
進級試験対策の学習をしていた。

学力には自信があるにしろ油断は大敵。
適当にやって後悔するよりは全力を
尽くした方がいい。

将来は立派な医者になるのが俺の夢。
両親とも医者の家庭に育ったので、自然とその世界に興味を持っていた。夢が途中でついえてしまっては意味が無い。

「にしても……レシアの方は
 ちゃんとやれているのだろうか?」

意気消沈していた
昼間のレシアの事を
思い出すと心配でならない。

あまり追い込むのは
良くないのであれ以上
問い詰めなかったがまだ何かを
抱えている。

「人の為って難しいものだな……」

胸にかけた
ペンダントに向かってなんとなく呟いた。



〜レシア宅〜
「ただいま…… 誰もいないんだね。」

またギャンブルに
でも興じているのだろう。

私の母は定職に就かず
いつもギャンブルばかりをしている。

「とりあえず、夕飯でも作ろうかな。」

誰も聞いていないのに
今からすることを呟く。
誰かと話したいのだろうか?
誰かに話を聞いてもらいたいのだろうか?

程無くして
出来上がった野菜炒めと焼き魚、
味噌汁、そして炊き立てのご飯。いつもと変わらない一人ぼっちの食事を始める。

一人で食べる食事というのは、
あまり楽しいものではない。
何となく侘しく思える。

だからお昼だけは彼と
一緒に食べたくなるのかな…

今日は最高に鬱な日。
ポジティブな考えが何も浮かんでこない。

一通りの家事だけ終えて
今日は寝てしまおう。


いろいろあった嫌な事
なんかすべて忘れて………。

3;

また朝が来た。
未だに鬱な気分が抜けずにいる。
朝なんて来なければよかったと思った。
朝が来たら昼を過ごさなければならず夜も
すごさなければならない。



重い体を揺り動かしながら起きる。
母親の姿はどこにもない様だ。
きっとギャンブルに興じているのだろう。

ロクな仕事もせずいろいろな人
から金を借りてギャンブルの毎日。
生活が安定するはずなど無い。

でも何とかなっているのが現状。
あぁはなりたくないと常に思う。
私は正しい道を太陽だけが照らして
くれる道だけを目指す。

それは私にとって正しい道。
はたから見ればふらふらと不安定な道程。
彼から見る私もきっと同じだろう。


そもそも
私たちは釣り合っているのだろうか?

前にこんな事を言った。



『「太陽と月はお互いを高めあい、
  支え合う。太陽の光を受けて月は
  輝きを放つ。そんな意味を込めた
  ペンダントな の……」

 「だから、
  私を一人にしないでください……
  私ひとりではもう頑張れません……」
                                     』
ホント……

最近の私は
どうかしているのだろうか……?


〜ナイラーザ宅〜

「ん……朝か。」

ベッドから出るのを
躊躇わすような少し肌寒い朝。

昔本で読んだ事のある、
「春眠暁を覚えず」とやらを思い出す。

そんな悠長な事を言っていても一日は
始まらないので身支度を始める。
いつものようにまた朝がやってきた。

朝が来たら昼を
過ごさなければならず夜も
すごさなければならない。

あまり刺激の
無い日常に感覚が
麻痺してしまいそうだ。

目標が決まっていて、
将来が約束されていて、
ふさわしい努力をずっと続けてきて。
いわゆる「何の問題もない」。

将来は医者に成りたい。
医学的な研究を進めていくのか
臨床の現場で人と接するのかは
分からないが。


このどちらか
だとこの時点ではそう思っていた……

〜小テスト返却〜

「○○68点…… ○○88点……」

最近は鍼灸試験に向けた
復習プリントなる物が良く渡される。
普段から復習している者にとっては
茶番そのもの。
たまっていく100点の山。




「お? もう当然って顔ですね。」

「ふっ、まぁな。
 普段からのやり方が違うんだよ。」

後ろからのぞきこんでくるのは
ノーザニア原住民。

セトもそこそこ頭はいい。
大体90点以上はキープしているようだ。

「さすがにそろそろ
 同じ問題も飽きてきますよね。
 このレベルなら完全に理解
 できていますし。」

「確かにな。
 この時間は何処かに遊びに
 行っても差し支えないかもな。」

「油断大敵です!!!!!」

何というか
少し鼻につく会話かもしれない。
インテリぶった会話。

ここは学院トップクラスの
学部であるからしてこのような
会話が飛び交っているのだ。

「ナイラーザ君……」

「ん? どうしたレシア?」

「ゴメン、話の腰折って。」

俺に表情を
見せないまま教室を後にした。

まぁ授業を終わったから
どこに行っても問題は無いと思うが。

「………
 努力が報われないって
 辛いですよね……?」

ノーザニア原住民が呟いた。
レシアの机に置かれた30点の答案用紙を
ちらりと見ながら……

〜学院・倉庫裏〜

今はお昼の時間。
本来なら屋上に向かいたい。
でもこんなイヤな私は彼とあってはいけない。

単純に嫉妬、妬み、反骨、反感。




『「お? もう当然って顔ですね。」

「ふっ、まぁな。
 普段からのやり方が違うんだよ。」

後ろからのぞきこんでく
るのはノーザニア原住民。
セトとかいう女もそこそこ頭はいい。
大体90点以上はキープしているようだ。

「さすがに
 そろそろ同じ問題も飽きてきますよね。
 このレベルなら完全に理解できて
 いますし。」

「確かにな。
 この時間は何処かに遊びに
 行っても差し支えないかもな。」

「油断大敵です!!!!!」
                                     』



せめて、せめて、
私の席の近くでそんな話をしないで!

そんな大きな声で
話さないで!!!!!!!

私の近くに居ないで!!!!!

何より彼と
話す時間を奪わないで!!!!!!!!

心の中の叫びはだれにも聞こえない。
こんなの聞かれたらただじゃ済まない
だろうな。

でも言っちゃダメ、
これはただの私の我儘。

心の奥底にそっと閉じ込める。
大丈夫、ただそれだけ。
何時か忘れればいい、ただそれだけ……

何か記憶してるって辛いな……。



〜屋上〜

「やっと来てくれたか。」

何とか心を落ち着けて
戻ってきたいつもの場所。

「ほら、今日は二つだ。」

「こ、これは毎日二つしか
 作ってもらえないカスタード
 と生クリームのダブルクリームパンで
 ごじゃりますか?」

一瞬、
平安貴族らしき奴がいた様な気がした。
見る間に頬袋に食べ物を詰め込んだハムスター一丁上がり。

にしても飽きずに
今までこの昼食を取ってきたものだ。


細かい事グチグチ考えず
こんな風に過ごせたら何の
悩みもないのに。

昨日とは打って
変わって楽しく終わりそうだ……。

~レシア宅~

「ただいま……」

「あら、珍しく早いわね。
 そろそろ進級試験じゃないの?」

「そうだけど……」

「勉強しなさい……、やっても無駄か。」

別に勉強をしてこなかったわけではない。
ただいつもより少し早く帰ってきただけ。

「今さらだけどもうちょっと
 簡単な学校行ったらよかったん
 じゃない?」

「学費も安くなるし、
 何より博打に賭けるお金が増えるわ。
 ホント、金食い虫ってこんな奴の事言う のかしらね。」

「もう寝るね……。」

自分の部屋へとそそくさと戻っていく。
イヤ、逃げたといった方が正しいかもしれない。大粒の涙を浮かべながら。

「私だって頑張ってるのに、
 私なりの方法見つけて
 頑張ってるのに!!!」


「でもお母さんは
 絶対に認めてくれない!!!」

「いっつもやってる事、
 考えてる事を頭ごなしに否定されて……
 もうこんな家イヤだ……」

もう限界に達していた。
すぐに楽になる方法を
見つけ出した。

どうすればいいのだろう?
どうすれば楽になる?


「この家だけじゃなくてこの人生がイヤ、
 どんなに二人が守ってくれるからって未 だに陰口も聞こえてくる……」

「いつか二人だって
 味方じゃなくなるのかもしれない。
 その瞬間私は壊れる……。」

「「ならすべてを
 忘れられればいいんじゃない?
 『記憶』があるから辛いんよ……。」」

「え……?  何なの……?」

「「貴方はもう十分に頑張ってきた。
 だから逃げればいいじゃない『記憶』の 無い生活を送りましょうよ?」」

この時は何なのか分からなかった。
でもすごく心地の良い声が聞こえてきた。
私は首を縦に振った……。
この言葉の主と意味を知らずに……。






また朝が来たようだ。
ここはある家族の住む家。
母親一人、娘一人。いわゆる母子家庭だ。

家の中をのぞいて
みると一人の少女が居た。

しかし様子がおかしい様だ。
生きているのに生きていない、
そんな印象を受けた。



魂の抜け切った脱げ柄の様な彼女は
ただただ無機質で殺伐としていた。
言葉を一切発せずに家を出て行ってしまった。


~ナイラーザ宅~

「ん……?」


少し肌寒さの抜けてきた朝。
すっとベッドから体を起こして
身支度を始める。

今日も相変わらず学校だ。
もうすぐ進級試験が近付いているので
身を引き締めていきたい。

いつも家を出る時間に
成るまでいつもの様に過ごし、
意気揚々と学校へと向かう。

通学路を歩いていると
少し甘ったるい匂いがした。

周りを見渡してみると
桜の花が咲いていた。

「もうこんな季節か……」



桜というのは実に儚い花だ。
ほんの少しの間しか咲いてくれない。
いわゆる「刹那に散りゆく」ということだ。

それは別れを
意味している様に俺は感じる。
丁度この時期は卒業やら転筋の
シーズンと重なり何か意味ありげに
考えてしまうのだ……。

~医学部 教室~

ようやく医学部の教室まで到着し、
自分の席に着く。
ちらほら見知った顔はあるが
仲良く話す奴ではない。

教科書やら雑誌やらを
パラパラとめくりながら
時間を過ごす。

「ん? レシアはまだ来ていないのか。」


レシアは
大体俺が学校に到着する
ころにはいるのだ。
だが今日は来ていない。

ただの遅刻かと思ったが
一時限目の授業が始まろうとも
二時限目の授業が始まろうとも
レシアの姿は無かった。

それに加えて欠席をするという
趣旨の連絡も来ていないらしい。
昨日、体調が悪そうな様子もなかった。
少しイヤな予感がした…………

その予感はイヤなほどに的確だった……。



~屋上~

ここはノーマ学院の屋上。
俺とレシアだけの場所。
居ないと思っていたレシアが
そこには居た。


妙に静寂に支配された屋上……。
いつもならレシアがこちらに
来てくれるのに……
仕方なく俺が近付く。

「レシア、一体どうした?」

「………。」

「ん? 聞こえないのか?」



次の言葉で
静寂はより静寂へと
追いやられてしまう……


















「キミハダレナノ?」

「オイ!!!何言ってるんだ!!!
 俺だ、ナイラーザだ!!!」

「エ? オボエテナイヨ?」

言葉を覚えたての様な会話をしてくる。
魂の抜けおちたかのようにいつもの
天真爛漫とした感じは何処にも求めよう
がない。

「オイ!!!ふざけているのか??!!」

「………。」

状況を理解できない……。
訳が分からない……。
分かりたくもない……。

「ナンデヒッシニ
 ワタシノコトヲキミハキイテクルノ?」

その言葉を聞いて行動に移した。
ただただレシアを思いっきり抱きしめた。

「レシア・ガレット……
 お前の事が好きだからだ……。
 誰よりも……。」

何も感情を示さずに
レシアは俺の腕から抜けた。






「アナタガワタシヲ
 タイセツニオモッテクレル
 コトハワカッタ。」

「デモ、キミノコトヲ
 ドンナフウニオモッテイタノカハ
 ワカラナイ。」

「コノママイテモキミガツラクナル、
 ダカラワタシハドコカトオクヘイ
 クネ……。」

そして彼女は屋上を後にしてしまった。
追いかける気力も勇気も湧かなかった。


『「おまえは自分が強いと思うか?」

「私は弱いよ、この雨の中だから
 分からないかもしれないけど。」


「弱さを認められるならそれは
 の上ない強さだ。」
「ありがとう、ナイラーザ君。
 
「貴方は私を弱くする、」

「私は貴方と強くなる。」

「明日からは元の私に戻るから。」


「中央公園の露天商さんに
 教えてもらって 
 作り方を覚えていたの……
 ここ一週間くらい。
 このペンダントと同じ素材で作ったの」

そう言いながら
胸元からペンダントを取りだす。
三日月をモチーフにした銀色の
ペンダント。

「太陽と月はお互いを高めあい、
 支え合う。太陽の光を受けて月は
 輝きを放つ。そんな意味を込めた
 ペンダントなの……」

「だから、
 私を一人にしないでください……
 私ひとりではもう頑張れません……」

「もちろんだ……
 いつでも傍に居たい。」      』


全ての感情が
ぐちゃぐちゃになって溢れ出した。
初めて誰かの事で涙を流した。
ほんの少し前まで隣の席のクラスメートという薄い関係だったのに……。

いつのまにか
こんなにも大きい存在となった。
大切な事は無くなってから気がつく、



今俺の
手元にあるアイツとのつながり。
太陽のペンダントを握りしめ
泣きじゃくった……。

俺の涙がペンダントを伝った瞬間、
それは青白く輝き始めた。

ペンダントが
少し透けて中に紙の様なものが見える。
ペンダントを少しずらしてその紙を
取り出してみた。

少しでもレシア
とのつながりを見つけたかった……。

手紙に内容はこんなものだった。

『こんにちは、ナイラーザ君。
 愛しのガールフレンドのレシアです。
 顔と顔を突き合わせて言えない事をこの
 ペンダントに託そうと思います。

 やっぱり伝えておきたいのは
 私の病気の事。ナイラーザ君には二つ
 伝えていない事があります。

 一つは私の病気が進行性だって事。
 年齢を重ねるごとに少しずつ進行
 していくの。

 もう一つは私の精神状況が大きく
 影響するという事。精神的抑圧、
 いわゆるストレスがかかり過ぎると
 病気の進行は著しいものになる。
 下手すると記憶喪失になっちゃう……。
 

 いつでもいいから二つの
 秘密が貴方に届きますように。

 それと
 どこかで聞いた素敵な詩を
 載せておきます。

 たとえ『記憶』が
 無くなっても私の思いが届くように。』





『愛する人よ、
 そこから何が見えますか?
 
 愛する人よ、
 どこから私を見ているのですか?
 
 小さくうなづいていつも
 私を許してくれる。
 
 愛する人よ、
 何を歌えばあなたに届きますか?

 ある時は私の夢をそっと包んでくれる。
 ある時は紅く晴れた傷口に水色の涙を
 流してくれる。

 愛する人よ、
 そこから何が見えますか?
 
 愛する人よ、
 どこから私を見ているのですか?
 
 小さくうなづいていつも
 私を許してくれる。
 
 愛する人よ、
 何を歌えばあなたに届きますか?

 大切なものにいつも
 囲まれていつも気づけなくて、
 
 言葉はまるで何もかも
 わかったのかのように片づけて
 しまうけれど。

 貴方の優しさいたいぐらい
 まっすぐでどんな嘘も悲しい歌も
 映らない。

 愛する人よ、
 そこから何が見えますか?
 
 愛する人よ、
 どこから私を見ているのですか?

 冗談交じりで交わしたあの言葉、
 本当の気持ちなんだよ。

 愛する人よ、
 何を歌えばあなたに届きますか?


 愛する人よ、
 そこから何が見えますか?

 愛する人よ、
 どこから私を見ているのですか?

 小さくうなづいて
 いつも私を許してくれる。

 愛する人よ、
 何を歌えばあなたに届きますか?』

『へへっ……。
 ずっと思っていた貴方への気持ちに
 一番近い詩です。
 最後にこの言葉を。』






「私が使えなかった
 奇跡をあなたに託します……」



最後に託された
手紙ですべての真実が分かった。
なかなか伝えてくれなかったアイツの
気持ちが分かった……。

何が起きたか分からなかったが、
全てが分かった。
そして自分勝手な決断をする……。

「レシアからもらった奇跡は
 レシアの為に使うよ……」


俺の初恋は
一度だけ終止符を打った……。
















~エピローグ~

ここはある家族の住む家。
どうやら3人家族の様だ。
両親と娘一人。ごく平凡な家庭。

母親が朝食の用意を始める。
父親と娘が食卓の席に着く。

母親はいそいそとクリームパンを
食卓の上に並べはじめた。

父親と娘は少し怪訝な顔をしたが
母親だけまるで子供の様に
クリームパンを食べ始めた。

これがこの家族の望んだ
「幸せ」の形であるのだから……



fin
刹那雪
2010/02/07(日)
18:17:43 公開
■この作品の著作権は刹那雪さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのコメント
やっと完結でございます。

インデレ同盟・参謀 
刹那雪でございます。

「ナイラーザ×レシア」
「クリス×ユアン」を執筆してまいり
 ましたこのシリーズは無事最終話を
 投稿することができました。

本当は3月に投稿したかったのですが
いろいろと事情があるんだぜ(オイ

さて今までに感想を下さった
シャンベル様、まむぅ様、ねろ様、
アッシュもどき様本当にありがとう
ございました。

何よりこのジャンルの
きっかけを下さった会長に
感謝の念を抱きながらインデレ小説
執筆より身を引かせていただきます。

この作品の感想をお寄せください。
うれしい感動をありがとうございます。
きっかけは全て貴方がくれました。

既存キャラとオリキャラで
つづっていったこの作品。
一年近く続けてきてよかったです。

さてエピローグですが私の中では
何年か掛けて医者になったナイラーザがレシアを
外科手術によって記憶を取り戻したという
イメージとなってます。

また逢う日まで。
Name: 刹那雪
PASS
■2010-02-07 20:49
ID : 0YgQRQCk6a6
目からミツバ色の汁がでてきましたよ。

何コレ。


私が言うのもなんだが何で数シーンしか出てないキャラでこんないいストーリー出来上がるの?

ヘタするとノーベル文学賞もらえてしまうよ!!
いや、むしろもらおう!そして世界にひろがるんだインデレェェェェ!!
Name: シャンベル会長
PASS
■2010-02-07 20:20
ID : M1.0HMHDDp.
お名前(必須) E-Mail(任意)
メッセージ
 削除用パス 


<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD 編集 削除