ノベル&テキストBBS

小説やショートストーリーの書き込みなど、長文系の書き込みはこちらへどうぞ!
タイトルの左にある■を押すと、その記事を全て見ることができます。

□BBSトップへ ■書き込み □過去ログ表示 ▲ログ検索
●選択した記事の表示・返信・修正・削除
ひとりといっぴきものがたり はじめの挨拶 <ケトシ> 04/11 (23:52) 8077
  :ひとりといっぴきものがたり お話の前に <ケトシ> 04/11 (23:55) 8081
  :ひとりといっぴきものがたり 思わぬ出会... <ケトシ> 04/11 (23:17) 8079
  ひとりといっぴきものがたり 盲導犬クロウ <ケトシ> 04/14 (16:27) 8082
  ひとりといっぴきものがたり お星様きらき... <ケトシ> 04/14 (16:22) 8083
  ひとりといっぴきものがたり 見えないもの <ケトシ> 04/18 (22:00) 8087
  ひとりといっぴきものがたり 雨のち晴れ <ケトシ> 04/24 (20:54) 8095
  逐一更新の後書き <ケトシ> 04/24 (21:23) 8078
  感想 <もげ> 04/14 (19:00) 8084
  かんしゃのかんそうがえし  <ケトシ> 04/18 (21:40) 8088

8079
:ひとりといっぴきものがたり 思わぬ出会いと by ケトシ 2009/04/11 (Sat) 23:17
一覧を見る
 
1日目 サーショ近くの森
語り手 クロウ

ギャグ率 10%

……直前まで雨が降っていたのだろうか。湿った空気を全身に感じる。
少しずつ五感がはっきりしてくる。
足の裏に柔らかな土の感触。毛を揺らす涼しい風。遠くから聞こえる水の音。ほのかに香る鼻先の小さな花。
頭上の木の葉からがこぼれたのだろう、顔に水滴が降ってきた。口の中に入った水は、僅かに甘いような気がした。

顔を振って水を飛す。目を開けば懐かしい風景が広がっていた。
サーショ近くの森。ゴンベエと出会い、別れた場所だ。
再びこの地に来ることが出来た。人間で言うなら帰郷、慣れ親しんだ場所に帰ってきたような感覚だろうか。


水たまりで姿を確認するに、どうやらトーテムの時とほぼ同じ外見だ。揺れる水面では少し見にくいが。
座った状態で首を巡らすが、すでに周囲にリクレールの姿はない。やはり我に肉体を与えたことで消耗しきっているのだろうか。すでに戻れないだけに、心配になった。

水たまりで足が汚れちゃうとか単に面倒くさがっているだけ……ではないだろう。うんそんなはずはない。夢が壊れることは考えたくない。一応この大陸では神格化されているのだからな。でもそう言えば今日ののおやつはプリンだとか何とか言っていたような気がする。

嫌な思考を頭を振って消そうとした。すると近くに荷物袋を見付けた。
届け物とはこれだろうか。小さな荷車に載せてある。これなら楽に引っ張っていけるだろう。

顔を袋の中に入れ、中身を確認する。さらにいくつかの袋がその中に入っていた。それぞれに宛先と名前が書いてある。
サーショ、リーリル、ムー、神殿、シイル……。案外多い。

丁寧にも切手が貼ってあるが……これ、我には入金されないはずだな。これは購入した時点で販売機関に金が振り込まれるのだから、その組織に属していないのだから我には無意味だ。さらに確実に料金不足だ。古い49円(円という通貨があるらしい)の犬の切手では……。

ふと、一つの袋の口が開いていた。シイルに届けるはずの荷物。こぼれ落ちそうになったそれを慌てて前足で拾い上げる。
懐かしい模様が描かれている木彫りの板だった。
予言者の娘が作ったお守り。普通の防具では防ぎきれないフォースの力を減殺する性能以上に、信頼が形となったことが嬉しかったのだろう、常に胸元に忍ばせていた。
『自分は一人じゃない。二人だけでもない』。ゴンベエは口に出すことはなかったが、背中が語っていた。
このお守りだけではない。ゴンベエの旅路は沢山の人の好意で支えられていた。この荷物の中には、そんな好意の塊とも言える物が詰まっているのだろう。

最初にこのお守りをシイルに届けようと思った。どのみちこの島を一周することになるのだから、どこから配っても良いだろう。


荷車に袋を乗せ、口が締まっていることを確認する。こぼれる心配はないだろう。
胴輪にをつっこみ、上手く固定されていることを確認する。剛力か何かのフォースが掛かっているのだろうか。小回りもなかなか利く上に動きやすいのは助かる。都合のいいことに、何らかの危機には素早く胴輪を外して退避できそうだ。
無論、そんな責任を投げ出すような行為はしたくないが。


シイルの方向を確認し、一歩踏み出そうと足に力を込めた瞬間だった。
『こんにちわ。お散歩日和ですね』
「……む!」
気配を感じるより先に声が掛かってきた。全くの不意打ちに思わず体が堅くなる。だが、同族の犬の言葉であることを理解して少しだけ警戒心を解いた。まだ体の感覚に慣れていないとは言え背後を取られたのは不覚だ。
「まずはこんにちわ……失礼だが何物だ?」
声の主を視界に納める。
白い犬。

「……(森に出てくると言うことは魔物か!?だがこんなサーショの近くに白い野犬が出ることなど!いや魔王や竜人が消えたことで生態系に何らかの影響が出たのか!?まずい、まだこの体も慣れていないのに、結界でゴンベエを苦しめたこの種族と渡りあうことになるとは!この荷物を持って逃げ切れるかは怪しいが逃走も作戦に入れておかねばなるまい……!
待て待て落ち着け、よく考えれば我は素手ではないか。これならクリティカルもそこそこ出せるだろう。言ってしまえば、チュートリアル戦闘用のサンプルモンスターという可能性もあるな。それならば初期状態でも何とかなる相手として選ばれたのだろう。
うむうむ、白犬恐るるに足らず。油断せずに相手をしよう。←思考時間2秒)。」

だがこの白い犬からは”強さ”などとは無縁な程に、何か不思議な気品が漂っている。
傍らに不思議な形のひもがあった。

『私は過去と未来が見ることができる犬です』
「初対面……だな?」
『そうですね。私は知っておりましたが』
普段はムーの村の中にある→↑の小島に居るとのことだ。
そこから泳いできたのだろうか。”マリンスポーツが趣味”と言うように泳ぐのが好きな犬はいる。だが、基本的に濡れたままの体というのは人間だって好かないだろう。少し変わっているのかも知れない。
雨が降っていたのにお散歩日和と言ったのは、これから晴れる、と言うことだろうか。それは好都合だ。
……未来が見えるのはウリユも同じ事。少し気になって尋ねてみることにした。
「未来が見える、と言ったな?」
『限度はありますが、その通りです』
「未来を見ることが出来る娘について何か知っているか?」
『ではその予言者の娘の名を言ってみてください』
「ウリユ、だな」
『知っているのですね……もう今ではもう終わってしまった事ですが……』
嫌な予感が胸をよぎる。まさか何か不幸でもあったのだろうか。我が見ていたはずの大陸より時間が経ちすぎたてしまったのか。
『「1日目」からウリユさんと(略)』
「縁起でもない!」
それは本編の話だ。終わったというかとっくに過ぎた話というか。
ツッコミを入れたときにどこまで顔が崩れただろう。顔の皮と筋肉と骨に不規則な衝撃が走る。これが痛みという物か……。これに耐えながらゴンベエは旅を続けていたのか。侮れない。さすがだ。
『冗談はさておき』
……なんと遊び心を分かってしまっている予見者だろう。我の対極にいる。
『興味深い』
「何がだ?」
『その娘の先を歩くあなたの姿が目に浮かびます』
良く意味が分からない。ウリユの先を歩く我が見えると言われても、それは何かのたとえだろうか。何らかの弾みでウリユがトーテムになってしまうのだろうか。それはあまり良い印象を抱かない。
我もこのような肉体を持てたことが嬉しいのだ。人は心だけで生きて行くべきではない。
こちらの考えを読んだのか、例えではありません、と言った後、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
『人間の言葉で言うのなら。盲人を導く犬……盲導犬とでも申しましょうか』
それについては良く知っている。以前突然明かりが消えたとき、夜目の利く我がリクレールの手を引いて”ぶれぇかぁ”という物の所まで誘導したことがあった。それを機に少々学んでいたのだ。
『この時代の人間がそのような文化を持っているかは分かりません。ですが……あなたが彼女の手を引き、支る姿がはっきりと見えます』
先ほど言っていた盲人を導く犬、ならばおぼろげに意味は通じるだろうか。
「その未来でウリユは、笑っているだろうか?」
妙な質問だと自分でも思った。そのような未来があるのならきっとその通りに進まなければならない。良い結果なら安心できるが、悪い結果なら不安を抱えたまま歩まなければならないのに。
何故我が知ろうとしたのかは、ずいぶんと長い時間をかけねば分からなかった。
『……貴方次第ですよ』
穏やかな口調だった。
それから、傍らのひもを示してから我に尻尾を向けて歩き出す。
『これを貴方に』
「これは?」
『ハーネス……犬が人の手を引くための胴輪です。お古ですが』
実物を見るのは初めてだ。確かに不思議と年季が入っている。汚れてはいるが、丹念に手入れがされていることが見て取れた。
それをじっと見つめている内に未来を見る犬は遠くに行っていた。
「感謝する!また会えるだろうか!?」
小さくなった後ろ姿に大きな声で叫ぶと、遠くから声が帰ってくる。
『どういたしまして……いつかムーの村で会いましょう』
声を最後に視界から消える。このためだけに来てくれたのだろうか。
ゴンベエの、一人きりではない、と言う言葉が胸に染み渡るようだった。

そのハーネスを袋に入れ、シイルに向かって歩き出す。
見上げた空は晴れ渡っている。雲は浮かんでいなかった。
pass>>


選択した記事にこのフォームで返信します。
name
url
mail
title
mesage
pass

p.ink