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ある穏やかな日の小話 <風柳> 03/01 (20:46) 7967
  遅すぎますが感想を述べさせてください。 <MADAO> 05/23 (08:12) 7996
  これに感想を書かずして、何に書けというの... <もげ> 03/08 (13:44) 7969
  感謝を書くっきゃないっ <風柳> 03/09 (00:14) 7971

7967
ある穏やかな日の小話 by 風柳 2008/03/01 (Sat) 20:46
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朝の光、昼の風、夜の静けさ。
体全身でそれを感じる毎日。
わたしがずぅっと夢見ていた毎日。

わたしの頭の中で繰り広げられる世界。
ベッドの中で、暗闇の中で。
すべてがわたしにとって完璧な色で塗り固められた世界。

その人が来てから全てが変わった。
その人はわたしを連れ出してくれた。
完全な世界から、この現実へと。










〜ある穏やかな日の小話〜










「次はどこに行こうか」

黒い髪。
紺色のマント。
やさしい笑顔。
凛とした声。

お兄さん。
私に光をくれた人。

「そうですね・・・一度サーショの街に戻ってみましょうか」

碧の髪。
透き通った水色のローブ。
艶やかな笑顔。
少し舌足らずな声。

お姉さん。
お兄さんの、大切な人。

「サーショか・・・そうだな。エージスさんの様子も気になるし、一度戻ってみるか」

「わたしは、お兄さんやお姉さんが行きたいところならどこでもいーよ」

にっこり笑ってわたしは言った。
嘘じゃない。
わたしは、二人と一緒にいられるだけで幸せだったから。





「・・・またか」

ムーの村から北上する途中。
不意にお兄さんが低い声を出した。
ここまでの道中でそれが何を意味するのかはわたしにもよくわかっていた。
お姉さんも慣れたもので、いつも引き摺るようにして持っている杖を両手で構えた。

「無理はするなよ。あくまでも身を守ることを第一に考えること」

両手に剣を携えたお兄さんは油断なく前方を睨んでいた。
日はとうに落ち、周囲は闇に包まれていた。
昼間なら平穏なこの草原も、月の下では野蛮な獣の世界となる。
がさがさと草が騒げばそれは天からの警鐘に他ならない。

藪から黒い影が飛び出すのとお兄さんが動くのがほぼ同時だった。
月の下に躍り出た野犬は咆哮も空しくお兄さんの剣に切り裂かれる。
二匹目、三匹目は左右からお兄さんを挟み撃つ。
しかし左右に凶器を持ったお兄さんにそれはまるで効果はない。
お兄さんは表情も変えずにその二匹を斬り伏せた。

お姉さんも始終冷静なものだった。
お兄さんから遠過ぎず、かといって邪魔にはならない程度の絶好の位置取りでお兄さんの背中を守る。
野犬は遠巻きにわたしたちを取り囲んでるみたいだけれど、この二人につけ入る隙は全くなかった。

一匹の野犬がお姉さんに襲いかかる。
お姉さんはすぅっと息を吸い込むとぽつりと何かを呟いた。
お姉さんの杖の先から炎が踊る。
紅の灯りが周囲を薄暗く照らす。
野犬の牙がその灯りを受けてきらりと鈍い光を放つ。
飛びかかっていた野犬はひるむ間もなくその炎に包まれた。

わたしはその間少し離れた場所で二人の様子をじっと見ていた。
残念だけどわたしには戦う力なんてちっともないから。
でもわたし、逃げ脚や隠れる技術にだけは自信があるんだよ?
こうして旅についてくるようになってから、一度だって野犬に襲われたことがないんだから。

コトが済むまでには10分とかからなかった。
むしろ長かったのはそれからだ。
倒した野犬の内、比較的肉体の損傷が少ない個体をお兄さんが解体する。
旅には欠かせない作業だとは知っているけれど、わたしはどうにも慣れなかった。
わたしはやっぱり少し離れた場所で、お兄さんだけを見てこの時間を我慢する。
やがて作業は完了して、お兄さんは再び歩き出した。
お姉さんもそのあとに続く。
わたしももちろん駆け足でついていった。





サーショの街に着いたのは次の日の朝だった。
昨夜は一晩中歩き詰め。
だけどお兄さんもお姉さんもぴんぴんしてる。
トーテム能力者、っていうんだっけ。
とにかくお兄さん達は普通では考えられない体力の持ち主なんだ。
わたしも二人に迷惑をかけないようにって、せいいっぱい頑張っちゃった。

「さて・・・それじゃあまずは宿を確保しにいきますか」

お兄さんはそんなわたしに気が付いてくれたのか、ぽつりと一言そう言った。

サーショはとにかく賑やかな街だった。
昔、まだ目が見えなかったころに『視た』ことはあったけれど、実際に足を踏み入れてみるとわたしの知ってるシイルの村とは空気そのものからして異質なところだった。
でもそれは決して不快な異質感じゃない。
町中の喧騒が胸をとんとんってノックして、それだけでわたしは楽しい気持になるようだった。

「おやおや、子連れの冒険者かい?珍しいね」

宿屋のおばさんはにっこり笑う。

「いえ・・・この子は俺の大切な仲間ですよ」

お兄さんも微かに笑う。
その言葉にわたしは胸が暖かくなった。

部屋に入るとお兄さんはすぐにベッドに倒れこんだ。
なんだかんだ言っても結構疲れてたみたい。
すぐにすぅすぅと寝息を立て始めた。
お姉さんはそんなお兄さんを見てくすりと笑うと、荷物をまとめてお風呂に行っちゃった。
わたしも少しシャワーが浴びたかったけど、こればっかりは順番だから仕方がないよね。
わたしはお兄さんを起こさないように、もう一つのベッドで仰向けになった。

いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
わたしは肌に冷たい風を感じて目を覚ました。
窓から外を見る。
まだ日は高い、正午を少し過ぎたころだろう。
部屋にいるのはどうやらわたし一人だけのようだった。
きっとわたしがあまりにもぐっすり眠っていたから起こしてくれなかったんだ。
少し寂しかったけれど、悪いのはわたしなんだから。わがまま言っちゃいけないよね。

わたしはベッドから飛び降りた。
体は軽い。
十分体力も回復したみたいだ。
ちょっとくらいなら・・・いいよね?
本当はお兄さんが返ってくるまで勝手に外に出ちゃいけないんだろうけど。
わたしは初めて見たサーショの街に強く心を惹かれていた。



サーショの街は本当に活気で溢れていた。
道もお店も学校も人も、シイルの村とは大違い。
ここへ来る途中にムーの村にも寄ったけど、そこで驚いたことが馬鹿みたいに思えるくらいだった。
道にはきちんと石が敷かれていて歩きやすかったし、
お店では目移りするくらいいろんな品物がならんでいたし、
学校ではわたしじゃちっともわからないことを教えていた。
もっとも用事もお金も持っていないわたしはただ見ているだけだったけど。
人も、わたしが知らない人ばっかり。
右を見ても左を見ても、顔はおろか名前にすら覚えのない人たちばっかり。

不意にわたしは怖くなった。
今まで狭い村の中だけで暮らしていたわたし。
村を、わたしを訪ねてくるいろんな人の生活を『視て』、そして想像もしていたけれど、
こうして無数の人たちの生活をリアルに感じるのはこれが初めてのことだった。

――これだけたくさんの人がいて、本当に世界は成り立つの?

現実はわたしが元いた世界とはまるで様子が違っていた。
闇の中で、頭の中で、わたしとお母さんと村の人だけがいて。
穏やかで優しくて、甘くて暖かな世界。
そんな完璧な世界はここにはなかった。

わたしはなんだか泣きたくて、それでもぐっと我慢した。
目を閉じて耳を塞いで、なんとか宿に帰ろうとした。
そんな中、ふと懐かしい香りが鼻をくすぐった。
間違えるはずもない。
この香りは、お兄さんの香り。

目を開けた。耳を塞ぐのもやめた。
目の前にお兄さんとお姉さんがいた。
雑踏に紛れるように、二人は並んで歩いていた。
わたしは嬉しくなって、二人の名前を大声で呼んだ。

周囲の声に紛れてしまったのだろうか。
二人はわたしの呼び声に気が付かなかったようだった。
何事もなかったかのように前だけを向いて歩いてゆく。
わたしはもう一度名を呼んだ。
さっきよりも大きな声で。
それでも結果は同じだった。
もう一度、もう一度。
わたしは何度も二人の名前を叫んだ。
それでもわたしの声が届くことは最後までなかった。

わたしは泣いた。
大声をあげてわんわん泣いた。
ふらふらと迷い込んだ路地の間でいつまでも泣いた。
日が暮れるまで泣いた。
頬を打つ風が冷たくなったころ、わたしはようやく泣くのをやめた。

きっと二人には聞こえなかっただけなんだ。
周りがすっごくうるさかったから。
活気のある街は楽しい気分になっちゃうけど、活気がありすぎるというのも困りものだね。

とにかくわたしは歩き始めた。
あたりはすっかり暗くなっている。
早く帰らないと二人を心配させちゃうよね。
わたしが無理を言ってついてきたんだから、迷惑掛けちゃいけないよね。



急いで帰った宿のドアの前。
わたしはちょっとだけ躊躇する。
やっぱり・・・わたしから謝らないといけないよね。
そもそもお兄さんたちはわたしが外出していることなんて知らなかったんだから。
そう決心してドアノブに手をかけたその時だった。

「無理、させちゃいましたか?」

部屋の中からお姉さんの声が聞こえてきて、わたしは思わず手を止めた。
なぜだかはわからないけれど、今このドアを開けちゃいけないような気がした。

「そんなことないよ。我ながら、いつまでも塞ぎこんでいるのはよくないとも思うし」

今度はお兄さんの声。
わたしは鼓動が速くなるのを感じていた。

「それに、僕は君には感謝してるんだ。君がいなければ、僕は今頃ダメになってしまっていただろうから」

「そんな・・・私は、何も」

「君がどう思おうとも、君が僕の心を救ってくれたのには変わりないから」

どき、どき、どき。
顔が熱くなってゆくのがわかる。
このドアは部屋と部屋とを隔てる壁じゃない。
もっと大切な何か――世界と世界の間を隔てる壁に違いない。

「明日、シイルに行こうか」

いけない――いけない。
この扉を開けてはいけない。
そう言い聞かせるのも限界だった。

飛び込んだ部屋の中。
お兄さんはベッドで仰向けになっていた。
わたしの視線はその一点に集中する。
お兄さんの腕の中。
小さな木片をお兄さんは大事そうに抱えていた。

わたしはそれを――知っている。

「いつまでも逃げてちゃ駄目だよな」

木片には赤黒い染みがあった
赤黒い染み――血。
わたしの、血。










――なぁんだ、わたし、しんじゃってたんだ?
















〜あとがき〜
どうにも長編の方の筆が進まないのでリハビリがてら一作書いてみました。
本当はもうちょっと男主とスケイルの会話でミスリーディングを演出するつもりだったんですが、書いているうちに今の形式が気に入ってきたのでこんな感じになりました。
今回は解説一切するつもりないですけど、大丈夫ですよね?
やっぱり叙述トリックは難しいなぁ。

最初はウリユにヤンデレさせる予定だったんですけど、書いてるうちにまた心変わり。
本当は某ヤンデルセンっぽいのを書きたかったんですけど、それはまたの機会に。

ではでは。
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