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ひとりといっぴきものがたり はじめの挨拶 <ケトシ> 04/11 (23:52) 8077
  :ひとりといっぴきものがたり お話の前に <ケトシ> 04/11 (23:55) 8081
  :ひとりといっぴきものがたり 思わぬ出会... <ケトシ> 04/11 (23:17) 8079
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  ひとりといっぴきものがたり 雨のち晴れ <ケトシ> 04/24 (20:54) 8095
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  感想 <もげ> 04/14 (19:00) 8084
  かんしゃのかんそうがえし  <ケトシ> 04/18 (21:40) 8088

8095
ひとりといっぴきものがたり 雨のち晴れ by ケトシ 2009/04/24 (Fri) 20:54
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4日目昼 バーン城近くの宝物庫
語り手 クロウ

ギャグ率 1%


ウリユの予見が当たった。城の近くを通り過ぎ、リーリル向けて歩き始めてしばらく経ったときだ。
空から大粒の雨が降り出した。サーショで一夜を明かし、シン達の見送り受けるときにはそれが分かっていたらしい。
「わぁ。これから強くなるよ」
「森に入ってやり過ごそう。目的地も山沿いの洞窟だ」
ウリユは旅人のマントを雨避けに羽織っている。雨が降ることを聞いたオーバが譲ってくれたのだ。遠慮するウリユに、インチキ商人に新しい物を頼むから気にしなくて良い、と言ったオーバの表情は(目は笑っていなかったが)穏やかだった。
ウリユは服屋さんの新しい仕事が見つかって良かった、と本当に安心したように言っていた。取り敢えず同調してみたが……。
何にせよありがたいことだ。元々持っていたマントは寝具として役に立てればいいだろう。
森の中に入ると少々ぬかるんでいるところもあるが、殆どは柔らかい落ち葉の層で歩くのに苦労はしなかった。

雨が木々の葉を打つ音が心地よく、時折毛を濡らす滴も気にならない。ウリユもそう思っていたようで互いに口をあまり開かず、目的の洞窟に着いた。

「やっぱり少しは濡れちゃったね」
「そうだな。寒い時機でないことが救いだ」
宝物庫入り口に辿り着き、身体を振るわせて水気を飛ばす。ウリユもマントを一度脱いで滴を払っていた。

濡れているのは服の裾や髪の毛の一部ぐらいのものだ。風邪を引く心配は無いだろう。だが、一応火をおこし

て暖を取ることにした。サーショの近くの宝物庫よりもここは広い。ここにも長居するつもりはないので大丈夫だろう。
乾いている木の枝を見付け、適当に組んだ。ちょっとやそっとの刺激で崩れないことを確認する。
「ウリユ、一歩離れていてくれな」
「え?うん」
一歩後ろに下がったことを確認し、意識を目の前の枝に集中する。一瞬煙が枝から上がったと思うと、すぐに

暖かな炎に取って代わった。
フォース・火炎。

シイルに行く前に、サーショにいた理力屋から教えてもらったのだ。やはり驚いていたが、治癒と合わせて教授してもらった。スケイルなら軽々と使いこなし、それこそ鉄も溶かせそうであるが、我は火を付けるのが精一杯だ。もっとも、これが本来の使い方なのだ。力は正しく使われなければならない。
今思えば、あの時にサーショで物を返せば良かったのかも知れない。
「火を起こした。靴が濡れていたら乾かすと良いだろう」
ウリユはいきなり感じた熱に少し驚いたようだ。我が声をかけると素足になって火に足と靴をかざす。
「クロウさんすごい。私にも出来るかな」
ウリユは悲しい未来を見ることもあった。心の強さは十二分にあるだろうから、きっと我より上手に扱えるはずだ。出来るだろう、と答えると嬉しそうに笑った。
「今日泊まるリーリルには色んなフォースがある。無駄遣いは出来ないが、一つ二つ学んでみるのも良いな」
サーショの宿屋で作ってもらった弁当と、オーバから受け取った……野犬定食……を袋から出し、火で暖めながら頂いた。ウリユは首を傾げていたが実に美味しかった。
なんというか、申し訳ない気持ちで一杯だ。すまない名も無き野犬。お前の命は無駄にはしない。

腹ごしらえを済ませる間に靴や髪も乾いたようだ。借り物を返すために宝物庫の奥の方へ歩き出す。今は開いているが、封印の扉が目に入る。封印の民はこの扉を自由に開け閉めできるのだそうだが、どのような方法

を使っているのだろうか。ふと気になって尋ねてみた。
「すぐ前に封印の扉がある。ウリユは封印の民だと聞くが、どうやって開閉するのだ?」
「それは言っちゃ駄目ってみんなが……」
「あ。いや、答えなくて良い。すまなかった」
困らせてしまったようだ。確かにそうやすやすと人に教えて良い物では無いだろう。好奇心で聞いてしまって悪いことをしてしまった。すぐに謝って非礼を詫びる。

この洞窟にはあまり重い荷物がない。むしろイーグルブレイドが並はずれて重かったのだ。ウリユでも、理力の盾は両手で持てば持ち上げられた。
その不思議な光彩を見ることが出来ないのは、若干可哀想に思えてしまった。可能な限り、その移ろいながら光る様子を伝えてはみたのだが。我ではどうも言葉が足りない。綺麗な物が好きなフェザーならもっと的確に言えるのだろうか。無念でならない。

やはり、一番気になったのは水霊のマントのようだ。延々と水がしみ出して炎から身を守ってくれるのだ。ウリユは手に取るなり雨に濡れてしまったのかと心配していたが、説明をすると納得した。
借りた物は返さなければならない。それは分かっているのだが、これを人の手に届きにくい場所へ封印することには少々迷いがある。

日照りが続いて水が不足したとき、このマントは役に立ってくれるのではないか。山火事が起きたとき、命を救うことが出来るのではないか。
生命の腕輪と並び、これは争いではなく平和や幸せのために使えるものだ。

……ゴンベエも争いではなく、平和や幸せのために暮らすことができたのだ。あるべき物は、あるべき所へ戻らなければ成らないのだろうか。

ゴンベエならどう言うだろうか。”戦いとは平和を壊すことだ。戦いのために呼び出された者に、平和を守る資格はない。故に自分は戻らなければならない”とでも言うだろうか。
剣を持つのはいつか剣を捨てるためであり、誰かが剣を持つ必要がないように、己が剣を取るのではなかったのか。そのような理由が在ったはずだ。
だが如何なる理由があろうとも、他者の血を流した自分が平和を歩むことは出来ないと……。


「クロウさん?」
ウリユの声を聞いて我に返る。考え事が過ぎてしまったようだ。何でもない、と答えて宝箱の蓋を閉める。
振り返り、ウリユの顔を見ながら思う。
――ゴンベエ、お前の守った物は少なくともここにある。他の誰でもない、お前とこの世界の人間が作った平和なのだ。
水霊のマントが入った部屋を出る際に、一度振り向く。
――だから、帰ってきても良いのだぞ。


洞窟入り口に戻ってみたが、まだ雨が降っている。むしろ強くなっているような気がした。
だがウリユによると間もなく晴れるらしい。通り雨のようだ。
雨の音を聞きながら、少し雨宿りをすることにした。その場に座り、楽な姿勢をとる。
しばらく雨の音に耳を傾けていた。考え事をしながら少しうとうととして、慌てて意識を覚醒させる。どうも雨の日は眠くて仕方がない。雨の日に狩りをするのは効率が悪い。故に体力を温存するために眠くなるように出来ているらしい。
本能とは言えども、若干情けない。今は気を抜くべきではないのだ。
自分に喝を入れていると、ウリユが口を開いた。
「私、シズナお姉さんと色んな話をしたんだ。そのことをずっと考えていたんだけれど、聞いてくれる?」
水浴びをしたときの事だろう。我もサーショの人間と会話をしていたことを考えていた。シンとオーバと会話した後ガランに……オーバに取られた危ないブロマイド以外を返しに行った。やはり驚かれたが、豪快に笑って受け入れられた。『難しいことはよくわからん』と言っていたが、その夜宿屋で武器屋の主人と寂しそうに杯を傾けていた。話しかけると『もしも何かを直したくなったらいつでも頼んでくれ』と言われた。心強い限りだが目が潤み、顔が赤かった。酒の所為だ……と言っていたが、どうだろうか。
少し考えを巡らせた後、頼むと一言言うと、ウリユは一度座り直してから口を開いた。

「色んな事を話したんだ。本当に色んな事。
どんな薬が怪我には良いのかとか、薬草の生えている場所とか、効き目はともかく一番美味しい薬草は何か、シズナお姉さんのお家のお向かいにシイルから来た人がいるとか……でもやっぱりゴンベエお兄さんについてのお話が多かった。

はじめてゴンベエお兄さんと会ったときのことや、会えたときのうれしさとか。
……いつか一緒に暮らしたかったんだって。シンお兄さんも病気が治って働けるようになって、生活が安定したら家をちょっと大きくして……もしもゴンベエお兄さんが良いって言ってくれたら……夢を一杯聞かせてもらった。

もうかなわないけれど、って言ってた。ゴンベエお兄さんとはもう会えないから。
『でも……やっぱり。私はゴンベエさんを待っていて良いかな?』
シズナお姉さんがこう言っていたんだ。
やっぱり諦められないよね。簡単には割り切れないよね。
シズナお姉さんは……本当にゴンベエお兄さんのことが好きなんだな、って思った。
私、何も答えられなかった。
良いって答えても駄目って答えても、シズナお姉さんは悲しい思いをするんじゃないかって思った。そもそも私が決めて良い事じゃないんだけれど。

あの時はあんな事言ったけれど、きっと自分では分からない内に、私もずっと同じ事を考えていたんだと思う。
縛られちゃ行けないのも分かっている。

でも私達……ゴンベエお兄さんを待っていて良いのかな?



もう来ないであろう待ち人を待つべきか、否か。
オーバとの会話を思い起こした。
オーバは、シズナが未だにゴンベエのことを気にかけていることを誰よりも良く知っていた。森で薬草を探していれば、いつか背後から声をかけてくれるのではないか。そう思って毎日薬草を採りに行っているのだと。そう分析していた。
かなわない夢を追い求めることは若い頃の特権だと付け加え、懐かしむような顔をしていた。
……正気に戻ったサリムを救えなかったことを詫びると、自分が若く見られているのか、と冗談を跳ばしながらも自分は諦めがついているからいい、と言っていた。
諦め……。諦めてしまうことが良いのだろうか。そもそも何を諦めるのか。どこまで諦めるのか。
オーバはもう既に色々なことを諦め、捨ててきたのだろう。それが年を取ることなのだろうか。
考えを巡らせ、迷いながらも結論を出した。それをウリユに伝える。
「結論から言うと、それは我にも答えられない。己の判断を信じるしかないだろう。」
途端、ウリユはゆっくり息を吐きながらうつむいた。突き放すようで、残酷な答えかも知れないと我ながら思う。

予想はしていたのだろう。

「ゴンベエは心のより所があることを嬉しく思っていたのだ。自分を受け入れてくれる人がいることは、それだけ故郷を多く持つことと一緒なのだ。
ゴンベエには故郷が無い。合ったとしても遠いところだ。もうゴンベエには、この大陸しか残されていなかったのだ。
だが……ゴンベエは元々居たところに帰った。帰ってしまった。
本人の意思に関わらず、この世界に戻ってくる事が出来るとは思えない。


ウリユは黙ったままだ。寂しそうな表情をしている。
「待つ事は辛い。待たぬ事も裏切るようで辛い……どちらかを選び、強制することなど我には出来ぬ」
改めて結論を言う。これは本当の思いだ。誰もが苦しまない選択肢があればいいのだが、実現する可能性は殆どないだろう。
だが、殆どないと言うことは、僅かながらあると言うことだ。
「我は。待つことを選んでいる」
我はその可能性を信じている。無駄に終わるかも知れない。終わりなど来ることもなく待つことになるかも知れない。
「でも、それって大変なことじゃ……」
ウリユが悲しみと驚きの入り交じった顔でこちらを見つめる。見えていないことは分かっているが、その視線を真正面から受け止める。
「確かに苦しいことだ。だがな。待たぬ事も同じように苦しいはずだ」
迷いは拭えない。だがゴンベエを……実際に裏切るわけではないのだが……裏切る事の方が苦しい。
「我はいつまでも待つ。我の意識が続く限り、な」
この言葉は自分自身に言い聞かせていたのだろうか。誰に対して言ったのか、我自身でも分からなかった。
「私は……」
言いよどむウリユに、どのような言葉をかければいいのだろうか。顔を伏せ、深く思考をしているようだ。
雨の音が強くなったような気がする。晴れ間が見えるのはもう少し先になりそうだ。

長い長い沈黙の後、ウリユがそっと口を開いた。
「私、ゴンベエお兄さんのことは忘れない」
顔は伏せたままだが、その声には強い意志を感じる。
予言ではない。これはウリユの意思だ。時として人の意思は未来を変える。

「でも、もしかしたらずっと待っていられないかも知れない」
少し揺らいだ声からは、迷いよりも痛々しいほどの悔しさがくみ取れた。我も考えたことがある。
もしも自分が居なくなった後、ゴンベエが帰ってきたら。
もしも自分が待てなくなった後、ゴンベエが帰ってきたら。
もしも帰ってこなかったら。
分からないことは、恐ろしいことだ。
ウリユは未来を知ることが出来る。故に、何が起こるか分からない状況にあまり馴染みがない。
我よりも苦しみは大きいはずだ。
「だから、私も待てるだけ待ってみる。もし待てなくなっても……それでも絶対に忘れない。」
芯の通った、強い意志を感じさせる話し方だった。
真剣な表情のウリユを見て、穏やかな気分になった。
「ごめんね、なんだか逃げてるみたいで……」
「そんなことはない。安心した。この世界にもゴンベエの故郷がある」
困ったように笑うウリユに本心を伝える。
心の底から忘れないと言ってくれたことが、やはり嬉しかった。

雨の音が弱くなり、日の光が見えてきた。
もうすぐ晴れるだろう。ウリユもそのことを感じ取ったのか腰を上げる。一度伸びをしてからハーネスの準備をする。そろそろ出発すれば夕方頃にはリーリルに着くだろうか。
「シズナお姉さんは、大丈夫かな。私よりずっと深刻だよね……」
ハーネスを持ちながらウリユが呟く。少し疑問に思って問うてみる。
「予知出来ないのか?」
「あ。そっか」
うっかりしていた、と言うように口元を手で覆う。その姿を微笑ましく思った。
「クロウさんの未来が見えないから、予知するって事忘れてたのかな」
ウリユが笑ったので我も笑った。シズナの未来を知ることを恐れていないようだ。どうやら、自分の中のシズナの姿を思い出し、信頼しているのだろう。
「安心してくれ。オーバに頼んだ。」
オーバなので若干不安ではあるが、自分の孫娘の悩みだ。ウリユの言葉にも感銘を受けていた。恐らく大丈夫だろう。
シズナにしてもウリユを見ていれば、どのように考えればいいのか、を見抜くことが出来るはずだ。シズナはもともと強い意志を持っている。それが裏目に出てしまっていたのだが、もう大丈夫だろう。
「あれ?シズナお姉さん。」
ウリユが口にするのと足音が聞こえたのは同時だった。若干迂闊ではあったが雨で匂いが流れてしまい、その接近を知ることが出来なかった。
洞窟の入り口には、シズナが立っていた。マントの水滴を払いながら、こちらの姿を見付けて安堵したように笑いかけてくる。
「良かった、ここで会えて」
お互いに頭を下げて挨拶をする。ウリユの表情は穏やかだ。
「オーバさんこれをあなた達にって」
取り出されたのは祈りの短剣……のようなものだった。若干短く、ナイフのように見える。
「これは?」
「オーバさんが、ガランさんに頼んで作ってもらったんです。ウリユさん達のために祈りの短剣を打ち直して、ナイフにしてくれって……もしよろしければ、使ってくれませんか?」
シズナは我を見た後、ウリユにそのナイフを差しだした。
儀式のために使うよりは実際に刃物として使った方がいいいと判断したらしい。シズナの説明を聞いて納得できた。
オーバはあのような性格をしているが、根は恐ろしく真面目のようだ。それでいて優しさを持っている。
普段表にはあまり歓迎できない部分が出ているのだが……。
ウリユは躊躇っていたが、少し考えてから受け取って礼を言った。我も礼を言い、ガランによろしく伝えておいて欲しい、とシズナに頼んだ。
「シズナお姉さん」
ウリユの呼びかけにシズナは、はいと返事をした。
「ゴンベエお兄さんのこと、大丈夫みたいだね」
シズナは少し目を閉じてややあってから頷いた。開いた目は穏やかだった。ウリユには見えていなかったはずだが、ウリユもまた頷いた。
シズナがどのように”大丈夫”の意味を捉えたかは分からないが、ウリユと同じ結論を出したのだろう。
「クロウさん、一つお願いがあります」
「我に出来ることならば」
頷き、シズナを正面から見上げる。と、シズナは膝をついて我に目線を合わせてから言葉を紡ぐ。
「もしもゴンベエさんに会ったら……ううん、会えたら。”会いに来てください”って伝えて欲しいんです。」
「……心得た。」
強がるでもなく、心折れてしまうわけでもなく。忘れてしまうわけでなく、縛られてしまうでもなく。
シズナの心の強さを”ゴンベエへの伝言”で確信し、万感の思いを胸に了解する。
元より会えればゴンベエに伝えるつもりだったが、言葉として言われて改めて己の心に深く刻む。己に言い聞かせていると、シズナはくすくすと笑いだした。まさかそこまで本気で了解されるとは思わなかった、とのことだ。人

の頼みは真剣に聞くのが筋という物だ、と言うとウリユまで笑い出した。
嫌な気分ではないが、何か不満だ。

「ウリユさんもクロウさんも気を付けて。」
木々の葉の隙間から見える太陽がまぶしい。目を細めながら振り返り、頷いた。
「良くここに居ると分かったな。しかも雨の中を……大変だったのではないか?」
言い忘れていたことに気が付き、感謝と申し訳なさを伝える。もしかしたら雨の中を――かつてゴンベエがしていたように――捜していたのではないだろうか。
シズナは首を振って答える。
「オーバさんが教えてくれたんです。占いと言うよりは、予測していたみたいですよ。」
成る程。ゴンベエとともにオーバの手の平の上で転がされてしまったようだ。気のせいだろうか。
洞窟の外でシズナと別れることにした。また森へと向かうそうだが、今度は木の実を集めるそうだ。シズナにも野犬やコウモリに気を付けるように言うと、そのくらいなら大丈夫と言われた。頼もしい。
いい顔で笑うようになった。このような顔が見られるようになっただけでも、聖印を返した価値がある。
「今度シイルに遊びに行きます。」
「はい。楽しみにしています。」
二人は笑って約束していた。ウリユもシズナの家に遊びに行きたいと言っていた。それはきっと叶う夢なのだろう、と何の理由もなく思った。
今の世界ならば、きっと叶う。

晴れた空を見上げてから、ウリユを促して一歩踏み出す。

ゴンベエ、お前の故郷は平和だ。
今はいない者と、今いる者が作った平和。
願わくば、この平和が長く長く続くことを……。

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