女神に選ばれし、彼らの旅路 プロローグ〜第十章
プロローグ

春―雪が融け、そこから草木が芽を出し、
冬眠から覚めた小動物たちは活動を開始するという、
どこかお決まりなナレーションが似合う時期。

場所は生徒が勉強し様々な知識を学ぶ学院、
ノーマ学院…の近くにあるパン屋。

時刻は午後3時、放課後という時間帯。
パン屋にはそれなりに生徒が集まってくる。

そのパン屋の外に幾つかあるテーブルに一人の青年がいた。

髪は短めで黒、背丈は中くらい。

青年はテーブルに思いっきり突っ伏し、
放って置くとそのまま溶けてテーブルと合体してしまうのではないかと心配になるぐらい微動だにしない。

もしかして死んでるのではないか、と思ってしまうが、心配御無用。
時々―

「………ぐへぇ〜……………」

とか、

「うへぇ〜……………………」

という疲れたのか死にたいのか良くわからないうめき声をあげているのが生きてる証拠。

「…起きろ『ケミナス』、見苦しいぞ」

そのテーブルの向かい側に一人の青年が座りながら言った。

髪は同じく短髪、でも髪の毛は濃いめの赤。

身長は高めで細めの体、だがその服の下には一般人よりも筋肉がついている。

「ああ〜…」

その呼びかけにケミナスと呼ばれた青年は体を起こし、椅子の背もたれに身を預けながら言った。

「学院生活バンザーイ…ったく、俺はこの生活を何年か続けなくちゃいけねーんだ?
 俺はもうだめだ、死ぬ!黒板の白い文字を見ただけでポックリしちまいそうだぜ!もうあああああああ!」

「お前いっつもそれだな…入学したからには最後までがんばれよ」

「あ〜あ、この肉体馬鹿はなんでこう真面目なのかね〜…」

「肉体馬鹿って言うな!俺はただ体を鍛えるのが好きなだけだ」

「なら入学しないで山にこもって体でも鍛えてろ!筋肉馬鹿!」

「筋肉馬鹿じゃねー!」

ケミナスともう一人の青年の言い争いが始まった。

ケミナスは筋肉馬鹿!肉体美!など、主に肉体面を馬鹿にし、

肉体馬鹿―もとい、本名は『ウィンスター』は、無気力!根性なし!など、精神面を馬鹿にしてる。

ある程度いがみ合ってから、少し落ち着いたのか、ケミナスはまた体を椅子の背もたれに預け、天を仰いだ。

「ハァ…なんで俺入学なんかしちゃったんだろ…」

「んなもん知るかよ…」

ウィンスターはテーブルに右肘をつき、頬を手に乗せそっぽを向いた。

一瞬だけ会話が途絶えた。

「…そうだ!お前だ!お前のせいだー!」

本当に一瞬だけだった。

「え?いやちょっとうおぉ!?」

え?でウィンスターはケミナスの方を向き、いやちょっとでケミナスはウィンスターの胸倉を掴み、うおぉ!?でウィンスターをブンブン上下に振り回すケミナス。

「お前が『一人で入学するのはイヤ〜ン!』って言って俺たちを半殺しにしかねない勢いで
 回し蹴り連発してくるから一生懸命勉強してみんなで同じ医学部に入ったんじゃねーかー!このホモ野郎がああぁぁぁ!」

「ちょ、ちょっと待て!俺そんな事言った記憶ないぞ!」

「うそつけー!お前は言った、ああ確かにお前は言ったぞ!俺の耳の奥の奥の鼓膜の真ん中の2センチ右下あたりにしっかりとお前のホモっぽい声が刻み込まれてるぞ!」

「俺は覚えがないー!」

「ホモを否定しないということは貴様ホモなんだなー!」

「何でそうなるんだー!俺はホモじゃねー!」

「じゃあ全身全霊を込めて全裸で『俺はホモじゃない!』(作詞作曲 ケミナス)を歌いながら
 男踊り(振り付け担当 医学部の先生)を職員室の教頭の机の上で二時間踊ってみろー!」

「何だそりゃー!大体お前の考えた曲と医学部の先生が考えた踊りなんて信用できるかー!」

「全裸という行為に突っ込まないということは貴様、露出狂かー!」

「なんでそう話が脱線するんだー!俺は露出狂じゃねー!」

「じゃあ全身全霊を込めて―」

こういう会話が無限ループ。
そのテーブルだけがやたら騒がしかった。
しかし他の生徒はまったく気にせずパンを齧ったり宿題をやったりしている。
ごく一部の生徒が眉間に皺を寄せる程度。

いつもの光景だからである。

「…お前らうるさい、もう少し周りの状況も考えろ」

馬鹿騒ぎしてる二人の元に一人の青年が座った。

二人は一瞬ハッとなってその青年のほうを振り向いた。

ついでに周りにいる女子もハッとなってその青年の方を見る。

背はケミナスと同じぐらい、髪の毛は長く、灰色だった。

そして整った顔立ち、ちょっと鋭い目がベリークール。

そう、彼はこの学園で上位と言って良いほどなイケメン。
女の子のハートを射抜くようなクールな瞳。

美青年登場に二人の会話もまたもや一瞬止まった。





「ちょうど良いところに来た!聞いてくれよ『ヤッくん』!」
「ナイスタイミングだ!聞いてくれよ『ドラッグ』!」




やっぱり一瞬だった。

「だからそんなあだ名で人を呼ぶな!」

彼の本名は『クリス』、決して『ヤッくん』や『ドラッグ』ではない。

なぜこんなあだ名で呼ばれているかというと、
あまりにも好評すぎる彼の評判に嫉妬した二人は『クリス』の『リ』と『ス』を
交換して『クスリ』とし、変なあだ名で呼んでみんなに伝染させよう!
という地味すぎる計画を立てたのである。

ちなみにこの計画は一部の人にしか伝わらず、全くと言って良いほど効果がなかった。

「お前ら周りの状況を考えろ、騒がしくしてるのはお前らだけだぞ?」

模範生みたいなクリスの指摘。

「『ヤッさん』は静か過ぎるんだよ!どうした?もしかしてアレが切れたのか!?」

ウィンスターが腕に注射器を打つジェスチャーをする。

「何ィ!本当か!?どうしたんだ『エス』!金欠か?金欠だから薬の量を減らして節約してるのか!?」

ケミナスが変な仮説を立てる。

「なんでそうなるんだ!?」

「だから学校で打たないでいつも家で打ってるのか!
 お前そんな苦しい思いしてるのになんでそんなこと俺たちに言ってくれないんだ!」

「そうだ!俺たちは親友だろ!?一人で抱え込むんじゃねぇ!さ、これで一発やってくれ!」

ケミナスが懐から小さな小瓶を取り出し、
小瓶を開け、テーブルの横に置いてある紙ナプキンに中に入ってる粉を少し盛る。

「金はいらねえ、友達だからな」

最後にカッコよくしめるウィンスター。

「お、お前なんでこんなもの持ってるんだ!」

「驚いたか!お前のヤクがなくなって暴走しても止められるように俺は非常用に持ち歩いているものだ!」

「訴えるぞ!?」

「そんな固いこと言わないで、さ!一発!」

「やらねーよ!」

「せっかく貴様のために用意したんだぞ!俺はお前をそんな風に育てたつもりはなーい!」

「お前に育てられた思いはねーよ!」

「いいからやれー!」

「いやだ!」

ギャーギャー言い合うケミナスとクリス。

見かねたウィンスターが言った。

「しょうがねぇ…俺がやる!」

あまりにも突発的な一言に、

「…へ?」

とウィンスターに振り向くクリス。

「クリスはこれをやりたくない、だけどやらないとケミナスの気が治まらない、
 ならば俺がやる!」

「お、おい、ちょ―」
「ちょっと待てウィンスター!」

言いかけたクリスの声を打ち消すケミナスの声。
手をウィンスターの前に突き出し「待った」のポーズ。

「お前は…お前は自分の身を滅ぼしてでもそれをやるつもりか!?」

「…それが…お前たちが望むことならば…!」

「やめろ!…その行為はお前のしなやかな筋肉を失うことになるんだぞ!
 俺は…こんなことでお前のメモリー・オブ・筋肉をこんなところで終わらせたくないんだ!」

「じゃあどうすればいいんだ!俺とクリスのほかに誰がこれを使うんだ!」

バン!とテーブルを叩くウィンスター。

しかしケミナスはいたって冷静に言った。

「…だから…俺がいる」

「…何?」

「…俺がこれをやる!」

どこかで見たときあるやり取り。

ケミナスは紙ナプキンの端を指で押さえ手元に引き寄せる。

「さらばみんな!あの世で先に待ってるぜ!」

そういって舌を突き出し紙ナプキンの上にある白い粉を舐めようとする。

「な…や、やめろおおおおおおおお!」

「あー!わかったわかった!俺がやる!俺がやるよ!」

耐えられなくなったクリスが言い出す。

そしてふたりは同時に、





「「どうぞどうぞ」」





やっぱり見たときあるやり取り。

「お前らあああああああ!」

クールな顔を歪ませて叫ぶクリス。
怒った顔も素敵!もう周りの女子がクラッと。

「へっへっへ!言ったからにはやってもらうぜ!」

ケミナスは紙ナプキンをクリスに押し付けた。

「………………」

しばらく黙るクリス。

そして白い粉を人差し指に付け…舐める。

「!」

その時、衝撃が走った。

彼の体中の細胞が騒ぎ出し、血管を流れる液体が音を上げて加速する感触。
彼の脳神経がありとあらゆる光のような希望と闇のような残忍さが彼の思考を同時に襲い、
その思いが強くなれば強くなるほど頭に清涼な水が駆け巡るような清々しさ。
そしてそれは一つの結果へとたどり着く。
それは答えていいのか、答えては永遠に逃れられない闇へ放り込まれるような焦燥感。
だが、彼は闇を恐れず、親友へ堂々と告白する。

その結果とは―








              「―砂糖じゃねーかあああああああ!」







というどうでもいい結果。

クリスは紙ナプキンを握り締めケミナスにぶん投げる。

それを爆笑しながらひょいと避けるケミナス。

「ハッハー!だまされたな!大体、俺ヤク買う金なんて持ってませんよーだ!」

「お前殺す!絶対殺す!」

「ハッハッハ!傑作だな、ウィンスター!なぁ?」

同意を求めてウィンスターにたずねるケミナス。

だがウィンスターは逆に聞き返した。

「…え、今の全部芝居?」

実はさっきまでずっと素でやっていたウィンスター。
彼はたまに熱血になりすぎて本気になってしまうときがある。

「あたりまえだろ!お前以外にノリがいいと思ったらマジだったのか!?」

再びケミナス大爆笑。

「…ということは、俺の筋肉のことも嘘?」

「あたりまえだろ!お前の筋肉なんてどうでもいいっつーの!」

更に笑い続けるケミナス。

しかし、


「きいいいぃぃぃぃぃぃさあああぁぁぁぁぁぁぁまああああああ!」


ご自慢の筋肉を馬鹿にされたウィンスターは怒り爆発。

マジっぽい叫びに思わず黙り込むケミナス。
いやほんと、目がマジだ。

そしてケミナスがやったように胸倉を掴む。
胸倉を掴む腕力もマジだ。

「俺の筋肉を馬鹿にするとはいい度胸だー!表に出ろー!
 貴様に嫌というほど俺の筋肉の殺戮を見せ付けてやるぜええええええ!」

「な、ちょ…冗談!冗談ですよ!いや本当に冗談ですってば!」

「言っていい冗談と悪い冗談というものがると言うことを!この俺がハッキリと思い知らせてやる!
 あの世で後悔するがいい!」

「お、おいウィンスター。落ち着けって…」

いつの間にか立場逆転。

追い詰められるケミナス。

今にもターゲットを殺しかけないマッスルプライド、ウィンスター。

それを仲裁するクリス。


やばい、ウィンスターの野郎はマジだ。だってあの世とか言ってるもん。
クリスの仲裁も大して効果ないし、俺の運命もここで終わったなー。
嗚呼、死ぬと思うと昔のことを思い出す。
そう、アレは幼少時代。懐かしく輝かしき夏の思い出。
俺たちが仲良く野原で蝶を追いかけたりカブトムシ捕まえたり
アリの巣に熱湯流し込んだり虫眼鏡で焼き殺したり
地面掘ってミミズ捕まえてウィンスターの耳の穴に流し込んだり
モグラを焼いて食ったり花を摘もうと思ったら実は大麻みたいなもので
クリスに無理やり吸わせようとしたり
あの太陽に向かって競争だーって言ったらみんな意外にマジになって
気づけば三日間で陸路を80km、海路を50kmぐらい進んだっけ?
あれはもうトライアスロンだね。
もうやめない?って言おうと思ったけどみんなマジだし、
だいたい言いだしたの俺だし、ここまで来て今更言うなー!って
みんなにリンチにされるっていう妄想を膨らましてたから止めようって言うの怖かったし、
でも、『あいつ』がやめよーって言い出したから俺も便乗して止めさせたんだっけ。
でも帰りが大変だったなー。足が痛くて休んでは歩き休んでは手で歩いたり、
農場から馬を盗んで乗って帰ったりもしたなー。
ウィンスターあの頃は結構弱虫で馬を怖がって泣きそうになったっけ。
今思うとあの頃のウィンスターはかわいかったなー。
俺より背が低くて、軟弱ですぐに諦めるやつだったなー。
なんでこんなモンスターになったんだろ?
まあいいや、んで…そうだ。『あいつ』が大丈夫だよーって
ウィンスターを元気付けてくれたっけ。
『あいつ』、初めて馬に乗ったのにいとも簡単に馬を操ってたっけ?
天才肌なんだよなー。今も変わらずいい奴で、
この親友の中で『あいつ』が一番まともだな〜。
ところで『あいつ』今日も遅いなー。死ぬ前に顔ぐらい見たかったなー。

というケミナスの思考がわずか2秒で駆け巡る。

「はいはい、ウィンスターそこらへんでやめようねー」

そこに場違いな無気力な声が響いた。

あ、とマジな顔からハッとなる表情に変わるウィンスター。
その拍子にケミナスの胸倉から手を離す。

イスに座る一人の青年。

背丈はウィンスターより少し小さいがそれなりに背が高く、
髪の毛は茶色で長め。目は優しくいつも微笑んでいるように見える。

居るだけでそこの空気が柔らかくなるような和み系の青年である。

「『シェミル』〜!助かった〜」

シェミル、通称「神父さん」「やさしい兄貴」「ザ・善人」「無気力BOY」「彼が兵器になればきっと戦争は平和に終わる」等、
とにかく優しく、和む。そして無気力。

だがちょっといたずら心もあるが、
そこが可愛い!ということでクリスと同じように女子に人気。

「遅かったじゃないか、どこ行ってたんだ?」

クリスはホッとしたのか、背もたれに身を預けながら聞いた。

「ん〜、寝てた」

頭を掻きながらシェミルは答えた。

彼が来ればこの騒動は収まる。
いわば彼はこの中で歯止め役のようなものである。

なぜ彼が来れば止まるのか、
一説では彼の周りにある空気はどんなに獰猛な生き物でも
静かにさせる特殊な空気があるという謎の仮説がある。

もちろんそれは仮説にしか過ぎないので彼の謎は永遠にわからない。

というより本人も知らないのである。

「つーか、俺たち何が原因で暴れてったんだっけ?」

ウィンスターが言った。
色々と暴れすぎて原点を見失ってしまったようだ。

「お前のせいだよ!お前が入学しろとか言ったからうんたらかんたらになったんだぞ!」

「だから覚えないって!」

「はいはい、また暴走すると止まらないからそこら辺で止めようねー」

「ん?入学しようって言ったのシェリルじゃなかったっけ?」

え?と、ケミナスとウィンスターがクリスの方を見た。

「あー、そうだねー。確かに言い出したの僕だねー」

さらりというシェミル。
だがその発言が再び爆弾のスイッチを押すことになった。


「しぇえええみいいいるうううう!お前ほんまアホちゃうかぁ!?
 あんさんがそんなこと言わへんかったらわて自由気ままな無職生活をしていたというのにおまえほんまああああああ!」

なぜか関西弁になるケミナス。

「え〜、いいじゃん。折角だからみんなで一生懸命勉強して同じ医学の道を歩もうよ〜
 そうすればクリスの依存症も直せると思ったからさ〜」

あはははと笑いながら答えるシェミル。
さすが和み&無気力。言葉に力がないぞ。

「だから俺は薬なんてやってねー!」

憤るクリス。憤る姿もステキ!と(以下略)

「ちょっと待てーい!じゃあお前が耳の奥の奥の鼓膜の右下に録音されてる声はなんなんだー!?」

ウィンスターもそれに便乗するかのごとく叫ぶ。

「知らん!多分個人的に叫んだことなんだろ!俺に聞くな!」

「てめぇふざけるなー!」

「いいかシェミル、あえて言わせてもらう俺は薬なんてやってないからな
 それ以上俺の変なうわさを付けるな頼むから、マジで頼むから!」

「いいよー、えへへへへへ」

「お前絶対忘れるだろ!頭の中に叩き込めよ!?勉強と同じだろ!?」

「ジャンキーは黙ってやがれ!いいかシェミル!いくらお前でも許さねえぞ!マジで許さねえぞ!」

「ケ〜ミ〜ナ〜ス〜!俺を無視するんじゃねー!」

またもや言い争いが始まった。

とにかく全員の事をギャーギャー言い合ってもう何がなんだかわからない状態になってしまった。

そして、

「ね〜、もうやめよー」

シェミルの無気力な声。

「…そうだな」

「もう疲れた…」

「ふぅ…」

これもいつものことである。
シェミルの止めろ宣言でみんなの口論が終わる。

シェミルは色々なところでこの三人の指導力を持っているのである。

「それに、そろそろ来るんじゃないかなー」

シェミルが視線をテーブルの外側へと向ける。
そこに一人の女性が近づいてきた。

「おまたせしましたー」

女性はテーブルに着くと同時に明るい声で言った。

手にはお盆、その上に各種類のパンや飲み物が置いてあった。

ここのパン屋のアルバイト、マリアである。

「サンキュー!マリアちゃん!」

うへへへ、と笑いながら言うケミナス。

ケミナスは女好きであり、このパン屋に来る目的はマリアを見たいという理由だけだったりする。

おっとケミナスがお盆を取ろうとする手がちゃっかりマリアの手を触れているぞ。


「気安く触るんじゃねー!」


突如ケミナスの横顔に跳び蹴りが飛んできた。

ケミナスはその衝撃で座っていたイスから三メートルほど離れた所まで吹っ飛んだ。

蹴ったのはウィンスターである。

至近距離で跳び蹴りをするウィンスターは色々な意味で強い。

ケミナスが女好きならウィンスターは女性を崇拝する性質なのである。

要はこいつも女好きなのである。

それが原因でケミナスと度々争いが起こる。

「いいか!このマリアさんは貴様のような軽い男が触れてはいけないお方なんだぞ!
 そもそも『マリアちゃん』って何だ!『マリアさん』と呼べ!ゴミ野郎が!
 女性をもう少し尊く思わないのか!俺は貴様のようなグフォア!」

熱弁するウィンスターの顔面にイスが飛んできた。

そのイスをもろに食らったウィンスターは後ろに吹っ飛んだ。

「うるせえこの女性崇拝者がー!」

「やんのかテメー!」

ドタバタと店で暴れまくる女好き二人組み。

殴りかかるウィンスター。
それを避けるケミナス。

テーブルをぶん投げるケミナス。何故投げれる。化け物かお前は。

それを己の拳で弾くウィンスター。お前も化け物か。

一方、その女馬鹿二人組みの友達は―

「どうぞー」

その暴走を全く気にせずシェミルにお盆を渡すマリア。

「どうも〜」

そして二人の暴走を止める気配もなくお盆を受け取るシェミル。

そして最後にクリスへとお盆を渡そうとする。

「はい、クリスさん」

その顔がやたら輝いてる。そりゃあ学園上位のイケメンだもの。

一方、クリスは―


「…………………ぁ……………………………どうも」

なんか控えめである。

言葉もか細く、顔が真っ赤である。

お盆を取る手もめっちゃ震えている。

そう、彼は女の子に弱い体質なのである。

彼は男となら率直に離せるが男しか話してないせいか、女の子に全く耐性がないのである。

そのため自分が女子にモテる、という所を非常に問題視しているのであった。

はずがしがる所も(以下略) 本人は滅茶苦茶困っているのである。


神よ…これは俺の前世が起こした罪を滅ぼすために与えた俺への宿命でしょうか?
俺の前世は何をした?あれか、女遊びをしすぎたとか、そういう奴ですか?
それを防ぐために俺に女の子という生き物を弱点にしたのですか。なるほど。もう一生お前なんか信じない。
いやいやちょっと待て、前世ってのはずっと繰り返されるって聞いたのだが、あれか?
前世もこんなに女の子に弱いのですか?苦労してるなー。
でも…ああ、マリアさん。いや、マリア様、そんな目で俺を見ないで。
そんな何か希望に溢れた目で俺を見ないでください。お願いします。
このバイトの倍のお金あげるから、とりあえず俺から離れてください。
そうじゃないと多分俺死ぬ。死んじゃう。死因が『女性耐性限度突破死』ってなったら
俺はあなたを一生恨む。いや、無理かも、逆に怖くてさっさと浄化するかも。
だからお願い、離れて!お願いです!離れてください!


クリスの思考、必死である。

「そういえばマリアちゃん、この前のテストどうだった〜?」

無神経なシェミルの声。
なぜかシェミルは女の子をちゃん付けしてもウィンスターは怒らない。

ウィンスター曰く、「あいつは女性に優しいから」…らしい。


シェミルー!このアホアホアホゥ!何故そこで引き止めるんだ!
この無神経!無気力!お前もしこれで俺が死んだら一回肉体に魂戻して道連れにしてやる!


「あ、この前のテストですか?結構難しかったですよねー」


ああ、話にのっちゃダメ、のっちゃダメだってば!
早く戻って、怒られちゃうよ、あの目の細い店長さんみたいな人がきっと目をカッと見開いて怒るよ。
給料引かれちゃうよ?いいの?それでもここに留まるつもりかお主、只者ではないな。
その度胸に免じる。だから早くここから離れて、お願い。
頼むから離れてくれええええええええ!


「そうだよね〜、でもクリスは結構スラスラ解けてたよね〜」

「え、そうなんですか?クリスさん凄いですねー」

クリスに対する目の輝きが更に増す。


俺にこの状況で話題を振るなああああああああ!
何?テスト?そりゃあまぁテストの前の日とか一生懸命勉強したから難なく解けましたよ。
でもシェミル、お前には敵わねーよ?お前ほぼ満点だったじゃん。
お前のほうが頭いいのになんで俺に話題振るん?
あああああもう!マリアさんそんに見ないで、『女性魅力視死』って変な死因付けられて死んじゃうよ?
つーか『視死』って変だな。
って今こんなこと考えてる場合じゃない!
マリアさんは明らかに俺の返答を求めている。
つまり俺がドン引きする事を言えばきっと帰ってくれる!
よっしゃこれでいくぜ!


クリスは顔を上げてこの状況から脱する発言を言った!

「ああ、テストですか、楽勝過ぎてテスト用紙の裏にラクガキしちゃいましたよ」


フハハハハハハハ!どうだ!ドン引きだろ!?
今時テスト用紙に裏にラクガキする人間なんていない!
どうだ?これでどうだ!?引いてくれるのか?引いてくれるのかよオイ!?


「さすがクリスさん、余裕なんですね〜」


ちくしょおおおおおお!何でそうなるんだあああああああ!
なんだ、俺が返答すればどんな言葉でもいいってのか!?
じゃあ俺が(放送禁止用語)とか(教育的指導)を言ってもなんともないのか!?
いやむしろ喜んでいるのか!?意味わかんねええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!


「すごいよね〜クリスって何でも出来るもんね〜。結構スポーツとかも得意なんだよ」

更にマリアの足止めをするシェミル。

火の中に油をぶん投げるかのごとく、更にマリアの目が…いや、顔全体が輝いている。


だからなんで引き止めるんだー!やめろーやめてくれ俺この世から消えちゃう死んじゃう。
そもそもこの原因を作ったのは誰だ?シェミルだ!
シェミルが居なければこんなことにならなかったのに!畜生め!
……………………………………………………………!
よし!殺そう!シェミルぶっ殺そう!
いや、殺さなくてもいいや!殺人未遂程度でもいいや!
そして俺逮捕されて誰にも干渉されない牢獄生活が待ってるぜ!
いえ〜い、そうと決まれば今すぐ決行だ!
よし、凶器はパンだ!パンを口の中に無理矢理入れて窒息死させるぜ!
アディオス!シェミル!


クリスの思考回路はオーバーヒート。
変な考えが勝手に思いつき、しまいには殺人衝動も起こしてしまう程にデンジャラス。

パンに手が伸びるクリス。
口をふさいでも鼻で息が出来るということに全く気づかないその場しのぎの考え。

クリスの手がパンを掴んだ!


「あ、そのパンおいしいですよ〜」

「え………う………ぁ、そうですか、ではいただきます」


弱点の女性の声で思わず我に返るクリス。

とりあえず掴んだパンをそのまま口に運び、もそもそと食べるクリス。


あぶねぇ…あぶねぇあぶねぇあぶねぇあぶねぇあぶねぇあぶねぇ!
俺何やろうとしてたんだ!?大丈夫か俺!?
お願いマリアさんこの苦痛に気づいて!女の子と居るとツライ私の気持ちを考えておくんなましー!


「マリアー、そろそろ来てくれー!」

店のほうからマリアを呼ぶ店長の声。


ナイス!目の細い店長ナイス!


「あ、店長に呼ばれちゃった。じゃあねクリスさん、シェミルさんも」

そういってテーブルから離れるマリア。
『じゃあねクリスさん』がやたらと強調されていたのは何故だろうか…

「く………はぁ…………助かった…………」

バタっとテーブルに倒れこむクリス。
クリスの体にパンがプレスされないようにさっとお盆を寄せるシェミルのナイスフォロー。

「クリスは面白いねー」

「………これは貴様の陰謀か?」

「いやー、クリスって薬には強いのに女の子に弱いところが面白くてさー」

「……もう勝手にしなさい」

ツッコミを入れる気にもならないクリスはゆっくりと顔をあげる。

クールな顔も今ではげっそりしていた。女の子は怖ぇってことだ。

「あ〜あ、また俺のマリアちゃんクリスに取られたぜ」

「お前のじゃないっつーの」

そばで戦闘をやっていたケミナスとウィンスターはいつの間にかテーブルに座ってパンを食っていた。
切り替えが早い二人である。

「正直、クリスはマリアさんのことどう思ってるんだ?」

「どうって……………恐ろしいと思う」

ウィンスターの問いかけにクリスは微妙な回答をする。

「マリアさんの気持ちに答えなきゃダメだぜぇ?」

淡く笑いながらウィンスターは言った。

彼はマリアとクリスは恋人になったほうが良いという考えを持っている。
クリスなら問題ないという事らしい。保護者かお前は。

そんな他愛のない話をダラダラと続けて一時間、

空は少しずつ赤く染まるころ、
パン屋も少しずつ人が帰っていく。

「よし、俺たちも帰るか」

ケミナスは立ち上がっていった。

「なぁ、誰か本屋行きたい奴いないか?
 今週の『週間山原水鶏(ヤンバルクイナ)』買うの忘れてたんだ。
 明日で変わるから今日中に買っておきたいんだ」

ケミナスは聞いたが誰も名乗り出なかった。

「…いいよ!一人で行くよ!みんなの意地悪!うわーん」

そう言葉を言いながら一人で本屋に行くケミナスであった。

「よし、明日休日だから俺は今日から山に篭るぜ、じゃあな」

そう言いながらウィンスターも帰っていった。

己を磨くために山へ篭るウィンスター…お前はもう立派な筋肉馬鹿だ。

「じゃ、俺たちも散りますか。」

「そうだね〜」

残りの二人もそれぞれ帰路へと向かった。





暗闇の場所。

上も下も、右も左も、すべて無限に広がる黒の世界。

その真っ黒な世界に無数の光が浮かんでいた。
それはすべて、『意識』だった。

そこは『意識の海』と呼ばれるところだった。

そこに一人の女性がただずんでいた。

白い服に、額に角、耳は獣の耳だった。

「はぁ…困りましたね」

女性の口から透き通った声が漏れた。

「この世界の危機のために強い意識が必要だというのに…なかなかありませんね」

女性はその場をうろうろしながら独り言を言った。

「…しかたありません、今回は一か八か…新しい意識を持ってくるしかありませんね
 そのために幾らか意識を持ってくるしかありませんね」

そういいながら近くにあった輝く意識に両手をそっと手を添えた。
そして…


「…力づくでも」


その意識をグシャリ、と押しつぶした。




これが、ケミナス達が体験する『旅』の始まりだった。





場所は現実の、夕焼けで空を赤く染める世界に戻る。

「やっぱ『戦慄!血だるまジョニーのラスベガス』は面白れーなー」

どんな漫画だよそれ。

ケミナスは本屋で買った『週間山原水鶏(ヤンバルクイナ)』を読みながら家へと向かっていた。

ケミナスは橋の上を歩いていた。

そこはケミナスの家へと続く場所であり、かなり長いので週刊誌を読むには最適。らしい、

人もほとんどいない閑静な橋である。

「…ん?こんな企画あったか?」

橋の半分ぐらいに来たとき、ケミナスはあるページを見た。

『新企画!ヒスパニック天国・黒田マザヲのロックンロール式ウォーキング術!』

『これさえあればあなたも健康に!スリムに!モテモテに!クールに!ダンディーに!スタイリッシュに!セクシーに!キュートに!背が3cm長く!大金持ちに!不死身に!関節が柔らかく!ボン、キュッ、ボーン!爪の伸びる速さが1.2倍!コラーゲンタップリ!手刀で木を…』

という風に後半やたらと適当になっている文章がそのページにあった。
最後の言葉は何故か『父危篤、スグ帰レ』だった。

「なんだこれ…面白そうだな」

はじめて見る企画に興味を持ったケミナスは立ち止まり、
よく見てみることにした。

どうやら健康になるウォーキング方法らしい。

『まず手を後ろに組んで出来るだけ上に持ち上げよう!そして左足を前に出しアキレス腱を伸ばす様にしよう!』

「こうか…」

橋の真ん中で後ろに手を組んで準備体操でする様にアキレス腱を伸ばすケミナス。
客観的に見て明らかに不審者の様であるが人がいないのでなんでもありである。

『そして左足の足首と膝の関節を横に回転させて今度は右足を前に出そう!
そして右足が出たらさっきと同様に回転して左足を出そう!それを一日五分おきに二十回やるのがベストだ!』

「…無理じゃね?」

それでも一度やってしまったからにはやるしかない、ここで止めたら男じゃないぜ!

という気持ちで意地でも実行しようとするケミナス。

「セイッ!」

気合で左足の関節を回転させるケミナス。
だが、


ボキッ


足から変な音が鳴った。

「ぬお!?いてぇ!」

足の関節を無理矢理回転させたケミナスは足を思いっきり痛めた。

「ちょ、いてぇ!ってうお!?」

そのままバランスを崩して倒れるケミナス。

反射的に手すりへと手を伸ばし、寄りかかる。

しかし―


バキッ!


「………へ?」

何故か手すりが折れた。

そのまま橋から落っこちるケミナス。

「なんでだあああぁぁぁぁぁ!?」

そんな叫びを上げながら逆さまに急降下。


いや待て落ち着け俺、こういう時だからこそ落ち着こうぜ!
そうだ!下は川だ!だから落ちても生き残る確率は高い!骨は折れると思うけど!


橋の下は確かに川である。
ケミナスの下には川が広がっている。

段々ケミナスの視界に近づいてくる川。
そしてケミナスは重要なことに気づいた。


「なんかこの川浅くねー!?」


前まで深かった川が何故か今日は浅い。ものすごく浅い。

そのまま頭から川にダイブしたケミナスは川の底に頭を激突させる。


ドコッ!


ケミナスの頭が川の底にめり込む音が響いた。

そして川の流れで底から頭が抜け、そのまま下流へと流されていくケミナス。


ケミナスの意識はそのまま遠くなっていった…





そして場所は山の中へと移る―



「せい!せい!せいや!」

山の中、一人の男が木にむかって拳を突きつけていた。

上半身は裸であり、鍛え上げられたしなやかな筋肉がついている体。

服は腰に袖を巻きつけている。

ウィンスターである。

彼の週末の過ごし方はこのように体を鍛えるのが定番である。

ウィンスターの気合の声と、木を殴る音が山の中に響いている。

「せいや!」

二十七回殴ったときである。


バキッバキバキバキ

「…お?」

殴っていた木が唐突に折れだしたのである。

殴っていたところから徐々に傾いていく。

「おお!やった!やったぞー!この木を殴り続けて半年!
 ようやく、ようやくこの木を折ることが出来たぞー!」

うおー。っと両腕を上げて感動するウィンスター。

喜んでいる間に木がどんどん傾いていく。
ウィンスターの方に。

そしてある程度傾いたところで、急にスピードをあげて折れ始める木。

そのままバキッ!っと折れ、木がウィンスターを押しつぶした。


「げふぅ!」


そのまま押しつぶされたウィンスターは意識を失った…





場所は再び移り変わり、住宅街へ。

(週末か…何しようかな)

そんな事を考えながら一人の青年が通路を歩いていた。

灰色の長めの髪、整った顔立ち。クールで鋭い瞳。

ノーマ学院のイケメン、クリスである。

クリスが通っている通路にはあまり人がいなかった。

それはクリスにとって好都合だった。

もしこの通路に女性がいたらクリスは遠回りして家に帰らなければいけない。

今はそんなに人が居ないのでクリスの家にもっとも近い通路を歩いていた。

「…!」

おっとクリスの表情が固まった。

前方に女性を確認、しかも二人。

二人は仲良く話しながらこっちに向かってくる。

クリスは迷わなかった。

くるっと180度ターン。アンド猛ダッシュ。

そしてある程度の距離を走ったとき、横の通路へと逃げ込む。

クリスはそこを『安全地帯』と呼んでいる。

「はぁ…はぁ…危なかった…」

『安全地帯』に逃げ込んだクリスはそこで息を整えた。

「最近この通路女子が多くなってないか?」

そういいながら彼は『安全地帯』から家へ向かう別ルートへと向かうために通路を歩き出した。


ツルン。


「え?」

突如クリスの視点の天と地が逆転した。

時の流れが遅く感じた。

そのスローモーションの中でクリスは状況を確認した。

とりあえず、浮いてるな。うん、体が浮いてる。
んで、頭が地面で足が空のほうにあるな。
なんでこうなったんだ?

答えは見つかった。

クリスの視界にうっすらと見えた。

黄色い物体。お猿さんの大好物。ギャグの定番。栄養満点。


(バナナの…皮!?)


気づいたとき、クリスは地面に頭をぶつけた。

(…マジかよ)


そのままクリスは意識を失った…






またもや場所は移り、公園。


「どっこいしょっと」

そんなことを言いながら一人の青年が公園にあるベンチに座った。

なんとなくやる気のなさが伝わり、優しい表情をした青年だった。

シェミルである。

彼は無気力でマイペースなのでいつもゆっくりと家へと帰っている。

そしてたまに通りかかる公園で休憩することがある。

「わーわー」

「待て待て〜」

公園に少年が二人走り回っている。

一人は木の棒を、もう一人はどこからどう見ても木刀を手に持っていた。

二人の少年はそれでチャンバラをしていた。

木の棒を持った少年Aはもう一人の木刀を持った少年Bの足に棒切れを振り下ろした。

それをバックステップで避け、木の棒を木刀ではじき返す少年B。

木の棒は弧を描き、少年Aの後ろへと落ちた。

少年Aはバク宙で木の棒に近づく。

その棒を手にしたとき、少年Bは少年Aに近づき、木刀を振り下ろした。

少年Aは少年Bの足元を前転でくぐり抜け、少年Bの背後に棒を振り下ろした。

少年Bは肩越しに木刀を構え、それを防ぐ。

少年Bはその場で回転して木刀を横に振る。

少年Aはそれをしゃがんで避け、しゃがんだ状態で棒を少年Bの手にめがけ振る。

咄嗟に少年Bは木刀を離し、手を左右に広げてそれを回避する。

そのまま落ちる木刀を低い大勢で拾い上げ、足を狙う少年B。

その攻撃を少年Aはその場で跳んで避け、
空中にいる状態で木の棒を少年Bの頭へ振り下ろす。

横にすばやく転がりそれを避ける少年B。

少年Bはすばやく立ち上がり、少年Aを見る。

少年Aはジリジリと少年Bへと近づき、跳ぶ。

少年Bもそれに答えるかのごとく、跳ぶ。

そして二人はそのまま棒と木刀のラッシュ。

弾き、回避し、跳び、狙う―。



「いや〜、無邪気でいいね〜」

目の前のすさまじい攻防に全く動じないTHE 無気力シェミル君。


「おおっと手が滑ったー!」


少年Bの手がすべり、木刀が飛ぶ。
シェミルに向かって。


ゴスッ


「あふ…」

シェミルの体が一瞬震えた。

木刀はシェミルに直撃。
しかもそこは…


「く、くりーん………ひっと」


男の大事な場所。
そこに木刀が突き立つ感じになった。


そのままシェミルは地面に倒れ、意識が徐々に遠ざかっていくのがわかった…




「ふぅ…これで意識がそろいましたね」

場所はリクレールのいる意識の海へ変わる。

リクレール、心なしかいい表情。

四つの光り輝く意識がリクレールの手元にある。

「では、始めますか」

リクレールはその意識を抱えてそのまま意識の海から消えていった。



『ケミナス』『ウィンスター』『クリス』『シェミル』…

シルフェイドの世界を救う、リクレールの切り札となった四人。

これから四人の旅が始まる…








               女神に選ばれし、彼らの旅路








〜第一章〜


あれからどのくらい時間がたったのだろうか…
落ちて、頭を打って、流されて…
なんでこんなことになったのだろうか…
そもそもこうなった理由はなんだろうか…

頭の記憶を探り当てる。

探して、探して、探して…一つの結果にたどり着いた。

そうか…そうだったのか!
なんということだ!こうなったのはあれのせいだ!
そう、こんな目にあわせたのは…







              「ヒスパニック天国・黒田マザヲオオオォォォォォォォ!」






       女神に選ばれし、彼らの旅路

                    第一章



ケミナスはそんな叫びと同時に上半身をガバっと起こした。

寝起きの一発にこの叫び、凄い執着心である。

「…………ん?」

ケミナスは目を数回パチパチさせて状況を確認。

ケミナスが今いる場所は今まで見たときがない暗闇の世界。
その暗闇に複数の光の球があった。

「なんじゃこりゃ…」

近くにあった光の球を突っついてみる。

光の球は突っつく力で少し移動した。

「…うぅ………」

近くでうめき声が聞こえた。

ケミナスはそっちに顔を向ける。

すぐ横に見慣れた奴を見つけた。

「…筋肉バ―」

「俺は筋肉馬鹿じゃねー!」

それはおもむろに立ち上がり問答無用にケミナスをぶん殴った。

「ぐふぉ!」

ケミナスはその一撃で吹っ飛んだ。

寝起きに殴るきんにくん、寝起きに友人に殴られるケミナス。
お前ら元気だな。

「って、ケミナスじゃないか!」

ハッとなった筋肉馬鹿、ウィンスターはケミナスに近づいた。

「どうした!?なにが起きたんだ!?ここはどこなんだ!?山じゃないのか!?」

ケミナスの体を揺さぶるウィンスター。

「うん…その質問に答える前に俺はやらなくちゃいけないことがあるんだな〜…」

口の端をピクピク痙攣させながら答えるケミナス。

右腕に力をこめ、ウィンスターの顔面をぶん殴った。

「痛て!何す―」

「てめぇに寝起きにぶん殴られる俺の気持ちがわかるのかー!」

殴り殴り、殴られたら殴り返し蹴り返しの大乱闘発生。

「あ〜、二人とも起きてるね〜」

「なにやってるんだあいつら…」

そこに二人の青年、シェミルをクリスが近づいてきた。

「おお、お前らも居たのか」

二人の登場に乱闘をやめるケミナスとウィンスター。
やっぱり切り替えが早い。

「なんでみんなここにいるんだ?俺家に帰ってたら橋から落ちたんだが…」

「俺山に篭ってたら押しつぶされた」

「俺は…バナナで滑った」

「うわ!ヘボい!」

「ショボー!」

「うるせー!」

「僕は…」

シェミルが言おうとしたが急にハッとなってみんなに背を向ける。
そしてズボンの前を引っ張って何かを確認。

「どうした?」

クリスがシェミルの急な行動に心配して言った。

「ん〜………大丈夫、特に支障はないよ〜」

シェミルが振り返りいつものように笑った。
でもその表情にちょっと冷や汗が浮かんでいるぞ。

「ということは…みんなここがどこなのかわからないということか」

「僕とクリスが先に起きて調べたけど何にもなかったよ〜」

「俺は天国かと思ったんだがな…」

「しかし、なんで俺たち四人組みが仲良くここにいるのかね〜…」

みんなそれぞれこの状況を考えた。

ケミナスとウィンスターは腕を組み、
クリスはうつむいてこの状況を考えて、
シェミルは辺りを見渡しながら考えた。

しかし、答えは全くわからない。
各々方、黙り込んで考える。

その時、状況に進展が起こった。


            意識の海を漂う、そこのあなた達…


突如、声が響いた。

「…今の…聞こえたか?」

「…聞こえた」

「俺も聞こえた…」

「僕も〜」

みんな声が聞こえているらしい。

「どこから聞こえてくる…?」

「なんか…頭の中で響いたような」

「…幻聴か?」

クリスの一言にみんなハッとなった。

「もしかして…気絶してる間にヤク打たれたんじゃないか!?」

「な…なにいいいいいい!?」

「絶対そうだって!俺今まで幻聴なんて聞いたときないんだぞ!?
 それが急に聞こえたって事は…!」

「何のために!?」

「わからん!愉快犯かもしれないぞ!」

「…やべぇ、もしそうだったらやべぇぞ!」

ケミナスとウィンスター二人で勝手に合点。

「…なんでそうなるんだ?」

「そうか、だからクリス平気なんだー、普段から慣れてるもんね〜」

「違う!俺はただ冷静に物事を考えてるだけだ!」

「『スピード』!この麻薬の種類なんだ!?」

「治す方法はないのかー!?」

「なんで俺に聞くんだー!」


            …私の声が聞こえますか?


「うわあああああ!やばい!やばいぞ!干渉してきたぞ!」

「わああああああ!耳塞いでもでも聞こえるぜ!?
 どうすればいいんだ!?どうすればいいんだああああ!?」

「俺は負けない!ヤクに打ち勝つ!打ち勝って見せるぞ!」

「そうだ!俺も打ち勝つぞ!この鍛え上げられた精神力で!」

「うおおおおおお!こいやこいやー!」

「依存症バッチコーイ!」

勝手に燃え上がる二人。

「お前ら落ち着け、これ麻薬じゃないかもしれないぞ?」

「何!本当か『しゃぶ』!」

「さすが『シンナー』!専門家の意見を是非!」

「誰が専門家だ!…まぁ、これは聞いたときある俺の知識なんだが…
 あくまで知識だぞ?一回だけなら依存症にはならないんじゃないか?
 それに、みんな同じ幻聴を聞いてるということからなんだが…
 麻薬には個人差があるから同じ幻聴を聞くというのはありえないんだぞ?」

「そうか!さすが実用者!普段のクスリとの違いで違和感を覚えたのか!」

「なんでそうなるんだー!?」

クリスの知識披露で余計にクリス=クスリになってしまう。
本当についてない男である、クリスって。


            …あの〜


「じゃあこの声は何だろうね〜」

「………もしかして…幽…霊?」

ウィンスターの仮説にケミナスはハッとなった。

「それだー!たぶん幽霊だ!幽霊が俺たちに干渉してきてるんだ!
 やばい、やばいぞ!俺たちの魂が目当てのソウルイーターかもしれないぞ!」

「何!?ソウルイーターってなんだ!?」

「この前の『週間山原水鶏(ヤンバルクイナ)』の企画で
 『見よ、アイツの名前はチョモランマ にくいあの野郎にソウルイーター大作戦』に
 載ってた人間の魂を食らう化け物だ!」

「なんだそりゃ!そんなの居るわけねーだろ!どちらかというと宇宙人が干渉してきてるのかも知れないぞ!?
 俺たちを勧誘して拉致しようとしてるのかも知れないぞ!」

「じゃあ半分ソウルイーターで半分宇宙人だな!」

「そうか!それだ!」

またもや二人で合点。


            私の声が〜…



「うらあああああああ!貴様に俺の魂はくわせんぞー!
 こいやこいやこいやこいやこいやあああああ!返り討ちにしてやるぜぇ!
 こう見えても『週間山原水鶏(ヤンバルクイナ)』の
 『これであなたも心も体もエクソシスト!首が360度回転しますが何か問題でも?』で
 幽霊とか悪魔とかの対処方法を覚えたんだぞ!」

「貴様ぁ…この地球に何のようだ!?消えろ!ここは貴様の地球外生物が来るところじゃねえ!
 何が目的だ!?侵略か!?それともただの親交か!?
 理由なんてどうでもいい!とにかく消えろってんだよ!?言葉わかるかぁ?
 だいたい地球に貴様らのような生物がいたら鳥肌が立つ!反吐が出る!
 ここは人間という生き物が選ばれた土地なんだよ!帰れ!帰れえええええ!」




            静まれこのクソガキャァァァァァァァ!


 

獅子を想像させる女性の咆哮が響く。

空気がビリビリと音を立てて揺れているのがよくわかる。

騒いでいた二人は黙り、後ろで静かにしていた二人はもっと黙る。

            あ………え〜っと私の声が聞こえますか?

さっきと打って変わって静かな声で問いかける。

「「「「はい」」」」

四人は同時に即返答。

            私は女神リクレール…
  トーテムに呼び覚まされし
           すべての生命を導くものです…

「トーテム?すべての生命?」

「怪しい宗教かもね〜」

訳わからん単語に首を傾げるクリスに答えるシェミル。

「なるほど、生命を餌にソウルイーターを駆使して宇宙人との交信を計る
 トーテムっていう宗教団体か」

「なんかすげー怪しいんですけど…」

謎の宗教団体を独自の発想するケミナス。
お前発想力ありすぎだ。

            しゅ、宗教団体ではありません。
           とりあえず、あなた達は男性ですね?

「そうだが…なんでそれを聞くんだ?」

「あれか?この宗教は男しか入れないとか?」

            だから宗教じゃ―

「もしかしてアレか!?イチモツをちょん切ってそれをお供え物にするために男が必要なのか!?」

「何ー!みんな、守れ!息子をガード強化だー!」

わーわー騒ぎながら股間を押さえるケミナスとウィンスター。


            話を聞きやがれゴミ野郎がー!


またもや獅子顔負けの咆哮が響いた。
いやこれはもうゴジ○か。

またもや黙り込む四人。
流石のシェミルもリクレールの変わりようにドン引きだ。


            あ…えっと…次にあなた達の名前を―


またもや声を変えるリクレール。
以外にサイコさんなのである。

「その前に、俺たちをここに呼んだ理由は何だ?」

唐突にクリスが聞き返した。

クリスの目がマジだ。他の三人に比べてめっさマジだ。

            それは…私の創った世界に『災い」が起ころうとしています。
                それをあなた達に止めてほしいのです。 


「断る、そんなファンタジーな事を言われても俺たちは一般人だ。
 頼むならどこぞの勇者様を選んでくれ、俺たちより戦力になるだろ」

            うう…

クリスの現実的な答えに言葉を詰まらせるリクレール。
リクレールも女性、イケメンに言われるとグサリと来るものがある訳よ。

「まぁまぁ、クリスそう言わないで〜」

「だがなぁ…」

「ファンタジーな世界なんてめったに体験できないよ〜
 それに彼女、女の子だからそんなに苛めちゃダメだよ〜」

「な…………………ぇ……………………女の…子…」

女の子と聞いた途端、後ずさりするクリス。
姿を見えないのでさっきの勢いだったが女性と聞くだけで想像してしまうクリス君。

「…………………うん………………わかったいいよ」

あっさり承諾。本当に女の子に弱い。

「ちょっと待ちな…俺たちを選んだって事は…俺が橋から落ちるようにしたのはお前か?」

           え…はい。そうですが?

ケミナスの問いかけに答えるリクレール。

「木で潰されるようにしたのも?」

           はい。

「…バナナで…滑って頭を打つようにしたのも…」

           はい。

「僕の……アレを木刀で潰すようにしたのも〜?」

           はい。

しばらく沈黙が続いた。

沈黙の次には―



「おるあああああああああ!貴様なにふざけた事言ってやがるんだー!
 ああ!?つーことはあのウォーキングを考えたのも貴様だなぁ!
 俺の『週間山原水鶏(ヤンバルクイナ)』を汚しやがってえええ!
 俺まだページ半分しか読んでないんだぞ!?俺の楽しみを返せー!」

「週末は山で鍛える予定だったんだぞ!?てんめぇ俺の週末返せやこらぁぁぁ!
 筋肉って言うのはなぁ!日々の鍛錬が必要なんだよ!それを一日でも断ってみろ!
 どんどん衰えるぞ!プロテイン飲んでもどんどん衰えるぞ!それなのに貴様はぁ…!
 俺の筋肉を返せえええええええい!」

「バナナは………あんまりですよ………」

「いやいや僕なんて潰されたんだよ?大事なところ潰されたんだよ?
 クチャだよ?クチャー。でも大丈夫だけどね〜」

「こんな事した奴のお願いなんて聞けるかってんだよぉ!
 俺はやらねーぞー、ぜってーやんねーぞー!俺は怒ってるんやぞー!」

キレまくるケミナス。


           貴様ぁ…調子に乗りやがって…!
        今貴様の生死は私の手にかかってるんだぞ!?
        それ以上言ってみろ!貴様ここから消えるぞ!?


「はぁ!?何が『生死はわたしのてにかかってるー』だ!お前頭おかしいんじゃねーか!?
 貴様のような変人サイコ野郎がほざくな!本とか漫画の見すぎだっつーの!
 なんならやってみるか?ほれ、消してみろ!俺をこの世から消してみろ!
 さぁ、こいよ!来てみろ!来てみろよ!こいやこいやこいやこいやこいやああああ!」

挑発しまくるウィンスター。



ジュッ



水が音を立てて蒸発するような効果音。

それと同時にケミナスとウィンスターが消えた。

「うわ〜、すご〜い」

陽気に拍手するシェミル。
友達二人が目の前から消えたのにまったく驚かない。結構ひどい人なんです。

「な…ちょっと……………消えましたね…凄いですね…」

驚くが今の女性がいるという状況を重視しているクリス。
友達二人よりこの女性がいる空間からどう脱出するかを考えている。
こいつも結構ひどい奴なんです。


ポンッ


ワインのコルク栓が抜けたときのような音が響くと同時に、
ケミナスとウィンスターがまた現れた。

ケミナスは青白い顔をして体育座りしている。
オプションで口から煙のようなものが出てきており、

「…地獄見ちゃった」

と口走っている。
地獄で何があったんだ。

ウィンスターは土下座のポーズで、

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごぬんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

謝罪の言葉を連呼している。
お前も地獄で何を見たんだ。


          これでわかったでしょう?
          私に逆らうとどうなるか…          


「ええ、ごもっともです、僕らが悪かったのです、だから許してください」

「世界を救います、災いを止めます。わたくしの筋肉に誓って宣言します」


            最初からそう言っておけばいいのだよ。

             あ…えっと、二人は大丈夫ですか?


急におとなしい声で聞くリクレール。
やっぱりサイコさんなのである。

「……大丈夫………です」

「いいよ〜」

二人の承諾で世界を救う旅決定。


            そうですか、ありがとうございます。
           では、あなた達の名前を教えてください。


「ケ…ケ…ぼへぇ〜…」

「ウィ…ウィ……イ…イ…………」

地獄のショックが大きかったのか、ケミナスとウィンスターは答えようとするが声が出ない。

「…どうするシェミル。二人が廃人になりそうだ」

「そんな時は魔法の呪文〜☆」

「………?」

シェミルが二人の耳元に近づき、ある『呪文』を唱えた。

「マリアちゃんマリアちゃんマリアちゃんマリアちゃん僕らのアイドルマリアちゃんキュートなマリアちゃんセクシーマリアさんマリアちゃんマリアちゃんマリアちゃんマリアちゃんア○ネス・チャンと思わせてマリアちゃん…」

そう唱えると二人の顔の生気が段々良くなり…


「よっしゃあああああああああ!マリアちゃんの力で元気百倍だあああああああああ!」

「俺はこんなところで死なない死ねない死ぬ訳なあああ!
 クリスとマリアさんを見届けるためにいいいいいいいいい!」

急に立ち上がりハイテンションになる元廃人なりかけ二人組み。

「ほらね、これで元通り〜」

マリアの名前の力って凄いね。

「…だから俺は関係ない」

最後の最後にツッコミを入れるクリス。


           え〜…では改めて名前のほうを…


「男ケミナス十六歳!彼女募集中ううううううううう!」

フラダンス顔負けの素早さで腰を左右に振るケミナス。



ジュッ



ゴー・トゥ・ヘール。


「ウィンスター!趣味は筋トレでええええええええす!
 特にラジオ体操が大好きだぜうひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

そう言いながら走り回ったり辺り構わず跳び蹴りを連発するウィンスター。



ジュッ



地獄巡りツアー参加者一人追加。



ポンッ



「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」」

今度は二人とも土下座して謝罪連呼。


「クリス……………です」

「シェミルです〜」


          ケミナスさん、ウィンスターさん、クリスさん、シェミルさんですね?
                  では次に、これから始まる旅では、
                多くの戦いを切り抜けなければなりません。

                そこで、これからの旅を乗り切るために、
                あなた達を導く神獣『トーテム』の力を
                   一人一つ授けましょう……


リクレールがそういうとケミナス達の目の前に三体の獣が現れた。

クロウ、フェザー、スケイル…
どれも淡い光に包まれており、ただの獣ではないのがよくわかる。

「…三体しか……………いないんですけど」


            あ………ミスった。


「何を言うクリス!リクレール様は旅は厳しいぞという事を教えるために
 我々愚民の中から一人だけ宿命を与えると考えているのだよ!
 決して人数を間違えるほどド低脳だとか、神獣三匹しかいないの知っておいて
 『めんどくせーからこのまんまでいいべー、かったるいわハゲー』とか、
 そういうんじゃないんだぞ!そうですよねリクレール様!」



ジュッ


ポンッ


「なんでえええぇぇぇぇぇぇ…」

体育座りでメソメソ泣くケミナス。


          え〜っと、とりあえず選んでください。


選択を促すリクレール。
三体しかいないという問題を解決してないぞ。

「う〜む…」

ウィンスターが腕を組んで考えた。

(とりあえず鳥はダメだ、弱そうだし…
 あの竜みたいなの…ん〜、微妙だな。強そうだけどな…
 やっぱあの犬だな!犬に決定!)

ウィンスター、クロウを心に留める。
実はウィンスターは犬が好きなのである。

「俺はあの犬―」
「この犬はおれが貰ったあああああ!」

ウィンスターより速くケミナスはクロウの元に飛び、抱きついた。

「ぬお!?」

急な行動に驚くクロウ。

「てんめぇケミナス!その犬は俺が選ぼうとしたんだぞー!」

「うるせぇ!俺はこの犬だ!俺は犬が大好きなんだぜー!」

そういいながら抱きついているクロウを左右に揺らすケミナス。
ケミナスも犬好きなのである。

というよりお前ら、クロウは犬ではなく狼だぞ。

「俺も犬好きなんだよ!渡せ!その犬っ子を渡しやがれえー!」

「ぜってー渡さねぇぜ!こんな白い犬なんて見たときないからな!
 この白い毛、大型、顔に胸がキュンなんだぜ!
 貴様はそこの鳥にでもしておけ!」

「やだ!あんな弱そうな鳥なんてやだ!
 俺は鶏肉は好きだがあんな華奢な奴見ると首を絞めて焼き鳥にしちまうぜ!
 お前があの鳥にしやがれ!」

「俺もあんな鳥なんてぜってーやだ!
 俺も肉は好きだが鳥という生き物が嫌いだ!
 あの羽が剥げた時の皮がもうキモイキモイ!
 クリス!お前が―」

「やだ、鶏肉好きだけど鳥の目がいやだ。
 あの何考えてるのわからない目とか、やたらギョロッとしてて怖い。
 シェミル、お前は?」

「ん〜、ごめん無理。僕もお肉は好きだけど本で
 カラスが目を嘴でえぐるところ見たからもう怖くていやだな〜」

「えー!?」

思わず叫ぶフェザー。
そりゃあ四人に

「さっさとその犬を、よ〜こ〜し〜やがれえええぇぇぇぇ!」

「グフォア!」

ケミナスを掴んでぶん投げるウィンスター。

「やんのかてめぇこらあああああ!」

「上等だぁ!勝負でこのワンコの所有権を決めようじゃねぇかあああ!」

またもや大乱闘である。
ウィンスター、犬の愛を込めた拳で殴りかかるがケミナスはそれを避け、
反撃に出るケミナスの攻撃を防ぐウィンスター。


          え〜っと…とりあえず、クリスさんとシェミルさんは
             スケイルかフェザーに決めてください。

「シェミル、選んでいいぞ」

「いいの?じゃあこの竜にしよ〜」

「スケイルです。よろしくお願いします、シェミル様」

シェミル、スケイルに決定。

「よろしくね〜、スケイルさん」

手を差し出すとその手に器用に巻きつくスケイル。
スケイルはシェミルを気に入っているようだ。

「えへへへへ〜」

シェミルもスケイルを気に入ったようだ。


           では、クリスさんはフェザーを…


「それなんですが…俺は……いりません…どうせ一人余るのですから…
 というより……そんな鳥がつくよりは…何もついてないほうがマシです」

フェザー、本当に全面否定されている。

おっとフェザー遠くで背を向けて沈んでいるぞ。


                  仕方ありませんね…
         それでは、即席で作った私の力をあなたに授けます。


そういうとクリスの周りに光が集い始めた。
そしてそのままクリスの体に溶け込むように入っていく。

「ぁ……どうも…」

とりあえず礼を言うクリス。

実はリクレール、クリスだからこそ力を与えたのであった。
もしケミナスとウィンスターだったらそのまま放置するはずだった…


「うおりゃあああああ!犬は渡さんぞー!」

「元々俺のものだー!」

ドカバキと未だに乱闘中のケミナスとウィンスター。
その近くでおろおろとしてるクロウ。

「ね〜ね〜、ワンちゃん」

シェミルがクロウに声をかけた。

「…クロウだ、言っておくが我は犬ではない」

「じゃあ、クロちゃん」

「なんかスキンヘッドの声が高い奴みたいで嫌だなそれは…」

「クロちゃんあの二人のトーテムになったら?」

「…そんなことできるのか?」

クロウ、リクレールに問いかける。



          ………………………………………………………できます。



「なんだその長い間は!?」

「じゃ、けって〜い」

うれしそうにはしゃぐシェミル。


           では…ケミナスさんとウィンスターさん。


「せいやあああああああ!」

「チェストオオオオオオオオオオ!」


           …ケミナスさんとウィンスターさ―


「おうりゃああああああああああああ!」

「でりゃああああああああああああああああ!」








ジュッ



ポンッ


「「なんの御用でしょうかリクレール様」」

二人とも執事のようにお辞儀をして再登場。
地獄の力ってステキ。


            クロウはお二人のトーテムになります。
           だからそれ以上私に面倒かけるんじゃねぇぞ、
             今度やったら一生地獄に閉じ込める。


「「かしこまりましたリクレール様」」

二人同時に深々とお辞儀。
その内心は例えると全世界の言葉を使いそうなほどの恐怖と憎悪に溢れているぞ。


            それではこれで質問はすべて終わりです。
       残りの説明は、あなた達が世界に降りてからにいたしましょう。

             さぁ、世界へ降り立つときが着ました…



それと同時に、ケミナスたちは光に包まれ、
目の前が真っ白に広がった。


そして光が徐々に消えていき、一つの森の中へ―。


その森は彼らの旅路の出発点である…


〜第二章〜


静寂に包まれた世界。
辺りは薄暗く、しばらくすれば太陽が昇りだす頃、
光の柱が輝いた。

その光は小さな森へと、天空から発射されているように見えた。

光の柱は徐々に細くなり、やがて消えた。

夜は、また静寂に包まれた。

そして、その光があった小さな森の中に四人の男がいた。

「…ここは…どこだ?」

その中の黒髪の男、ケミナスは開口一番そういった。

「意識の海とか言うところではないようだな…」

その隣にいたもう一人の男、ウィンスターはそれに答えた。

「ん〜、マイナスイオンの匂いがする〜」

その近くにいたもう一人の男、シェミルは両腕を横に広げ、深呼吸をする。

「…マイナスイオンに匂いってあるのか?」

更にその横にいる男、クリスが突っ込む。


「うおおおおおおお!あの地獄から逃げ出せたのか〜!やった、やったぞ〜!」

「神様は俺たちを見捨ててなかったんだー!
 神様、救ってくれてありがとおおおおおー!」

ケミナスとウィンスターは両腕を上げて喜びに涙を流しながら叫んだ。

その喜びを浸っている途中、突如四人の男の後に光が生じた。

その光は辺りを飲み込み、真っ白な世界へと変えた。

四人は後ろを一斉に振り向く。

後ろには獣の耳、額に角を生やした女性がいた。


「ケミナスさん、ウェインスターさん、クリスさん、シェミルさん聞こえますか?私がリクレールです」


その発言が、ケミナスとウィンスターの喜びオーラが音を立てて蒸発したような気がした。




         女神に選ばれし、彼らの旅路

                    第二章



「まず最初に、シルフェイドの世界へようこそ…ここは私の作った名もなき天空大陸…
 人々が平和に暮らせる世界…のはずでした」

「何を言うのですか、とても素晴らしい世界です、自然に溢れた素晴らしい大陸ですね」

「マイナスイオンが多量に出てて体によい大陸です。流石リクレール様」

リクレールの説明に土下座しながら賛美していくケミナスとウィンスター。

ちなみにクリスはリクレールを見た瞬間、物凄い速さでバックステップをし、
離れた所で言葉に意識を集中させている。

「ですが間もなく、この島に悪いことが…。
 この島のすべての人に関わる、とても大きな『災い』が起きようとしているのです」

「平和ボケして生きていくなんて怠けていると判断していたのですね」

「流石リクレール様、愛のムチというものですか」

「…災いの正体はわかりません。ただ、15日後にそれが起こる、
 ということだけが私にはわかるのです。」

「なるほど、世界をシャキッとさせようと思って災いを作ったけど
『は〜、めんどくさいわ〜、こんなのちょちょいのちょいや〜』と
 自分でもよくわからない災いを作ってしまったのですね」

「流石、外道非道邪道腹黒絶対服従ドSの堕落女神リクレール様、
 超絶アバウトですな」


ジュッ







しばらくお待ちください…












ポンッ



「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」」

またもや謝罪の言葉を連呼するケミナスとウィンスター。
学習能力が全くない二人である。

「…そこであなた達にお願いがあります」

「どうぞどうぞ」

「なんなりと仰せください」

「あなた達は、これからどんな災いが起ころうとしているのかを、
 どうか見つけ出してほしいのです。そして出来ることならその災いが起こる前に
 何とか阻止していただきたいと思っています」

「やはりそうでしたか、お任せください」

「私たちはあなた様の捨て駒、あなた様の命令は何でも受けます」

「そのためにあなた達に三つの力を授けます。
 一つはトーテムの力…二つ目は15個の命、あなた達が戦いで命を落としても
 15回まで生き返ることが出来ます」

「わ〜お、一日一回死ねるのですね」

「流石リクレール様、命なんて何ぼのもんじゃいですね」

命を粗末にしてはいけません。
たとえ一日に一回死ねようと決してこのような考えをしてはいけません。

「三つ目はこの世界の人々と話をするための言葉…この島の人々の文字や言葉は
 あなたが認識できるようになるはずです」

「英語が出来ない私達にとってありがたい力です」

「これでエブリデーもエブリモーニングもエブリナイトもレッツシンギングイングリッシュですね。
 素晴らしいですねリクレール様」

英語じゃないけどね。

「これらの力を使い、どうか世界に起こる災いを見つけ、防いでください」

「お任せください、私の心に誓って」

「私は筋肉に誓って」

「僕もがんばるよ〜」

その後ろで答えるシェミル。
言葉に力がない、大丈夫かこいつは。

「………………ガンバリマス」

遠くでクリスも小さな声で答える。
お前も大丈夫か。

「…ありがとうございます。意識の海にあなた達を『送り込んで』本当によかった…
 私は、あなた達の旅の無事を祈っています。
 これから15日間…どうかあなた達にトーテムの加護がありますように…」

そういうとリクレールは姿を消した。

そして真っ白な世界は消えていき、再び元の森へと戻った。







「ふざけんじゃねぇあのクソアマがぁぁぁぁ!てめえが創ったんなら自分で何とかしろや!
 シット!ビッチ!ビッチビッチビッチビッチビッチ!」

「暴君リクレールはんた〜い!バーカ!死ね!つーか消えろ!水分みたいに蒸発して消えろ!
 俺は女には優しいがアレは女じゃねぇからぜってー無理だな!化け物だ化け物!
 あんなのが女神なら俺は絶対仏教に走るぜファッキン!」

リクレールが消えた後、森の中を突き進みながら罵声を言いまくるケミナスとウィンスター。
上司がその場にいないと文句を垂れ流す社会人みたいである。

『ぼやくな、受けたからにはちゃんと最後までやり通すぞ』

その二人の側を歩くトーテム、クロウが言った。

「犬っ子!あんな女神についているお前はツライと思った時はないのか!?」

ケミナスは横にいるクロウに話しかける。

『いや…ツライと思うときがあるが…リクレールが我を作ったから従う仕方ないのである』

「何!?『クロ坊』、まさかお前あの野郎に命令に背かないように強引に調教されたのか!?」

『何でそうなるんだ!?違うぞ!我は作られたときから―』

クロウが説明をするが二人の頭にはクロウがロシア人顔負けの拷問のような
調教をされている所をハイスピードで妄想するのであった。

ケミナスの妄想

殴られ、蹴られ、歯を抜かれ、爪を剥がされ、電流を流され、火で炙られ、
毛を抜かれ、耳を削ぎ落とされて、鼻を削ぎ落とし、眼球に熱した鉄の棒を突き刺さられ…



それじゃあここにいるクロウは何故無傷なんだ?




ウィンスターの妄想

縛られ、ムチで叩かれ、蝋燭をのロウを体にかけられ、唾をかけられ、
ハイヒールを舐めさせられ、ハイヒールで踏みつけられ…




なぜそっちの方に考える。


「うおおおおおお!…『クロ吉』…可愛そうに可愛そうに…辛かっただろう、苦しかっただろう!
 お前の今までの記録は忘れろ、そして俺たちと一緒に楽しい思い出を作ろう!」

『ちょっと待て、いきなり何を―うぉ!?』

言いかけたクロウに抱きつくウィンスター。

「可愛そうにな〜…お前ノーマルなのになぁ…その穢れた愛を忘れて俺の胸で泣け!」

『こいつらいったい何なんだああああ!?』

絶叫するクロウ。

ちなみに『クロ坊』や『クロ吉』は勝手に付けたクロウのあだ名であり、
しかもそのあだ名も正確に決まってないので様々な名前で呼ばれるのである。

「いや〜、仲良くなったみたいだね〜」

「…あれは仲がいいの内に入るのか?」

その近くでシェミルとクリスが歩いていた。

『そういえば…皆様の荷物にリクレール様が作った旅の手引きの書が入っているので
 一応見ておいたほうがいいですよ』

その横でふわふわと浮いているトーテム、スケイルが喋った。

「ほう…アレが書いた物か…どれ」

スケイルの発言にみんな一斉に荷物の中から旅の手引書を取り出し、読み出した。




数秒後…



「ヘイ、誰かシザーズプリーズ」

ケミナスが手引書を持ちながら言った。

読んでない、というより読めないのである。

字が滅茶苦茶であり、どこかの国にこの字を書き込むと
「最古文明の文字か!?」と、世界中の考古学者が動き出す程であった。

「俺人間だからこんな字読めない読まない認めない〜」

ウィンスターは歌うように言いながら手引書を引き裂いていった。

「…これは達筆と言うやつなのか?」

クリスは手引書に目を通しながら言った。

「シンナー吸ってる人の字みたいだね〜…」

「………なぜ俺を見る」

その横でシェミルは手引書を手に持ち、
視線だけクリスの横に向けている。

「まぁ、なんだ。15日以内に災いとめりゃあいいんだろ?楽勝じゃねーか」

ケミナスは後ろに手引書を放り投げながら言った。

15日間か…結構長いな。でも学院とか休めるからいいんじゃね?
ということは約二週間休みか…へへへ、一足早いロングバケーションと言うことで。

…ん?ちょいと待ちな。…………………!!






「オーゥマァイゴオオオオオオオットゥ!」







いきなり両手で頭を抱えて両膝を地面に付けるケミナス。
その叫び声はアメリカ人顔負けの発音力である。

「15日間って『週間山原水鶏(ヤンバルクイナ)』の更新日過ぎてるじゃねぇかあああああ!」

この前買ったのがギリギリの週刊誌。今の時間帯からしてもう一日経っている。
つまり、今日が更新日である。

なので、今週号を買うには今日をあわせて7日間である。
更に下手をすれば二週間分買えなくなってしまう。

「そんなもん一週間分ぐらい、別にいいじゃねーか」

その後ろで呆れながら言うウィンスター。

「俺はあれを一日も欠かすことなく読んできたんだ!
『戦慄!血だるまジョニーのラスベガス』を一話でも欠かせてみろ!
 俺はもう死ぬね!絶対死ぬぜ!」

「じゃあ単行本買えよ!」

「やだね!週刊誌だからこその特別企画や情報が満載なんだ!
 単行本何て買ってられるかってんだ!」

「じゃあもう死ねよ!」

ウィンスターもうやけくそだ。

「とにかく!こんな旅さっさと終わらせるぞ!」

うおー。と気合とやる気を出すケミナス。
果たして今週号に間に合うのか。




『ところで皆、戦闘はわかるか?』

もう少しで森から出る、と言うときにクロウが言い出した。

「戦闘?なんだ、戦うのか?」

ウィンスターが楽しそうに聞いた。
こいつは好戦的であり、学園で絡まれたりするとすぐにその場でボッコボコにする奴である。

『うむ、この旅では戦いが付き物になるだろう…ん?』

「…どうした?」

クロウがその場で立ち止まったので、クリスがクロウに問いかける。

『敵だ!敵が近づいてくるぞ!』

クロウの緊迫した声に四人は即座に身構えた。

ケミナスとウィンスター。
クリスとシェミルという風に二人で固まる陣形をとる。

そして、森の中からこちらに向かってくる獣。

その目は血走り、口からは涎がダラダラと垂れ流している。

「…野犬か」

クリスはその生物の名称を言う。
野犬を睨む目が Cool.

ある程度野犬が近づいてきたとき、野犬は地を蹴り、駆け出した。

向かう先はケミナスとウィンスターの組であった。


(…は!?しまった!こいつらは犬が大好きだったんだ…まずいぞ、
 もしかしたら抵抗できないかもしれん!いや、むしろ犬に殺されるのを喜んで―)


クロウがそう考えたときだった。

地面を蹴り、まずはケミナスに襲いかかってきた。

だが、その野犬をケミナスは体を横に向けて避け、
通り過ぎようとする野犬の尻尾を握り、そのまま真横にフルスイング。

野犬は近くにあった木に直撃し、ボキッという骨が折れる音が響いた。

その木にぶつかってる状態の野犬の頭にウィンスターが蹴りをかます。
これはミシッという頭蓋骨に日々が入る音が響いた。
ナイスコンビネーション。

そのまま地面に落ちた野犬に蹴りを連発するケミナスとウィンスター。
暴力団顔負けのリンチである。

「うおるぅああああああああ!このクソ犬がああああああ!
 てめぇみたいな汚ぇ可愛くもねぇ何の種類かわからねぇ犬が
 俺に近づくんじゃねぇ!俺に近づいて良いのは綺麗、カワイイ、純血、雑種でもカワイイ
 なんだぞ!てめぇはそれを知っていて近づいたか!死ね!死ね!死ねー!」

「貴様のような下等な犬が俺たちに近づくとは、いい度胸じゃねーか!あぁ!?
 その体で俺の体に触れてみろ!貴様はこの鍛え上げられた筋肉を
 汚す罪はどれだけ大きいか教えてやるぜ!つーか触れなくても教える!
 死ね!何回か死ね!あの世で二回ほど死ね!」

「俺たちに近づきたきゃいっぺん死んで違う犬になれ!飼い犬になれ!純血種になれ!!
 かわいい犬になりやがれええええええ!」

「俺はチワワがいいなぁ!」

「柴犬も捨てがたいぜぇ!」

「いやここはあえてのゴールデンレトリバーだ!」

そういいながらゲシゲシと野犬に蹴りを入れるケミナスとウィンスター。

野犬はすでに原型を留めてないグシャグシャのデロンデロンである。
下手をすればモザイクがかかるかもしれないほどにグロテスク。

(………野犬じゃなくてよかった)

その暴行を見てそう考えてしまうクロウであった。
つーかお前は狼だろ。

「…………恐ろしいなあの二人」

クリスはその暴行を見てのそう呟いた。

学院で『二人がいれば学院が襲われても大丈夫』という陰ながら囁かれているのを聞いたときはあるが、
子供の時から一緒にいたクリスはまだその理由がハッキリしていなかった。

今見るとそれを納得してしまう。

「『アヘン』、こっちにも野犬が来たよー」

「アヘンっていうな」

シェミルの呼びかけに振り向くクリスの視界には二匹の野犬が近づいてきた。

一体が駆け出し、クリスの方へと接近してくる。

(そんなに速くはないが、俺は戦いとか喧嘩はやったときがない、
 力では俺より野犬の方が上なはずだ。
 そういえば剣があったな…拳よりリーチが長くなる。
 これで野犬を避けた時に斬りつければ…)

クリス、状況を冷静に考え、腰についている剣の柄を握る。

流石イケメン、常に物事を考えるのは冷静沈着。

でも女の子の前では思考がオーバーヒート、
クリス曰く、
「女性特有のオーラが脳の思考回路を焼き消してその回路を通れない思考が溜まってボーン」
らしい。
「そういう風に考えるお前の脳みそはどうなってるんだ」
という三人のツッコミはお約束。

野犬がどんどん近づいてくる。

クリス、ここぞとばかり鞘から剣を引き抜く。

鞘から抵抗もなく抜ける刀身、
薄く、長く、力強く、持つ者が勇気を与えられるような不思議な力。
それを構える美青年、刀身で反射した光が彼の顔に当たる。
キャー、クリス君ステキ!





というほど現実は甘くなかった。

刀身を鞘から抜くときはジョリジョリという謎の音とスッと抜けない抵抗感。
鞘から出た刀身はサビでボロボロ、しかも途中で折れてやんの。

「なんじゃこりゃー!」

思わず叫んでしまうクリス。

おっとその隙に野犬が突進してくるぞ。

「うお!?」

咄嗟に後ろへバックステップで何とか避けるクリス。

止まろうとするが、勢いでなかなか止まらない野犬。

ズザザザザ、と足を地面に着け、勢いを抑えて止まろうとする野犬。

なんとか止まった。と思ったがその止まった時に、
僅かであるがウィンスターの足に体がちょっと触れていた。


「あ」
「あ」
「あ」
「あ」
『あ』
『あ』

思わずその場にいる四人とトーテム二体が声を上げた。










「キンニクバァスゥタアアアアアァァァァァァー!」

野犬を持ち上げそのまま地面に叩きつけるウィンスター。

もう野犬の頭と首からゴキゴキッという骨が折れる音が響いてるよ。

つーか触れたくないと言っておきながら積極的に触れてるぞウィンスター。

そのまま地面に叩きつけてケミナスと共にリンチ開始。

「チーワワァァァァァァ!」

「シーバイヌゥゥゥゥゥ!」

犬の名前を連呼しながら蹴りまくるケミナスとウィンスター。

「グォールデンレトリブアァァァァァァァ!」

「コーギイイイイ!」

「パトラーッシュ!!!!!」

それアニメの犬。

「ポメラニアーン!」

「ダックスフンドー!」

「アメリカンショートヘアー!」

それ猫。


「…野犬さん、避けてゴメン」

せめて俺が殺しておけば少しはマシだったろうに…
と、思わず考えてしまうクリス。

「じゃあ僕がこの野犬倒したほうがいいのかな?」

腰の剣を引き抜くシェミル。
ちなみにこの剣は縦に割れているのである。何があったんだ。

『シェミル様、ここでは一応、火炎フォースの練習をしましょう』

「フォース?いいよー」

フォースというのは何なのかも知らないのにあっさり承諾。

『まず、集中してください』

「集中〜」

えへへへ〜と笑いながら集中するシェミル。
お前絶対集中してないだろ。

『次に、手をかざし、火炎と唱えてください』

「かえ〜ん」

えへへ〜と笑いながら右手をかざして言うシェミル。

すると、右手から高熱の炎が吹き出た。

その炎は野犬の体を包み込み、野犬の体を焦がしていく。
野犬はキャンッという悲鳴をあげながら辺りを走り回り、やがて倒れこみ、絶命した。

「お〜」

思わず声を上げてしまうシェミル。

そして斜め上に手をかざし、火炎を放ってみる。

ボゥッと言う音と共にまた炎が出てきた。

「お〜」

「お〜」

近くにいたクリスも思わず声を上げた。

そして今度は近くにあった木に向かって火炎のフォース。

手から出た火炎は木を包み込み、燃え出した。

「「「「おお〜」」」」

パチパチとケミナスとウィンスター、そしてクリスが拍手をして声を上げた。

一方、燃え出した木はパチパチと音を立ててどんどん燃えてきた。

おっと、その木から隣の木へ火が移ってきたぞ。

そしてまたその木から木へ、その木から木へ、木から木へ、木から…


「…これって火事って言うんじゃないか?」

「「「あ」」」

クリスの発言に三人がハっとなった。
そうしてる間に木がどんどん燃えていくぞ。




「わああああああ!やべぇ!やべーぞー!」

「逃げろ!みんな逃げるんだー!」

「あ〜、みんな待って〜」

「おい!あっちに町がある!そこに逃げ込むぞ!」

「ダメだ!ここから出てくるところを見られると俺たちが犯人になるぞ!」

「うわ!やばいぞお前ら!町から人が出てきたー!」

「じゃ、逆方向に逃げよ〜」

「それだ!みんな反対方向に逃げろ!」

「うおおおおお!逃げろおおおおおおおおお!」

「ウィ メイ エスケープ!ハリーアーップ!」

わーわー言いながら四人は町の反対方向へと逃げ出した。



旅をして初っ端から火事を起こした四人。

はたしてこれから彼らの旅はどのようになるのだろうか…



〜第三章〜


近状報告。

今日の未明、サーショの近くの森で火災発生。

サーショの兵士が消火に当たり、鎮火。
火元、未だ見つからず。

ある者の証言では森に光が落ちたという情報があった。

それがどう関わっているのかは不明だが、
現在学者を集め、調査中である。



          女神に選ばれし、彼らの旅路

                      第三章




「…行ったか?」

「…行ったな、みんな帰っていくぜ」

囁き声が聞こえた。

時間帯は朝、太陽が昇り、徐々に明るくなってきた頃。

森よりも離れた北の方向、そこに焚き火があった。

その焚き火に五人の男がいた。

一人はこの焚き火を起こした旅人、アーサ。

そして、この世界に舞い降りた四人の男。
黒い髪のケミナス。赤髪の筋肉馬鹿ウィンスター。
灰色の髪のイケメン、クリス。茶髪の和み系シェミルであった。

五人は焚き火を囲んでいた。

さて、何故彼らがここにいるかと言うと、
森を燃やし、街と逆方向に逃げた結果、旅人アーサに出会い、




「ヘーイ!旅人さんご機嫌いかがー!俺たちはバリバリ元気さー!
 あれー?もしかして旅人さん一人かーい?さびしいねぇさびしいだろぉ?
 もしかしてプロポーズした女の子に断られて自殺場所を探す旅かい!?
 Oh Men!そんなことしちゃダメダメだぜアンチャン!そんなことしてなんになるってんだい?
 得も損もしない事なんてやっちゃいけないぜ!そうだろ?そうだろ?そうだろーよー!
 兄ちゃん顔イケてるぜぇ?女一人にくよくよするなって!
 この世界の半分は女だって聞いた時あるだろ?なんなら失恋の一つや二つ!
 どうって事ないし、いい経験じゃねーかー!女の子は外面派と内面派がいるの!
 その子が仮に内面派だとしても君のハートの大きさに気づいてないだけさぁ!
 いつかぴったりの女の子が見つかるって!でも振られたのは結構のダメージだったのかい?
 なら俺たちがその傷を癒してあげるって!ほら、来い!ドンと来い!!
 実は俺たちも寂しくてさー!寂しい仲間同士、一緒に話し合おうぜー!」



という有無を言わせないスナイパーライフルの弾丸の様な速さでケミナスは語り、
四人が勝手にこの焚き火に集まったわけである。

焚き火を囲んだ瞬間、四人は何も語らず、ただじっと燃えていく森を見ているだけだった。
さっきの語りは一体なんだったのだろうか。

ちなみにアーサは決して女の子に振られて自殺場所を探すのではなく、
世界一周の旅をしようとしているだけなのである。

旅の初っ端から奇妙な四人に会えてちょっとうれしいアーサであった。

さて、森のほうはどうなっているかと、

兵士団の見事なバケツリレーで無事に鎮火し、
兵士はしばらくウロウロしていたが、みんな町に帰って行ったようだ。

「びびった…旅の最初でピンチに陥るなんて…」

胡坐をかき、片手で額を押さえながらクリスは言った。
その仕草、とってもクール。

「…君達、どこから来たんだい?さっき森から出てきたような気がしたんだけど…
 まさか君達が森をグファ!」

やっと口を開いたアーサの言葉が途中で途切れた。
そしてアーサはうつぶせになって気を失っていた。

アーサの問いかけに危機を感じた四人。
ケミナスが鳩尾にボディーブローをしたのと、
ウィンスターが喉に指で突きをくらわせたのと、
クリスが首に手刀で当て身をやったのと、
シェミルが半壊した剣の柄で頭を殴ったのは、ほぼ同じタイミングだった。

『なにやってるんだー!』

その横にいたケミナスとウィンスターのトーテム、クロウが叫んだ。

「いや〜、危なかったね〜」

シェミルは笑いながら額の汗を拭くジェスチャーをした。

「このぐらいなら大丈夫だろ」

ケミナスはそういったが、アーサ白目だぞ。
ウィンスターとクリスはまだ良いと思うがシェミルが殴った頭から血が少し滲み出てるぞ。

「よし、そろそろ町街行こうぜ!森の近くに人いなくなったからもう大丈夫だろ」

立ち上がりながら言うウィンスター。

各々方立ち上がり、最初に行く事が出来なかった町へ向かった。




アーサがいた所から徒歩で約二十分、サーショの入り口へ着いた四人。

外壁に囲まれ、兵士の詰め所、鍛冶屋、雑貨屋、宿屋、
そして小規模であるが人が住んでいる住宅街があった。

兵士や住民が街中に居て、日常を謳歌している。
いたって普通の街である。

入り口から記念すべき街への第一歩を踏んだ瞬間。


「うおおおおおお!退いてくれー!」

後ろから男の声が聞こえてきた。

「うぉ!?」

「ん?」

「おっとっと」

ウィンスター、クリス、シェミルは背後から突進してくる男―右肩を前に突き出して走っているのがポイント―に気づき、
さっと横に跳んで回避した。

しかし―


「なんだグハァ!?」


一人反応が遅れたケミナスは避けることが出来ず、
高校ラグビー部顔負けのショルダータックルを直撃し、吹っ飛んだ。

ケミナスは地面を二転三転しながら吹っ飛ばされていく。
その距離、約20メートル。

一方、兵士はケミナスに直撃したのに全く気づかず、
そのまま左へ直角カーブ、兵士の詰め所へと入っていった。

「ケミナス大丈夫〜?」

倒れているケミナスの近くに歩いてくるシェミル。

「…もうやだ…災いとか地獄とか週刊誌買えないとか火事とか…
 最初の街でいきなりショルダータックルですよ、今年は俺の厄年なのかな〜」

グチグチ言いながら立ち上がるケミナス。
旅の一日目にしてやる気を失った様である。

「しょげるなケミナス!なんなら今からあの兵士を殴りにいこうぜ!」

爽やかに誘うウィンスター。
しょげてる相手に殴りに行こうと言う神経はどうだと思うんだが。

「マジで!?」

急に元気になるケミナス。
それで元気になるお前の神経もどうなってるんだ。

『ちょっと待てお前ら!イキナリこの街で問題起こすな!』

横に居るクロウが止めようとするが、
今のケミナスとウィンスターには全く届かない。

兵士詰め所に歩き出すケミナスとウィンスター。
二人の頭の中で響いているBGMはチャ○&○鳥の「YAH YAH YAH」である。



      今から一緒に これから一緒に 殴りに行こうか〜♪




「「YHA〜YAH YAH〜YAH〜YAH YAH YHA〜♪」」

肩を組んで歌いながら兵士の詰め所へ歩き出す二人。

『お前ら止めろ〜!』

二人を静止すべく追いかけるクロウ。

「…じゃ、俺たちはどうする?」

『二人を止めなくて良いんですか?』

シェミルの肩からひょっこりと顔を出すトーテムのスケイルがクリスに聞いた。

「ほとぼり冷めるまで放って置こうか〜」

「そうだな…二人で鍛えられた兵士の団体に挑んでも逆にボコボコにされるから
 あいつ等の頭を冷やすのにちょうど良いだろ」

アハハハと笑いながらいうシェミルと冷静に考えて言うクリス。


「「YAH〜YHA YAH〜YAH〜YHA YHA オラァァァァ!」」


歌の途中で気合の声と窓をブチ破る音が響いた。

「俺にタックルした奴はどこにいるー!」

「おお、ギャラリーが増えたぞ!よし、じゃあさっき城で聞いたことを―」

「無視か!?無視するつもりか!?
 さっさと名乗りでねーと俺とケミナスでここに居る兵士を全員叩きのめすぞコラァ!」

「君たちうるさいなー。人が話すんだから静かにしてくれ!」

「黙るのは貴様らだー!俺を散々こけにしやがって!俺たちの力見せてやるぜぇ!」

ドタバタと暴れる音。

「ちょっとなんなんだい!?いくら話す前だからってハイテンションにならないでくれよ!」

「俺たちは話に来たんじゃねー!殴りに来たんだー!俺の筋肉パワーを見せてやるぜー!]

「しょうがない…この二人を押さえ込んで黙らせるぞ!」

「わ!ちょっと待て!やめろ!やめろー!」

「誰かロープ持って来い!」

「な、ちょ、オイ!何するんだ!俺はそんな趣味じゃねえええええ!あ、あはーん!」




「…大丈夫…だよな」

『大丈夫……ですね』

「大丈夫だよ〜」

「それじゃ、俺たちはここら辺の人の話を聞こう。
 なにか情報を得られるかもしれない」

「いいよ〜」

ケミナスとウィンスターを放っておいて情報を集める二人であった。


シェミルは最初に、鍛冶屋の『ガラン堂』へ向かった。

なんでも、この鍛冶屋の初代ガランは伝説の剣『太陽の剣』を作ったらしい。
今では武器の販売や修理をしているらしい。

「じゃあこの武器直してくれる〜?」

シェミルは荷物から縦に真っ二つに割れた剣を取り出して言ってみた。


「無理」


即答だった。


次にシェミルは詰め所と宿屋の間の裏路地へ向かった。

するとその路地に兵士が仁王立ちしていた。

「おっと!ここを通りたかったら俺の問題に―」

「はいはい、ちょっとごめんね〜通してね〜。朝からこんな場所でお勤めご苦労様です〜
 世界は広いよね〜空は広いよね〜宇宙は広いよね〜
 でもなんで君はこんな狭い路地に居るのかな〜?もしかしてサボり〜?
 あ、そうか君、友達とかいないからこういうところで相手とコミュニケーションを取る作戦かい?
 そうだよね〜君パッと見てなんも特徴なさそうだし、弱そうだし、誰にも相手されないんだね〜
 それが影響でもしかして階級は一番下なのかな〜?
 でもね〜こんなところに居ても何にも変わらないの知らないのかな〜?
 そうか〜頭も悪いのか〜本当に…


              救われない人だね〜」


シェミルの毒舌発動。通せんぼ兵士、硬直。

言葉の弾丸で精神面が穴だらけになったらしい。

シェミルの毒舌は実は天然であり、わざとではないのである。
というより無気力な彼はそんなに悪気はないのである。

その横を兵士の肩を手でポンポンと叩きながら通り過ぎるシェミル。

通路の奥には一人の老婆がいた。

目の前に赤い水晶玉が置いてあった。
どうやら占い師らしい。

「あんたすごいねぇ」

老婆の最初の言葉がこれである。

「えへへへ〜、そうでもないよ〜」

笑いながら答えるシェミル。

「もしかして占いとかやってるの〜?」

「そうだよ、あんた何をすれば良いのか迷っていないかい?」

「ん〜、そうだね〜。何すれば良いのかわからないね〜」

「じゃあ占ってやろうかい?お金は必要ないよ」

「あ、じゃあお願いします〜」

占いを始める老婆。
赤い水晶玉を両手で触れ、何かを念じている。

そして数秒後…

「…ほう、この街から北東の洞窟にあんたらの助けになる大きな力が見えるね」

「北東の洞窟だね、ありがとうございます〜」

ぺこりと頭を下げて路地から出て行くシェミル。
通せんぼした兵士はもういない。

「ねぇ?」

「なんだい?」

急に振り返って聞くシェミル。

「なんで僕が一人じゃないってわかったの?」

占いの結果、街の北東の洞窟に『あんたら』の助けになる…と言っていた。
初めて会うし、ケミナス達と一緒に居たところを見られた気はしない。
入り口に四人で居たが、この裏路地の角度からでは見えないはずである。

「そりゃあ、あたしは占い師だからね、なんだってわかるよ」

ヒッヒッヒ、という笑い声を上げながら老婆は答えた。

「ふ〜ん…」

シェミルはその答えを聞くと、
さっさとその裏路地から出て行った。






一方、クリスは一番右上の小さな家に向かっていた。

一般人でも何かと情報があるのかもしれないと踏んだクリス、
家の扉の前に立ち、取っ手に手をかけようとしたその時。


ガチャリ


取っ手に手を触れていないのに扉が開いた。

そしてその扉の前には一人の女性が―

「あっ………」


ズザザザザザザザザザザザ!


流石、女の子に弱いイケメンクリス君。
女性が何かを言いかけたときにはクリスは物凄い速さの後ろ走りで逃げていた

後ろに家がある。そこに逃げ込もうと思ったが、扉はその家の向かい側である。
もしそこに逃げたら即座に追ってきて家の中に入るかもしれない。

そう脳内で即座に考えたクリスは左側へ九十度カーブ。
そしてその近くにあった家の中へ入る。

家の中に入ったクリスは扉を少し開け、外の様子を確認。

すると女性が辺りをキョロキョロしながら外へ出て行くのが見えた。

ホッとしたクリス。扉に背中を預けてズルズルと滑りながら座る、

「あの〜…」

「………ん?」

声が聞こえたので顔を上げるクリス。

目の前にはローブを着た女性。

「!!」

かなりびっくりするクリス君。

「フォースをお求めですか?まだ未熟な者ですが、簡単なフォースぐらいは教えられますよ?」

「ふぉ、フォース?」

クリス、わずかに声が裏返っているぞ。
体中冷や汗でびしょびしょだ。

な、なななななななななんでここに女性が居るんだぁ!?
オウ、シット!ガッテム!目の前の危険物質に注意しすぎてこの建物の中に居るのに気づかなかった!
俺としたことが…不覚!一生の不覚!
それにしても、フォースを教える…………?
ああ、クリスが使ったやつか。アイツにここの事教えておこう。
ってのんきに考えてる場合じゃない!今すぐここから出ないと俺多分死ぬ!


クリスの暴走思考発動。


「いえいえいえいえいえいえ、お金持ってませんので!
 覚えても私には扱えるかどうかわかりませんので結構です!ではこれで―」

扉から出ようとするクリス。
しかし、女性は物凄い速さで扉の前に回りこみ、鍵をかけた!

「え、な、なななんでししししししょうかっかかかぁ?」

クリス、挙動不審である。

「あの…お金はいりませんので…どうかもうしばらく…」

クリス、その一言と顔を見てわかった。

女性の目が輝いている。そして顔はすこし赤くなって、息遣いも少し荒い。
そして「しばらく」は永遠を意味しているのがわかった。

やばい、この人俺に惚れている。
だって今にも俺に襲い掛かりそうだもん!目がすっげー輝いてるもん!
つーか初めて会った人で一目惚れしたからってほぼ監禁状態にするのってどうよ!?
なんだ!?この世界って好きな相手を見つけたらどんな事してでも自分のものにするのか!?
やばい、やばいぞ!本当にやばいぞ!今にも襲い掛かりそうだよ彼女!
行動からして彼女はフォースを教えるより俺を押し倒すことしか考えてない!
俺はフォースを教えさせられるより、女の体を教えさせられてしまうのか!?
うん、我ながら上手いことを考えるってこんなこと考えてる時間はないんだっつーの!
出口!出口は!?他の出口はないのかあああああああ!?

クリスの脳内で悲鳴が木霊している。

おっと、女性は少しずつ近づいてきてるぞ。

他の人にとって魅力的だがクリスにとってその行動は
テレビ画面から白いワンピースで髪の長い人が
出てきて地面を這いながら近づいてくるのと同じである。

うわー来たー!女と言う正体不明の同類の生物が俺に近づいてきてるよー!
やばい!やばいって!本当にやばいって!
本当に誰か助けて!マジで!助けたらなんかするから!
畜生!なにか他に案はないのかー!

辺りを見回すクリス。
そしてついにあるものを発見。

あれは…窓だ!窓発見!考えるより即行動、脱出開始!

クリス、手を顔の前でクロスさせ、窓に向かって飛び込んだ。
女の前だったら手段を選ばない。それがクリス君。

ガシャーン!というガラスが割れる音が響いた。
窓のガラスが砕け散り、そのガラスの破片と共に出てくるイケメン。
その姿、スタントマンの様であった。

地面に前転しながら着地。

「はぁ…はぁ…はははは!やった!やったぞー!」

両腕を上げながら叫ぶクリス。
というより経験したことのない窓脱出、ガラスの破片が額に数枚刺さってるぞ。

「クリス〜どうしたの〜?」

『どうしたんですか?』

そのクリスに近づいてくる無気力人間、シェミルとトーテムのスケイル。

「シェミルゥゥゥゥゥ!怖かった!怖かったよー!」

うえ〜んと泣きながらシェミルに飛びつくクリス。

「はいはい、何があったかわからないけどよくがんばったね〜」

ポンポンと肩を叩くシェミル。


「待ってー!私の運命の人ー!」


バーンッとドアが思い切り開く音と共にフォース売りの女性が出てきた。

そして目標を確認すると猛ダッシュで近づいてくる。
恋になると女って怖いね。

「やばい!シェミル助けてくれ!」

クリス、逃げながらシェミルに言う。

「ああ、そういうことか〜。任せて〜」

えへへへと笑いながら言うシェミル。
クリスの行動と女の子で全て悟ったらしい。

『どうするんですか?』

「大丈夫、心配ないよ〜」

スケイルの心配そうな声に陽気に答えるシェミル。

女性がシェミルに近づいてきたとき、
さっとシェミルはサイドステップ。
女性が通り過ぎるのと同時に―


ゴスッ


という鈍い音が響き、女性が倒れた。

シェミルの手には剣が握られていた。
どうやらアーサにやったのと同じように女性の後頭部を剣の柄で殴りつけたのであった。

「ほら、これで大丈夫」

シェミル、流石にそれはやりすぎだ。

「どうしたんだ!?」

『あ、兵士さんが…』

シェミルが女性を殴るところを見て兵士が駆けつけてきた。

「兵士さ〜ん、この人僕の友達に襲い掛かろうとしたので殴って止めました〜。
 僕は友達のためにやっただけなのでこれって正当防衛ですよね〜」

「何?そうか、ならばこれは正当防衛だな。
 友達に怪我は?」

「あ〜…大丈夫でしたよ〜、ちょっと怪我をしましたが大した事ないそうです」

クリスの額に刺さったガラスを想像しながらシェミルは言った。

「うむ、ならば良い。何かあったら我々に言うように」

「ありがとうございます〜、お勤めご苦労様です〜」

「うむ、では失礼」

兵士が女性を背負って兵士詰め所へ運んでいった。

「もう大丈夫だよクリス」

そういうと後ろから歩いてくるクリス。

「すまん、助かった」

そういうクリスの額にはまだガラスの破片が刺さっており、
血がダラダラと出ている。

そのガラス片を手で引っこ抜くクリス。
荒いぞ治療法。しかも抜いたところから血がどんどん出てくるぞ。

しかしそこはイケメンクリス。血も滴るいい男と言うことで。

「モテモテだと大変だね〜」

「お前もモテモテだろ!?俺の気持ちわかるだろ!?」

「僕は女の子に慣れてるからわからな〜い」

「…誰か俺の悩みを共有できる人はいないのか」

肩を落とし嘆くクリス。

「まあまあ、それよりみんな宿屋で待ってるから早く行こ〜」

「ああ…わかった」

クリスはシェミルに先導されながら宿屋へと向かった。



サーショの宿屋『旅人の巣』

宿泊部屋は全部で四部屋。

店に入るとバーのようなカウンターがあり、
そこは受け付けと簡単な料理が注文できるところでもある。

そして、その左端にケミナスとウィンスターが座っていた。

「おまたせ〜」

ウィンスターの右に座るシェミル。クリスもシェミルの隣に座った。

「………おお、来たか」

「んじゃ………情報交換しようか………」

二人とも元気がない。

顔がゲッソリしていて、ちょっと老けたように見える。

「…二人ともどうしたんだ?」

「もうやだ…詰め所でロープに縛られて魔王倒すとかエージス隊長とか
 トカゲ兵だとかパンチで倒したとか…そんな話をずっと繰り返して…」

「俺なんかロープ縛られてるとき筋肉パワーで引き千切ったんだけど、
 今度は鎖で縛られて…なんか色々な者に目覚めてしまうかと思ったんだぞ…」

「まぁ…でも収穫はあったな」

「ああ、そうだな」

そういうと二人は間を空けて、


「「メアリーって子はかわいいらしい」」


本当に女好きな二人であった。

「んで、お前らのほうは?」

「え〜っとね〜」

シェミルは北東の洞窟のことを話した。

「力…ねぇ、どんなものなのかねぇ…」

ケミナスは興味なさそうに言った。
もうこいつはなんの興味も示していないようだ。

「行けばわかるだろ。で、クリスは?」

ウィンスターはクリスに振った。

クリスはこれまで起きたことを言った。

民家に入ろうと思ったら女の子が出てきて他の家に逃げ込んだら
また女の子で今度はその女の子に襲われそうになって…

「お前なんで逃げるんだよ!」

いきなりクリスに食って掛かるケミナス。
女の子の話になると元気になるんです、ケミナスって。

「貴様ぁ!マリアさんという人がいながらー!」

ウィンスターも食って掛かった。
こいつは選ばれた人としか付き合ってはいけないという謎の概念がある。

「お前らにはわかるないだろ!女の子が怖い俺にとってあれは地獄だったんだぞ!」

言い返すクリス。
思い出したのか、その目にはちょっと涙が浮かんでいるぞ。

「はいはい、人を挟んで喧嘩しないー」

その間に居るシェミルが牽制する。

「はぁ………んで、最初に会った女の子はどこに行ったんだ?」

ケミナス、今度は最初に会った女の子の話を蒸し返す。
話題に女がないとやる気が出ないらしい。

「そういえば…武器も持たずに外に行っていたよな…」

「武器を持たずに?武器を使わなくても滅茶苦茶強いとか?」

「いや…そうでもなかったな…遠くで見ていたけど、そんなに強そうではなかったな…」

「ふ〜ん…?」

ケミナスとウィンスターは腕を組んで考える。
女の事になると真剣な二人。

「よし、じゃあ俺はその女の子を捜しに行くぜ!」

「俺も行くぜ!クリスとシェミルは洞窟に行ってくれ」

ケミナスとウィンスターはイスから立ち上がり、宿屋から出て行った。

「二人なら大丈夫でしょ」

「…どうだろうな」

クリスは首をかしげながら行った。

「あら、ここにいた二人は?」

カウンターの向かい側から女性の声が聞こえた。

シェミルとクリスは声のしたほうを見たが、
クリスは即座に顔を下に向けた。

年は二十代後半ぐらい。
この宿屋の店員であろうか、女性は両手に料理と飲み物の乗ったお盆を持っていた。

身長は女性にしては高め。
大人の雰囲気で、「お姉さん」という呼び方が合っている。
スタイル抜群、いわゆるボン、キュッ、ボーンである。

「出かけちゃったんですよ〜」

愛想良くいうシェミル。
シェミルみたいな性格は最初に会った人でも良い第一印象を与える。

「困ったわね…料理注文してたのに…」

ため息をつくビューティーウーマン。
その仕草、とってもセクシー。

「じゃあ僕達が食べるからいいよ〜」

「本当に?じゃあお願いね。御代は貰ってあるからいいよ」

「やったー、タダ飯だよタダ飯〜、良かったねクリスー」

シェミルはうれしそうにクリスに言った。
タダ飯という表現はどうだと思うのだが。

「……………………うん………………」

クリス、うつむきながら小さな声で言った。

その様子を見た店員はクスクス笑っている。

「あなた達ってかわいいね」

「そうかな〜えへへへ」

シェミル、頭をかきながら言う。
クリスは顔を真っ赤にしながら右斜め下を見る。

「私、ラケシアっていうの。あなた達は?」

「シェミルだよ〜。で、こっちはクリス」

「……………どうも」

「よろしくね」

ニッコリと笑いかけるラケシア、とっても魅力的。

「ねぇねぇ、ここから北東にある洞窟って何かあるの?」

シェミルはお盆の上に載ってある料理に手をつけた。
サンドイッチの様であった。
中にはスライスした野菜やハムなどが挟んでいた。

「洞窟?…さぁ、行った時ないし、情報もないからよくわからないわ、
 ごめんね、力になれなくて」

「大丈夫だよ〜、これから自分達で行ってみるから〜ねー、クリスー」

「……あぁ……………うん」

クリス、めっちゃ反応が薄い。
もう彼の頭は早くここから出たいという考えしかなかった。

「あら?食べないの?」

クリスが料理に手をつけてないのを見て言うラケシア。

クリス、ビクリと体を震わせ、

「え…うぁ…………ちょっと食欲が………」

クリスその場しのぎの嘘。

「無理しなくていいよ、テイクアウトしていいからね」

「あ……………ごめんなさい」

謝るクリスを見てラケシアはまたクスクス笑い、そっとクリスの手とシェミルの手を触れる。

「本当にかわいい…」

そう言いながら二人の顔を見つめるのであった。

シェミルはえへへへ〜と笑いながら顔を少し赤くしている。

クリスはうつむいている。顔は真っ赤であった。












「………なぁ」

「あん?」

「本当にここにいるのかぁ?」

「…………違うかも」

一方、こちらはケミナスとウィンスター。

街から出て行った女性を探すために街から北西の森を探していた。

しかし、いくら探しても会うのは野犬野犬野犬野犬………

彼らの周りには野犬の死骸がゴロゴロと転がっていた。

「しかし、なんなんだこの剣は!ボロボロじゃねーか!」

ケミナスは剣を鞘から出してみた。

その剣は、刃こぼれが酷く、鞘の二回りも小さく、
試しに木に斬りつけたが切り傷を全く付けず、頑丈なだけの剣である。
もはや刃物ではなく鈍器である。
結局、今まで野犬を素手で殴り殺してきたのである。

『リクレールのサボリが見えるな…』

クロウがその剣を見ながら言った。

「俺はそれを有効に利用してるんだけどな」

一方、ウィンスターは鞘から剣を引いたが、
刃が全くないのである。よって柄しか抜けないのである。

そして、剣の鞘をひっくり返すと剣先がポロッと落ちてきたので、
それを長めの木の棒の先端にくっつけ、反対側に紐をつけ、
ヤリ投げのようにして野犬を突き刺していた。

「もうしばらく探していなかったらさっさと帰るか…」

「そうだな…………ん!?」

ウィンスター、森の中に動く気配を察知。

「…誰か居るぞ!」

ケミナスに小さく声で知らせる。

ケミナスとウィンスターは身構え、恐る恐る気配があった場所に近づく。

するとそこには、一人の女性と―

鎧を着込んだ謎の生き物。体は鱗に覆われ、尻尾が生えており、二本足で歩いている。

『トカゲ兵だ!』

クロウがその生物の名称を叫んだ。




「すまんな、ここで会ったからには死んでもらう…!」

トカゲ兵そう言いながら剣を振り上げている。

女性は足を斬られたのか、うまく逃げられない。

トカゲ兵は今にも女性に剣を振り下ろそうとしたその時―




「ウオリャアアアアアアアアアアアアア!」

男の声が聞こえた。

「な―グハァ!」

トカゲ兵はその声をしたほうを振り返ったときには、ウィンスターの足が目の前にあった。
その足の衝撃で吹っ飛ぶトカゲ兵。

ウィンスター、怒りのとび蹴りである。

「ケミナアアアアアアス!カモオオオオオオオオン!」

ウィンスターはその場に立ち止まり、両手を組んで前に突き出し、少し下に構えた。

「おっしゃああああああああ!」

ケミナス、ダッシュでウィンスターまで助走をつけ、
ウィンスターの腕に左足をかけた瞬間。

「オラァ!」

ウィンスター、気合の声と共に腕を上に振り上げた。

ケミナスは助走の勢いと振り上げられた力で空中に跳び、
トカゲ兵に上空から近づく。

そして、あと少しでトカゲ兵に落下。と言うところで肘を突き出し、
トカゲ兵の胴体に直撃。

ケミナスとウィンスターのコンビネーション技。ダイビングエルボーアタック。


ボキゴキグギッ!


普通にやっても痛い技なのに上空から勢いを付けたエルボー。
直撃したトカゲ兵の胴体から複数の骨が折れる音が響いた。

そしてケミナスはそのまま立ち上がり…


「なにしとるんじゃこの爬虫類もどきがあああああああああ!
 俺の女に手を出すとはいい度胸じゃねーか!あぁ、コラァ!
 爬虫類は黙って木の下の日陰でじっとしてやがれ!このゴミがあああああ!」

トカゲ兵の体を蹴ったり踏んだりのリンチ開始。
そこに走って近づいてきたウィンスターは…

「貴様はしてはいけないことをした!女性に手を上げた!
 お前はこの世で一番手を上げてはいけない生物に手を上げたあああああ!
 しかも剣で足を斬り付けやがって!傷が残ったらどうするつもりだあああ!
 この罪、貴様の満身創痍で償わせてやるぜえええええええええ!
 つーか死ね!貴様のような地球外生物みたいな奴がこの人間が居る世界にいること自体が罪だ!
 死ね!死ね!死ねえええええ!10回ぐらい死んであの世で二十回ぐらい死に腐れやがれええええ!」

リンチに加勢するのであった。

「あの〜…」

女性の声が聞こえた。

二人ともハッとなって女性のほうに振り返った。

女性は少しおどおどしながらこっちを見ていた。

ケミナス、すぐさま女性に近づく。

「大丈夫か!怪我は!?足に切り傷があるじゃないか!どうしたんだ!?」

「あの…トカゲ兵に…」

「そりゃあいけない!アイツの剣に毒が塗ってあったら大変じゃないか!
 今すぐ俺が毒を吸い取ってブハァ!」

ケミナスが言いかけたとき、横に吹っ飛んだ。

ウィンスターはケミナスに体当たりし、ケミナスと入れ替わりでその場に居た。

ウィンスター、女性の手を取り、紳士的に振舞う。

「大丈夫ですかお嬢さん。お怪我はございませんか?
 おや、足に切り傷が…かわいそうに、傷が残ったら大変だ。
 さ、早く街に帰って治療を。私が運んであげまグフォア!」

今度はウィンスターが吹っ飛んだ。
ケミナスがウィンスターをぶん殴ったのである。

「テンメーこの野郎がー!いいところで邪魔しやがって!」

「貴様にはこの高貴な方に触れる資格などなーい!」

「じゃあお前も触れる資格はなーい!」

「うるせえええええ!やんのかこらー!」

「上等じゃボゲエエエェェェェェェェ!」

「あの〜…」

女性の声にまたもやハッとなる二人。

「私、一人で帰れますので大丈夫です…本当にありがとうございました」

ペコリと頭を下げて去っていく女性。

女性が街へ戻るべく後ろに振り返った時、髪がさらさらと揺れた。

そして風に乗って女性のいい香りが二人の鼻腔をくすぐった。

女性が去っていくのを見えなくなるまでじっと見つめながら二人は…


「「美しい…………」」


同時に同じことを言った。

そして二人で顔を会わせ、


「…うへ、うへへへへへへへ…………」

「うへへへへへ、へへへへへへへへ………」

うへへへへへへ…うえっへっへっへっへっへっへっへっへ………


森の中に二人の笑い声が響いていた。

二人は笑いながら街に向かって行ったのであった。

その二人を、クロウは心配そうに見つめていたのであった………


〜第四章〜




       女神に選ばれし、彼らの旅路

                    第四章







草原の上を二人の男が歩いていた。

一人は茶髪で見る限り気力を感じない男、シェミル。
もう一人は灰色の髪のイケメン野郎、クリス。

二人は老婆の占いを頼りに北東の洞窟へと向かっていた。

「いや〜、ラケシアさん美人だったね〜」

「………そう………だな」

宿屋に居た店員のラキシアを思い出すシェミル。
クリスは思い浮かべるだけで顔が赤くなってしまう。

そんなクリスは宿屋でテイクアウトしたサンドイッチをもそもそと食べている。

「ところでクリス〜、その腰に下げてる剣は何かな〜?」

「う………ラケシアさんから貰ったものだ…」

クリスの腰には前の錆びて半分の剣とは違い、立派な剣が下げられていた。

「気に入られてるね〜ヒューヒュー」

「お前こそその剣は何だ!?」

「えへへへ〜、宿屋の外で掃除してる女の子から貰った〜」

そんなシェミルの腰にも新品の剣が下げられていた。

「お前は良いよなぁ、女の子に慣れてるだろう?気軽に声掛けれるだろう?
 俺には到底出来ないよ。俺、ラケシアさんにこの剣貰ったとき言葉でなくてさー、
 そんな俺見てラケシアさんクスクス笑ってさー、あの時どう反応すればいいんだよ!?
 なんだ、俺の不器用さに笑っていたのか?もう嫌だよ〜」

「多分クリスの反応はそれでいいと思うよ〜、その顔真っ赤でイケメンなところが
 女性の萌え心をくすぐってるんだよ〜」

「萌え心って何だ!?」

そこでこのままでは変な方向に話が行ってしまうので
突如話題を変えるクリス。

「そういえばリクレールの手引書に書いてたんだが…
 俺の力は特殊な力らしい」

「特殊な力〜?」

「どの能力も平等に分けられているんだが…」

「アベレージなんだね〜」

「なんかまだ解明されてないらしい、即興で作ったから」

「へ〜…もしかしてクスリを吸わなくても
 クスリのことを考えるだけでハイになるんじゃないの〜?」

「そんな能力じゃねーよ!?」

「そうか〜、四六時中クスリの事考えてるから
 もうとっくにハイになってるね〜」

「だからクスリやってないって!」

そんな会話をしながら洞窟にたどり着いた二人、早速中へ。

洞窟の中は薄暗く、時々コウモリが襲い掛かってきたが
クリスは剣でコウモリを切り裂き、
シェミルは…

「そ〜れ」

襲って来たコウモリを両手で叩き潰していた。
蚊じゃねーんだよ、つーか剣使えよ。

そんなこんなで何とか洞窟の奥にたどり着いた二人。

奥は何かの目的で作られたかのように整った形をした部屋だった。
そしてその部屋だけ薄暗い洞窟と違い、明るかった。

そしてその中央には光の球体が浮かんでいた。

「なんだこれ…?」

その球体に真っ先に触れたクリス。

次の瞬間。辺りが真っ白な光に覆われた。

「何……?」

「ん〜、どこかで見たときある光景」

そして光の球体があったところに、一人の女性が現れた。

獣の耳、額に角、そして白いワンピース。

「あれ〜、リクレールさん?」

あの時、放火した森の中で一度だけであった女神、リクレールが現れた。
しかも、ちょうどクリスの目の前。

クリス、光の様な速さでシェミルの後ろへ隠れる。


「私はリクレール…トーテムに呼び覚まされし、
 全ての生命を導くものです…
 トーテムの力を持つものよ、よくぞここまでたどり着けましたね…
 あなたが何者かは存じませんが、きっと、勇気ある方なのでしょう」

『あれ?私たちの事を覚えていないようですね…』

シェミルのトーテム、スケイルが言った。

「私には、今この世界にどんな魔物や脅威があるか、
 知ることが出来ません。ですが、あなた方のように
 トーテムの力を得たのならば、それに立ち向かえるはずです」

「リクちゃーん、いえ〜い」

一方的に話すリクレールに目の前で手を振ってみるシェミル。


「この闇を超えてきたあなたに、ささやかながら力を授けましょう…」


反応なし。


「あれー、おかしいなー。クリス、ちょっとリクちゃんのおっぱい揉んで来てよ〜」

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!」

クリス、全身全霊をこめて拒否。

「さぁ、目を閉じて、目を開けた時、あなたは以前より力少しだけ強くなっているはずです」

「目を開けた瞬間、ブチューかもよ?クリスに」

「俺は閉じないぞ!絶対閉じないぞ!」

「冗談だよ〜」

「その力が、力無き人々を守るために使われることを、私は祈ってます…
 そしてまた、どうかあなたにトーテムの加護があらんことを…」

そう言うと、リクレールの姿は消え、元の洞窟へと戻った。

『どうやらあのリクレール様は虚像みたいですね』

「ん〜、虚像ね〜」

「力が湧いてくる…」

スケイルとシェミルが話しているとき、クリスは下を向いてそうつぶやいた。

『この洞窟に置かれたのに、まだ誰も使ってなかったみたいですね』

「この場所を選ぶのが間違いだと思うんだけどね〜」

「力が湧いてくる…」

『そうですね〜…今度言っておきます』

「言っておいてね〜」


「力が湧いてくるぜえええええええええええええ!
 うひゃあ!うひゃひゃひゃ!うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃー!」


突然狂った様に笑い出すクリス。
これには流石にシェミルも驚いた。

今までクリスが笑うところをほとんど見たときがないシェミル。
そんなイケメンクリス君がこんなに笑うのは初めて見た。
笑った!クリスが笑った!という感動は全く無い。

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

クリスは笑いながら隣の洞窟の壁をおもむろに殴った。
なんと殴った壁にひびが入った。

そしてその壁に頭突きを連発しまくるクリス。
頭突きをするたびに壁の破片がボロボロと落ちているぞ。

「クリスどうしたんだろ〜?クスリ効いてきたのかな〜?」

そんなクリスを心配して見るシェミル。
その割には止める気配は全く無いぞ。

『………私の推測ですが、多分リクレール様の即席の力と
 虚像の力が反発して暴走しているんだと思います』

「反発〜?」

『ええ、多分…』

リクレールの与えた力が虚像の力と中で反発しあい、
力が暴走してこのような精神的にも気分的にも
ハイテンションになってしまったらしい。

「でもどれも自分の力なのになんで暴走するのかな〜?」

『長く力を放置しすぎたせいで虚像の力がおかしくなったのかと思います』

「ああ〜、別物になって天ぷらとスイカの食べ合わせみたいに反発してるんだ〜」

『え?天ぷらとスイカって一緒に食べるとダメなんですか?』

「そうだよ〜。天ぷらの脂っこいものに
 おなかを冷やすスイカを食べると下痢になるんだって〜」

『そうなんですか…今度リクレール様に食べさせてみます』

「そうして〜」

シェミルとスケイルの呑気な会話をしている間に
クリスは顔全体で壁に激突している。
壁には穴がどんどん大きくなってきているぞ。


「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃー!ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」


壁を壊すのを止めて高らかに笑うクリス。
そしてそのままうつ伏せに倒れた。

「あ、止まった」

『どうやら治まったみたいですね』

「もし起きたときまた暴走したらどうしよ〜」

『多分、滅多に暴走はしないと思います。
 何かのきっかけで力が反発するかもしれませんが…』

「そうか〜、ならいいや〜」

シェミルはそう言いながら倒れて動かないクリスを背負って、
洞窟を出て、サーショの街へと向かった。





「んぉ………?」

クリスが朦朧とする意識で目を開けた。

目に入ったのは一度だけ見たときある宿屋。
そして自分が横になっているのに気づいた。

次に感じたのが頬に感じる暖かさと柔らかさ。
下に目を向けると誰かの太腿であるのを確認。

そして目線を上へ向ける。
柔らかくて大きい二つのセクシーな球体発見。
そしてクリスを覗き込む二十代後半の美しい顔。

「あ、起きた?」

この宿屋の店員ラケシア―


「!!!」


クリス、今の現状に驚いて体を起こす。


ぽにゅ


体を起こしたときにラケシアの胸に顔が当たる。
そこで一瞬固まる。

「あらあら」

クリスの行動に少し顔を赤くしながらクスクスと笑うラケシア。

とりあえず横に転がる様に逃げるクリス。落ちる。

どうやら宿屋のイスの上に無理矢理寝かされていたらしい。

「な、ななななななななななななーななーなななー!?」

クリス、何やってるんですかと言おうとしてるが言葉にならない。

「あ、クリス起きた〜。ラケシアさんありがと〜」

ラケシアの横に座っていたシェミルがこっちを見ていた。

「どういたしまして。じゃ、私は仕事に戻るから」

ラケシアはそう言いながらカウンターの後ろのほうへと姿を消した。

「えへへへへ〜、クリスあんな美人さんに膝枕なんて羨ましいなー」

「これはお前の仕業か!?お前の仕業なのかぁ!?」

「いやいや、イスは硬いだろうと思ってラケシアさんがしてくれたんだよ〜」

クリス、少しずつ落ち着いてイスに座りなおした。

「………なんか頭とか顔とか痛いんだが、俺洞窟でなんかやったのか?」

「クスリのやり過ぎで暴走したー」

「嘘つけ…ケミナスとウィンスターは?」

「あっちにいるよ〜」

シェミルが指をさした方に顔を向けるクリス。

そこにはうへへへと変な笑い声を上げながら妖しい笑みを浮かべている
ケミナスとウィンスターがいた。

「…あいつらどうしたんだ?」

「なんか森の中で美女に出会ったんだって〜。
 んでその美女さんがこの街に住んでるのを知って更にうへへなんだって〜」

「………そう」

頭の痛みと顔の痛みで更に異常に疲れを感じるクリスは反応が薄い。

「じゃ、クリスも回復したことだし、そろそろ先に進もうか〜」

「…俺まだ疲れてるんだが…まぁいいか。
 ケミナス、ウィンスター。そろそろ行くぞ」

「りょうか〜いうへへへへへへへへ」

「いえっさ〜『LSD』殿ぉ、うへへへへへへへへ」

「…この二人大丈夫か?」

「ん〜、大丈夫でしょ〜」



「行き先は?」

「リーリルって言うところだよ〜。
 なんかフォースとかがいっぱいあるんだって〜」

うへへ笑いの二人を連れてクリスとシェミルは
まだ行ったときのない街、リーリルへと向かった。

リーリルへの道中、ケミナスとウィンスターは
森の中であった女性の事ばかりを言っていた。

名前はシズナって言うんだってうふふふふ。
華奢な体、風で流れるサラサラな髪、どこか物悲しげな瞳。
あんな綺麗な人を見るのは初めてや〜!あっは〜ん!等。

二人とも興奮気味に喋っていた。

「そういえば、シズナさんの弟さんが病気で
 その病気を治す薬がこの街にあるらしいな」

ウィンスターがそう言った頃にはリーリルへと着いていた。



リーリルの街へ着いた四人。

着いた時刻は正午。

リーリルはサーショよりも広く、人口が多い。
そのため、やや活気が溢れているように見えた。

ケミナスたちが最初にやってきたのは『理力館』というフォースを覚える場所であった。

「フォースってシェミルが野犬に使ったやつだろ?」

『そうだ、だが我は接近戦に優れている。
 フォースは我らには向いていない』

ウィンスターの質問に答えるクロウ。

「じゃあ俺たちは行かなくていいだろ。この街を見てこようぜ」

ケミナスとウィンスターは街を散策することにした。

「クリスは一応覚えておいたほうが良いかもね〜」

「そうだな。俺も一応フォースを扱えるしな」

クリスとシェミルは理力館の中へ入った。


「いらっしゃいませ〜!」

中に入った時、店員の元気な声が聞こえた。
そしてクリスは固まった。

店員は女、女、女………女しかいないのである。

クリス、そのままUターンして店から出ようとしたが
その方をガッチリと掴むシェミルの手。

「ハイハイ、冷やかしはダメだよ〜」

そのまま中の方へずるずると引きづられていくクリス。


ここから彼の記憶は途切れていった…




「暇やな〜…」

「暇だな……」

一方こちらはケミナスとウィンスター。
街の散策をしていたが飽きてしまったらしい。

入り口で立ち話をしていた。

「しかしなんだあの薬は!高すぎるじゃねーか!」

「エルークス薬だろ?俺たちの世界にもあったけどあんなに高くはなかったよな…」

「え………あったっけ?」

「あっただろ…つーかお前、医学部のくせにエルークス薬もわからないのかよ!」

「俺に勉強しろと!?無理だね!
 あんな牢獄で脳みそに知識を刻み込む何て出来るわけねーだろ!」

「お待たせ〜」

そこにシェミルとクリスがやってきた。

「おお、来たか…ってなんかクリス変だぞ?」

「ん〜…ちょっとね〜」

クリス、うつろな表情で口が半開きである。
呼吸はしているがその呼吸音の中に小さく「……死ぬ………死ぬ」
と言っているのが聞こえるぞ。

「で?そっちはどうだった〜?」

「ああ…この街の近くに爬虫類人間どもの―」

『トカゲ兵だ』

ケミナスの例えにクロウが訂正した。

「そうそれ。そいつらの砦があるらしい」

「砦〜?」

「これは俺とケミナスの推測なんだが…
 災いはその砦の中にあるんじゃないか?」

「………なにか関係あるのか?」

少しずつ生き返ってきたクリスが聞いた。


「多分………15日後にその砦が爆発する」


ケミナス、かなり真剣な表情で自分の推測を話す。
本人はいたって真面目である。例えそれが馬鹿な考えでも。

「………そりゃねーだろ」

クリス、あっさりと拒否。

「ありえるだろ!?あの砦が爆発してこの大陸ごと吹っ飛んで人類滅亡!」

今度はウィンスターが熱く語る。
それでも馬鹿な考えは馬鹿な考えである。

「じゃあ、これからその砦に行ってみようか〜」

「よっしゃ!行こうぜ!みんなで世界を救おうぜぇ!」

「うおおおおおおおお!」

勝手に盛り上がる二人。

そんな二人を止める人間は誰もいない。
というより関わりたくないのであった。


四人は次の目的地、トカゲ兵の砦へと向かった。

果たして、そこに災いがあるのだろうか。
そして、爆発は止められるのであろうか………

〜第五章〜


木々が生い茂る森の中、四人の人間が走っていた。

「うおおおおおお!世界を救ってヤンバルクイナー!!」

一人目、やたら気合が入っている黒髪の短髪野郎のケミナスが叫びながら走っている。

「タイムリミットは残り約246時間!爆発を防げええええええ!」

二人目、タイムリミットだの爆発だのよくわからない事を叫びながら走る
赤髪筋肉マニアのウィンスター。

「お前ら落ち着けって!」

その後ろ、灰色長髪イケメン男、クリスが走りながら言った。
息を少し切らしながら走る姿はステキ。

「待って待って〜」

更に後ろ、茶髪長髪の無気力和み系BOYシェミルが他の三人より遅めに走っていた。

四人が森の中を突っ走っている光景、かなり奇妙である。



          女神に選ばれし、彼らの旅路

                      第五章



そして走り続けること数分。森の奥に石造りの砦を確認。

「目標ハッケエエエエエエエエン!」

「よっしゃああああああああああ!」

前方二人、入り口に突撃。


「うおりゃあああああ!」

「せいやああああああ!」


ケミナスとウィンスター。入り口に扉―がなかったのであるつもりで蹴りを入れながら砦にIN。

「どうもー!!」

「人間の味方でーす!うひゃひゃひゃひゃ!」

その場で数回クルクル回転しながら言う二人。お前ら異常だ。

「な…侵入者だと!?」

砦に入ってすぐの大広間にトカゲ兵が五人の内のリーダーっぽいトカゲ兵が叫んだ。
どうやら何かの集会をやっていたらしい。

「お前ら待て………ってもう砦に入ってる!?」

「おじゃましまーす」

更にクリス、シェミルが砦の中に入ってきた。

「増えた!?クソ、人間ごときに負ける訳が無い!かかれ!」

トカゲ兵のリーダーがその場に居た四体のトカゲ兵に命令した。

命令を受けたトカゲ兵はそれぞれ一対一になるようにケミナス達に襲い掛かった。


ケミナスに襲い掛かかるトカゲ兵、
剣を上段に構え、ケミナスに斬りかかろうと走りながら近づいてくる。

ケミナスまでの距離は僅か―

そこでケミナスが取った行動は、
なんと自分もトカゲ兵に向かって走り出したのである。

「なに!?」

トカゲ兵はその突発的な行動に驚く。
咄嗟に剣を振ったが、ケミナスはさっと横に避ける。

その状態からケミナスはトカゲ兵の腹に膝蹴りをくらわせる。

「うぐぅ…!」

呻きながら腹を押さえて前屈状態になるトカゲ兵。
ケミナス、更にそのトカゲ兵に強烈な回し蹴りを放った。

その蹴りを浴びたトカゲ兵は数メートル吹っ飛び、
後方にある壁に背中を打ちつけ、そのまま地面に倒れた。


「何!?人間にはあんな強い奴が―」

ウィンスターと戦おうとしたトカゲ兵が
ケミナスにより言いかけたが吹っ飛ばされたトカゲ兵を見ながら叫びかけた。

だがその叫びはウィンスターの攻撃により、二度と発せられることは無かった。

隙を見せたトカゲ兵に対し、
ウィンスターは自ら飛び上がる。トカゲ兵の頭を両足で挟み、
そのまま後方へと回転する。

空中で回転するトカゲ兵。
そのまま地面に頭を打ちつける。
フランケンシュタイナーである。

というよりフランケンシュタイナーは普通は走りながら使う技である。
ウィンスターみたいに立ち止まった状態からだとかなり無理があるので
友達に使うときは走りながらやろうね!

バキッとフランケンシュタイナーをくらったトカゲ兵の頭蓋骨が割れる音が響いた。
トカゲ兵はそのまま地面に倒れ、微動だにしなかった。

一方、そのすぐ横でクリスとトカゲ兵が戦っていた。

流石イケメンクリス、剣を構えるとそのカッコ良さが更に引き立っているぞ。

そのクリスはトカゲ兵が繰り出す剣を防ぎながら
反撃のチャンスを探っているのである。

そして、トカゲ兵の攻撃が以前より弱くなった時、
トカゲ兵の攻撃を大きく弾いた。

剣を弾かれたトカゲ兵は防御ができず、
その隙を突いてクリスはトカゲ兵の体を袈裟に切り裂いた。

トカゲ兵の肉体から血が吹き出した。
だが、命に関わるほどの傷ではなかった。
トカゲ兵は痛みで気絶したが、クリスは止めを刺そうとはしなかった。

クリス、人間のように話し、知識のあるトカゲ兵を
殺すというのに抵抗があったため、できれば殺したくなかったのである。


「ダイビングダブルニーアタアアァァァァァァックゥ!」

「まだまだいくぜぇ!追い込みのジャーマンスープレックスゥ!うひゃひゃひゃひゃひゃ!」


この残虐二人組みと違って。


さて、最後に残ってるシェミル。
フォースを使うシェミルはもちろんフォースで戦うのだが…

「波動〜」

シェミルの手から放たれたのはリーリルで売っていた強力なフォース、『波動』
波動を直撃したトカゲ兵はまるでワイヤーアクションの様に吹っ飛んだ。
そのトカゲ兵に更に波動を打ち込むシェミル。

「グハ!?ちょ、やめてくださ…ごめんなさゲフッ!ゴハァ!」

トカゲ兵の体がボロ雑巾のように浮いた。お前も残虐だ。


「に、人間ごときに…クソ!」

トカゲ兵の隊長はそう吐き捨てると、
さっと後ろへ振り向き、後ろの扉へと逃げ出した。

「あ、あの野郎!」

ケミナス、後を追うが隊長は扉の向こう側に逃げ込み、内側から鍵を掛けていた。

「うがああああ!畜生!ビッチ!早くここを開けろ!開けるんだあああああ!」

扉の取っ手をガチャガチャと動かしながら叫ぶケミナス。

「そんな事しても無駄だって…よし、
 俺とクリスが鍵開けに行くからお前とシェミルはここで待ってろ。いくぞクリス」

「ああ、わかった」

ウィンスターとクリスは鍵を開けるべく二階へと向かった。


砦の二階。

一階と二階を繋ぐ階段の近く廊下で二人のトカゲ兵がいた。
二人のトカゲ兵は廊下の両側で話をしている。

「でさ、森の警備のやつら、先週だけで二人死んだんだってよ…」

「本当か?最近の人間は結構攻めてくるんだな…」

「にしても、俺たちも最近剣とか鎧とか使ってるから人間と同じ条件のはずだよな?」


「ふん、爬虫類ごときに人間が負ける訳無いだろうが」


「まぁ、そうだと思うんだがな…………ん?」

突如違う声が耳に入り、声がしたほうを振り向くトカゲ兵。

そこには一人の人間、赤髪のウィンスターが…

「!!」

突如現れた人間に驚きつつ反射的に腰の剣に手を伸ばす。
だが―

「おるぁ!!」

その人間は両腕で二人のトカゲ兵をラリアット。

「アゥッ!?」
「グハァ!?」

更に腕を首に回し、片腕のヘッドロック。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「ギ、ギブ!ギブギブギブギ……ノオオオオオオオ!!」

片腕でもこの威力。二人の悲鳴が廊下に木霊した。

やがてウィンスターはトカゲ兵を両腕から開放した。
トカゲ兵は後ろへ倒れ、白目をむいて気絶していた。

「よし、来て良いぞクリス」

ウィンスターは階段に向かって声を掛けた。

すると階段からクリスが出てきた。
ウィンスターがトカゲ兵二人を仕留めるまでずっと階段に隠れていたのである。

「…やりすぎだ」

姿を見せて開口一番、階段越しに聞こえたトカゲ兵の悲鳴と
廊下に横たわるトカゲ兵の姿を見てウィンスターに言った。

「勝てばいいんだよ勝てば」

ウィンスター、無様な姿でも勝っちまえばこっちのもんだ宣言を言いながら先を進む。
ハァ…とクリスはため息をついてウィンスターの後を追った。

「おいクリス、あっちに下に行く階段がある。
 多分そこに内鍵掛けた所あるからお前は下に行って鍵を開けてくれ。
 俺はしばらく二階を探索してるぜ」

二人が進むと階段へと続く廊下を発見した。

「わかった…無茶するなよ」

クリスはそういい残すと階段へと歩いていった。

「まずはここからだな…」

ウィンスター、まずは二階でもっとも広いと思われる部屋へと入った。

そこは兵士の休憩所のようであった。
いくつものベットが均等に並べられていた。

「…ん?」

部屋の奥の方、一人のトカゲ兵が眠っていたがとりあえず無視をした。
奥の壁にひびが入っており、その僅かな隙間から隣の部屋の様子を伺えた。

そこには多くのトカゲ兵が集まっていた。
隙間が小さく、少ししか確認できないが、人数があるのは確かである。

更にその部屋で一人だけ見覚えのあるトカゲ兵を確認した。
あの時、トカゲ兵の砦に入って見た五人の内の逃した隊長であった。

「よいか!強力な侵入者に対抗するためこれから三列縦隊で―」

隊長が他のトカゲ兵たちに命令しているのが聞こえた。

(シィット!あの野郎、逃げたくせに偉さそうにしてやがるぜ!
 それにしても…隙間が小さくて見えねぇ…そうだ!)

ウィンスター、ある打開策を閃いた。

「せいやぁ!」

なんと、壁を殴ったのである。思いっきり。
ボゴッと音を立てて拳が壁に貫通し、
その拳並みの大きさの穴を両手で押し広げた。

ボロボロと石造りの壁が壊れていき、足元に壁の残骸が積もっていく。
そして、拳ほどの穴が一人の人間が通れるぐらいの穴へと変貌した。

ウィンスターの打開策、見えなかったら見えるように穴を開けよう、力尽くで作戦。

「おー、これで見えるぜ」

ウィンスター、穴からトカゲ兵の数を確認。

「いち、にい、さん、しー…十人か。う〜ん俺一人だと無理だけど
 他の三人と戦えばなんとかなるかな〜………ん?」

ウィンスター、言ってる途中で向こうの部屋のトカゲ兵が
こっちの方をジ〜っと見ているのに気づいた。

「あ…………やべ」

気づいたときには、もう遅かった。


「うおおおおおおおおおおお!人間がいたぞ!追え!追うんだあああああああ!」

「え、うわ、ちょっと待ってやべぇ!?マジでヤベぇって!!
 シャレになんねーってオイ!うわああああああああああああ!」


叫びながら部屋から逃げようとするウィンスター。

「待てええええええええ!」

トカゲ兵はウィンスターが作り出した穴から部屋を出て、
ウィンスターを追い始める。

「おいお前!寝てる場合じゃないぞ!起きろ、侵入者だ!」

「え?……何ィ!侵入者だと!?」

更に寝てる奴を起こして戦力を上げる。

ウィンスター、クリスが行った階段の場所へと向かおうとしたが、

「さっきから何の騒ぎだ!?」

「うお!?人間だ!人間がいるぞー!」

「捕まえろー!」

その廊下の近くの部屋から3人のトカゲ兵と武器を持たないトカゲが三人出てきて更に戦力上昇。

「しまったあああああああ!」

ウィンスター、たまらずUターンし、
二階へと上ってきた階段に向かった。

「なんだよ、せっかく寝ていたのに…って、人間だー!」

「なんだってー!?」

さらにさらに、居眠りしていたトカゲ兵士と
つまみ食いしていたのであろうか、顔に食べかすをつけたお茶目なトカゲ兵も戦力に加わった。

「ぬおおおおおおおおお!」

それでもウィンスターは一階へと逃げ込むのであった。



一方、クリスは内鍵へと続く階段を降りた。

そして廊下の中間の左側にある扉がやたらとガチャガチャなっているのに気づいた。

「あれか…」

クリス、扉へと向かって歩き出す。


「クソ!あいつら遅くないか!?」

扉をガチャガチャやりながらケミナスは言った。

「まぁまぁ、待とうよ。もうすぐ来るからさ〜」

隣でのんびりした口調で言うシェミル。

「俺ぁ待つのが嫌いなんだ!こうなったらぶち破るぜ!」

ケミナス、後ろに下がって準備開始。

「よし…いくぜ!おりゃあああああああ!」

ケミナスはダッシュで扉に近づきその勢いで扉に蹴りを―


ガチャッ

「開けたぞー……って」

ケミナスの蹴りは、クリスが扉を開けるのとほぼ同時。
蹴りは扉に当たらずクリスに―しかもちょっとミスをして
蹴りがやや下になってしまい、クリスの股間に―


カッキイイイィィィィィィィン!


熱血、汗と涙の逆転ホームランを狙って力を入れすぎてスウィングした蹴りが
狙うべき標的を思わぬ部外者が割り込んで違うボールにクリーンヒットしたの図。

「ウッ!」

「あ」
「あ」

ケミナスとシェミル、思わず声を上げてしまう。

しかし流石クリス、急所を蹴られたのにいつものイケメン顔で全く動じない!化け物か!

「お、おお〜」

「お〜」

パチパチとその勇姿に拍手を送る男二人。
アレを蹴られて痛がらない男は勇者だと思う。

「………………………」

だが、その顔色が徐々に青くなり、顔中に冷や汗が…


「いってえええええええええええええええ!!!」


クリス、ついに股間を押さえながら倒れこむ。
地面で体をじたばたと動かしながら絶叫している。

「ムスコがぁー!俺のムスコがあああああああ!
 んのおおおおおおおおおお!死ぬ死ぬ死ぬううううううう!」

「うるせーぞ『マジックマッシュルーム』!
 そんな大声出したら敵にばれるだろーが!」

ケミナスがクリスに指摘した。
つーかうるさくした原因はお前なんだけどね!


プチッ

クリスの頭の中で何かが切れる音がした。

「…俺に命令する前にまず謝る事が先だろうがあああああああ!」

クリス、怒りで痛みを忘れたのか。
立ち上がり剣を引き抜き、それをぶんぶん振り回して暴れだした。

「うわ!ちょっと待て!落ち着けおまえー!」

ケミナスは先ほどまで四人のトカゲ兵と戦っていたところに逃げる。
その後ろを剣を振り回しながら追いかけるクリス。

「貴様はこの痛みを知る前に俺が切り落としてやるぜえ!」

「シェミル!助けてシェミル君!今回はマジで助けてくれえええええ!」

逃げながら必死に助けを求めるケミナス。
それをずっと眺めていたシェミルは―

「ん〜、僕もその痛みわかるから助けてあげられな〜い」

アハハハ〜と笑いながらケミナスとクリスの追いかけっこを眺めるシェミル。

「ちっくしょおおおおお!友達を見捨てるのかぁ!?」

「ほら、クリスも僕の友達だからさ〜」

「なんだとおおお!?この偽善者!鬼!悪魔!無気力!バーカバーカ!」

ケミナス、シェミルを罵りながらクリスから逃げる。


「…なんだ?やけに騒がしいな」

ガチャリ、と唐突に廊下の扉が開いた。

そこから二人のトカゲ兵が出てきた。
二人とも他のトカゲ兵の鎧と違うものを着ていた。

その二人が見たものは、

「逃げんなクソ野郎がああああああ!切り落としてやるー!」

「マジでゴメン!本当にごめんなさいもうなんでもするから許してー!」

グルグルと追いかけっこをしている黒髪の人間とイケメンの人間。

「あらら、どうも〜」

このトカゲ兵の存在に気づいたのか、
こっちに向かって愛想笑いを浮かべる茶髪の無気力な人間。

「………に、人間!?」

「何故人間がここに居るんだぁ!?」

二人ともあまりの現場に叫んだ。

「何?人間だって!?」

隣の部屋から二人のトカゲ兵と非戦闘員のトカゲが出てきた。

「二人とも、やばいよ〜」

「あ!?」
「なんだ!?」

追いかけっこをしていたケミナスとクリスが二人同時にトカゲ兵のほうを見た。

「「って、うおおおおおおおおお!?」」

二人とも同じタイミングで叫んだ。

「なんの騒ぎだろう…うわ!?人間だ!!」

更に先ほどウィンスターとクリスが行った
二階へと続く階段がある廊下の部屋から一人の兵士になりたてであろう若いトカゲ兵と
その母親らしきトカゲ兵が出てきた。

「「増えたあああああああ!?」」

これまた二人とも息が合ったような叫び。

「畜生!見つかったじゃねーか!このヤク中がぁ!」

「うるせぇ!大体お前が俺のムスコを蹴らなければこんな事にはならなかったんだよぉ!!」

今度は止まり、追いかけっこの次は罵り合いである。

「はいはい二人とも、今はそんなことしてる場合じゃないよ〜」

シェミルが二人の間に入って止めた。

「そ、そうだったな…」

二人とも罵りあいを止め、最も考えなければいけない問題に目を向けた。

いつの間にか三人を囲むようにトカゲ兵が分散していた。

「こりゃあ…ピンチってやつだ…全部で七人。
 その内強そうな奴が二人…」

ケミナス、人数を数えて現状を分析する。

「やばいな…俺たち三人で何とかなるか…?」

先ほどまでブンブン振り回していた剣を構えなおすクリス。
額には冷や汗。内心かなり焦っている。

「大丈夫だよ〜。ほら、ウィンスターが来れば何とかなるよ」

そんなクリスと打って変わってまったく動揺していないシェミル君。
無気力パワー、恐るべし。

「あ…そうだ!ウィンスターだ!アイツが入れば何とかなるぞ!」

元気を取り戻したケミナス。
急にやる気が回復したようだ。


「みんなあああああああああああ!」


三人ともハッとなって声がしたほうを振り向いた、
声が聞こえてきたのは階段がある廊下の方である。

「噂をすればだな!ウィンスター早く来い!加勢してくれぇ!」

「うおおおおおおおおおおおお!」

廊下への回り角からその姿を現すウィンスター。

なんという神々しさ!今の彼はまさに軍神のように見えた。(三人にとって)
その救世主の登場に三人の生きる希望が湧いてくる。
そう、なんたって彼がいるとこのトカゲ兵三人分は勢力が―

「待てえええええええええええええ!」
「追え!追うんだああああああああ!」
「アイツをここから生きて出すなー!」

ズドドドドドドドドとそのウィンスターの何倍もの敵の勢力がついてきた。
その人数、非戦闘員も合わせて十九人。

「みんな無事だったか!?よっしゃ!みんなで力をあわせてこの爬虫類どもを叩きのめそうじゃないか!」

ケミナス達に合流したウィンスターはビシッ!っと戦う姿勢をとり誤魔化すウィンスター。




「「この疫病神がああああああああああああああああ!!」」




「ごめんなさあああああああああい!」



二人の罵声と一人の謝罪の言葉が砦に響いた…



〜第六章〜



       女神に選ばれし、彼らの旅路

                     第六章



森の中に一つの砦があった。
その砦にはトカゲ兵が住んでおり、人々は砦を恐れ、誰も近づかなかった。
そんな砦の中に四人の人間が居た。
その四人の周りには多分この砦に居た全員であろうトカゲ達に囲まれていた。

「こりゃあ…マジでピンチってやつだな…」

一人は黒色の髪、身長は中くらいの男―ケミナス。

「まったくだな、誰かさんが来なければこんな事にはならなかったのにな…」

もう一人は灰色の長めの髪、整った顔立ちと鋭い瞳を持つ、
いわゆるイケメンと呼ばれる存在、クリス。
剣を構え、周囲のトカゲ兵を警戒している。

「………ごめん」

謝ったのは赤い髪、四人の中で一番身長の高い筋肉野郎、ウィンスター。

「まぁまぁ、そんなに責めないで〜」

無気力な声を発したのは茶髪の見ただけで無気力だとわかる青年、シェミル。

「しかしこの状況…どうしたら良いのかね…?」

クリスが再び辺りを見回す。
四人を囲む大勢のトカゲ達が居る以前と変わらない状況。その数二十六人。
一般的な兵と非戦闘員、そして先ほど一階から逃げた隊長と、
それより更に強いであろうトカゲ兵二人、この二人が多分このトカゲ兵たちを牛耳っているのであろう。
トカゲ兵の軍団は四人を囲み、更にジリジリと四人に近づいてくる。

「まともに戦っても無理だなこりゃぁ…まずいな…」

ウィンスターはその情熱的な性格に似合わない弱音を吐いた。

「お前らしくないぜウィンスター、戦力で負けてるなら策で勝つんだよ!」

なにか作戦を考えたのか、ケミナスは力強い口調で言った。

「みんな、俺の指示に従え!たった今俺の素ン晴らしい脳みその思考回路が
 お前らのような哀れで救われない人間にクールでナイスな作戦を思いついたぜ!」

しかもノリノリである。

「まずウィンスター!お前は出口の方角の敵を倒して活路を開け!
 クリス!お前がさっきの街で覚えたフォースはなんだ!?」

「剛力、守護、治癒の三つだ」

剣を使うクリス、その力を引き出すため
補助系のフォースを覚えたほうが良いというシェミルの考えで覚えたものである。
というより彼は女まみれの理力館で意識が朦朧としていたので
シェミルに操られるように覚えたのである。

「よし!なんかよくわからんがとりあえず剛力使って突っ込め!」

「…作戦の割にはかなり適当だな」

「シェミル!お前は強力なフォースで辺りの敵を蹴散らせ!」

「りょうか〜い」

流石シェミル、適当すぎる作戦になにも言わずにあっさりと了承。
それ以前に大声で言うのは既に作戦じゃないと思うぞケミナス。

「よっしゃ!それで?お前はどうするんだ?」

先ほどの名誉挽回に燃えるウィンスター。
指をポキポキと鳴らしながらケミナスに聞いた。

「俺か?俺は………」

ケミナス、自分の作戦をその口から発しようとする。
その言葉を聞き漏らすまいと三人は耳を傾けた。

それは、実に短く、シンプルな答え。
その一言で全てを理解できる内容であった。








               「帰って寝るぜ!」










「ふっざけるんじゃねええええええぇぇぇぇぇぇ!このクソ野郎があああああああああ!」

ウィンスター、怒鳴りながらケミナスの体に蹴りを連発する。

「ウィンスター!頭だ!頭を蹴ろ!こいつのクールでナイスな作戦を思いつく
 脳みその思考回路をぶっ壊すぞ!」

「ゲフ!ご、ごめん!ごめんなさい冗談ですよマジでゴメン!
 ほ、本当にごめんなさ―ぎゃあああああああああああああ!」

断末魔の叫びをあげながら倒れるケミナスに
更にクリスが加わって二人で踏みつけリンチをされるケミナス。

しばらく踏み付けを謳歌していた二人はやがて止まった。
ケミナス、完全に気絶した。

「大事な戦力を無くしてしまった気がする〜」

「「………あ」」

シェミルの声に気づいた二人。
この状況、たった一人でも大事な戦力であるのにそれを失ったというのはかなりの痛手である。

「…どうする?」

クリス、改めて現状の打破を二人に呼びかけた。

「あ、いい事思いついたー。
 クリス、ウィンスター、ちょっといい?」

シェミルは手のひらをポンと叩き、二人に『いい事』を耳打ちした。

「………大丈夫なのかそれ?」

「利用できるものは利用した方が損はないでしょ〜」

「…そうだな」

シェミルの作戦を疑問に思ったクリスであったが、
追い詰められた今ではどんな作戦でも実行する価値がある。

「よし、それでいこうか!」

ウィンスターはクリスの作戦に何も疑問を持たず、
あっさりとクリスの作戦を承諾した。

その作戦は、とても単純な作戦だった。
『利用できるものは利用する』この戦いで今利用できるもの―

「いくぜ!」

ウィンスターは気合の声と共に地面に落ちている
黒髪の『利用できるもの』を持ち上げる。そして…

「うおりゃあ!」

トカゲ兵の群れに向かってぶん投げた。

「ぐはぁ!」
「うお!?」
「がはぁ!」

流石ウィンスター。彼の力で凶器と化した『利用できるもの』…ケミナスだけどね。
ケミナスの体は三体のトカゲ兵を巻き込んで、気絶させた。

「うお…ぉ………痛てぇ…ん?」

投げられたショックでケミナスは目を覚まし、上半身を辺りを見回した。
まず、自分の下敷きになってるトカゲ兵三人。
そして自分を見つめるトカゲ兵達。その数、周りのトカゲ兵の半分…


「人間が逃げだしたぞ!追ええええええええ!」

「え、な!?ちょ、ちょっと待てえええええええええ!」

シェミルが考えた作戦。
『とりあえず床に寝てるケミナス邪魔だから投げて敵の注意を引きつけよう作戦』

トカゲ兵の隊長を先導に半分以上のトカゲ兵がケミナスを追い始めた。
目覚めたばかりのケミナスは『逃げないと死ぬ』という、
動物のような勘で咄嗟に逃げ出した。
逃げる方向は二階へと続く階段。

「がんばれよー」

その背中に軽々しい応援を送るウィンスター。
外道。

「ウィンスタアアアアアア!いつかぶっ殺す!」

そんな言葉を吐き捨てながらケミナスは二階へと逃げるのであった。

「これでだいぶ減ったな…」

クリスは再び剣を構えながら言った。
一階に残っているトカゲの人数は十人に減った。

「仲間を犠牲にするとは…侮れんな。気をつけろセタ」

「大丈夫です父上、まだ我々の方が優勢です」

この砦の親玉っぽいトカゲ兵二人が話していた。
この二人は親子らしい。
子の名前はセタというらしい。

「…どうする?このまま戦うか?」

「いや待てクリス、俺も作戦を思いついた」

クリスを制しながらウィンスターは前に一歩進んだ。
その行動に周りのトカゲ兵は身を強張らせた。
前に出たウィンスターはしばらく動かなかった。

そしておもむろに両手を広げ、満面の笑みを浮かべた。

「………?」

トカゲ兵達はその行動にぽかんとした表情になった。

「諸君、武器を捨て話し合おうではないか!
 ほら、クリスとシェミル、お前らも武器を捨てろ」

ウィンスターの言葉に恐る恐る武器を捨てるクリスとあっさり武器を捨てるシェミル。

「俺たちはお前らを殺しに来たわけじゃないんだ!
 ただ道に迷っただけなんだ!それなのに何故戦う?何故争う!?
 何故俺たちはこう喧嘩しなければならない!
 爬虫類も人間も平等で自由じゃないか!ウィ ア フリーダアアアアアアム!」

片手を上げて叫ぶウィンスター。

ウィンスターの作戦。『説き伏せる』

ざわざわと周りのトカゲ兵たちが騒ぎ出した。
更にウィンスターは演説を続けた。

「そう、自由!例えお前らのような『キモい生き物』でも
 俺たちと同じ言葉も喋る!感情もある!そんな人間に近づこうという
『愚かで汚らわしい事を考える下等生物』でも俺たちと同じなんだ!『非常にむかつくがな!』
 お前らのような『鱗まみれで二本足で歩くUMA』は『木の陰でジメジメと醜く生きて』、
 俺たちは太陽の下で生きる!最高な自然の摂理じゃないかぁ!なぁ!な……ぁ…」

まずい、調子にのるとまずいぞウィンスター。
何気なく行ってる差別用語でトカゲ兵のみんなが
剣の柄を強く握る音や頭の中で何か切れるような音が響いてるぞ。

「え〜っと、そのなんだ、つまりあの〜…あれだあれ!」

ピンチなウィンスター、ウィンスターにジリジリとトカゲ兵が詰め寄ってくる。



「ええいもうめんどくせえ!お前ら滅びろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」





「ぶっ殺せえええええええええええええええええ!」

「ごめんなさあああああああああああああああい!」

セタ率いるトカゲ兵九人はウィンスターを追いかける。
ウィンスターはクリスが鍵を開けるために降りた階段を上り、
二回の方へと逃げる。

「お、おいセタ!」

父親の声はセタの耳に届かず、セタ達はウィンスターを追いかけ二階へと上がってしまった。
一階に残っているのトカゲ兵はこの親父さん一人

「これがウィンスターの作戦か〜」

だいぶ違うけどね。

「これで俺たちのほうが有利だ…」

地面に落ちている剣を拾い、構えるクリス。こいつなかなかの悪である。

「ぬぅ…!」

親父さん狼狽しながらも剣と盾を構え、戦闘態勢になった。
流石この砦の隊長、その構えからはなんともいえない覇気が溢れていた。

「この人結構強そうだね。気合入れていかないと負けちゃうかもよ〜」

「………お前に言われたくない」

気合とか言ってる割には無気力な声のシェミルにクリスは突っ込んだ。

クリスとシェミル、トカゲ兵隊長は互いに睨み合い、
生死を賭けた戦いが始まろうとしていた。

しかし、この戦いは四人の予想を超えた戦いになろうとは、
今の時点では誰も気づくものはいない…



〜第七章〜






「おらああああああああああああ!」
「待ちやがれえええええええええ!」

「うおおおおお!来るな!こっちに来るなああああああああああああ!」

トカゲ兵の砦の二階。その二階に一つの部屋があった。
その部屋は二階で最も広く、兵士の休憩所なのか、
ベットが均等に並べられていた。

その部屋で人間一人とトカゲ達十三人がそのベットを中心に、
子供の追いかけっこの様に周りをぐるぐると走り回っていた。

それにしてもこの追いかけっこ、捕まったらレッツ・死刑という
ハードな鬼ごっこである。



         女神に選ばれし、彼らの旅路


                     第七章



黒髪で身長が中くらいの人間―ケミナスは滅茶苦茶必死に逃げているのである。

(クソッ!このまま逃げてても埒があかねぇ!この部屋から出るぞ!)

ベットをグルグルと回っていたケミナスはコースを外れ、
部屋から出る扉へと走り出した。

「待てえええええええい!」
「逃げるぞ!追ええええ!」

扉に近づくケミナスを更にトカゲ兵が追いかける。

「ああ畜生!この二足歩行型キモ爬虫類があああああああ!」

ケミナス、近づくトカゲ達に対し、
近くにあったベットを持ち上げ、ぶん投げた。

「何ィ!?」

あまりの唐突な反撃に怯むトカゲ兵達。
ベットはギリギリで回避し、誰にも当たらなかったものの、隙が出来る。

ケミナスはその隙を利用し、扉を蹴り開け、
その部屋を脱出した。





「あああああやべぇ!やばいって!」

二階にもう一人の人間が居た。
赤髪で身長が高い男。ウィンスターである。

ウィンスターはトカゲ兵に追われていたが、
ムキムキとは思えないほどの速さでトカゲ兵と距離をとり、
階段を上り切った後だった。
トカゲ兵たちはまだ階段を昇っているらしい。
なんとかして足止めをしなければ…

「…そうだ!」

閃いたウィンスター、
彼の取った行動とは―

「ふん!」

近くにある壁に両手を突き刺した。
石造りの壁なのだが、ウィンスターのマッスルパワーには勝てなかったのか、
普通の人が紙に穴を開けるように手が貫通した。

そしてそれを強く握り、
自分のほうに引っ張った。

すると壁は木の板のように外れ、
綺麗な四角形の石の塊になった。

その石の塊を―

「待ちやがれえええええ!…………ん?」

威勢良く階段を上がってきたトカゲ兵。
しかし追いかけるはずの男を見たとき、
一瞬固まってしまった。

そりゃそうだ。
対象の男は近く壁をぶち抜き、
それをこっちに向かって…

「うおりゃああああああああ!」

ぶん投げた。

「た、退避!退避しろおおおおおおお!」

一人のトカゲ兵の叫び声と共に、
階段を昇りかけていたトカゲ兵たちも一斉に降り始めた。

飛んできた壁はちょうど階段を隠すように地面に落ちた。

「へ!ざまぁいいぜ!これで昇っては来れまい!」

ウィンスターは階段に向かって中指を立てて叫んだ。

「うおおおおおお!助けてくれええええええ!」

次の瞬間、後ろから聞いた時のある声が聞こえた。

ウィンスターが振り向いたとき、
こちら側に向かってくる黒髪男+トカゲ兵の大群。

一目で人間が追われていることがわかった。
しかもその人間は彼の知っている人間であり、
かなり必死に逃げている。

「ウィンスター!ヘルプ!ヘルプミー!」

「ケミナス!大丈夫か!?今助けてやるぞおおおおお!」

そう叫びながら、なんとウィンスター。
勇敢にもトカゲ兵たちの群れに走り出したのである。

なんという熱血な男!そしてなんと無謀な男であろう!
これが友情という物なのであろうか。
ウィンスターの額からは走るという行為と友を救うという思いで
汗が滲み出し、その汗は走る事により額から飛び散り、キラキラと輝いている!

そしてケミナスまであと少し―
ウィンスター、思わず右腕を伸ばし、ケミナスを助けようとする。
ケミナスもそれに答えるかのように右腕を伸ばす。
ケミナスとウィンスターの距離はあとわずか。
彼らは伸ばしている手と手を繋ぎ合わせる………!



………と思っていたがケミナスの右手はウィンスターの襟を掴み、

「………え?」

そして左腕はウィンスターの差し出した右腕の袖を握り締め、
後ろに体重をかけて倒れこむ。
その倒れる瞬間に右足をウィンスターの四肢の付け根に当て、
そのまま後ろにウィンスターを巴投げをした。

「なんでだあああああああああああああ!?」

ウィンスターは助走でつけた力とケミナスの倒れこむ力により、
物凄い速さで後ろに飛んでいく。

そして、後ろで追いかけてくるトカゲ兵達に―

「な、なんか飛んで来た―ごふぅ!」
「ぎゃああああああああ!」
「ぐふぉあ!」

見事にストライク。
追いかけていたトカゲ兵たちは弾ける様に吹っ飛び、気絶した。
ついでにウィンスターも。

「よっしゃああああああああ!」

追尾していたトカゲ兵達を全員倒したことがよほど嬉しかったのか、
ガッツポーズをして喜びまくるケミナス。
しかし―

「よし!階段を塞いでいたのを退かした!全員突撃ぃ!」

後ろのほうから声が聞こえたので振り返ってみる。
そこにはウィンスターが投げた壁を退かして階段からどんどん出てくる
トカゲ兵達であった。

「………ん?あれは最初に逃げた人間ではないか!追え!
 まずアイツを捕まえるんだ!」

先頭に立っていたトカゲ兵―セタは
ケミナスの姿を確認すると周りのトカゲ兵達を引き連れ
ケミナスに向かって走り出した。

「うわやべぇ!逃げるしかねぇだろ!」

ケミナス、そのまま逆方向にある階段に目指して走り出した時である。

「グハァ!」

急いでいるケミナスは何かを踏んだ。
それを確かめるべく一旦立ち止まるケミナス。

それは地面に倒れているウィンスターであった。
気絶していたウィンスターは踏まれた衝撃で意識を戻し、
目の前で立っているケミナスに手を伸ばした。

「ケ…ケミナス〜…」

そんなウィンスターにケミナスは―

「がんばれ!」

爽やかな笑顔&親指を立ててウィンスターの幸運を願うと、
そのまま一目散に階段へと向かった。

「ケ、ケミナス…助け―」
「追え!追うんだああああああああ!」
「うおおおおおおおおおおおおおお!」

「ぎゃあああああああああああああああ!」

叫ぼうとしたウィンスターの体を踏みつける無数のトカゲ兵たちの足。
トカゲ兵達は倒れているウィンスターに全く気づかず、
そのまま踏みつけながらケミナスの後を追っていた。



一方、こちらは一階。
こちらでは二階と打って変わって白熱した戦いが展開していた。

(クソッ!こいつ、なかなかやる…)

一人の人間とトカゲ兵が剣を振るっていた。

人間は灰色の髪の色男―クリス。
トカゲ兵はこの砦でもっとも権力の高いセタの父親。
この砦の隊長である。

二人は剣を交えながら必死に戦っていた。

「人間にしてはなかなかだ………だが!」

クリスの攻撃に剣で防いだトカゲ兵はその剣を力でなぎ払った。
クリスの剣はその力に耐えることが出来ず、クリスの手から離れてしまう。

無防備なクリスに剣を振り下ろすセタの父親。
その攻撃をバックステップで避け、クリスは叫んだ。

「頼む!シェミル!」

そう叫んだ瞬間、セタの父親の体を炎が包み込んだ。

「フォース!?」

セタの父親はそう叫ぶと咄嗟にその炎から素早く身を外した。

「すまない、シェミル」

クリスは剣を拾い上げ、構えなおしながら言った。

セタの父親の横からフォース『火炎』を放ったのは、
茶髪で見ただけで無気力だとわかる青年―シェミルがいた。

「うん、でもちょっとやばいかも…理力が少なくなってきちゃった」

そんな青年も流石に冷や汗を流していた。

「…ああ、こっちのフォースも切れ掛かっている…」

クリスもそんなグチをこぼしてしまった。

二対一の戦い。しかし、状況はトカゲ側に傾いている。

「このままじゃ…やばいな」

そうクリスが弱音を吐いた。
その時―

「おーい!大丈夫かー!?」

聞いた時ある声が後方から聞こえた。

「ケミナス〜!」

シェミルが後ろから走ってきたケミナスに手を振った。

しかし、その後ろからまだトカゲ兵達が追いかけていた。

「大丈夫か!?だけど安心しろ!
 ウィンスターの分のトカゲ兵は倒してやった!」

「本当か!?あんな大群を一人で!?」

「ケミナスすご〜い、何とかなるかもね〜」

ケミナスと合流したクリス達の士気は少しだけ高まった。
前方のトカゲ兵の隊長はクリスとシェミル。
そして後方のトカゲ兵達にケミナスが向かい合った。

各々方、しばらく睨み合い、沈黙が続いた。
そして、その沈黙を破る声が響いた。

「………俺を」

「………え?」

聞こえてきたのはトカゲ兵達の後ろからである。
一番後ろにいたトカゲ兵の肩を何者かが手を置いていたのである。

「…俺を踏みつけたのは…お前か?」

その肩の鎧を手は力を入れて握り締めた。
鎧の肩の部分が音をたてて罅が入る音が聞こえた。

「俺を踏みつけたのはお前かああああああああ!」

そのトカゲ兵の肩を握っていた赤髪の男は肩を更に握り締め、
後ろのほうに放り投げた。

「ゲフゥ!?」

放り投げられたトカゲ兵は壁にぶち当たり、
そのまま気絶した。

「お前かぁ!?」
「な、なんだこいつ―ぎゃあああああ!」
「お前なのかぁ!?」
「うわ!や、やめてくれ―わああああ!」
「お前もかぁ!?」
「ご、誤解で―ノオオオオオオオオオ!」

その赤髪の馬鹿力―ウィンスターである。
踏まれたのと更に無視されたことで怒り爆発。
トカゲ兵達をまるで綿の入った人形のように
ポイポイと投げ、壁にぶつけさせていた。

「な、何者だこいつは!?」

ついにあれだけいたトカゲ兵達はセタを残して全滅。
残ったセタは剣を構えウィンスターに突撃した。

「じゃあお前もなんだろおおおお!」

そんなセタに腕を横に一振り。
セタはそれだけで吹っ飛び、横にある壁に激突。
そして他のトカゲ達と同様に気絶してしまった。

「やっぱりお前もかあああああ!?」

ウィンスターの暴走は止まらず、近くにいたケミナスに殴りかかった。

「うわああああ!落ち着けウィンスター!俺だよ俺!ケミナス!ケミナスだよ!」

ウィンスターの殴るのを必死に止めながらケミナスは叫んだ。

「…………ケミナ…ス?」

「ケミナス!うん、僕ケミナス!」

「ケミナス?」

「ケミナスケミナスケミナス!!」

「ケミナスー!うわあああああああ!」

我に戻ったウィンスター。
何故かそのままケミナスに抱きついた。

「そうだろ、苦しかったろ、辛かっただろ。
 俺の胸で泣け!思いをぶちまけろ!」

ケミナス、そんなウィンスターの肩をポンポンと叩きながら慰めた。
つーかコイツもウィンスターを踏んだんだけどね。







「貴様良くも俺に巴投げをしたなあああああああああ!」


「そっちですかああああああああああああああああ!?」






ウィンスター。拳を振り上げケミナスの頭部をぶん殴った。
その力で地面に倒れるケミナス。

「ああ投げたよ!確かに俺は投げたよ!文句あるかオラァ!」

「あるぜ!大有りだこのやろうがあああああああ!」

ケミナスは地面に座り、頭を抑えながらウィンスターに抗議する。
その抗議を立って下目使いで言い返すウィンスター。


(…今だ!)

後ろでその様子を見ていたセタの父親は
クリスとシェミルの注意が薄れているのに気づいた。

そして、その隙を狙い、走り出した。

「…ハ!?しまった!」

クリスが気づいて剣をセタの父親に振った。
しかし、剣は走っている父親に当たることなく、宙を切った。

父親が狙っていたのはケミナスであった。
後ろを向いてこちらに全く気づいていない。

「―ケミナス!」

それに気づいてウィンスターはケミナスの後方を指差した。
ケミナスは振り向いたとき、セタの父親は既に剣を振り上げていた。


その様子はスローで流れているように見えた。

…マジかよ。全く気づかなかったぜ。
そういえば、死ぬ瞬間ってスローで見えるんだよな…
畜生、こんなところで死ねるかってんだ!
そうだ、このスローを利用してこの攻撃を防ぐしかない!
防げるもの……剣!剣だ!このボロい剣でも防ぐことが出来るはずだ。
よし、剣を抜き、アイツの攻撃を―!



という考えを二秒ほど考えたがすぐに諦め、
近くにいたウィンスターを掴み、

「………え?」

グイッと自分の前に引き出した。


「嘘だろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」






ザックリ。




「あ」
「あ?」
「あ…」
「あ〜」
「…あ」


その場にいる五人が声を上げた。

剣はウィンスターの肩から入っていた。
そしてしばらく何もなかったが、
時間がたつとブシュ〜ッと血が噴出し始めた。







「痛ってえええええええええええええええええええええええええええええ!!!」







ウィンスターの叫び声が砦の中に木霊した………


〜第八章〜

トカゲの砦―そこは普段、トカゲ兵達が拠点としているところである。
その砦に入ってすぐの広場。そこにはトカゲ兵達が地面に倒れ、
ピクリとも動かない。全員気絶しているのである。

そしてその広間には四人の人間とトカゲ兵が一人いる。
その人間の一人は―


「あー痛い!わー痛い!ねぇちょっと待ってこれ冗談抜きでマジで痛いんですけどぉ!?
 アイタタタタタタタタタタタタタタァ!!本当に痛いって!マジで痛いって!い、いた!
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
 わああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

赤い髪で背の高い男―ウィンスターが裂けた肩から血を噴水のように出しながら叫んでいた。
裂けた肩から腕の部分は力が入らないのか、プラプラと揺れていた。

「とりあえず落ち着けウィンスター!」

「こんな状況で落ち着いてられるかあああああああ!!
 ひいいいいいいい!血がぁ!俺の血がああああああ!」

灰色の髪のイケメン―クリスがウィンスターを落ち着かせようと叫んだが、
ウィンスターは血を撒き散らしながら叫び返した。

それどころか混乱しているせいなのか、体をぶんぶん振り回し、
ますます血が辺りに飛び散っていった。

「まぁ、落ち着けよ………な?」

そのウィンスターの斬られていない右肩に手をポンと置く一人の男。
黒髪のケミナスである。
その爽やかに言った顔には硬い笑顔と冷や汗をダラダラと垂らしていた。

「うるせぇ!てめぇに言われたくねーよ!」

ウィンスターはケミナスを怒鳴りつけた。
実はウィンスターの肩を切り裂く原因を作ったのはコイツなのである。

「ケミナスウウウウウウ!俺は貴様を許さん!絶対許さんぞおおおおおおお!」

「いやゴメン!マジでゴメン!謝るから!な?……
 だからこっちくんな!追いかけてくんな!その筋肉の断面図を見せながら
 こっちにくるなあああああ!うわあああああああああああああ!」

ウィンスターは肩を裂いた状態でケミナスを追いかけた。

「この痛み!三倍にして返してやるぜえええええええ!」

「うわああああ!追いかけてくるなあああああ!」

「流血ビーム!」

「やめろおおおおおおおおおおおおおお!」

ウィンスターは物凄い勢いで回転し、更に血を撒き散らしながらケミナスを追いかけ、
そのウィンスターから全力で逃げるケミナス。
回転しながら追いかけているはずなのに、
何故かケミナスが逃げる速さと同じなのである。

「やっぱりウィンスターって凄いんだね〜」

その様子をもう一人の男、茶色い髪の癒し系の
シェミルが遠くから見て感想を言った。
全く二人を止める気配は無い。マイペースな男である。

「…何故だ?」

その中、一人だけ驚きの表情を浮かべているトカゲ兵が一人。
この砦の隊長であり、セタのパパさんである。

「…何故平気でいられる?」

そう考えるのは凄く当たり前なことである。
肉を裂かれて、更に血も大量に出ているのに何でこんなに元気なのか…

その発言を聞いてウィンスターの高速回転はピタリと止まり、
ゆっくりとトカゲ兵の隊長に振り向いた。
そして唇の端を吊り上げて言った。

「何故平気でいられるかって?それはなぁ………」

ウィンスターは懐にまだ動く右手をいれ、何かを探している。
そしてそれを見つけたのか、ウィンスターは
トカゲ兵隊長に向かってまたニヤリと笑った。

「これのおかげさぁ!!」

ウィンスターはそれを誇らしげにトカゲ兵隊長の前に突き出した。

それは円柱の形で、高さは約二十センチぐらい。
素材はアルミで出来ており、缶のようである。
そして、その缶のラベルには―


『驚異!一口飲んですぐ筋肉!ムキッ娘エキスパートX』


これはウィンスターがいつも飲んでいるプロテインである。

「さぁ!今回紹介するのはこの私ウィンスターも愛用している、
 『驚異!一口飲んですぐ筋肉!ムキッ娘エキスパートX』!
 筋肉をつけたいけど運動する気が無い君や、
 筋肉トレーニングをしてもなかなか筋肉がつかない君!
 そんな君たちのための筋肉救世主!それが『ムキッ娘エキスパートX』!
 これさえ飲めば君もムッキムキ間違いなし!摂取方法はいたってシンプル!
 運動の後や食後、三時のおやつの時、小腹が空いたら、どうでもいい時等、
 そんな時に専用シェイカー(別売)に付属のスプーンでお好みの量の
 プロテインを入れ、水や牛乳、コーラ、ソーダ、コーヒー、紅茶、緑茶、
 野菜ジュース、栄養ドリンク、川の水、雨水等、お好みの飲料水を
 入れてシェイクするだけであっという間に出来るんだ!
 冷たい水でもすぐに溶けるぞ!
 更に!お肉料理や魚料理に練りこめばおいしく筋肉をつけられるよ!
 それでは!実際に体験しているお客様の声を!」

ウィンスターはクリスの方に指差した。

「……え…俺!?」

行き成りの指名にギョっとしているクリスにウィンスターはこっそり耳打ちした。

(…うまい事言えよ)

(無理、無理だって…!)

(大丈夫!お前なら出来る!お前はできる子なんや!!)

「………あ〜…え〜っと…僕はこのプロテインのお陰で―」
「さぁ!今回のこの『驚異!一口飲んですぐ筋肉!ムキッ娘エキスパートX』を
 今回はキャンペーン価格で!」

「…………」

お客様の声のコーナー、強制終了。

(これほどウィンスターに怒りを感じたときは無い…)

千切れそうな左腕をいっそのことこの剣で斬ってしまおうかと考えてしまったが、
その怒りを何とか抑えるクリス。

「今回のキャンペーンはなんと家に郵送された時に値段がわかるという
 スペシャルサプライズ!お値段は君の想像より安いかな?高いかな?
 うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

それはサプライズとは言わなくないか?詐欺じゃないのか?

「さぁ!今回の商品、『驚異!一口飲んですぐ筋肉!ムキッ娘エキスパートX』を
 スペシャルサプライズで郵送されたときに値段がわかるドッキドキ企画!
 電話番号は忘れたので自力で調べてください!今すぐお電話をー!」

ウィンスターはプロテインの宣伝を終えると
辺りは静まり返った。

「…ごめん、やっぱ………無理だわ」

ウィンスター、そのまま真後ろにバタンと倒れた。

「ウィンスター!?」

三人はウィンスターの方へと駆けつけた。

「大丈夫かウィンスター!?」

いち早く駆けつけたケミナスは
ウィンスターの上半身を持ち上げ、激しく揺すりながら叫んだ。

「うへへへへへ…お花畑と綺麗な川が見えるよー」

「うわああああああああ!ダメだウィンスター!その川を渡っちゃダメだー!
 三途の川だそれー!渡ると戻れなくなるぞおおおおおおおおお!」

ケミナス、ウィンスターの頬を往復ビンタでバシバシと叩きまくる。

「うへへへへーへーうへへへへへへへへへへへっへへー
 今ねー、今ねー、綺麗な女の人が見えてきたよー、こっちを誘ってるよー、
 うへへ、うへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」

ウィンスターは往復ビンタを食らっても怪しい笑い声を上げながら何かを言っている。

「いいのか!?お前の筋肉をここで終わらせていいのか!?
 マリアちゃんとクリスの最後を見届けなくていいのかあああああ!?」

ウィンスターの耳元で叫ぶケミナス。
そう、筋肉とは彼がもっとも生きがいとしているもの、
そしてマリアとクリスの最後を見届けたいという男の情熱も彼の生きがいである。

ウィンスターはケミナスの叫びにハッとなって目を見開いた。
その目には僅かであるが輝きを感じた。
子供が夜に眠ろうとしたときに宿題を忘れていたのを思い出す様であった。
そう、これは彼が眠る前に思い出した唯一の宿題―

「………どうでもいいよそんなの」

もう学校でやるからどうでもいいかみたいな感じで
ウィンスターは投げやりな感じで体の力が更に抜け、
目の輝きが消えていった。

「わあああああああああああ!ウィンスタアアアアアアアアアア!?
 畜生!なにかないのか?ウィンスターを助ける方法は無いのかー!?」

「あ…そうだ〜、フォースフォース、フォースだよ〜」

シェミルは無気力な声で提案をした。

「ホース!?あれか、蛇口に付けて水を撒くあれか!?」

ウィンスターの生死の問題で混乱しているケミナス。

「そういえばクリス、『治癒』のフォース覚えたよね〜」

「…ああ、そういえばリーリルで覚えたな………
 記憶にほとんど無いが…」

クリスの顔が少し曇った。
女性いっぱいの理力館で何があったのか彼は全く覚えていない。
むしろ覚えたくない。

「治癒のホース!?まさかそのホースから通った水は『今夜が山だ』と言われた
 寿命で死ぬ老人もそれを飲めばあと二十年も生きるという伝説のホースなのかぁ!?」

「いや、ホースじゃなくてフォースな?水を撒くホースじゃねーよ?」

「つーか覚えたってなんだ!?お前の脳内にホースが埋め込まれているのか!?」

「いやそれは無理だろ?!フォースだフォース!ホースじゃなくてフォース!
 『フォ』と『ホ』の字違いだって!」

「『ホの字』!?女に弱いお前が誰に惚れるんだー!?
 つーかお前のせいで話が全然関係ないところに進んでるじゃねーか!
 お前のモテモテ話はどうでもいいんだ!ウィンスターのことも考えろ!!」

「関係ない方向に進めているのはお前だろう?!
 つーか俺は惚れてなんかいない!俺は女性との関係を持つなんて
 絶対にできるわけねーだろうがこの女狂いの低脳野郎がぁ!!」

「なんだとてめぇ!お前は女なんか拒絶しやがって!
 もしかしてお前ゲイか!?ゲイなのか!?うわ引くわぁ!」

「ゲイじゃない!女の子に弱いだけなんだよ!」

「薬物中毒者で更にゲイで…最強だなお前」

「いい加減そこから離れろおおおおおおおおおおおおお!」

「そろそろ止めないと本当にウィンスター死んじゃうよー」

また口論が始まるのを察したクリスは
ウィンスターに話題を戻した。

「…そうだったな。ウィンスターを治さないと…ほれ、早くやれ。さっさとやれ。」

「…てめぇ…後で覚えとけ」

クリスはブツブツ言いながら地面に横たわっているウィンスターに近づいた。

「『治癒』」

横たわっているウィンスターに向かって治癒のフォースを唱えた。

すると、みるみるウィンスターの傷が―治らない。

「あ………」

「どうした?早く治せよ」

なかなか治らないウィンスターを見てケミナスはクリスに急かしたてた。

そんなクリスはケミナス達の方に振り向いて言った。

「………『治癒』に使うフォースが切れた………ごめん」




「なんだそりゃああああああああああああ!」

「いやーなんかそのーごめん」

「何だその適当な謝り方はー!仲間が死にそうなんだぞ!?
 もうお前いいよ!シェミル、なんとかしろ!」

「良いけど『治癒』のフォース覚えてないよ〜」

「でもフォースはまだあるだろ?何か使え!何か代用できるかもしれないぞ!」

「ん〜………あ、そうだ〜」

シェミルは方法を思いついたらしく、ウィンスターの近くに接近した。
そしてウィンスターに手をかざし、フォースを唱えた。


「『雷光』」


シェミルの手から放たれた青白い無数の雷は、
ウィンスターの体を貫いた。

「何してるんだあああああああああ!?」

「ほら、電気ショックだよ。心臓が止まった人に電気の力で
 体にショックを与えて心臓を動かすやつ」

「あ〜…なんか聞いた時あるな……って今のウィンスターに必要なのは
 傷を塞いで止血とかすることだろ!?電気ショック意味ねーよ!
 つーか雷が体を貫通したからまた傷が増えたじゃねーか!」

「いやーなんかそのーごめん」

「お前も適当に謝るなあああああああああああ!」

「…ったくお前な〜、いつもいつも俺達に頼ってるじゃねーか…
 たまには自分で何とかしろよ」

「え…俺!?」

クリスのブーイングにケミナスは驚いた。

「そうだ、お前が何とかしろ、他人に押し付けやがって…
 人に言えるってことは自分でも出来るんだよなぁ?」

「ウィンスターがピンチな時に―」

「なんだ?出来ないのか?」

「う、うるせぇ!俺に出来ないことなんて多分ないんだよ!」

「じゃあ早くやれよ」

「う……………」

強がってケミナスはクリスに言い張ったが、
ハッキリ言って方法は全く思いつかない。というより方法が無い。

(畜生…どうすればいい、どうすればいいんだ!?
 薬…そういえば回復薬みたいなの売ってたけどほぼ無敵的存在の
 俺はあんなのいらないから持ってないしな………
 逃げるか…いやいやそんなことしたら幽霊になったウィンスターが
 ヤクザとか呼んで俺をボッコボコにするだろうしな………
 他に方法は………あいつらにも出来ることをやれば………!そうだ!
 フォースだ!フォースだよ!あいつらができるんなら俺にもできるんだ!)

とにかく、出来るといったからにはやるしかない。
ケミナスはウィンスターを見つめ、『治癒』のフォースを―

(…って、どうやればいいんだ?)

クリスみたいにやって見ようかと思ったが、
なんかあれだと回復するぜー!っていう意気込みを感じない。
フォースが足りないとか言ってたけどあれは絶対意気込みが足りないんだって!
そこから考えると意気込みを感じる方法でやればきっと治るんだな!よっしゃあ!

ケミナスが取った『意気込み』を感じる方法、それは―


「ひょおおおおおおおおおおおおおおおお!」


ケミナスは突如、奇声を上げながら両腕を上に突き上げた。

「!?」
「…?」

クリスはその行動に驚き、シェミルは不思議なものを見るような表情をした。

「ひょっひょ、ひょひょひょ!ひょーひょひょひょー!ひょひょひょひょひょー!」

ケミナスは上に突き上げた手をプラプラさせながらウィンスターの周りを
左に一周したら右へ、右に一周したら左へと規則的にクルクルと周り始めた。

その姿をクリスとシェミル、そしてトカゲ兵隊長、更にトーテムのスケイルとクロウは
痛いものを見るような目で見守っていた…



十分後。


「ひょーひょひょ…ひょひょひょひょー………ひょひょ」

ケミナスの踊りは既にグダグダになっており、
奇声も踊りも意気込みを感じなくなってしまった。

そんなケミナスの肩に、ポンと誰かが手を置いた。
ケミナスはピタリと踊りを止め、ゆっくりと振り返る。

そこにはクリスの姿があった。
クリスはただ無言でゆっくりと首を横に振るだけだった。

「…駄目ッスか?」

その問いかけにクリスは顔を縦に動かした。

助けを求めるようにケミナスはシェミルに目を向けたが、
シェミルもゆっくりと顔を横に動かしただけであった。

更にスケイルとクロウに目を向けたが、
トーテムも顔を横に動かすだけであった。

「……………」

しばらくウィンスターを見つめるケミナス。
そして、ウィンスターに向かって両手を合わせた。


「…ごめん、許して」




               ウィンスター 死亡





「ちっくしょおおおおおお!ウィンスターのカタキだあああああああ!」

ケミナスはいきなり叫びながら地面に横たわっているウィンスターの足を掴み、
そのままウィンスターをトカゲ兵隊長にぶん投げた。

「うおぉ!?」

ウィンスターの体が隊長に襲い掛かる。
ウィンスターの体重+ケミナス涙と怒りの必殺スローで死体は凶器へと変貌した。

突如襲い掛かるウィンスターの巨大な死体を避ける術が無いセタ父。
ウィンスターの死体を体で諸に受け止め、吹っ飛ぶ。

ケミナスは投げると同時に走り出しており、
投げたときに落ちたウィンスターの頭を両手で掴み、
吹っ飛んだセタの父親に振り下ろし、何度も叩きつける。

「うおるああああああああああああああああ!」

叩きつけるたびに血(主にウィンスター)と
ちょっとした肉片(ウィンスター)が辺りに飛び散っていた。

「やめろケミナス!」

その横からクリスが飛び込み、ケミナスの腕を押さえ込んだ。

「止めるなクリス!離しやがれ!」

「その『トカゲ兵』が可愛そうだろ!」

「…ちっ!」

ケミナスは舌打ちをして持っているウィンスターの死体だった物を横に放り投げた。
ウィンスターは地面に投げられた衝撃で操り人形のように四肢が
バラバラな方向を向いたままピクリとも動かない。

トカゲ兵隊長は予想以上に損害は少なく、ただ気絶しただけであった。
鎧などについている血はほとんどウィンスターの血である。

「俺たちの目的は殺しじゃない。そうだろ?」

「…ああ、そうだったな、こんな奴に構ってないで爆発を防ぐのが目的だったな…」

「爆発するかどうかはわからないけどね〜」

「まぁ、とりあえずこの砦の中を探そうぜ…」

「お…こいつカギと盾持ってるぞ。もらっておこうぜ」

「俺は盾なんか要らないぜー、攻撃こそ最強の防御だからな!」

『我がトーテムだと体が強くなるからな』

「………じゃあ俺が貰おうか」

『ちょっと待ってください、これはシェミル様が使うべきです。
 私は理力などは得意ですが接近戦には向いてないので…』

「…トーテムの憑いてない俺はなんなんだ?」

「『腐れ外道』が作った力があるからいいんじゃね?」

「待て、俺まだどんな力があるのか全然わかってないぞ?」

「ああ〜、そこら辺は大丈夫だよクリス〜。
 クリスの力はかなり強力で多分暴走したら誰も止める人は―」

「暴走ってなんだ!?」

「まぁなんというかほら、がんばって」

「がんばれ」(何のことか良くわからないが)

『がんばるのだぞ』(我にもわからん)

『がんばってください』(後で説明しますよ。後で…)

「お前らだけで心の会話するな!」



久しぶりにほのぼのとした会話をしたような人間三人とトーテム二体。
彼らはトカゲ兵隊長の持っていたカギで再び砦の散策を始めた。


散策を始めたとき、ウィンスターの死体が
消えていくのに気づいたものは誰もいない…………


〜第九章〜


ウィンスターの瞼がゆっくりと開いた。
瞼をあけて第一に目に入った光景は、何も無い、ただ真っ白な世界であった。
ウィンスターは自分がその空間に横たわっているのに気づき、
上半身をゆっくりと起こした。

「あ〜…なんか見たときあるなここ…なんかスゲー最近見たような気がする…」

ウィンスターは顔をしかめながら頭を掻いた。

ゆっくりと立ち上がったとき、ウィンスターの目の前に
青白い光に包まれて一人の女性が現れた。

白いワンピース、額に角、そして獣の耳。
忘れるなんて到底出来ない姿。
というよりそれ以前にウィンスターにとって忘れられない相手。

「ウィンスターさん気づきましたか…あなたは死―!?」

言っている途中にウィンスターは少女に向かって走り出し、
女性の肩を掴み、激しく揺さぶりだした。

「てめぇリクレール!さっさと生きかえせ!早く生きかえせ!すぐに生きかえせ!
 お前女神なんだろ!?早くせんかいこのアマァ!!」

「ちょ、ちょっと待ってください落ち着いてください!
 すぐに生きかえしますからその手をどかしてくださいぃぃぃぃ…」

揺さぶられながら少女―リクレールは必死にウィンスターを止めようとする。

「お、そうか。すまんすまん」

ウィンスターはあっさりとリクレールの肩から手を離した。

なんだあのリクレールが今回はやけに弱気―


                   ジュッ


…じゃなかったぜこんちくしょー。





          女神に選ばれし、彼らの旅路

                      第九章


ポンッ

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

しばらくして現れたのが土下座状態のウィンスター。
前回と同じパターンである。

「誰に喧嘩売ってると思ってるんですか?私は女神。
 あなたたち人間が勝てるわけがねーんだよボケが」

「はいごもっともです調子にのってごめんなさいごめんなさい」

謝っているウィンスターを見てリクレールは鼻で笑って言った。

「まぁ、今回はすぐに生きかえしてあげましょう。
 本当はちょっと時間がかかりますが今回は
 『初体験!これが死なの?胸がドキドキ!』というさっき私が気まぐれで考えた
 キャンペーンのおかげです。これからは私を真の神と崇め、地にひれ伏しなさい」

「流石女神様、本当にありがとうございます」

ウィンスターはそういっているが心の中では
もし俺が神だったらコイツ殺すなと思っているのであった。

「ではいきますよ…」

リクレールがそういうと同時にウィンスターの視界からリクレールが徐々に薄れ、
変わりに見たときのある景色が徐々に映ってきた。

「ここは…リーリル?」

見たときのある街の並び、その中で一番大きく見える理力館。
そして人々が歩き回ったり、立ち話をしていた。

ふと、ウィンスターの横を一人の男の子が通り過ぎようとした。

「おい少年よ!」

ウィンスターはその男の子の肩をがっしりと掴んだ。

「え!?うえぇ!?……………え?」

いきなり肩を掴まれてびびった男の子は変な声を上げた。

「俺は…俺は生きてるか!?」

ウィンスターは肩を掴んだまま男の子に訪ねた。

「え……?」

男の子はウィンスターを上から下へ、
下から上へと目を動かしてウィンスターを眺めた。
しばらく見ていた少年の答え。

「……………多分」

「多分!?多分ってなんだよ!」

「ん〜…なんか微妙なんだよな〜…死んでいるような生きているような…」

「なんだそりゃあ!お前、男だろ!男ならハッキリと言え!」

「今、私の目が映している世界ではあなたは確かに生きているように見えます。
 ですがそれは私の視線という限られた世界。あなた自身や第三者からあなたが見れば
 ただの死体が突っ立っているだけなのかもしれない。もしくはあなたは既に肉体が無く
 幽霊がここにいるだけなのかもしれない。しかし、私にはあなたが見える。
 私は幽霊という物は一度も見たときが無い。幽霊という物は一部の特殊な人にしか見えない、
 また、一般人が幽霊を見るケースがあるが、それは特殊な状況や精神状態で見る可能性があるが、
 それは幻覚である可能性もある。すなわち可能性は無限大。
 あなたは完全に生きている、完全に死んでいる、半分生きていて半分死んでいる。
 三分の一生きていて二が死んでいる。十分の一が生きていて―」

「…もういいぞ少年。つまりあれか、お前から見ると俺は生きているのか」

長々とした説明にウィンスターは頭を抱えながら男の子に簡潔に説明するように仕向けた。

「死と生で単純に計算して50%って感じだけど私の視点からは生きていますよあなたは」

「…本当に生き返ったんだ…俺…すげぇなこの石…」

ウィンスターは生命の結晶を懐から出して眺めながら言った。

「…っと、こんなことしてる場合じゃない!早くあいつらの所に行かなければ!」

砦で取り残され、きっとあのトカゲ野郎に苦労しているのだろうと考えている
ウィンスターは、トカゲ兵の砦へと走り出していた。

一人残された男の子はウィンスターを見ながら首をかしげているだけであった。




「残るはこの部屋だけか…」

トカゲ兵の砦に三人の男がいた。
本来、ここにはトカゲ兵が砦にいるのだが、
この人間達によって死者は出なかったがほぼ壊滅状態に陥った。

怪我や負傷し、まだ動けるトカゲ兵は、気絶した仲間を連れ、
別の住処へと移動したらしく、砦にいるのはこの三人しかいない。

「多分この部屋に爆弾がある…それもこの世界を崩壊させるほど強力な爆弾が…!」

その人間の内の一人、黒い短めの髪をした青年―ケミナスは
そう言い終えると喉をゴクリと鳴らした。

「慎重に開けようねー。もしかしたら扉を開けた瞬間に爆発するかも〜」

もう一人の人間、髪の毛が長めで茶色の青年―シェミルが
めずらしく緊張したように言っていた。

それを聞いたケミナスはゆっくりと鍵穴にカギを挿し込んでいく。
カギが完全に挿し込み、ゆっくりと鍵を開けようとした。

「…つーか、こんな時代に爆弾なんてあるのか?」

灰色の長めの髪をした青年―クリスが唐突に言った。

「………え?」

カギを回そうとしたケミナスの手がピタリと止まった。
そして、ケミナスとシェミルは機械の様に一緒のタイミングで顔をクリスに向けた。

「だってほら…武器は剣とフォースだけ、銃も弓矢も無い世界に爆弾なんて作る技術があると思うか?」

「…………………」

それを聞いた二人はしばらく金縛りにあったようにピクリとも動かず、
ただクリスをジッと見つめていた。

そして、手に握っていたカギを思いっきり回し鍵を開け、
あっさりと扉を開け、さっさと中に入っていく。

「……………俺なにか変なこと言ったかな?」

『気にするな、お前が正しい。ただ………空気を読め』

横にいたクロウは宿主であるケミナスの元へと向かいながら言った。

「……………そういうものなのか?」

クリスは疑問に思いながらゆっくりと二人の元へと向かった。

そこは牢屋だった。
石造りの部屋であったが、牢屋だけは鉄の柱で作られていた。
暗く、牢屋の上にある小さな隙間から夕焼けの光だけが辺りを明るくしていた。

「やたらと広い牢屋ですねクリスさーん!」

「なんでこんなに広いんですか天才クリスさーん!!」

二人は何か吹っ切れたのか、やけにハイテンションでクリスに聞いてきた。

「………気分悪くしたならすまん」

「なーにいっちゃってるんですかクリスっさーん!
 俺たちのどこが気分悪そうに見えるんですかー!?」

「ほーら!このとおり僕たちはバリバリゲンキのハイテンショーン!」

あんなに穏やかだったシェミルがその場で工事現場用のドリルの如く
その場で高速回転していた。

「…………いや…本当にごめん」

三人はそのまま左側の牢屋を見に行った。

「わ〜お!誰かいますよクリスさあああああん!」

ケミナスは牢屋の中を指で差しながら言った。

「これは爆弾よりすごいじゃないですかクリスさあああああああああっん!」

「…本当にゴメンって」

左側の牢屋に一人の男が横になっていた。
四十代後半といった感じだろうか、男の表情は苦痛の色を浮かべていた。
ケミナス達が騒いでいるのに関わらず、全く反応が無い。

「…ってこれはちょっとやばいんじゃねーか!?」

ケミナスは男の様子を見て扉の鍵を開け、急いで男の元に駆け寄った。
その後ろを二人が追った。

「おっさん!大丈夫か!?おっさん!!」

ケミナスは男の上半身を抱え、揺さぶりながら男の耳元で叫んだ。

「………お前ら…俺を助けに来たのか?」

「本来はこの世界に襲い掛かる恐怖の砦爆弾24号の解体作業に来た者だが
 爆弾は実在せず、敵の謎の作戦に戸惑ったが、我々はあなたを発見した。
 この作戦はどうやら我々人間に内通者がいる可能背が高く―」
「俺の名前はエージス。すまないが体が動かないんだ…この砦の近くに医者がいる。そこに連れて行ってくれないか?」

ケミナスが謎の説明をスラスラと喋っていたが、
途中で男―エージスが話を遮った。

「………俺の説明無視?」

「エージスって最初の街で話題になってた人じゃなかったっけー?」

「そういえば言ってたな…エージス隊長、行方不明になってたらしいが…ここにいたのか…とりあえず街に運ぼう」

「よっしゃ、俺は頭の方を持つからお前ら足の方を持ってくれ」

ケミナスはエージスの体を持ち上げ、クリスは左足、シェミルは右足を持ち上げた。

「そーれ、おいっちにー」

「さんしー」

「おいっちにー」

「さんしー」

ケミナスとシェミルは掛け声を上げながらエージスを運んでいる。
しかもかなりスローペースである。

「………」

左足を持っているクリスは一人黙って二人のペースに合わせている。

(一人で運んだほうが速いんじゃね?…って突っ込んだらダメだな…)

こころの中でそう思いながら運んでいた。

「おいっちにー…ってしまったぁ!」

ある程度運んだ時、ケミナスは何かに気づき、ピタリと止まった。

「どうしたのケミナスー?」

(…あ、やっと気づいたか)


「三人の手が塞がっているから扉を開けられないぜー!」


(えぇー!?)

「うわー、本当だー」

「クリス!お前ここに入ったの最後だったろ!なんで扉閉めるんだよ!」

「三人で運ぶとは思わなかったんだよ!」

クリスはさり気なくヒントを叫んでケミナス達に思いつかせようとした。

「畜生…一旦このおっさんを下ろせ」

(お…伝わったか!?)


「ここはどうやったら三人でこのおっさんを持ちながら扉を開けれるか、一旦座って話し合おう。」


(そうきたかこんちくしょー!)



「で、どうする?」

「やっぱ片方の手で体を支えつつ開けた方がいいと思うよー」

「いやそれじゃあバランスを崩しておっさん落としちゃったら大変だろ?」

二人はあれやこれやと案を出していたが、どれも納得のいかない方法らしく、
未だに話し合っている。

(…お前ら早く気づけ)

(ここは耐えるのだクリスよ)

(耐えましょう)

クリスは二人をただ見守ってるだけであった。



一時間後。



「最近思うんだけどやっぱりコーヒーは無糖がいいと思うんだー」

「うげぇ!?お前あんなもの飲んでるの!?俺はダメだね!
 飲むときはミルク一杯に砂糖二杯!」

「甘党だなー、ケミナスっていつもなに飲んでるの?」

「俺はジュース系だな。炭酸とか」

「お子様だなー」

「いいんだよ!人それぞれに好みというものがあるだろうよ!」

(…なんか話しずれてないですか?)

(……まだダメだぞクリス)

(飲み物っておいしいんですか?)



二時間後。



「アイムチャンピオーン!!」

「いえ〜い」

「アイアムナンバーワーン!」

「おういえーい」

「アイムストロンガー、パワフリー!アンド!……あんど………あ〜………」

「はい時間切れー」

「畜生!英語なんてわかるかってんだよー!」

「今のところ僕が一番英文を長く言ってるよー」

「負けてたまるかぁ!もう一回だ!」

(…そろそろいいか?)

(そろそろだな)

(そろそろですね)

クリスがトーテム達に視線を向け、ゆっくりとうなずいた。
そしてゆっくりと立ち上がり、扉の方へと近づこうとする。
その時―

バンッ!と勢いよく扉が開いた。

扉に近づこうとしたクリスは思わず体をビクッと振るわせた。
誰もいないはずの砦に誰かが来た、敵の可能性もある。
だが、そこに居たのは―


「お前ら、大丈夫か!?」


赤く、短めの髪。そして背がこの中で一番高い人間。
そう、それは少し前、確かにあの時死んだ男―

「ウィ―」
「ウィンス―」

「うわああああああああああああ!死体が動いているうううううううう!」

彼の名前を叫ぼうと思ったクリスとシェミルの声より
大きな声でケミナスは恐ろしいものを見たような表情でウィンスターの方を指差しながら叫んだ。

「え!?」

そんなケミナスを見てウィンスターは驚いた声を上げた。

「ゾンビだああああああ!アクリョウタイサアアアアアアアアン!!」

ケミナスはウィンスターの元に走り出した。右腕を振り上げる。

「ちょ、ちょっと待てええええええええええええええ!?」

ウィンスターは反射的に左腕を振り上げ、ケミナスの顔に殴りかかる。
ケミナスもウィンスターの顔に殴りかかった


ゴスッという鈍い音が響いた。


二人とも見事なクロスカウンターが決まっている。
両方同じタイミングで顔面に拳がめり込んでいる。

そしてそのまま二人仲良く後ろにぶっ倒れた。

二人とも顔を赤く腫らし、白目を剥いて気絶していた。

「………運ぶ人数が二人増えた」

クリスは二人を見て額を手で押さえながらクリスにいった。

「俺が二人を運ぶ。お前はエージスさんを背負ってくれ」

「いいよ〜」

二人はそれぞれ負傷者を連れ、やっと砦の外へと向かった。


砦の中で何時間もいたせいか、外は既に暗くなっており、
二人はエージス+負傷者二人を連れてリーリルへと向かっていた。

「クリスー、重いなら変わってあげようかー?」

シェミルはエージスを背負いながら歩いている。
まだ余裕があるのか、クリスの方を振り向きながら言った。

「いや、いい。結構軽いんだこの二人」

クリスは二人を運んでいた。

右手にウィンスターの足を持ち、左手にケミナスの足を持って
引きずりながらリーリルへと向かっていた………


〜第十章〜


夜―この世界は今、暗闇に包まれ、空の星と街の光だけが辺りを照らしていた。
朝と違い、肌寒い風が吹いていた。
街では、蝋燭の光に包まれ眠る者もいるが、酒を飲んで談笑する兵士達もおり、朝とは違う活気があった。

その街とは打って変わり、森では獣達が寝静まり、
草原や街へと続く道は気配がなく、時折野犬の遠吠えが森の方から聞こえてくるだけだった。

この世界では変わらず、いつも通りの風景である。一部を除いては。


「だからさぁほんとゴメンって!あの時はああするしか―痛てぇ!
 だってあの時防がなかったら俺が死んじゃってたし―あがぁ!
 いいじゃんかどうせ生き返ったんだし、細かいこと気にしてるとまた死―うごぉ!!」

夜の草原、そこに四人の人間がいた。
その四人の中で黒い髪の男と、赤い髪の男が動いていた。
赤い髪の男―ウィンスターが、黒い髪の男―ケミナスをボコボコに殴っていたのだ。
ケミナスの必死な声と殴られたときに発する悲痛な叫びが夜の草原に響いた。

「お前のッ!その態度がッ!全く反省してるようにはッ!見えないんだよ!!」

ウィンスターの拳はその叫びに答えずに、ますます勢いを増してケミナスを叩きのめす。
拳はケミナスの腹部や顔面、たまに股間に直撃する。

「ぐえぇ!!ク、クリスさんシェミルさん助け―おふぅ!」

「…無理だな」

「こっちも殴られちゃうかもしれないしねー」

「な、なんて無情な―んがふぅ!!」

ケミナスが助けを求めた二人―クリスとシェミルは、
ケミナスとウィンスターからすこし離れたところにいた。
近づいたらこっちも殴られる。そう思ったからであった。

ここに来るまでの少し前―
トカゲ兵の砦から囚われていた人間の男―エージスと、
クロスカウンターを決め、気絶したケミナスとウィンスター二人を砦の外へと運び出し、
とりあえず伸びている二人をリーリルの街の近くで放棄し、
先にエージスをクラート医院に連れて行った。

クラートの診断によると、どうやら特殊な毒に侵されているらしく、
特殊な解毒剤でしか治らないらしい。

「特殊な毒か…」

『トカゲ兵が使っている毒ならトカゲ兵が持っているんじゃないですか?』

「そうだな…あのセタという奴や、その父親なら知っているかもな」

そしてエージスをクラートに預け、これからどうするか話し出す二人。

「とりあえず今日は休もう…二人を連れてきて、ここの宿屋に泊まろう」

「でもここの宿屋さー、受付と部屋の距離が結構短いよー。
 しかもその受付の人、おんな―」

「サーショに行こう。うんサーショ、絶対サーショ。
 あそこなら受付から部屋まで結構あるし」

「でもラケシアさんがいるよー」

「見ず知らずの女の人より知っている人の方がなんか安心するじゃん?
 見ず知らずの女の人の近くよりラケシアさんの方がいい、絶対いいよ。
 なんつーの?耐性?慣れ?ほら、筋肉と同じ、鉄アレイとか最初は重いけど
 何回も持ち上げていると慣れてきて軽く感じるじゃん?それと同じよ。
 でもこれ某筋肉大先生が言ってる事だから全然信用できないけどね!
 だから俺が例えるなら―そう!辛いもの!イエスイエスかるぁい物だぁあ!
 くぁらーうぃ物食べまくってっど味覚ぐぅあおかしくぬわぁってずううえんずえぬあずぃが
 かーんずぃなくなるじゃああああーん!つまりですよ、つまりこの俺の頭の脳細胞に
 電流といいますか人体電子信号的なものが脳神経に垂れ流しまくって考えた
 究極な方程式にのっとりまして女性という生き物、私たちと同じ霊長類に分類する生物でありますが、
 この過程にのっとって、むしろ乗っかりまくりましましで、
 私の細胞にも女性への抵抗が徐々に、あ徐々に徐々になんと徐々にぃ!ついてゆきましてぇ、
 特定の女性ではありますが、免疫とか抵抗物資とか色々なものが俺の体内に練成されていき―」

「クリス、テンパってるー?」

「―うん。かなりテンパってる」

女性に会うということを考えるだけで頭がオーバーヒートするクリス。

「あーもう行きも地獄、帰りも地獄。俺の行く先には女という巨大な壁が
 立ちはだかってこっちに倒れてきて俺は潰されちゃうんだー。ペチャンコの餃子の皮だー」

「はいはい、大丈夫だよ。きっといつか女の人に慣れるよ。たぶん」

頭を抱え地面にしゃがみこむクリスをシェミルは励ましながらリーリルの街を出た。
そして放棄していた二人を引きずりながらサーショへと目指した。

その道中、ケミナスとウィンスターの意識が戻り、
ケミナスがまた死人が生き返っただのゾンビだのと騒ぎ出したが、
ウィンスターは自分が死んだ後、鬼神―ではなく女神リクレールに生き返させられたことをはなし、
ケミナスの誤解がやっと解かれた。

「よかったなー、本当に良かったなー…俺もうてっきり…」

生きているウィンスターに、ケミナスは少し目を潤ませながら言った。
ウィンスターはそんなケミナスに微笑みながら、ケミナスの頭の上にポン、と手を乗せた。
そしてウィンスターは優しく、

「そういえばあの時、俺の事を盾にしたよなぁ…」

と、言いながら頭に乗せた掌に力を入れ、頭に圧力をかける。
微笑みはトカゲ兵の砦で盾にされた時の事を思い出し、少しずつ怒りへと変わりだす。

「え…ちょっとウィン―うげぇ!?」

ケミナスの言葉は、ウィンスターがケミナスの鳩尾を殴った衝撃で途切れた。

「斬られた時の痛みはこんなもんじゃないぜぇ!二倍、いや、三倍にして返してやるぁ!!」

「ちょ、ま、ウィンス―ぎゃあああああああああ!!」



これが、今ウィンスターがケミナスをサンドバックにしてる理由である。

最初は盾にされた分で終わるはずだったが、
ウィンスターのケミナスに対する過去の恨みや怒りを思い出し、
その分もついでに殴っちゃおう、という事でケミナスはこれまでに経験したことのないぐらい
タコ殴りにされているのである。

「そういえばあの時、俺の大好きなパンを勝手に食ったよなぁ!
 それはあのときの恨みだぁ!」

「ぐえぇ!」

「あと、お前に100シルバ貸したままだったよなぁ!そのまま忘れてたじゃないか!
 それはその時の分だぁ!」

「はうぅ!!」

「筋肉を馬鹿にしやがって!これはボディビルダーやジムの管理人達、
 筋肉マニアの皆様の分だぁ!」

「うごぉ!?」

「あとそれから…えーっと…えーっと…とりあえずお前なんかむかつくから!
 これはその怒りの分だぁ!」

「ぐおぁ!…ってちょっと待て!なんとなくって何だよ!?
 そもそも何で俺だけ殴られてんだよ!大体シェミルだってお前が斬られて瀕死の時に
 『雷光』っていうフォースでお前を攻撃したんだぞ!だから俺だけじゃじゃなくて
 シェミルもなぐれぇ!」

「じゃあこの拳はシェミルへ殴るぶんだぁ!オラァ!」

「へぐぅ!?何でそうなるんだー!?
 そもそも、どうでもいい理由で殴ってんならクリスだって殴りたくなるだろ!?
 いっつもアイツに女の子の人気取られてるじゃないかぁ!?」

「じゃあこの拳はクリスへ殴るぶんだぁ!オリャア!」

「ぶっふぉあ!やっぱりそうなるのかぁ!?
 ていうかあの砦の地下でお前も俺のこと殴っただろ!?
 あと俺も昔、お前に色々されただろ!?だからその分俺もお前を殴る権利があるだろお!!」

「じゃあこの拳は俺を殴るケミナスのぶんだぁ!オラアア!」

「理不尽だー!!おおおおおおう!」

最後の拳はケミナスの股間に直撃し、ケミナスは地面に両膝をついて悶絶していた。

「ハァ…ハァ…これで許してやらぁ…」

「スッキリしたか?」

「おうよ!」

クリスの問いかけに振り返ったウィンスターは親指を立て、晴れやかな表情をしていた。

「…死ぬ、死んじゃう」

悶絶しているケミナスの口から声が漏れていた。

「あ〜、すまんケミナス、やりすぎちゃった!えへ」

そんなケミナスにウィンスターは詫びをいれるが、その表情はまだ晴れやかで、
謝っている様子はなかった。

「よっしゃあ!リーリルに行くんだっけ?ならさっさと行こうぜ!」

ウィンスターがそういうとリーリルの方へと向かっていった。
クリスもその後へと続いていく。

「くそ、あいつめ!今に見てろ…今は地面を這いつくばってるが、
 いつかお前を地面に叩き伏せて俺が上になってやるぅ…!」

「はいはい、ケミナス行くよー」

「シェミルまで俺を蔑ろにしやがって…!
 あの時も助けに来なかったし、俺はこの四人の仲でもリーダー的な存在だぞ!?
 そんな俺をここまでコケにしやがって!!」

「みんなケミナスの事リーダーだと思っていないよー
 ほら、おいてっちゃうよ〜」

シェミルもウィンスター達の後を追った。
一人だけ取り残されたケミナス。

「え〜、お前らちょっと待てよ〜、俺まだ体痛くて立てねーんだよー!
 …SHIT!屈辱、忘れん。絶対に忘れんぞ!」

最後の一撃の股間強打を受け、足に力が入らず、立てないケミナスは、
腕だけで地面を這いながら三人の後を追った。





サーショへと着いた一行は、サーショの宿屋『旅人の巣』に行き、
部屋を貸してもらうことにした。

四人は奥にある部屋に案内され、その部屋の中に入った。

「狭ッ!」

部屋の中に入ったケミナスは思わず言ってしまった。

元々この部屋は、一人用の部屋であるらしく、一人なら十分な広さではあるが、
四人では窮屈に感じてしまうのである。

「しかもベット一つしかねーじゃん!」

「…別の部屋はないのか?」

「ここしか空いてないんだってー」

「…どうする?」

四人が腕を組んで考え始めた。

「よし!お前ら床で寝ろ、俺はベットで寝るから」

「また殴られたいのか?」

「ごめん」

即ざに土下座するケミナス。

「二人ベットで、二人床っていうのはどうだ?」

「うげぇ…流石に野郎と二人でベットというのは嫌だぜ…」

クリスの案にウィンスターは顔をしかめた。

「二人がいやなら四人でベットで寝ようよ〜」

「そういう問題じゃねえよ!」

「…立って寝るか」

「俺たちそこまで器用じゃねーよ!」

「どうしよ〜?」

クリスとウィンスター、そしてシェミルが意見を言い合っているが、
ケミナスは頭を下げ、ただじっと何かを考えていた。

「おいケミナス、お前はどうなんだよ?まぁ、お前の考えは参考にならんけどな」

「…俺にいい考えがある」

ケミナスが急に立ち上がって言った。
その表情は真面目なもので、普段一緒に行動してる三人もその表情は今まで見たことがなかった。

「お、おい…」

どうしたんだ急に、普段みたいにアホみたいな顔垂れ下げてニタニタ笑う
ダメゴミ糞野郎な顔じゃなく真剣な顔しちゃって。というウィンスターの言葉は、
ケミナスから感じる刺さるような空気に言葉が喉まで来たが出せなかった。

「ウィンスター!お前はベットで眠れ!クリス!シェミル!お前らは床だ!」

ケミナスはウィンスター達に指をさしながら指示した。
その行動や立ち振る舞いは、まるでピンチに陥っても決して冷静さを失わず、
状況を覆す優秀な軍師の様であった。

「ケミナス、お前はどうするんだ!?」

「俺か?俺は―」

三人はケミナスの言葉を待った。
今の彼の言うとおりに行動すれば、何もかもうまくいく。
そんな考えさえ浮かんだ。
普段のケミナスにはいつもと違う。そんな雰囲気が―




「シズナちゃんの家に止まりに行くぜぇ!」




全く出ていなかった。
やっぱり馬鹿は馬鹿でした。

「ちょっと待てやおらぁ!てめぇマジでふざけるなぁ!
 貴様があの可憐なお方と一つ屋根の下に居ようっていうことはこの俺が断じてゆるさーん!」

「うるせえ!むしろ貴様のような筋肉ダルマに女と一緒にいる権利なんてない!
 お前はここで筋トレでもして寝てろ!この脳筋味噌汁野郎がぁ!」

「貴様ぁ…!まだ殴られたいようだなぁ!」

「ほーら、すぐ暴力で解決しようとする!
 これだから殴ることしか知らない筋肉単細胞は―」

「どりゃあ!」

「へぐう!?」

ケミナスの言葉が終わらないうちにウィンスターはケミナスの顔面に見事な右フックを食らわせた。

「なにさらすんじゃオラァ!上等だ糞野郎がぁ!
 貴様をもう一度あの世へ送り返してやるぜぇ!オラァ!」

「ぶへぇ!?」

「…お前いま『殴ることしか知らない筋肉単細胞』って言ったばっかりだろ」

今度はケミナスの左ストレートがウィンスターの顔に直撃した。
さすがのウィンスターもこの一撃は効いたのか、すこしフラフラとしたが、
すぐに体勢を立て直してケミナスに再び殴りかかった。

「貴様ァ!また殴ってその腐った性根を叩きなおしてやらぁ!
 歯ぁ食いしばれ!腹に力を入れろぉ!」

「うるせぇダメ筋肉がぁ!俺に歯向かったことを後悔させてやんぜぇ!!」

「…止める?」

「えー、なんか止めたら殴られそー」

「じゃあいいか…隅に寄っておこうぜ」

クリスとシェミルは部屋の隅で二人の暴れっぷりを観察していた。

宿屋の小さい部屋が殴る音やドタバタと動く音、
更に二人が暴れるせいで部屋どころか、建物全体がグラグラと揺れ始めた。

「なにやってるんだぁ!」

部屋の中に男が入ってきた。

「あぁ?誰だてめぇ!?」

突然の乱入者に二人とも一旦殴り合いを止め、男の方を見た。

「俺はこの店のオーナーだ!お前ら何暴れてるんだ!?他の客に迷惑なってんだろうがぁ!」

「はぁ?オーナーってラケシアさんじゃねーの?」

「ラケシアは俺が雇ってる定員だ!
 そんな事はどうでもいい!あんたら迷惑だからさっさと出て行け!!」

「なんだと貴様ぁ!迷惑だぁ?俺から言わせれば貴様の方が迷惑なんだよぉ!」

「そうだぁ!普段店に出ないような腐れオーナーが威張りやがって!
 ちょこっと暴れるだけで止まってる人に迷惑かけるような宿屋作るほうが悪いんだよ!!」

「貴様のような奴がオーナーやってる宿屋なんか俺たちがぶち壊すぞゴルァ!!」

オーナーの乱入のせいで二人の殴り合いは終わったものの、
今度は店を壊そうと暴れだそうとしていた。
ケミナスはオーナーに掴みかかり、ウィンスターは部屋のベットを持ち上げ、
部屋の中で振り回し始めた。

「う、うわあああああ!衛兵!こっちに来てくれー!!」

身の危険を感じたオーナーは、外に向かって叫びだした。

「え、衛兵!?まさかあいつらか!?俺たちを縛り上げた…!」

「や、やばい!あいつらに捕まったらまた…!」

「ちょっとまて、待つんだオーナー!俺たち帰るから!
 帰るから衛兵だけは呼ばないでくれー!!
 ほら!口止め料の100シルバ!これで見逃してくれー!」

ケミナスはオーナーに100シルバの賄賂を渡すと、
ウィンスターと一緒に外のほうへと逃げていった。

「…すまんな、俺たちの仲間が迷惑をかけた」

部屋の隅に座っていたクリスが立ち上がって、
二人の行動をオーナーに謝った。

「あ、ああ。出て行ってくれればそれでいいんだが…
 この100シルバ、後であの黒髪の男に返しておいてくれ」

「貰ってもいいのに〜」

「いや〜、後で『金返せ!』って、暴れだすかもしれないから…」

「あ〜、あの二人ならありえるかもね〜」

「そうだな…預かっておこう」

クリスはオーナーからケミナスの100シルベを受け取ると、
二人の後を追って宿の外に出た。


ケミナスとワインスターは、ちょうど兵舎から死角になる宿屋の外の壁に張り付いて、
衛兵達の様子を伺っていた。

あのオーナーを途中で止めておいたので、
衛兵は宿屋での騒ぎに気づいてないらしい。
宿屋から出てくるクリス達が出てきて、安全を確認して、二人はやっと壁から離れた。

「…危なかったぜ」

「ああ…捕まってたら何で縛られるか分からなかったからな…」

「縛られるとかは置いといて、これからどうする?
 泊まる場所もうないぞ?」

「リーリルに戻る〜?」

「やだ、絶対にやだ」

シェミルの提案にクリスはハッキリと言った。

「………おれにいい考えがある」

ウィンスターは口の端を上げ不敵な笑みを浮かべながら、
自らの案を三人に言った。

「ほう…お前にしてはいい案じゃないか」

ケミナスはウィンスターの案に頷きながら答えた。

「じゃあ、僕もそれでいいよ〜」

シェミルもウィンスターの意見に賛成した。

「お、俺は嫌だぞ。絶対行かないからな!」

そんな中、クリスだけが怯えた表情で必死に反対していた。

「三対一だから、決定だな。行くぞ」

ケミナスはクリスの腕を掴み、無理矢理引っ張りながらシズナの家へと向かっていった。

「ちょっと待て!別に俺行かなくていいだろ!?」

クリスは足を突っ張りながらケミナスに抵抗しているが、
ケミナスはそんなことお構いなしにクリスを引きずっていく。

「お前が居たほうが女の人は喜ぶんだよ」

「その前に俺が死ぬ!縦に真っ二つになって死ぬ!」

「その時は接着剤か糊でくっつけてやるから。
 つーか死んでも生き返るからいいだろ」

「やだ!死んだらあの女神さんと一緒になるんだろ!?
 女の人と一対一になるのはもっと嫌だー!」

「もし女神さんに会ったら殴っといてね」

「俺を死ぬこと前提!?うわ、やめろ!た、助けてくれ〜!!」

クリスの叫びも虚しく、四人はシズナの家に着き、
家の中に入り、シズナに事情を話した。
シズナは助けた恩人だからと、快く承諾してくれた。

「いやー、ごめんねシズナさん!こんな俺たちを泊めてくれるなんて!」

「いえいえ、命の恩人ですし。
 でも、ごめんなさい。何も用意できなくて…」

「いえいえ、全然構わないですよ!泊めてくれるだけで十分ですよぉ!」

ケミナスとウィンスターは笑いながら地面に座った。
シズナの家はお世辞にも裕福とは言えず、家も他に比べれば狭く感じた。
テーブルとタンス、更にベットが二つある。
手前のベットにはシズナの弟が寝ていた。
そんな中、更に四人増えるのだから、余計狭く感じてしまうのだ。
シェミルはシズナに自己紹介し、ついでに全く喋れない状態のクリスも紹介しながら
二人に倣って地面に座った。

クリスを除く三人は、シズナと一緒に話をしてそれなりに盛り上がっていた。
クリスは部屋の隅の方、シズナの弟が寝てるベットの近くに座った。
クリスはシズナとは顔を合わせない様に、横のベットの方を見ていた。

(…ん?)

クリスはそのベットに寝ているシズナの弟を見て気づいた。
弟の顔色はあまり良くはない。
更にこんなに騒いでいるのに全く目覚める気配がない。

(そういえば…弟さんは病気だって言ってたな)

特にする事のないクリスはシズナの弟を見ながら、
どういう病気なのか、ただ考えていた。

「あの…どうしたんですか?」

そんなクリスに気づいたのか、シズナが声をかけてきた。

「うぇ!?う、あ…い、いえその…弟さん、病気なのですか?」

突然の女性の声に戸惑ってしまい、咄嗟に考えていたことを言ってしまった。

「はい…シンと言います。ずっと寝たきりで…」

「そうなんですか…」

「エルークス薬だけがこの病気を治せるのですが…
 とても高価で今の私には買うことが…」

二人はシンについて話し出した。

その様子を三人は見ながら小声で話していた。

「おい…おい!クリスなんか普通に女の人と話してねーか!?」

「いや…どうだろうな。あいつの顔、ちょっと怯えてるっつーか、怖がってるっつーか…」

「でもいつもより話してるよねー」

「…もしかして、慣れた?」

「おー、それはいい事じゃないか、弱点を克服できたなんて。
 もうあいつは怖いものなしじゃねーか?」

「いや、これはやばい、かなりやばいぞ!」

「なんでだ?」

「もしあいつが女に慣れたら学院中の女はほぼあいつの物になっちまうぞ!?」

「何ィ!?それはいかん!男なら愛する女は一人!
 複数の女と付き合うなんて言語道断!」

三人がひそひそと話をしている中、クリスとシズナの会話はまだ続いていた。




「なにか他に方法は?」

「それが、無いんです…森で採れる薬草なら症状を抑えることができるのですが…」

「薬草…ですか?」

「ええ…その薬そ―」

「その薬草を採ってる最中に襲ってきた糞二足歩行爬虫類を退治したのは俺たちなんだぜー!!」


「ウッヒョーウ!」

クリスとシズナの会話を邪魔するように間に入ってきたケミナスとウィンスター。
これ以上クリスに会話させないために二人がとった行動である。

「ちょ…お前らなに―うヴぉあ!」

ケミナスがシズナの注意を引きつけ、その隙にウィンスターが
クリスの鳩尾に、拳を叩きつけ、クリスを気絶させた。
見事なチームプレー。二人とも必死である。

「あーそろそろシズナさん眠くなってきたでしょう?
 もし眠れないなら俺が一緒に添い寝―あふん!?」

ケミナスが言っている途中に、ウィンスターはクリスから素早くケミナスの後ろに行き、
当て身をして、気絶させた。その手捌きはあまりにも速く、シズナの目で捉えることはできなかった。

「あれ?ケミナスさん?」

「ああ、こいつ疲れちゃってるんですよ。シズナさんも疲れたでしょう?
 寝ましょう!もう寝ましょう!あ、俺たちは床に眠るんで大丈夫ですよ」

「あ…ごめんなさい、何か用意できればよかったのですが…」

「いえいえ気にせずに!じゃ、お休みなさ〜い!」

ウィンスターも地面に横たわり、やがて眠り始めた。
いつの間にかシェミルも眠っていた。

シズナもベットの中に入り、いつもと違う家の雰囲気に少し戸惑っていたが、
やがて慣れて来たのか、瞼を閉じ、眠り始めた。


こうして、四人がこの世界に来て、一日目が終わっていった。

LADEN
2009/05/04(月)
01:03:47 公開
■この作品の著作権はLADENさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのコメント
どうもLADENです。

新テキストBBSということでここで新しく投稿させていただきます。
何かと不慣れですがこれから慣れて行こうと思います。

さて、今回はちょっと新しいスタイルに挑戦しました。
今までの作品の微ギャグではなくオールギャグにしました。

そしてギャグのスタイルは「ノリ」です。
クスクス程度に笑っていただけたらな〜、と思います。

というより実はこれが自分がやりたかったスタイルだったり…
こんなにテキストを書いてて楽しいと思ったことはありません。

さて、今回のキャラの設定を少々。

『ケミナス』

髪の毛は黒、身長は中くらい。
悪ふざけと女の子が好き。
『週間山原水鶏(やんばるくいな)』を愛読してる。(この週刊誌の名前は鏡読み氏が考えていただきました。ありがとうございます!)

『ウィンスター』(この名前は鏡読み氏が考えていただきました。ありがとうございます!)

髪の毛は濃いめの赤。背丈は高く、体は細くみえるがしなやかな筋肉がついている。筋肉馬鹿。
自分の肉体を鍛えるのが好き。好戦的。
女の子は好きだが崇拝に近い、ちょっとした異常者。

『クリス』

灰色の長めの髪、整った顔立ち、鋭い瞳。
学院上位のイケメン。
ケミナスとウィンスターに『クリス』の『リ』と『ス』を交換して『クスリ』とし、
変なあだ名で呼んばれる。
女の子にとても弱い。

『シェミル』(この名前も鏡読み氏に考えていただきました。ありがとうございます!!)

茶色で長めの髪、背丈はウィンスターのちょい下。
通称「神父さん」「やさしい兄貴」「ザ・善人」「無気力BOY」「彼が兵器になればきっと戦争は平和に終わる」
無気力、優しく、和む。
ちょっといたずら好き。


キャラを紹介しましたがこれから随時キャラ設定が追加されていくかもしれません。



ではこれで。感想などお待ちしております。

〜第十章のあとがきとお詫び〜

どうも、LADENでございます。

初めて見た方は初めまして。
見ていただいてた方にはお久しぶりです。

約一年と半年ぶりに更新いたしました。
待っていた方には大変申し訳ございませんでした。
待っている方はもうほとんど居ないと思いますが…

さて、なぜこんなに時間が空いてしまったのかというと、
時間がなかなか取れなかった事と、話が思いつかなかったからです。

自分が小説を書くときは、
「こういう始まりで、こういう風に終わる小説を書きたいなー。
 あと途中はこういう場面を入れたいなーうへへへへへへへへへへ」
と、話を部分的に思い浮かべ、後はその書きたい場面になるまでの部分を適当に書いているのですが、
第十章はその適当に書く部分なのですがこの部分が全く思い浮かす、
更に文章の作成にもやる気が起きず、放置していたのです。

それでも未完成というのは非常に心残りがあり、
「どうしてもこの場面を書いて、みんなに伝えたい」
という気持ちもあったので、今回はこの適当な繋ぎの部分を手早く書いて、
早く自分の書きたい話に持って行きたかったのです。
この適当な部分に一年半もかかってしまいました。

今回は特に面白みも無く、手早く書いたため文章も粗いですが、
次回は自分の書きたい場面なので、みなさんに伝わるに、文章と話を丁寧に書いていきたいと思います。

これからもがんばりますので、
皆様も暖かく見守っていただければ嬉しく思います。

これからもよろしくお願いします。

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