もしも君が愛を愛として見つめるのなら…(その5まで)
今何時だ?
暗闇の中で僕は、
時計の針を瞳を開けて
見つめた。
なんだ…
八時二十六分か…
「zzzzzzzz」
あれ?
「zzzzzz」
薄紅色のカーテンから溢れる光が、
意識を少しずつ呼び覚ます。
あれ?
僕はもう一度時計を見た。
八時二十七分か…
「ぎゃーーーーーー!!」
朝っぱら悲鳴がご近所に響いた。
真っ白なシーツのベッドから飛び起きた僕は、
秒速224.5mの速さで制服に着替えて、
いや、服を着替える速さって意味不明なんだけど、とにかく早く着替えて、
歯を磨いて、外に出た。
青空の太陽がとても眩しい。
目を細めて、ダッシュをさらに加速させた。
今日は、僕がこれから通うことになる、
ノーマ学院の入学式だ。
ああ。結局遅刻しそうになるなんて…
一生の不覚だぞエシュター!!
光で反射する眼鏡がキラーンと音を放ち、
八時二十九分。
僕は学校に到着した。

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その1

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「……で、あるからして皆さんは…」

体育館では、すでに先生の話が始まっていた。
入学式とあってか、みんなキラキラした雰囲気をかもしだしている。
しかしまだ八時半なのに始まるの早いような気がするんだけど…??
「エシュター。こっちだこっち!」
眼帯で紫の髪を持つ男が、僕を手招きしている。友人のアルバートだ。
よく見ると僕が専攻している薬学部が、
壁際に追いやられて皆暑苦しそうにしていた。
「エシュター君遅刻よ〜」
泣きながら先生が僕をうらめしそうに
見つめてくる。
「先生、お願いですから泣かないで!!」
「エシュター!お前という奴は!」
「エシュター君…」
え、何この展開!!
頑張って来たあげく皆からつるし上げですか!?
「でもパンフレットに八時半からだと…」
「ほら、顕微鏡」
おもむろにガゼルが手渡してきた。
彼も僕の友人で、いつも紅い『頭巾』を
しているのは、有名。
しかし、何でこんなものを持ってるのか不思議でしょうがない。
「パンフをそれで見てみろよ」
「え、うん」
パンフレットには確かに、

入学式は八時三十分から

って…
あれ?


入学式は八時三十分から
(ではなく八時からです)←顕微鏡使用時

「…。わかるかぁーーーーー!!!!」
「でも皆遅刻してきてないぞ」
「うっ。確かに」
「ふはははは!エシュターお前は負けたんだ!」
アルバートが耳元で笑い出した。
とてつもなく、う、うるさい。
「エシュター君明日からは気をつけてね」
おしとやかそうな顔で、ロングヘアーで
たぶん薬学部では一番マシであろう性格の
シーナが、僕に精神的なトドメをさした。
「エシュターが負けた〜」
ゲジゲジまゆげの怪獣の人形を手にはめて
遊んでいるレイシー先輩が、さらに呟いた。
理不尽だ!どうみても!
「あんまり気にするな」
「ガゼル…」
「……。薬学部さっきからうるさい」
壇上から名指しで注意される僕たち。
セルリア先生は泣いて謝っている。
思わず僕らもお辞儀をした。
「エシュターのせいだ」
「エシュター君気をつけて」
「負けたエシュター」
というわけで、
散々な朝になってしまった。
早く入学式終わって欲しいよ全く。
「なあ、こっからでもちらほら
入試の時に話した顔が見えるぞ」
怒られてもこりないガゼルが、
小声で話しかけてきた。
「あ、電波姉妹だ」
テレパシーで入試中に会話して
カンニングしてた姉妹で、
なぜかそのテレパシーが二人の間に座った僕にまで聞こえていたのは秘密。
「電波?」
「存在そのものが電波」
「存在そのもの!?」
「……」
「どうした?」
一瞬見てはいけないものが見えてしまった。
ここからでも妙に天井に向かって
突き出た緑色の物体が目に入る。
「いや、あれが…」
「あれ…、って…、何あれ??」
「まだささったままとは。キュウリが」
「お前がさしたの!?」
「入試の時に彼を見なかった?」
「忘れたよ」
「とってもインパクトがあるのに」
うーん、もうあんまりいないかなぁ。
壁際にいる追いやられているせいで
他のクラスの生徒をあんまり見れない。
「では、最後に生徒代表挨拶、スレイン君」
呼ばれた生徒が、壇上に上がった。
後ろ姿からだと髪が縛られているのが
よく見える。
「何か見覚えが…」
「えー、コホン。僕が代表で挨拶をすることになり、まことに光栄のきわみであります」
こういうのは、確か入学試験で
一番成績が優秀だった生徒がやるのが
セオリーなはず。
いや、誰がやっても関係ないんだろうけどね実際。
「ではまず最初に、ウ○コ」
「っておーーーーーい!」
「みんなの学園生活ドゥブッハでゴー!!」
「嫌すぎる代表挨拶だ…」
「なぁ、エシュター」
少し暗い表情でガゼルが僕を呼んだ。
言いたいことがあるのは、よくわかる。
「なんで薬学部だけ、イスがないんだろうな」
「今突っ込むとこじゃないよそれ!?」
そうこうしているうちに、
やっと入学式が終わった。
僕がきてから四十分も立ってる…
体育館からぞろぞろと出て行く生徒達。
僕達はというと、
体育館をかたづけることになっていたらしく、
結局全部片付けてその場で解散となった。
「明日からようやく授業か…」
『お姉さんこの先大丈夫ですかー?』
「大丈夫なんじゃなーい?」
レイシー先輩が人形で呟いた。
(僕は不安だ…)

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その2

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次の日、僕は遅刻せずに学校についた。
さすがに二日連続で遅刻するわけにもいかない。
ノーマ学院は本当に遅刻や欠席に対しては、
厳しいんだ。
ガラーッ
こ気味よく教室の扉を開けた。
「まだ誰も来てないか…」
授業まで後二十五あるから、
まだまだ時間的には余裕がある。
席どうしようかなぁ。
適当でいいかとりあえず。
(しかし早く来すぎたかもしれない)
余りに暇なので、窓の外を眺めた。
風景は穏やかでもこの学校は全然
穏やかな感じがしないから、色々と楽しめそうな気がする。

「エシュターーーーーー!!」
「ん???」
廊下から突然叫び声が響いてきた。
誰だろう…
「エシュシュシュシュ」
「何だ????????」
ドカーン!!
ドカーン!!
爆発と供に教室内にガラスの破片が舞う。
状況がよく理解できないのが、
とても悲しいんだけど、
楽しめそうっていうのは撤回しようかな…
「ふぉあーーー!!」
「誰…?」
「ストーカーだよーーー!!!」
「おとといきやがれ!!」
「ちなみに爆発したのはダイナイマイト」
ビシッと、親指を立て、(噛んだけど)
そしてボロボロになったスーツ姿のまま、
おっさんが窓から飛び降りて行った。
「なんなんだ一体…」
「愛だな」
「愛…、って、アルバートいたのか!」
「廊下であのおっさんに負けて気絶していた」
「どうしてまた…」
「愚問だ」
「どうでもいいけど」
「ん?」
「よくダイナマイトで、
死ななかったね僕達」
あきれ果てながら教室を眺めて、
眺めて、
眺めて
眺めて
「なんか元に戻ってるよ教室!!」
「愛だな」
「絶対違うだろ!」
「おぉー、朝から騒がしいなエシュター」
紅い鉢巻野郎が参上して、
その後ろから、人形が友達先輩が
やってきた。
『なにこの説明!!』
「二人で突っ込まなくても」
『お前には負けるよ』

とりあえず、どっと疲れた僕は、
席につくことにした。
「そういえば席って決まってないよね」
「自由でいいんじゃないか。
先生がくるまではどうしようもないぞ」
僕の言葉にアルバートが答えた。
言われてみればそうなので、
教室にいる各々が席に座ることにした。
「僕は…、三列目くらいでいいかな」
「zzzzzz」
「はぁ…」

僕が座ろうとした席に、
メガネの太いおじさんがヨダレを垂らして
教室で寝ていた←お約束(ぇ

「どうしたんだエシュター?って、校長じゃんそれ」
「そうそう、校長なんだよこれ」
「何で教室にいるんだ」
「ガゼル、これどうしようか」
「ほうって置いても害はなさそうだぞ…」
「悪の組織め!これでもくらえ!
校長パーンチ!!」
ドガッッ!!
「フゴーーーーッ!」
「エシュターーー!!!」
もう授業一日目からこんなんで、
大丈夫なんですか…
そう考えながら、
結局僕は、
意識が遠のいていった。

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その3

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「少年よ、少年よ…」
「え?」
暗い眠りの底の中で、
声が響く。
誰の声だろうか
「私の声が聞こえるか」
「あの、新聞は間に合ってますので」
「いや、私は新聞屋では…」
「セールスもお断りしています」
「しょ、少年よ、もしも君が
奴らに襲われることがあったなら
私を呼ぶといい」
「え?呼ぶ?」
「それでは、いずれまた」
暗い眠りの底の中で、
明るい光が…
「いずれっていつですかーーーー!!」
ハッとなった時、
そこは、ベッドの上、
ノーマ学院の保健室だった。
「なんじゃ?」
「あ、すいません、今何時ですか?」
「君がきてから、まだ一時間もたっとりゃ
せんよ」
白衣のおじいさんが、
時計を指差しながら言った。
「教室に戻ります」
そのまま廊下に出た僕は、
ゆっくり歩き出した。
変な夢だったなぁ、しかし…
窓から見える校庭から掛け声が聞こえくる。
どうやら体育の授業中らしい。
「そこの貴様!!授業中に何をしている!」
「え?あ!すいません!」
教頭先生に見つかってしまった…
保健室から戻る途中だから、
後ろめたいことは何にもないんだけど
教頭先生は怖い。
走りながら顔を思い浮かべてみた。
「入試はあの先生から殴られて
気絶したんだよねー」
もはや誰に向かっているのかわらない。
気がつくと、もう教室の前にいた。
「失礼しまーす」
「失礼するなら帰ってー」
アルバートが手を振っている
「そんな一部の人にしか通じない
某喜劇ネタをやらないでよ」
「エシュター君、大丈夫なの?」
セシリア先生が笑顔で迎えてくれた。
よく考えたら授業初日から、
無茶苦茶だな僕は。
「はい、大丈夫です。すいませんでした」
「いいのよ、気にしなくて。事故ですものね。あ、席はシーナさんの隣ね」
「わかりました」
ようやく席について、落ち着くことができた。
何故かこのまま眠ってしまいそう。
「それならずっと保健室にいろよ〜〜」
「また君か…」
机の上で、小さな全裸の天使が
腰を振りながら現れた。
「照れるなってー」
「照れてなーい!」
「あ、あのエシュター君???」
「ん、シーナ気にしないでいいよ」
「そう」
「むしろ入試のときから考えると、
シーナのほうが心配だよ」
「うん、あの時はほん…、ウッ!」
「あぁ、いわんこっちゃない!」
シーナの背中をさすりながら、
先生が読み始めた教科書を見た。
薬学の勉強というのは、
医者になることはできないものの、
医療の知識としては、
生活レベルまで役に立つものばかりだから、
知っていて損はないはず。
「あー、暇だな〜〜〜」
「僕にしか見えないってのが悲しい」
「テストの妖精はテスト以外は
とても暇を感じるんだよ〜〜〜」
「なら出てこないほうが…」
「あ、あのエシュター君」
「気にしなくていいよ」
「私、もう大丈夫だから、その」
「え?」
「セ○ハラかよエシュター」
背中をさすっていた僕の手を見て、
ボソッとガゼルが囁く。
「ちがーーーーーーう!!」
「先生悲しいわ」
「え、いやシーナも何か言ってよ!」
「エシュター君はセ…、ウッ」
「うわーーーー」
何かが、僕の服にかかった。
何なんだろう今日は。
色々ありすぎて、困る。

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その4
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ジーザス
神がこの世にいるのなら、
今の俺を解放してくれないか
精神をむしばむこの黒い胸のうちの霧が
時を止めていく。
虚しさも悲しさも無い代わりに
喜びも涙も無い感情の空腹感が、
俺をうつろなる世界へと導いていく。
空を見れば星が輝いている。
隣には、高級なワインがある。
目前には、壊れた時計が散乱している。
しかしこれはイメージだ。
現実ではない何処かの部屋で、
俺はいつしか閉じこもり
その白い場所でずっと考えていた。
有効な手段ほど、手のこんだ思考と計画の
もとに行われなければ、俺のこの考えは
大地にひっくり返ったカエルの
ようになるだろう。息もできず、
居場所へ戻ることも出来ず、
ただその場所で嘆く。
瞳を開けば、
夜空が俺を見つめているのがわかった。
もういいだろう。
時間は十分なほど使ったはずだ。
さぁ、行くとしよう。
夜道が例え静かなものであっても、
俺の心はいつも騒いでいる。
やるべき事をやってしまわねばならない。
決して捕まえられない恋人を
追いかけるが如く日々回る太陽に、
月が追いやられぬうちに。
……。
思考を止めて、歩くことに集中しよう。
もうすぐ着くはずだ。
新しい拠点へ。

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その5

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「てめーーーーーーっ!!!!」
「彼女は渡さない!!」
向かいあう二人。
それは険悪なムードだった。
振りかざす拳と、凹んだほっぺた。
弾力性抜群の顔と供に、
僕はふっとんだ。

「はいはいはい、撮りなおし」
「えーーーー!!!!!」
撮影用のカメラを肩にのせながら、
アルバートが僕のほうへと近づいてきた。
「まだまだ吹っ飛びがたりん!」
「こだわるとこじゃねーーー」
「いいや、吹っ飛びこそ芸術だ」
「顔の形マジで変わるってば!」
叫びながら僕はガゼルのほうを見た。
僕の顔をさっきから何発も殴っている彼の手も、だんだん色合いが悪くなっている。
「なぁ、もういい加減いいだろ…」
「僕もそう思う。シーナも出番がなくて
困ってるし」
「え、いや私は…」
「監督は俺だっ!つべこべ言わずに映画の撮影を続けるぞ!」
「へいへい。まったく強引なんだから
アルバートは」
ゆっくりと立ち上がって、息を吸った。
こんな良い天気の日に学校で何をやっているんだ僕は←でも割と楽しんでる
「とりあえず今のは良しとしてやろう。
次は、倒れたエシュターにシーナが駆け寄るという場面だ」
「頑張れよエシュター」
「頑張るよガゼル」

タタタタッ
「アレーン!!」←エシュターの役名
「リ、リーナ」←シーナの役名
彼女は涙を流して、倒れた彼を抱きしめた。傷ついた頬を優しく撫でながら、
彼の瞳をじっと見つめ続ける。
浮かび上がる太陽は、そんな二人を
照らして…

「おい、そこの二人!!」
「え????」
「良い土産ができた。お前たちの愛の結晶を、頂くぜ」
キョトンとする僕とシーナ。と、
アルバートとガゼル。
それもそうだろう。突然知らない人から、
愛の結晶を頂くぜなんて言われたら
誰でもびっくりする。
「おい、邪魔をするな」
カメラを降ろして、
アルバートが声をあげた。
「うるさいっ」
全身をマントとフードで姿を隠した男らしき人物が動いたその瞬間、
アルバートは訳も分からずに倒れた。
「確か、アレンとリーナとか言ったな」
「いや、それは役の…」
「問答無用だ、覚悟しろ」
まったく聞く耳もたないのかこいつ!
などと言ってる場合じゃない。
「逃げるぞ!」←役の台詞
「えぇ、何処までも!!」
僕らは校庭をつっきり校舎へと向かった。
幸か不幸か、祝日なので学校には僕ら以外は誰もいない。
「さて、狩を始めるとしよう」
ただ遊んでただけの休日だったに。
アルバートのバカヤローーー







link
2008/03/08(土)
00:00:49 公開
■この作品の著作権はlinkさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのコメント
その5は唐突な内容でしたが、
これからも唐突なことが続きそうな
予感が…

この作品の感想をお寄せください。
はじめまして、AKIRAと申します。
作品のほう、拝見させていただきました。

その1〜3はまさにギャグ一本といった感じでしたね。
いきなりの遅刻ネタには驚きました。
入学式で薬学部だけ椅子がない、というのもノーマ学院なので納得です(笑
また、アルバートの「ニュボリゴドゥブッハァ」が面白かったです。
自分で口に出してみて、もう一度笑ってしまいました。

あとは校長の謎のパンチでしょうか。
最近、エシュターのことが不幸の塊に思えてきました。
それに耐える彼は主人公の鏡です。

その5に出てきた「愛の結晶」が、どんな展開を生むのか楽しみです。

次回からも拝見させていただきます・・・。

では、失礼しました。
Name: AKIRA
PASS
■2008-03-17 18:09
ID : 2VOxvesRHEE
ありがとうございます^^
勢いだけのような作品ですが(汗
最後まで頑張って書いていこうと、
思います。
Name: link
PASS
■2007-07-25 15:29
ID : mZ01wheacJ6
どうも初めまして。
旧テキスト板の方でこそこそと生息しております風柳と申します。
『もしも君が愛を愛として見つめるのなら…』の方、読ませていただきました。

なんといいますか、作品に勢いがありますねぇ。
こうして見るとちょっと原作っぽい感じがします。

←顕微鏡使用時
のところで思わず吹きました。
うわめちゃくちゃノーマ学院っぽい、みたいな。
それできちんと通学してくる生徒も以上ですよね(笑)
エシュター、君が正常だ。

ともあれ、こういったギャグ物は自分では本当に書けないので羨ましい限りですね。
次回以降のお話も期待しています。
ではでは。
Name: 風柳
PASS
■2007-07-24 11:48
ID : mm3gb4lIP8Y
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