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  :ひとりといっぴきものがたり お話の前に <ケトシ> 04/11 (23:55) 8081
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ひとりといっぴきものがたり お星様きらきら by ケトシ 2009/04/14 (Tue) 16:22
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2日目夜 サーショとシイルの間の宝物庫
語り手  クロウ

ギャグ率 9%

大分日も落ちてきた。まだほのかに空気は暖かいが、これ以上歩くのはウリユの体力的にも難しいだろう。旅を始めて初日だ。いきなり無理をさせてはいけない。
「ウリユ、今日はこの辺りで一泊しよう」
「野宿?私初めてなんだ、どうやるの?」
不安や心配より好奇心や期待に満ちた口調だ。無理に強がっているのかも知れないが、こちらも安心した。
「やり方はその場で教えるとして……近くにサリムが作った宝物庫がある。そこなら安全だろう」
宝物庫と言ってもその中身は全て回収してしまったのだが。
「あ、いつかゴンベエお兄さんが言ってたとこだね。『扉の合い言葉が天の邪鬼だった』って」
「そうだな。たしか……」
「『ヒラクナ』。お兄さんが怒って『ふ”ひー楽な”方法はないって事ですかね!学問に王道無しですか!』って言ったら開いたって」
そう言えばそんなこともやっていたか。開いた扉の前でしばし呆然とし、奥にいる赤いキューヴを見て唖然としていたことを覚えている。開けることに成功した時は黄色いキューヴにすらギリギリで勝利できるかどうか、の力量だったのだ。
ゴンベエが取った行動をつぶさに話すと、ウリユはくすくすと笑っていた。
「やっぱりゴンベエお兄さんってちょっとうっかりなんだね。なんだか安心しちゃった」
「うむ……”ちょっと”と言うよりは”ちょっと大幅に”な……」
ここのキューヴに返り討ちにされ、瀕死のまま洞窟を出て行った。その時、失意のあまり治癒を忘れていた上、直後に白い烏のなわばり争い巻き込まれてしまった。Willを使って逃走したのではないか、と今でも思う見事な逃げっぷりであった。砂煙すら上がる俊足の足運び。フェザーにさえ勝てるのではないだろうか、と思ってしまうほどだった。
それ以来、戦闘が終わるごとに治癒をかけ直していた。戦闘中にもマメに回復していたのでずいぶんと理力も得意になってしまっていた。それは悪いことではないのだが、何故か我のアイデンティテイーが失われたような気がする。
「さて、まずは借り物を返そう。少し手伝ってくれ」
「うん。どうすればいい?」
「我が宝箱を開けるから、その中に物を入れてくれ」
届け先のメモを読みながら、返すべき物を荷台から降ろす。
さすがに金銭をそのまま入れるのは躊躇われるので、現在の物価に応じた貴金属を入れておく事にする。
全く関係がないことだが、『雄弁は銀、沈黙は金』という言葉がある。この言葉は口の堅さを奨励する物として取られている。だがこの言葉が作られたときは銀の方が高価であったと言う考え方もあるのだそうだ。
「あ、この腕輪……もしかして生命の腕輪?」
「ん?ああ、そうだな」
「確か、ゴンベエお兄さんは誰かに渡したい……て言ってたっけ」
それは、多分システム上出来ない……と言う言葉を飲み込みつつ記憶を辿る。可能性は2つあるが、確か……。
「サーショに済む姉弟……に、だったか」
「うん、『もう治ったから安心して自分で装備できる』って……私がお守りを作って少し怪我したときに、お話ししている間だけ貸してくれたっけ」
表面の模様を懐かしむようになぞりながら言う。丁寧に宝箱の中に入れ、名残惜しそうに蓋を閉めた。そのまま蓋に手を置き、一つため息を付いていた。
ウリユにとっては何もかもが新鮮な中、ゴンベエゆかりの品だけは懐かしさを感じさせるのだろうか。我には上手く読み取れないが、きっと複雑な思いなのだろう。
きっと上手いことは言えない。少し時間をおくのが一番だろうか。自分の口下手を恨めしく思いながら対面の宝箱に向かう。後ろから遅れてウリユが付いてくる。
宝箱を警戒しながら叩く。新しい罠は無い。重さで作動する落とし穴などの危険な物もないようだ。
「ウリユ。細長い袋があるだろう?」
振り返らずに問いかける。慎重に宝箱開けて安全を確認する。
「あ。ちょっと待って。これかな?」
「そのイーグル……」
がしゃん、と言う音に説明が遮られる。振り向くとイーグルブレイドを持ち上げようとしていた。どうやら持ち上げきれずに落としてしまったようだ。
「重いぃ……」
顔を真っ赤にしながら一生懸命柄の部分を持っている。渾身の力で持ち上げようとしているのだろう、可哀想なくらいに震えている。
「おっと無理をするな。すまない」
細かいところに気が回らないことを情けなく思いながら掛けより、口でイーグルブレイドをくわえ、さっさと宝箱に入れる。
「怪我は……ないか?」
幸い袋に入っていてので大丈夫だとは思うが、やはり心配だ。万が一刃の部分を触ってしまっては居ないだろうか。
「大丈夫。剣って重いんだね。ゴンベエお兄さんってすごい力持ちだったんだ……」
肩で息をしながら、手を握ったり開いたりしている。注意深く見るが、怪我はしていない。安心した。
「ってことはクロウさんも力持ちなんだね」
「ん。まぁな」
前足をかけて蓋を閉めながら応対する。今ここに返すべき物は全て戻したことを確認し、食事にしようと会話を切り出す。
「さて、食事にしようか。その後に寝床をこしらえよう」
「私はお母さんが作ってくれたお弁当があるけれど、クロウさんは大丈夫?」
「ああ。さっき狩ってきたから大丈夫だ」
「あれ?お店とかあったっけ?」
いや、”買った”では無いのだが。ただ、あまり正直なことを言うとウリユも食事をしにくくなるだろうか。
一応火炎のフォースで火を通してはいるから生よりはショックは少ないだろうが……いずれ分かることだ。今は黙っておこう。
適当に座りやすい所を探し、床の上に空いた袋をひいてその上に座らせる。
「そっか。シイルに付く前にサーショとかで買っておいたのかな」
いや非売品で思いっきり現地調達だが。
まことに都合のいい解釈に感謝するが、ここで”サーショで買った”と言うとお弁当のおかず交換よろしく一口頂戴などと言われ兼ねない。嘘でない範囲で何とか言わなければ。
「……まぁそんなところだ。ただ味付けが薄いから人間の口には合わないな」
そう言うと何か納得したように頷いていた。それから何か思いついたように弁当の包みを開ける。
「クロウさん、もし何か食べたたいものがあったら半分こにしよ?」
人間用の味付けだから少ししょっぱいかも知れないけれど、と付け加えて笑う。つくづく健気だと思う。
母親がウリユのためを思って作ったのだろう。分けてもらうのは少し気が引ける。
丁重に辞退し、荷台に入れて置いた食料を持ってくる。
まずは肉。それとここに来るまでに見つけた果実だ。以前ゴンベエが美味しそうに食べていたことを覚えている。赤く見えるがそれは皮だけで、中身は少し黄色い白だ。確かもも、だったかすもも、とか言っていたような気がする。
「ウリユ、ももやすもも……と言う果物は知っているだろうか?さっき森の中にあったので取ってきたのだが」
「ももだね。知ってるよ。甘くて美味しいよね。すももはちょっと酸っぱいんだ」
ウリユ足を伸ばして座り、その上に弁当箱を置いている。中を見ると野菜や薄切りの肉を挟んだ小麦を練って焼き上げた物が入っている。サンドウィッチ……だったか。
「ふむ。ももは犬が食べても大丈夫な物だろうか」
「う、うーん。分からないけれど少しなら大丈夫じゃないかな?」
悩みながらも答えを出そうとしていた。まぁ無難な答えだ。基本的に犬は肉食だが植物を食べても良いだろう。
「ウリユも食べるか?今皮を剥く」
「ありがとう。でも……どうやって?」
「ナイフを使えば出来るはずだ。地面に落とさないように気を付ければ問題ないだろう」
小さなナイフを取りだして口にくわえる。器を取りだしてその上にももを乗せて自分は伏せ、ももを前足で回しながら皮を剥いていく。もう少し前足が大きく、しっかりと物が掴めたならゴンベエがやったように片手でナイフを扱い、もう片方の手でももを持つ、と言うことが出来ただろうか。
……ゴンベエは二つ目から丸かじりしていたような気がするが。
「私も手伝うよ」
「それは助かるが……」
ももから目を離しウリユを見上げると懐から小さなナイフを取りだしているところだった。お守りを彫るときに使った物だろうか。
ももを一つ渡すと、器用に……とは言えないが一生懸命な手つきで剥いていた。
「多少食べるところが小さくなっても良いから、厚く剥いたほうが安全だ」
「あ……うん。ごめんなさい」
「いや、謝る必要はない」
ちなみに、我が取ってきたものはすももと言うものだった。中身も赤くて少し驚いたが、何よりすっぱくて腐っているのかと思った。匂いを嗅いでウリユに確認を求めると、もともとこう言うものらしい。
犬が食べて大丈夫なものだろうか。

食事を済ませ、寝床を整えることにする。我はそのまま伏せればいいのだがウリユはそうも行かないだろう。安全を考慮し奥の方に場所を決める。比較的綺麗な床にマットを引く。その上にマントなどを掛ければ取り敢えずの寝床にはなる。
気温はそれなりにあるが洞窟特有の涼しさは相変わらずだ。少し多目に掛ける物を用意した方がいいかも知れない。火を使うのも悪くないが、洞窟の中で火を使うのは少し抵抗があった。
「ええとクロウさん?」
「なんだ?手を洗いに行くのなら水をくんでくるが」
「あ、うん。それも後でお願いしたいんだけれど……星は見えるかな?」
入り口の方に目を向けるが、この位置からでは良く見えない。向かいには山があるため視界も遮られてしまう。
「いや……ここからでは無理だ」
目が見えないウリユにとって、何の意味があるのかとも思った。だがウリユにも目が見えていた時期があることを思い出す。その時の空を今も心に焼き付けているのだろうか。早いうちに店を閉めてしまう理由は、もしかしたら見えないその目に一番星を映すためなのか、と何の説明もなく思った。
我も月を好む。星の良さはそれなりに知って居るつもりだ。
この洞窟は森に近いが、夜に活発になる魔物はこの辺りではコウモリくらいだ。いざとなれば3匹相手でも我だけで戦うくらいのことは出来る。多少なら出ても大丈夫だろう。
「星が見えるところに行ってみるか?」
途端、ウリユが嬉しそうに笑う。星は見るだけが全てではないことを分かっているようだ。
月は朧月や新月のように見えぬ時でも楽しめる物だ。見えるとき、見えないとき双方を好きになれる。不思議な物だ。
だが、それも”いつかは見える”ことを知っているからだろう。
予知で知ることで、その気持ちを保っているのだろう。だが知ってしまうことは興ざめではないだろうか。我にはよく分からない。
知ることと見ることは同じという者はいるが、我はそう思わない。
「星は何故きらめくのだろうな……」
故に我はウリユの目となろう。そう決めたのだ。
ウリユはマントを羽織り、目線を空に向けている。その横に寄り添い、空に浮かぶ半月を見つめる。
「きっと、”そこにいる”って事を知ってもらいたいんじゃないかな?だから、私たちは知ってあげなきゃ行けない」
つたない説明ではあるが、懸命に見える星を説明する。その言葉一つ一つにウリユは頷き、嬉しそうに微笑んで星の神話を語る。
「輝けぬ星もあるのだろうな」
外の知識では6等星と言う星。暗く、小さな星でさえ見逃さずに場所や色、瞬き方を伝えていく。ウリユはその全ての星の名前を迷わずいとおしむように口にする。
その小さな暗い星をゴンベエはいつか自分になぞらえていた。周りを全て照らせるわけでもなく、ゆっくりと忘れられていく。自分はそんな星なのだろう、と。長い歴史から見ればそうなのかも知れないが、我はそう思わない。
ともすれば見落としそうなそれをウリユが細やかに説明してくれることが、なんだか嬉しかった。
「うん……だからこそ、私は星を見たいんだ。誰かに知ってもらえるのは、それだけで嬉しいと思うんだ」
そのあと、少し困ったように勝手なことかな?と言う呟きにそんなことはない、と何か満たされた気持ちで答える。
例え6等星だとしても、己の力と他の星の力を足して輝いているのだ。
見える限りの星を伝え、その後もしばらく空を見上げていた。
ウリユの目がとろりとしてくるのに気が付き、慌てて話を切り上げる。無理をさせまい、と思っていたのに結局無理をさせてしまった気がする。
寝床まで連れていき、穏やかな寝顔を見守りながら我も近くに伏せる。

目を閉ざしてウリユの星の話を思い出す。”誰かに知ってもらうためにある”。確かにその通りだ。我はウリユの目として、僅かでも良い、誰かを照らす星になりたいとらしくもなく考えた。
それにしてもウリユの方が沢山星を知っていたことが……悔しかったのは内緒だ。
今度スケイルに習ってみようと思う。
pass>>


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