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春風 <もげ> 12/18 (01:02) 7713
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7713
春風 by もげ 2008/12/18 (Thu) 01:02
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 まえがき


 他人の世界と自分の世界には目に見えない確かな境界線がある。
 生活環境、趣味嗜好、行動理念、容姿風貌、立ち位置。
 10人がいれば10人の、100人いれば100人の世界がある。
 そして、そこに立ち入ることは出来ない。
 家族という密な共同体であっても個の世界を共有することはない。
 絶海の孤島のように閉じ、隔絶された個人の境界。
 果たしてそれは「孤独」ということなのだろうか……。



 この物語ではこの問いに満足いく答えを提供できると考えています。


 ……嘘です。


                                          2008/12/15 もげ















  春風















 <異世界 ---1--- >



 『我思う、故に我あり』っていうのは、いったい誰の言葉だったっけ?
 ショーペンハウアーか? ビンスワンガーとかヤスパースとかだっけ……解析幾何学の創始者だったよな、確か。
 世の中のあらゆるものは疑えるが、そうして疑い考えている自らの存在は決して疑い得ない。
 懐疑による自己存在の肯定である「考える我」の確実性を表す命題だ。
 ようするに方法的懐疑の末に導き出された「自分は確かに存在します」という哲学の根本原理なわけだが。
 そんな絶対的理論を以てしても、限りなく不確かな俺の存在を肯定することは難しい。何故なら。
 

 身体が存在しないから―――


 試しに手を動かしてみる。感覚は無く、当然のように手は動かない。
 そもそも、動く手も、それを確認するべき眼球すら最初から存在してはいなかった。
 立体的な現実感はそれこそ皆無。
 にもかかわらず周囲が暗く、光の玉のようなものがぼんやりと漂っているのが分かるのだ。
 我ながら訳が分からないのもいいところだったが、あくまで俺は冷静だった。
 不思議なもので、あまりに意味不明な事態を前にパニックとは逆方向の心理が働いていた。
 とりあえず、断片的にもたらされた情報から思考を敷衍させ、解答を類推するしかないだろう。
 可能性として考慮するならば……。

 @これは夢である。
 A知らずに幽体離脱していた。
 B実は死後の世界に来ている。

 我ながら陳腐過ぎると自分自身に呆れるが、思い浮かんだ解答はこの程度だった。
 出来れば@であってほしいが、ここまで意識のハッキリした夢なんて見たことが無い。第一、俺はあまり夢を見ない方だ。
 ならAの幽体離脱か。確かに俺ほどになると魂の一つや二つは知らずに遊離していてもおかしくない気もする。
 Bは…考えたくない。否定したいけれど、根拠もない。可能性がある以上、それは視野に入れてしかるべきだと思う。
 何せ身体が存在していないのだ。これは肉体が既に死滅していることを示唆しているのでは、と不吉な考えがふっと浮かんで。



【意識の海を漂う、そこの貴方。私の声が聞こえますか……?】



{で、出た―――ッ!!}
 もしも身体があったら口から霊的物質(エクトプラズム)でも吐き出していたかもしれない。突如として聞こえてきた謎の声は、俺を震え上がらせるには十分すぎた。
 そのうえ声は女性のもので、それが余計に不気味な想像をかき立てる。
 仮に「一枚足りない」とか言われたら肉体の有る無しとは無関係に卒倒しそうだった。


【出た? 私の存在を認識していたということですか? ―――なるほど、ただ者ではありませんね】


 俺の悲鳴を、果たしてどのように受け取ったのか。
 謎の声は感心したように呟くと、心持ち期待を込めた声でさらに言葉を続けた。


【私はリクレール。トーテムに呼び覚まされし全ての生命を導く者です。
 貴方がこの世界に降り立つ前に、いくつか教えていただきたいことがあります】


{質問してもいいかな―――!?}
 この展開はヤバイと即座に看破し、俺は意識的に疑問を謎の声…リクレールに投げかける。
 『この世界に降り立つ』という言葉も鳥肌ものだが、それ以上にその有無を言わさぬ強制力に焦りを感じた。
 例えるならそう、人民の訴えを無視して独善的な改革を推し進める政治家に似ている気がした。


【ええ、構いませんが……?】


 俺からの質問は予想外だったのか(俺は質問が成立したことに驚いていた)、意外そうに言う。
 しかし、こっちもそれを気にしていられるほど余裕があるわけではなかった。
{自分でも状況把握できてないし、なんて質問すればいいか分からないけど……まず、ここは何処かな?}
 この辺りが妥当な質問だろう。ここがどういった場所なのかが分かれば、後はそこから現状を推察すればいい。
 あぁでも、「死んだ霊魂が集まる場所です。今日から貴方もここの一員ですよ」とか言われたらどうしよう。
 まぁ、気を失えば逆にこっちのものという考えもできなくはないんだけど。


【ここですか? 『意識の海』と呼ばれるところです】


{あ、そうなんだ。なるほどね。イシキノウミ―――}
 もしも身体があったら為す術なく首をカクカクと縦に振ることしかできなかったに違いない。
 とりあえず俺の理解が及ばない場所だということだけは分かった。光が消えた。そんな気がする。
 意気消沈する俺を、リクレールは特に気にしてもいなかった。冷たいのか、感情の機微に鈍感なのか。「質問を続けてもよろしいですか?」という問いに、渋々ながら肯定の意を示す。
 もうヤケだという気もあったし、質問から何か糸口が掴めるかも、という浅はかな楽観もあった。もう何でもどんとこい、だ。


【まず、貴方の性別を教えてください】


 そういえば解析幾何学の創始者はデカルトだったな。
 さらに状況を混迷させる言葉を聞きながら、今さらながらに思い出していた。





 <現実世界 ---1--- >



 檻の中に納められたライオンが、ちらりと眠そうな視線を私に向けた。
 平日の動物園は想像以上に空いていて、園内はしんと静まりかえっていた。時折、自己主張をするような動物たちの鳴き声がどこからか聞こえてくる。
 最初から学校をサボるつもりはなかった。
 ちゃんと制服を着て家を出たし、定刻通りに上りの電車にも乗ったのだ。ただ、何となくそこで学校に行くのが億劫になってしまった。
 二つ先の駅で降り、少し時間を潰して、この動物園に来た。受付の係員はあからさまに迷惑そうな顔をしていたけれど、代金を払うと低い声で「ごゆっくりお楽しみください」と機械的に発音した。
 つまらなそうに大あくびをするライオンに「お互い退屈だね」と心の中で呟く。
 長方形の檻は自分の生活の暗示にも思えて、嫌になる。
 ライオンが小さく首を振った。オマエなんかまだマシだぜ、と言っているようにも見えた。オレを見物するくらいの自由はあるじゃねえかよ、と。
 あんたこそ、何もしないでいる自由があるくせに。私は目線で、言い返す。
 お互い退屈だな。前足に顎を乗せたライオンが、低く唸った。


 ライオンの檻を通り過ぎてからも、順路通りに歩いていった。地方の動物園にしては広い方で、管理も適切に為されているようだった。派手な装飾もサービスもないけれど、その分落ち着いて見回ることが出来る。客入りが少ないせいか、のんびりした雰囲気も快かった。
 一つの柵の向こう側に、もこもことした動物が三匹ほど無邪気に動き回っているのを見つけて、私は思わず足を止めた。説明書きの書かれた看板には『レッサーパンダ』と大きく書かれている。可愛らしいイラストも添えられていた。
 しばらく、見つめていた。ぬいぐるみがそのまま動き出したようなレッサーパンダはどこまでも愛くるしくて、私の表情も自然と緩む。

「ああ、レッサーパンダは本当に可愛い」

 とそこで、いつの間にか私の隣にいた青年がうっとりとした声で言った。掴んだ手摺りから身を乗り出すようにして、無邪気にじゃれ合うレッサーパンダを優しげな表情で見つめている。
 驚くべきはその青年が学生服を着ていたことで、私は反射的に「あ」と声を出した。あ、ここにも暇なやつがいる。
「え?」横からの声に驚いたのだろう。彼は弾かれたようにこちらを振り返った。ちょうどよく、視線が噛み合う。
 背が高い割に肩幅が狭く、細身な体つきだった。くっきりとした目鼻立ちが印象的で、中性的な美しさがある。私は一瞬戸惑ったけれど、すぐに気を取り直して声を掛けた。「高校生?」
「高校生」反復することで肯定したらしかった。「そっちこそ、高校生だろ? どこの高校?」
「県内の」私は適当に答える。
「何高校?」
 私が高校の名前を口にすると、彼は驚いたように目を見開いた。「すごい偶然だ」と笑う。
「まさに、今日から俺が転入した高校じゃないか」
「こんな時期に転入生?」
 少し驚いた。まだゴールデンウィークが開けたばかりで、転入生のシーズンとは言い難い。
「こんな時期に転入生」また反復で肯定する。「詰め襟って初めて着たけど、案外軽いんだな」
 彼は私の反応を楽しむように明るく笑って、よく見れば新品らしい学生服を親指で示した。
「転入生が学校サボっていいわけ?」自分のことを棚に上げて、私は呆れた。「初日なんでしょ、今日」
「転入初日はサボっちゃいけない、なんて法律がどこにある?」
「法律にはないだろうけど、常識にはあるんじゃないの」
「俺は常識に囚われない存在なんだ」おどけた調子で言う。
「じゃあ、法律は守るんだ?」
「冗談だろ」彼はにやりと、意地悪く笑った。「法律と政治家は大嫌いだ」
「不良だね」
「善良だよ。善良だし文化的だ。平日の午前中から動物園を訪れるくらいには」
 どこまで本気なのか、彼は芝居がかった仕草で自分の髪を撫でつけた。自信たっぷりなその表情に、私はまた呆れる。
「そもそも偉そうに言ってるけど、そっちだってサボりじゃないか」思い出したように彼が言った。「言える立場じゃない」
「今さらだね」本当に今さらの指摘だった。
「学校に行きたくない理由でもあるとか?」
「そうじゃない。ただ少しだけ考えてみただけ」
「考えてみたって、何を?」
「自分は学校に行きたいのか、動物園に行きたいのか」私は薄く笑う。「つまり、そういうこと」
「ああ、そういうことか」彼は満面に笑みを浮かべた。目尻に、可愛らしい皺が寄る。
 そんな私たちのやりとりを、3匹のレッサーパンダが興味深そうに見つめていた。




















 あとがき


 はじめましてもげです。はじめましてじゃない人はお久しぶりです。お久しぶりでもない人はチャオ(笑)。
 色々と思うところがあり、また時間もなく更新を無期停止していた「春風」再々始動です。
 理由としては途中で投げて自分的にどうなのよっていうのと、見てみたら案外面白かったからです。
 とにかく時間がかかっても気力が無くなるまでは何とか頑張ろうと思います。5話までは細部修正だけなので楽です。
 
 また、このお話は構成が特殊なので戸惑った方もいるかもしれません。
 基本的にこれは異世界(幻想譚)と現実世界(オリジナル)を交互に描く形で進行していきます。
 それぞれ主観となる主人公が異なっていますので、割り切ってみると案外楽しいかもしれません。
 1話の段階ではどちらも中途半端すぎて分かりづらいでしょうが、仕様なのでご容赦を(笑)。

 こんな文章をここまで読んでいただけて本当に幸せでした。出来れば感想など貰えたら嬉しいです(ぉ)。
 それでは駄文ですがこれにて。もげでした。


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