#白鳳院作・思い出の檻11・前編 !v27=1 !v35=1 !v36=1 !v29=1 !v37=1 !v28=2 いつか荒野に一人立ちつくし、 血のように真っ赤な夕日を見るだけの夢を見た。 そこでは全てを失っていた。 一緒に遊んだ友達、守りたかった家族。 日々を過ごした街、そして世界そのものも。 それが誰だったかは分からない。 彼だったかもしれないし、彼女だったかもしれない。 もしかしたら自分だったかもしれない。 ……それは、もしかしたら。 可能性の一つだったかもしれないなんて、 今更になって自分は思っていた…… !wait30 !mv薙島高校 !bgm高校 @1 〜午後一時・薙島高校〜 @120 みんな、作戦は以上。 各々が役割をきちんと果たせたら、 きっと上手くいくから。 @940 俺も、これが最善手だと思う。 ……ま、 女神様の魔法が完成直前まで待つのが、 タイミング的には一番いいんだがなぁ。 @120 ……シシトを救い出して、 女神様の転移でアクアフロートから脱出。 その後残った魔王に\r[消滅,ヴァニッシュ]の\r[理力,フォース]……。 シナリオとしては悪くないけれど、 私がシシトを救い出すまでにかかる時間が 分からないからちょっと危ないわね……。 @260 同感だな。 仮にシシトを助け出すまでに 時間がかかりすぎれば、俺達ごと消滅だ。 逆に短すぎても、 魔王が逃げてしまう可能性がある。 @120 それに、シシトと魔王の戦いに、 決着が付いてしまうのも心配だわ。 シシトが勝てば万々歳だけど、 魔王が勝ったら、その時はシシトが……。 @404 シイナさん、 今は後ろ向きな発言は厳禁ですよ! @120 ……そうね。ごめんなさい。 まず必要な道具を確保しましょう。 今アクアフロートは無人だから、 何取ろうともタダよ、やったわね。 @261 人間としてどうかと思うがな……。 @402 泥棒……ですよね。やっぱり。 @120 大義名分の元、そういうのは いくらでも調達しても構わないのよ。 @261 その思考回路はどうかと思うぞ。 @120 そうかもね。 ……でも必要なことだったらやるわ。 悪いけど、譲れない。 泥棒が嫌だったら、その部分は、 全部私がやるから……。 @260 ………………ふぅ。 そこまで言われて、 手を貸さない男がいると思うか? @940 今は女じゃねぇか。 あ、やっぱ実質男だな、ケケッ! @261 うるさいっ! @940 そんなにカッカするなよ、ナス。 @262 ナスって何だ――! @940 アナスタシア、略してナス。 @261 紫色のアレを先に思い出すぞ……。 @811 アレ……。(ポッ @401 何で顔を赤くしているんですか スケイルさんはっ!? @830 話題がずれているような気がする……。 @120 同感ね。 ……さ、話題を戻しましょう。 時間はたっぷりあるけれど、 ゆっくりしてて間に合わなくなったら それこそお話にならないんだから。 @260 ああ。 ……ネコ、お前も俺を茶化すのはやめろ。 @940 ケケケッ! いじりがいのある奴は常にいじる! それが俺の信条なんでな。 @261 迷惑な奴だ……。 @404 シイナさん、途中までは私も手伝います。 @402 一番大事な時には参加できませんけど、 ここまでなら、許してくれますよね? @120 ええ。是非ともお願いするわ。 @404 了解ですっ!(ビシッ!) @120 それじゃあ行動開始。 街の南側に行く場合もあるけれど、 その場合は魔王とシシトに注意して。 あるとしたら、警察署内か、 倉庫街の後ろ暗い方の倉庫ね……。 アルバート君とネコさん。 スケイルとクロウの 四人は、南側の倉庫をお願いするわ。 危険を感じたら、すぐに逃げること。 戦闘の音が近づいているのは多分 クロウの耳で察知できるだろうし。 私とセトさんは警察署へ。 私一人で行くつもりだったけど、 人手は多い方がいいからね。 @404 分かりました! @260 了解。 @940 あいよ。 @813 お任せ下さい! @830 ……ふむ。 @120 集合は今から一時間後にしましょう。 それじゃあみんな、行くわよ! !mv全体マップ @1 おう! !wait30 !mvnil @0 威勢のいい返事を聞きながら 私たちは無人の海上都市へと繰り出す。 必要な道具はそれほど多い訳じゃない。 ただ、一般の家庭では入手が難しい物 ばかりだ。 代用品はいくつか用意できるけど、 やっぱり、本場の物の方が確実だ。 ……私とセトさんは、 足早に警察署内に足を踏み入れた。 !mv塾 !bgmけだるい午後 @120 よいしょ……っと。 ふぅ……\s 電気供給止まっているのかしら。 どうして自動ドアが開かないのよ……。 @400 この建物の中だけみたいです。 途中にあったビルなんかは、 室外機がそのまま動いてましたし。 @120 おかしい話ね。 @402 自動ドアって、しまったまま停止してると、 なかなか開けるのに苦労しますね……。 @120 掴むところはない上に、割れないような 工夫が施されているからね。 しかも中が見えるようになっている。 これ、侵入できない未熟な泥棒を 思いっきりおちょくっているわよね……。 案外泥棒が絶えないのって、 こんな自動ドアがあるせいじゃないの? @403 あはは……。 さすがにそれはないと思いますけど。 @120 冗談はさておきましょうか。 地下にいきましょう。 保管してあるとしたら、多分そこよ。 @400 でも電気が落ちているなら、 電子ロックが解除できないんじゃ……。 @120 大丈夫、警察署内は調べ済みよ。 ここのセキュリティって、 他の警察署と比べると明らかに薄いのよ。 誰の命令か知らないけれど、 例え重要な部署でも 電子ロックを使っていない場所が多い。 となれば……あとはヘアピン一個で この警察署内は歩き回れちゃうのよ。 @402 は、はぁ……。 @1 そのあたりはおじいちゃんからの情報だ。 以前趣味でハッキングしたらしいけど、 その際にブツブツとそんな事を言っていた。 記憶はちょっと曖昧だけれど、 問題ない。私が今一番欲しい情報は しっかりと覚えている……。 !bgmサスペンス !mvnil @120 ここね……。 開けるから懐中電灯持ってて。 @402 はい……でもどうやって……。 @1 !se(Action)カチャッ !wait10 !se(Action)カチャッ !wait5 !se(Action)カチャッ !wait5 !se(Action)カチャッ (カチッ!) @120 !se(Action)ドア開け これでよし、と。 @403 すごい技量だなぁ……。 !mv警察署コンピュータ室 @400 ……うわぁ。 (あれ……? この部屋は電気が……。  ここだけ独立しているのかな……?) @120 思った以上にあるわね。 ……さて、必要な物は、と。 @1 周りに広がっている景色に 感心している暇もなく、 私たちは必要な物を近くの袋に詰め込んだ。 @120 こんなものかしら。 特に問題なく済んだわね。 長居は無用、さっさと行きましょう。 @400 は、はい! !mv塾 @402 あ、あのシイナさん。 ちょっと……いいでしょうか? @120 ? 何? @402 あの、先輩を救うには、 キスする必要があるんでしたよね。 @120 ……………………。 あぁ、そういうこと。 大丈夫よ、恋愛感情はないから。 @402 そ、そうじゃなくて……。\s いえ、もちろんそれもあるんですけど。 !bgm ……ファーストキス、だったりします? @120 ……………………。 @403 あ、赤くなってます。 @120 ……っ! @402 !se(Action)ビシッ あ痛っ! もう、 照れ隠しにはたかないでくださいよ。 @120 !bgmほんわかムード い、いきなりそう言うこと言うからよ。 そりゃ……仕事一筋で生きてきたし、 恋愛なんてしている暇無かったし、 第一周りにいる男なんて問題外だったし。 @403 えっと……その……。 経験者から言わせて貰うと……。 (まぁ一方的なキスでしたけど……) 滅ッッ茶苦茶恥ずかしいですよ、アレ。 自分から……なんて考えたら、 顔から火が出ちゃいますよ。 @120 ……だ、だからそういうこと言わないで! @403 だ、だってシイナさん。 全然平気そうな顔をしていましたけど、 キスって聞いたとき、耳が赤かったです。 @404 いざその時に 恥ずかしがって失敗しそうです! @120 くぅ……! @1 ……………………。 あ〜〜え〜〜……。 そうかも……。 @403 シイナさんて……見た目より、\sウブ? @120 ……というか、恋愛経験ゼロだもの。 まあ実際に動き始めたら、 恥ずかしいなんて思っている暇も きっとないんでしょうけど……。 @1 シシトと……口づけをかわす。 しかも自分から。 別に姉弟同士ってのは気にならないけど、 ……一人の女として、これは恥ずかしい。 @120 人工呼吸みたいな物よ。 うん……緊急事態なんだもの。 全然平気なんだから\s……うん! @403 せ、説得力が感じられません。 @404 だって、自分からキスするなら、 唇が触れ合う寸前まで目を開けてないと いけないんですよ!? ……私だって、人工呼吸みたいな形で 先輩とキスしたんですけど、 それでも、かなりの恥ずかしさでした。 ……シイナさんが目をつぶっちゃって、 キスする位置を間違えなんかしたら、 本当に笑えないことになっちゃいますよ。 @120 ううぅぅぅ……! こ、これは、想定の範囲外ね。 ……ああ、考えてみれば確かに……。 @1 女神様の前で誓った手前、 いまさら「やめます」なんて言えないし、 止めるつもりは一切無いけれど……。 まだ緊張感が私に喝を入れていない今、 想像したら頭が破裂しそうになった。 例えば―― !mvシシトの部屋 @100 ね、姉さん……。 @120 シシト……目をつぶって。 @1 私はシシトの顎の下に、 折り曲げた人差し指を入れて、 くいっと持ち上げる。 @100 ん…………。 @1 大人しく、目をつぶるシシト。 そのちょっと恐れているような表情が 愛しいなと思い、私は軽く微笑む。 そして目を開けたまま私の唇が――! !wait20 !se(Shooting)ショット !wait2 !se @1 な〜んて……。 !mv塾 !mv\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx @120 あ\n[2]あ\n[2]ぁ\n[2]ぁ\n[2]ぁ\n[2]ぁ\n[2]…\n[2]…! @401 急に頭抱えてどうしたんですか!? @120 あなたが原因なのよっ! ……まったく、もうっ! 久しぶりに妄想なんてやっちゃったわよ。 ……………………。 まぁ、恥ずかしい云々はさておいて。 覚悟だけは今から固めておくわ。 ありがとう、セトさん……。 @1 一番良いのは意識させないで くれることだったんだけどね……。 @403 あ、えっと。それだけじゃなくて。 @120 ま、まだ何かあるの? @400 あの……。\sえっと……。 @403 私でよければ、練習相手になりますけど。 @120 ……………………。 は? @404 だ、だから! 本番でミスしないように、 私が練習相手になってもいいですよ? @120 キスの? @403 は、はい……。 アルバートさんじゃ男の方ですし、 練習するなら私かスケイルさんです。 わ、私はいいんですよ……。 ほら、幼稚園の頃だと、遊びでキスとか しちゃうじゃないですか……! これくらいしか、 協力できる事ってないですから……。 @120 あ、ぅん……。 @1 そう言いつつも、 セトさんの顔は真っ赤に染まっている。 ……私も似たようなものだけど。 !bgmリラックス ……………………。 私は荷物を床に置き、 そっとセトさんに近づく……。 @120 ……………………。 @403 ぁ…………。 @1 か細い呟きはためらいか恥じらいか。 セトさんの肩を掴むと、 彼女は一瞬拒否するように体を震わせた。 @120 いい……のね? @403 (コクン) @1 首が、縦に振られる。 私はセトさんの顎の下に、 折り曲げた人差し指を入れて、 くいっと持ち上げた。 @403 ぁ、ちょっと……強引です……。 @1 その言葉を最後に彼女は喋らなくなり、 目を閉じて、私の行動を待ちに入った。 震えているまつげ。 桜色に染まった頬。 そして私を待っている唇……。 ゆっくりと、私は目を開けたまま その唇に顔を近づけ……。 @120 ……\s……\s……\sてい。 @1 !bgm !se(System)ピッ ぴんっ! @404 あうっ! @1 その額に、軽くデコピンした。 @120 !bgmゆったり雰囲気 ふっ……ふふっ……! ごめんなさい。 あまりにセトさんが本気だったから。 思わずからかいたくなっちゃったのよ。 @404 もう! 本気だったんですから! 真面目にやって下さいよ、もぅ……。 @120 ごめんごめん。 そこまで心配しなくても大丈夫よ。 何てったって私は、あの子を救うために 泥だらけの靴を舐めようとした女よ? そんな私が、今更キス一つで 恥ずかしいなんて言ってられますか。 @400 シイナさん……。 @120 それにね。セトさん。 ファーストキスには、女の子の 愛が一杯込められてるのよ。 ここで消費しちゃうのは、ちょっとね。 @402 そ、そう……ですね。 @1 ちょっとロマンチックに言ってみたけど、 ファーストキスと言った瞬間、セトさんの 表情が一瞬鈍った。 @402 (今のシイナさんには  言わない方がいいですよね……) (私のファーストキス、  魔王に奪われちゃったこと……) @120 ……………………。 @1 その暗い表情が何を表しているか、 私には分からなかったけれども、 失言だったのは、確かだったようだ。 @120 ……さぁ、遊ぶのはここまでよ。 さっさとこれを運んじゃわないとね。 @404 は、はいっ! !mvnil @0 重い袋を持って警察署を出る。 ……薙島高校に戻ると、 既にアルバート君達は戻っていた。 時刻を見る。 ……午後一時四十五分。 想像していたよりも、ずっと早く 私たちは準備を済ませることが出来た。 !mv薙島高校 !bgm高校 @1 〜午後二時・薙島高校〜 @260 必要な材料は揃ったぞ。 クロウが火薬の匂いをかぎ分けた。 案外アクアフロートも物騒なものだ……。 そっちはどうだった? @120 上々よ。 アクアフロートは実銃よりも、 こういうタイプの武器を使うことが 多いらしいから……。在庫はたんまり。 @940 仕掛けるのは俺に任せな。 ……作戦の決行はどうする? @120 女神様が、私用に調整した 「覚醒」の\r[理力,フォース]を完成させたらね。 @940 わかった。 俺は先に仕掛けてくるぜ。 街の南西。マンションが多くある 場所で良かったんだよな? @120 ええ、あれだけ密集している場所なら、 十分に効果を発揮できると思うわ。 ……ただし、やりすぎないこと。 私たちが巻き込まれたら、 それこそ話にならないんだからね。 @940 あいよ。 じゃ、お前等は適当に休んでろ。 ちゃちゃっとやっちまうぜ、ケケッ! \r[転移の理力,テレポート フォース]! @1 !se(Shooting)レーザー ……………………。 この調子なら、陽が落ちるのを待たずに、 私たちは作戦に入ることが出来る。 @710 !se(Action)シュイーン シイナさん。お待たせしました。 @260 うわっ!? @120 急に後ろから現れないでよ……。 @710 ごめんなさい。 覚醒の\r[理力,フォース]の調整が終わりました。 ……一応、望み通りになったと思います。 @120 一応って……それじゃまずいのよ。 確実に、六十倍じゃないと……。 @710 いいえ。強さは何とか望み通りに。 ですが、問題が一つ生じました。 @120 何……? @710 !bgmサスペンス 本来\r[理力,フォース]は、 長い時間をかけて編み出される物。 しかし今回は急ごしらえの\r[理力,フォース]です。 使用中にかかる体への負担が、 一体どれほどの物になるかは未知数です。 最悪、使った瞬間死に至ります。 @402 そ、そんな……っ! シイナさん、 もう一回作戦を練り直しましょう! 今からならまだ間に合いますよ! @120 ……………………。 駄目。このまま行きましょう。 今から練り直したってもう遅いわ。 @404 そんな! だって、明日になるまでにはまだ……。 @120 そうなんだけど、 嫌な予感がするのよ……どうしても。 今ここで私が怖じ気づいたら、 シシトは永遠に戻ってこれない……。 そんな気が、するの。 @402 理由になっていませんよ……! @120 何にせよ、よ。 これよりベターな手は思いつかないわ。 ……\r[理力,フォース]は完成したんだから、 あとはネコさんを待って作戦決行よ。 @830 シイナ……。 @260 !bgm ……………………。 !bgm別れ ……お前は、すごい人間だな。 自分の命を削るのにまるで迷いがない。 @120 ……そう? 家族を守りたいって思うなら、 これくらいは当然のことだと思うけど。 @260 ……あいにくと、俺は家族がこうなっても、 おそらく一人で震えているだろうな。 お前のように、立ち上がれはしない。 ……………………。 ある意味、 お前の方が狂っているのかもな……。 @120 失礼ね、もう。 @710 「愛情」から「狂気」に至るケースも 存在しないわけではありません。 俗に言う痴情のもつれが原因の事件は、 愛情が間違った方向に傾いたとも 考えることができますから……。 ただ、シイナさんはそれとは違う。 我を失うことなく、力に変えている。 そんな力を持つ者が、 かつては多くいたのですが……。 @830 時代の流れでどんどん減っていった。 理由は……今更話すまでもないだろう。 @710 愛情を力に、その力を勇気に……。 今のシイナさんを止められる人は、 おそらく世界中を探してもいないでしょう。 @120 心の力って、恐ろしいのね。 @833 自分で言うのはどうかと思うぞ、シイナ。 @120 ふふっ。 悪いけどね、 今は何をやっても失敗しない気がするわ。 ……ただ一つ、私が恐れることがなければ、 きっと大丈夫だって思っているのよ。 だから、作戦はこのままいく。 今更ためらったり、恐れたりはしない。 自分が信じた道を、貫くだけ……! @260 ………………かなわんな。 @400 ………………そうですね。 @120 悪いわね。 !mvnil !mv\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx @0 そう、もう進むだけだった。 後退も、足を止めることさえも、 もはや私には許されていなかった。 ネコさんが帰還し、 これで全ての準備が終了する。 ……女神様が、私に覚醒の\r[理力,フォース]をかける時間だ。 @710 行きますよ……。 @120 ええっ……! @0 全員が固唾をのんで見守る中、 私の背中に女神の掌が押し当てられた。 @710 覚醒の\r[理力,フォース]! @120 !se(Action)シュイーン !bgm ――――――――! @0 !bgs(環境)心拍 その感覚を、なんと表現すれば良かっただろうか。 何千何万もの針が体に突き刺さるような、 太陽の子供でも体の中に入れたような…… そんな痛みと熱さが全身を駆けめぐる……! @120 ぐうぅぅぅぅっ――! @402 シイナさん! @0 血液の流れがひっくり返る。 眼球が充血しすぎてはじけ飛びそうだ。 まずい……これは……危険だ! 前回の五倍なんか話にならない……! @813 シイナさん、がんばって! @120 あ、\sあぐぁぁぁっっ――!? @0 喉の中で何か這い回っている!\s 心臓が、一分に千回くらい脈打ちそう!\s 今、\s今私の頭ぶっ飛ばなかった――!? @1 ……う――\n[2]\n[2]\n[2]ア゛\n[2]ア\n[2]ァ\n[2]ッ\n[2]ァ\n[2]ァ! @0 何なの今の化け物の叫び声は!?\s 見える景色が全部極彩色で回ってる!\s ヤバ、し、死ぬ……死ぬぅぅっ――!? @262 おい女神、まずいぞこれは……! @833 \r[治癒,ヒール]の\r[理力,フォース]! @940 !se(System)ピロロロリン \r[治癒,ネコヒール]! !se(System)ピロロロリン シイナ! しっかりしやがれ! このままじゃ、自滅するだけだぜ!? 犬死にだ! それでもいいのかよ!? @710 やはり、六十倍など不可能でしたか。 シイナさん、すぐに\r[理力,フォース]を! @1 や、やめてぇぇぇっ――! @0 叫んでいるのは私だった。 喉が一発で枯れるような叫び声。 表情も、きっと悪魔が憑いた人間の様な顔だろう。 @1 ァァァアアァ――! マ、マモ……マモ……! @0 吹き飛びかける意識を、 自分の声で押しとどめる。 @1 マモル……まもる……まもる……! @0 うわ言のように繰り返す。 馬鹿みたいに同じ単語を言い続ける。 自分にかける、勇気が出る最高の魔法を! @120 まもる……\s守る、守る! 守る!\n[2]\n[2]\n[2] シシトを守る! この力で守る! @710 ……っ!? すごい、この調子なら……! @404 がんばれ! がんばれシイナさん! @260 行け! シイナ! @813 シイナさん! @120 うあぁぁぁぁぁあああぁっ――! @0 !se(Action)銃声 ……………………。 巨大な力が私の中で弾けていく。 ……全身が吹き飛ぶような感覚。 私の目の前が全て真っ白になっていく。 ……この白い世界の果てに、 私の望んだ光景が広がっていますように……。 !bgs !wait30 !mv海岸公園 !bgmバトル02 @410 あっはっはっはっは――! ねぇシシト君、そろそろ疲れてきた!? 息が上がり始めてるよぉぉっ!? @1 ……互いの差は、ほんの僅かだった。 二人の攻撃力や防御、速度等は ステータス画面があれば、 全くと言っていいほど同じである。 けれども、 たった一つだけ違う場所がある。 @133 グルル……グルッ……\sゲホッ……! @410 駄目だねシシト君。 あなたの「狂気」は私に勝てない。 @412 憎しむ量が違うんだよシシト君。 シシト君は私一人を憎んでいるけれど、 私はシシト君やセトさんみんなを……。 それどころか世界そのものを憎んでいる。 ……ふふっ。 一つ良いことを教えてあげようか? @410 狂気に至った者はね、 今のシシト君みたいな状態になる。 けどね。私は違うんだよ……? 理性はもう消えちゃったけどね、 知性は私の中に残っている。 この差が今のシシト君に分かる? ……あっはっははっはっはははっ! 分かるはず無いよねぇ……! だって今のシシト君、獣以下だもの。 狂気って言うのはね、 限界を超えて狂っちゃうと理性が戻るの。 @412 昔誰かが言ってたね。 痛みの果てには快楽があり、 快楽の果てには痛みがあるって。 私は狂気の果てに知性を手に入れた。 そこがシシト君との大きな違い。 だから、ほら……。 @1 魔王が取り出したのは、 かわいらしいガラのハンカチ。 @132 グルアァァァァッ――! @410 こんな事だって出来ちゃうんだよ! @1 !se(Action)ミス ヒラリ! @133 !? @412 ほらほら、もう一度突進して! 私と闘牛と楽しもうよ! @132 ヴォアァァァァッ――! @412 そぉれっ! @1 !se(Action)ミス ひらり。 先程よりもさらに優雅にシシトの 突進を避ける魔王。 それどころか―― @410 お尻があら空きだねぇぇっ! @132 !se(Action)ドゴン ゲハッ! @1 すれ違いざま、 魔王はシシトの尻を蹴り上げる。 ぱっと見軽く蹴り飛ばされただけのようだが、 その実、 あれだけで車ならひっくり返せる程の威力がある。 蹴り飛ばされた先にあるのは――\s海。 体勢を全く整えられない水中では 魔王の波動による攻撃などは、 一切避けることができなくなるだろう。 @132 !se(Action)跳ね う゛お゛お゛おおっ! @1 だがシシトも大した物だった。 理性を失っている分、 本能で己の危機を察知したのだろう。 海に飛び込むように高く跳ね、 上下反対になった体で鉄柵を掴む。 !se(Action)重いドア開け.ogg 耳障りな音と共に柵がひしゃげる。 蹴り飛ばされた衝撃とは反対方向に かけられた力によって、 柵はいびつな逆アーチになっていた。 !se(Action)跳ね シシトの体が海とは反対側に跳ぶ。 しかし腕力だけで何とかしたせいだろう。 両腕は、僅かに腫れ上がっていた。 @410 あっはっはあぁっ! そうじゃないとおもしろくないよね!? まだまだまだまだまだまだ! こんなに楽しい遊びは生まれて初めて! ゲームなんて所詮は遊び! このリアルな戦いに比べたら、 同じ事の繰り返しに過ぎない! 先が分からないって何て素敵! シューティングよりも予想が付かない! @132 う゛お゛あ゛ぁあ゛っ――――っ @1 !se(Shooting)撃破A !se(Shooting)撃破B !se(Shooting)撃破C !se(Action)爆発音 !wait8 !se(Action)ミス !wait8 !se(Shooting)撃破B !se(Shooting)撃破C !wait5 !se(Shooting)撃破B !se(Shooting)撃破C !wait8 !se(Action)ミス !wait8 !se(Action)ミス ――刹那の間に交わされる攻防。 @410 シシト君は楽しい? あ、そんな高尚な感情はないよね。 あはははははははははははははっ! @1 全ての能力が等しければ、 知性を持つ魔王の方が遙かに強い。 ……そう、結局狂気の力を借りても、 魔王を超えることなどできていなかった。 シシトは魔王の遊び道具。 彼女が飽きるまで、延々と 戦わされ続ける人形――。 @410 あははははははははははははははははっ! シシト君、先に聞いておくけどね、 死に方はどんなのが良いかなぁ!? 今から三つ言うから選んでねぇっ! 一つ目、私にミンチにされる! しかもセトさんの目の前でやるといいね! 彼女ならすぐに後を追ってくれるよ! @1 !se(Action)跳ね !wait6 !se(Action)ミス 渾身の右ストレートを体を僅かに 横にずらすだけで魔王は避ける。 ……既にシシトの攻撃は見切られていた。 闘牛の牛よりも直線的な動き、 慣れてしまえば、どうということはない。 シシトの攻撃は弾丸でしかない。 一度狙いを定めて引き金を引けば、 あとはそこへ真っ直ぐ進むだけの攻撃。 速度に対応しきれるだけの 反射神経と運動神経さえあれば、 何も知らない子供でも避けられる。 @410 二つ目、海でおぼれ死に! 呼吸困難で死ぬのが一番苦しいしね! あ、そうだ。シシト君には特別に、 地上でおぼれ死にをさせてあげるよ! 肺を潰しちゃうの。 呼吸したくても出来ない生き地獄! 私はその傍で深呼吸しちゃうからね! @1 魔王の顔は本当に充実していた。 自分が憎んでいる相手を手玉にとっているという 優越感によるものだろう。 ……魔王がなおも死に方を提案する。 それは自覚している、していないにかかわらず、 魔王がこの茶番に飽きてきたことを意味していた。 @410 三つ目。シシト君と私がシイナさんがいる 場所を突き止めて一緒にそこを襲うの。 みんなが死にゆく中、 シシト君も同じように死んでいくんだ。 @412 そうすれば……きっと寂しくないよね? @1 ……………………。 一瞬だけ、魔王の顔に歓喜と狂気以外の 感情が交ざったような気がした。 けれど それも一瞬のうちに消えてしまう。 @410 さぁ、どれか好きなのを選んでね! 次の攻撃がパンチなら一つ目、 キックなら二つ目、 それ以外なら三つ目を選んだと見なすよ! @133 !se(Action)跳ね がぁぁっぁぁああぁぁっ――! @1 シシトの攻撃は、\s跳び蹴り! !se(Action)ビシッ 懐深く飛び込んでの一撃は、 魔王の腹部を浅く薙ぐことに成功する。 @412 あはっ。ちょっと反応遅れちゃった。 地上でおぼれ死にだね? 私に上手くできるかな……? 心臓間違って貫いちゃわないかな? @1 まるで、料理をあまりしたことがない女性が、 初めて彼氏に手作りの 料理を出してあげるときのような顔。 ……それは、明らかな余裕。 @410 ……………………。 シシト君、あなたじゃ私には勝てない。 狂い方の度合いが違うもんね。 ちょっとは期待していたんだけどな……。 シシト君は、私とは一緒になれないね。 @1 魔王が、次第に押し始める。 シシトは戦況の変化を察知してはいたが、 悲しいかな対応するだけの知性がなかった。 できることと言えば、先程よりも慎重に、 魔王へと攻撃するということくらい。 @410 よい、しょ……っと! @1 !se(Action)跳ね シシトの腕に、 魔王の腕が蛇のように絡みついていく。 戦いの最中に思いついたのだろうか。 それは、多少ぎこちなく、素人くさかったものの、 あきらかな「技」であった。 関節を反対方向にねじり上げられ、 シシトが苦悶の表情を浮かべる。 @412 あは、こんな感じで良かったんだね。 動かない方がいいよ。折れちゃうから。 さぁ、痛めつけてあげるね……! @132 ――――――――! @1 その時、 シシトの体が奇妙な動きを見せた。 !se(Action)跳ね ねじり上げられた関節の方向に、 己の体を回転させたのだ。 その場でシシトの体がひっくり返る。 そして魔王は未だシシトの手を持ったまま。 風車の様な動きを見せ、 シシトのかかとが魔王の首を激しく打つ! @413 !se(Action)ドゴン くうっ……!? @1 攻撃力はお互いに互角。 咄嗟の動きだろうと偶然だろうと、 魔王は油断のせいで一気にダメージを負う。 !se(Action)ズシャアアー たまらず魔王は手を放し、大きく距離を取る。 シシトの体は頭から地面に落ち…\s…\s…\s… 「私」はこの瞬間を待っていた――! 観測者を放棄し、舞台の役者へと舞い戻る! @120 シシトぉぉ――っ! @410 ――――――――! シイナ……さん。 @120 こっちに来なさい――! いい加減お腹が空いたでしょう? 美味しい食べ物用意してあるんだから! 早く来ないと冷めちゃうわよ――! @133 ……………………! @410 ……はっ。 あははははははははははははははははっ! 無駄だよシイナさん。今のシシト君には、 誰の声も聞こえはしないんだから! しかも何? 美味しい食べ物!? 馬鹿じゃないの!? そんな言葉で動くなら苦労は――! @1 ……あいにくと、苦労は嫌いなのよね。 @410 えっ……? @412 シ、シシト君……? @1 ターゲットを魔王から私へと変え、 全力疾走でこっちへ駆けてくる。 @413 う、嘘っ……? 食欲なんかでどうにかなるなんて。 @120 当たり前よ、馬鹿。 @1 魔王が驚きで止まっている今がチャンス。 私は強化されたばかりの体をフル活用する。 !wait20 !mvnil @1 魔王は一つ忘れていることがあった。 シシトは、魔王だけを狙っているんじゃない。 目の前に映った全ての者を攻撃する。 一度でも興味を他に逸らせてやれば、 シシトを誘導するなんて訳がない。 ……………………。 だから魔王と距離を取らせる必要があった。 一度距離が離れてしまえば、 シシトの興味は私しか無くなる。 そして魔王は確実にそれを追ってくる! @413 しまっ……。 シシト君、待ってよ。 私と遊ぼうよ、ねぇ、ねえってばっ! @1 だだっ子みたいな声を上げながら、 彼女は私たちに少し遅れてやってくる。 @413 シシト君! あなたの相手はここにいる私なんだよ! そんな人についていっちゃだめだよぉっ! @133 ――――――――? @120 シシトッ! あなたは私の大事な弟なの! だからこんな場所で死なせやしないわ! @1 魔王を上回る大声でシシトに呼びかける。 位置関係、互いの距離を考えても、 魔王の声は簡単には届かない。 音よりも速く走れる訳じゃないけど、 私たちの速度はもはやそれに近かった。 魔王の声が届くのは、発してから数秒後。 さらにどんな大声を出したとしても、 発した場所からかなり離れてしまっているため、 声は小さくならざるを得ない。 川の流れに例えてみればわかりやすい。 私は上流からシシトにボールを流すだけで 届ける事が出来るけど、 魔王は流れに逆らって届けなくてはいけない。 多少魔王の方が声が大きくても、 この条件で私が負ける可能性はない! そう、だから常にシシトは私を見ることになる。 私が止まるか、叫ぶのを止めるまで、 延々と私を追い続ける。……魔王を含めて。 !mv倉庫街 @120 来なさいシシト。あなたを蝕む狂気、 絶対に私が取り除いてあげるから! @413 \f[14]無駄だよぉ〜〜そんなの無理だよぉ〜〜 @1 \r[魔王の叫び声,ざつおん]がうるさい。 私は負けじと声を張り上げる。 @120 私は諦めない! 無理? 無駄? なにその単語? ひょっとして新手のお菓子か何か!? 軽々しくそんな言葉使うんじゃない! それはただ逃げているだけでしょうが! まだできたくせに、やり直せたのに! 私たちは、そんな簡単な単語で 全てを捨てちゃうのよ! @413 \f[14]うるさいな、うるさいなぁ! 人に裏切られたこともない様な人が、 存在そのものを否定されたこともない人が、軽々しく諦めないなんて使うな! \f[14]どれくらい、どれくらい私がシシト君達を憎んでいるのか! そんなことも知らないくせに! どうして憎いのかも知れないくせに! \f[14]私がどれだけ諦めたくなかったのか! あなたは全然知らないでしょおぉぉっ! @120 うるさい、うるさい、うるさい! はっっ! よく言ったものじゃない魔王! 私は、どうしてあなたがシシトを憎いのか なんて、知りたくもないし興味もない! けどね……! シシト達があなたをいつ否定した!? 弟自慢じゃないけどね、この子は 絶対に人を否定するような子じゃない! @413 \f[14]嘘だあァァァァッ――! シシト君は私を裏切った!私を見殺しにしたんだ! 私のことを無視して、私のことを忘れようとしてぇぇっ! 私との時間を全て消し去ろうと、否定しようとしたぁぁっ! @120 うるさいうるさいうるさいうるさい! 絶対にシシトはそんな事しない! それはセトさんだって同じよ! @413 \f[14]嘘だ嘘だ嘘だ嘘だそれこそ嘘だ! セトさんは私のことどうでもいいって言ったんだからぁっ! 私はこの耳で、しっかりとそれを聞いたのよ! @120 耳腐ってんじゃないのあなた!? @413 \f[16]うっさぁぁぁぁぁぁい! @120 …………! (魔王の声が大きくなってる。  距離は変わってないところをみると、  相当頭に血が上ってるわね……) !mvnil @1 海岸公園を一気に走り抜け、 倉庫街の横を素早く通り過ぎる。 普段は絶対に入り込めない 車道の中心を走るのはなかなかに痛快だ。 アスファルトを踏みしめ、さらに加速する! @413 \f[16]シシト君も、セトさんも私を否定した! 諦めたくなかったわよ! 当たり前じゃない! だって、だって友達だって、そう思ってたんだからァァ――ッ! @120 なら、もう一度話し合ってみなさいよ! 三人で顔をつきあわせて、しっかりと! 二人はあなたのことを忘れようなんて、 馬鹿なことは絶対に考えていないはずよ! それで、全部解決するんじゃないの!? @413 \f[18]今更遅いよおぉおぉぉぉっ――っ! @0 ……その声は、叫びではなく慟哭だった。 肺にある全ての空気を放出するように、 魔王は、裂けんばかりの大口で声を出す。 @413 \f[18]今更……そう、もう今更なんだよ! 例え私が全部間違っていたとしても、もう戻れない! 今更、日常なんかには戻れないのよおぉっ! \f[18]私を否定した全てに復讐してやるんだ! 死ぬほど後悔させて、散々嬲ったあげくに! それ位しなければ、私の気は晴れないんだよ! @120 あなたを否定した全てに……! ふっ……ふふふっ!\s あはっはっはっはははは――! @413 何がおかしいのよおぉぉっ――! @120 \f[30]ふざけんじゃないわよ! あなたを全てが否定した? おもしろすぎてむしろむかつくわ! 先に――\s先に全てを否定したのは、 あなたの方でしょうがっ! @410 ――――――――! @120 全てがあなたを否定するわけない! あなたは、きっとやり直せたのよ! 最後まで、シシト達を信じていれば! どこで諦めてしまったのよ!\s 魔王……いや、冬村サユキ!\s この悲劇の引き金は、あなたの弱さだ! 教えてあげるわ。 諦めなければ、どんなこともできる! ゲームオーバーなんて言葉、 私たちの人生には存在しないことを! @413 \f[18]うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい――! !wait20 !mvマンション街 !bgm @1 ようやく、私は目的の場所に到着した。 街の南西に位置するマンション街。 数多く立てられたマンションは、 まるで巨大な墓標のように見えた。 @120 !bgmサスペンス !se(Action)ズシャアアー ――――――――! @1 自分でも、まだこの体が制御しきれない。 初めて車を操ったときにも似ている。 止まりたい場所の遙か前でブレーキをかける。 ……少しだけオーバー。でも誤差の範囲内。 @120 はぁっ……はぁっ……! @833 (大丈夫かシイナ……!?) @1 無線機のノイズの奥から、 クロウの心配そうな声が聞こえてくる。 @120 ……大丈夫よ、それより準備は……。 @260 (シイナ、後ろにシシトが!) @132 グオアァァッ――! @120 !se(Action)ミス ……っと。 まったく、本当に闘牛の牛ね……! @410 は、はっ……はぁっ! どうしたの、鬼ごっこは終わりかな? @120 ええ、そうよ。 !se(Action)ミス ……! 話しにくいわね、 こうもシシトが邪魔をしていると……! @412 あはは、でも避けるの簡単でしょ? @410 それで……? 散々\r[啖呵,たんか]切ってくれたけど、 一体これから何をするつもりなの? @120 決まってるじゃない。 シシトを助けるのよ……あなたから。 そして「狂気」から! @412 おもしろい冗談がいつも好きだね。 私とのゲームで調子に乗っちゃった? あの時は単に手加減しただけだもの。 今度は、手加減なんて存在しないよ。 @120 ええ、そうでしょうね。 そうじゃなければおもしろくないわ。 @412 ……くすっ。 それにしても今度の「覚醒」はすごいね。 一体どれだけの時間を削ったんだろう。 @410 いいよ、何をするかは知らないけど、 私も本気で邪魔をしてあげるから。 ……あなたはもう、私の障害だ。 全力を持って排除させて貰うよ。 @1 身構える魔王。 私はシシトの単調な攻撃を避けつつも、 その様子をうかがう。 @120 ……………………。 @410 ――――――――! @1 その足が地面を蹴る直前、 !se(Action)ビシッ !bgm 私は指を弾き合図を出す! @120 (耳を塞いで口は半開き。  地面に伏せて衝撃を緩和……!) @410 …………何を……? @1 次の瞬間。 !se(Action)爆発音 !wait8 !se(Shooting)撃破C !se(Action)爆発音 !wait8 !se(Action)爆発音 !se(Shooting)撃破C !wait8 !se(Action)爆発音 !wait8 !se(Action)爆発音 !wait8 !se(Action)爆発音 !se(Shooting)撃破C !wait8 !se(Action)爆発音 !wait8 !se(Action)爆発音 !se(Shooting)撃破C !wait8 !se(Action)爆発音 !wait8 !se(Action)爆発音 !se(Shooting)撃破C !wait8 !se(Action)爆発音 !wait8 !se(Action)爆発音 !se(Shooting)撃破C !bgm緊迫状況 \r[この周辺にある全てのマンションが一斉に爆発し、,・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・] \r[私たちに向かって倒壊し始めた,・・・・・・・・・・・・・・]。 !mvnil @413 な……ななっ……! @132 ――――――!? @0 さすがのことにシシトも魔王も硬直する。 ……最近のマンションとかビルとかは、 老朽化したらすぐに取り壊せるよう、 あらかじめ\r[壊すべき場所,・・・・・・]が存在する。 すごいところになると、 設計時から、爆薬を仕掛けるなんていう ビルも存在するらしい。 そこを壊せば、ビルは真っ直ぐに壊れ、 周辺に被害を与えることなく、 ごくごく一瞬で解体できるのだ。 だが、その位置をずらして爆発させれば……。 今のように、狙った場所に建物を倒れさせる 事だって可能――! @413 くっ……! @0 土煙の中に魔王とシシトが消える。 魔王の立ち位置には、集中的に マンションが倒れるよう調節してある。 これがどれくらいの時間稼ぎになるか。 ……一分、いや、二分でいい。 魔王がガレキの中で生き埋めになっていれば……! @120 ……………………! @0 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き 呼吸もせずに立ち上がる。 目は開けていてもいなくても、 景色が黒か茶色かの違いだ。 @260 (そこから右前方!  シシトの反応があるぞ……!) @1 シシトには、さっき攻撃を避ける際に、 小さめの発信器を付けて置いた。 同じ者を私も仕込んでいる。 アルバート君のナビに従って、 混乱して逃げ回るシシトを追う……! @260 (……随分走り回っているな。  そのまま真っ直ぐ。そこを左……!) @1 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き どこだ、シシトは……シシトは! @260 (そこだシイナ! 手を伸ばせ!) @120 っ……! @1 !se(Action)ビシッ (ガシッ!) @133 ――――!? @1 掴んだのは、シシトの髪の毛だった。 砂でよごれて大分ざらざらした手触り。 改めて手を握る暇はない。 私は、そのままシシトの髪を掴んで、 今までとは反対方向へと走り出す! @260 (そのまま真っ直ぐだ……!  よし、俺達は魔王を引きつける!) @1 声を出すことは出来ないので、 心の中だけで「お願い」と返事をする! @132 ガァァッ! @120 ――――――――! @0 右手に、鋭い痛みが走った。 ナイフでも突き立てられるような感覚。 ……噛みつかれている。 その力はまるでサメかワニだ。 このまま食いちぎられるんじゃないかと冷や冷やした。 ……っの! もう少し、大人しくしなさい……! せっかく助けてあげようってんだから……! ……………………。 肌に絡みつく砂が消える。 ……いい加減、呼吸を止めるのも限界だった。 新鮮な空気を肺がほしがっている。 ……これでもし、まだ砂煙から抜け出せていなければ、 私は激しく咳き込み、多分倒れる。 ……限界の限界が訪れる。 私は覚悟を決め、目を開くと同時に息を吸った。 !mvマンション街 !bgm @120 ぷはっ……! はっ……はぁっ……はぁっ! @1 !bgmサスペンス 砂煙は遙か後方にあった。 数ブロック先のマンションの手前で、 私は思い切り新鮮な空気を吸った。 @132 ゲホゲホッ……ガァァッ! @120 !se(Action)跳ね っ……離しなさい、このバカ! @132 !se(Action)殴打 ゲハッ! @1 大きく腕を振り払い、 私に噛みついていたシシトをふりほどく。 @120 ……ようやく二人きりになれたわね。 @133 う゛う゛う゛う゛……! @120 ……ひどい顔。 あなたにそんな顔は似合わないわ。 @132 う゛お゛お゛っ! @120 本当に獣みたいな声。 ……これは、元に戻すのは苦労しそうね。 @1 髪の毛を逆立て、 真っ赤に血走った目のシシトが襲いかかる。 @120 !bgm緊迫状況 簡単にはキスさせてくれないようだから、 ちょっと痛めつけるわよ……! おいでなさい、\r[子猫,ナナシ]ちゃん。 お姉さんが、調教してあげる……! @1 ぺろりと唇を舐める。 自分でやっておいて何だけど、 その表情は、なかなかに壮絶だっただろう。 @132 う゛お゛お゛あ゛あ゛あ゛――っ! !mvnil @0 ……そろそろ魔王が起きあがってくるだろう。 アルバート君達が引きつけてくれるとしても、 せいぜい許された時間は一時間。 焦る必要はない。急ぐ必要がある。 私は私に出来る全力を持って、 シシトを狂気から救い出す……! だからお願い、 それまでどうか持って、私の体……! !wait30 !mvマンション街 !mv\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx !bgmサスペンス @410 ……………………! @413 !se(Shooting)撃破A !se(Shooting)撃破B !se(Shooting)撃破C でりゃぁぁっ! @1 大量に降ってきたガレキをものともせず、 魔王は両手を大きく広げると共に、 その全てを吹き飛ばした。 @410 はぁ、\n[2]\n[2]はぁ、\n[2]\n[2]はぁ、\n[2]\n[2]はぁ……!\s もう、驚いちゃったなあ……! シシト君……シシト君は……!? @130   @410 そこだねっ! !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き あはははははははっ! 逃げるなんてシシト君らしくないねぇ! 戦おうよ、遊ぼうよ、ねえ! @130   !mvnil @410 ……………………? @130   @410 どこにいくのよ、シシト君。 !mv住宅地 !mv\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx @410 ………………あれ? いつの間に、私こんな所まで……。 @260 よぅ、昨日は世話になったな、冬村。 @410 アルバートさん? あれ? 私はシシト君を追いかけたのに。 @940 \r[幻霧,イリュージョン]の\r[理力,フォース]。 相手に幻を見せて混乱させる\r[理力,フォース]だ。 お前みたいな状態の人間には 特に有効な\r[理力,フォース]だな、ケケケッ! @410 ……………………。 囮、かな。 随分と回りくどいんだね、シイナさんは。 @260 冬村。……悪いが、シイナ達の所へ 行かせるわけにはいかない。 @412 あはっ。 私をどうにか出来ると思ってるの? @410 くだらない。あなた達を叩きつぶして、 さっさとシシト君の所に行くね。 @260 ……………………。 そうだな。このまま戦えば、 俺達の負けは目に見えている。 だから冬村。ゲームをしないか? @410 ……え? @260 お前は時間を、俺達は命を賭ける。 単純な鬼ごっこだ。 俺達が逃げる役、お前が鬼の役だ。 俺達が掴まったら、 煮るなり焼くなり喰うなり好きにしろ。 だが、それまでは俺達につきあって貰う。 @410 ……………………。 @260 なんなら、シイナ達の邪魔を 手伝ってやっても良いんだぞ? @410 ……………………。 いいよ。のってあげる。 くだらないけど、余興には良いよね。 @260 ……フッ。 お前ならそう来ると思っていた。 ゲームが大好きだからな、お前は。 @412 シルフドラグーンなんかに もう興味なんか無いよ。 所詮テレビゲームだもん。 命をかけたゲームに勝りはしないよ。 @260 (命をかけた\r[ゲーム,・・・]か) (ふん、くだらないな……。) ……では、カウントだ。 きっかり十秒、数えて貰うぞ。 @412 ふふふっ……こういうのも久しぶりだね。 @410 ……………………。 い〜ち……、\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]に〜ぃ……、\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]さ〜ん……、 @1 !bgm(タクミ)ボス戦 !se(Action)バリア音 俺は後退しながら、 ポケットの中にある物のピンを素早く抜いていた。 ネコは俺よりも早く後退しながら、 クロウとスケイルが既に乗り込んでいる オープンカーの運転席に乗り込んだ。 @260 しかしネコ、運転できるのか? @940 機械の操作は得意なんでね。 この体じゃアクセル踏めねぇが、 そこはスケイルに頼むさ。 @813 がんばりますっ! @261 頼むから事故だけは起こすなよ……! @940 大丈夫だ、しっかりと教えたからよ。 ゲーセンのレースゲームで! @813 ニューレコード出しました! @261 不安だ……。 @833 同感だ……。 @410 な〜な、\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]は〜ち、\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]きゅ〜う……! @1 !se(Action)ミス !wait5 !se(Action)ミス 十! 俺は催涙弾を魔王に向かって投げる。 クロウも口にくわえていた同じ物を、 器用に投げはなった。 @412 !se(Shooting)撃破B !wait5 !se(Shooting)撃破B あっははっ……! @1 煙の中に消える魔王の姿。 ……催涙弾は、あまり効果がないか。 @940 行くぜっ! @260 事故るなよ! @940 保証はできんぜ! ケケケケケッ! @813 アクセルって言われたらこっちで、 ブレーキって言われたらこっちで……! @940 アクセル! @813 は、はいっ! @262 どわあぁっ!? @1 景気よくアクセルが踏まれると同時に、 普段じゃ絶対に出せないような速度で スポーツカーが街へと飛び出す。 @262 速すぎだぁっ! 何キロ出ているんだ、これは! @940 あぁ!? まだほんの100だ! @833 こ、これはきついな……! @260 距離を取りすぎても、 魔王が俺達を見失っては 意味がないだろうが! @940 その心配はなさそうだ! 向こうも大した速度じゃねえか! @410 あははははははははははははははははは! 私はあんまりやらないけど、 カーレースって言うのも嫌いじゃないよ! @262 向こうも馬鹿みたいに速っ!? ネコ、こっちが負けているぞ! もっと速度出せ速度――! @940 おうよ! この車も随分はしゃいでるぜぇぇっ! 公道じゃ、普段はこんなに暴れられねぇ! さぁ、一世一代、暴れていくぜ! @1 ……………………。 このネコのハイテンションは何だ? ……人間だったら絶対暴走族だな。 @260 さて、驚いている暇もないな。 俺達も、出来るだけ応戦するぞ。 @1 後部座席を埋め尽くす大量の制圧用武器。 俺はその中の一つを取る。 もちろん シイナ達が警察署からかっぱらってきた物だ。 @830 わかっている。 だがこれだけで果たして持つのか……。 @260 持つかどうかじゃない。 力の限り、持たせるしかないのだ。 シイナがシシトを救えば、 それで全ては解決する……。 ……………………はずなのだがな。 @830 どうした、何か問題でもあるのか? @260 いや……。 人間、欲というのは恐ろしいな。 一つの事が成功できたのなら、他の もう一つも成功したいと考えてしまう。 ……今更だな。 今俺達を追ってきているあいつを、 助けてやりたいと思うなど……。 @830 ……………………。 @260 さて、馬鹿な話はここまでだクロウ! ありったけの武器で、魔王を足止めする! しっかりとサポートしてくれ! @830 うむ! !mvnil @0 ……………………。 今更だ。本当に今更だ。 ……だが、夢見るだけなら、自由だ。 もしもシイナがシシトを救えるのなら、 同じように、魔王もまた冬村サユキに戻れるのだろうか。 ……いや、今考えるのはよそう。 雑念は照準を鈍らせるだけだ。 非致死性のゴム弾を発射する銃を構え、 俺は魔王に向かって引き金を引く。 クロウも催涙弾を器用に投げていく……。 ……さて、これでどれだけ持つか。 あまり時間はないぞ、シイナ……! !bgm !wait30 !mvマンション街 !bgmバトル02 @120 でりゃぁっ! @133 ガァァッ――! @1 !se(Shooting)撃破A !se(Shooting)撃破B !se(Shooting)撃破C シシトと私の拳がぶつかり合う。 互いに全力での一撃は奇しくも同じ威力。 大砲のような音と共に周囲の草が吹き飛んだ。 @120 !se(Action)跳ね ふぅっ……! !se(Action)ミス りゃっ! @1 素早く拳を引き、 首の当たりを狙っての上段蹴り! それを―― @133 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き ――――――――! @120 っ――! @1 シシトは臆せずに前進することで、 その打撃位置を変え、威力を弱めた。 !se(Action)ビシッ 膝の部分がシシトの肩にヒットする。 一瞬だけひるむように表情を変えたけど、 シシトの戦闘意欲はまるで消えていない! @132 う゛お゛お゛お゛お゛お゛っ! @120 !se(Shooting)撃破C づぅっ……! @1 爪が私の脇腹をえぐる。 炎を詰め込まれたような激痛。 @120 (寸前で避けたと思ったのに……!) (……なまじ手加減してこない分、  瞬間的な攻撃力は、魔王より上かも) @1 シシトの爪は手袋を突き破り、 ナイフのような銀光を放っている。 @133 フ――! フ――! フ――! @120 ……………………っ! @1 だがよく見てみれば、シシトにも傷がある。 魔王との長時間にわたる戦いのせいだろう。 藍色の服には所々血が付着していて、 特に腕はひどく傷ついていた。 ……六十倍じゃ足りなかったのか。 手負いのシシトと戦って、ようやく互角。 本気だったら、負けていたかも……。 @120 (早めに決着を付けないと。  私もそうだけど、これ以上の戦闘は  シシトの体に危険すぎる……!) @133 グルルル――! @120 ……いくわよ、シシト! @132 グオオオッ――! @1 相変わらず芸のない突進。 だが私はあえてそれに合わせるよう前へ駆ける! @120 !se(Action)跳ね ――――っ! @1 !se(Action)ミス 激突の瞬間に、素早く身を屈める。 !se(Action)跳ね !wait8 !se(Action)殴打 地面に手を付き体を支え、 体を僅かに横にずらしながら、 シシトの膝裏へ蹴りを放つ! @133 !se(Action)跳ね ――――――――!? @1 関節の構造上、 ここを強く蹴られれば、 人は確実にバランスを崩す。 ガクンとシシトの片膝が地面に落ちる。 まるで姫に忠誠を誓う騎士の様な格好。 @120 今だっ……! @1 この状態から立ち上がろうと、 シシトの足に力が込められる。 片膝立ちから立ち上がるには、 立てている方の――つまりは私が 蹴っていない方の足に力を込める必要がある。 !se(Action)ドゴン わたしはその足を――踏む。 @133 ――――――!? @1 シシトは立ち上がろうと何度ももがくが、 そう簡単に立ち上がることは出来ない。 私はこの隙に、素早く息を整え―― @120 !se(Action)跳ね せぇっ……! @1 踏んでいた膝を踏み台にして 軽く飛び上がり――! @120 のっ! @1 !se(Shooting)撃破A !se(Shooting)撃破C 空中に浮いたまま、 たたんだ膝をシシトの顔に叩き付ける――! @132 グエェェェェェ――! @1 !se(Action)ズシャアアー 顔を強打され大きく吹き飛ぶシシト。 @120 ふぅ……! \r[真空跳びヒザ蹴り,シャイニング・ウィザード]……。 咄嗟の思いつきだったけど、 ちゃんと成功するなんてね……。 ……よし! いける! この調子なら――! @1 !bgm だがその瞬間―― !mvnil !bgs(環境)心拍 !wait25 !bgs !mvマンション街 !mvnil !mvマンション街 !mvnil !mvマンション街 !mvnil !mvマンション街 !mv\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx @1 世界が一瞬、暗転した。 @120 ぐぅぅぅっ!? ――ゲホッ……\n[2]\n[2]\n[2]グッ……\n[2]\n[2]\n[2]\n[2]――! @1 !bgm緊迫状況 それは例えるなら、 ダンプカーに全身を押しつぶされるような、 計り知れないほどの激痛だった。 目の前が真っ赤に染まる。 胃の中がひっくり返って喉を逆走する。 ……私は、口の中に溜まっていた物を たまらずにはき出した――。 @120 う、えぇっ……! ……………………! @1 真っ赤。目の前もそうだけど、 口を押さえていた手が真っ赤だった。 @120 (嘘……もう、限界なの……!?) @1 ……………………。 そう、 確かに「覚醒」の\r[理力,フォース]に私は耐えきった。 女神様さえも凌駕できる能力を手に入れた。 ……けれど、代償は大きかった。 寿命がどうとか、もはや関係ない。 動くだけ。小指を一歩動かすだけでも、 私の体力は極度に消耗してしまう。 ……つまり、燃費が極端に悪い車だ。 全力で行動できるのは、本当に僅かの時間。 ……その限界が、今まさにやってきたのだ。 @120 う、ううっ……! !mvnil !mvマンション街 !mvnil !mvマンション街 !mvnil !mvマンション街 !mvnil !mvマンション街 !mv\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx @1 明滅を繰り返す景色。 足はふらつき、拳は上手く握れない。 呼吸は乱れっぱなしで、心音だけが早鐘を打つ。 @120 (もうすこし、もう少しだけ……!) @132 ガァァァッ――! @120 シシッ――! @1 !se(Action)ズシャアアー 大振りの一撃をバックステップで避ける。\s 足がもつれた、\s 肉が千切られる音。 @120 う――\sあ゛ァァッ――! @1 膝を付く。\s慌てて立ち上がる。\s目の前にシシト。\s 蹴り飛ばされた。\s頭を強打。\s立ち上がる。\s 腕に噛みつかれる。\sふりほどく。\sできない――! @120 はぁ、はぁっ……はぁ、はぁっ! @133 グルルルル――! @1 慌てて後退。\sおいつかれる\s まずい、\sまずい、\sまずい、\sまずい まずい、まずい、まずい、まずい――! @120 ゼッ……ハッ……! クッ……! @1 心臓がはじけ飛びそう。 目が充血して景気よく吹き飛びそう。 全身が痛くて自殺したくなりそう――! @132 !se(Action)跳ね グオォォォッ――! @120 …………っあぁぁぁぁっ! @1 !se(Shooting)撃破A !se(Shooting)撃破B !se(Shooting)撃破C 反撃する。一歩歩いてフルマラソンの疲労。 腕がひしゃげたかもしれない。 まったく、この馬鹿弟――! @120 でりゃぁぁぁっ! @1 !se(Action)跳ね !wait6 !se(Action)ドゴン !wait10 !se(Action)殴打 !wait10 !se(Action)ビシッ !wait10 !se(Shooting)カノン 跳び蹴り、正拳、頭突き、みぞおち付き! 残る全部の力を振り絞って、 私は最後のラッシュをかける――! @133 う゛う゛う゛う゛う゛う゛! @120 死ぬんじゃないわよっ――! @1 次のラッシュで多分ラスト! 自分とシシトに強く念を押して、私は駆ける! シシトの膝を蹴って転ばせて、 立ち上がろうとしている所を踏みつけて! そこから真空跳びヒザ蹴りなのは同じ。 @120 っ……ぁぁぁぁぁあぁぁぁ! @1 !se(Action)ビシッ だがそこからが違う。 ヒザ蹴りの威力は重要視せず、 先程よりも高く跳躍する事に集中する。 ヒザが命中し、ひるんだシシトの頭に、 私の足が絡みつく。 ……傍目から見れば、結構恥ずかしい格好だ。 @120 うぅぅぅっ! @1 !se(Action)跳ね シシトが足に噛みつくのさえ無視し、 私は背筋を総動員して体を弓なりに反らせる。 !bgm ……ふわっと、浮遊感があって、視界が回った。 私の体が空中に舞い上がる。 その足でシシトをしっかりと捕らえたまま。 ……………………。 ……こんな激しい戦いをしているのに、 空は馬鹿馬鹿しいくらい快晴ね――。 @120 !bgmバトル02 でりゃぁぁっ! @1 感覚が研ぎ澄まされたせいだろう。 何もかもが一瞬スローモーションに見える。 しっかりと捕らえられたシシトの体は、 私が空中に跳び上がるとその位置関係を、 私の下から上へと変えていた。 このまま落下すれば、 私が地面に頭を叩き付けられるだろう。 だから、もう四分の一回転。 攣りそうな背筋を何とかなだめ 私は空中でシシトより僅かに上へ並ぶ。 絶対にこの体勢を崩さない。 落下し始める私たちの体。 シシトの頭をこのまま地面に叩き付ける! @132 !se(Shooting)撃破C グアァァァッ――! !wait30 @120 !bgm はぁっ……\n[2]\n[2]はっ……\n[2]\n[2]ぁ……\n[2]\n[2]はぁっ! @1 呼吸が定まらない。 手加減するのを忘れて攻撃してしまった。 最悪、シシトを殺してしまったかも……。 ……………………。 !bgmサスペンス その心配はなかったようだ。 頭に相当なダメージを負いながらも、 シシトは、まだ倒れてはいなかった。 @133 ゼェッ……\n[2]\n[2]ゼッ……\n[2]\n[2]ハッ……\n[2]\n[2]ハッ……! @120 ……いい感じに、弱ってくれたわね。 @1 !se(Action)ミス !wait5 !se(Action)ミス !wait5 !se(Action)ミス !wait5 !se(Action)ミス こっちも、もう立っていられない。 私はポケットから四本のダーツを取りだし、 シシトの体へ投げつける。 @132 !se(Action)ビシッ !wait5 !se(Action)ビシッ !wait5 !se(Action)ビシッ !wait5 !se(Action)ビシッ ギャァァァッ――! @120 ……………………っ! @1 思わず耳を塞ぎたくなるような絶叫。 ダーツは寸分違わず、シシトの体を貫いていた。 右手と左手の掌に一本ずつ。 右と左の足首の当たりに一本ずつ刺さる。 背後にあったマンションの壁に、 ダーツの半分以上がめり込んでいる。 ……シシトは、壁に貼り付けられていた。 まるで蝶を生きながら標本にするよう。 ……だくだくと、掌と足から出血して、 しかもそこから逃げだそうと身をよじっている。 @120 ごめんね、シシト……。 でも、これくらいは我慢しなさいよ……! あなたは、 いろいろな人に迷惑かけたんだから。 これくらいのペナルティ、背負いなさい。 @1 体が重い。もう一歩も動けない。 悲鳴を上げている肉体を何とかなだめ、 私は一歩、また一歩シシトに近づく。 !mvnil !mvマンション街 !mvnil !mvマンション街 !mvnil !mvマンション街 !mvnil !mvマンション街 @120 …………くっ。 @1 また視界が明滅する。 ……苦しい。息をするだけでも激痛だ。 一刻も早く「覚醒」を解いて貰わないと……! けど……その前にやるべき事がある。 ……………………。 シシトは、脱出を諦めたのか、 貼り付けにされたままぐったりとしていた。 @120 はぁっ……はぁっ……! シシ、ト――! @1 ようやく、私はこの子の近くに立つ。 @133 !bgm ……………………。 @1 !bgm別れ 獣は負けを認めれば大人しくなる。 けれど、シシトはまだ私への敵意を消せない。 @120 姉さんよ。分からないのシシト? @133 ううううう……! @120 ……………………。 大丈夫よ、怖がらないで。 ……あとは、全部私に任せなさい。 @1 そっと手を伸ばす。 攻撃されると思ったのだろう。 シシトが唯一動く顔を使い、私に牙をむく。 @133 グルルルル……! @120 ……………………。 @1 そっと、その両頬を手で挟み込む。 攻撃されるのではないと悟ったのか、 シシトの動きが、一瞬だけ止まる。 ――口づけを交わすなら、この瞬間。 @120 ……………………。 @130 ……………………。 @1 少しだけドキドキする。 セトさんの言葉を思い出してしまう。 @403 (滅ッッ茶苦茶恥ずかしいですよ、アレ。  自分から……なんて考えたら、  顔から火が出ちゃいますよ) @1 ああそうね。本当に恥ずかしい。 ……女の子のファーストキスが、 いきなり自分から? 勘弁してよ。 ……けど、その恥ずかしさを、 私は義務感とかで押さえ込みはしない。 だって、このキスは「愛」を伝えるもの。 恥ずかしいなら恥ずかしいで構わないんだ。 義務感でイヤイヤやったら、伝わらない。 ……そう、だから私は望んでキスをする。 恥ずかしいけど、弟なんだけど、 それでも、私は喜んでこの子にキスしよう。 @120 シシト……。 お姉ちゃんの初めてをあげる。 ありがたく、奪いなさいね。 @130 ……………………。 @1 無防備で、小さなその唇に、 私は静かに自分のそれを重ねた。 ふわっと、唇に浮遊感。 じんと、体に熱が伝わっていく。 そうして――唐突に私の意識は落ちた。 !wait30 !bgm !wait30 !v27=2 !mv自宅 !bgm安らぎ @120 うぅ……ん。 …………あれ? な、なんで私ここにいるのよ!? @1 自宅だ。 紛れもなく家に私は立っている。 @120 (落ち着きなさいシイナ。  状況をよく確認して……) @1 自宅の玄関で、私は棒立ちしている。 ……先程までの戦いの傷は一切無い。 体は快調だし、痛みも感じない。 @120 (私はシシトと戦って……  そのあと、ちゃんと口づけも出来て) (それから、何で急にこんな所に?) @1 キスした瞬間気絶した、 というわけでもなさそうだ。 それだったら起きた時はベッドの上のはず。 今の状況は、まるで理解できない。 ……………………。 いや、実はあの後事件は解決したけど、 私は記憶喪失になっていて その状態で日々を過ごしていた。 けれど今日、ふとしたきっかけで記憶が戻り、 今度は記憶を失っていたときの記憶が消えた。 ……なんて馬鹿馬鹿しい事も考えてみる。 @120 (馬鹿だ……私) @1 それでも一応頭を撫でてみる。 幸いタンコブの類は見つからなかった。 @120 (落ち着きましょう。  まずは家の中を調べましょうか……) @1 玄関を通り抜け、 私はなじみのある家へ慎重に入る。 @110 あら、どうしたのシイナ。 そんなにカッチンコッチンで。 @120 ――――――――! 母さん……? フランスに行ってたんじゃないの? @111 あら? 私が行くのはフランスパンツよ。 @110 家族を置いて、 一人でフランスなんかに行くものですか。 @120 ……………………。 @110 そんなことより、 夕ご飯の準備するから手伝って。ね? @120 あ、う……うん。 @1 しまった。 思わず母さんの言葉に流されてしまう。 ……ここは、体調の悪さでも主張して、 さっさと自分の部屋にこもるべきだった。 思ったより、冷静さを欠いている。 ……落ち着こう。料理をしながらでも、 思考を張り巡らせることは出来る。 @110 それじゃあ今日はこれを作るから。 @120 ……やたらと豪華ね。 普段はご飯と味噌汁だけなのに、 ピーマンの肉詰めとポテトサラダなんて。 @110 ……? 何言ってるのシイナ。 これくらいいつも作っているでしょう? @111 もしかして、遠回しな皮肉? @120 ち、違うわ。 ……そうよね、普通よね。これが。 @1 確かに普通だ。 質素というわけでもないが豪華でもない、 一般の家庭で出てくる料理の数々。 作るのにもそれほど苦労はしないし、 私に手伝える事なんてたかが知れていた。 !se(Action)学内歩き !wait2 !se !wait5 !se(Action)学内歩き !wait2 !se !wait5 !se(Action)学内歩き !wait2 !se !wait5 !se(Action)学内歩き !wait2 !se ……適当に野菜を切りながら、 私はなんとか落ち着きを取り戻した。 ……………………。 まず母さんの言動。これがおかしい。 「家族を置いて、  一人でフランスなんかに行くものですか」 ……言っちゃ悪いけど、「行く」人だ。 おもしろければ、マフィアにだって喧嘩を 売りそうな人だもの。母さんて。 ……だから、まずここがおかしい。 次におかしいのが、料理。 母さんが作れないレベルの料理じゃない。 けど、母さんがここまで「豪華」に 作る事は滅多にないのだ。 ……作ってくれるのは、 姉弟のどちらかが本気で沈んでいるとき。 それ以外では、白米と味噌汁か\r[空気,エアー]だ。 ……少なくとも、 ここは私の知っている村上家じゃない。 @100 !se(Action)ドア開け !wait20 !se(Action)ドア閉め ただいま〜。 @120 ――――――――! @110 あら、おかえりなさい。 @100 あ、姉さん帰ってたんだ。 @102 でも毎日遊びっ放しって言うのも、 弟としてはどうかと思うなぁ……。 ちゃんと仕事見つけなよ、姉さん。 @120 え? @1 合わせろ、私――! @120 え、ええ……そうね。 私もそろそろ仕事見つけないと。 @102 ……………………? どうしたの姉さん。 頭でも打った? @111 シイナが就職意欲を見せるなんて、 明日はマッチョでも降るのかしら? @101 マッチョ降ったら怖いよ! @120 あ、はは……。 @1 !mvnil 確信する。 これは私の知ってる世界じゃない。 この世界の中では、 私は仕事もせずにぶらぶらしている 遊び人であるようだ。 ……シシトと母さんが私を騙している? いいや。そこまで悪趣味な二人じゃない。 ……………………。 確信はないけど、私の予想が正しければ、 ここは……シシトの世界。 あの子が望んだ……家庭の姿なんだ。 !wait120 @0  ……TO BE CONTINUED…… #白鳳院作・思い出の檻11・後編 !bgm !v27=2 !v35=1 !v36=1 !v29=1 !v37=1 !v28=2 !wait30 !bgmバトル02 !mv住宅地 @260 !se(Action)ハンドガン !wait3 !se(Action)ハンドガン !wait3 !se(Action)ハンドガン !wait3 !se(Action)ハンドガン !wait3 !se(Action)ハンドガン !wait3 !se(Action)ハンドガン !wait3 !se(Action)ハンドガン !wait3 !se(Action)ハンドガン チッ……! 向こうもこちらの動きに慣れてきたな。 先程から、全然攻撃が当たらない。 @940 気にするな。所詮時間稼ぎに過ぎない。 ……それより、まずいのはこっちだな。 @410 あははははははははははははははははっ! どうしたのかな? さっきからどんどん 速度が落ちてきてるよぉぉぉっ――! @260 くっ……! どうしたのだネコ。トラブルか? @940 馬鹿言え。整備はばっちりだ。 ただ……。 @260 ただ? @940 ガソリンが切れてきた。 @262 阿呆――――! ちゃんとそれくらい入れておけ! @940 ちゃんと入れたっつーの。 ……これだけの速度で走ってりゃぁ、 そりゃガソリンも切れるって。 少し速度を抑えて走るぜ。 速度は魔王に劣るから、 手持ちの武器で何とか魔王を遠ざけろ。 @260 結局こっち頼みか。 @833 ううむ……しかしこのままでは。 @260 この距離ではまず当てられないな。 攻撃したところで無駄足だろう。 @1 ……………………。 シイナが「治療」を開始してから、 もう数十分が経とうとしている。 ……何とかなったという報告はない。 @412 あはっ……! @413 しんくう――! !se(Action)シュビー !wait10 !se(Action)シュビー !wait9 !se(Action)シュビー !wait8 !se(Action)シュビー !wait7 !se(Action)シュビー !wait6 !se(Action)シュビー !wait5 !se(Action)シュビー !wait4 !se(Action)シュビー !wait3 !se(Action)シュビー !wait2 !se(Action)シュビー !wait1 !se(Action)シュビー @260 来るぞっ! @940 ――――――――っ! @413 ――っどぉぉおけぇぇぇん! @1 !se(Action)ジュゴー 体を屈め、座席にしっかりとしがみつく。 @940 とぉりゃあぁぁっ! @814 きゃあぁぁっっ! @1 !se(Action)ズシャアアー ネコが全身を使ってハンドルを切る。 車は見事に反応し、車線を一つ変える。 次の瞬間、光の波動が右のミラーを砕いた。 @261 ギリギリか……! @940 このままじゃ、あと30分ともたねえぞ! @260 ……………………。 ネコ、速度を下げろ。 @940 あぁ!? @833 ア、アルバート!? @260 外したら、危険だがな。 @1 ガスの力で硬化ゴム弾を打ち出す、 警察独特の銃を取り出す。 ……銃と言っても、見た目はランチャーだ。 人が当たれば悶絶間違いなし。 非致死性武器の中でもかなり威力がある。 @260 この距離ではこれだけある武器も まさに宝の持ち腐れだろう。 @940 ……………………。 自信は? @260 どうやら俺は、 シューティングは得意らしいな。 @940 ……………………。 よっしゃ。わかった。 外したら全員死ぬぜ! 覚悟しとけ! @261 チッ。 プレッシャーを与えるな。馬鹿ネコ。 @940 ケケケケッ! @1 見る見る速度を落としていく車。 魔王の歪んだ笑顔がどんどん近づいてくる。 @260 ……………………。 @1 この小さな体には、 グレネードランチャーほどもあるこの武器は、 あまりにも大きく扱いづらい。 ネコの乱暴な蛇行運転もあって、 この距離では照準を合わせられない。 @410 あははははははははははははははははっ!\s ガス欠かな? 故障かな? それとも全部諦めちゃったかなぁ!? @260 クロウ、距離が分かるか。 @830 五十メートルだ。四十五、四十……。 @260 クソ……揺れるな。 ネコ! もう少し落ち着いて走れ! @940 \r[奴,やっこ]さんの波動で車吹き飛ばされてぇか! それならいくらでもやってやるぜ! @261 クソ……! @830 落ち着けアルバート。 魔王が近づけば近づくだけ、 当てやすくはなるのだろう? 今から焦っても仕方あるまい。 @260 そうだな……。 @1 クロウの一言で呼吸を落ち着ける。 問題ない、どうせまだ何もできん。 @260 ……………………。 @1 照準をのぞき込む。 ……ズームになってはいないのに、 何故か冬村の表情がハッキリと見えた。 ……狂ったような声を上げて、 気味の悪い笑顔で走ってくる冬村。 その顔は、とても醜悪なのに、 俺にはとても悲しそうな表情に見えた。 @833 アルバート! あと5メート……! @413 !se(Action)跳ね 何を、ぼぅっと……\sしてるのよ! @260 ハッ!? @940 アクセル! @813 はいっ! @1 !se(Action)殴打 !se(Action)重いドア開け.ogg 車の後部が僅かに破壊される。 とっさに加速しなければ、 間違いなく座席にまで届いていた。 @260 っ! @1 ぶれないように、しっかりと銃を構える。 @410 あはっ! この距離なら当たるとでも思った? @260 ――っ! @1 !se(Action)カチャッ 気合いを込めて、引き金を引く。 !se(Action)銃声 途端に俺の体は上を向き、姿勢が崩れる。 @833 アルバート! @260 すまんっ! 魔王は!? @833 駄目だ。 距離は少し離れたが、避けられた。 @260 ……………………。 ……つまり、いくら魔王でも、 これに当たれば吹き飛ぶのだな。 @830 ポジティブな考えだ。 その意気や良し。 ……しかし当たらなければ意味がないぞ。 @260 ……コツは掴んだ。 次は当てる。 @1 次弾を装填。 見た目は、少し小型のドッヂボールだ。 弾というよりは球という方が合っている。 @830 弾はそれで最後だ。 元々その武器専用の弾だからな。 @260 あぁ……。 @1 さて、手持ちの武器で、 魔王を吹き飛ばせる武器は、 これだけしかないだろう。 ……………………。 確実に当てるには、これしかない。 @260 ネコ、もう一度だ! 速度を下げろ! @410 何度やっても同じだよっ! @1 魔王が再び速度を上げてくる。 基本的に、最高時速が速いものほど 加速の効率は悪いものだ。 だが、魔王はそれに当てはまらない。 人間の足の加速力と、車の最高速度。 この両方を持っている。 速度を下げた車が、魔王の速度を超える前に、 魔王は俺達の車を粉々にするだろう。 @260 ……………………。 @1 俺は、ギリギリまで粘る。 それこそ、魔王がもう一度腕を振りかぶるまで。 @833 アルバート!? @940 アクセル! @260 ブレーキだ! @812 え……えっ!? @1 同時に出された正反対の命令。 スケイルは一瞬だけ戸惑った後、 @813 えいっ! @1 ブレーキを、踏んだ。 (キイイイィィィィッ――!) @410 ――――――――! @1 車体後部を狙っていた魔王は、 減速し、自分へと迫る車体に反応できなかった。 !se(Shooting)撃破A ……鈍い衝突音。 事故を起こすとこういう衝撃があるのだな。 後学のために一つ覚えておこう。 @260 ……魔王、 俺の攻撃は当たらないと言ったな。 @1 俺は既に行動を開始していた。 座席からさらに後ろ、トランクの上へ。 @410 ――――! @260 だが、ゼロ距離ならばどうだ? @1 俺は魔王の顔に銃口を押しつけ、 !se(Action)カチャッ 引いた。 @413 !se(Action)銃声 !se(Action)ドゴン !wait3 !se(Action)ズシャアアー ぐぎゃっ……! @1 魔王の顔にゴム弾が衝突する。 体は吹き飛び、道路へ転がる。 !bgm だが―― @261 くうっ……! @940 アルバート! @1 !bgs(環境)心拍 俺も銃を撃った反動によって、 全く同時に道路へと転がり落ちる。 ……ここまで不安定な場所で、 反動の大きい武器を使えばこうなる。 これくらいの覚悟は出来ていた。 転がり落ちて、どれだけの怪我になるか。 ブレーキを踏んだ車だったが、 それでも60キロはゆうに出ていた。 ……地面に激しく体を打ち、死亡。 運良く生きていても、 魔王が俺を八つ裂きにするだろうな……。 @260 ……………………。 @1 地面が近づいてくる。 俺は覚悟を決め、 だが決して目はふさぐことなく―― !bgs ……\s……\s……\s……。 @830 アルバート。 死を覚悟する勇気があるのなら、 その前に腹筋を使う根性を見せてくれ。 @1 俺の服の端を、 クロウがギリギリで掴んでいる。 俺の命は、 ゴシック調の服独特の厚い生地によって、 なんとか繋がっていたようだ。 @260 !bgmサスペンス ふぅ……。 ……ここで死ぬのが、 やはり正義の味方として正しいと思うが。 @940 馬鹿言うな。 何が正義で何が悪かさえ知らぬ人間が、 そんな軽々しく正義の味方なんて使うな。 @260 軽口だ、受け流せ。 @940 あいよ。……さて、今の内に ガソリン補給をしておきたいが……。 @260 そこまでの余裕は与えてくれないだろう。 ……もう奇襲は通用しないだろうな。 さて、あとは任せるぞネコ、スケイル。 せいぜい一分でも長く、 俺達を生存させてくれ。 @940 ケケケッ――言うじゃねえか相棒。 っっしゃぁ! 見せてやるぜスケイル! @813 がんばりますっ! !mvnil @1 ……………………。 再び、俺達と魔王の鬼ごっこが始まる。 既に武器は尽きかけ、 どうせ重りになるだけだと 道路に全て捨ててしまった。 ……俺達が殺されるまでの タイムリミットは、確かに近づいている。 ……早く、早くしろシイナ。 もう、時間はないぞ……! !bgm !wait30 !mv住宅地 !v35=2 !v36=2 !bgm緊急事態 @101 !se(Action)ジュゴー 行ってきますチクショ――! @111 ホホホ、がんばってね〜。 ちなみにあと二分五十五秒〜♪ @120 母さん、私も行って来るね。 @111 昼食までには帰ってくるのよ〜 @120 !se(Action)ジュゴー ――――――――! @101 !se(Action)ジュゴー フオオォォ――! @1 毎朝恒例の三分ダッシュ。 シシトの世界でもそれは健在だ。 幸い身体能力は強化されたままだ。 シシトに追いつくことは容易い。 私は住宅地の影に隠れながら、 シシトの行動を追っていく。 だいたい一分で700メートルを 走りきった頃――。 @103 ラッキー! ショートカット用トラック発見! !se(Action)跳ね 乗車!(※犯罪です) @120 (あの子いつもアレ使ってたのね……) (……あ、でも反対側に行っちゃった) @102 駄目じゃん、僕。 @1 これには私もあきれ果てる。 その後も、シシトはトラックが学校側へ 行くと思っていたんだろう。 自分の家に戻ってくるまで、 ずっとシシトはトラックに乗り続けた。 @540 お届け物で〜す。 ええと、商品名は……。 「マッチョ一族〜覚醒編〜」 のDVDですね。代引きになりま〜す。 @111 待ってたわ〜。 はい、ICカード。 @540 ……確かに受け取りました。 それではこちらにサインを……。 @110 はい、ポンッと。 @111 お疲れさま。また頼むわね〜。 @102 同じくお届け\f[28]者\f[22]でーす。 @111 いりません。 @101 ガーン! @111 もう、あと一分もないわよ? これじゃあ今日は遅刻ね、シシト\wh @102 やれやれ、運がなかったな。 @120 ……なにやってんだか。 (それにしてもこの行事、  案外シシトは楽しんでいたのね……) @1 ここはシシトの世界。 あの子が望むものは全て手に入る世界だ。 ――その決定的な証拠を、    私は次の瞬間目撃した―― @100 !bgm !se(System)キー3 それじゃあ、ポチッと。 @120 え? !mvnil !mv住宅地 !mvnil !mv住宅地 !mvnil !mv住宅地 !mvnil !mv住宅地 @103 !bgm緊急事態 !se(Action)ジュゴー 行ってきまぁぁぁす! @111 行ってらっしゃ〜い。 @120 え? @110 どうしたのシイナ。 ハトがミサイル食ったような顔して。 @120 それじゃ即死よ。 @111 わからないわよ〜。 最近のハトはなかなかタフだから。 @120 ……………………。 とりあえず、外に出てくるわ。 @111 昼食までには帰ってくるのよ〜 @120 ……………………。 @1 腕時計で時刻を確認する。 AM8:27……とんで10秒。 @120 (時間が……\r[巻き戻ってる,・・・・・・]!?) @103 トラック発見! 乗車!(※犯罪です @120 ぁ――今度は学校の方向に。 !mvnil @0 シシトは順調に学校へと進み、 家から約二分ほどで到着した。 ……………………。 シシトがポケットの中に入れていた \r[何か,・・]を押した瞬間に、時間が巻き戻った。 いや、違う。時間が戻っただけじゃない。 トラックの進行方向も変わっていた。 @120 (何なの……この世界は……) @0 ……………………。 とりあえず、 私はもう少し様子を見る事にした……。 !mv薙島高校 !bgm高校 @102 はぁ、はぁ……何とか間に合った。 (実際は半分以上トラックに乗ったけど) @200 おう、シシト。 今日も三分ダッシュお疲れな。 @102 はは……。 @1 !se(Action)ビシッ パンッ! シシトとリョウヘイ君の掌がぶつかる音が、 朝の校庭に景気よく響き渡る @202 ……しっかしこうも毎日毎日、 よくもまぁ三分で登校できるよな。 @102 自分でもちょっと不思議だよ。 @200 お、校門が閉まった。 @202 あ〜アルバートの奴、つかまったな。 @320 よし、遅刻者は全員そこに並べ! @250 くそっ、ぬかったか……。 @202 しかも副校長かよ。 こりゃ血の雨が降るな。 @102 血の雨って。 @320 貴様、何故遅刻したか言ってみろ! @250 そ、それは……。 @251 ちょっと考え事をしていたのです! @320 考え事? 何の? @251 (く、ここは上手くかわさなければ) !bgmコミカル 効率的な拉致の方法です! 最近のテレビ放送によって女性が警戒心 を強く持ちすぎているために、マニュアル にあるような手口では拉致の成功率が低い! 故に自分は未だかつて無い斬新な方法で 老婆から幼女、果てはネコミミ娘までを 高確率で拉致する方法を研鑽し―― @320 ……………………。 退学。 @252 クポ――! @202 クポーって何だよ。 @102 やれやれ、 普通の先生なら呆れられるだけだろうけど、 副校長っていうのがヤバかったよなぁ。 @252 退学、退学……ブツブツブツ……。 @202 おいおい、ちょっとまずいんじゃねえ? @102 そうだね。 @100 !bgm !se(System)キー3 んじゃポチッと。 !mvnil !mv薙島高校 !mvnil !mv薙島高校 !mvnil !mvマンション街 !mvnil !mvマンション街 @252 !bgm緊急事態 ま、まずい。 このままでは遅刻だ――――! @103 アルバァァァァトオォォォォッ――! @250 む。 あの高速移動物体は村上か? @252 って、俺の方に突撃してくるぞ!? @103 !se(System)ピロロロリン アルバートゲット! @252 うおおぉぉっ!? な、何をするんだ村上ィッ――! @101 そのままダァァァァシュッ――! @1 !se(System)ピロロロリン アルバートをゲットしたまま走ると、 移動速度通常の半分になります。 @250 む、村上。止めろ。 お前まで遅刻したいのか! 俺のことは放っておけ! お前だけでも、学校に――! @103 そういうわけには、\s いかないだろおぉぉぉぉっ――! @101 ド根性――! @250 む、村上……(ドキッ) @101 フオオォォォォ――! !mv薙島高校 @320 残り三十秒! @101 ドォオォオリャァァッ――! @320 !bgm !se(Action)ズシャアアー ……………………。 お前達、もう少し余裕を持って 学校に来ようとは思わないのか? @104 !bgmコミカル ゼェハァゼェハァ……! @250 村上、すまない。 お前が俺を「ゲット」 いなければ確実に遅刻していた。 @102 ははは。気にしないでよ。 @250 ふむ……。 それにしても、 お前は俺を遅刻させないためだけに、 俺の家の近くまで来てくれたのか? @102 ま、まぁね。 @253 そ、そこまで俺の事を……。 @101 アルバート鼻血! @1 (ねえねえ聞いた?  村上って人、通学ルートと反対側にいる  男の家までわざわざ迎えに行ったんだって) (えー、それってつまり……) (恋愛イベントの第一歩  「一緒に学校……行かない?」  が開始されってことね……) (しかも村上って人が  眼帯の人をゲット! したんだって!) (キャー……!) @101 なんだか変な噂が流れてる――っ! @253 シシトハァハァ\wh @101 ノォォ――ウ! @120 (あら、ここって男子校よね?  どうして女子がいるのかし――) (……って、今更か) @102 !bgm高校 まぁいいや……。 とりあえず校舎に入ろうよ。 @250 そうだな。 とにかく、助かった。この借りは返すぞ。 @100 じゃあ、購買でパン一個ね。 @250 わかった。 @120 (……………………) (今度はリセットされないのね  自分に不利な噂が流れたのに……) @404 先輩。おはようございます! 今日もギリギリでしたね!(ビシッ! @102 やあセト。そう言う君だって、 この時点で校門にいるじゃないか。 @200 う〜っすシシト。 @410 おはよう。シシト君。 @100 おはよう、冬村さん。リョウヘイ。 @202 先に挨拶したのに、俺の名前が後かよ。 @102 こういうときは五十音順です。 @202 俺の名字、岸だから冬村より前だぞ。 @102 僕にとっては君はラ行だよ。リョウヘイ。 @412 あはは……。 @400 みなさん、授業が始まっちゃいますよ。 そろそろ行きましょう! @100 そうだね。 @102 ここでだべってると、 副校長に何か言われそうだ。 @200 ところで、冬村。 今日の英語の訳やった? @410 え、うん。一応やったけど……。 @200 ラッキー。休み時間に見せてくれよ。 @102 リョウヘイはいつもそればっかりだなぁ。 @250 たまには実力で解かないと、 後々のテストや受験で痛い目を見るぞ? @202 わーってるよ。 ちゃんと授業は受けてるんだ。 確認って奴だよ、確認。 @400 そう言いつつも、 リョウヘイさんの教科書って 全然書き込みがないんですよね。 @202 いつの間に見たんだよ、セト。 @403 前に私が英訳見せたときです。 @102 リョウヘイ。 今後もセトと冬村さんには逆らえないね。 @202 まったくだ。 @1 !bgm ……………………。 シシト達は校舎の中へと消えていく。 ……一瞬だけだったけど、 ついついその後ろ姿に見惚れてしまった。 ああやって、五人で仲良く学校生活を 送ることが出来たのなら……。 それは、何て幸せな日常なのだろうか……。 @120 (……この世界は、とても暖かいのね) ……………………。 !bgmゆったり雰囲気 さて、私も学校に潜入しないと。 生徒として侵入するのは。 さすがにちょっと無理があるかな……。 @1 ほんのちょっと前は、 私も学生だったんだけどね。 さすがに女子高生で通すのは難しい。 @120 お肌の曲がり角が憎いわ……。 となると…… @1 私は勘の鋭そうな 副校長がいる正門をスルーする。 そして 誰も見ていないのを確認してから、 素早く窓へと飛び込んだ。 !mv保健室 @120 よ……っと。 @330 おや、誰だい? 副校長のチェックが嫌で、 ここから侵入してきた生徒…… って訳じゃなさそうだけどねぇ。 @120 ごめんなさいね。おばあさん。 ちょっと眠って貰うわ。 @1 !se(Action)ビシッ 素早く背中に回り込んで、 私は出来るだけ丁寧に首筋へと打ち込む。 糸が切れたように倒れる老人の体は、 とりあえず縛ってベッドに寝かせておく。 @120 ……保健室の先生が体調不良で、 今日一日だけ替わりを頼まれた知り合い。 ちょっと危なそうだけれど、 こんな設定で良いかしらね……。 この学校の校長、結構非常識人らしいし、 あの堅そうな副校長に邪魔されなきゃ、 一日くらいは何とかなるでしょう……。 ……………………。 !bgmサスペンス それに、どうせ偽物の世界。 ……多少馬鹿なことしたって、許される。 @1 ……すごく、ここは居心地の良い世界だ。 だから、ついつい引き込まれてしまう。 けれど現実の世界じゃない。 やり直しのきく世界なんて、間違ってる。 ……現実世界では、 どれだけ時間が経っているのだろうか。 私は既に一日ここで過ごしたけれど、 「向こう」の時間がどうなっているかは わからない。 ……だが、時間をかければかけるほど、 アルバート君達は危険に晒されるだろう。 私の体は確実に朽ちていくだろう。 この世界の仕組みをもっと知る必要がある。 そうすれば、シシトを救う方法も わかるはずなんだから……! @120 何はともあれ行動開始……! 今日一日のシシトの行動を調べないと。 とはいえ、保険の先生になりすましても、 教室をぶらつくわけにはいかないし……。 @1 犯罪者にとって、 学校というのは一種の鬼門だ。 犯罪を犯そうにも常に人の目がある。 監視カメラなら誤魔化すこともできようが、 人間の目というのは、なかなかごまかせない。 @120 って、私が犯罪者みたいじゃないの。 @1 ……まぁ、実際今からやることは \r[犯罪行為,ストーキング]なんだけどね。 @1 (ガラガラガラガラ) @301 し、失礼します……。 @120 !bgm ――――――――! !bgmほんわかムード はい。なんでしょうか? @301 お、おや? あなたは……? @120 ええと……。 保健室の先生が急病で早退されたので、 臨時でここを担当させて頂く事になった 村上シイナと申します。 @1 あ、まず。 名前まで言う必要はなかったかな。 @301 そ、そうですか……。 申し訳ないのだが、 腹痛の薬か何かはありませんかな? 先程から急に――。 @120 腹痛……ですか。 @1 ……チャンスかも。 @120 薬の前に、少し問診しますね。 今朝は何を食べられましたか? @301 普段と変わりません。 白米、味噌汁、目玉焼きに焼き魚……。 @120 今日のような腹痛は時々ありますか? @301 い、いえ……。 @120 …………ふむ。 ちょっと横になってくれますか? @301 は、はい……。 @1 おばあさんを寝かせているベッドとは 別のベッドに男性教師を連れ込む。 @120 (微妙にいかがわしい表現ね……) では、シャツをめくりあげてください。 @301 はい……。 @120 ……今からいくつか触るので、 痛い場所があったら教えてください。 @1 トントントントンと、 指先で軽く腹を突いていく。 @120 どうですか? @301 いえ、あまり痛くは……。 @1 そして私は、 ちょっとだけ力を込めて腹を突いた。 @301 いだだだだだ――! @120 ……ここですか? @301 は、はい。 とんでもない激痛が……! @120 時期的に食中毒の可能性は低いし、 痛む場所から考えると……。 ……盲腸の可能性がありますね。(適当 @301 な、ななっ……!? @120 ストレスも……溜めてらっしゃいます? @301 は、はい……まぁ仕事柄。 @120 ストレス性の胃潰瘍の可能性も。(適当 @301 な、なななななっ……! @120 今日一日働き続けていたら、 最悪倒れて、そのまま墓場行きに――。 @301 そ、そんな……! @120 一刻も早く病院に行くべきです! 今ならまだ十分に間に合いますから! @301 し、しかし私はクラス持ちで……。 せめてホームルームは出なければ。 @120 いけません。 仕事熱心なのは感心しますが、 それで死んだらどうするんですか。 私は、 殉職なんて言葉大嫌いです。 どうか無理なさらず、休んでください。 @300 ……………………。 わかりました。 あなたの言うとおりにします……。 しかし、ホームルームは……。 @120 私がやりましょう。 連絡事項を伝えるくらいなら、 私でも出来ると思いますから……。 @300 た、助かります。 @120 あ、でも私は正式な許可を貰って 学校に来ているわけではありませんし、 @300 それくらいならば大丈夫。 私が何とかしておきましょう。 この学校の校長は、 比較的おおらかな性格ですからな。 @120 ありがとうございます。 ……よかった。 @1 ほっと胸をなで下ろす。 これで私はこそこそする必要もなく、 堂々と校内を歩き回れるわけだ。 @300 (こ、この表情は……。  見ず知らずの私のために、  そこまで安堵の表情を……!?) (う、美しい……!) @120 ……………………? どうかしましたか? @301 い、いえ! 何でも。 @300 それでは私は書類を出してきます。 @120 お願いします。 @300 と、ところで……。 今度一緒に食事でもいかがですか? @120 そんな、これくらいは 保健室を任された者として当然です。 けど、どうしてもとおっしゃるなら。 ……考えておきましょうか。 @301 !se(Shooting)撃破A ふおぅ!(ハートにクリティカル) @300 そ、それではっ! 連絡事項が書かれた書類はこれなので! @1 ……………………。 純情そうな先生は、 腹痛が嘘だったみたいに保健室を 飛び出していった……。 @120 (……どうせ夜にお腹を出したまま  寝ちゃったんでしょうね。  半日も横になっていれば治るわ) (……さて、教室はと) (……………………) !bgm (偶然にしてはできすぎね。ふふっ) !mvnil @0 出席簿の中には、 村上シシトの名前がはっきり印刷されている。 301教室。……そこがシシトの教室。 @120 ……行きましょう。 絶対に、私はシシトを救うんだ。 @0 気合いを入れるためにパンと頬を叩き、 私は保健室のドアを開けた。 ……こうして、 私の、一日だけの教師生活が始まった。 !mv薙島高校 !bgmサスペンス !v35=1 @1 〜現実世界・薙島高校〜 @710 ……………………。 あれから三十分ですか。 まだ、大きな動きはありませんね。 @402 はい……。 @710 ……心配ですか? @404 当たり前ですよっ! @402 ……って、あ。 怒鳴っちゃって、ごめんなさい……。 @710 ……いいえ。仕方ないでしょう。 何かできると思っているのに 何も出来ないというのは、 とても歯がゆいものですから……。 @402 \r[消滅,ヴァニッシュ]の\r[理力,フォース]はどうですか? @710 問題ありません。 集中に時間がかかりますが、 今日が終わるまでには使えるでしょう。 @402 ……………………。 あの、どうしてシイナさんは、 私にこれを預けたんでしょうか? いろいろな物に化けられるなら、 きっと作戦にも使えたはずなのに……。 @1 私は、小さな瓶の中をのぞき込む。 灰色の煙のような物が、 中でぐるぐると回っていた。 @710 彼女の考えていることは、 私にも予想が付きません。 ……………………。 おそらく、ですが。 @402 はい。 @710 シイナさんは、 あなたが危険に晒された時のことも、 考えていたのではないでしょうか? ……リス君の魔力は、 ここ数日でかなり高くなっています。 魔王を足止めすることもできるでしょう。 @402 いざというときの、 囮に使えってことですか……? @710 ……本当の所はわかりませんけどね。 @400 いえ、多分そうだと思います。 @402 シイナさん、私の事を本当に……。 それなのに、私は何も出来ない……。 情けないな、私……。 @710 ……………………。 @404 女神様。やっぱり私にも「覚醒」を―― @710 駄目です。 もうこれで何十回目ですか? @402 あぅ……。 @710 ……………………。 何かしてあげたいと思う気持ちは、 私にもよく分かります。 ですが、今あなたの役割は「待つ」こと。 それは、己の体を傷つける戦いよりも、 ずっと辛く、ずっと苦しいことです。 ……私から言わせて貰うなら、 あなたは十分に戦っていると思いますよ。 @400 え? @710 !bgm黄昏 己の不安や恐怖と立派に戦っている。 目を閉じ、耳をふさぐことなく、 しっかりと二本の足でここに立っている。 @404 ……………………。 @710 待ちましょう。 みなさんの帰還を。 そして信じましょう。 彼等が、魔王に勝利することを……。 @400 ……………………。 わかりました。待ちます。 先輩達の帰りを……。 @404 けど……。 @1 キュポッ! モクモクモクモクモク……。 @900 私はドッペルゲンガー。 @404 リスさんになってください! @901 え〜また? @404 早く! @901 は〜〜い。 @1 モクモクモクモクモク……。 @704 …………ハッ!? @701 こ、ここは何処だ? 俺は死んじまったのか? @400 リスさん。 @700 お、セトちゃん……。 @704 に女神様ァ――ッ!? @710 直接お会いするのは お久しぶりですねリス君。 @701 ……………………。 ちょ、ちょっと待てよ。 それじゃあ今の状況は……。 @400 ……………………。 @404 最悪です。 @1 私はリスさんに、 今までのことを簡潔に話しました。 先輩のこと、シイナさんのこと、 魔王のこと、今の戦いのこと……。 @701 ……なるほど。 俺が死んでいる間にそんなことが……。 @402 私は、動けません。 シイナさんと約束しましたから。 @400 けど、リスさんなら動けます。 @404 自分の身は、自分で守ります。 リスさんは、どうか先輩の所へ。 @700 ……………………。 @705 よしわかった! あとは俺にドンとまかとけ! @402 あ、いえ。 そんなに期待してはいませんから。 @704 ガーン! @701 そりゃ無いぜ……。 @402 とにかく、 出来る限りのことをしてください。 お願いします……。 @700 おう。 @705 そんじゃぁ行って来るぜ! @1 トコトコトコトコトコ……。 @400 ……私に出来るのは、 もうこれくらいしかないですね。 @710 あとはただ……祈りましょう。 @404 はい……! !mvnil @0 シイナさん、アルバートさん、 スケイルさんにネコさんクロウさん……。 それに、先輩……! どうか、どうか帰ってきてください。 待ってます、 私、ここで最後まで待っていますから…… !bgm !wait30 !v35=2 !mv1F廊下 @1 〜シシトの世界・薙島高校〜 @120 !bgm高校 ここね。 @1 教室のドアの前で、私は待機していた。 チャイムが鳴った直後だというのに、 ドア越しにも喧騒が聞こえてくる。 @120 最近の学生って言うのはこれだから。 私の頃なんて、チャイム五分前には もう着席して静かにしてたわよ……。 @1 そんな愚痴がこぼれてくるのは やっぱり歳のせいだろうか。ふぅ……。 !mv301教室 @1 (ガラガラガラガラ) @120 はい、みんな席について。 ホームルーム始めるわよ。 @1 急に静まりかえる教室内。 何十もの視線が一斉に私へと注がれる。 ちなみに私のことを知っている連中は、 @101   @252   @201   @401   @411   @1 こんな感じだった。 @120 (……全員同じクラスだったのね) @1 ……………………。 値踏みするような女子の視線と、 何かを期待するような男子の視線。 ちょっとだけ転校生の気分を味わいながらも、 私は堂々と教卓の前に立った。 @120 え〜……。 先生が急病で早退したために、 ホームルームを任されました。 今日一日だけですが、 どうぞよろしくお願いします。 @1 先生の名前は〜? @120 ええと……。 @101 ←指で小さく「×」の字を作っている。 @120 村か……村\r[下,・]シイナです。 @102 (ふ〜〜) @202 (おいおい、何でお前の姉貴が  こんな所にいるんだよ……) @102 (僕が知りたいよ) @120 では出席を取ります。 @1 ……………………。 ホームルームは順調に進んだ。 出席を取り、連絡事項を伝え、 適当に雑談をしていれば終わりだ。 !se(環境)キンコンカンコン !wait160 @120 では、これでホームルームを終わります。 私は保健室にいるので、 なにかあったら呼んでください。 委員長、号令。 @220 きりーつ、礼。 @1 ありがとーございましたー。 !se(Action)学内歩き !mv1F廊下 !wait10 !se(Action)学内歩き !mv保健室 @120 !bgm住宅街 ふぅ……。 @1 (ガラガラガラガラ) @100 失礼しま〜す。 @120 あらシシト。 用があるなら教室を出た所で 話しかけてくれたらよかったのに。 @102 そんな事されたら 目を血走らせている我がクラスの男子に 僕がボコされます。 ……で、なんでここにいるの? @120 気にしない気にしない。 @102 ……何を言っても無駄っぽいね。 どうやってここに来たか知らないけど、 あんまり問題起こさないでくれよ? @120 わかってるわよ。 ちょっとあなたの生活を見たかっただけ。 それが終わったらさっさと退散するわよ。 @100 ならいいんだけど……。 @120 用はそれだけ? もう授業が始まるわよ。 @100 わかった。もう行くよ。 @102 それじゃあ失礼しました。 今日一日がんばってください、\r[村下先生,・・・・]。 @120 皮肉をどうもありがとう。村上君。 @1 お互いににやりと笑って 拳を軽く合わせてから、私たちは別れた。 @120 ……………………。 なんだろ、\s ちょっと、幸せかも。 @1 思わずにやけてしまう。 ……保健室は少し離れにあるせいか、 とても静かで、開いた窓から入ってくる、 少し冷ための風も心地よかった。 ここにずっといれたらな、 なんてついつい思ってしまう。 @120 当たり前よね。 だって、ここは夢なんだもの。 ……居心地が良くて当たり前。 ……………………。 でも、 望んじゃいけない事よね、それは。 @1 !bgmサスペンス 授業開始のチャイムが鳴ると共に、 私は行動を開始する。 ……ここがシシトの世界ならば。 シシトが\r[知らない場所,・・・・・・]はどうなっているのだろう。 何も存在しないか、 それとも適当に補完されているのか。 ……あるいはそここそが出口なのか。 !mv1F廊下 @120 学内でシシトが知らない場所となると、 女子更衣室とか、先生の休憩室とか……。 @1 ……授業が開始されると、 あれだけ人であふれかえっていた 廊下から完全に人の姿が消える。 できるだけ私は素早く、 校内でシシトが入ったことがなさそうな 部屋をチェックする。 !mvnil @120 それじゃあ、まずはここね……。 !se(Action)ドア開け !bgm !wait20 ……………………! !bgmサスペンス 奈落の底……。 やっぱり、ここはおかしいわ……。 @0 結論として、 そこに世界は存在していなかった。 シシトが絶対に入らない場所―― 女子更衣室の中は、がらんどうだった。 上も下も存在しない、 ただの闇だけが広がってる。 足を踏み入れてみても、足場さえない。 !mv1F廊下 !mvnil !mv1F廊下 !mvnil !mv1F廊下 @120 ……っ! またリセットされた。 どうなっているのよ。この世界は……。 早く……早く抜け出さないと……! !mvnil !bgm @0 けれどそれ以上の収穫はなく。 時間だけが無情に過ぎ去っていった……。 !wait30 !mv保健室 !bgm安らぎ @120 はぁ……。もうお昼ね。 @1 とにかく分かったことは二つ。 この世界は現実の世界じゃない。 シシトの世界というのは間違いないだろう。 けど、 シシトが全てを支配している訳でもない。 あの子にとって不都合なことも、 この世界ではちゃんと起きている。 休み時間の短い時間、 私は影からシシトを見守っていたけど、 あの子はちゃんと不幸に見舞われていた。 ……これが、シシトの望む世界の姿とは、 ちょっと私には考えられなかった。 @120 けど、わかったのはこれだけね。 どうすればシシトを救えるのか、 この世界の脱出口は何処なのか、 一番知りたいことが全く分からない。 ……手詰まりしたわね。 こうなったら、シシトに直接――\s ――ううん。それはまだ早い。 下手に刺激しても、事態が悪くなるだけ。 @1 !bgm (ガラガラガラガラ) @100 !bgmゆったり雰囲気 失礼しま〜す。 @200 ちわ〜っす。 @400 失礼します〜。 @410 お邪魔します……。 @250 失礼する。 @120 あら、どうしたのみんな? 五人同時に体調でも悪くした? @100 いや、どうせ姉さんがいるなら、 今日はここで食べようかなぁって。 @102 姉さん昼ご飯持ってきてないだろ? @120 あぁ、そう言えばそうね。 @100 パン、買ってきたからさ。 みんなで一緒に食べようよ。 @120 ……………………。 ありがとうシシト。 そんなに姉思いだとは思わなかったわ。 @102 はっはっは。 @412 シシト君、シイナさんのために、 購買でがんばったんですよ? @202 まさか焼きそばパンとエビカツサンドの 両方を手に入れるとはなぁ……。 @250 愛のなせる技だな。 @403 愛だなんて……きゃっ\wh @120 ……………………。 @1 ついつい、口元がゆるむ。 私はシシトから手渡されたパンの 暖かさ以上に、この五人の間にある、 雰囲気に心暖められていた。 !mvnil !mv保健室 !bgmほんわかムード @120 冬村さんとセトさんはお弁当なのね。 ……ちょっと多すぎない? @412 大半はシシト君たちに 食べられちゃいますから、 これくらいの量で丁度いいんです。 @404 先輩! 今日の卵焼きは自信作です! 是非是非召し上がってください! @100 ほうほう、では一口。 @400 あ……。 @403 あ〜ん\wh @102 え……? @200 おいおい、今日も見せつけるなぁ。 @410 ……………………。 シシト君。 こっちのエビフライもいけるよ。 @412 はい、あ〜ん\wh @202 両手に花だな、シシト。 相変わらずうらやましい……。 @102 替われるものなら替わりたいよ。 @250 ……………………。 む、村上。 こっちのミートボールもなかなか。 はい、ア〜ン\wh @201 !bgmコミカル お前までやるなよ! @410 しかもそのミートボール。 レンジでチンしただけだよ。 やっぱりこういうのは手作りじゃないと。 @252 な、何……!? @402 ふっ、選択を誤りましたね。 @410 だいたいそのミートボール私のだし。 自分で作った料理じゃなければ、 あ〜ん\whをする資格はないんだからね。 @402 駄目ですよそんな意地悪言っちゃ。 所詮「あ〜ん\wh」三段の私たちに、 アルバートさんが敵うわけないんです。 @412 それもそうだね。 あははは……。 @252 く、屈辱だ……! @120 ……「あ〜ん\wh」に段なんてあるの? @102 さあ? それより冬村さん。 エビフライにかかったソースが、 机に垂れそうなんだけど……。 ←手で落ちてくるソースを受け止めてる。 @411 ああぁ、ごめんなさいシシト君。 @404 冬村さんもまだまだですね! 「あ〜ん\wh」をする時に、 もしもソースがかかっているのならば! 必ず手で皿を作ってあげること! これはもはや常識ですよ! @410 ふっ……。 @404 (ん? なに、あの余裕の笑顔は!?) @412 ごめんねシシト君。 すぐに拭いてあげるから……。 @120 はいティッシュ。 @410 ありがとうございます。 ……ごめんねシシト君。 私ってちょっとドジだから……(ふきふき @100 いや、そんなに気にすることは。 @102 って、冬村さん? @412 あ、シシト君の肌、すべすべだね? @401 (そ、そう来ましたか!?) @404 (手を拭いてあげるだけかと思いきや、  実際は拭き終わった後も手を離さずに、  \r[スキンシップ,ふれあい]をするだなんて……!) 冬村さん、腕を上げましたね……。 @410 ふっふっふっふ……。 私もただ受身なだけの女じゃないよ。 @102 はは……。 @402 先輩ぃ〜。 とりあえず私の卵焼き食べてくださいよ。 @102 あ、うん。 @403 あ〜ん\wh @102 あ、あ〜ん……。 @1 (ぱくっ) @410 (くっ……!) @412 シシト君て肌の手入れよくしてあるね。 どうしたらこんなになるんだろう。 (さわさわさわ) @102 ふ、冬村さん、くすぐったいよ……。 @404 (バチバチバチ) @410 (バチバチバチ) @120 二人の間に火花が見えるわ。 ……ふふっ。 @200 !bgm ……………………。 !bgm静かな時 楽しいですか? シイナさん。 @120 ……え? @202 あ、いや……。 @200 なんだか、普段よりも、 シイナさんがよく笑ってるみたいだし。 @120 そうかしら? ……いえ、そうかもね。 @200 なぁシイナさん。 このままこの学校の保険医になったら? @250 同感だな。 ここの保険医は正直苦手だ。 @102 やたらと剥かれるからね。 @402 しかも女子には冷たいんですよ。 @400 「あら、怪我をしたのかい?  それにしても肌が綺麗だねぇ  ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ……」 @404 とかいいながら、関係ない場所に とろろをかけてくるような人ですから。 @252 そんなことまでしていたのか!? @102 恐ろしや、年寄りの嫉妬。 @404 本当ですよ、全く……。 @412 でもセトさん、あのおばあちゃんの 声マネ上手だね。 @400 そうですか? あんまりうれしくないですけど……。 @200 あ、じゃあよセト……。 ボソボソボソ……で……どうだ? @402 は、はぁ……。 @404 「アルバ〜ト。  今日のパンツは何柄だい?  ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ……」 @252 な、ななな……!? @202 だからセトの声マネだよ。 そんなにきょろきょろするなって。 @412 あははは……そっくりそっくり。  @250 むぅ……しかし近くに気配が。 @120 (アルバート君正解) @202 おいおい、気のせいだろ? @120 おばあちゃんなら今頃病院よ。 @102 ハルマゲドンが来ても 生き残りそうな雰囲気があるけどな。 @400 ハルマゲ丼? 美味しいんですかそれは? @200 結構美味いぜ。俺はお奨めする。 @101 !bgmサブコミカル ちょっと待って、なんだハルマゲ丼って! @200 だからハルマゲ丼だろ? うちの飯屋で出してる料理。 @412 そんなのあったんだ。 今度注文してみようかなぁ……。 @200 ちなみにキャッチフレーズは 「世界滅亡クラスの味!」だぜ。 @102 「計り知れなくまずい」って聞こえるのは 僕の気のせいだろうか。 @202 実は俺もそう思ってる。 味はいいんだけど誰も頼まないしな。 @101 ダメじゃん! @120 …………ふっ、ふふっ……。 あなた達って、 本当に見ていて飽きないわね……。 @410 そ、そんなにおもしろかったかな? @402 さ、さぁ……。 @120 おもしろいわよ。 自覚してないところがまたいいわね。 ぁ、涙が……。 @102 !bgm ……………………? 姉さん。笑い過ぎじゃない? @1 !bgm静かな時 ぁあ……ここが現実の世界だったなら、 なんて幸せなんだろう。 これが現実じゃないっていう 自覚がなければ、どんなによかっただろう。 そう思うと、思わず涙が出てしまった。 ……本当に、忘れてしまおうかな……。 現実と全く変わらないこの世界なら、 私はとても幸せでいられるんだし……。 @200 あ、そうだシシト。 今日も放課後ゲーセン行くんだけど、 シイナさんも誘わないか? @100 僕は全然OKだよ。 @102 っていうか、僕は問答無用で参加かよ。 @412 ゲーセン……。 私も行っていい? @200 もちろん。 冬村がいないと盛り上がらないしな。 @250 ふむ……。では俺も行こう。 @404 私も行きます! @200 それじゃぁ全員参加って事で。 シイナさんもそれでいいっすか? @120 ええ。是非参加させて貰うわ。 @100 ……………………。 @1 そして三十分後……。 !se(環境)キンコンカンコン !wait120 @100 あ、チャイムだ。 それじゃあまた放課後にね。 @120 行ってらっしゃい。 @1 失礼しました〜 (ガラガラガラガラ) @120 ……………………。 !mvnil @0 シシト達の後ろ姿に手を振り終わると、 私は保健室に一人取り残される。 とりあえず私は―― !bgm !se !se(Action)ビシッ ……自分の顔を一発殴ることにする。 @120 !bgmサスペンス 馬鹿、何その気になってるのよ……! 引き込まれそうになった。 この世界にずっといたいって……。 外の世界なんてどうでもいいって……! ……まずい。 このままじゃ、シシトを救う前に 私の心が取り込まれちゃう……! @0 ……………………。 お風呂上がりに羽毛布団に潜り込んだ時のような、 抗いたくても抗えない気持ちよさと暖かさ。 ……耐えられるわけがない。こんな世界に。 ……どんなに強い意志を持ってしても。 この世界からは抜け出せないかもしれない。 そんな弱音さえ吐いてしまいそうなほど、 私はこの世界が気に入っていた。 ……あと一日も持たないだろう。 明日になる頃には、私は確実に この世界にどっぷり浸かり、抜け出せなくなる。 ……時間がない。\s\c[2] ……時間切れになって欲しい。\s \c[0]はやくしないと。\s\c[2] ゆっくりしていたい。\s \c[0]このままじゃ……\s\c[2]もう、諦めてしまいたい。 @120 ――――――っ! @0 !se(Action)殴打 骨がきしみをあげるほど、 私は大きく自分の顎を殴った。 ……その痛みで、少しだけ迷いは消えた。 @120 はぁ……はぁ……はぁ。 目的を忘れるな、村上シイナ。 私がやることはシシトを救うこと。 それ以外の余分なことは考えない……! !bgm ……………………。 @0 そして、放課後。 !mv薙島高校 !bgmけだるい午後 @102 は〜。今日もやっと授業が終わった。 @200 よし、ゲーセン行こうぜ! @120 今日もお疲れさま、みんな。 @410 シイナさんもお疲れさまです。 @400 帰りのホームルームも、 しっかりと出来ていましたね。 @403 なんだか本当に先生みたいでした。 @120 大勢の前で話すのは慣れているからね。 @250 個人差が激しいようだな、そこは。 @200 まぁ難しいことはさておこうぜ。 とりあえずゲーセン、ゲーセンっと。 @102 リョウヘイは本当にゲーセン好きだよね。 @250 隣でうずうずしている彼女も なかなか負けていないようだがな。 @412 ←うずうずしてる。 最近調子が悪かったけど……。 ふふふふ。 今日こそ新記録をつくってみせるわ。 @102 燃えてるなぁ。 @250 まぁ、お手柔らかにな。冬村。 @412 うずうずうずうず……。 @120 私はあんまりゲームとか知らないけど、 まぁ、たまにはいいわよね……。 !mvゲームセンター !bgmゲームセンター !mv\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx\wx @100 というわけでゲーセンです。 @202 どこに向かって言ってんだよ。 @102 はっはっは。 @430 やっほー、リョー。 今日も結構な大所帯じゃん。 こっちの人は、初めてだよね? @120 村上シイナよ、よろしくね。 弟が世話になっているわ。 @430 SSTのお姉さん? シイナ……じゃあSINだね。よろしく! @120 SIN? @200 ゲームのスコア登録の時に、 三つのアルファベットを入れるんですよ。 @120 へぇ。 ゲーセンなんて、UFOキャッチャー くらいしか知らなかったんだけど、 結構色々あるんだ。 @1 少し薄暗い店内の中、 ゲームの筐体がキラキラ光っている。 音も耳が壊れるくらい大きいし、 まるで外とは別世界だ。 @410 それじゃあ、いつも通りに シルフドラグーンでスコアアタックする? @202 いや、冬村さんとアルバートがやると、 一時間くらい台が空かないからよ。 @200 ここは初心者のシイナさんに やってもらって盛り上がろうぜ。 @120 わ、私? @200 最初はシューティングが一番だろ。 で、俺達はシイナさんが 慣れないゲームをして 四苦八苦している姿を見て楽しむ、と。 @120 ……………………。 いい趣味してるわね。 @102 人の姉を娯楽にしないでくれ。 @202 言い方が悪かったよ。 @200 じゃあこうしよう。 シイナさんが初めてのシルドラで、 一体どこまでスコア伸ばせるか。 これを俺達全員で予想するんだ。 で、一番近かった奴には、 景品としてコイン十枚でどうだ? @250 おもしろそうだな。乗った。 @410 私ものった!(コイン、コイン……! @102 姉さんがいいなら僕もいいけど……。 @402 私も先輩がよければ。 @120 別にいいわよ。 賭の対象になるのはちょっと嫌だけど、 まぁ、余興としてがんばらせて貰うわ。 @200 よし。ミキは? @430 あたしものった! 最近十位以内にランクインしてなくて、 コインもらえてないからね〜。 @202 \r[SST,シシト]と\r[SYK,サユキ]と\r[ALB,アルバート]が ランキング埋め尽くしてるしな。 @430 あんたら全員おかしすぎ。 @412 てへっ。 @100 じゃあ 簡単に操作説明するから。 @120 ええ……。 @1 !bgm(シューティング)準備画面 やたらとピカピカ光る筐体の前に座る。 シシトのレクチャーを聞きながらも、 私は初めてレバーとボタンに触れた。 @120 (うわ、結構軽いんだ。  ちょんって押しただけで反応するし) (う、上手くできるかな……?) @102 姉さん、リラックスリラックス。 所詮遊びじゃないか。 @120 それはそうなんだけど……。 @100 リョウヘイ、こっちは準備OKだよ。 @200 よし、じゃあ賭け開始だ。 俺はスコア1000に賭けるぜ。 @120 ちなみに平均ってどれくらいなの? @102 僕が初めてやったときは2000だけど。 @120 ……なめられてるって事? @200 いや、初心者で無改造なら 1000から1500くらいだろ? @410 じゃあ私は2500! シシト君のお姉さんだもん。 きっとそれくらいいってくれるよ。 @400 私は3000くらいだと思います。 理由は冬村さんに同じ! @250 俺も3000だと思ったんだが……。 賭でかぶるのは良くないな。 2999ということにしておこう。 @202 アルバート卑怯くせー。 @252 う、うるさい! @430 みんなレベルが高いね。 あたしは1500に賭けるね。 @100 じゃあ僕は2000ってことで。 @200 OK。それじゃあいくぜ。 シイナさん、準備はいいか? @120 い、いつでもいいわよ。 @200 それじゃ、レディ…\s…\s…\s…\sゴー! !bgm(シューティング)プレイ画面 @1 リョウヘイ君のかけ声と共に、 私はスタートボタンを押す。 画面中央の下に自機らしいものが一つ。 上からは敵機が流れ込んでくる。 @120 うわ、何よこれ。 全然思い通りに動かないじゃない! @1 いきなり敵が討ちだしてきた弾を 避けようとレバーを動かしたら、 想像以上に機体が大きく動いてしまう。 @412 シルドラの機体って、 ピタって止まらないんだよね。 @102 最初は僕も戸惑ったなぁ……。 @200 まずは順調にスコア100、と。 レベル7あたりからが見物だよな。 @400 シイナさんがんばれ〜。 @120 くっ……このっ……! @1 ボタンを連打してみるけれど、 弾はなかなか出てくれない。 @100 連射レベルが低いから、 連射したって出てこないんだよ姉さん。 @120 そ、そうなの……? あ、撃ちもらした……。 まあ一体くらいなら――\s ――って後ろから撃ってきたじゃないの! @102 僕に怒鳴らないでくれよ。 @200 !se(Shooting)撃破A お、まずは一発当たったな。 スコアは現在300っと……。 @402 こ、これはまずいですよ。 @411 し、シイナさんがんばって! 私2500に賭けちゃったんですから! @402 私なんて3000ですよ!? @200 俺的にはがんばらないでほしいけどな。 この調子ならボス前にやられるか? @120 くっ……見てなさいリョウヘイ君。 @102 姉さん、しっかり画面見ないと。 @120 あ、うん……そうね。 あ、この三角形何――って、\s 弾一杯撃ってきたじゃない……! @1 レバーをガチャガチャ。 ボタンをバシバシ。 でも私が思っているような操作が、 この画面上の機体には全く反映されていない。 むしろ自分から弾に当たりに行っている。 やってきた弾を避けようと反対にレバーを倒せば、 今度は動きすぎて気にもしていなかった弾に 当たりそうになる。 一体撃ちもらしてしまった奴を放っておけば、 思わぬタイミングで後方から砲撃される。 @120 なっ……くっ……このっ……! @1 悪戦苦闘。 ちょっと前のめりになって画面にかじりつく。 機体の動きに合わせて私の体も右へ左へ傾く。 その様子を周囲はおもしろそうに眺めていた。 @403 シ・\n[2]\n[2]\n[2]イ・\n[2]\n[2]\n[2]ナッ!\n[2]\n[2]\n[2]\n[2] はいっ! @412 シ・\n[2]\n[2]\n[2]イ・\n[2]\n[2]\n[2]ナ!\n[2]\n[2]\n[2]\n[2] それっ! @430 えるお〜ぶい〜い〜! @200 シ・\n[2]\n[2]\n[2]イ・\n[2]\n[2]\n[2]ナ!\n[2]\n[2]\n[2] でもそんなにがんばるな〜。 @120 \r[外野の一部,リョウヘイ君]うるさいっ!\s あ、で、でっかいの出てきた……。 @102 それがボスだよ姉さん。 それを倒せば一気に500ポイント追加。 @120 そ、そうなの。 それじゃあがんばって倒さないと……。 せめてリョウヘイ君の勝ちだけは 防いであげるんだから……。 @1 画面上部を全て埋め尽くす巨体に、 私はよくわからない闘志を燃やしながら、 それに挑みかかる。 ……まだ序盤だからなのか、 巨体の割に敵の攻撃は薄かった。 数で翻弄された序盤よりは楽そうだ。 だからちょっとだけ油断して、 私はこの大ボスと戦ってしまった。 @120 あ!? ボスの後ろから三角の奴が! @1 何発か弾を吐きながら、 画面下へと突進してくる三角。 私は慌ててレバーを横に動かした。 @102 あ〜大ボスが現れる一歩前に 三角の奴も現れたんだな……。 @412 たまにあるよね。 画面上部で待機してるから、雑魚みたいに ボス戦になってもすぐ消えないし。 ボスが盾になっているから倒せない。 そのくせ弾だけは大量に出してくる。 私もこれに何度泣かされたことか……。 でも一番怖いのはこの突進。 レベル上がると弾の量も半端じゃないし、 避けるのは至難の業だよ……! @250 ……冬村が解説者になっているな。 @402 たまについていけないところがあります。 @1 !se(Shooting)撃破A で、平静さを失った私とその機体は、 三角の攻撃を避けるのと同時に 大ボスが撃ち出した弾に当たって大破した……。 @200 !bgm ゲームオーバー! 村上シイナ!  最終レベル10! 得点805ポイント! よって勝者はこの俺! メダルはそのまま俺に返されるぜ。 @120 !bgmちょっとマズい くっ……くうぅぅ……! @1 く、悔しい……! 私が、この私がゲーム如きで遅れをとるとは……。 @102 ね、姉さん。そこまで悔しがることは。 @120 シシトには分からないわよ。 リョウヘイ君に散々道化にされた この私の気持ちなんてね……。 @200 ←高笑いをあげている @100 ……………………。 @102 じゃあ、もう一回やる? @120 駄目よ。 二回目じゃ意味がないんだから。 @102 はははっ……。大丈夫だよ姉さん。 @100 !bgm \r[次の一回目,・・・・・]は、 僕がアドバイスしてあげるからさ。 !se(System)キー3 !mvnil !mvゲームセンター !mvnil !mvゲームセンター !mvnil !mvゲームセンター !mvnil !mvゲームセンター @200 それじゃあ、レディ……\sゴー! @120 !bgm(シューティング)プレイ画面 ――――――――ぁ。 @103 姉さん、レバーを持って! 画面に集中するんだ! @120 ……! う、うん! @1 シシトの鋭い声に、頭より体が先に反応した。 先程の経験もあってか、順調に滑り出す。 @410 あ、初めてにしてはなかなか……。 @202 おいおい、シシトが初めてプレイした時 よりも、全然いい動きしてるじゃねえか。 こりゃヤバいな……。 @403 こ、これは高得点が期待できますよ! @1 当たり前よ。だってさっきやったんだから。 ……さっきは混乱してしまったけど、 落ち着いてもう一度やれば、 ちゃんと思考を働かせることが出来る。 敵の動きはかなり素早い。 その遅さはぱっと見致命的だ。 だけど、そうだろうか? あまり操作になれていない今、 動きを早くしたらむしろ操作はしづらい。 ……そういえば、シシトは言っていた。 「弾幕シューティングっていうのは、  大きく動けば自分から当たってしまう。  だから、最低限の動きこそが最善の動き」 魔王との戦いで、シシトはそう言っていた。 よく見てみれば、私に向かって飛んでくる 弾は、むしろ私よりも私の周辺に ばらまかれているのが分かった。 コンピューターはきっとこう考えている。 「どうせ直接狙った攻撃はかわされる。  だが、実はそれは囮。  本命の攻撃は、このばらまき弾だ」 私が最初、自分から弾に当たっていると 感じたのは気のせいではなかった。 混乱した私は、知らず知らずの内に コンピューターの罠に掛かっていたのだ……! @120 ふふっ……でも、それがわかれば! @410 すごい! 弾を全部ギリギリで避けてる! 最小限の動きで、最大の効果を発揮してる! @404 機体の操作にもう慣れていますね! すごいです、シイナさんっ! @412 (こ、これは……  新たなライバルの誕生かも……!) @1 周囲の声も、先程とは質が違う。 はやし立てるような声は消え、 全員が真剣な表情で画面を見ていた。 @100 ……………………。 @120 ……………………? @102 ほら姉さん。よそ見してるとやられるよ? 無改造はここからが難しいんだ。 @202 ノーミスで一回目の大ボス撃破か……。 くそ、シイナさんを侮っていたぜ……。 @120 え、ええ。わかっているわ……! @1 私は素早く画面に目を戻す。 ……敵は本格的に私を倒してしまおうと、 信じられないくらいの数で襲ってきた。 猛攻をのらりくらりと避けながら、 私はボタンを連打して一つ一つ丁寧に 敵を葬り去っていく。 !mvnil @0 ……………………。 十分後。 @120 !bgm !se(Shooting)撃破A 当たっちゃった……。 @200 ゲームオーバー。 最終レベル25。得点2247ポイント。 ってわけで、勝者は……シシトだな。 !mvゲームセンター !bgmゲームセンター @412 あ〜……あと少しで私の勝ちだったのに。 @100 やったね。姉さん。 @120 ふふ……。 @1 シシトの突き出してきた拳に 自分の拳をちょんとつきあわせる。 @202 まさかここまでやるとはなぁ……。 ゲーセン初めてだったみたいだし、 せいぜい最初のボス止まり……。 っていう俺の考えが甘かったか。 @400 なにしろ先輩のお姉さんですから。 @410 シイナさん、 @412 あなたとはいい関係になれそうです。 ふふふふふ……。 @102 冬村さんが本気モードだ。 @250 む、では俺達の番だな。 @200 よっし。 見ててくださいよ。 これがアクアフロートでもトップクラスの シューター同士の戦いだぜ! @120 是非見せて貰うわよ。 今後の参考にさせて貰うから……! !mvnil !wait20 @0 !bgm ……………………。 !bgm黄昏 楽しい。……とても、楽しい。 時間は常に同じ速さで流れているけど、 私は、普段の何倍もその時間が短く感じた。 時間を忘れるという感覚。 この数時間が、ほんの一瞬に思えてしまう。 ……気付けば、いつの間にか外は暗くて、 @200 んじゃ、俺達はこっちだから。 また明日な、シシト、シイナさん。 @400 それじゃあ私たちもここで失礼します。 @403 うちの学校、校則ユルいですから、 シイナさんもまた遊びに来てくださいね。 @410 じゃあ明日学校で。 シイナさんも、またお手合わせ願います。 @250 ……今日は楽しかった。 また明日も、皆で馬鹿をしよう……では。 @0 さっていく友人達に手を振って、 私たちは家路につく。 @100 じゃ、行こうか姉さん。 @120 ええ。 ……\s……\s……\sあれ? @102 ん? どうしたの姉さん。 @120 ……………………。 ごめんなさい。なんでもないのよ。 @0 ……………………。 平常心を保って一緒に歩きながらも、 私は背筋が冷えていくのを抑えられないでいた。 ……今度は、全部忘れていた。 ゲーセンでリセットされて、ゲームをやって。 そして喜んでみんなと一緒に遊んで……。 その間、私は何もかも忘れて微笑んでいた。 ここまでくると、もう魔法だった。 何かの魔力みたいな物が、知らない間に 私の意思をねじ曲げようとしている。 ……そう思えてならなかった。 !v5=1 !mv住宅地 !bgm夜の静けさ @100 姉さん。 今日の夕食は何だろうね? @120 さぁ……。 あ、そういえば。 昼食までには帰るっていったのに、 結局お昼は学校で食べちゃったわね……。 @102 げ。じゃあ今夜はお昼の残り物だね。 ちょっと冷たそうだけど我慢しよう。 @120 ご、ごめんなさい……。 @100 いいよ、そこまで謝らなくても。 ……ほら、もう行こうよ。 @102 あれ……。 うわ、雨だ……。 今日は晴れって思ってたんだけどな。 @100 ちょっと急ごうか、姉さん。 @1 すっと、自然と手が差し出された。 @120 ……………………。 @1 握ってはいけない。 こんな恥ずかしいこと、 シシトがするわけないのに……。 私は、その手を握りしめてしまった。 @100 !bgs(環境)雨 うわ、本降りになっちゃったな……! @120 ………………うん。 @100 ……………………。 今日は楽しかった? 姉さん。 @120 ……………………。 うん。とっても、楽しかった。 @100 よかった。 @102 姉さんいつも仕事仕事で、 こうやってみんなでワイワイなんて 絶対にやらなそうなキャラだしさ。 @120 ……仕事一筋で悪かったわね。 ……………………。 !bgm ――――――――っ!? @1 握っていた手を乱暴にふりほどく。 シシトは嫌な顔一つせず、 ただちょっとだけ苦笑していた。 @102 !bgmサスペンス ……はは。やっぱりそうだった。 !wait20 @100 姉さん。\s……姉さんじゃないね? 姉さんなんだよね? @1 他人が聞いたら訳が分からないセリフ。 けど、私は敏感にその意味を感じ取っていた。 @120 ……そうよ。 私はあなたの世界の登場人物じゃない。 現実の世界であなたの姉をやっている、 村上シイナよ……。 @102 昨日からおかしいと思ったんだよ。 なんだか挙動不審だったし。 @120 こっちからも質問させて。 ……シシトなの? あなたは、現実の世界のシシトなの? @102 そうだよ、姉さん。 僕は村上シシト。現実の世界のね。 ごめんね。 ゲーセンで、ちょっとだけ試しちゃった。 @100 一回目であんな無惨な結果なら、 次の一回目も同じ結果じゃないとね。 けど、姉さんは\r[二回目,・・・]のスコアを出した。 これが、決定的な証拠だったよ。 @120 ……………………。 あなたのことを調べていたつもりが、 逆に調べられていただなんてね……。 私もヤキが回ったものだわ。 @102 現実じゃこうはいかないけどね。 @120 今日一日の私の行動は、 全部空回りだったって事ね……。 ……………………。 あなたが本当のシシトなら、 単刀直入に言わせて貰うわ。 シシト、早く戻りましょう。 もう時間がないの。 理性を無くしたあなたと、 魔王が暴れ回っていて、このままだと 女神様に両方とも消されてしまう。 そうなる前に、あなたを元に戻して、 一緒に逃げなきゃいけないのよ。 @100 ……そっか。大変なんだね。外は。 @120 ええ。……だから、一緒に……。 @100 !bgm 行けないよ。姉さん。 @102 っていうかさ。 行く必要あるの? 外なんかに。 @120 !bgmなんだこれは え…………? ちょ、ちょっと待ってシシト。 今、あなた何て言ったの? @100 外に行く必要なんかないって。 そう言ったんだよ、姉さん。 @120 どうしてよ……!? @102 聞かなくても分かってるくせに。 @120 っ…………! @1 ああ、そうだ。分かっている。 ここはシシトが望んだ世界。 ……だから、ここに閉じこもりたいって思ってる。 !wait15 …………雷鳴が、遠くで鳴った。 @100 !bgmサスペンス ほらね? この世界にいればさ、幸せなんだよ、僕。 @120 駄目! それは絶対に駄目! だってここは現実じゃないのよ? @103 だから何なんだよ姉さん。 確かに色々設定は違うけどさ、 ここは間違いなくアクアフロートだろ? @120 こんな、あなたの思い通りになる 世界のどこが……! @100 ううん。 ここは僕の思い通りなんかじゃない。 @102 姉さんだって見ただろ? 今日学校で校長先生に襲われたの。 @120 ……………………。 @100 ちなみにね。リュウゾウもいるよ。 今頃は刑務所の中だろうけどね。 僕も冬村さんも、ちゃんとあの事件に 巻き込まれた。最悪、両方死んでいた。 僕が全部思い通りに出来るなら、 そもそもリュウゾウなんて存在しない。 @120 じゃあ、ここは何なのよ……? あなたの理想郷じゃないって言うの? @102 近いけど、違うかな。 全部思い通りになっちゃう世界なんて、 正直つまらないと思わない? 毎日予測がつかないことが起こる。 その中で僕は生活しているんだ。 ……………………。 @100 !bgm黄昏 僕が望む世界というのは、 何もかも自分の思い通りになる世界じゃない。 \r[何度でもやり直せる世界,・・・・・・・・・・・]こそ、 僕が望んだ世界の姿なんだ……。 @120 ……………………。 @100 これ、わかる? @1 シシトがポケットから取り出したのは、 小さなスイッチのようなもの。 @100 リセットボタンだよ。 僕が望んだのは、これだけなんだ。 ……………………。 何回もやり直した。 姉さんに仕事をして欲しくないから、 宝くじで一等が当たるまでリセットした。 母さんに料理をつくって欲しいから、 小さい頃まで戻って何度もお願いした。 僕が大きくなっても作り続けてねって。 @120 ……………………。 @103 僕はね、小さい頃から後悔してきた。 ここはこうすればよかったんじゃないか。 そんなことばかり思ってきたよ。 ……今回もね。 冬村さんはリュウゾウに捕まって、 僕は二択を迫られたんだ。 今度はリュウゾウ達に従った。 そうしたら冬村さんを助けられたんだ! @100 リス君が犠牲になってしまったけど。 ドッペルゲンガーはフォックスさんに なって、今日も元気に活躍しているよ。 @120 ……………………。 @100 どうだい姉さん。 僕が冬村さんを守れた世界の感想は? 外の世界みたいに殺伐としてる? 冬村さんが馬鹿笑いして殺しに来る? みんながみんな、傷ついてしまう? @103 違うだろ!? この世界は、すごく平和なんだ! 時々トラブルもあるし人も死ぬ! 不幸もあるし悲しみもある! けれど! この世界は外の世界より暖かいだろ!? @100 ……姉さんが、あんなに笑ってくれた。 すごく自然な笑顔で、皆と一緒にいた。 僕は……それだけでも ものすごく幸せなんだよ……? @120 ……………………。 ……ぅ、ぅっ……! @1 思わず、嗚咽の声が出た。 この子は……この子は。 夢の世界にありながらも、 皆の幸せを願っているんだ……! @100 ここには、幸せがあるんだ。 僕がいる限り、周りの人を絶対に 傷つけさせたりはしない。 ……ここなら、僕の願いは叶うんだ。 @103 「僕がみんなを守ってみせる……!」 その言葉も、ここでなら実現できる! 冬村さんを! \sセトを! \sリョウヘイを!\s アルバートを! \s母さんを! ……そして、大切な姉さんを! 僕は守ることが出来るんだ! @120 ……っ……ぅ……っ……! @100 姉さん。 僕は無力だ。何にも出来ない奴だ。 選択を間違って冬村さんを死なせ。 冬村さんをあんな風にしてしまった……。 姉さんが僕を必死に守ってくれたときも、 僕は立ち上がることが出来なかった。 セトが襲われそうになったときも。 ……心の底から立てと命じても、 僕の体は動くことがなかった……。 現実の世界で……僕は、無力だ。 でも、ここなら大丈夫。 負けたらコンティニューすればいい。 リセットボタンを押してしまえばいい。 ちょっと強くなって復活して、 そしていつか敵を倒せるようになる。 姉さんが危険にさらされても、 この世界ならいつだって守れる! ……………………。 だから、ここにいさせてくれよ……! ……………………。 姉さん。僕と一緒にここで暮らそう? @120 え…………? @100 今日のことは全部忘れて、 僕と一緒に家に帰ろうよ。 そうして、母さんの夕食を食べて、 家族でテレビでも見ながら雑談しよう。 それでちょっと夜更かししてから寝て、 朝になったらまた僕は三分ダッシュする。 姉さんはのんびり起き出して、 気が向いたら学校の保険医になっている。 お昼はみんなで食べよう? そして馬鹿話しながら笑い合おうよ。 放課後はゲーセン行ったり、 ショッピング街行って店冷やかしたり、 受験が近づいたら勉強を教え合ったり。 静かに暮らそう。 ちょっと波乱に満ちて、微妙に不幸で、 だけど決して嫌じゃない暖かな日々。 ……そんな、そんな日常は、嫌? @120 ……………………。 @1 首を横に振る。 @120 嫌なわけないじゃない……! そんな日々が送れたら、 どんなに幸せなんでしょうね……。 @100 ……よかった。 姉さん。僕の手を取って。 この世界で……幸せに暮らそう? @120 ……………………。 @1 ふらふらと、私の手が彷徨う。 目の前には、まっすぐ伸ばされたシシトの手。 ……………………。 心の中でシミュレートする。 何回やっても私はシシトの手を握り返し、 そして、この子と幸せに暮らしていた。 私はシシトの手を――\s振り払う。 @102 !bgm え……? @120 ……辛かったのね。シシト。 あなたが、こんなに弱くなってしまう程。 @1 私はこの馬鹿で間抜けで弱気で後ろ向きで、\s …………だけど、 愛しくて愛しくてたまらない弟を抱きしめた。 @1 ……………………。 ……雨音が、やけに遠く聞こえる。 雨で冷え切った体を、私達は 互いの体温でしばらく暖め合った。 @120 ……シシト。 もう、言いたいことは全部言った? @100 うん。 ……僕は、伝えたいことを全部伝えたよ。 @120 じゃあ、次は私の番ね。 !bgm別れ ……シシト。 あなたは、とても優しい子なのね。 自分の世界なんだから、 こんな時くらい利己的になればいいのに、 あなたはまるでそれをしていない。 リセットボタンも、 きっと自分のためより、 他人のために多く使ったんでしょうね。 @102 どうかな……? わからないや。 とにかく必死でがんばってきたから。 @120 きっとそうよ。 それは、普通の人じゃちょっとできない、 とても素晴らしいことだって思う。 ここにいれば、きっと死ぬまで、 あなたは幸せなんだと思う。 @100 ……………………。 @120 ここは、とても幸せな場所。 暖かくて、穏やかで……。\s でも、何処にも救いがない場所よ。 @102 え? @120 この世界はね、シシト。 やっぱり嘘っぱちなの。 夢は夢。いつかは覚めなきゃいけない。 @103 そんな事ない。 ここは、覚めない夢の中なんだ。 覚めない夢は……現実と一緒だろ? @120 例え覚めなくても、夢は夢でしょ? @103 屁理屈だ……。 @120 そう思う。 ……けど。事実は事実よ。これは夢。 夢であるからこそ、この世界は穴だらけ。 美しいと思えるのは表面だけで、 いくらでも醜い部分を見つけられる。 @103 ……何を、言っているんだ。 @120 シシト。あなたは、自分の 思い通りになるように世界を作った。 @103 そんなこと無い! 僕が望んだのはリセットボタンだけだ! 他は現実と何も変わらない! @120 なら学校が何故共学になっているの? そうありたいと望んだからでしょう? リセットしてもどうにもならないことは、 結局無理矢理ねじ曲げるしかないからね。 @103 そ、それは……。 @120 それに、あなたが知らない場所には、 巨大な闇が広がっているのよ。 ……意味が分かる? ショッピング街でもなんでもいい。 あなたが入ったことがない店は、 この世界にも存在しないの。 あるのは外の看板くらいなもの。 中に入ればがらんどう。 ……まるで映画のセットの中。 そんな世界、現実って認められる? @103 う、うぅ……! @120 まずはそこを自覚して。 @103 わかった……。 でも、僕は例え夢だとしても――! @120 話は最後まで聞いて。ね? @100 ……………………。 @1 あぁ、今だからわかる。 狂気にいたった人を、 必死になって救おうとした人の気持ちが。 きっと彼等、もしくは彼女等も、 こうやって世界に入り込んだのだろう。 そうして、 愛する人に手を差し伸べられた。 ここにいよう。 一緒に幸せになろう。 とびっきりの笑顔で、そう言われたんだ。 ……拒否できるわけがない。 だってそれは、プロポーズと一緒だもの。 愛する人から言われたら、頷くしかない。 ……あぁ、このシステムはひどく残酷だ。 愛していなければ救えないのに、 愛していると救うことができない。 矛盾しているのに調和している。 なんて恐ろしい世界なんだろう。 ……けど、残念だったわね。 私の「愛」はただの「愛」じゃない。 姉が弟を愛する心なんだ。 ……だから、本当にギリギリで、 私はシシトの手を振り払うことができた。 もし一歩間違っていたら。 もしくはあと少しだけ私の「愛」が 倒錯したものであったのなら、 私は確実にこの世界に飲まれていただろう。 女神様の言葉を忘れ、 この世界の暖かさに取り込まれ、 私は何をすることもなく敗北した。 ……けど残念ね「狂気」。 今回、あなたは不戦勝にはならない。 私はあなたと勝負する舞台に立った。 さぁ、ここからだシイナ。 シシトに私の「愛」をぶつけてやる……! ……………………。 !bgm 今から、この世界をぶち壊す。 シシトの理論を覆し、 この子をこの世界から救い出す……! !bgm別れ @120 シシト。ここはあなたの世界。 だからいつかは世界に限界が訪れる。 人一人の想像力なんてたかがしれている。 シシト一人が構成した世界なんて、 現実で起こる事に比べたらつまらないわ。 @103 姉さんは楽しそうだったじゃないか! @120 一回目は、ね。 でも毎日毎日繰り返して。 そしていつかネタが尽きてしまったら、 その世界はとてもつまらない物になる。 現実はそうじゃないでしょ? 同じ毎日なんて存在しない。 @103 ……そうかもしれない。 けれど、ここは幸せじゃないか。 みんなを守れるんだよ!? ここならみんなが幸せでいられるんだ! なら……僕はこっちの世界がいい! @120 ……………………。 シシト。それはあなたの……本心? @103 ……っ……! そうだよ! @120 ……私はそうは思わない。 あなたが、そんな人間なら、 そもそも私はここに来なかった。 ……さっさとあなたを見限って、 女神様にお願いして消してもらってるわ。 @100 ……………………。 @120 ねえ、 忘れてしまったの? それとも気付かないふりしているだけ? @103 何の……事だよ。 @120 本当に分からないのなら……。 ごめんね。 あなたのこの世界を壊させてもらう。 @120 確認させてもらうわね。 あなたさっきこう言った。 「ここならみんなが幸せでいられるんだ」 その言葉に、間違いはないわね? ……あなたの望みは、 周囲にいる人をみんな幸せにしてあげる ことなのよね? @100 そうだ。ここなら、それが叶う。 @100 ……………………。 なんで……泣いてるの? 姉さん……? @1 そうか。私は泣いているんだ。 子供みたいにしゃくり上げているんだ。 ……情けなくて。本当にやってられない。 この子は、大事な事を忘れている。 なんで、そんなことに気付かないんだろう。 @120 でも……でもねシシト。 !wait20 !bgm黄昏 ここで幸せになれるのは、 あなただけでしょう……? 自分の妄想で作り出した人形相手に、 自分の望みが叶うように演じさせて ただ自分を慰めているだけじゃない……! @103 ――――――――! @1 シシトの体が強ばった。 ……私は力を込め、さらに強く抱きしめる。 @120 わかる。わかるよ。 逃げ出したいよね? 辛いんだよね? 現実ってすごく大変よ。 楽しいことより悲しいことの方が大きい。 ちょっとのミスが全てを壊してしまう。 逃げ出したくなるよね。 忘れてしまいたくなるよね。 でもそれは、全然悪い事じゃないの……。 時には逃げたっていい。忘れてもいい。 でも絶対にやっちゃいけないことがある。 それは、逃げ続けること。 現実から目を背けて殻に閉じこもること。 夢の世界で、あなたは冬村さんを救った。 それを想像するのは自由。 けど、それを現実と誤解しないで……! あなたは冬村サユキを救えなかった。 今冬村サユキは魔王になって、 私たちを、あなたを殺そうとしている! それが現実なの。 こんな世界は、存在しなかったのよ。 @103 でも、僕が選択を―― @1 ……もう黙りなさい、シシト……。 私は半泣きの声を上げながら、 シシトに、いや、シシトの心に言葉を叩きつける。 @120 ――選択って言うのは! @103 ――――――――! @120 選択って言うのは、 後になって振り返ってこそあるもの! ……私たちの人生に分岐路はある。 でも、私たちは結局一本しか選べない! 隣の世界はあるかも知れない。 けれど、私たちはそれを知覚できない。 そこはあると信じる事しかできない! ……現実は常に一つ。 選択をした地点で、隣の世界は消えるの。 シシト。 選択を誤るな、なんて私は言えない。 そんなこと誰にも要求させない! ……どうか、後悔のない選択を。 どんな結果になろうとも、胸を張って 冷たい現実に立ち向かう覚悟を持つ。 それが、一番大切なことなのよ……! @103 ぁ……ぅ……! @120 私はね、あなたのために寿命を削った。 それは私にとっては結構辛いことよ。 ……だけど! 私はこれっぽっちも後悔していないの! この選択が正しいか間違いかなんて そんなことはどうでも良い! 私は胸を張ってこの選択を受け入れる! ……………………。 思い出してシシト。 あなたの望みは皆を守ることでしょう? なら! 守って見せて! 夢の世界じゃなくて! あの辛くて厳しい現実の中で! ここではあなたしか幸せになれない。 けど、私が愛する弟は自分だけ幸せに なることを決してよしとしない! ……………………。 ……ごめんなさい。日記、読んだわ。 本当の日記の方よ。……辛かったのね。 @103 ――――――――! @120 でも、あれもあなたの人生よ。 辛くて逃げ出したいだろうけど、 決して恥じるべき事じゃないでしょう? あんな事があったからこそ、 あなたは今のような人を思いやれる 優しい人間になれたんじゃないの……!? それも消してしまうの!? 辛かったことを無しにして、 リセットし続けて全部否定して! ……ここにずっといるってことは、 あなたが積み上げてきた人生の全てを 否定することと一緒なのよ……? ……………………。 ……日記は悲しいことばかりだったけど、 一つだけ幸せなこともあったわ。 ……私のこと、 あんなに考えていてくれたのよね……。 @100 ……………………。 @120 うれしかった。すごく嬉しかった。 あなたを助けられないって思って とても沈んだ私に活力を与えてくれた。 ……ありがとう。大好きよシシト。 私以上に弟を愛している姉なんて、 この世にいるものですか……! @100 姉……さん。 @120 ……シシト。 現実の世界に戻りましょう。 そして、 日記に書いてあったこと、実現させて? 大学出て、立派な仕事に就いてね。 そうしたら私は仕事を辞めるわ。 自分なりにしたかったこと、してみる。 ……私を幸せにして、シシト。 @103 ぁ――――。 @120 ふふっ……なんだか、 プロポーズみたいね……。 @102 そんな……。 @120 でも、それでもいい。 あなたが戻ってくれるのなら……。 @100 ……………………。 @120 シシト。 辛いだろうけど、がんばろう? みんなを守るため、立ち上がりましょう。 だから……。 @1 抱擁を解き、一歩後に下がる。 @120 !bgm \r[私の手を取りなさい、シシト,・・・・・・・・・・・・・]。 !mvnil @0 ……………………。 それが、私が伝えられる精一杯の言葉だった。 あとはただ、目を閉じて待つ。 ……あぁ、本当に、 プロポーズを待つ人の心境ね……。 ……………………。 私の指先に、シシトの震える指先が触れる。 @102 姉さん……僕……。 @120 ……これも選択よ、シシト。 リセットも何もない。一回きりの選択。 ……中途半端は許さない。 さぁ、よく考えて選びなさい。 ……決して後悔しないように。 @100 ……………………。 @1 そしてシシトは……。 私の手を、握った。 !mv住宅地 !bgmエンディング1 @120 ……………………。 いいのね? シシト。 ここにいれば、少なくとも あなたは幸せになれるんだから。 @102 今更、迷わせるような事言わないでよ。 @100 ……確かにここにいれば幸せだろうけど、 @102 姉さんの話を聞いてて、 なんていうかさ……。 それが本当の幸せなんだろうかって、 そう、思ったんだ。 @120 そうね。ここにある幸せは、 全部あなたのご都合主義な幸せ。 そんなもの、本当の幸せじゃないわよね。 ……よかった。あなたが自分の力で 目覚めてくれて。 @100 違うよ。姉さんがいてくれたから、 その事に気づけたんだ。 ありがとう姉さん。 ……姉さんが来てくれなかったら、 僕はずっとここで夢見てたかも。 @120 本当よ、この馬鹿。 世話ばっかりかけさせるんだから。 ……でも、自分の力で 間違いに気付いてくれて良かったわ。 @102 ……もしここで断ってたら? @120 ぶん殴って気絶させてから 無理矢理連れ出してやったわよ。 @102 ははは……。 @120 でも、そんな事はないって信じてた。 あなたは私が愛する自慢の弟だから。 ……………………。 それじゃあ帰りましょう。 時間もないし、外の事も気になるわ。 @100 そうだね……。 で、姉さん。 どうやって帰るの? @120 ……………………。 !bgm え? @102 え? って……\sえ? @120 ……こう、世界がピカーって光ったり、 急に意識が遠くなって、気付いたときには 現実世界に戻っているとか。 @102 ……………………。 そんなご都合主義は起こりそうもないね。 @120 ……………………。 !bgmサスペンス …………まずいわね。 @102 ……そうだね。 (誤魔化したな……。  顔が真っ赤だよ、姉さん……) @120 まさかまだ迷ってるとかは……。 @103 それは無いよ、姉さん。 僕は外に出なきゃいけないんだ。 それで、迷惑かけたみんなに謝らないと。 @120 ……うん。 そりゃじゃあ、行くわよ、シシト。 @100 …………どこに? @120 分からない。けど、出口はきっとある。 !bgm(タクミ)戦闘訓練 !bgs ……だから、走るのよ! @103 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き ……………………! !mvnil @0 シシトの手を取り、駆け出す。 どこに行くかなんて考えない。 ただ、ここで立ち止まっては行けない気がした。 @103 姉さん……。 この先の道、僕は知らない……! @120 知るか! @102 知るかって……。 @0 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き 地面はある。景色はない。 見慣れた町の風景が遠ざかっていく。 明かりが消えたトンネルの中を走る感じ。 前に進んでいるかの自覚さえもなく、 後から付いてきているシシトの姿も見えない。 あるのはただ、二つの呼吸音と、 しっかりと握りしめた、この体温だけ。 @103 姉さん、後ろ……! @120 え……? ――――――――。 @200   @250   @402   @410   @0 リョウヘイ君、セトさん、冬村さん。 そして他にもシシトの知り合いが数多く、 恨めしそうな目で私達を見ていた。 @202 おいシシト。約束しただろ。 また明日学校でな……って。 @402 先輩、シイナさん。行っちゃうんですか? @410 ここは楽しいよ? 夢の世界かもしれないけれど、 現実の世界には絶対にないものもある。 @251 まだ間に合う。戻ってこい、シシト! @110 シシト、ごはん。できてるのよ? @111 シイナも昼食すっぽかすし、 せっかくこんなに作ったんだから、 しっかりと食べて行きなさい? @103 うっ……! @120 振り向かないで! このまままっすぐ進むのよ! @103 わ、わかった……! @1 シシトは一瞬後ろ髪引かれるような 顔を見せながらも、 決して立ち止まりはしなかった。 @120 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き !wait8 !se(Action)学内歩き (よし、このままなら……!) @620 村上シシトォォッ――! @103 リュ、リュウゾウ!? @410 きゃぁぁぁっ――! @103 ……………………っ!? @120 シシト、あなたは何も聞いていない! ……………………っ! シシト!? @1 !bgmサスペンス 私の身体ががくんと揺れる。 シシトは私の手を離しこそしなかったが、 完全に足を止め後を振り返っていた。 @620 戻ってこい村上シシト! 戻ってこなければ冬村サユキを殺す! @120 ここは現実じゃない! 夢なの! @410 助けて……助けてシシト君ッ! @103 くっ……うぅ……! @120 走れ! 走ってシシト! @410 ……………………。 見捨てるんだ、シシト君。 また私を見捨てるんだね……? @103 ぁ……くっ……ぅ………! @410 許さない……! 絶対に許さないよシシト君! 必ずこの選択を後悔させてあげるから! それが嫌なら……。 ほら……まだ間に合うよ? 私を助けてシシト君……シシト君……! @120 黙れ幻影! あなたは……いえ、\r[あなたたち,・・・・・]は誰? 外にいる「狂気」なのね? ふふ、随分焦っているじゃないの! このまま進めばそこが出口なのね? @410 っ……! @120 私は走り抜けてやるわ! このまま絶対にシシトを逃がしてみせる! この繋いだ手は、絶対に離さない! @410 待って……! 待って……! 助けてシシト君! お願いだから……! @100 ……………………。 冬村さん、ゴメン。 @103 姉さん、行こう! @410 ………………………っ! @120 私達の勝ちよ、「狂気」! @410 させない……! @404 させない……! @250 せっかく外に出たんだ……! @200 逃がして―― @0 \f[30]タマルカアァッ――! @103 !bgm(タクミ)戦闘訓練 姉さん……行こう! @0 !se(Action)学内歩き !wait6 !se(Action)学内歩き !wait6 !se(Action)学内歩き !wait6 !se(Action)学内歩き !wait6 !se(Action)学内歩き 初めて、シシトが前に出る。 私を引っぱって先へ進んでいく。 @120 ……………………。 @103 いっけええぇぇっ! @0 光が見える、背後には闇。 ……大丈夫。シシトなら間に合う。 絶対に狂気から抜け出すことができる。 ……やっと、守れた。 私はついに、シシトを守ることができた。 緊張がとけたからだろうか。 唐突に眠気がやってくる。 ……体の全てが光に包まれるのを感じながら、 私の意識はゆっくりと落ちていった。 ……………………。 !wait30 !bgm !wait30 !v5=0 !mvマンション街 @130 ……………………。 @120 ……………………。 ……シシ、ト? @130 ……何? @120 ――――――――! @131 !bgmエンディング1 うわっ……。 姉さん……苦しいよ。 @120 ……うるさい。 もう一度、しっかり抱かせなさい。 @130 ……キス、してたのかな。 なんだか、口の中に姉さんの匂いがある。 @120 そういう恥ずかしいことも言わないで。 初めてだったんだから。 ちゃんと責任取りなさいよ、シシト。 @131 一生かけてでも償わせてもらうさ。 @130 ありがと、姉さん。 @120 守れた……やっと守れたのね……! @131 ちょっと、本気で苦しいよ……。 @120 守れ…………。 @130 え……? @120 !bgm うっ……っ!? @1 !bgmサスペンス げぼっと、変な音がした。 ……同時に、肩から背中に温かい液体が、 ぶちまけられる。 @130 ……姉さん……? @133 姉さん!? @120 ぁ……ぅ……っ……! @1 ずるずると音を立て、 姉さんの体が僕から崩れ落ちた。 @133 うわっ……なんで血がこんなに……!? @132 って僕の体も血まみれだ――っ! @120 ……………………。 @133 姉さん、姉さん!? ……ちょっと待ってよ。 体が何かで張り付けられてっ……。 ダーツ? 姉さんがやったのか……。 っ……くそ、このぉっ……! @1 改めて自覚すれば、 僕の全身は至る所が傷ついている。 正直痛みで意識を失いそうだった。 @132 う、\sお、\sお、\sお、\sお……! @133 !se(Action)ビシッ りゃぁっっ! @1 深く突き刺さった四つのダーツを、 僕は肉体の力だけで無理矢理引き抜いた。 @133 はぁ、はぁ、はぁ……! 姉さん、姉さん! 姉さん!? ちょっと、返事してよ! !bgm緊迫状況 ……息、してないっ!? @132 馬鹿! 僕を助けておいていきなり死ぬなよ! まだなんにも恩を返して無いじゃないか! @131 えっと、こう言うときは人工呼吸? いや、傷口がひどいから止血を先に……? 口から血出してるけど、こっちは……? @132 あああああっ! 落ち着け、落ち着け僕! @1 姉さんが、姉さんが死んじゃう! こんなになってまで助けてくれたのに! 僕にできることはなんだ。 僕にできることはなんだ……? 僕にできることはなんだ……! @132 姉さん、姉さん! 死なないで! @1 違う、叫ぶ事じゃない! 慌てる事じゃない! じゃあ、じゃあ何をするべきなんだ……! @704 シシト――――! @130 ぁ、リ、リス君……! @704 ゼェハァゼェハァ……! @701 くそー。この位置を見つけるのにも 滅茶苦茶苦労したぜ……。 @130 リス君! 姉さんが! @701 え……? @132 とにかくこっち来て! @704 ガレキが邪魔で走りにくいんだよ! @132 !se(Action)ジュゴー あぁもう――! !wait5 @133 !se(Action)ジュゴー ――――これでいいだろ!? @701 あれ? いつの間に……。 @704 ってシイナ姉ちゃんすげぇ出血! @701 いや、でも傷はそんなに無いな……。 @132 早く! リス君ヒールヒール! @705 ああ! リスヒール! @133 !se(System)ピロロロリン ……………………。 @132 全然効果無いよ! @701 わかってるよ……! だから落ち着けよ、シシト……。 @704 リスヒールリスヒールリスヒールリスヒール! リスヒールリスヒールリスヒールリスヒール! リスヒールリスヒールリスヒールリスヒール! @133 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン ……………………。 反応がない……まさか、もう……? @704 ハァハァハァハァハァ――! 諦めるなシシト! まだ、まだ心臓は動いてるんだろ!? @130 あ、そうだ。心臓の音……! えっと……! @1 ………………トク、………………トク。 @133 聞こえる! @130 ……でも、すごく弱々しいんだ。 @701 ……俺のヒールじゃ間に合わない。 急いで女神様の所に運ばないと……。 @133 わかった。 @704 !bgm ああダメだシシト動かすな! @130 えっ!? @704 !bgmサスペンス 今のシイナ姉ちゃんは すっげぇギリギリで生きてるっぽいんだ! @701 ヘタに動かしたら、 その瞬間死んじまうなんて事も……。 @133 じゃあどうすれば良いんだよ!? @701 い、いやだからそれは……。 @704 あぁぁ! 手詰まりじゃねえか! 畜生!リスヒールリスヒールリスヒール! リスヒールリスヒールリスヒールリスヒール! リスヒールリスヒールリスヒールリスヒール! !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン うおおぉおぉぉぉっ――! @133 クソっ……姉さん……! どうして僕に恩返しさせてくれないんだ! ……なんで勝手に死んじゃうんだよ! 許さない! 死ぬなんて許さないから! @704 リスヒールリスヒールリスヒールリスヒール! リスヒールリスヒールリスヒールリスヒール! リスヒールリスヒールリスヒールリスヒール! !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン !wait5 !se(System)ピロロロリン リスヒ―― グハッ! @1 モクモクモクモクモク……。 @901 私はドッペルゲンガー。 どうせ今回も リスになれとか言われるのでリスに―― @900 あれ? この女の人死にかけじゃん。 @133 ……………………。 @900 ねーねー。 この人もう死ぬし、こっちになっていい? @133 ………………………。 @901 ぶっちゃけた話さー。 このリス弱いし、すぐ死ぬし。 正直変身するの嫌なんだよねー。 @900 俺がこの姉ちゃんに変身しても、 今までとなんの変化もないよ? 寿命だって減ってない頃になるし、 望めばいくらでも蘇ることができるし。 お前の姉ちゃんだろー? 生きてて欲しいとは思わないのかよー。 @130 ……………………。 @134 ………………\f[12]さい。 @900 ん? @132 うるさいって言ってるんだ! お前なんてリス君になってろ畜生! @901 ひええぇぇぇ……。 @1 モクモクモクモクモク……。 @133 姉さん……助けてあげるから。 何が何でも……どんな手を使っても! ……でも、でも……どうやって!? @1 そうだ。これが現実。 姉さんは助からず、僕が生き残る。 ……魔王の笑い声が耳に入る。 ずっと遠くだ。でも僕の耳はその声を聞いていた。 @1 \f[12]あはははははははっ! ようやく追いついたよアルバート君! 車壊れたよ? ゲームオーバーかな!? \f[12]くっ……くそ……! まだか、まだなのかシイナ! シシト! \f[12]無駄だよ。まぁ、今のアルバート君にとっては そんなことはどうでも良いんじゃない……? \f[12]だって、今からこの場で私に殺されるんだもの! \f[12]ねぇ、シシト君が私にした殺し方してあげようか? 刃物で生きたままお腹開いてあげるね? ううん、刃物なんて要らない。この爪でやってあげるよ! \f[12]くそっ……くそっ! \f[12]あはははははははははは! まだ逃げるんだ。でも背中ががら空きだよ? \f[12]ぐあぁぁっ――! \f[12]アルバートさん! \f[12]スケイル! お前だけでも逃げろ! \f[12]そんなわけには…… \f[12]お願いです……魔王……さん! どうかアルバートさんには手を出さないでください! 私が……私がどんな責めにも耐え抜いて見せますから! \f[12]あはははははははははは! いいねぇ、その自己犠牲の精神は……。 じゃあお望み通りにしてあげるよ! \f[12]やめろおおぉぉっ! @1 ……………………。 アルバートの悲痛な叫び声。 クロウやネコ君の僅かな息づかいも感じる。 ……きっと、それもすぐに聞こえなくなる。 ……………………。 !wait20 !bgm別れ 僕は……無力だ。 夢の世界から飛び出し狂気から冷めて、 その先に広がっていたのはひどい現実。 ……当たり前といえば当たり前だ。 だって僕は逃げたんだ。 その先に広がっているのがいい世界なわけない。 ……これは僕に与えられた当然の罰。 罪に罰が下されるのは至極当然なこと。 @134 馬鹿だった……。 逃げてばかりで、簡単な道しか選ばないで いつでも他人任せにして責任押しつけて! その結果がこれじゃないか……。 僕は、なんで逃げてばかりなんだよぉっ! うっ……うううっ……! @1 ――泣いていたってしょうがない。 これも一種の逃げなんだ。 泣いていれば、誰かが助けてくれると思ってる。 涙が姉さんに降りかかって起こる奇跡を、 バカみたいに信じている。 ……………………。 !se(Action)ビシッ @133 っ……! 僕は……本当に何もできない? 違う! 僕はまだ何もしていないじゃないか! 逃げただけでなにも行動しなかった! 感情のまま動いて、事態を混乱させた! ただ……ただそれだけじゃないか! 姉さんはもう死んだのか? アルバート達は殺されたのか? 僕にはもう何もできないのか? 違う! まだ姉さんは死んでない! アルバートも生きている……! ここからだ……この最悪の状況から! 今度は僕の力で解決するんだ! できることをやる! 絶対に諦めずに前に進む! 泣き言も、恨み言も終わった後にする! @134 ……………………。 何もできないかもしれない。 結果として、誰も救えないかもしれない。 でも、僕はその結果を受け入れよう。 自分が下した選択に、後悔はしない。 あの時こうしてれば……なんて もう言い訳もしない! ……………………! !mvnil @0 奇跡を起こしてやる……! 姉さんもアルバート達も救ってやる……! だって、それが僕の望み……! この現実世界で、あがいてもがいて、 それでも手に入れなきゃいけない理想! 僕が……。 僕が……! @133 !bgm 僕がみんなを守ってみせる! !wait120 @0  ……TO BE CONTINUED……