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煉獄の聖戦 はじめに by 桜崎紗綾 2008/01/14 (Mon) 22:17
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    はじめに





これは幻想譚三年後の物語です。

幻想譚本編にかかった日数は十日前後、仲間は全員そろっていて、なおかつ生命の結晶を使用していません。
(=仲間は全員生存している状態)

防衛戦に勝利、EDはセタが竜神の共存エンド、サリムとセタの父親は生きている状態…と、一週目ではちょっと難しいクリアの形。

オリジナルキャラと、見聞録キャラと、幻想譚キャラを無理やり混合させて話を進めていく予定です。

ちなみに、見聞録世界では、シークエンス6以降を予定しています。



    能力バランス


 エミル

普段は剣術や体術がメイン。『迎撃』なんかも覚えている。
フォースといえば、もっぱら『転移』ばかり。
それなのに敢えてスケイルを選んだのは、いざと言うときに
すぐにフォースを使えるようにするため(本人談)


 エシュター

『イシュテナさんの子孫』である以上、フォースもそれに準じている。
回復や補助系のフォースが主だが、剣術も得意。
イシュテナさんと違う点といえば、防御が出来ることくらいかも。


 ガゼル

見聞録中で体術派だとか言っていたような記憶が作者にあるため、やっぱり体術派。
エミルが言い切ったように『妥当』だから、負け戦は即座に『転移』。
フォースは『剛力』や『迎撃』など、自分の長所を生かすものばかり。


 セト

どうせなら幻想譚にいないタイプ欲しさに、攻撃フォース使い。
彼女は『雷光』のような、攻撃フォースがメイン。
さらに『増幅』で自分を強くしちゃうから恐ろしい。
短剣使いで、斬りもすれば投げもする、攻撃に関してはいろんな意味で器用。


 アルバート

シル幻の時と余り変わらない人(苦笑)
当時よりも強い予定ですが、未定です。


 シーナ

ストーリーの都合上、トーテム不所持の人。
じゃあ弱いじゃん! と思いきや、彼女は意外な才能を見出します。


    オリジナルキャラ


 エミリューレ・ヴァレリア (エミル)  序章登場
   年齢:18歳 性別:女 身長:151cm 血液型:AB型

銀髪ショートカット、藍色の目の、口の悪い主人公。
誰に対しても態度があまりよくないが、
悪態は相手に対する友情や敬意を示していたり、極端に不器用。
主人公らしくお決まりとしか言いようがない、過去の秘密があるらしい。
ちなみに、超善人。
最後に別れを言ったキャラは言及しない方針ですが、
流れからして恐らくアルバート。


 イロン  第三章登場
   年齢:19歳 性別:女 身長:174cm 血液型:A型

アーサの恋人で、サーショにいるほうのガランの娘。
茶髪のストレート、緑色の瞳…間違いなく母親似といえる美人。
父の教えから、鍛冶師としての修行をしていて、才能は十分にある。
少し無愛想な上に現実主義者で、何でもズケズケいうタイプだが、
仕事に関しては潔癖なくらいに完璧主義という、根っからの職人気質の持ち主。


 シャルドンネ  第八章登場
   年齢:28歳 性別:女 身長:160cm 血液型:B型

エミルがかつて所属していた、謎の組織の女性。
【雪嶺(せつれい)】と言う異名があり、
美しく冷たい女のようなイメージをより強めている。
薄い青色の髪に、黒い瞳、紫色の口紅を使っている。
美人だが、全身から「怖いお姉さん」のオーラを出している。
名前は化学辞典から引用。エミルとは因縁があるようだ。


こんな桜崎紗綾の話を読んでやってもいいよ、
という心の広い方がいらっしゃったら、ぜひ目を通してください。
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煉獄の聖戦 序章 by 桜崎紗綾 2007/08/25 (Sat) 21:22
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華奢な少女の姿が、赤い夕闇の空に映されている。


風に、静かに揺れた短く切りそろえた銀髪が、少し早い月の雫のように輝く。

藍色の瞳が、退屈そうな表情を浮かべる。


「もう終わり?」




    煉獄の聖戦 序章 夕闇の銀


「自業自得じゃないか。何てザマだよ」

エミリューレ・ヴァレリアは低い声で悪態を吐いてやった。

三年ぶりに意識の海で聞いたリクレールの声。
それに対する感慨らしきものは全くないようだ。

《頼みます、エミルさん。
 あなたしかいないと、スケイルに言われたんです》

「……はいはい! わかったから、何すればいいのさ」

《まずは、五人ほど、信頼できる人物を選んで連れてきてください》

「要は人捜しか」

《そうですね》

引き受けたとたんに、この態度だ。調子のいい女神だ。

《出来たら五人とも固まってくれていると助かるのですが》

「んなこと言われなくてもわかるさ。この手のことはチームワークとやらが重要なんだろ」


少女はため息を吐いて答えた。

女神からの全面的な信頼を受けている。
自分も、同じように信頼できる相手を見つければよい。

簡単なこととは思えないが、とにかく捜すしかないだろう。

《三日でお願いできますか? エミルさん》

「随分期間短くねぇ? じゃ、せめてアルバートのいる辺りの時代で。
 友達の友達とかなら、捜すの楽だろ?
 そーでなきゃ、どうやって三日で五人も信頼できる輩捜すのさ」

《それで本当に三日で出来るのなら、
 捜し方はあなたに一任しますので、お願いします》

「ま、任せとけって」


エミルは軽く請合うと、身体を手に入れて別世界へ飛ぶ、懐かしい感覚を思い出した。






「五人組を捜してるってのは、お嬢ちゃんのことかい?」


夕闇に染まる中央広場。

ゴロツキとしか見えない五人がエミルの周りをぐるりと囲む。

「あんた、なかなか上玉じゃないか」

「………………」



若干離れたところで見ているのは、16から18くらいの少年だった。

助けようか助けまいかを、悩んでいるわけではなさそうだ。
出来れば助けたいが、一人でどうするか。
自警団を呼んだところで間に合うかは疑わしい。

そもそも、この少女は何故五人組を捜すのか、という疑問もある。

このときのエミルが知る由もないことではあるが、
ガゼル、という名のこの少年の迷いは悪いものではない。

勝算があるわけでもないのに我を忘れて飛び込むわけではなし、
かといって見てみぬフリをしたり他人に任せようとも思っていない。

比較的冷静で、比較的善人なのだろう。


(あいつ、いなくならなければ後で話しかけるか)

エミルのほうも相当冷静だった。


「悪ィな、出直してきな」


彼女は左足で一人目の両足の間にあるモノを蹴り上げる。

反動で後ろの二人目の鳩尾に、右手で肘鉄を加えてやる。

三人目の顎に左フックを浴びせると、
比較的背の低い四人目の左頬を右足で蹴り上げた。

右足が地面に着くかつかないかのうちに左足を軸にして回り、
五人目の腕を掴んで引き寄せ、地面に叩き付けて見せた。


ガゼルはこの時、密かに心の底で誓った。


金輪際、女を敵にすべからず――と。


「もう終わり?」

エミルは詰まらなさそうな声を上げた。

成る程、このシーンは実のところ、十数秒も経っていないのだ。
『もう』終わりなのも頷ける。
だからこそ、相手はいきなりすぎて動けなかったのだ。

「チッ、口ほどにもない。一昨日きやがれ」

退屈そうな表情を浮かべると、エミルはガゼルの姿を捜した。

彼は早々と立ち去ってしまったようだ。


(なーんだ、いなくなったじゃないか。
 ま、アルバートもまだ見つかってないし、いいか)

エミルは気絶する五人に一瞥をくれてやることもなく、その場を後にする。

あとでガゼルが自警団をつれて現れたときに見たのは、
倒れた男たちと、疎らな人だかりだけだった。




   あとがき


初登場幻想譚キャラがリク様はともかく、
見聞録キャラがガゼルって、微妙ですかね?

正直、別にあわせなくてもなんら影響ない…のは事実なんですが。
とにかく、エミルの口の悪さと体術については、よく理解できたと思います。

それではこの辺りで……
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煉獄の聖戦 第一章 part1 by 桜崎紗綾 2007/08/25 (Sat) 21:23
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「あたしのこといい奴って言ったの、今のとこあんただけだよ?

 セタ…だっけ? あたしが言うのもなんだけどあんた相当変わってるよ」


     森の中で竜人の子を救った時、英雄がセタに言った一言



    煉獄の聖戦 第一章 旧き友、新しき友 part1


その日、ノーマ学院はたまたま休日だった。

シーナは買い物ついでにエシュターの住む本屋に足を運んでいた。

エシュターは、叔父が出かけていたので店番をしていて、
シーナと取り留めのない世間話をしていた。


二人が主として本の話をしていると、やがて一人の客が現れた。

エシュターは、客の宿すトーテムに目を留めた。
緑色の竜の形をしている。相手も、自分のトーテムに目を留めたようだ。


エミルにとって別に本好きの少女と店番の会話などに興味はないが、
店番のトーテムらしきフクロウが気になった。

本を探すフリをして黙って二人の会話を聞き流していたら、
少年の名がエシュターで、少女のほうがシーナだとわかった。


(聞き覚えがあるな、なんとなく『あのクソ餓鬼』に似てるし。

 そうだ。アルバートの馬鹿が良く話してた友達の名前だ。
 …あいつがアルバートの数少ない友達の一人か)


エミルはカウンターまで向かった。もちろん、本は買っていない。

「お会計ですか?」

エシュターが尋ねた。
シーナは邪魔にならないように横に避ける。

「シーナがあんたで、エシュターってのは、あんたかな?」

「えぇ、まぁ…」

「友達を探してるんだ。この辺に住んでるって聞いて。
 アルバートって言うんだけど、知らないかな?」

「アルバート? アルバートって、あのアルバート?」

エシュターはシーナと顔を見合わせる。
まだビンゴとはいえなさそうだが、リーチがかかったといっていい。

「どのアルバートだか知らんが、あたしが探してるのはそんな男だ。

 あいつが良くエシュターって名前の友達のこと話してたから、
 あんたのことじゃないかなって思ったんだけどさ」

普通に考えてここまでくればお互いが頭に浮かべる人物は、
全く同じ『アルバート』なのだろうが、エミルは裏づけを求めてみた。

「右眼に眼帯してて、目つきが鋭くて、
 『無駄に』頭の回転が速くて、『変なとこ』几帳面な奴なんだけどさあ」


出来るだけ詳細を語るのが人探しのコツとはいえなくもないが、
ここまで来ると失言に分類される。

だが、あらゆる意味で変人と言う結論を与えるこの言葉は、
二人にとって的をついた発言だったようだ。


「いる」

エシュターが答え、シーナが頷いて同意する。

「勝負したさに首席予備軍レベルの成績とったんでしょ?」

「あ、あの手帳……」

よく判らないが二人とも思い当たる節があったらしい。

「明日学院で会うから、待ってれば来るんじゃないかな」

「どもありがとさん。助かったよ、エシュターにシーナ。
 あたしはエミル、エミリューレ・ヴァレリア。
 たぶんまたどっかで会えるんだろうさ!」


エミルはさっさと走り去ってしまった。
再び情報を集めに走るつもりなようだ。


「それにしても、アルバートにエミルさんって友達、いたっけ」

「さぁ? …あ、そろそろ帰るね。遅くなっちゃうから」

「うん。それじゃ、また明日」

帰っていくシーナを見送ると、エシュターは叔父の帰りをフクロウと喋りながら待っていた。

「フクロウさん、エミルさんって人、竜みたいなトーテム宿してなかった?」

《そもそも彼女は我を見てここに入ってきたように思うぞ。
 それにしても、見覚えのある娘だな》

「え? いつ?」

《恐らく、我が少年に宿る前にいた別の主のときだな。
 少年より少し前の代で、娘やあの竜と関わったことがあるのかも知れん》

「まさか。あの人、僕と二つか三つくらいしか年違って見えなかったし」


まさかフクロウの言ったことが事実だとは思わずに、
エシュターは店番をしながら叔父の帰りを待っていた。




  あとがき

どうも、桜崎紗綾です。

第一章part1になりました。多分全部で3つか4つくらいになります。

「第一章はここまで!」と決めていたのを試しに書いてみたら恐ろしく長くなったので、分割することにしました。

次を第二章にすると冒頭の幻想譚中の『エミル語録』のネタが尽きそうなので……。

それではこの辺りで…。
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煉獄の聖戦 第一章 part2 by 桜崎紗綾 2007/08/25 (Sat) 21:23
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    煉獄の聖戦 第一章 古き友、新しき友 part2



ノーマ学院の食堂だった。

エミルはとりあえず昼休みにここへ向かい、
何故か食堂の女性に勧められるままに牛乳を飲んでいた。

ちなみに、もう五本目である。

シーナと、彼女の友人セトに頼んでアルバートを呼びに行ってもらっている。


「また会ったな、鋼鉄の胃袋の女エミル」


褒めてるのか貶してるのかまるでわからない発言とともに、
戦友アルバートの姿が現れた。

もともと昼食をとりに来るつもりだったようで、
エシュターやガゼルとともに来ている。

シーナとセトはファーストフード店のように隣のテーブルをくっつけて席に着いた。

「よっ、アルバート。相変わらずだな」

「エシュターから聞いて驚いたぞ。
 エミルが本当にここに来ていたはな」

「あんたが驚くところ、想像つかないんだけど?」

エミルはさりげなく嫌味を言いながら、五本目の牛乳を飲み干す。

「恵まれてない上司の命令さえなけりゃ、こんなとこ来ないさ」

無論、上司とはリクレールのことである。

エミルは六本目に手を伸ばす。

アルバートの言うとおり、彼女は牛乳好きにして鋼鉄の胃袋の持ち主だ。
連続十二本飲んだ実績持ちだが、その割りに身長は何故か低い。

「ところでそこの兄ちゃん、昨日、中央広場にいた人?」

エミルはガゼルのほうを見た。

「自警団を呼んだんだけど、無意味だったらしいな」

「ま、それが妥当なところだ。あたしにはいらん世話だったけど。
 むしろ医者呼んだほうがよかったかもね」

「考えてる暇あったら誰か呼んだほうがいいと思ったんだけどさ」

「確かにそいつは一理ある」

次々と減っていく牛乳に、ガゼルはおぞましさすら感じたが、
あえて言及しなかった。それはそれで妥当なところだ。

「知らないと思うから言っておくが、
 こいつはガゼルだ。あとはみんな知ってるな?」

エシュターに、シーナ。セトに、アルバート。
見事なくらいあっさりと五人集まったようだ。

「さて、エミル。お前がここに来た理由は?
 さっき上司がどうとか言ってただろう?
 だったら俺たちにしてほしいことがあるはずだ」

「言えばこの中に一人か二人くらい拒否る奴がいる」

エミルは唇を尖らせた。

「それくらい大人数がいることをするつもりか」

「実質的に言えば、万規模かも」

アルバートはエミルの七本目の牛乳を奪い取った。
飲む前にどういうことか説明しろ、といいたいのだろう。

エミルはアルバートと手だけで牛乳を奪い合いながら、ため息を吐いた。

「だから、女神のいる辺りで噛み砕いて説明したほうがいいんだってば。
 簡単な事情は聞かされてるから、それだけは説明できるけど」

アルバートは話せ、とばかりに顎で促した。
エシュターたちも興味を持ったようだ。

「あの時代でトップだった魔王を倒して、
 国を束ねる奴がいなくなって一年した。

 そのとき、ウリユも予言できなかった異世界人が現れた。
 あの娘の予言は、異世界の干渉がない前提だ。

 で、その異世界人が十万規模くらいで現れた。
 そいつらはムーの南西辺りに首都を構えなおして、
 新たに 『ローム帝国』 を立ち上げた。

 指導者の名前はヴィトー。
 はじめはみんな政治を担ってくれるこいつを歓迎していたんだけど、これが独裁者でさ。
 簡単に言えば国がクソになってきちまってる。


 で、あたしたちのするべきことは、国をぶっ潰すことさ」






  あとがき

次回は絶対に説明的部分が多くなると思います。
この時点でも説明し放題ですからねぇ。

なんだか延期になった地獄の中間テストが終わったおかげで、
ようやく更新が出来そうです。

予定ではあと二回か三回くらいで第一章が終わるかと。

それではこの辺りで…
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煉獄の聖戦 第一章 part3 by 桜崎紗綾 2007/08/25 (Sat) 21:23
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    煉獄の聖戦 第一章 古き友、新しき友 part3



 「するべきことは、国をぶっ潰すこと」――


簡単に言えているかはさておいて、
エミルはこれで良いだろとばかりに七本目の牛乳に手を伸ばす。

「今度は何?」

アルバートが、その七本目を先に奪い取った。

「その異世界からの干渉者とやらがいて、今があるとしたら?」


「だったらわざわざあたしに頼み込んできた、あの女神は何だ?

 自作自演の馬鹿騒ぎか?
 あたしに、阿呆の戯曲の役者になれ、と?」


返す言葉の見つからないアルバートは押し黙った。
エミルはその様子を軽く無視して、続けた。


「アルバートのことだから、察しはついてると思うんだけどさぁ、
 あの世界、ここの数千年位前の過去だぜ?

 ってことはだ、干渉者の行動一つで、
 この中の誰かの直径のご先祖さんが死んだりしたらどうよ?

 その誰かさんは、ハナッから『いなかったこと』になる。
 わかるか? それがどんなに大変なことかが」


苛々したようにいうエミルの言葉は、およそ現実的なものでない。

だが、言っている意味が理解できないわけではなかった。


「要するに…クーデターを起こして、
 そのロームって言う帝国を倒せばいいのですか?」

セトの言い方は、単純にしてわかりやすいものだった。


「平たく言えば、そうなるかな」

「私に出来ることなら、なんでもします!
 国は王がいるから国なんじゃないんです。人がいるから国なんです」

セトのような人柄は、よく言えば誠実で、悪く言えば単純だ。

むしろ彼女のような性格の人物の一言には説得力があり、
今の言葉にも誠実さすら醸し出している。

「争いごとは嫌いだけど…エミルさんの言うとおりなら、
 僕がいて迷惑にならないなら、協力するよ」

「俺も、できることがあれば協力するぜ」

エシュターの結論の後に、ガゼルが間髪容れずに続けた。

「助かるよ! ガゼルみたいな、思考回路が妥当な奴がいると!」

「………それ、褒め言葉か?」

エミルはこの問いを無視した。一応、彼女なりの褒め言葉である。


「あの、えっと…。私も、一緒に行って、いいの?」

「よかった。シーナが来てくれると、助かるよ」

「え……っ? 本当に?」


恐らく彼女は、自分の病気のことを言っているのだろう。

エミルはシーナの病気のことを知らない。
だが、一緒に来ていたスケイルが、
彼女の『写真記憶』と言う素晴らし過ぎる才能を見出していたのだ。


「あんたが何に悩んでいるにせよ、完璧な輩なんていねぇんだよ。
 ――所詮、あの女神だって完璧なんかじゃないんだから。
 むしろ、あの女は怠けの天才だ」


このエミルの失言かつ悪態に、咳払いをしたスケイルが見えたのは、
恐らくエシュターとアルバートだけだっただろう。



「つまり、エミルは、大歓迎だといいたいんだ」


エミルが言っている意味がよく判らなくて戸惑うシーナに、
アルバートが小声でフォローを入れる。


「そうだ、アルバート。
 お前、来・る・よ・な・あ?」



「……俺もここで死ぬ気はないから、安心しろ」


バキバキッと指を鳴らすエミルに、
アルバートはため息混じりに言ってやった。

明らかに命令形の口調だった。

実質三日か四日ほどしか旅をした記憶がないのは事実だが、

エミルがその気になれば、
素手でも三十秒で惨殺死体が出来ることはわかっている。


多分、本当の意味で彼女に逆らえるものは、いないのだろう。






   あとがき


思ったより早く第一章が終わりました。あぁよかった。

とかいってよく見たら一ヶ月以上更新してませんでした。
夏休みが始まってようやく更新が進みそうでちょっと嬉しいです。

で、ちょっと読み返してみて一言。
「何なんだこの理不尽な展開は!」
…許してください。私の力不足のせいとしかいいようがありません。

それに、なんだかリク様に悪態言いまくり放題のエミルです。
決して、リク様が嫌いなわけじゃないんですがねぇ……。


それではこの辺りで失礼します…
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煉獄の聖戦 第二章 by 桜崎紗綾 2007/08/25 (Sat) 22:32
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「姉さんのためだと思って、こいつを受け取ってくれ。

 あたしも、旅先で知り合った友達の姉貴を、
 助けられそうなとこで助けられなかったら、何か癪だしさ」

           二つ目の薬を拒んだシンに、英雄が言った言葉


     煉獄の聖戦 第二章 導きの女神


《よくいらっしゃいました、勇者に導かれし者たちよ》


エミルが『転移』を唱えてすぐに、一同は真っ白い世界に降り立っていた。

《私はリクレール、トーテムに…》

「御託を並べるのは後にして、さっさと話せよ」

余りに理に適いすぎて、リクレールには返す言葉がなかった。
ややあって、彼女は話し出した。


「ローム帝国では今、賄賂は横行し、当たり前のように盗賊は夜歩き、
 気に入らない部下を、上官が死罪である反逆罪として処罰し、
 皇帝ヴィトーは国民を顧みず、重税で絞り上げる始末。

 何も、国を滅ぼしてほしいとは言いません。
 ただ、私には、あと三年もすれば、
 世界そのものが壊れてしまうのがわかるのです。

 だから、国を、『再生』してほしいのです》


どこからどう考えても、革命を起こせといっているようなものだ。

それも、真っ白い天上界で言うのだ。
拒否権などどこにあるだろうか。



ガゼルがトーテムのクロウを宿した。
この二人、意外なほど気が合うようだ。

セトには、覚醒及び自覚がないだけで、トーテムが宿っているようだ。
クロウとは形は似ているが特性は真反対なようで、フォースが得意なようだった。

女神が、後はひょんなことで覚醒すると言ったものだから、
エシュターは自分の『ひょん』のハードさを思い出してしまい、
セトが可哀想に見えてきた。

エシュターには、思慮深きフクロウというトーテムがいる。
剣とフォースを平等に扱うことに、彼は異論がなかった。

エミルとアルバートには、これまで通りの力を与えられた。
二人に中心になってくれと言っているようなものだ。


最後に、シーナの番が回ってきた。

シーナには、あえてトーテムを与えない――
それが、リクレールがエミルやスケイルと話し合って、得た結果だった。


「ど、どういうことですか……?」

「つまり、シーナには、自覚はないだろうけど、既に凄い力があるって事。
 自覚のない状態でトーテムを与えてしまうと、
 その能力が何かもわからず、開花もせずにポシャるって訳さ。

 初めから持っているらしい能力は、あたしにもわからんけど、
 戦闘能力以上に大切なものなんだろうね。
 敢えてひとつも力を与えない理由は、
 平たく言えば、『灯台元暮らし』ってことなんだ」

《ただ、旅の間だけは、あなたの身体を人並みに丈夫にして差し上げられます。
 むしろ、あなたにはそれしかしてあげられないのです》

「わかりました…」

シーナは、明らかに腑に落ちない様子で、俯いていた。
だが、リクレールにとっても、そうかもしれなかった。

ちなみに、フェザーは残ってリクレールの補佐(≒パシリ役)をするらしい。



準備が一通り終わったところで、一同は『始まりの森』に移動した。

リクレールの話によると、生命の結晶を渡すことは、
ここまでで力を使いすぎてどうしても出来ないが、
全員、言語を理解できることは保証できるという。

そこはアルバートが最も気にしていた所だったのは、言うまでもない。


しばらく、エシュター、ガゼル、セトの戦闘訓練を見てやった後、
彼ら三人にシーナを加えた四人で、リーリル方面に回るように頼んだ。
四人の担当は、主に情報収集だ。

エシュターやガゼルはどんな形であれ武術経験はあるので、
これといった問題はないだろう。

シーナは無理をしないくらいの知性はあるだろうから、
まさか力がないから死ぬというようなことはないだろう。

セトにはまだ未熟な点があるが筋はいいし、戦闘センスもある。
トーテムが覚醒したら、どうなることやらわかったものではない。

エミルとアルバートは各地をめぐり、仲間を探す担当だ。
この二人は元が強い上に、スケイルが援護してくれる。

一同はとりあえず別れ、互いの行動をとり始めることにした。






  あとがき

ちょっとばかり、説明的要素が多くなってきました。
長いのは恐らくそのせい……、いえ、私の力不足です。

この夏でレベルアップしようと思ってましたが、出来なかったようです。
更新が遅かったのは、フェザーの扱いをどうすればいいか迷ってました。

二人の扱いを結局こんな流れになってしまったのは、
フェザーが書きにくい(苦笑)上にキャラが多すぎるとややこしいからです。

それではこの辺りで失礼します。
           8/25、はじめに・序章・一章を加筆修正
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煉獄の聖戦 第三章 part.1 by 桜崎紗綾 2007/08/29 (Wed) 17:16
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「どうせキューブとか言う、あのウザいのが出るんだろ?
 開けたら開けたで面倒臭い。

 …『開くな』よ、ド畜生がッ!」

         合言葉を鍵に閉ざされた扉の前で、英雄が叫んだ言葉



    煉獄の聖戦  第三章 反乱の息吹 part.1


「何なんだ! 金なしじゃ宿も安全じゃないのかよ!?」


一人の若者が、宿の前で竜人の兵士に向かって叫んでいる。

栗色の髪を赤いバンダナで多い、旅人らしい格好をしている。
年齢は、二十歳を超えたか超えていないかくらいだろう。

最近は治安が悪いので、旅人向けの宿の前には必ず警備兵がいるのだが、
彼らは宿を守る代わりに、旅人から金を取るのだ。

旅人の路銀と言うのも、金持ちといえる代物ではないので、
こうして兵士と言い争っている場面がしばしば見受けられる。


「アーサ。ここで口論しても仕方ない」


若者の斜め後ろくらいに立っていた、若い女性が彼を諌める。
真っ直ぐな茶髪の、女性にしては長身といえるスラリとした背丈。

どこに出しても恥ずかしくないような美貌だが、
その服は作業着で、工具を腰に括りつけている。

「不本意だけど、お金は払ったほうがいい。
 兵士はお金と引き換えに、私らを守ろうとしてんだ」

茶髪の女性にはどうも逆らえないところがあるのか、
アーサは渋々といった表情で、財布に手を伸ばした。


「あれ、アーサじゃないかよ?」


いきなり、背後から声がする。
振り返ると、そこには懐かしい姿があった。

「エミルさん!? アルバートさんも!」

「……久しぶりだな、アーサ。三年ぶりくらいだったか」

アルバートは、エミルに言葉を教えてもらった、と言うことにしておいた。


アーサと一緒にいる女性の名前は、『イロン』と言うらしい。

イロンは旅の鍛冶師で、アーサに出会ってから二人旅をしているという。

《ところでアーサさん、どうして宿に泊まるのに、
 兵士にお金を渡す必要があるのですか?》

「いざと言うとき、ちゃんと俺達を守ってくれるための、
 いわゆる袖の下ってところかな」

スケイルの問いに、アーサはサラリと答えた。
人の姿を持つスケイルとは、彼は面識があるのだ。

《袖の下? って、何ですか?》

「俗に言う、賄賂のこと」

イロンが低い声で答えた。

「まあ、竜人差別の酷い帝国の法律じゃ、彼らの給料なんて、
 雀の涙くらいのものなんでしょうけど。

 あの兵士みたいな奴らの諦めは、腐ってるとしか言いようがない。
 政府に幻滅した輩の中でも、エージス隊長たちとは訳が違うし」

「……実はあたし達、エージスとオーバのこと探してんだけど、
 何か知ってることある?」

「何故?」


エージス親子とオーバと二人の孫はいなくなっていた。
仲間探し担当のエミルたちにとっては、ぜひ会って置きたい。
彼らのことだから何かあったのだろうか、その事情すらつかめない。

サーショの民の誰に聞いても、知らず聞かずの一点張りだ。
特にエージスは部隊を率いていなくなったというので、
知らない人が一人もいないほうがおかしいのだ。

逆に言えば、公には出来ないが人の希望を背負ったような、
大切なことを成し遂げようとしている可能性があるのだ。

つまり、サーショの全ての民が、彼らがいなくなった理由を
秘密にしておくことによって、彼らを守ろうとしているといえる。


その意味で、アーサ達の反応も少し気にかかる。
アーサもイロンも、町の人と同じような反応を見せたのだ。

「何故って聞かれてもなぁ。…大きい声じゃ言えないけど、『革命』のため?」

「革命? どういうこと?」

明らかに帝国政府に嫌がっている二人ならば、
何か聞き出せるかもしれない。

エミルたちは事情を話すことを決めた。




 あとがき

鍛冶師のお姉さんを出してしまいました。

イロンは19歳で174cm、一応アーサの彼女という複線つきです。
ちなみに、サーショのほうのガランさんの娘で、多分、母親似だと思います。

名前の由来は iron (鉄)をそのままローマ字読みしたものです。
ちなみに、発音はイロンじゃないと思います。

多分、『はじめに』に追加すると思います。

第三章は全3〜4話に分かれると思います。
それではこの辺りで…
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煉獄の聖戦 第三章 part.2 by 桜崎紗綾 2007/09/21 (Fri) 22:13
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     煉獄の聖戦  第三章 反乱の息吹 part.2





賄賂を一銭も払うことなく、一同は宿に入った。

エミルたちが交代で二人を警護するので、
警備兵達は邪魔をしてくれるなと言い捨てたのだ。

一応、ドアを背後にしたアルバートが、
いつでも剣を抜ける態勢になっている。


「なるほど――反乱軍みたいなのを立ち上げるって訳だ」

リクレールがどうとかはさすがにいえないが、
それなりの事情を聞いたアーサの第一声がそれだった。

「そう。そのために、エージスやオーバが、
 こっち側にいてくれると助かるってこと」

「言いたいことはよく分かった。
 でも、そんな夢みたいな奇蹟、本当に起こせると思ってる?」

「こいつは手厳しい。だけど理に適ってる」

イロンの辛辣さに、エミルは苦笑せざるを得なかった。

「それでも、『誰かがやらないと何もおきない』のは事実だ」

「確かに。アーサ。彼らに賭けてみる?」

イロンが低い声でたずねた。

「俺は初めからそのつもりだったけど?
 そんな願ったり叶ったりなこと、エミルさんたちしかやってくれない」

「へぇ、そんな簡単に他人のこと信用していいもんなの?
 『信じるものは救われる』とか言うけど、『信じすぎるものは救われない』んだぜ?」

エミルは色々なものに対して皮肉をぶつけてやった。

「結構面白いこと言う」

イロンの苦笑に、アーサはだろ? とばかりに肩をすくめた。


「ったく、仕方ないわね。
 ――教えてあげる。エージスさんとオーバさんのこと。

 エージス隊長と娘さんは、この国に反発して、部隊を率いて、
 部隊を率いて、太陽の神殿に立てこもっている。

 オーバさんと孫二人は、エージス隊長のように国に反発して、
 隠れ里にいる同士みんなで、里に固まってる」


エミルたちが行動をとる以前に、各地で反乱は静かに始まりつつあったというわけだ。
意外と大勢の仲間が集まっていそうだ。エミルたちはまず、それを束ねる必要がありそうだ。

(それならそうと、早く言ってくれればいいのに、クソ女神)

と、心の中で悪態を吐いたのは、エミルだけではなかっただろう。

「にしても、七面倒臭ぇところを拠点にしてやがる」

《まぁ、エミル様、七面倒臭い程度のほうが、政府も討伐しにくいですよ》

スケイルの言うとおりだ。
森の奥にあることを想定すると、罠を張るのが簡単だ。

エージスもオーバも、割と巧みな考えで動いていたようだ。

「――アルバート、スケイル。行くか?」

「危険を承知で、話だけでもしないとな…」

エミルの質問に、アルバートが間髪容れずに答えた。

《そうですね、信用して頂けるかは疑問ですが、
 仲間がいないとどうにもなりませんよ》

「だよなぁ」

エミルは頷いた。
行くしかない。 それが、エミルの出した結論だった。


本気で行く気なのかと、アーサは念のため確認してみたかったが、
やっぱりやめよう、という結論に至った。

三年前、竜人の砦にも、情報提供者アーサの止めを聞かずに飛び出していった。
今更、わざわざ止める意味合いが、どこにあるというのだろう。


「行くなら行くで構わないから、俺達の護衛頼めないかな?」

「ついでに太陽の神殿に連れて行ってほしい。
 彼らの武器を鍛えなおしてあげるんだったら、父の教えに背いていないだろうし」

「それはいいかも」

随分と勝手に話が進むものだ。まぁ、断る理由はないのだが。

エミルは溜め息をつきながらも、二人の同行を承諾した。

「仕方ねぇな」




 あとがき

文化祭準備が妙に忙しい今日この頃です。
立派な帰宅部員だからでしょうか?

だからと言って更新が遅い理由をそれにしちゃいけませんよね。

次回はエシュターたち、進路をリーリルに取っている四人組の視点になります。


もうとっくに入れた気になって、あとがきに入れ忘れてたようですが、
この話のジャンルは現在マイブームな「戦争モノ」です。
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煉獄の聖戦 第三章 part.3 by 桜崎紗綾 2007/10/02 (Tue) 22:14
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     煉獄の聖戦  第三章 反乱の息吹 part.3


所はかわって、リーリルの町にて――


「あなたがクラートさんですか?」


薬局のカウンターの向こう側に、一人の男が座っていた。


柔和な顔つきはエシュターのそれとよく似ていて、
そこに笑顔を浮かべながら、彼の問いを肯定する。


「そうだけど…君達は初めて見る人たちだね。何かあったのかい?」

「いえ、用事があるわけじゃないんですが。
 情報を集めているというか、なんと言うか。

 ……まあまあ恵まれてる上司(=エミル)に頼まれて、
 これからすることに必要になりそうな情報を集めてるんです」

「どんな情報を集めているのか、教えてくれるかな?」

「大きい声じゃ言えないんですけど」


エシュターは、どこにいるかわからない帝国の駐屯兵を見回す。

幸いにも、『エシュターの視界の範囲内には』駐屯兵はいないようだ。


「最近、その手の話題が多いからねぇ。言ってみて。
 どうせ、僕が何か知ってるとかって聞いて来たんだろう?」

「この国を、変えたいんです。そのために情報を集めているのです」


迷うエシュターをよそに、セトがあっさりと言ってしまった。


「せ、セトさん。いくらなんでもそんな大声であっさりといわなくても……」

「そうだぜ。兵士に聞かれて酷い目に遭ったらどうするんだよ」


シーナとガゼルが口々に制するが、当のセト本人にしてみれば、
エシュターのかわりに言いにくいことを言ってやっただけに過ぎない。

久々に面白い人が来たな、とクラートは苦笑した。
よく考えたら、三年前のエミル以来である。


「そういうことで僕が話せる情報って言ったら、
 いまウチの奥さんがしていることくらいかな?」

「奥さんは、何をしているんですか?」

「もしかしたら、君の上司さんには有益になるかもしれないこと、かな?」




クラートは一行を中に入れた。

流石に外で世間話をするのには、話題のネタが少々野暮すぎるようだ。

中にはクラートの息子らしき、栗色の髪の男の子がいる。
エシュターによく似ていると思ったのは、シーナだけでないだろう。

この男の子はまだ9歳だというが、物凄く難しそうな本を読んでいる。
その近くにはノートと筆記用具が置かれている。


「セシル、今の話聞いてただろ? 父さん、お店やってなきゃいけないから」

「僕がかわりに話せばいいんでしょ? 勉強中なのに」


溜め息をつきながら、セシルと呼ばれた男の子は、
仕方ないなとばかりに本に枝折りを挟んだ。


「それで、僕はどこから話せばいいかな?
 お母さんのこと? 封印の神殿の所在地?」

《……初めからだな》


クロウがちょっと言いにくそうに、答えた。


「じゃ、ちょっと待って。地図とって来るから」


セシルが部屋に走っていった。

嫌がりつつも、するべきことはしっかり成し遂げるタイプのようだ。




 あとがき

文化祭が終わりました〜! 床に座ってるだけで疲れました。

しかも終わるはずの第三章が意外と長くて後一話(泣)
それとも、長い章はコピペでも何でも使って一気にアップしたほうがいいんですかね?

実は章タイトルとエミル語録のネタが追いつかないので、
こんなセコイ真似してるだけなんですが……。

言い訳なのか懺悔なのかよく判らないあとがきはこの辺にして、
この辺で失礼しまーす。
7906
煉獄の聖戦 第三章 part.4 by 桜崎紗綾 2007/10/26 (Fri) 22:27
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     煉獄の聖戦  第三章 反乱の息吹 part.4



まさか、案内までする羽目になろうとは。


セシルは、後ろからついてくる四人を時折振り返りながら歩いていた。


「出来るだけ事実を報告するように努めた方が、
 後々楽になるだろ」 ――


ガゼルと言う少年の言ったことが理に適っていることくらいはわかっている。
自分と父がもたらした情報が真実かどうかを突き止めるのは悪くない考えだ。

その方が、彼らの言う「上司」のためになるのも事実で、
それすらもわからないほど、セシルは愚かな子供ではない。

頭では分かっていた。

だが、なんとなく理不尽だし、全員付いて来なくてもと思う。

万が一のときに戦力を多くしたのだとする。
だが、その場合は、自ら戦力外と言い切るシーナがわざわざ付いて来る意義が無い。


「出来るだけ少数で来てね」と釘をさした三十分前があったとは思えない。


森の奥に、以前竜人が砦として使っていた建物がある。

今は帝国軍の要塞になっているらしい。


「奴らは、ここにある地下通路に気付いてないんだ」

セシルは、見張りの目を盗める場所に身を隠して言った。

「この提案をしたのは、お母さんなんだけど」

セシルは振り返って、全員に『幻霧』をかけた。
これで、見張りの目を完全に盗むことが出来るというわけだ。

なるほど、この方法を思いつくのはイシュテナくらいかもしれない。

「この先、絶ッ対に喋っちゃ駄目だよッ」

分かってはいたものの、釘を刺される。
四人は急いで、セシルの後を黙って追った。



砦の内部に、裏から入り込むと、セシルは倉庫の中へ通りぬける。
奥の短剣が立てかけられている壁は、セシルが短剣に手を掛けるとずれた。

――仕掛け扉だ。

短剣は、目印であり、隠し扉の取っ手でもあった。


封印の神殿に繋がる地下通路の前に、イシュテナが倉庫を事前に作ったのだ。
それも、この砦が帝国のものになる前に。

かなり早い段階で、サリムとイシュテナは、帝国がこの大陸を牛耳ることを不服として、
クラートやセシルは家族である以前の意思でそれに加担した形になる。


扉の向こうには階段があり、四人を先に降りさせたセシルが、
扉を閉めて最後に降りてきた。

「もう、喋っても大丈夫だよ」

彼はそう言って、先にある黄色い扉の前に立った。


「……『ヒラクナ』!」


小さな声で叫ぶと、扉が音も無く開いた。これはサリムの常套手段である。

理力の封印を説かれた封印の神殿には、多くの人間や竜人がいた。


「お母さんはここを砦として、帝国にやばいことをしたり、
 嫌な意味で顔を知られたりしている人は僕を通じてここにつれてきてるんだ」


セシルは、周囲を見渡す四人に説明を始める。



ほとんどの場合は『転移』を使うという。
その方が楽な上に、セシルの顔が割れずに済む。

ただ、種明かししておいたほうが安心してくれるという人物がたまにいるらしい。
それで、彼は一行をここまでつれてきたのだ。


「ざっと三千人はいるね。それも、軍人だけじゃない」

「砦で生活するうえで、軍人だけじゃすまないだろ?」

シーナが低い声で呟くと、セシルがどこか誇らしげにも思える表情で応えた。






 あとがき

第三章、ようやく終了しました。
四章は一話かせいぜい前半・後半で、五章はまた長くなりそうです。

「ちょっとでも時間があるうちに一気に更新してしまおう作戦」
(そのまんま)を実行してしまおうと思います。

やっと説明的部分が終了しました。
次はいよいよ本格的な戦闘シーンです。

とりあえず、この辺りで失礼します。
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煉獄の聖戦 第四章 by 桜崎紗綾 2007/10/28 (Sun) 22:24
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「長老。どっちかが滅ぶべきとか、そうじゃないとか、
 固定概念に囚われたような考え、正直頭どうかしてるぜ?

 そんなに死にたいなら、勝手に心中してろよ。

 ま、あたしは殺してやらねぇがな」


            滅びるべきは自分達だと言った竜人の長老に返した言葉




     煉獄の聖戦 第四章 迫り来る魔手




十日後。


「首都ピタルは、結構綺麗な場所だったよ。
 周りの町の荒廃ぶりが嘘みたいに」


大陸を一周して、サーショに入った一同。
代表のエシュターの報告を聞いたエミルは、だろうな、と言った。


「皇帝は見える範囲だけを綺麗にしてるんだろ。分かりやすい話だ。

 それにしてもイシュテナか。
 ――あのババァ、うまい思い付きをしやがって」

「だけど、あれじゃあ、いざってときに逃げるのが難しくなるんじゃないかな」

「そいつはご尤も。
 あそこに戦力を全員おくのはやめた方がいい。

 だからと言って、太陽の神殿や、隠れ里の連中を
 バラバラにはして置けねえな…どっかに固めなきゃ」


現在、ここには、エミル、シーナ、セト、エシュターの四人がいる。


ガゼルは封印の神殿、アルバートは迷わずの森、
スケイルはサーショの北へ回っている。

アーサとイロンは結局太陽の神殿に残ることになった。

しばらくして、アルバートとスケイルが戻って来た。


《朗報があります。この北の義賊団が協力を約束してくれました》

「アテになるか?」

《なりそうですよ。

 サーショの北の義賊団は白衣の竜人で結成されており、
 150人くらいの『白龍団』というそうですが、
 そのリーダーをつとめるのが、セタさんなんです》

なら、助けてもくれるだろう。
エミルはアルバートに説明を促そうとして、ふと、


「セタの親父さんはどうした?」 と尋ねた。


《……去年、帝国軍の武器を狙いに襲撃したときに殺されたそうです》

スケイルの淡々とした説明に、
エミルはそうかとばかりにうなずいた。

もう戦いは始まっている。

その犠牲が知り人だからって、何なのだろうか。
犠牲が出ない戦いは、ほぼないと言って等しい。

それからアルバートを見た。

「そっちは?」

「その白龍団の姉妹組織に当たる、
 おおよそ100人の『黒龍団』に会って来た。

 こっちはテサって竜人の子供がセタに軍勢を預かる形で束ねている」

「テサ? あれから三年経ったとは言え、
 あんな小さい子が戦場に?」

「いや、直接戦場には出ていない。
 ただ、いつでも戦えるように、
 常日頃からフォースや剣の訓練は怠ったことがないようだ」


ふぅん、とばかりにエミルは頷いて、先を促した。
その手にはいつもどおりの牛乳瓶がある。

バカには見えない服の露店商が、帝国から金をせしめる目的で、

『通には分からない牛乳』という新製品を売り出していたので、
興味本位で買ったそうだ。

エミル曰く、どこにでもある低脂肪の牛乳の味だそうだ。


「若干人間に対する警戒心が強いが、
 前に助けてくれたお前のことは、信用しているようだ。

 実際、セタの名を出せば協力は得られそうだ」

「じゃ、戦力として数えられそうだな。
 問題は、戦力をどこに集めるか、だ。

 バラバラにしてた方が包囲はしやすいって言うけど、
 いかんせんあたしたちは兵力が少な過ぎる。

 包囲の層が薄すぎるから、突き破られたら一貫の終わりだし」


そもそも、全ての戦力を結集させたところで4000にも満たない。

余程の難攻不落の地を手に入れない限り、
万単位にも及ぶ帝国軍を相手にすることは不可能だ。

誰も、すぐに突っ撥ねられるような穴を持つ案を持ち掛けたりはしない。

厳しい状況だから仕方ないが、話し合いは一向にまとまらない。


スケイルたちが戻って来て一時間ほど。
慌てた様子のガゼルが『転移』で飛んで来た。

「まずいぜ、封印の神殿の地下通路が敵にバレた!」

「畜生――ッ!
 だったらいくら合言葉があっても、
 太陽の神殿も隠れ里も時間の問題だな…。

 よし、とにかく迅速に逃げるんだ。

 太陽の神殿の連中と、黒龍団も伝えてくれ。
 白龍団と隠れ里は後回しだ」


「逃げるって、どこに?」


ガゼルが怪訝な顔をした。エミルはあ、と頭を抱えた。


そのとき、神妙な面持ちで何やら考え込んでいたシーナが頭を上げた。



「ここ。このお城がいいと思う。むしろ、ここしかないよ」



地図に白くて細い人差し指が乗った。シーナの手だ。

「そういえば…、何でだか盗賊も誰もいないんだったな。

 よし、あたしとガゼルが手分けして伝えるぞ。

 みんな、それまでに門を開いて、
 エシュターはクラートとセシルを連れてここへ!

 ――いいか、この町の真南、バーン城だ!」


エミルが立ち上がった。
それを合図に、皆が行動に移る。


そのときシーナが進言したことの意味を、考えた者はいなかっただろう。




戦力移しには、丸一日かかった。

幸い、地下通路がばれても帝国兵はサリムの合言葉を知らなかったので、
神殿に侵入することはなかったようだった。


「犠牲は?」

「全部調べたけど、ゼロよ。ラッキーとしか言い様がないわ」

答えたのは、イシュテナだった。

「こればかりはあのクソ女神に感謝だ。
 あいつは何もしちゃいないけど」

事が済んで、エミルは溜め息を吐いた。

何とか、助かった。

素早く進言してくれたシーナに感謝の辞を述べようとした、その時。


「おい、大変なことになった。

 帝国が、この城に反乱軍がいるのを突き止めて、
 しょぼい指揮官が率いる一万の兵を派遣させて来てる。

 早ければ明後日には総攻撃が来るぜ!」


ガゼルの報告だった。





 あとがき

第三章から続いて、「あの●●今」(伏字下手すぎ)みたいになってます。

ずっと間を空けすぎていたので、早め早めの更新にしてみました。

実は次回、第五章はもう完成していたりします。
五章はずっと書くのを楽しみにしていたのでハイでしたから(笑)

六章はあんまり進んでいないですが。

そんなわけで、第五章はタイトルだけ予告してみます。

次回、第五章のタイトルは「天機星のシーナ」です。
名前どおり、シーナが大活躍する章になります。
タイトルの元ネタがわかる人、黙ってニヤけていてください。(苦笑)

それでは、できるだけ早く更新しようと思います。
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煉獄の聖戦 第五章part1. by 桜崎紗綾 2007/11/09 (Fri) 22:37
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「つかさぁ、何で兵隊の一人や二人もいない町に、
 精鋭率いた魔王様御自ら滅ぼしに来るわけ?

 いいか、魔王。そんな阿呆な指揮体系だから、あたしみたいな、
 大将おっ倒して総崩れ狙う奴に狙われるんだ」

       封印の町に現れた魔王を待ち伏せして、英雄が言った言葉




     煉獄の聖戦 第五章 天機星のシーナ part1.




一応、広間として使えそうな空間を作り、大至急軍議を開いた。


イシュテナやエージスなど、
散らばって帝国に抵抗していた者をまとめ上げていた者は、

そのまま幹部にのし上がる形となった。

テーブルの上に巨大な地図を置き、会議は始まったが、
序列や配属すら決まっていない。


状況も、お世辞にも良くはなくて、
何から始めれば良いのか分からない。


皆が黙り込んでいて、集まったところで何一つとして進展がない。


恐らく、帝国軍はサーショを占拠して拠点とするだろう。


それから補充を行い、総攻撃を仕掛けるに違いない。

バーン城が不落の名城だと言う話は一度も聞いたことがないし、
兵力は乏しい。

第一初めから兵だった者は少なく、
籠城戦を凌ぎ切るにしても援軍が来るわけではないのだ。



戦況は厳しい。



これでは皆が黙ってしまうのも、無理はない。





「あの…エシュター君」





軍議開始から二時間半、シーナが思い切って声を上げた。

その時思わず彼の名が出たのは、
仮にも好意を寄せる相手だからに違いない。

「シーナ? どうしたの?」

「ちょっとだけ耳貸して…」

と、軍議中に堂々と内緒話をするのは、いかがなものか。

誰もがそう思ったに違いないが、敢えて口を挟む者はいなかった。


 だが。


初めは普通に話を聞いていたが、次第にエシュターの表情は、


何を話しているのか気になるくらいに驚きに歪められる。



「って訳なんだけど…」


「し、シーナ!? 何でそんなこと思い付くんだよ!
 凄いじゃないか! 始めから言えば良いのに!」


数分後、思ったより長い内緒話を全て聞いた、
エシュターの第一声は、そんな言葉だった。


驚きと言うより、それは、歓喜に近い表情だ。
まるで、勝利を確信したかのような。


「だ…だって、自信なくて。
 それに、うまく行かなかったら皆に迷惑だし」


その直後に続けた最後の理由を、シーナはきっぱりと言った。


「ここにいる皆さんが幹部だとすると、私は一兵卒以下にすぎない。
 その立場で軍議に口を出したら、軍の指揮系統に乱れが生じるでしょ?」


シーナの言い分は尤もで正論だ。

何処から得た知識かは知らないが、軍人でもない彼女は周囲の前に、
見えないラインを敷いた。


「だったら参考程度に。実際僕だって似たようなもんだし。
 僕はそれ、賛成だな」

エシュターはそれだけ言うと、シーナを無理やり前に突き出した。

慌てるシーナを尻目に、彼は声をあげた。

「聞いて、ここにいるシーナが、凄い案を思い付いた」

あまりアテにならないだろう、というような表情を、皆は崩さない。
エシュターがさあ、と促すと、シーナは戸惑いつつも語りだし、
地図の上を指でたどる。

「ええっと、まず、私がこの城を逃げ先に選んだ理由を、
 説明しても良いですか?」
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煉獄の聖戦 第五章part2. by 桜崎紗綾 2007/11/09 (Fri) 22:39
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     煉獄の聖戦 第五章 天機星のシーナ part2.





(……何だと?)



エミルが、片方の眉を吊り上げた。

シーナの勧めは、一時凌ぎの適当なものだったと思っていたのだ。

そこに、まともな理由があると言うのか?


「ここは、背後に岩山と湖を構え、非常に高い城壁に囲まれています。

 そして、敵は岩山を登るとか、船もないのに湖を渡るような、
 馬鹿馬鹿しい進軍をしたりはしないでしょう?
 あの城壁の高さから落ちたら、即死しかねないですし。

 要するに、空を飛ぶわけにもいきませんし、転移石が無い以上、

 この城の余り広くない門を正面からはいる以外には、侵入法が無いんです。


 そしてそこに見張りを立てて守るというのは、もはや常識。



 つまりここは、皆さんが考えている以上に――陥落しにくい城なんです」


シーナがまず、前置きとばかり話すと、皆の表情は希望に輝いていたり、

おお、と感嘆をあげていたりして、それぞれ納得いったようだった。


たまたま近くに城があったと言うだけでここを選んだわけではない。

そう分かってもらえて、シーナは自信を持ったようで、声がしっかりしていた。


だが、城が陥ちにくいからって、何だと言うのか。

それだけでは勝てるわけではないのだ。



しかし、そのとき再びシーナが口を開いた――


「この城の誰もが、不利を承知でいるのです。
 それにも関わらず、彼らはここにいる。

 成らば、士気の高さは敵には負けないと思いませんか。


 そして、私には策がある」


シーナは、策を説明し出した。

数分かけて説明を終えると、初めに、エミルが拍手した。
周囲がそれに倣う。


「凄いな、シーナは。そんなの、どこで覚えたんだよ?」

エミルは笑いながら尋ねた。

「軍や英雄が出て来る小説で読んだの」

「さすがはシーナ。写真記憶ができるのは伊達じゃないんだ」


初めにリクレールが見出だしていたシーナの才能は、ここにあったのだ。
思いがけない才能との邂逅だが、なるほど、本人には自覚がない訳だ。

「アッハッハッハッ!
 このお嬢ちゃんがこっち側にいたってのは、思わぬ僥倖だ!
 畜生、面白くなってきやがった」

エージスが高らかに笑い出した。この男は軍にいた経験が長い。
命を懸けたことも多いはずだ。

だからこそ、シーナに賭けて見ようという意思を示していたに違いない。

イシュテナが手を挙げた。


「一つ、聞いて良い?
 ――この城を選んだのは、本を読んだための記憶?」

「違います。

 以前までここが王様が住む場所となっていた理由を、考えてみただけですよ」


穏やかに笑顔で答えるシーナ。
なるほど、王の住む城ならば、難攻不落の場所を選ぶのは当然と言える。

言い換えれば、彼女自身の案で城を選んだのだ。


(ますます、咄嗟にここを選んだシーナに感謝だな。
 だが、礼を言うのは、勝ってからにしておこう)


エミルが、剣を引き抜いた。それを、上に振りかざした。

「さあ、進撃準備を始めるぞ。緒戦は勝つぜ!」

各々が咆哮をあげた。


彼らの振り上げた手には、それぞれの武器や手があった。

帝国軍が、ここまで一丸となったことなど、かつてなかっただろう。
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煉獄の聖戦 第五章part3. by 桜崎紗綾 2007/11/09 (Fri) 22:40
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     煉獄の聖戦 第五章 天機星のシーナ part3.




黒髪の少年が、サーショから出て来た。

少年はそのまま北に向かい、白龍団の洞窟へ向かった。


「久し振りだな、セタ」


セタはしばらく反応に迷った。

「……似合ってるな、エミル」

「詰まんねえな、気付かれてたか」


黒髪を引き上げながら、『少年』はニヤリと笑った。

黒髪のカツラが落ち、そこから、銀色の髪がこぼれ出す。


「顔見られたら厄介になるから、
 エシュターに服借りて見たけど、正解だったみたいだな」


何度か、シーナに借りようなどと言う話は出たが、
絶対に似合わないと一蹴したのだ。

セタの反応だけでも、エミルの判断に間違いはなかったと分かる。


彼女の外見は、本人の名誉はさておいて、シズナよりもシンだ。



「さて、わざわざ変装してまでここに来た理由を説明してもらおうか?」


「今どうなってるかは分かるよな? 帝国軍が迫って来て、かなり危ない。
 それこそ、奇跡でも起こす必要がある。

 で、奇跡の奇策を思い付いた、とんでもない女がいてね。
 その片棒を担いでいただきたい。

 黒龍団にはかなり危ない仕事をしてもらうことになりそうなんだ」

「お前直々に依頼に来るとは」

セタは苦笑した。
エミル直々に来られては、否やとは言えない。

「私たちに任せてくれ。何でもしてやろう」




エミルはオーバの隠れ里にも行き、黒龍団の手伝いを依頼した。


無論、オーバにも断る余地はないため、問題なくことは進んだ。


黒髪の少年は、サーショとシイルを挟む川に消えた。

水路を使って転移石のないバーン城の城壁の内側に入るのは、
エミルとスケイルにしかできない芸当である。

水路を抜けて、エミルはかつらを投げ捨てた。
このかつらをどこで手に入れたのかは、永遠の謎だ。


「その表情は、成功した、と言いたげですね」


現れたセトがニヤリとしながらタオルを渡してくれた。
エミルは笑って礼を言いながら、彼女の後を追う。


「帝国軍がサーショ付近に布陣した時が、正念場だぜ?
 こんなところでしくじってられるか」


そうですねと答えたセトの上着の裾が、風に翻った。

エミルはニヤリと笑い、シーナの元へ報告に向かった。


英雄に言わせれば、戦い日和だった。
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煉獄の聖戦 第五章part4. by 桜崎紗綾 2007/11/09 (Fri) 22:42
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     煉獄の聖戦 第五章 天機星のシーナ part4.





「報告しますッ!」


戦いに駆り出されたのは、経験の浅い将軍だった。

相手の数は少ないから、彼でもどうにかなるだろう、
として押し出された、哀れな男である。

「数は四千弱。恐らく全体かと思われます」

「血迷って総攻撃を仕掛けたか。

 よし、完璧に滅ぼして、帝国に歯向かうとどうなるか、知らせてやれ!」

知らせに来た兵は短く返事をして、走り去った。



『簡単に言うと、陽動作戦です。

 私たちが敵と激突している間、敵将は川沿いで待機して、
 部下が皆殺しにするのを待っているはず』



エミルは心の中でシーナの言葉を反芻した。

戦場とは全く離れたところにいる彼女は、遠くから戦の風景を眺めていた。


「ま、場慣れしたエージスのオッサンなら、うまくやってくれるだろ」


相槌を打ったのは、スケイルではなかった。
少し緊張した表情を見せるセトだ。


「セトの初陣だよな。
 いきなり仕事内容が危険だけど、まあ我慢してくれ」


「いいえ。私なんかが任されて大丈夫なんですか?」


「残念ながら、イシュテナの糞ババァを連れてくほど余裕がないし。
 それに、あんたの方が目立たなくていいんだよ」


今まで見たこともないくらいの汚い口調だが、
それでもセトはエミルに好感を持っていた。

セトじゃないとできない、などと言う見え透いたお世辞を言われるくらいなら、

むしろ正直に人材不足を愚痴ってくれた方が気が楽だ。

「まぁ、セトの仕事はそんなキツいもんじゃない。
 終わった頃にはセタが合流してくれるさ。

 さぁ、暴れ回るぞ」

「はい。そろそろ向かいましょう」


エミルは剣を、セトは短剣を握って、走り出した。




『その間、白龍団やオーバさんの部隊は、
 ガラ空きになった大将の陣に入り、奇襲を仕掛けます。

 火を点けて回るのが一番いいでしょう。

 陣に大将がいなくても構いません。
 それでも、陣を荒らされたことを知れば退却するはずですから』



「奇襲です!」


兵士が一人、将軍の元へ駆け込んでいた。

そのとき初めて、将軍は『陽動』と言う言葉の存在を思い出した。

その時、火の粉が風に煽られて、舞い始めた。
晴天の青空に、線香花火の先のような、オレンジ色の光が飛ぶ。


「さぁ! あそこに『火炎』をぶちまけてやれ!」


人の身体が刃物で切れる音と、肉体が燃える匂い。

二人の影がわずかに見え、その背後に二百人前後の部隊が見える。



初め、将軍は味方が援軍に来たのだと思った。

が、援軍にしては数が少な過ぎる。


「将軍ッ!」

部下の悲鳴が聞こえ、自分が突き飛ばされたのだと分かった。

何をする、と怒鳴り飛ばしてやろうとしたが、
怒鳴る先の兵士が斬り伏せられる瞬間を見てしまう。




「ハロー、大将♪ …悪いけど、今から死んでもらうよ」




ニヤニヤと笑いながらエミルは剣を見せた。
それから、突然真顔になる。


「悪ぃが、あんたは…ここで終わりだ」


エミルは剣を握り、敵将に向かって駆け出した。
周囲の兵士がエミルを囲む。


「さぁ、行け、セト!」



セトが走り去る。

その先でセタと合流して、周囲の敵を倒し始め、天幕に火を点けて回った。
オーバたちが兵士を牽制して回る。


エミルは指揮官を守ろうと躍起になっている兵士たちを、
言葉の通り容赦なく、剣で斬り伏せ始めた。



どうやらセトは、工作兵だと思われたようだ。

実際、フォースで火を点けて回ると言う彼女の行動は、
まさに工作兵そのものだったのだ、狙われても仕方がない。


(旅の間に目覚めたトーテム……
 その力が本物だと、証明する時が来た)


セトは周囲を見渡した。

こうして見ると、失礼ながら数こそ多そうだが、
大して強くもなさそうな奴ばかりだ。


「たかが工作兵風情と、甘く見ないで下さい!」


セトは宣戦布告すると、片手を振りかざした。


「『雷光』!」


雷が迸る。それはセトが現在敵対していた全てを薙ぎ倒す。

続け様に『増幅』、『衝撃』、『火炎』…と、
地獄絵図を生み出しているかのように、フォースを放ち続ける。

死んで逝くものには申し訳ないが、自分が生きるためなのだ。


人員不足を嘆いたエミルを見返してやろう。


セトは今、そんな気持ちだった。
7919
煉獄の聖戦 第五章part5. by 桜崎紗綾 2007/11/09 (Fri) 22:49
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     煉獄の聖戦 第五章 天機星のシーナ part5.





総攻撃に駆り出されたのは、妥当といえば妥当だが、大隊長である。


エージス率いる軍はうまく逃げ切っているようで、
ほとんど犠牲を作ることなく戦を進めることができていた。


中でも頼りになるのが、傭兵経験のあるアルバートと、

強力なフォースで援護してくれるイシュテナとサリムだった。


無論、他の者が弱いなどと言うことは全くなかったが、

彼らのように最初から頭角を示す人物がいるなどとは、

敵も味方も考えなかっただろう。

事実エージスもそうだった。
彼は一人で暴れて戦死する覚悟すらしていたのだ。


「報告。別動隊が、大将の首を取ったとの合図があったぜ」


ガゼルが『転移』で飛んで来た。

彼は基本的に単独行動がメインだが、
多少危険な仕事も卒なくこなす上、決して無茶をしない。

エージスはこの少年の仕事ぶりを評価していた。

三日と経たない仲だが、個人的に信頼しているし、好感も持っている。


戦場では、それが命運を分かつことがある。


「よし、作戦の最後の一手だ」


エージスは、続きをエシュターに任せて、
ガゼルと二人、剣を手に部隊長を探した。



「全軍、少し退いて! 追撃も挑発も無視!」



エシュターが懸命に指示を飛ばす声が限り無く聞こえた。




『陣営が壊滅していることを、教えてやるのです。

 そして陣営に戻った本隊は、撤退する筈です。
 追撃はしてもしなくても構いません。

 私たちの目的は、敵を倒すのでは無く、守り通すことにありますから』




シーナが考えている目的は、
この国に出来た新たな勢力の存在を全国に知らしめることにもある。

エシュターは何となくそれに気付いていた。


敢えて敵側の生存率を高めておけば、戦いの全貌を知るものが増える。


そうすれば自然と、反抗勢力の初戦勝利が世間に浸透する。

反抗勢力の強さは、民衆に期待を与え、帝国の脅威となる。


初めはそれで良いのだ。
数が少ないから、勝つことではなく、負けないことに目的がある。


フォースによる合図があった。エシュターは全軍を停止させた。



シーナの作戦は、大詰めに近かった。


部隊長は、全軍を撤退させながら一目散に逃げ出した。


敵に騙されている可能性を示唆しなかった様子を見ると、
どうやらこの部隊長は詐欺に遭いやすい性格のようだ。



それとも気が小さいだけかもしれない。



実際、彼らの陣営は嵐が過ぎ去った後のようだったし、

大将は既にこの世の人ではない。



サーショの町から帝国兵が消えるのも、時間の問題だ。







「――報告します。


 反乱軍は、首尾よく初戦を切り抜け、英雄エミリューレは、その名声を物にしました」


『そうか。うまくいったな。

 次の手だ。名声は高ければ高いほど効果的だ。
 お前に次の仕事を与えてやろう』


「御意」





  第五章をまとめてあとがき

えーと、修学旅行から帰還後まもなく五章を投稿しました。
疲れるけど楽しかったですね。

五章ではいろんな事を引き起こしてます。

シーナの活躍ぶりから、私の彼女への愛がわかっていただけたかもしれません…(苦笑
初めから「こう」するつもりだったので。

少しは改めたつもりですが、少し文が荒かったかも知れません。
ちょっとハイになりすぎてました。

それでは、この辺りで。
7924
煉獄の聖戦 第六章part1 by 桜崎紗綾 2007/11/18 (Sun) 21:50
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「馬鹿なこと言うなよ、イシュテナ。
 アンタ、祖父さんのこと殺したいのか?

 祖父さんだって会いたがってるのは分かってるんだ。

 代わりにあたしが行ってやるから、くれぐれも雪まで待つとか、
 逆の意味で危ないことはしてくれるなよ」

          雪が降ったら祖父に会いに行くと言ったイシュテナに、英雄が跳ね返した言葉


     煉獄の聖戦  第六章 賢者の壁part1.


突然現れた英雄達の存在に、各地は沸き立った。

誰もが軍に入れてくれと願い出て、
バーン城はたちまち7000の兵力を抱えることになった。

その中から物流に人数を割いたおかげで、
幸いにも物資に困ることはない。

全員が兵士では、軍は成り立たない。



総合的な主将は多くの軍属経験と本人の武勇歴からエージスに決まった。


さらに、歩兵隊にアルバートにセタ、

理力部隊にサリムとオーバとセトが決まり、

衛生部隊はエシュターとイシュテナ、

留守部隊をまとめるのはセシル、

クラート親子とテサといった戦場に出るのには若すぎたり、

戦いに出るには不向きな面々だった。

他には、医師、鍛冶師といった、
もともとサポートをメインとする者たちもいる。

エミルは主として、遊撃隊を率いているか、単独行動をしている。

スケイルは、衛生部隊の護衛を率いている。


基本的に、アルバートが総指揮をする。
指揮をしたことのない彼は、教わってばかりの毎日を過ごしている。


また、ガゼルは主に、諜報活動を行っている。

同じ行動が取れる者同士でもエミルの銀髪は目立つし、

ガゼルはエミル曰く悪くない意味で『妥当』なのだ。

元盗賊だけあって、単独行動はお得意様だ。

シーナの策によってその行動法は臨機応変に変わる。


そして、その軍の名は、解放軍と呼ばれることになった。



この日の軍議に遅れて現れたシーナは、もちろん軍師だ。


「遅れましたが、案がまとまりました」


シーナが焦点を当てたのは、シイルを帝国から解放することと、
大陸東部を覆う大森林南部に新しい砦を建設すること。

どちらも帝国側にも容易に予想がつくだろうが、
両方を同時進行するには人数が少な過ぎて想像が難しいのだ。


そう考えると、逆に両方を同時進行することが一番いい。


「シイルの制圧と、砦建設の二つを同時に行います」


シイルを制圧することの最大の難点は、
市街地を戦場にせざるを得ない場合がほとんどであることだ。

だが、シーナの策で、そこにはエミルとガゼルの二人と、
エージス率いる二千が兵力として割かれていた。


砦の建設は三千人で行い、その三千人はそのまま砦軍となる。

イシュテナやセタやオーバが、砦の駐屯軍の指揮官に決定した。

砦の大将はサリムである。

シイルと、大森林南部。両方の同時制圧に成功すると、
大陸東部の制圧の成功とほぼ同等のことになる。

それは、言われずとも大きなことだった。
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煉獄の聖戦 第六章part2 by 桜崎紗綾 2007/11/18 (Sun) 21:51
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     煉獄の聖戦  第六章 賢者の壁part2


エミルが、200ccほどの牛乳瓶を空にしている。


サーショからシイルに向かうためには、
橋を渡って森を抜ける必要があるが、一軍は森から草原まで、
広範囲にわたって布陣していた。

銀髪の英雄は、数千の軍を率いるのよりも、
少数で大勢の敵の中を暴れ回る方が向いているようだった。

だから、特殊部隊の指揮を好んでいる。


「駐屯軍やら何やらを引っ張り出してブッ飛ばす。
 あたしたちは囮的なもんだな」

《そうなるな》


そう答えたのはクロウだった。

エミルは、空になった牛乳瓶を服の中にしまい込んだ。

再利用するつもりのようだ。
何気に環境にいい、エコな英雄である。


「今、エージスから合図が来たぜ。
 すぐにでも作戦開始してくれってよ」


ガゼルが遠くを見渡しながら言った。

この合図がどのようになされているのかを知る者は、
合図する当人と受け手しかいない。

外部に情報が漏れないようにするには、
内部にもできるだけ知られないように務めるのが一番良い。


「なら、さっさとシイルを解放軍のモノにしちまうぞ!」


エミルは采配を振り、ガゼルがそれに従った。




シイルの駐屯兵の人数は、三千ほどだった。

もともとが平和な町で、駐屯軍の人数は少なかったため、
これでも解放軍を脅威としているらしい。


「…攻められたら弱い町だな。
 丘の上にあって、地形的にゃ悪くないのに」

「帝国兵とは言え、
 入口に兵士が見張りに立つようになっただけ、進歩だね」


ガゼルの指摘に、エミルは肩をすくめて返した。

見張りがいると入りにくい、とは思っていない。

『転移』で町に、中から侵略できるからだ。
むしろ、正面突破よりも遥かに楽だ。

二人は町に入り込むと、すぐさまユーミス堂へ潜入した。


当然ながらエミルの顔は覚えているユーミスが三年振りに見たその姿に驚愕した。


「え、エミルさん!? 娘にご用…、!」


再会を喜んでいるようにも感じられるユーミスの言葉は、
ガゼルに口を塞がれて遮られてしまう。


「静かにしてくれ。作戦を説明するから」


険しい表情で言い放つエミルの剣幕に、ユーミスは拒否権すらないと悟る。

「作戦…?」

ウリユにも説明するために、奥の部屋に行くと、
ウリユは母親よりは少し落ち着いている様子を見せる。


「エミルお姉さんが来たってことは、私に何か用事があるの?」


もう十代後半に差し掛かっているはずの予言者の言葉には、
年頃らしさよりも幼さの方が見え隠れしている。

まぁ、別にエミルは変わらないことを悪く思ったりするタイプではないが。


「そう。あんたとお袋さんに、ね。

 面倒いから単刀直入に言うよ――今から、あんたら母子を誘拐する」
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煉獄の聖戦 第六章part3 by 桜崎紗綾 2007/11/18 (Sun) 22:07
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     煉獄の聖戦  第六章 賢者の壁part3


「あんたらは、この町じゃちょっと有名な母子だ。

 ウリユの予言がダメになっても、恐らくそれは変わっちゃいない。

 だから、あんたら母子を堂々と誘拐して見せれば、
 駐屯軍その他諸々の目を引きつけることができるって訳さ。頼むから、
 解放軍に全て任せてくれ。悪いようにはしない」

「……エミルさんが悪いようにしたことなんて、あったかしら?」


ユーミスが優しく微笑んだ。その姿に、エミルは苦笑した。

エミルは、ユーミスに実は少し見えている目隠しをして、

二人の口に包帯を見た目だけきつそうに巻き付ける。

それから荒っぽくウリユを担ぎあげる(実はそれほど荒っぽくないが)と、
ユーミスを抱えたガゼルと二人で白昼堂々外に出た。

不意に、誰かが誘拐だ、と叫んだ。

しかし、これもエミルの作戦で、話を付けてあったトニー夫妻の一家、
宿の主人など、シイルの主だった住民に、一芝居打ってもらっているだけだ。

英雄エミルが再びシイルを救うと思えば、協力しないものなどいない。

ちなみに叫んだのは、鎧好きの老爺だ。

駐屯兵が取り囲もうとする。その輪が広がり始めた頃、
ガゼルが『転移』を叫ぶ。町の中を転々と飛び回る。

もはや鬼ごっこの状態だ。


攪乱させながら、ついに、自分が町の外に誘いだされたことに気付いた兵は、いなかった。


    ☆


「やぁ、坊や。何の用だい?」


『彼』は、黙ってオーバを待っていた。


「大群相手には…弱いんだよな?」


『彼』は、薄っすらと笑って、指を鳴らした。

パチン。なった瞬間、十を越える人影が見えた。


「こいつはまた、きつそうだねぇ」


オーバは肩を竦めて苦笑した。

(すまないね、サリム。あんたより先に逝くよ。

 ごめんよ、シズナ、シン。
 最後の最後まで、あんたはあたしに迷惑かけたね)


心の中で、謝罪する。
それは、ある意味で最期の言葉だった。


「看取ったのが俺ってのは、痛い話かもなぁ」


『彼』は、オーバの屍体を引きずりながら、
低い声で嗤った。



「だけど――自分の弱点を安易に教えちまうのも、
 自業自得ってもんだよな、なぁ?」


    ☆


沸いて出て来たかのような解放軍が、駐屯兵を取り囲む。

その中にセトやエシュターも混じっていた。

町に戻って籠城しようとする帝国軍を止めるために、
エミルたちは町の入口に『転移』する。

そして、ウリユたちを解放した。


その後の戦いの結果など、言うまでもないかもしれない。


    ☆


戦争とは、惨いものだ。


戦いを終え、無事に帰還したエミル達を待ち受けていたのは訃報だった。

「オーバのババァが、戦死?」

エミルは、イシュテナの言葉を受けて凍り付いた。


「多分ね」

《『多分』って、どう言う意味ですか?》


スケイルが思わず声をあげる。

無理もない。誰もが思っていた事だ。


「私にもよく分からないの。

 戦場のどさくさに消えてしまって帰って来ないから探させたら、
 彼女の遺体を見つけたのよ」

「……何処で、だ」

「湖に、屍体が沈んでた」


幹部の全てが、目を伏せた。御託は関係ない。

常に切り札となり得るフォースを作った人物だ。
年老いていたとは言え、今ここで死んでしまうのは余りに不都合だ。

とはいえ、ここは礼儀として冥福を祈るべきだ。



「畜生――ッ

 …裏切り者め…!」


エミルの低い叫び声は、世界中に届きそうなくらいに鈍く響いていた。





 あとがき

と、言うわけで第六章でした。

戦争モノは楽です。
私の一番苦手な戦闘シーンがだいぶカットされます。

最近早めに更新できてだいぶ嬉しいです。
サイトのほうはなかなか進んじゃいないんですがね。

さて、最後の方にだいぶ深刻なシーンが流れてました。
今後こういうのが多くなりそうな予感あり。

ファンの方には申し訳ないです。
私が個人的に嫌っているわけではないので、どうかお許しください。

では、この辺りで。
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煉獄の聖戦 第七章前編 by 桜崎紗綾 2007/12/13 (Thu) 11:35
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「……ふざけんな。

 あたしがどれだけ手加減してやってんのか、
 分かんねぇのか、テメェ!

 あたしは対した敵には容赦も糞もねぇ。どんな雑魚でもな。

 あんたにゃ手加減したって事は、どういう事か分からねぇのかよ!?」

     封印の神殿前の洞窟でのセタとの戦闘後に、英雄が言い放った言葉


     煉獄の聖戦  第七章 リーリル解放戦線 前編


オーバの訃報から、およそ一月が過ぎた。


次の作戦はなんなのか、とシーナに詰め寄って来たのは、シズナで、
次の日にはシンが決まらないなら協力させてくれと申し出た。


良くも悪くも、余計な気遣いは無用だったのだろうか。

いや、二人は、祖母の死をいつまでも引きずりたくなくて、
行動に移ったのだろう。

シーナはそれを受け入れて、次の作戦を軍議に持ち出した。


「リーリルを、解放します。
 既にガゼル君が行っています。

 東の砦は、封印の神殿経由で陥落します。

 いつまでも奇策に頼ってばかりではいけません。
 小細工は単独部隊と遊撃隊に任せます」

「概ね正面突破……と言う事か」

「そうなります」


少数で正面突破するのには、相当な覚悟がいる。

それは言うまでもないだろう。


「リーリルを、解放します」


再び、シーナが言った。


戦いの狼煙は、上げられたばかり。




歩いていても、走っていても、人間の死というものは近付いている。

立ち止まってもまた然り。

放っておいても、人生の波とは勝手に動いてくれるものだ。


イシュテナが故郷を離れて、一年は過ぎていた。

懐かしい郷里は、まだ遠い。
解放軍の手で開放するまではリーリルは故郷と思わぬようにしていた。


だが、次の戦いさえ乗り切れば、彼の町は解放される。
家族で、帰って来られる。

夫と息子と祖父と自分。

四人で帝国に盾突く決意をして、二年になる。


然るべき相手を新たな指導者に立ち上げて新しい国を造り、
帝国が倒れた後にその旗を揚げるのだ。

エミルはその柄ではないだろう。
エージスも多分断るだろうが、セタならば適任かもしれない。


それが、イシュテナの決意である。


誇るべき新しい国。


エミルたちがそれを、近付けている。

その片棒を担げると言うだけで、十分嬉しかった。


衛生部隊の基盤は『再生』だ。

まずこれを全軍にかける事から全てが始まる。
後は順番に回復させる事しかない。

『再生』一つで、兵は安心感を抱けるのだ。


「報告します!

 リーリル駐屯軍総司令官が戦死致しました。
 その後駐屯軍は敗走を始めています。
 我らの勝利です!」


それを伝えた以前はオーバの部下だった伝令は、
誇らしげに笑っていた。


「犠牲と負傷は?」


「敵軍一万のうち、死者二千三百、負傷者は三千以上。
 我が軍九千のうち、死者三百、負傷者五百十二。

 圧勝です!」


また勝ったか。


エミルの遊撃隊は、いつも沸いて来るように出て来る。

アルバートの訓練は非常に苛烈なのだと言う。
兵力も驚くほど強いだろう。

セトの理力部隊も、半端ではない。


勝利の貢献者は、彼らに違いない。


「早急にリーリルに入るわよ。
 みんな、凱旋しましょう」


イシュテナは、十数名の部下を連れて、
東の砦を抜け出した。


森を抜ければ、故郷の町だ。
7935
煉獄の聖戦 第七章後編 by 桜崎紗綾 2007/12/13 (Thu) 11:42
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     煉獄の聖戦  第七章 リーリル解放戦線 後編


『彼』は、短剣を手にした。


手のひらに埋まるほどの、小さなものである。

木陰の合間に、十数人のリーリル出身の部下を
引き連れたイシュテナの姿があった。



――今だ。彼女は、監視にも気付いていない。



細工をした短剣。毒が塗られている。

血管に流し込めばたちまち体中に回る、

即効性の強い猛毒だ。



投げた。



部下の合間を縫って、イシュテナの左腕に、

短剣は刺さる。


「隊長! 短剣が腕に」


『彼』はその声を合図に、静かに『転移』を呟いた。





     ☆





短剣。刺されたのか?


思いもかけないほど、彼女は冷静だった。

柄を握る。抜いた。

柄だけが取れ、刃は手首に刺さったままだ。

知らない仕掛けではなかったが、

一つくらいしか使い道の思い浮かばない仕掛けでもあった。



部下の一人が、イシュテナの手首に刺さった刃を引き抜き、止血する。


しかし、その部下の姿は、殊の外遠く見える。



短剣の仕掛けで思い当たる使い道など、一つしかなかった。


短剣に、毒を塗っておき、血管に直接流し込むのだ。


分かった瞬間、急に死の衣がイシュテナに降り懸かる。


衣を振り払おうとしても、難しい動作だった。

身体を動かしたつもりでも、動かないのだ。



「おい、お前。
 サーショに待機しているクラート医師を連れて来い。

 隊長は毒にやられてる」



何処か遠くで、部下の一人が、
他の一人に声を掛けるのが聞こえた。


声を掛けられた者は、すぐさま『転移』でサーショに行った。




――毒。


そうか、間に合わないのか。

ならば、私は死ぬのか。



駄目だ。まだ生きていなければならない。

今は死んではならない時期。


そうでしょう、あなた、セシル、おじいさま。


約束したはずよ。


新しい世界を築き上げたら、

風に靡く誇るべき私たちの旗を、四人で見上げよう、と。



だから。



私はまだ生きる。



死の衣を振り払う。

白くも黒くもあったそれは、

突然霧が晴れて行くかのように、
消えて行った。



イシュテナの目の前には、


白い光に輝く新しい世界が、広がっていた。



 あとがき

こんにちは、桜崎紗綾です。地獄の期末テスト終了。
理系なのに現代文が一番自信がある異端者です。

まず第一声、「イシュテナさんごめんなさい」。
イヤ本当、悪いつもりはなかったんです。

私イシュテナさん結構好きですよ?
と言うか、シルフェイドのキャラはみんな好きです。

最後の最後が妙に長すぎる気はしましたが、
人間って死ぬ寸前って長く感じるらしいのでこんな結果になりました。

さて、オーバ、イシュテナを殺した『彼』の正体、
気付いていないと嬉しいです。
気付いてても知らない振りをしてくださるともっと嬉しいです。

これ以上書くとネタバレになりそうなので、
この辺りで失礼します。
8099
William Bruce by Armand Mendez 2009/05/01 (Fri) 08:11
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煉獄の聖戦 第八章前編 by 桜崎紗綾 2008/01/14 (Mon) 21:57
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「神なんて、世界に象徴として君臨してるだけの偶像だ。

 実権があるわけでもないし、楽しいわけでもない。

 なあ、セタ。
 あんた、耐えられる?」

     神になる道を選んだセタに、英雄がかけた言葉



     煉獄の聖戦  第八章 裁き 前編



「オーバの屍体からは、
 それぞれタイプの違う剣で斬られた痕跡があった」


余り広いとは言えないガゼルの部屋で、
エージスはその報告を聞いた。


「複数犯ってことか?」

「多分な。
 で、次のイシュテナは毒塗り投げナイフ。

 飛び道具の存在しないこの国では、
 投げナイフの対策ほど難しいモノはない。

 まして、防具はローブだけで鎧を付けていないからな。
 イシュテナの弱点を見事に突いてやがった。


 複数の敵に弱いって言うオーバの弱点も同じだ。

 ……個人的な見解だけど、
 二人を殺したのは内部の奴のような気がする」


エージスは溜め息を吐いた。


「マジかよ…」

「エージス大将。あんた、気を付けろよ。
 大将は隙あらば狙われるんだ。

 何だったら護衛を付けてやろうか?
 副将エミルの選抜メンバー」

「馬鹿なことを言ってんじゃねえよ」

さっきの様子から一転、エージスはカラカラと笑い出した。

「俺には弱点なんてねぇよ。戦闘なら完璧なんだ」

見事にガゼルの勧めを一蹴すると、
エージスは部屋を出て行った。


「貴重な報告、ありがとうよ」

去って行くエージスの姿に、
ガゼルは顔も名前も知らない父親の姿を見出だしていた。




「お、発見発見、エージスの大将」


声を掛けて来たのは、アーサだった。
自室に戻るために階段を昇っている途中だ。

「アーサじゃねぇか。どうしたんだよ、一体?」

「イロンがあんた専用の剣を造ったから、是非来いって」


イロンのプライドの高さはしばしば聞いている。

魂の込めた剣を造るため、
二刀流は別として一人のために一本だけしか造らない上に、
持ち主にしか触らせないのだ。

しかも、以前オーバが身を潜めていた森の奥の地下室が鍛冶場だ。
早々滅多に人を入れる気はないらしい。


「分かったよ。今行くから、待ってるように言ってくれ」

「やめてくれ。本人連れて帰らないと、
 俺、絶対あいつに殺されちまう」

弱い男だな、とエージスは苦笑しながら、
付いて行くことに決めた。




空は暗い。夜の闇が、世界を覆い尽くしていた。

できたら出かけたくない時間だが、
若者の大喧嘩の間に入れるほど若くないことは知っているので、
エージスはアーサに黙って付いて行くことにした。


森に入った。



この先か、とエージスは思った。


「なぁ、エージス大将」


アーサが、立ち止まった。
エージスは速足で歩いていたアーサの背中にぶつかりそうになった。

「何だよ?」



「俺、あんたの事、好きだったよ。




 ――そういう、人の事、すぐに信用する所とか」





エージスがどういう事だ、と聞こうと口を開いた時には、既に遅かった。


アーサが、指を鳴らした。


音もなく、黒装束の集団が現れる。
数は分からないが、百か百五十はいるだろう。


そういうことか。

エージスは舌打ちした。


『個人的な見解だけど、二人を殺したのは内部の奴のような気がする』


ガゼルの判断は的確だった。的確すぎて、怖いくらいだ。


後悔先に立たず。


覚悟を決めて、エージスはグランドブレードを抜いた。
7940
煉獄の聖戦 第八章後編 by 桜崎紗綾 2008/01/14 (Mon) 22:13
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     煉獄の聖戦  第八章 裁き 後編



俗に言う、虫の知らせと言うものだった。


『エージスが危ない』


ガゼルの言葉の下、
エミルとアルバート、シーナ、セト、エシュターが、
90人の遊撃隊と共に駆けていた。


イシュテナを刺した短剣に塗られていた毒を、
アーサの部屋で発見した、との報告があった。

また使う気でいたのだろう。
三階の窓から入られるなど、予想もしなかったに違いない。

エージスがアーサと二人で城を出たと聞いたのは、
つい先ほどのことだ。


森に入った。駆ける。


アーサを探す、イロンの姿があった。


気持ちが悪いくらいにビンゴだ。


少し走ったら、
百を越える屍に囲まれながら剣を手にしたエージスの姿があった。


全身傷だらけで、だが、生きていた。



「大将――親父ッ!」


ガゼルが叫ぶ。エージスが振り返った。


一瞬、笑ったように見えた。



そう。『後は任せたぜ』と言わん許りに。



一人の男が、ゆっくりと、地面に倒れてゆく。


「追え。……一人も逃すんじゃねぇぞ!」


エミルの容赦ない一言がおもむろに響く。

エシュターが、エージスの元へ走る。
見て、すぐに、彼は首を横に振った。


「駄目だ…。とっくに死んでる。
 ついさっきまで、死んだまま動いてたんだ。信じられない…」


彼はそのまま、しばらく呟き続けていた。


「戦闘面じゃ、弱点はないからな。

 人をすぐに信用することしか思い当たらなかったのさ。

 ガランの娘の彼氏ってだけで俺を信用するんだぜ?
 ――馬鹿はどっちだよ」


「アーサ」


イロンが、アーサのせせら笑うのを静かに止めた。


「まぁ、こんなに早くバレるなんて誤算だったよ」

「どこが早いのよ。アーサ…あんた、裏切り者なの?」


ふと、セトはハッとするものを感じた。

オーバが死んだ時、エミルが叫んだ、「裏切り者め」の言葉。

あれは、いち早く裏切り者――
内部の暗殺者の存在を示唆していたのだ。


「裏切り者? まさか。俺は初めから帝国の人間だったぜ。

 内部に入る為にイロンに近付いたのも、皇帝ヴィトー陛下のご命令さ」

「どの辺りから、仕組んでた?」

「三年前、かな?

 竜人が人間を消してくれたら、
 後は竜神をぶっ飛ばすだけでこの島を手に入れられたのに。

 エミルさえいなければ、ね」


さすがに、人間と竜人の争いは仕組んでいた訳ではなさそうだ。

15日というタイムリミットを知って、
それを利用しようと言う考えが妥当だろう。


三年前に砦に行くことを止めようとしていた理由は、
危ないからやめろ、という生易しいものではなさそうだ。


「思えばアルバートを連れてくのをOKしたのも、
 救世主を意味のない所へ連れ回す為だったしなぁ。

 まさか翻訳指輪の資金援助をしちゃう馬鹿がいるとは思わなかった。

 シイルで魔王を倒した辺りで気付いたのさ。


 この女や周りの奴等を消さない限り、世界を奪えない…ってね」


「それで、無理矢理制圧するとか言う、強行突破?」

できるだけ、エミルは冷静に尋ねた。


「そう。さすがにあんたがまた来るとは思わなかったけど。

 まぁ、内部から潰すのが一番楽なのは分かってたから、
 英雄エミルの名を利用すれば、
 もっと簡単にイケる気がしたのさ」


「一度勝って、次から優秀な指揮官を殺し続け、
 士気や統率力の弱体化を狙う、と言う訳か」

「だいたいそんな感じかな」

アーサは日頃の彼の様子からは、
想像も付かないような表情を浮かべた。


その、時だった。




「喋り過ぎよ」




聞き慣れない女の声がした瞬間、エミルの目が大きく見開かれた。


凍り付いたように冷たい空気が伸びた瞬間、
アーサの身体がゆっくりと地面に、うつ伏せに崩れ落ちる。



左胸に穴が突き抜けていて、背中から地面が見える。




「見損なったわ。
 【銀龍(ぎんりゅう)】を見抜けない程の間抜けだったの?」


音も気配もなく現れたのは、
薄い青髪に黒い瞳、紫の唇のメークが印象的な、美貌の女だった。


「【雪嶺(せつれい)】……シャルドンネ」

「あ〜ら、私のこと、覚えててくれたのね」


いつになく険しい表情を浮かべるエミルに、
女は冷たく笑って見せた。


「アーサが使ってた毒を見て、
 すぐにお前が関わってるのは分かったよ。

 ふぅん、昨日の友は今日の敵…ってか?」

「変わらないのね、エミリューレ。
 あの頃は、私の相棒だったのに」


「ハッ! 相棒? あんた何楽しいこと言ってんだ。

 七年前の天才児エミル様を、何だと思ってやがるんだ!?
 所詮あたしとあんたは住む世界が違うんだ!」


エミルは、今まで見たことも内容な哄笑を上げる。

冷たい笑い声はやがて冷めて、シャルドンネに剣を向けた。


「…悪いな、いますぐ死んでくれないか。
 風来坊とは言え、契約を破棄するつもりはない」

「そういう訳にもいかないのよねぇ」

エミルの剣をサラリと避けると、
シャルドンネはその手でエミルの剣の刃を握る。

血が滲んだりはしなかった。


あたかも手のひらが鋼鉄でできているかのように、
或いは剣が豆腐かゼリーでできているかのように、


刃はシャルドンネの手に握り潰され、砕け散っていった。


「今日はこの無能男の始末と、
 組織が絡んでるってことを教えてあげる為に来たのよ。

 今殺しても、面白くなんて無いからね」


シャルドンネはふふ、と笑いながら、音もなくその姿を消した。


「組織――か。
 件の追っ手とやらが来たわけだ」

エミルが低い声で笑った。

だが、その目に笑みが含まれているわけが無かった。


「シャルドンネ直々、か。

 ははッ、面白くなってきちゃったな………」





 あとがき


桜崎の大好きな急展開です、こんにちは。

それにしても、どうしてこう、
私はアーサを変な役回りにしたくなるでしょうか……。

シャルドンネはもう、典型的な「オーラが怖い女」をイメージしました。

さて、そろそろこの辺りで失礼します。
7943
煉獄の聖戦 第九章part1 by 桜崎紗綾 2008/01/18 (Fri) 22:16
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「……うるせえよ。

 別にあんたの為に指輪を作った訳じゃないんだ。

 感謝の言葉やら御託を並べる暇があったら、
 その剣で一人でも多くの敵をぶっ飛ばせ!」


     翻訳指輪の礼を言ったアルバートに、英雄が一喝した言葉



     煉獄の聖戦  第九章 暁の救世主アルバートpart1



「それでも、私は彼を愛してたし、今も愛している」


イロンが、低い声で呟いた。

鍛冶場でのことだった。
彼女は金属の塊をハンマーで叩きながら、訥々と語っていた。


側にはシンが立っていた。

鍛冶の手伝いをしたい訳ではない。

そんな理由で、祖母を殺した青年の女を名乗っている人間の元へは行けない。


「貴方たちの家族を奪ったし、私への愛ですら嘘だったと思う。

 それでも、私は嬉しかった。
 私はこんな性格で、剣を創ることにしか能がないから」


「……解放軍の主将は、エミルさんに決まったそうです。

 僕には、あの人が主将になってしまっては、
 敵の思う壺のような気がしてなりません」


「私もそう思う。

 それに、遊撃隊の指揮官が解放軍全体の最高司令官になるっていうのも、
 よく考えたら、変だし。

 そうだ。メアリーの様子をまだ聞いてなかった。
 お父さんが殺されたわけだし、今はどうしてる?」


「姉さんといます。

 『お父さんが握るはずだった剣を、私にください』
 って彼女が言ったそうです。

 エミルさんの遊撃隊を、メアリーさんが率いることになったんです。
 僕には信じられませんが」


それが、シンが危険を冒して森の奥に向かった理由だ。

姉が病気で苦しんでいた間にも、腕輪の力を借りたとは言え、
一人で薬草を摘みに行くなど、なかなか肝が据わっている少年だ。

イロンは溜め息を吐いた。


「父親を殺した奴の女の創った剣を、よく使う気になったものだ。

 それも、形見ですらない。

 それに、私はエージスさんの為に創ったんであって、
 メアリーの為に創ったわけじゃない。

 彼女がどのくらい強いのかは知らないけど、
 あの細腕じゃ、両手剣としてでも使えないだろうさ」

「…………………」

「まぁ、でも、あの娘の為の剣を創るんなら、構わない。

 エージスさんの剣も使いどころがないし、彼女にくれてやってもいい。

 ただし、待ってな。この剣はアルバートさんのだから」


そう言って、イロンは鍛えている鉄塊を顎で示した。


「そう伝えます」

シンが頭を下げて去って行くのが分かった。


イロンは相変わらず鉄を叩いている。


その頬に一筋の涙が流れているところ以外は、
何一つ変わっていなかった。


「アーサ…」
7944
煉獄の聖戦 第九章part2 by 桜崎紗綾 2008/01/18 (Fri) 22:19
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     煉獄の聖戦  第九章 暁の救世主アルバートpart2




「アルバートの名前って、使えないかな?」


ムー侵攻計画を打ち出したエミルの第一声が、それだった。

誰もの顔に、「は?」と書かれている。


「どういう意味です?」


そういえば知らない奴いたな、とエミルは息をついた。


「三年前、アルバートはムーの『時の扉』ってのから現れたんだ。

 あの村には古くから『時の扉』から現れた奴は世界を救う救世主なんだ、

 とかいう嘘のような本当のような伝承がある。

 ぶっちゃけ信じない連中の方が多かったが、
 三年前にアルバートが出て来たお陰で、真実味を帯びてくれてね。


 ……いずれにせよ、結論から言うとアルバートは救世主ってぇこったろ?
 これ、使える気がするんだ」


シーナはしばらく考えた。

村人を全て寝返らせる手段はシイルのそれとよく似ているが、
もし、再び『時の扉』にアルバートが現れるようなことがあれば、
帝国兵も動かせるかもしれない。


「うまく『時の扉』にアルバート君が出て来たら…」

『転移』のフォースが使えれば、簡単なことである。


ただ、世の中、
たまにアルバートのようにフォースが一切使えない者もいるようだ。


「強い光が村中を覆って、
 次の瞬間には俺がいた、だったか、エミル?」


アルバートの問いに、エミルが静かに頷いた。


「あの光はあたしも見た。
 物凄く強くて、目を開けてられないレベルだったね」


「なら、村中を覆うくらいの強い光が要るってことか」


シーナは、まだ考えている。


「『幻霧』で何とか作れないかな…」


その瞬間、エシュターが低い声を上げた。


「それだよ、『幻霧』だよ、シーナ」
7945
煉獄の聖戦 第九章part3 by 桜崎紗綾 2008/01/18 (Fri) 22:21
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     煉獄の聖戦  第九章 暁の救世主アルバートpart3



「やぁ、婆さん」


真冬に入り、辛い寒さがシルフェイドを覆っていても、
その老婆は掃除することを辞めなかった。

声を掛けて来たのは、帝国の上級将校だ。
一応、駐屯軍の最高司令官である。


「今日も変わらないね。
 本当にそんなところに人が現れるのかい?」


「あんたにゃ何度も言ってるがね、
 三年くらい前に本当に救世主様が現れたんだよ。

 それから何日かして、この扉から帰っていったんだ。

 だから、またいつ現れてもいいように、
 ここだけは綺麗にしておきたいのさ」


「だけどよぉ、救世主ってのは、世界に危機が来たら現れるんだろ?
 危機なんて、早々来ないもんだぜ、そうだろ、婆さん」


「危機なら来てるじゃないか」


老婆は、愚痴をこぼすように呟いた。
喋っている間も、掃除する手は止まっていない。


「今、まさに、危機だと思わんのかい、あんたは。

 ようやく平和になったと思ったのに、今度は戦争だ。
 次はこのムーが狙われるって話だろ?」


「………………………」


当然と言えば当然だが、彼には何も言えなかった。

帝国軍がこの国を制圧しなければ、解放軍など現れなかったはずだ。
どちらが悪かと言えば、明らかに帝国だ。

それがわからないほど、この兵士の頭は腐ってもイカれてもいなかった。
帝国の人間だとしても、皆が皆腐っているわけではない。


「あたしはもう、戦なんて嫌だよ…。

 だから、救世主様が現れてくれたら、
 きっと良い方向に導いてくれるって、そう信じてるのさ」


老婆はそう言いながら、雑巾を絞り始めた。
兵士はただ、それを見つめている。




突然、強い光が、村を覆った。




老婆は、弾かれるように、『時の扉』の方を見た。

あの時と、同じように。



そこには、救世主が、いた。



「あぁ…! 救世主様!」


紛れもなく、前と変わらない、堅そうな表情の若者。
彼は以前よりも遥かに、頼れそうにも思えた。


「嘘だろ!? 何かの手妻に決まってる!」


訴えるように叫ぶ兵士に向けて、アルバートは歩み寄る。


「そう、手妻だ」
7946
煉獄の聖戦 第九章part4 by 桜崎紗綾 2008/01/18 (Fri) 22:34
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     煉獄の聖戦  第九章 暁の救世主アルバートpart4



まず、巨大な鏡を一つだけ用意するのだ。


そこに、『増幅』をかけた後の理力部隊たちが『幻霧』で、
「鏡の幻」を創ってゆく。


後は、直射日光さえ鏡に当たれば、どんどん反射・屈折してゆき、
強い光で村全体を覆うことができる、というわけだ。


強い光が覆っている間に、アルバートはセシルとともに
『時の扉』に『転移』して、セシルはすぐに同じフォースで姿を消す。

この時セシルを選んだのは、万が一、目が光に強い者が村にいても、
体が小さければ余り目立たなくてすむからだ。


つまりは、救世主アルバートが現れさえすれば良かったのだ。

大掛かりな仕掛けの光は、出来るだけ、
当時そのままにする為のカモフラージュにすぎない。


普通に彼が現れても意味がない。

神の奇跡のようにしておくことで、
彼が目的とする和議と無血開城は成功する。


この案を思い浮かべたのは、エシュターだった。


「俺はアルバート・ウェスタリス。
 解放軍本隊を、英雄エミルから預かっている指揮官の一人だ」


アルバートはゆっくりと説明した。


「勝手に世界を牛耳り、
 さらに国家体制を腐らせた帝国からこの国を解放する為に、
 俺たちは戦っている。

 いずれ内乱が始まるのは誰の目にも明らかだった。
 俺はその助っ人として呼ばれただけに過ぎない。


 いいか、戦争そのものは間違ってなんかない。


 間違ってるのは、戦争が起きる理由を作るお前らだろう?
 ――そう、うちの軍の英雄、銀龍エミルが言っていた。


 その信念のもと、戦って来たが、
 世話になったこの村だけは戦場に回したくなかった」


実際には首都ピタルに近いから援軍に来られたら不利だとか、
そう言った戦略的な理由もある。


「解放軍は、抵抗しない者を無闇に殺ったりしない。

 実際に今までの戦の中でも最低限の命しか奪わなかったはずだ」


あながち間違ったものでもない。

敵将の首を取れば簡単に撤退するような帝国軍を、
無理に追撃させる意味はない。


この言葉の意味するのは、一つしかない。



『今すぐ降伏しろ』



光を気にしてか、村中の民が『時の扉』に集まり出していた。

そこに現れたのが、知った顔のアルバートなので、
誰もが救世主の登場を喜んだ。


「今の俺は解放軍のアルバートだ」


それも、自分達のわかる言葉で語るものだから、驚いてしまう。


「一刻も早く戦争を終わらせたいのはこっちも山々だ。

 だから、解放軍の旗を揚げ、帝国に反抗する為の狼煙を上げるんだ!」


アルバートは、全村民の前でイロンが作ってくれたばかりの剣を掲げた。


いつの間にか姿を消していた先ほどの上級将校が、
部下を連れて来た。

ムーは元から治安がよく駐屯軍はかなり数が少ないから全員だろう。

彼の手には、帝国の旗がある。
そして、部下の一人が松明を手にしていた。


「抵抗は、しない。いや、できない。

 解放軍の遊撃隊が、先発してるらしいからな。

 あの部隊に俺たちは勝てないし、この村を戦火に巻き込んだら、
 『村を守れ』って将軍の命令に背くことになる。

 それに……」


部下から松明を受け取ると、上級将校は帝国の旗に火を点けた。




「これが、俺たちなりの反乱の意志だ」




燃え上がる旗から、煙が上がり始めた。

それは果てしなく高く昇り、明るく照らす太陽のように輝いていた。


上級将校はニヤリと笑ってみせた。


「俺達はみんな、騙されてあんな腐った軍に入るはめになったんだ。

 帝国に命を捧げる義理もないし、解放軍が今にも倒しそうな状況の中で、
 沈み行く船に乗ってる理由もない」


騙されて軍に入ったという意味は気になるが、
アルバートは頷いて、再び剣を掲げた。


「解放軍のエミルが世界を救う。

 俺は救世主としてその片棒を担ぐつもりだ。

 さあ倒すんだ、帝国を!」


棒読みでなかったのが、かなりの救いだ。

村人も兵士たちも、偽のカリスマ性でコーティングされ、
美化されたアルバートを完全に信じ混んでいた。


「英雄エミルと救世主アルバートにご武運を!」


誰かが前に進み出た。
その人物は旅人に扮した解放軍のサクラだが、誰も気付いてはいない。


やらせ的策略だが、その瞬間、村中が爆発的な怒号に包まれた。




 あとがき


こんにちは、桜崎紗綾です。

ちょっと物理的に仕掛けを作ってみました。
実は物理自体はだいぶ苦手なんですけどねー(汗)
(それ以外に思いつかなかったし)

この章はアルバートを主役にするつもりでタイトルをつけたつもりなのに、
なんだかイロンとシンが出てきたり、
エシュターが仕掛けを考えてみたり、
果てには名前もついてないような人が目立ってました。

ごめんよアルバート。そんなつもりは無かったんだよ(苦笑)

前回はかなり殺伐と(?)してたので、
今度は「革命」を全面的に出しました。

さて、次回はそろそろ最終決戦……かな?(だといいな)

それでは、この辺りで失礼します。
7949
煉獄の聖戦 第十章part1 by 桜崎紗綾 2008/01/26 (Sat) 22:28
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「『消える』んだ?

 ……あたしは、まだ土に還れないんだ」

     役目を終えた英雄が呟いた言葉


     煉獄の聖戦  第十章 決戦――雌雄を決する刻part1



「サイクロイド将軍!」


首都ピタル。構えられた居城。

長い廊下を越えた先。

壁にタペストリーはかかり、装飾は細かく、
随所に明るいランプが並べられている。

赤い絨毯の向こうに、恐らく誰にでも想像のつく、
玉座が置かれている。


皇帝ヴィトーの両端に、二人の男女が控えている。

兵士が呼んだのは、右側に立つ男だった。


「どうした。俺は貴様などお呼びではないぞ」

「報告します。『反乱軍』が、東の門を突き破りました。
 そのままでは、突き崩されます!」


東の門は、首都ピタルが最も重く置いている要所である。

敵がそれを突き破ったと言うことは、
危ないどころではない状況だと言うこと以外有り得ない。


だが、その悲惨な報告を前にしたサイクロイド将軍が言ったのは、
意外な一言だった。


「……面白い」

「は? 将軍…?」

「いや、何でもない。

 サイクロイド親衛隊を導入して、敵の侵入を抑えるんだ。
 その間に、暗殺部隊が大将を殺るさ」

溜め息を吐いてそこまで指示した辺りは、この男も普通のヒトだった。

ただし、その指示内容はずさんそのものだった。


走り去る兵士を見届けて、皇帝の左側に立つ女が呟いた。


「――そんな指示、軍のトップのするものじゃないわ、
 【破獄(はごく)】サイクロイド」

「俺の興味は銀龍だけだ。
 かつてアークを抜けた銀龍と戦ることしか俺には興味ない。

 お前もそうなんだろ、雪嶺?」

「まぁね」

シャルドンネは、乾いた声で笑った。


「ここに、【焔美(えんび)】ヴィトーもいる。
 これだけそろえば、あの娘も屈伏するでしょう」
7950
煉獄の聖戦 第十章part2 by 桜崎紗綾 2008/01/26 (Sat) 22:30
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     煉獄の聖戦  第十章 決戦――雌雄を決する刻 part2


「エミル、一つだけ教えてくれ」

彼女は、そろそろアルバートが来る頃だろうと思っていた。

「詰まらねえことを聞くんじゃねぇ」

「言う前に答えるな」

「概ね、『組織』ってなんだ? とかそんな感じだろ?」

黙っているのが、肯定を意味する。
エミルはゆっくりと振り返る。


「あんたの知りたいのは『アーク』、

 約25年前に結成された組織だ。

 要人暗殺やら護衛やらを目的とした要員を集めた戦闘集団だ。
 …で、その要員ってのは、どう集めてると思う?」


「希望者、みたいな生易しい話ではなさそうだな」

「ったりめぇだろ
 素質のありそうな餓鬼をさらうんだよ。それから養成するんだ」


エミルもさらわれた一人なのか、とアルバートには聞けなかった。


「あたしは11で馬鹿みたいに強い餓鬼だったもんで、
 阿呆な連中が天才児とかって呼ばれてた。

 『銀龍』ってあだ名は自分で付けた。

 だが、あたしは組織が詰まんなかったから抜けた。

 それからは、あちこち転々としていた。
 三年前のあれも、今のこれも、その過程の一つだ。

 ただし、アークの奴等はよく追っ手を派遣しててくれてる。
 みんなぶっ飛ばしてやったが……」


「シャルドンネと言う、アーサを殺した女か」

エミルは頷いた。


「【雪嶺】と呼ばれてる女だ。
 奴は一緒に別の奴を連れてる確率が高い。

 多分、【破獄】サイクロイドだ」

「サイクロイド?」

アルバートは怪訝な顔をした。

「寝返った兵士が、サイクロイドと言う将軍が軍の最高指令だと言ってたぞ」

「はっ…馬鹿馬鹿しい」

エミルは軽く鼻で笑った。


「さて! 詰まらん昔話はお終いだ。

 アークに気をつけろ。あれはただの殺戮兵器の集団だ」

彼女はイロンにもらった剣の柄に手を触れて、先に進んで行った。


「………」


アルバートには、何も聞くことができなかった。


エミルも、殺戮兵器だったのだ。
7951
煉獄の聖戦 第十章part3 by 桜崎紗綾 2008/01/26 (Sat) 22:46
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     煉獄の聖戦  第十章 決戦――雌雄を決する刻 part3



「ハハハ…ハハハ! 分かるぞ!
 エミルが、あの小娘が近くに来てる!」


 破獄が、両手に一振りずつ曲刀を握っている。


「当たり前だけど、やるわね。
 あの娘、私の暗殺部隊を全部潰して来たのね」

「面白い奴だ。ますます、楽しみになって来た」


雪嶺の目は、窓の外の部下の屍に向けている。
彼女にとっては部下ですらなかったが。

「銀龍の死に顔を晒すことがな!」

焔美は、手のひらに炎を作り、消している。




「こりゃ、なかなかいい部屋を創ってやがるな」


剣を抜き放つ少女、エミルの姿が見える。
辟易した表情も、玉座の間の三人を見た瞬間、全てが消えた。


「阿呆が…。命を短くするだけだ」

「お前の、な。【銀龍】――狂王女エミリューレ」

サイクロイドがゆっくりと前に出る。


「五月蠅い。
 それにしても、アークの幹部三人が一挙にあたしの為に来てくれたのか。

 流石にヤバいんでないかな」


ニヤリとしながらエミルは前に出る。


「女が一人いるとは言え、男として、いかがなモノかな?

 本気出しちゃっていいんだ」


彼女は顔に手を翳す。


「『覚醒』」


次の瞬間現れたのは、赤い瞳の、銀色の長い髪、いかにも冷酷そうな表情――


屈託の無い英雄エミルとは遥かに違う、『銀龍』そのものだった。


「容赦せぬぞ」



嗄れた声が、ゆっくりと響く。




銀龍エミリューレ・ヴァレリア、昂ぶる。








バーン城、地下。

『彼女』は、鉄格子の戸に手を触れた。


「思ったより早く、回復しましたね?

 クラートさんに黙っていてもらっていただけですから」


「……」


「俺をどうする気だ、と言いたげですね?

 貴方は今、轡で喋れないですけど。

 まぁ、どうする気もないですよ。敵を欺く、それだけですから」


『彼女』は、その場を立ち去った。



黒いポニーテールが、揺れた。





  あとがき

どうも、桜崎紗綾です。
章のタイトルの割には雌雄を決せて無いような気が。

組織については、もうどうしようもないですね。
こういうことに関しては割と単純に考えています。
えぇと、私自身が馬鹿だからです、きっと。

三月までには完結しておかないとまずいことになりかねなくなってきました。
そんなこんなで最近、急いで更新しています。
でも、出来るだけ手は抜かない方針なので。

この辺りで失礼します。
7960
煉獄の聖戦 第十一章part1 by 桜崎紗綾 2008/02/16 (Sat) 22:25
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「ふん。『神』には、妙に縁が在るな。

 どれも、面白くも何とも無い腐れ縁だが、
 リクレール、あんたとの縁が、一番善かったよ。

 …さあ、言ってみろよ。
 ただし、下らない依頼内容だったら、赦さねえぞ」

     三年後、再び女神に呼ばれた時に英雄が言った言葉



     煉獄の聖戦  第十一章 Divide part1



いつかの時代、どこかの世界のある国の王女だった。


彼女がさらわれたのは11だったので、記憶がよく残っていた。


国内ではどうなっていたかは知らない。

だが、60人中54番目の王の子だったので、
結構どうでもいい存在であったのは事実だ。


『アーク』での待遇は、決して悪いものではなかった。

それはたぶん、彼女が『天才』だったからで、
彼女を妬む愚か者どもも、少なからずいただろう。


受け入れ、友と言った【雪嶺】も内心はそうだったかもしれない。


組織が人をさらうのは素質を基準にしているのであって、
王女というのは偶然でしかない。

大富豪が溺愛する子でも、
身売り女の誰の子とも知れぬ父なし子でも、
関係のない要素である。




「【銀龍】」


12の時に、組織のトップ【破獄】サイクロイドに話しかけられた。
この男の会話内容といえば、ほぼ業務連絡だ。

エミルにいつも持ちかけられてきた仕事は、余り明るいものではなかった。


「んん? 仕事か。何だ? 暗殺か? 脱獄か?
 詰まんねぇ仕事だったら承知しねえぞ」


組織にいる人間ならどんな形であれ暗殺のスキルは持っている。

エミルにとってもそれは事実だったが、
彼女の暗殺の手並みは余りに鮮やかで斬新で、
それでいていつも同じ手段は使わなかったのだ。


サイクロイドが彼女に他のとは違う感情を持っているのは、そのため。


それが、組織内で知られる理由だった。


本当は、この二人は異母兄妹である。
年齢が14も離れた二人で、知っている人間は少なかった。

サイクロイドは第18王子、王の30番目の子である。

彼はエミルと違い、祖国を出奔し、組織の立役者となった。

面白い奴がいる――そう言って、
彼は話し方から立ち振る舞いまで王女とはいえないエミルを選んだのだ。


「面白い仕事が飛び込んできた。
 アルスリッジ王国、我らの祖国が対象だ。

 あの国の国家体制を『潰せ』とな。

 面白いと想わないか?
 『一夜にして一国を滅ぼした狂王女エミリューレ』――」


なんとも酔狂な兄もいたものだ、とエミルは思った。
この男のほうが狂王子と呼ばれるべきだろう。


「悪いな。先約がある」

「何だと? お前に仕事を頼むのは、後にも先にも俺だけだ」

「残念。――あたし自身の存在を忘れてるな」

エミルは鼻でせせら笑うと組織の腕章をサイクロイドに投げつけた。

それから、彼女は小さな紙袋の口を彼に押し付ける。

「悪いね。あたしはこの組織を抜けさせてもらうよ。
 前から思ってたんだ。

 『あたしは人間として死にたい』ってね。

 兵器として死ぬ気なんて、ハナッから毛頭ないね。

 あんたとまともに殺り合うにしても、ここには敵が多すぎる。
 言い訳じゃあないがな」


エミルがそこまで言ったとき、サイクロイドは地に伏せられた。

死んだわけではない。気絶のほうが正しい。
どこから用意したのやら、「クロロホルム」と言うものだ。


「次に会うときは、敵だな」






「本当に行ってしまうの? エミリューレ」

荷物を纏め、肩に担ぎ上げた所をシャルドンネが話しかけた。

「逆に聞くが、何故あんたは行かない? 『奴』か?」

「そうよ。サイクロイドよ」

「いいこと教えてやるよ。

 貴様は、馬鹿だ」

エミルはニヤリと笑うと、振り返ることなく歩き出した。

「エミリューレ! 死にたくないなら戻ってきなさい!

 『アーク』とその追っ手は、あなたを見逃しはしないわ!

 エミリューレ! ここに! ここに今すぐ戻ってきて!」


シャルドンネのエミルに対する感情は、本当に友だったのかも知れない。

このときエミルは初めてそう思った。嫉妬の塊だと思っていたのだ。

「善い夢を! シャルドンネ!」

彼女は振り返ることなく歩き出し、片手をあげて見せた。


追っ手に追われるなら、それでもいい。

そいつらを倒すのが『天才』エミルのプライドであって、
そいつらに倒されたとしても、『人間』エミルのプライドだ。

シャルドンネがエミルを殺す方法の模索を始めたのは、そのときだった。






それから、長い間彼女は祖国を守り続けていた。


エミルがいなくなっても、組織はアルスリッジ王国を滅ぼす必要があったのだ。
それが何故か、エミルは考えたことが無かった。

結局分からなかったが、どう考えてもサイクロイドの趣味だろう。


そのとき、彼女はただエミルと、名乗った。

ただの傭兵ではあるが、アルスリッジを長い間守った英雄だ。
サイクロイドが諦めるまでは、エミルは追っ手と敵、組織を相手にしてきた。

どこかで危機が迫ればエミルは必ず現れた。
たまに、違う世界から神が助けを求めてきた。
その中の最後の一人に、リクレールがいた。


英雄エミル。

この伝説は、このときに始まった。
7961
煉獄の聖戦 第十一章part2 by 桜崎紗綾 2008/02/16 (Sat) 22:32
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     煉獄の聖戦  第十一章 Divide part2


「『炎舞』!」

「『理盾』」


炎を遮る盾は、ぎりぎりの辺りで途絶えていた。

「その程度なのか、新顔【焔美】の実力は?
 『水龍』!」

ラピスラズリ色の水の龍は玉座の間を覆った。
それは、ヴィトーが新たに口ずさむ炎を相殺しつくしていた。

剣を手に取ると、エミルは飛び出した。

「『風牙』!」

叫ぶ。
風神が叫んだかのような刃が、ヴィトーを襲う。


「死ね。空気が読めてない馬鹿者はお呼びでない」


倒れかかったヴィトーの背後に回ると、
エミルはその首を胴から切り離した。


「でしゃばるな、雑魚が!」







「セト理力隊、制圧完了です!」

「エシュター・スケイル回復隊、同上です」

「メアリー遊撃隊、城門を開きました」


次々に飛び交ってくる報告の嵐に、セタは舌を巻きそうになった。
だが、どれも勝利の報告だ。それくらいの判断はつく。

「…よし、そろそろエミルが皇帝と一騎打ちを制する頃だな」


セタは空を見上げた。
城で何が起きているか、全く分からない。


《不思議なんです。サイクロイド将軍が見えない。

 前線で指揮しているはずなのに――この、背水の陣となっていれば》

スケイルが美貌に怪訝な表情を見せた。
嫌な予感を、その声には孕んでいた。

しばらくして、セタが静かに同意した。

「どうなっているんだ? サイクロイド将軍は。
 シャルドンネと言うあの女もいないし……。
 まさか、城内にいるのか?」

そこまで聞いて表情が変わった者がいる。
アルバートが舌打ちしながら長剣を手に掛けて駆け出した。


「あの馬鹿!」

「アルバート!?」


セタには、どこに行く、とは聞けなかった。


答えが一つしか有り得ない質問は、聞くには合理性に欠け過ぎている。
7962
煉獄の聖戦 第十一章part3 by 桜崎紗綾 2008/02/16 (Sat) 23:04
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     煉獄の聖戦  第十一章 Divide part3


曲刀から、風圧が飛んで来た。

飛んで来た圧力は、物理の法則を根本から否定した。


叩き飛ばされたエミルは、破獄を睨み付けながら立ち上がった。


「銀龍のレベルはこんなものか?」

「黙れ」

サイクロイドを兄だとは思わない。14も年が違うのだ。


「餓鬼の遊びに興味はない。
 そんな玩具のような剣で、俺は斬れない」

彼は、左手の剣を投げ付けた。エミルの脇に突き刺さる。

「使え」

「断る」

冷たく彼女は言い放つと、自分の剣を手に、
シャルドンネに向けて飛んだ。

「今の相棒はこれだ! 『白迅』!」

白い刃が真っ直ぐに女に向かう。
しかし、その美貌に傷一つ付かない。

「だから、言ったでしょう」

シャルドンネの手から、どこからともなく氷の剣が伸びる。

氷の剣が、エミルの愛剣を突き壊していた。




「茶番は終わりだ」


サイクロイドの重い声が響く。


次の瞬間、サイクロイドの手が伸び、先に剣があり、
――エミルが宙で静止していた。



容赦なく、剣がエミルを貫いていた。



「エミル!?」


大扉を突き破って、眼帯の少年が入って来た。

「邪魔するな…」


『覚醒』していたはずのが、元に戻っていた。

エミルは、まだ手に立とうとしている。

人には、時に限界と言うものを超える時が来る。
そのときは本来の力を超越した、超人的な動きをするそうだ。


英雄が、限界の域を超えた。


声にならない叫びをあげ、彼女は前に進む。


辞めるんだ。アルバートが叫んだ。
しかし、その声は通じない。


「行くぞ、シャルドンネ。この城は駄目だ。

 俺たちまで死ぬ意味はない。抜けるぞ。
 銀龍の死に顔まで見る気はないな」

「そうね。
 おっと、そこの坊や。追いかけて死んだりしちゃ嫌よ?」


アルバートは動けなかった。エミルを助けるのが先だ。


「あたしはまだ……死んでない…」


立ち去る二人を、エミルが追いかける。
二人は無視して、姿を消した。


「辞めてくれ!」

限界を超える。それは、死を意味していた。


アルバートはエミルの腕を無理やり掴んだ。

「死ぬな」

「馬鹿なこと、言うな」


エミルは、言いながら倒れた。


「くそ…ヴィトーの雑魚なんざ倒しても詰まんねぇだけだ…」

「もう喋るな。医者のところに連れて行く。
 お前はまだ死ぬ時じゃない」

「何阿呆なこと言ってやがる」


減らず口は変わらない。
アルバートはエミルを抱えて歩き出す。
同時に、サイクロイドの置いていった剣も押収しておく。


エミルは小柄な少女だ。

元から軽いだろうとは思っていたが、軽すぎた。


――燃え尽きた、真白の灰のように。



「だからもう、喋るな」

「あぁ、アルバート。伝言、頼まれてくれるか。
 あのクソ女神に」


「……そういうのは辞めてくれないか?」


「気持ちは分からんでもないが、そんなこというな。
 …あたしはいっぺん死んでみたかったんだよ」


アルバートは思わず黙ってしまった。

『死にたかった』。
それは、この腹の読めない英雄の本心かも知れなかった。

拒否は許されない。

恐らく拒否すると、アルバートはこの先一生後悔するだろう。
それは、どこかで分かっている。


「……………頼まれて、くれる、か?」

「任せろ」


「もうあたしに、物事を頼んで、くれ…る………な…と

 ……そう伝え」


その続きは無かった。

多くの人を惹きつけた藍色の瞳は大きく見開かれている。


慟哭をあげることは、できなかった。
そんな女々しい真似は、できない。

第一、そんなことをしたら、天罰でも下りそうだ。


アルバートは瞼を閉じてやった。



『もうあたしに物事を頼んでくれるな』



エミルらしい伝言と言えよう。


「……分かった、任せておけ」



彼は、かつての英雄がゆっくりと冷たくなって行くのを、
静かに、そして、確かなものとして、感じていた。




 あとがき

ごめんねエミル! 実は私の常套手段なんだ!

とまぁ、色々な言い訳はこのあたりにいたしまして。

この物語にもようやく終了の目処は立ってきました。
次はちょっとだけ展開を上向きにしたい……って、

主人公殺っといてそれって無理じゃ(以下略

それでは、この辺りで失礼します。
7972
煉獄の聖戦 第十二章part1 by 桜崎紗綾 2008/03/11 (Tue) 22:31
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「貴女ほど、哀しくて美しい姿はありませんでした。

 悪びれることもなく私の悪口を言ったとしても、

 エミリューレ・ヴァレリアさん――

 貴女は、私の太陽で、月で、

 悠久の蒼天です」


     英雄の死後、女神が英雄に捧げた言葉



     煉獄の聖戦  第十二章 奇蹟、汝が手に part1




「アルバート!」


彼の姿を確認して、真っ先に現れたのはガゼルだった。


「皇帝は?」

「倒した。エミルが首を刎ね上げた」

「凄ぇ。俺たち、勝ったんだ!」


ざわざわと声が上がる。騒ぎは広がって行った。


『勝った。俺たちは、帝国を滅ぼしたんだ』


「…エミルさんは?」

騒ぎの中、エシュターの声が、周囲に緊張の糸を張る。


「いるだろう、ここに」

アルバートが、背中を顎で示す。

エミルは、アルバートの背中に背負わされていた。


「本来なら戦死者は置いて行くもんだがな…。
 だが、英雄を置いてもおけんだろう?」

「何? 何かの冗談じゃ…ないよね?」


親友のエシュターが何とか声を絞り出す姿が、
アルバートには辛い光景過ぎて、思わず目をそらしてしまった。


「エミルは、死んだ。女神への伝言と、俺たちに討つべき敵を残して、な」


アルバートには、淡々と語ることしかできない。
それ以上のことも、それ以下のことも、彼には許されていないから。

たとえ誰が同じ立場に立ったとしても、そうだっただろう。


「討つべき、敵?」

セタが眉をひそめた。


「戦闘集団『アーク』の【雪嶺】シャルドンネと、
 【破獄】サイクロイドだ」

「ならば」

セトが低い声を上げた。


「帝国を滅ぼす戦は終わりました。

 だけど、その二人を倒す必要があります。
 どこにいるかは知りませんけど」


「抜ける、と言っていたな。
 城のどこかに抜け道があるのかも知れない」


各幹部で、しばらく抜け道を探すかどうか話し合ったが、
取りあえずバーンに戻ろう、という結論に至った。


《エミル様…》


スケイルの声が、遠い蒼穹の向こうへと、消えた。
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煉獄の聖戦 第十二章part2 by 桜崎紗綾 2008/03/11 (Tue) 22:37
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     煉獄の聖戦  第十二章 奇蹟、汝が手に part2



「エミルさんが亡くなられました」


『彼女』は、格子の向こうにいる影に声をかけた。

「サイクロイドとシャルドンネ。
 この二人と戦って死んだそうです。貴方の元上司ですね」

「……………」

「はっきり言って、余り恵まれていない上司さんじゃないですか?」


『彼女』はゆっくりと笑った。

鉄格子の向こうで、表情の読みにくい影が、
顔をしかめたのは空気で読み取れた。


「自分の部下である貴方が、
 通常とはちょっとだけ違うと知らなかったのでしょう。

 知ってたら貴方はきっと、この世にいなかったはずですしね。

 まあいずれにせよ、
 生きているのはクラート医師が天才であるからだろうけど」


『彼女』は静かに呟いた。
鉄格子に静かに手を掛けて、ゆっくりとした動作で外した。


「もうちょっと待っていて下さいね。

 貴方もそろそろ役に立ちますよ。
 言っちゃ難ですけど、役立たずを生かす義理はないですから。

 じゃ、そろそろ私が必要になって来ますね。
 探される前に行かなきゃ」


『彼女』――シーナは地下の階段を上り始めて行った。







「あ、シーナ。ちょうどいい所に」


エシュターが彼女を発見したのは、廊下を歩いていた所だった。


「そろそろ作戦会議でしょ? 新国家の政府用人決めに、
 私はお呼びじゃないから、時間潰してたんだけど」

「そうだね。行こうか。何か案があるの?」

「有効なカギはある」

「有効なカギ?」


何を企んでいるのやら。

エシュターは溜め息を吐いた。若干の不謹慎を許すのならば、
こういう時シーナは面白いことを考えているものだ。

この数ヶ月の戦争の中で、シーナの『新しい一面』は見慣れたものとなった。



「種明かしは後でね」






いつもの軍議とは違う。


軍の幹部が出ていても仕方がないので、
エシュター、アルバート、ガゼル、セト、そしてシーナ――

エミルに呼応した5人だけが出ている。
後は、スケイルがいて、クロウがいて、思慮深きフクロウがいた。


この時点でのトップは、一応アルバートだった。


「役に立つ気がして、サイクロイドの剣を片方持ち込んで来た」


アルバートが、最初に口を開いた。


「今、イロンに調べて貰っている」


話すことが無さ過ぎて、沈黙が流れる。
エミルですら負けた相手に勝てる気がしない。



言う時が来た。シーナは、閉じていた目を開いた。



「今から言うことで、
 みんなが私を恨んでも仕方がないと思う」



恨みはしない、と口を挟める空気ではなかった。



種明かしの時、とエシュターは思った。



シーナは、言うことに決めた。

自分で選んだ道だ。


迷ったとしても、逃げてはいけない。




「アーサさんは――生きてます」




空気が、にわかに躍った。
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煉獄の聖戦 第十二章part3 by 桜崎紗綾 2008/03/11 (Tue) 23:12
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     煉獄の聖戦  第十二章 奇蹟、汝が手に part3



「どういうこと」


最初に声を上げたのは、
アルバートの依頼結果を持って来たイロンだった。

広間の扉を開けた瞬間、シーナの『一言』を聞いたのだ。


「アーサは、シャルドンネに心臓刺されたはず」


「正確には、左胸を」


シーナは自分の左胸を指差した。


「誰も気付かなかったみたいだけれど、

 あの時微かにまだ息のあった彼を、
 クラート医師に口止めした上で診て貰ってわかったの。



 アーサさんの心臓は、左胸じゃなくて右胸にあるんだって」



彼女は一礼してしばらく立ち去り、15分もしないうちに現れた。

車椅子に乗せられた、アーサを連れて。


頬はやつれ、金髪はくすみ、だが赤いバンダナをしているし、
そこにいるのはアーサ、陽気で気の毒な裏切り者の若い旅人だった。


「アーサ!」


イロンが慌てて側に駆け寄った。


「生きていた、と言うよりも、
 『生き返った』のほうが、語弊が無くていいかもね。


 彼を生かしておくことによって、情報も得られると思って。

 それに、敵を欺くにはまず味方から、というし」


「その割に人の口に轡かけやがる」


誰から教えて貰ったのか、アーサは減らず口を叩いていた。


「アーサ。助けて貰っといてその口の聞き方はまずい」


イロンがピシャリと叱り付ける。
これでは恋人と言うか保護者だ。

アーサは以前に比べてどこか変わった恋人の様子を見て、
少し驚きながら肩を竦めて、それから真顔に戻った。


「そういえばそうだ。

 シャルドンネを出し抜いて、
 俺を生き延びさせてくれたお礼を言わなきゃな。

 お礼と言っちゃ難だが、面白いことを教えてやるよ」


「まず、お前の正体からだ」


アルバートの容赦のない一言に、アーサは肩をすくめた。


「『アーク』の一員、【赤嵐(せきらん)】のアーサだ。

 エミルさんが抜けた後に組織に入った。彼女のことは知らなかった」


彼はとぎれとぎれに語った。

さすがに身体をぶち抜かれていただけあって、
かなり弱っているようだ。

もしかしたら二度と歩けないかもしれない。

「どこかの国の危機に、銀龍あり。

 それを掴んだシャルドンネが、争いでこじれたこの世界を狙った。

 俺は赤嵐ってのは自分で付けた名前で、ただの下っ端だった。

 俺にしてみれば、エミルさんの方がいい人だと思ってたし、
 彼女に危害が及びにくいようにしてた。

 二度目の危機に自ら入り込んだのは、
 あの二人がエミルさんを殺す手段を得たからだろう。

 俺は、最後にあいつらを出し抜くために色々と策を練っていた。


 ただ、俺の動きは完全に見切られてたことにも気付いててね。

 最後の最後で『俺が死ぬこと』によって、
 『俺が無駄に情報を流すこと』によって、

 あの二人を出し抜いてやったつもりではいたよ。
 倒すのは不可能だったからね。


 【焔美】ヴィトーなんて、ただの炎馬鹿を投入したのも、
 囮と言う一つの手駒にすぎない。

 嫉妬深くてプライドが高いだけの、雑魚に毛が生えたレベルだし」


「皇帝が、アークの一員?」

「ああ。ま、その気になれば俺でも倒せる相手だったけど」


ハハッ、とアーサは鼻で笑った。
それから、イロンの手にある剣に、表情を凍り付かせた。


「サイクロイドの『負の剣』じゃないか。
 なんで、これを?」

「アルバートさんに頼まれて調べてただけ。
 エミルさんが死んだ時、彼女はこれを渡されたけど断ったらしい」


イロンはアルバートに剣を渡した。


「この剣は、何かの守りに覆われている。
 装備者は、対になっている方を持つ人しか傷を付けられないと思う」


「やっぱり。サイクロイドは『正の剣』を持ってるはず。
 これは、化け物並みに強いサイクロイド唯一の弱点だ。

 シャルドンネは、魔王みたいに常に『結界』が張られてるみたいな、

 そういう特殊体質を持っていて、それがアーク入りの所以の一つでもある」


アーサが溜め息混じりに言った瞬間、セトが声を上げた。


「『波動』や『衝撃』のフォースは効かないんですか?
 あと、太陽の剣や聖なる月の剣は」


「試した奴はいない。あいつに傷つけた奴は誰もいないんだ。
 ただ、効かないとは限らないな。
 それに、あいつには弱点が一つだけある」


アーサは、懐から小瓶を取り出した。


「……毒?」


「と、いうより、内臓(なか)は普通の人間だってこと。
 風邪だって引くわけだ、毒は効くに決まってるだろ。

 随分前にシャルドンネを毒殺して組織を潰そうとした、
 【毒蛇】と呼ばれていた、そのまんまな女がいてね。
 結果的にサイクロイドにバレて、何もしないうちに殺られたが。

 この瓶は【毒蛇】の形見っつうか、遺品だ。

 自分が死んだときは頼むってばかりに、
 下っ端の俺にこいつを俺によこしてきた。

 この毒は、彼女が一人で作ったものだ。
 俺以外にこれを知る奴はいない。


 シャルドンネを、確実に殺せる唯一の毒だ」


革紐に括りつけられた瓶は、親指と同じくらいの大きさしかない。

イロンが、以前アーサに瓶のことを訊いた時も、
彼は大切なものだといったきり、何も言わなかった。

彼女が知っている限り、アーサは肌身離さずそれを持っていた。




「勝てる」



ガゼルが、瓶を睨み付けながら呟いた。





 あとがき


お久しぶりな桜崎紗綾です。

クライマックスが近づいて、アーサ生存。
私には彼を変な役回りに回す癖がついています。
一生消せ無いような気がしないでもない。

えーっと、「心臓が反対側に」ってのは、医学的には本当にありえる話だそうです。

数年前にテレビで見た記憶が、頭の隅っちょに。
でも、本人も気付かないほどなので、日常生活には支障はないそうですよ。

彼の話に出た『毒蛇』と言う女は便宜的に出しただけです。
もしかしたら、他の話のどこかに出てくるかも……?
(↑期待はしないでください)

それでは長くなる前に、このあたりで。
7976
煉獄の聖戦 最終章part1 by 桜崎紗綾 2008/03/17 (Mon) 19:59
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「私は、貴女の事を、


 愛してます」

            英雄の死後、竜鱗のトーテムが贈った言葉


     煉獄の聖戦  終章 黎明、そしてpart1



「最後に一つ、城の抜け道を知ってませんか?」


エシュターが、地図を指差した。
ガゼルが入手した、城の細かい地図である。

「ここと、ここの間にランプがある。
 そこに手を当てて、こう言うんだ。

 『我こそは煉獄の聖戦を制する者なり』」

「そうすると、どうなるの?」

「抜け道の扉ができる」


アーサがどこからか杖を振り上げて説明した。
腕を伸ばすことすら面倒なようだ。

「できるだけ早いうちに行った方がいいぜ。
 あの二人がこの世界から消える、その前に」



「…そうだ」

イロンが剣を見ながら呟いた。






《……と、言うわけで、まだこの時代にいたいみたいですよー》

連絡を受けたフェザーがリクレールに事情を報告した。


《仇討ちはやめて欲しいと言うスケイルの意見にも賛成ですが、
 ワタクシとしてはあの2人を生かしてはいけないという
 クロウの考えも間違ってないと思いますねぇ。

 それに、何より、あのエミルさんですから》

『英雄エミリューレ。

 多くの人に愛された強いひと。
 貴女が死んだなんて、信じられない』


リクレールは、泣いているようだった。
フェザーは黙って彼女の表情から目を背けることしか出来なかった。

エミルは、いつも輝いていた。


多くの人に崇められ、愛された憎めない屈託なき英雄。


彼女をほとんど知らないフェザーですら、
エミルを英雄と呼ぶ。


『良いでしょう。
 サイクロイドとシャルドンネを倒すまでの間、
 5人のシルフェイドでの滞在を許します』

《リクレール様!》

『あの2人を生かしてはならない。

 クロウの考えを尊重します。仇討ちではありません。
 先回りをした上での自己防衛です。スケイルにそう伝えなさい』

《……はい》

フェザーは、一礼して立ち去って行った。



『エミルさん…』
7977
煉獄の聖戦 最終章part2 by 桜崎紗綾 2008/03/17 (Mon) 20:00
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     煉獄の聖戦  終章  黎明、そしてpart2



「そうか。仇討ちに行くか。

 死ぬな。ここで死なれたら、私がエミルに殺されるからな」


新興バーン共和国初代大統領となったセタは、
一行を見送りにだけ行った。


「絶対に、全員生存の状態で帰れ」

「大丈夫ですよ。

 エミルさんのことだから、
 僕らのうち誰かが天に昇りかけたら叩き落してくれる気がします」


エシュターの発言に、誰もが苦笑した。
どうしてもなんとなく頷けるのだ。それがエミルの性格でもある。


「物語のクライマックスは、
 ハッピーエンドで終わらせるもんだろ?」


相変わらず、車椅子に乗っているアーサが言った。

セタすら度肝を抜かせた彼も、
サイクロイドたちを出し抜くために付いて行くつもりだ。

無謀だが、シーナやイロンにとっても同上だろう。

「行こうぜ」

ガゼルが、低い声で呟いた。


「『転移』」






「じゃあ、行くぜ」


アーサが例のランプに手を翳す。
一行が頷いた。


「『我こそは煉獄の聖戦を制する者なり』」


彼が言った瞬間、ランプの左側に、鋼鉄の扉が現れた。


「今の俺の力じゃ、この扉は開けない。誰か開けてくれ」

扉に手を触れた瞬間、アーサが首を横に振った。



アルバートが代表して扉を開く。
決戦にふさわしい重さをした扉だ、と思った。




その先は長い回廊が続いていた。

一見ただ歩いているかのようだが、車椅子に乗るアーサは、
それがわずかに傾いた下り坂であることを感じ取っていた。


「普通坂道なら椅子を逆にするもんだろ。落ちそうになる」

「はいはい」


イロンが溜め息を吐いた。

アーサの、彼女に対する愛情だけは、嘘ではない。
イロンがそれを理解していたかどうかは、わからなかった。





「よく来たわね」


出迎えたのは、【雪嶺】シャルドンネ。


「まさか、ここに来れるとは思わなかったわ」

「全くだ。
 ランプを見つけても、あの合言葉を知る者がいるとはな」


大広間に、【破獄】サイクロイドの声が響く。


玉座の間と同じくらい広かった。
気がついたら、底なしの地下に潜っていたようだ。


「私を舐めないで下さい」


シーナは、彼女らしからぬ言葉を呟いた。


「私はシーナ。解放軍軍師です。

 偶然の産物とは言え、
 最後の私の策に、見事に嵌まってくれましたね」


シーナと、隣にいたエシュターが、同時に脇に退いた。



そこには、いるはずのない、青年が、いた。



「嘘でしょ? 確かに、貴方を刺したはずよ」

「……やれやれ、舐められたものだ」

シャルドンネの言葉に、アーサはニヤリと笑った。

確かに刺されたさ、とばかりに彼は自分の左胸に手を当てる。


「【赤嵐】アーサ持ち前の強運と生命力を、
 見くびらないで欲しいね」

「全くだ」


イロンが、剣を構えてアーサの前に立った。



「も一回殺ろうったって、無理だ。


 ……お前達の茶番は終わりだ」
7978
煉獄の聖戦 最終章part3 by 桜崎紗綾 2008/03/17 (Mon) 20:06
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     煉獄の聖戦  終章 黎明、そしてpart3



「……『衝撃』」


 やや強張ったセトが、フォースをシャルドンネに叩き付ける。


効き目がないわけではないようだ。ただ、わからない。

シャルドンネの氷の剣を『火炎』で消し去ると、
再びフォースを投げ付ける。

シャルドンネはそれを避けると、手のひらに入るサイズの小さなナイフを構えた。


「可愛いわ、貴女。エミリューレとは違った意味で、ね。
 でも、残念だけど、死んでもらおうかしら」


シャルドンネが、微笑みながら、ナイフの投擲をしようとした、


が。



「…嘘でしょ」


何かの糸が、彼女を絡め取っていた。


肩幅の片手剣の刀身が、銀の輝きを見せる。


「…………」


エシュターが、哀しいものを見るような表情で背後に回っていた。


セトは、決定打を撃てそうに見えるからこそ、囮なのだ。
こういうことをするのは、攻撃手段の少ない者がベストだ。


毒薬が、エシュターの剣に塗られていた。

直接斬っても意味はない。

狙っていたのは、彼女の皮膚に直接触れている衣服だった。



「…終わりね」


短い、最期だった。

想像以上に、あっけない。



シャルドンネの美貌はあっという間に紫色へと変貌し、
体にひびが入り、徐々に崩れ落ちて行く。


最終的には、人かどうかも分からなくなっていた。


「終わったよ、シャルドンネ。
 あんたには、ちょうどいい最期だろ」


アーサが、低い声で、【毒蛇】の仇へのアイロニーを呟いた。







曲刀は、アルバートの手にあった。


彼は元々、剣は得意な方ではない。


エミルに『接近戦は雑魚』と呼ばれたほどだ。

今は、飛び道具には向いているかもしれないという、
彼女なりの褒め言葉であると分かるのだが。


剣を上段に構えた。

サイクロイドの首を目掛けて跳び上がると、剣を振りかぶる。


甘いのは分かっている。


たぶん、エミルはこの男を目指していたのだ。


下手な攻撃というのは、数を打っても当たらない。

それは、大勢の竜人兵の剣戟を、
風のように攻撃を避けていたエミルを見ていれば分かる。



『考えろ。考えなきゃ、最強もただの雑魚だ』



いつか、エミルが言った。

裏を返せば、雑魚も考えれば最強になりうるということだ。


だが、今は考えている暇は無い。


アルバートは、サイクロイドの攻撃を避けた。





どうせ俺は「妥当」だよ。



ガゼルはそう思いながら跳び上がった。
彼は素手だ。その方が性に合っている。


今思えば、妥当扱いしたエミルほど的確な判断をした者はいない。

サイクロイドに攻撃できないのは分かっている。
武器の問題がある。


だが、強さでは負けていない気がする。
実力とは違うところで、サイクロイドに勝ってはいないか。


どこかに隙があるはずだ。
今のところ隙は見られないが、隙は誰にだってあるものだ。





「……成功、すればいいですね。貴女の作戦が」


シーナが、イロンの隣で言った。


「アーサが生きてた時点で、相手を出し抜いたようなものだ。

 ――『敵を欺くにはまず味方から』、か。

 確かに兵法の基本だ。

 心臓が右にあるなんて、
 稀な例を持つ奴が身近にいるなんて思えん」

「貴女の発想も、似たようなものです」

「ご尤もだ」

イロンが、溜め息を吐いた。


礼を述べるのは、今することではない。





エシュターとセトが、援護に加わったのがスケイルには見えた。


それはシャルドンネを倒したことを意味する。

エミルの最期に居合わせなかったのが、残念でならない。

彼女には、多くを与えられた。
それなのに、何もできなかった。

忘れない。それしか、スケイルに出来ることは何一つない。


スケイルは両手に盾を構えた。



その盾の裏にある刃こそは、本物の『負の剣』だった。



アルバートが持っているのは、イロンが作った『玩具』である。
7979
煉獄の聖戦 最終章part4 by 桜崎紗綾 2008/03/17 (Mon) 20:12
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     煉獄の聖戦  終章 黎明、そしてpart4



ガゼルが、サイクロイドの剣を叩き落とした。


すかさず、アルバートがそれを拾いあげようとした。

しかし、あと一歩のところでサイクロイドは剣を拾い、
アルバートを突き刺した。


「それで【銀龍】と肩を並べたつもりか、小僧」


「…………ッ!」


破獄は彼を見下ろすと、一度剣を引き抜き、再度刺そうとした。



その瞬間、スケイルがサイクロイドの腕を切り落とす。


《一人に集中しすぎるのは良くないですよ、【破獄】サイクロイド。


 ――エシュターさん、回復を》


「分かってる」



ガゼルがサイクロイドの頬を蹴り飛ばしていた。

隙がないなら作ればいい。それだけのことである。


スケイルが剣をアルバートの足元に置き、両手で盾を構え、
サイクロイドの剣を防ぐ。


セトが『衝撃』のフォースを叩き付け、軌道をそらした。


アルバートが、『負の剣』を拾い上げる。



静かに、サイクロイドの首が、跳ね飛ばされてゆく。







 ―― 静寂。







「エミルと肩を並べたつもりなど、全く無い」





アルバートの声は、静寂を突き破った。









クラートが、医者を育てていた。
セシルは医者を志しているようだった。


メアリーが、バーンの将軍に上り詰めた。
ただ、その意味があるかは分からない。


全て、初代大統領セタが決めた人事だ。


サリムは大統領の地位を拒否した。
静かで、幸せな晩年を望むのは人として仕方がないことかもしれない。


シンとシズナは、世界を立て直すのに必死で働いている。


イロンは父親と二人で剣以外の武器を製造するのに忙しいようだ。


回復したらエミルの伝説を永遠に語り継ぎたい、

とアーサが夢を語っていた。



国の復興を急ぐと同時に、
新しい国としての編成が急速に始まっていた。

落ち着くのはすぐではないだろうが、
セタが治める限り、国は安定していられるだろう。



一行はセタたちに別れを告げると、

『始まりの森』に向かった。




それから数百年の後に世界はまた戦乱に揺るがされるが、


 それはまた、別の物語である――
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煉獄の聖戦 エピローグ前編 by 桜崎紗綾 2008/03/17 (Mon) 20:14
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英雄エミリューレは、多くの謎を残しながら世を去った。

だが、その姿を、私たちは忘れてはならない。


なぜなら、彼女は世界で唯一にして絶対の英雄なのだから。


       『英雄エミリューレ・ヴァレリア』より抜粋


     煉獄の聖戦

       エピローグ 銀龍エミリューレ・ヴァレリア



『皆さんがこの国でしてきた全てに、感謝します。

 クロウ、スケイル、あなたたちがいたからこそです』


《我もガゼルと言う優秀にして妥当な主を持てて、本当によかった》

クロウが言い放ったのは、決して皮肉ではない。
不器用といえば不器用な、彼なりの褒め言葉である。


《エミル様は私がいないときに亡くなられてしまいました。

 ですが、あのような方の隣にいることが出来て、
 ……本当に本当に、幸せでした》

スケイルは、久しぶりに龍の姿に戻っていた。


『本当に、あなたたちの力は役に立ちました』


リクレールは、優しく微笑んだ。

それを見て、アルバートが、ゆっくりと前に出る。


「女神リクレール。死んだエミルの伝言だ。

 『もう、物事を頼んでくれるな』と」


『ふふ、彼女らしい』

「俺も、こんな大仕事は真っ平だな」

『そうですね。私も、誰かに頼むのはもう真っ平です』


リクレールはしばらく笑うと、杖を振りかざした。


『この世界に、未練がなければ、お帰ししますが?』


「ああ。頼む」

アルバートは、振り返って周りの反応を確かめると、頷いた。



「待ってくれ!」


アーサの声がした。

イロンに腕を借りながら歩いて現れた。


「結局、俺には組織なんか向いてないんだ。

 これからはイロンとのんびりするよ」

彼は息もとぎれとぎれに、静かに告げた。


「……ありがとう」


イロンが、滅多に見せない笑顔を見せた。


『もう、いいですか?』

一行が、そろって頷いた。


《我とはお別れだな、ガゼル》

「おう。クロウも元気でな。短い間だったけど、楽しかったぜ」

《では、お元気で、皆さん》



スケイルが言った瞬間、




視界が、




反転した。





一行は、ノーマ学院の食堂にいた。


いつもどおりの昼休みの光景で、
喋りながら思い思いの食事を取っている生徒で埋め尽くされている。

食堂の女性があの来訪者に大量の牛乳を渡したことを、
覚えているかはわからない。

この光景が変わっていないと言うことは、

彼らが本当に世界を守り抜いたことを意味している。




「…戻って来たね。何も変わらない」


シーナが呟く。



十数本の牛乳瓶が、目の前のテーブルに並べられていた。



                 to be continued...
7981
煉獄の聖戦 エピローグ後編 by 桜崎紗綾 2008/03/17 (Mon) 20:21
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――数日後。



「ガゼルにセトか、珍しい」


図書室に現れたアルバートが見たのは、
二人がそろって何か書き物をしている光景だった。

セトが図書室にいるのはそう珍しくないが、ガゼルは少し珍しい。


「アルバートも、珍しいじゃないか」

「それもそうだな。二人そろって何してるんだ?」


話によると、二人はそれぞれの視点で英雄伝説を書き残しているようだ。


「アルバートさんは何しに来たんですか?」

「奇遇だな。…同じことをしに来た」


アルバートは苦笑してしまった。

考えることが同じだろうとは思っていたが、
同じ場所でそれを実行するつもりだったとは。


「人間は、書き残さないとどんなことでも忘れてしまう生き物だ。

 俺の方があの女や他の連中とは交流が長いぞ。
 俺が書くモノが一番詳しいだろうな」


「何言ってるんですか。
 私、初戦は一緒に単独行動して暴れたんですよ」


セトはどうやら、初戦を切り抜いたときのことを事細かに記しているようだ。


「そんなこと言ったら俺は一緒に兵士と鬼ごっこしたし、
 『親父』と凄ぇ仲良くなったんだぜ」


ガゼルの場合、誰よりも危険なことをしてきた。
ある意味ではかなり多くの武勇伝を残しているのだ。


「……低レベルな争いだな。
 俺は、あの女に何度殺されかけたことか」


アルバートが低く言い放つと、セトとガゼルが物凄い目で睨み付けてきた。

彼はそれを見ると、はぁ、と溜め息をつく。


「図書室では静かにしてろ。

 言い争うためにここに来たわけじゃないだろう」







その、二日ほど後の夕方頃。



エシュターが店番していた本屋で、シーナが立ち読みしている。


「お会計、お願いできる?」


シーナが渡した本の値段を覗き込む。

「…97シルバね」

「はい」

「えっと、ちょうどだね。はい、どうぞ。



 ――ねえシーナ」


「え、何?」


「僕も、その本、ちょっと興味あるな。
 読み終わった後でいいから、貸してくれる?」


「うん。じゃあ、できるだけ早く読むね」


シーナは一礼して、本屋を出て行った。



英雄よりも早く死ぬときが来るかもしれない。
それが人と言うもので、その運命には抗いようも無い。


だが、全ての人がそうであるように、
英雄の存在は、既に風化してしまっている。


だからこそ、シーナは自分の命ある限り、
英雄を覚えておきたかった。


表紙に乗っているのは、髪の短い小柄な少女の姿。

笑えば可愛らしく見えるその表情は硬く、前を見据えている。

その手には、英雄の聖剣が輝いてた。


タイトル欄には、


『英雄エミリューレ・ヴァレリア』

と、薄れかかったインクで書かれてある。




作者の名前は薄れていてシーナには分からなかった。


だが、誰でもいい。

こうして、アルバートがいて、エシュターがいて、
セトがいて、ガゼルがいて、シーナがいて、


エミルがいた。


その証が、ここにあるだけでも、充分だった。



「銀龍エミリューレ・ヴァレリア――


 待っててください。私、いつか逢いに行きますから」


シーナの呟きは、果てしなく遠い、悠久の空に響いて、消えた。










            *『煉獄の聖戦』 The END*



  あとがき

色々な意味で迷惑な話だったなぁ。

などと思いながらこんにちは、桜崎紗綾です。


終わったのはいいけど、タイトルの由来が意味不明です。
余り気にしないでください。「決まらなかったんだ」ってことで。

とりあえず、『煉獄の聖戦』はここで終わりです。長かった。
次の話のネタを練ったり練らなかったりしてますが、
どうせどうしようもない主人公が出て来るんだと思います。



最後になりますが、
このような幼稚な文章で書かれたわけの分からない話に、
ここまで目を通してくださった方、

あらゆる意味で本当に尊敬します。

心からの感謝を込めて、この辺りで失礼します。
7751
感想 by LADEN 2007/05/26 (Sat) 14:23
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うほっ、新作!ということで早速読ませていただきました。

やっぱり文章が上手いです。
主人公の性格や特徴が良く伝わってきます。
『はじめに』を読んで、良い状態で世界を救っているのを見て、
とても強い主人公なのだろうなーっと思ってはいましたが、
序章でいきなり男五人を叩きのめすとは…
最近の女の子って怖いね!(ぇ

ところで、質問なのですが…オリキャラの名前はどのように考えてますか!?
自分は名前を考えるのが得意ではないので
もしよろしければこれからの作品の参考にさせていただきたいと思っていまして…

>見聞録キャラがガゼルって、微妙ですかね?

ん〜、自分は結構良いと思いますよ。
ガゼルはこれからの設定次第で良いキャラになったり、
ボケキャラになったり…と、使い勝手(?)が良いので。

変な感想になりましたが、
これからも応援しています。がんばってください。

ではこれで…
7753
感謝様様です by 桜崎紗綾 2007/05/27 (Sun) 20:28
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>うほっ、新作!ということで早速読ませていただきました。

LADENさんお久しぶりですー!桜崎紗綾です。
>
>やっぱり文章が上手いです。
>主人公の性格や特徴が良く伝わってきます。

私に使うほめ言葉じゃないですよ、それは!
でもありがとうございます!お世辞でも飛んで喜んでます。

>『はじめに』を読んで、良い状態で世界を救っているのを見て、
>とても強い主人公なのだろうなーっと思ってはいましたが、
>序章でいきなり男五人を叩きのめすとは…
>最近の女の子って怖いね!(ぇ

確かに最近の女の子は怖くて、強いですよね…。
スケイルがトーテムだとは信じたくないのが正直なところですが。

>
>ところで、質問なのですが…オリキャラの名前はどのように考えてますか!?
>自分は名前を考えるのが得意ではないので
>もしよろしければこれからの作品の参考にさせていただきたいと思っていまして…

私の場合はとても単純な人間なので…
 1、直感に頼る (←エミルの場合はこれです)
 2、英和辞典をペラペラめくって響きのいい単語か名前を探す
   (↑私の辞書にはアルバートがいました)
 3、世界史や神話から引っ張る (←一番めんどくさいですが)
この3つの方法で丸く収まってしまうんです(ぇ)
参考にならなかったかもしれません…すみません。

>
>>見聞録キャラがガゼルって、微妙ですかね?
>
>ん〜、自分は結構良いと思いますよ。
>ガゼルはこれからの設定次第で良いキャラになったり、
>ボケキャラになったり…と、使い勝手(?)が良いので。

あぁよかった。普通ならアルバートかエシュターに会わせますから…。
ガゼルは確かに使い勝手(?)が良いですよねー(苦笑)

>
>変な感想になりましたが、
>これからも応援しています。がんばってください。
>
>ではこれで…

感想ありがとうございましたー!
7752
感想っ by カラス 2007/05/26 (Sat) 15:04
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どうも、カラスです。
早速感想を……

新作ですね〜。
そして出ました股間蹴り!
強い女の子は股間蹴りの傾向があるようです(違
うちの女主も一話で股間蹴りを達成しましたので親近感がわいています。
これからの活躍に期待です。
ではではここらで。
カラスでしたー。
7754
感謝っ by 桜崎紗綾 2007/05/27 (Sun) 20:33
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>どうも、カラスです。
>早速感想を……

こんにちは桜崎紗綾です。感想ありがとうございます。

>
>新作ですね〜。
>そして出ました股間蹴り!
>強い女の子は股間蹴りの傾向があるようです(違
>うちの女主も一話で股間蹴りを達成しましたので親近感がわいています。

女の子にしか出来ない体術の奥義のようなものですかねぇ〜
親近感!? うーん確かにうちも序章でやってしまいましたし。
しかも一人目を相手にかましちゃいましたよ。
最近の女の子は敵に回しちゃいけませんよね(え)

>これからの活躍に期待です。
>ではではここらで。
>カラスでしたー。
>

感想ありがとうございましたー!
7767
感想です by 冬馬 2007/06/10 (Sun) 21:49
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冬馬と申します。

読ませて頂きましたが・・・、主人公エミルのキャラの感じ、結構好きですね。良い奴なんだけどどこか不器用な感じというの、僕はなかなか書ける方ではないので^^;。
あと、全体に文章の書き方なんかもいいのか、すごく読みやすいです。
これからシル見キャラとシル幻キャラとが、どういう感じで絡んでくるのか、結構楽しみです。続きの方、楽しみにしております。

それではまた・・・。
7776
感謝です by 桜崎紗綾 2007/06/16 (Sat) 21:26
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>冬馬と申します。

はじめまして冬馬さん、桜崎紗綾です。
いろいろあって凄く遅くなってしまってごめんなさい。
>
>読ませて頂きましたが・・・、主人公エミルのキャラの感じ、結構好きですね。良い奴なんだけどどこか不器用な感じというの、僕はなかなか書ける方ではないので^^;。

エミルのキャラを気に入っていただけて嬉しいです。
私も正直不器用な人を書くのは苦手なほうなので、
このキャラがいつまで維持できるかは心配ですが…。

>あと、全体に文章の書き方なんかもいいのか、すごく読みやすいです。
>これからシル見キャラとシル幻キャラとが、どういう感じで絡んでくるのか、結構楽しみです。続きの方、楽しみにしております。
>

ありがとうございます。
楽しみにしていただけるなんて恐縮です。

>それではまた・・・。
>
感想ありがとうございましたー!
7810
感想ですー by 風柳 2007/07/23 (Mon) 23:09
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どうも初めまして。
ちょっと前からこちらでぐだぐだやってる風柳と申します。
もっと前は別名で活動してましたが、それはまぁいいとして。

さて、煉獄の聖戦、第一章の方読ませていただきました。
セリフ回しが上手ですね。
自然で、無駄が無い印象を受けました。
自然さを出すために無駄が入りまくってる自分とは大違いです(苦笑)

それにしても、エミルさん口悪いですねぇ(笑)
エミル語録のこれからにも期待してます。
今のところは、ガゼルを評して『思考回路が妥当な奴』と言い切った一言が一番のお気に入りです。

ではでは。
7812
感謝ですー by 桜崎紗綾 2007/07/24 (Tue) 12:59
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>どうも初めまして。
>ちょっと前からこちらでぐだぐだやってる風柳と申します。
>もっと前は別名で活動してましたが、それはまぁいいとして。
>
はじめまして、風柳さん。桜崎紗綾と申します。
別名ですか…? うーん、気になるけどあえて言及しない方針で。

>さて、煉獄の聖戦、第一章の方読ませていただきました。
>セリフ回しが上手ですね。

ほ、褒めてもらえるなんて……!
ありがとうございます! 恐縮です。

>自然で、無駄が無い印象を受けました。
>自然さを出すために無駄が入りまくってる自分とは大違いです(苦笑)

いやいやいや、そんなことはないですよ。
私の文章もかなりむちゃくちゃで、長くなりすぎちゃって……。

>
>それにしても、エミルさん口悪いですねぇ(笑)
>エミル語録のこれからにも期待してます。
>今のところは、ガゼルを評して『思考回路が妥当な奴』と言い切った一言が一番のお気に入りです。

口が悪い勇者ってのも滅多にないですよねぇ。
ガゼルを評した台詞を気に入っていただけて光栄です。

>
>ではでは。

感想ありがとうございましたー!
7872
感想 by LADEN 2007/09/22 (Sat) 21:14
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お久しぶりです。LADENです。

なかなかテキストを見る機会が無く、今回第三章のpart.2まで
一気に読ませて頂きました。

やはり文章が巧く、エミル達のキャラクターの設定が一つ一つがよくわかります。
桜崎紗綾さんの作品を読んで自分も見習いたいところが幾つもあり、勉強になりました。

ストーリーも自分の想像していなかった展開で、非常に面白いです。
エミル達はローム帝国にどのように立ち向かうのか、
そしてトーテムを与えていないシーナはどのような力があるのか。
これからの彼女達の活躍に期待しております。

それでは、失礼します。
次回を楽しみに待っています。
7873
感謝 by 桜崎紗綾 2007/09/22 (Sat) 21:57
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こんにちは、LADENさん、桜崎紗綾です。

>お久しぶりです。LADENです。

はい、お久しぶりです。

>
>なかなかテキストを見る機会が無く、今回第三章のpart.2まで
>一気に読ませて頂きました。

実はこの話は一気に読んだほうがわかりやすそうですよね(今更)
私の更新もそれはそれはもう遅いほうなので、まだ第三章ですよ…

>
>やはり文章が巧く、エミル達のキャラクターの設定が一つ一つがよくわかります。
>桜崎紗綾さんの作品を読んで自分も見習いたいところが幾つもあり、勉強になりました。

私などの文章を巧いと思っていただけるとは、本当に嬉しいです。
見習いたいなんて、お世辞でも感激しました。

>
>ストーリーも自分の想像していなかった展開で、非常に面白いです。
>エミル達はローム帝国にどのように立ち向かうのか、
>そしてトーテムを与えていないシーナはどのような力があるのか。
>これからの彼女達の活躍に期待しております。

単に私自身が王道よりは異色派なので、それがこの話に強く影響しているようです。天の邪鬼って奴でしょうか?
立ち向かい方は…そうですね、エミル達の性格がよく出る戦いになりそうな感じがします。
シーナについては、この話に出ているキャラの中でもある意味でトップクラスの重要な力?の予定です。

>
>それでは、失礼します。
>次回を楽しみに待っています。

感想、ありがとうございました。
頑張って続きを書くのでこれからもよろしくお願いします。
7879
感想ですー by 風柳 2007/10/04 (Thu) 00:36
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おおよそ二か月振りになりますかね。
どうもお久しぶりです風柳です。
『煉獄の聖戦』の最新話、読ませていただきました。

相変わらず台詞回しに光るものがありますね。
読んでいて頬が綻ぶシーンもちらちらとありました。

ただ、僭越ながら一言だけアドバイスをさせていただくなら、地の文ももうちょっと大切にした方がいいかなー・・・と思わなくもないです。
これまでの話は上手く書かれていたのですが、最新話に何箇所か気になるところがありましたので。
文化祭で疲れてたのかな?(笑)
一話書き終わった後にもう一度最初から、情景を頭に浮かべながら読み返してみるだけでも結構変わってくると思いますよ。

最近出てきたキャラクターではイロンがちょっと気になる感じでしょうか。
ガランの娘という設定がなんか新鮮な感じがしますね。
しかもアーサの彼女(笑)
私的にはアーサって行く先々で女の子にちょっかい出してそうなイメージがあるため所帯持ち(違)はやっぱり真新しく映りますね。

・・・っていうか、原作キャラよりもオリキャラに弱い私って一体どうなんだろう。

続きも楽しみにしていますね。
ではでは。
7880
感謝ですー by 桜崎紗綾 2007/10/05 (Fri) 21:37
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>おおよそ二か月振りになりますかね。
>どうもお久しぶりです風柳です。
>『煉獄の聖戦』の最新話、読ませていただきました。

お久しぶりです、風柳さん、桜崎紗綾です。
『煉獄の聖戦』を呼んでくださってありがとうございます。

>相変わらず台詞回しに光るものがありますね。
>読んでいて頬が綻ぶシーンもちらちらとありました。
>
>ただ、僭越ながら一言だけアドバイスをさせていただくなら、地の文ももうちょっと大切にした方がいいかなー・・・と思わなくもないです。
>これまでの話は上手く書かれていたのですが、最新話に何箇所か気になるところがありましたので。
>文化祭で疲れてたのかな?(笑)
>一話書き終わった後にもう一度最初から、情景を頭に浮かべながら読み返してみるだけでも結構変わってくると思いますよ。

確かにその通りかもしれません。
文化祭は何故か、かなり疲れましたから(そういう問題か)
私は漫画のように展開を考えているので、ちょっと油断すると台詞ばっかりになってしまう癖があるんですよね…

アドバイスありがとございます。
情景を浮かべながら読み返すのか…! 参考になりました!

>最近出てきたキャラクターではイロンがちょっと気になる感じでしょうか。
>ガランの娘という設定がなんか新鮮な感じがしますね。
>しかもアーサの彼女(笑)
>私的にはアーサって行く先々で女の子にちょっかい出してそうなイメージがあるため所帯持ち(違)はやっぱり真新しく映りますね。

その前にガランに奥さんがいたのか…という突っ込みは無視する方向でお願いします。

確かにアーサは女の子好きっぽそうな感じがしますよね。
イロンは本来アーサの姉か妹って設定だったんですが、
私自身にも意外性を求めてみた結果(笑)彼女になっちゃいました。

>・・・っていうか、原作キャラよりもオリキャラに弱い私って一体どうなんだろう。

私のオリキャラを気に入ってくださるのは、純粋に嬉しいですよ。
原作キャラに埋もれないように個性を強くしていますし。

>続きも楽しみにしていますね。
>ではでは。

感想ありがとうございました。
それでは失礼します。
7921
感想です by 風柳 2007/11/11 (Sun) 11:24
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どうも、またまたお久しぶりです風柳です。
第五章part5まで読ませていただきました。

いやー、戦争ですねぇ・・・。
こういう策謀渦巻く(ところまではまだいってないみたいですが(笑)戦闘シーンはここでは中々珍しいですね。
これはこれで面白いなぁ。
今後もシーナの策略に期待しています。

そしてセトも中々のもので。
初陣で本陣突撃うわーって感じです。
おまけに容赦なく理力ぶっ放してるし『増幅』『衝撃』っていきなり鬼だ。

見聞録キャラも各々が各々の役割を獲得してきたようで。
これからの彼らの働きを楽しみにしています。

ではでは、乱文失礼しました。
7923
感謝です by 桜崎紗綾 2007/11/11 (Sun) 20:44
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>どうも、またまたお久しぶりです風柳です。
>第五章part5まで読ませていただきました。
>
こんにちはー、お久しぶりです風柳さん。
長ったらしい第五章を読んでいただきありがとうございます。

>いやー、戦争ですねぇ・・・。
>こういう策謀渦巻く(ところまではまだいってないみたいですが(笑)戦闘シーンはここでは中々珍しいですね。
>これはこれで面白いなぁ。
>今後もシーナの策略に期待しています。
>
気に入っていただけたようで嬉しい限りです。
シーナの配置だけは見事にあっさり決まったんで、
彼女の立場を不動のものにしなきゃですよね。

>そしてセトも中々のもので。
>初陣で本陣突撃うわーって感じです。
>おまけに容赦なく理力ぶっ放してるし『増幅』『衝撃』っていきなり鬼だ。
>
実は原作内で『衝撃』を購入したことがない作者がここにいます(苦笑)
セトは意外と容赦しないタイプに見えるので、鬼にしちゃいました。

>見聞録キャラも各々が各々の役割を獲得してきたようで。
>これからの彼らの働きを楽しみにしています。
>
見聞録キャラの個性だけで十分に役割を考えることが出来ました。
彼らの活躍に当たっては私自身も期待しているんです。

>ではでは、乱文失礼しました。

感想ありがとうございました!
7982
途中感想 by カラス 2008/03/31 (Mon) 19:08
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どうもカラスです。
今更ながらですが、三章途中まで拝読しましたので感想を書きたいと思います。


戦争ものですね〜。
大好きなジャンルの一つです。
エミルたちがどのようにクーデターを起こしていくのか楽しみです。

まだまだ続きがあるので、キリの良い所まで読んだらまた感想を投下しますね。
ではではカラスでした〜
7983
感謝です by 桜崎紗綾 2008/04/04 (Fri) 21:29
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>どうもカラスです。
>今更ながらですが、三章途中まで拝読しましたので感想を書きたいと思います。

こんにちはカラスさん、桜崎紗綾です。
お返しするのが遅くて申し訳ありませんでした。

>戦争ものですね〜。
>大好きなジャンルの一つです。
>エミルたちがどのようにクーデターを起こしていくのか楽しみです。

いろんなものに影響を受けてましたからねぇ。
三章といえばエミルたちの戦いはまだ始まったばかりな感じでしたっけ。

>まだまだ続きがあるので、キリの良い所まで読んだらまた感想を投下しますね。
>ではではカラスでした〜

感想ありがとうございました!
7984
お疲れ様でした! by 風柳 2008/04/07 (Mon) 14:08
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忘れたころにやってくる。どうも風柳です。

煉獄の聖戦、執筆お疲れ様でした!
最初から最後まで本当に楽しませていただきました。

革命と戦争、という壮大なテーマを流れるようなスピードで書きあげた疾走感はとても心地よかったです。
それでいて終盤はエミル自身の過去も絡み、十分に深みのある物語にもなったと思います。
『アーク』の二人(特にシャルドンネ)にはシルフェイド世界でももう少し見せ場があってもいいんじゃないかなと思いましたが、代わりに手に入れた疾走感で十分にお腹いっぱいになりました。

文章も回を重ねるごとに本当に上手になって言って、最後の方は思わずのめりこんでしまう勢いがありました。
この調子でどんどん成長して私に素敵な文章を拝ませてくださいなっ。

最後に一言・・・エミル、お休みなさい。

次回作も楽しみにしています!
ではではー。
7986
ありがとうございます! by 桜崎紗綾 2008/04/08 (Tue) 17:13
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>忘れたころにやってくる。どうも風柳です。

忘れてなんかいないです。どうも桜崎です。

>煉獄の聖戦、執筆お疲れ様でした!
>最初から最後まで本当に楽しませていただきました。

少しでも気に入っていただけたなら幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。

>革命と戦争、という壮大なテーマを流れるようなスピードで書きあげた疾走感はとても心地よかったです。
>それでいて終盤はエミル自身の過去も絡み、十分に深みのある物語にもなったと思います。
>『アーク』の二人(特にシャルドンネ)にはシルフェイド世界でももう少し見せ場があってもいいんじゃないかなと思いましたが、代わりに手に入れた疾走感で十分にお腹いっぱいになりました。

革命と戦争の割には展開が速すぎるかと思いましたが、
それをお気に召してもらいえたのなら私も非常に嬉しいです。
『アーク』の二人に出番を作ってあげられなかったのは個人的にも残念ですが、それなりの存在感は出せてただろうなーとは思います。

>文章も回を重ねるごとに本当に上手になって言って、最後の方は思わずのめりこんでしまう勢いがありました。
>この調子でどんどん成長して私に素敵な文章を拝ませてくださいなっ。

そこまで言っていただけるとは、恐縮と言うか光栄と言うか…
ですがそういってくださるのなら、こちらとしてもとても励みになれて非常に嬉しいです。

>最後に一言・・・エミル、お休みなさい。
>
>次回作も楽しみにしています!
>ではではー。

次回作…いつになるか分かりませんが頑張ってみます。

ともかく感想ありがとうございました!
p.ink