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シルフェイド異聞録 <瀬田幸人> 11/11 (17:49) 7999
  シルフェイド異聞録 選ばれた運命 <瀬田幸人> 11/16 (17:00) 8001
  シルフェイド異聞録  差し出された手の先... <瀬田幸人> 11/20 (13:08) 8005
  シルフェイド異聞録  金色の獅子と女神の... <瀬田幸人> 01/20 (15:56) 8035
  シルフェイド異聞録  軋み始めた世界 <瀬田幸人> 04/21 (17:28) 8090
  シルフェイド異聞録  モノガタリの裏側 <瀬田幸人> 04/30 (15:08) 8097
  感想 <鳩羽音路> 11/14 (17:29) 8000
  感想ありがとうございます <瀬田幸人> 11/16 (17:13) 8003
  感想 <鳩羽音路> 11/16 (18:45) 8004
  感想ありがとうございます <瀬田幸人> 11/20 (13:24) 8006
  Re1:感想arigatougozaimasu <瀬田幸人> 11/16 (17:02) 8002
  今さらですが感想です <もげ> 12/20 (20:41) 8019
  Re1:感想ありがとうございます。瀬田です。 <瀬田幸人> 01/20 (16:08) 8036
  感想2 <もげ> 03/18 (12:21) 8048
  感想3 <鳩羽 音路> 03/19 (13:29) 8052
  感謝です。 <瀬田幸人> 04/21 (17:41) 8091

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シルフェイド異聞録  モノガタリの裏側 by 瀬田幸人 2009/04/30 (Thu) 15:08
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 第六章 モノガタリの裏側

 それは、いつか交わされた会話。

                                  ◆

 ぱちぱちと焚き火のはぜる音を聞きながら、寝転がって空を見上げる。この世界に来た最初の日に見た、あの溢れんばかりに輝いていた星々の光は、雲が出ているためか今は見えなかった。そのことを、少しだけ残念に思う。
 
 ――今日が最後の夜になるのに。

「――■■■■さん」
 呼びかける声に、身を起こす。柔らかな光を宿した紅玉の眸が、静かにこちらを見つめていた。
「なに?《スケイル》」
 この旅の最初からずっと付いてきてくれた、人ではない友人。幾度も助けられ、幾度も共に死線を超えてきた仲間。
「…眠れないんですか?」
 この世界のトーテム能力者は、必要とあらば睡眠を取らなくとも活動できる。だから今も、無理に眠る必要はなかった。苦笑して返す。
「ちょっと眠る気になれないだけだよ」
 その答えを聞いて、果敢なげな面差しに僅かな翳が差した。彼女は仲間内では唯一、彼の来歴を知っている。だからこそ、この最後の戦いにも連れて行く事ができた。
 
 彼女は知っている。この戦いが終わったあと、彼がどうなるのか。

 …だからといって、その事についてスケイルが何かを言うわけでもない。お互いその結末を受け入れた上でこの世界に降り立ち、その手で少なからぬ命を手にかけてきた以上、覚悟はしておかなくてはならないのだから。
 気を遣わせているのはわかっていたから、口では別のことを言った。 
「ねえスケイル――僕はね、楽しかったよ」
 口をつくままに、笑いながら告げる。
「僕はいつも、自分のやってる事が正しいかなんてわからなかった。この世界に来る前も、そして来てからも」
 それは彼を構成する真実の一端。人を殺し人に殺される存在ゆえに抱える葛藤。
 この期に及んでなお、自分が『正しい』という確信を持つ事はできないでいる。 
 でもこれだけは胸を張って言える。

「でもね…こうして身体を与えられて、もう一度生きる事ができて――良かったと、心から思う」

 この世界に来てからの、ほんの二週間足らずの時間は、――とても楽しかった、と。

「この世界で僕のしてきた事が正しいかはわからない。もしかしたら僕の知らないところで、気付かないところで、取り返しのつかない事をしてしまっているのかもしれない。これから僕らのしようとしている事がどんな結果に終わるのか、それも判らない」
 そう、自分のしようとしている事を成し遂げたところで、それで誰もが倖せになれるとは思えない。あるいはより大きな争いの火種を、未来へ残す結果に終わるだけかもしれない。
 
 ――それでも。

 自らも封じられながら、どうか『神』を止めて欲しいと言っていた魔王。
 消えるべきは自分たちだと言っていた竜人の長老。
 『神』を疑いながら、それでもその命に殉じて斃れた戦士。
 人間である自分を慕ってくれた、幼い少年。 
 同胞のために、ともに『神』を倒そうと申し出た女性。

 この世界で出逢った竜人達は、人となんら変わるところがなかったと思う。

 無事に帰ってきてください、と言ってくれた彼女。
 どうかこの国を救って欲しい、と言った旅人の青年。
 豪快に笑って、一人で背負いすぎるなと言ったあの人。
 いつも冷静な頭脳で自分を助けてくれた理力使いの女性。
 ひひひと笑いながら助言を与えてくれた占い師の老婆。
 守ると約束して、だけど守りきれなかった予言者の少女。

 この世界で出逢った人たちは、憎しみを望んでいるわけではないと思う。
 
 滅ぼしたり、憎みあったりする以外の方法がきっとある。
 だから彼は、思いを同じくする仲間と共に『神』を止める。

 世界全てを救うことなんて誰にもできない。
 全てを成し遂げられると思うほど愚かにもなれない。未来を救えると思うほど傲慢にもなれない。
 だけど、どんなに浅はかで傲慢だと言われても。
 …誰もが泣かずにすむ結末が訪れればいいと、そう思うことはやめられない。
「わからないけど、もし皆が、明日目を覚ました時に、ああ生きてて良かったって思えたら、」
 そう――あの人達が笑顔で明日を迎える事ができるなら。

 「それはきっと、間違ってないって、そう思うんだ」

 人でも竜人でもない彼女は、そうですね、と言って、やっと笑ってくれた。

 それは英雄の物語。
 今はもう誰も名前を知らない、一人の若者の旅の軌跡。

                                 ◇
 
 天空大陸の東、孤立した浮遊島の地下には、国によって秘匿された遺跡がある。
 その遺跡のことを知る者は少ない。その遺跡が何に使われているかを知る者は、さらに少ない。
 国の枢要に関わる職にある者か、世の闇に埋もれた古文書を紐解く【忌賢者(アルハト)】でもなければ、そこで過去どんな事が起こったか知ることはない。そして知ったとしても、その知識を口外して生きていられる者はいない。
 
 ――たったひとり、【託宣者(オラクル)】を除いては。

                                 ◆

 黒く磨きぬかれた魔輝石の床には傷一つなく、この神殿を造った当時の工匠たちの腕の良さがはっきりとわかる。ここの造営が終わった時点で機密保持のため全員幽閉されたらしいが、世に出続けていればもっと多くの傑作が生まれたかもしれない。所詮は仮定の話だが。
 くだらない思考を振り捨てて、前を見据える。深い深い闇に浮かぶぼんやりとした光は、その闇の深さを際立たせる役目を果たしているようだった。
 視線の先にあるのは、黒い何か。宙に浮かんでいるようにも見えるそれは、闇の中にあってなお『光』というモノを拒絶しているようにも見えた。
 ――彼こそが、この神殿の主。この箱庭に残った原初の神の一柱。
「やあ、久し振り」
 朗らかに笑って、言う。実際彼に会うのは久し振りだった。相手にとっては刹那の時間にしか過ぎずとも、脆弱で有限な命をもつ人間にはその限りではない。
 「――『立法者』が動いたよ。また『転換者』を招聘したらしい。予想範囲内ではあったけど…ぜんっっぜん変わってないよねぇ。自分が何にもできないからってすぐに人を駒にしようとするところとか。ホント最悪。行動パターン丸判りなのにこっちは大した事できないし、自分でもどう転ぶかまるでわかってない駒を手駒にしてヘーキな顔して神様やってるんだから大した強心臓だよ」
 話し掛けている相手は何の反応も返さない。聞いているのかと思うような態度だが、聞いていないと言うことはないだろう。反応を試すつもりで、水を向けてみる。
 「まあ原初の《三柱神》のうち『裁定者』の後継はもう封じたし、そもそも竜人が存続してる時点で彼女の持ってる力は殆どなくなっちゃってるだろうから障害にもならないだろうさ。あと気になるのは…」
 そこで、僅かに言葉を切る。
 やはり、ソレからは何の反応もなかった。
 「『立法者』が権限譲渡した『監視者』と、『裁定者』――白竜神が眷属たる『調整者』の動きかなぁ。前者はともかく後者は、敵にも味方にもならない存在だけど。…ねぇ、どんな気分?自分の同類(お仲間)をどんどん封じて、自分に託された役割どーりに動いてるのってさ。やな気分?それとも案外気持ちいい?」
 返事はなかった。それならそれでよく、笑う。
 「ねえ、どうして貴方は人間である僕を眷族にしたんだい?知恵の実を喰べて箱庭の楽園を放棄した時から、僕達は貴方達を裏切り続けてきたのに。裏切られることさえ、貴方は織り込み済みだったのかな。人の罪を断ち切る事は、人にしかできない――そういって僕を『断罪者』にした時、君は知ってたはずだろ?僕がどんなに君たちを嫌っているか、なんてさ」
 ひとくさり言い終えても、彼からは何の返答もなかった。かるくため息をついて天を仰ぐ。
 そこに写っているのはまたたくこともなく浮かんでいるいくつもの光。星を騙った光と夜空を模した空虚は、馬鹿馬鹿しいほど『この世界』を表しているようだった。
 「……くす」
 笑う。
 嘲う。
 嗤う。
 それ以外の全てを、忘れたように。
 「――千年だ。もういいでしょう?『立法者』。どんな物語もいつかは終わる。永遠は願えば近づけるけど、それに触れることは誰にもできない。奇蹟ももう終わっていい頃だろう?」
 憎しみと愛しさを込めて、そっと名前を呼ぶ。
 憎い憎い、仇の名を。

 「ねぇ――リクレール」 

 ずっと前に始められた喜劇は、予定されていた終わりへと収束する。
 それは決められた結末。覆せない未来。
 けれど、その結末の先に手にしたいものがある。叶えたい願いがある。
 ――全ては、たった一つの望みのために。
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