ノベル&テキストBBS

小説やショートストーリーの書き込みなど、長文系の書き込みはこちらへどうぞ!
タイトルの左にある■を押すと、その記事を全て見ることができます。

□BBSトップへ ■書き込み □過去ログ表示 ▲ログ検索
●選択した記事の表示・返信・修正・削除
シルフェイド異聞録 <瀬田幸人> 11/11 (17:49) 7999
  シルフェイド異聞録 選ばれた運命 <瀬田幸人> 11/16 (17:00) 8001
  シルフェイド異聞録  差し出された手の先... <瀬田幸人> 11/20 (13:08) 8005
  シルフェイド異聞録  金色の獅子と女神の... <瀬田幸人> 01/20 (15:56) 8035
  シルフェイド異聞録  軋み始めた世界 <瀬田幸人> 04/21 (17:28) 8090
  シルフェイド異聞録  モノガタリの裏側 <瀬田幸人> 04/30 (15:08) 8097
  感想 <鳩羽音路> 11/14 (17:29) 8000
  感想ありがとうございます <瀬田幸人> 11/16 (17:13) 8003
  感想 <鳩羽音路> 11/16 (18:45) 8004
  感想ありがとうございます <瀬田幸人> 11/20 (13:24) 8006
  Re1:感想arigatougozaimasu <瀬田幸人> 11/16 (17:02) 8002
  今さらですが感想です <もげ> 12/20 (20:41) 8019
  Re1:感想ありがとうございます。瀬田です。 <瀬田幸人> 01/20 (16:08) 8036
  感想2 <もげ> 03/18 (12:21) 8048
  感想3 <鳩羽 音路> 03/19 (13:29) 8052
  感謝です。 <瀬田幸人> 04/21 (17:41) 8091

8035
シルフェイド異聞録  金色の獅子と女神の願い by 瀬田幸人 2009/01/20 (Tue) 15:56
一覧を見る
 
 第四章 金色の獅子と女神の願い

 気がつくと、そこは見た事もないような場所だった。身を起こして、あたりを見回す。
 生い茂る植物に、静かに佇む木々。やわらかに差す日の光。どこからか虫や小動物の鳴き声も聞こえてくる。牧歌的な風景、といっていいのだろう。あの深い闇とはまた違ったやすらぎに、うとうととまどろみそうになる。
 『――目が覚めたようですね』
 ぼーっと周りの風景を見回していると、笑みを含んだ声が投げかけられた。
「……ふぇ?」
 驚いて背後を振り返ると、闇の中にいた自分に話し掛けてきた、あの女の人がいた。
 腰まである真っ白な髪に、空の底を写したような青い眸。『あの場所』で見たように輝きを放ってはいなかったけど、間違いなくあの人だった。
 『…あなたを連れてこの世界に降り立ったのはいいのですが…あなた、そのまま寝入ってしまって。覚えてません?』
 問いに、首を横に振る。
 溢れた光が意識をかき消して、無明へと堕ちて――そこまでは覚えていた。でもその後自分が何かしたような記憶は全くない。
 そうすると、彼女はおかしそうにくすくすと笑った。
 『…いえ、無事目が覚めたのならいいんです。でもあなたの寝顔本当に可愛くって…』
 肩を震わせる彼女に、困惑する。今まで見知らぬ誰かと接した事がまるでなかったので、どうすればいいかまるでわからない。でも、その表情からあの暗闇で見せたような暗い影は払拭されていたから、良かったと思った。
「…えっと。ここ、どこですか」
 とりあえず、聞いた方がよさそうなことから聞いてみた。
『――っと。そうですね。ではまず、こう言わせて頂きます』

 笑いを収めて、こちらへ向き直る。まっすぐにこちらを見据えて、

『わたしの創り出した世界、《天空大陸》へようこそ――アーク』

 彼女は、花のほころぶような笑顔で、そう言った。

                    ◆

 彼女の説明によると、ここはリクレールが創り出した世界であり、今いる場所はその北東、【王都バーン】の真北に位置する森だという。
 『あなたには、この世界で生きるための力が与えられています。ひとつは言葉を識る力。現在この世界に存在する言葉の殆どを、既に貴方は習得しています。もうひとつは身を護り、あるいは闘う力。あなたの身に宿った精霊――トーテムは、常人を遥かに超えた能力をあなたに与えるでしょう。…出てきてください』
 彼女の差し伸べた指先にふわり、と淡い光が灯った。と同時に、目の前の空間がゆらりと揺らめく。
 場所を譲るように、リクレールは自分の真正面から退いた。
 応えるように、その場所のゆらぎが大きくなって――

 ――現れた『それ』の威容に、知らず驚嘆の声が漏れる。
「……うわぁ」

 風になびくたてがみ。堂々たる体躯。金色のそれは半透明だというのに頼りなさをまったく感じさせず、逆に凄まじい威圧感と内に秘めた力の程を感じさせる。なにより強烈なのは、力のみなぎる金色の双眸――。
 それはまさに、こう呼ぶに相応しい姿だった。
 ――百獣の王、と。

 【――お初にお目にかかる、我が主(マイ・マスター)。我が名はレオニス……って、何すんじゃ!!】

「あ、触れない…」
 とりあえずヒゲを引っ張ろうとしたら怒鳴られた。
【当たり前だトーテムに実体があってたまるかボケ!何考えてんだお前は!】
「…あ、う、えっと、その、ごめんなさい」
『その辺にしてあげてください。アーク、レオニス。あなたたちには、やって欲しい事があります』
 その声で驚きから覚める。
「やって欲しいこと?」
 そういえば、リクレールがどうして自分に身体を与えたのか知らないことに気付いた。
 彼女は自分に何かをさせようとして、自分をあの暗闇から引き揚げたらしい。
 その事実になぜか胸の痛みを覚えて、けれど同時に安堵もする。自分は、彼女の役に立てるのだと。
 『…はい。今この天空大陸には、滅びの危機が迫っています。それが具体的に何かはわたしにもわかりませんが、人類や竜人といった枠組みを超えての、大きな災厄が――』
 その言葉を受けて、獅子が深々と嘆息する。
 【要は我らにその災いとやらを止めるなり、調べるなりして欲しいということか?】
 『その通りです。――これが身勝手な願いであることはわかっています。あなたたちがこの世界で何をして、何を望むか…それはあなたたち次第です。ですが叶うならどうか――お願いします。わたしに、いえ、この地に生きる全ての人たちのために、力を貸してください』
 災厄。人類。竜人。聞いたこともない単語が次々と出てくるというのに、その意味がわかる。
(あれ、なんで?)
 首を傾げて考え込む。知らない単語なのに意味がわかるなんてことあるんだろうか。
 【それは我の決めることではないが……お前、話聞いてないな全然。何を考え込んでるんだ】
 物思いから覚めると、金色の獅子は呆れた顔で視線をこちらに向けていた。人間でもないのにとても表情が豊かだ。
 「あ、なんていうか、知らない言葉なのに何言ってるかとかがわかって。不思議だなって」
 『それはあなたに与えた言語判別の力の作用です。今なら理解不能な専門用語でも、苦もなく理解できますよ』
 「…そうなんだ。リクレール」
 『なんでしょう』
 さっき彼女がそうしたように、まっすぐに、リクレールを見据えて、 
 「僕に何ができるかわからないけど、…僕にできる事だったら、やるよ。必ず」
 頼まれるまでもない。この身体もここにある精神も彼女なくしてはありえないものだから――もしこの身で、彼女を助ける事ができるなら、必ず。
 意表を突かれたように蒼の双眸が見開かれて――少し悲しげに、彼女は微笑した。
 『――ありがとう』

 ごほん、と咳払いが起きる。
 【…それはまぁいいが、我らは具体的に何をすればいいのだ。何のあてもなしでは何もできんぞ】
 『おそらく何らかの異変が現れてくると思います。――まずは情報の収集を。この森を出ると、最寄りの都市、鍛造都市サーショが見えるでしょう。まずはそこに寄ってこの世界に慣れることをお勧めします。それから、法力都市リーリルにいる竜の賢者、あるいは深海の神殿にいるもう一柱の《神》に助力を請えば、力になってくれるはずです。あるいは彼らなら何かを掴んでいるかもしれませんが…いずれにせよ、彼らの協力を仰げば、大きな助けになります』
 【ふむ…まあそれだけ聞けば十分か。――だそうだ、我が主。どうする?】
 話を降られて、むぅ、とうなった後。
 「…えっと。街に出て、この世界に慣れて、賢者さんかもう一人の神って人に会いに行けばいいんだね」
 今後の方針を復唱して、うん、と頷く。そのくらいなら自分にもできそうだ。できると思う。たぶん。
 【…えらく自信なさげだな】
 何でこんなのが我の主なんだ、という呟きが聴こえた気もするが聞き流す。
 「そーいえば。僕はその二人に会いに行くけど、リクレールとレオニス…さんはどうするの?」
 そう聞いたら、今度は二人ともに呆れた顔をされた。
 【…レオニスでいい。おまえについていくに決まってるだろう…というか離れたくても離れられんわ。人の話を聞いてないのか?我はおまえのトーテム――お前を守護し、共に道を歩む精霊だ】 
 「うぇ?」
 びっくりする。ということは…
 「ぷらいばしーとかそのへんはどうなるの」
 【………。第一のリアクションがそれか…。ある程度の単独行動も可能だから安心しておけ…】
 ほんとになんでこんなのが主に、という呟きは無視する。
 「リクレールは?」
 問うと、しかし彼女は答えることを憚るかのように目を逸らした。その仕草で思い当たる。
 「…一緒に来てくれないの?」
 『…ごめんなさい。わたしは一角獣の誓約のために、この世界への過干渉はできないんです。この世界に降り立っても、すぐにはじき出されることになってしまう…――っ…!』
 言った途端に、リクレールの姿が揺らめいた。その顔が苦痛に歪む――それで悟った。
 彼女は、ここにいることはできない。今ここにいる事だって――相当の無理をしている。もしかしたら命に関わるほど。
 「――リクレール!!」
 せめて最後にと、叫ぶ。

 「絶対、――全力を、尽くすから!!見てて!!」

 『……っ…』
 何かを、言おうとして。
 彼女の姿は、眼のくらむような光と共に、泡が弾けるように消え去った。

 【……もういいか?】
 「…そだね。じゃ、いこっかレオニス」
 ついさっきまで彼女がいた場所をしばし見つめて、踝を返す。
 
 ――その時、アークは森の外を向いていた。
 だから、レオニスがリクレールのいた場所を射殺せんばかりの眼光で睨みつけていることに、アークは気付かなかった。



pass>>


選択した記事にこのフォームで返信します。
name
url
mail
title
mesage
pass

p.ink