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シルフェイド異聞録 <瀬田幸人> 11/11 (17:49) 7999
  シルフェイド異聞録 選ばれた運命 <瀬田幸人> 11/16 (17:00) 8001
  シルフェイド異聞録  差し出された手の先... <瀬田幸人> 11/20 (13:08) 8005
  シルフェイド異聞録  金色の獅子と女神の... <瀬田幸人> 01/20 (15:56) 8035
  シルフェイド異聞録  軋み始めた世界 <瀬田幸人> 04/21 (17:28) 8090
  シルフェイド異聞録  モノガタリの裏側 <瀬田幸人> 04/30 (15:08) 8097
  感想 <鳩羽音路> 11/14 (17:29) 8000
  感想ありがとうございます <瀬田幸人> 11/16 (17:13) 8003
  感想 <鳩羽音路> 11/16 (18:45) 8004
  感想ありがとうございます <瀬田幸人> 11/20 (13:24) 8006
  Re1:感想arigatougozaimasu <瀬田幸人> 11/16 (17:02) 8002
  今さらですが感想です <もげ> 12/20 (20:41) 8019
  Re1:感想ありがとうございます。瀬田です。 <瀬田幸人> 01/20 (16:08) 8036
  感想2 <もげ> 03/18 (12:21) 8048
  感想3 <鳩羽 音路> 03/19 (13:29) 8052
  感謝です。 <瀬田幸人> 04/21 (17:41) 8091

8001
シルフェイド異聞録 選ばれた運命 by 瀬田幸人 2008/11/16 (Sun) 17:00
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第二条

 ポゥ、とその場に輝きが生まれた。

「――ご苦労様でした。首尾はどうでしたか?」
 突然現れたその光の球に動じる風もなく、少女はそうねぎらいの言葉をかけた。
 造り主の意に応えて、光の球は集めてきた情報を彼女に開示する。
「…そうですか」
 それを受けて、少女は重い重いため息をついた。
 腰ほどまである白銀の髪に、海を思わせる深蒼の眸。外見だけなら常人となんら変わらぬその容姿を異質なものにしているのは、その額から突き出た純白の角と、人には深すぎる叡智を湛えた双眸。
 十代半ばに見えるその少女の表情には、年相応の幼さはない。長い年月を経た老人のような、達観と重苦しさの入り混じった沈痛な表情だった。
「状況は、思った以上に悪化している…約束された世界の崩壊が近づいている。あの時ほど差し迫ってはいませんが、危険度ならばあの時をも凌ぐでしょう。その上わたし達に打てる手は限られている…」
 少女の呟きに応じてか、光の球がちかちかと瞬いた。
「…そうですね、深刻な時に深刻な顔をしているだけではなんにもなりません、よね…」
 弱弱しい笑みを浮かべて、光の球の励まし(?)に応じる。
 ――地上に遣わしていた精霊たちからの報告はことごとくが否定的なものだった。この状況で能天気に笑えるような人格の持ち主なら、それはそれで問題なのだろうが。
「……もう、手段を選ぶ余裕は、ありません」
 瞑目し、表情から弱々しさを消し去って、毅然と告げる。

「――異界より『運命の転換者』を招聘します」

 それは『神』のみが行える禁忌の法。世界の理に反した異物を招きいれ、世界の在るべき姿を侵す、赦されぬ大罪。この世界では彼女のみが行えるだろう秘術。
 彼女の名はリクレール。この世界においてもっとも永い時を生きてきた存在であり、全ての精霊を統べる一角獣の加護を受けし異形の女神。
「…はじめましょう」
 両の瞼を閉じ、精神を《集中》する。
 極限まで高められた精神力と与えられた異能だけが拓くことのできる、『その場所』への扉。全ての運命が生まれ還って行く場所。世界の理の外に在る、すべての理が生まれる場所。
 瞼の裏で光が爆発し、自分の『意識』がその場所に再構成される――。

――『接続』完了。

 暗く、どこまでも広がる、まるで子宮の中にいるかのような、あたたかさを持った闇。身を浸せば執着も意志も全て溶かされて、そのまま真っ白になっていきそうなほどの深さを持った場所。
 ある者が混沌と呼び、またある者が根源の渦と名づけ、そして自分が意識の海と呼んでいる場所。
(……またこの場所に来ることになるとは思いませんでしたね…)
 正確に言うなら、もうこの場所には来たくなかった。
(…ぐちっても仕方ありません。急がないと…)
 自分の力をもってしても、ここにあまり長居はできない。早く、条件を飲んでくれる『意識』を見つけなければ。そのためには、できるだけ《海》の表層近くで『意識』を見つける必要があった。深層にもぐってしまった意識には肉体への執着どころか自意識さえ曖昧なため、新しい無垢な命を作る場合はともかく、今の自分の目的には合わないのだ。
 自分の『眼』を、周囲に向ける。方向感覚などなにもないここでも、リクレールは周囲にある『意識』を感じ取る事ができた。
(…見つけた)
 おそらくは異物である自分に触発されて寄ってきたのだろう、いまだに『形』をとどめている『意識』を近くに見つけた。
 この意識の海では、形をどれだけ保っているかがその『意識』の自我の強さを測る指標になる。これだけの強さを保っているなら、交渉できるだろう。 

 そう考えて、その漂う『意識』に手を伸ばして、呼びかける、

 意識の海に漂う、そこのあなた………

(――――!!?)

 その瞬間、

『          ット  ――  生   ―― タ  ―― 』

 ビリビリと、叩きつけるように、荒れ狂うように、凄まじい『意思』が自分の意識を殴りつけた。

『――……ット…・・・生キタイ……モ・・・ット――』

(…な――、こ、これは――!?)

 触れ合ったその場所から伝わってくる、強い渇望。意志というほどに明確な形も持たない、確かな言葉にもできない、なのにこんなにも強い原初の叫び。誰に向けたわけでもない叫び、向ける誰かさえもいないこの場所で、女神である自分さえこんなにも揺さぶる激烈な力。

 『     生 キ ― ― タ イ 、モッ  ト   ――  』

(…この、子…)
 実体を持つ自分はともかく、《意識の海》では肉体も何もあったものではない。だからここから誰かを引き揚げる時は、まず性別から聞かねばならないほどだというのに――どうしてかリクレ−ルには、この『意識』が、小さな子供のものだとわかった。

 たった独りで、この暗い昏い闇の中、助けを呼べる名前さえも知らずに、泣いている、子供のような――。

 …生きたいですか…?
 ――気がつけば、そう呼びかけていた。
 …生きていても、楽しいことなんてないかもしれません。辛いこと、苦しいこと、泣きたくなること、涙さえ出ないことが、沢山あるでしょう。楽しくても、幸せでも、それらは時間と共に移ろっていく。そしていつかは永い眠りにつかなければなりません。それでも、生きたいですか…?
 触れた『意識』が、驚きに身を強張らせたのが伝わった。
 構わずに、何かに急かされるように、『言葉』を紡ぐ。
 …このまま、苦しいことも辛いこともなく、眠ってしまってもいいんですよ?輪廻の輪が、理に従って、あなたに新たな生命の息吹を吹き込むその時までの、穏やかな眠りに。それでも、理に反してでも、生きたいと願いますか?
 触れた『意識』から驚きが消えて。

『…?おねえちゃんも、悲しい事があったの…?』

 そう伝わった『言葉』に、今度こそ、驚愕で身体が動かなくなった。
(な……)
 ――悲しい…?
『おねえちゃんの言ってること、よくわかんないけど…痛いって、つらいって、つたわるよ。どうして?ぼくが生きたいって、おもうのは、「我儘」だから…?』
 ち――違います!!あなたが何かを恥じる必要なんてありません!!恥ずべきは、わたしの、方です…
『……?』
 …も、もしあなたが望むなら、わたしはあなたに新しい身体を与える事ができます。交わされる言葉を知る力と、わたしの創り出したトーテムをその身に宿すことで、普通の人たちとは比べ物にならない力を身に付けることができるでしょう。――でもその身体は理に反したもの。それでも、生きたいと欲しますか?

『…うん、生きたい。そうしたら、身体、くれるんだよね?』
 …え、ええ。――では、あなたの名前を教えてください。
 そう聞くと、思ってもみなかったことを聞かれたように、『沈黙』の気配が返ってくる。そして、
『…バケモノ。クズ。まざりもの。被験体0771。できそこない――』

 途切れずに続く単語の群れに、絶句する。
 それを『自分の名前』だと思わされるような。
 そんな場所で、この子は育ってきたのか。
 そしてそんな場所で、この子は、死んだのか――?

 も――もういいです!!それは名前ではありません!! 
 たまらずに遮った。
『………』
 さっきとは違う、沈鬱そうな沈黙の気配。
 …あなたには名前がないのですね。では、わたしがあなたに名前をつけましょう。
 しばし思考する。なにがいいだろうか。五百年前はネーミングセンスがないとかクロウ達に散々叩かれたから、この子供に思いついた名前をぱぱっと付けるのは躊躇われた。
 ふと、記憶の底にふさわしい単語を見つけた。
(…そうです。これならどうでしょうか)
 …あなたの名前は――アーク。これで、いいですか?
『…?それ、ぼくの、名前?』
 ええ。あなたの、あなただけの、名前です。
『――ぼくだけの、名前……』
 もう一度だけ、聞きます。あなたは、理に反した命を、欲しますか?
『…ぼくは――』


『――生きたい!!』
 

 溢れた『意志』が、形を成して、新たなる運命を形作る。
 それは理の外より生まれた運命。それゆえに、不条理という世界の理を断ち切りうる可能性の一つ。
 心を亡くした少年は、生きたいと望んだ。
 差し伸べられた手を取り、安息の眠りより目覚めて。
 そしてその時から、語られぬ英雄の物話が動き始める――
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