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春風 <もげ> 12/18 (01:02) 7713
  春風 ―2 <もげ> 12/15 (21:51) 8010
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  感謝! <もげ> 05/12 (12:53) 7733
  感想でございますー。 <風柳> 07/29 (23:15) 7827
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  感想です。 <風柳> 08/19 (23:41) 7843
  感謝ですね <もげ> 08/26 (11:07) 7848
  感想です <風柳> 10/28 (19:08) 7908
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  感謝でおじゃる <もげ> 12/18 (01:40) 8014
  感想ザマース <asd> 12/24 (00:27) 8027
  感謝します <もげ> 12/24 (23:47) 8028
  やーわらかっ感想の心は一つ♪ <asd> 01/18 (02:12) 8032
  感想 <鳩羽 音路> 03/13 (18:01) 8043
  感謝 <もげ> 03/14 (15:27) 8044

8018
春風 ―4 by もげ 2008/12/21 (Sun) 19:59
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 <異世界 ---4--- >



 硬い石材を張り巡らせた城壁は、堅固さを絵に描いたように城の四方を囲っていた。
 何者をも拒むかのように重く寒々しいその威容から、受ける印象はむしろ牢獄に近い。
 大陸に唯一無二の城塞は、城主の名を冠し「バーン城」と呼ばれている。…らしかった。
 城主、つまり王族は何代も続いた由緒ある血筋で、これが大陸を統べる役割を担っているそうだ。
 特にその居城は立法・司法・行政の全てを取り仕切る大陸の中枢として立派に機能しているという。
 なんともまぁ、驚くほど単純な世界構造だな。笑える。
 それはつまり、取りも直さずこの世界が王制によって統治されていることを意味しているわけで。
 民主主義国家となって久しい我が国から見れば珍しい体制に興味を示した俺が、足を運ぶのも当然と言えば当然だった。
「しかしまた、ネガティヴな場所に城を構えたもんだな」
 山河に囲われるように注意深く屹立する城壁に感心しながら、呟く。
 かつて鎌倉幕府は天然の要害に城を構えたと聞くけど、同じ要領なのだろうか。
『ネガティヴとは小賢しい表現を用いるものだ』クロウが小さく鼻を鳴らす。
「だって、やたら守りやすそうな位置に城があるだろ」
『守りやすいのは結構なことだと思うがな、我は』
「結構なことね…」城の外観を見上げながら、ため息。「敵の存在かぁ……」
 守りを視野に入れるということは、つまり攻められる前提があるということだ。 
 人々をすべからく統治している順風満帆な中央集権国家が防御を考慮せざるを得ない敵。

「トカゲ人間、だろうな…」

 おおよその見当は付いていた。
 人類をあからさまに敵視していた異形のヒトを、俺はこの目で見たのだから。
 強靭な肉体と優れた文化、そして人間と同等の知性を持った人間とは違うもの。
 彼らがこの世界の人々共通の敵であることは想像に難くない。
 他部族との諍いを元に起こった戦争はこちらの歴史上においても何度も顔をのぞかせる。
 闘争の歴史は、かいつまんで見れば相違と不理解の積み重ねが育んだ歴史に他ならない。
 肌の色や言語文化、宗教感の違いでさえ、人はそれを拒絶し争いを続けてきた。
 それが完全な異人ともなれば、もはや言語道断のどころ話じゃない。
 対立は目に見えている。
 そして、それは彼らの側からしても当然の認識に違いなかった。
「なぁ、クロウ?」俺は肩を落とす。「ヒトってのは、ままならないもんだな」
『それがヒトというもの、らしい』
「リクレールの受け売りか?」問いかけると「ああ」と頷く。
 彼女の目から見ても、彼女の力を以てしても、ヒトってのは立ち行かないものなのか。
 むずかしいな……。
 ガラにもなく熟考する俺を嗤うように、陽気な風が辺りを吹き抜ける。


 城を訪れた理由は分かり易く大別して二つあった。
 一つ目は先に述べたとおり、異世界の国家機構に文化的な興味関心を抱いたため。
 そしてもう一つが「エージス」という男の行方を調べるため。そういうお題目だった。
 最初に訪れた町(サーショというらしい。ギャグか)の詰め所に勤めていた兵士たちが話し合っているのを俺は偶然にも聞いていたのだが、それが実にきな臭かった。
 曰く「王様から魔王討伐を依頼された隊長のエージスが不自然なカタチで姿を消した」のだという。具体的には多少の差異があるけど、要約するとこういう内容になる。
「…エージスは詰め所に戻る予定があったにもかかわらず、王城を出た後唐突に姿を消した」呟いて、状況を頭の中に思い描いてみる。
 タイミング的に考えて城を出た直後あたりに何らかの危険に遭遇した可能性が高い。けれど、かと言って魔王討伐を依頼されるほどの人物がそう簡単に事件事故に巻き込まれるとも思えない。考えられる限り最も現実的なのは―――。
「誘拐か暗殺、かな」自分で言って、思わず吹き出してしまう。「いや、この二つがこれほど似合わない世界も珍しいな」
 微量ながら主観的に得たこの世界の印象からして、陰性のドロドロした駆け引きが行われている場面というのは非常に想像しにくい。
 ただ、現実としてエージスって人は姿を消したんだし…うーん。
『単純に詰め所に立ち寄るのを忘れたという可能性もあるのではないか?』クロウが最もらしく言った。
「あのな、軍隊ってのはそんなに甘い世界じゃないんだよ。隊長ともなれば部下への規範も示さなきゃならないし、『忘れた』なんて通用するわけないだろ」ヘタすれば命令不服従とかで銃殺もあり得る。
『む……確かにそうだが』
「ま、とりあえずエージスって人の足跡を追うのが1番だな。城で話を訊いてみようか」
『それはいいが、おまえにしては意外なほどやる気があるのだな?』
「別に。少しだけ気になっただけだ」
 兵士達の話を聞いたとき、違和感というか不信感が頭の隅に浮かぶような感覚があった。
 そういうものを野放しにしておくのは、精神衛生上あまりよくない。それだけの話に過ぎなかった。
 緩やかな風を頬に受けながら、城壁の正門に足を運んだ。
 開け放された門の向こうには守兵と思しき人間が二人、武装した状態で堂々と立ち尽くしている。
 立ち位置と表情からして、歓迎的でないことは一目瞭然だ。
「何か用か?」向かって右側、比較的背が高い方の男がこちらに気付いた。
「いや、少し用事があってさ」俺はやんわりと口を開く。「中に入れて貰いたいんだけど」
「悪いが、王様の命令でな。今は決められた人間しかこの門を通ることはできない」
「その中に俺は含まれてないわけ?」
「残念だが、含まれていないな」
 軽く溜息を吐いた。まぁ、含まれてたら含まれてたでリアクションには困る。
「ただ、城内の誰かへの言付けなら頼まれてやってもいいが」
「え、いいの?」
 反射的に聞き返してしまう。思っていたよりも親切な守兵だ。
「ああ、それでいいなら構わないぞ。大した手間にもならないしな」
「そうか。親切なんだな、アンタ」
「よせよ」ノッポの守兵はむず痒そうに鼻を掻いた。「で、言付けは?」
「いや、言付けを頼むほどの用事じゃないんだ。悪いんだけどな」
 城内の人間に知り合いなんていないし、仮にいたとしても言葉のやり取りだけでは必要な情報は得られない。これに関しては自分で調べなければ意味がないのだ。
「そうか? なら、いいんだけどな」ノッポは少しだけ残念そうだった。
「まぁ、ありがとうな。それじゃ」俺は守兵に礼を言うと踵を返し、その途中ではっと振り返る。「ああそうだ。ちょっと訊いてもいいか?」
「なんだよ?」
「エージスって人、今頃どこにいると思う?」
「サーショのエージス隊長か? 一週間くらい前に魔王討伐の命を受けて旅立ったらしいけど、どうだろうなぁ。今頃はムーかシイル辺りにいるのかもな」
 ノッポは視線を宙に浮かせ、思案する顔つきになった。思ったとおり城の連中にはエージスに関しての情報が伝わっていないらしい。
「ムーかシイルか……それは遠いな」俺はさも知っているかのように呟く。地名だとだいたいの見当はついた。
「だな。ムーなんてここからずーっと南下しなきゃならないし、シイルへは橋が壊れてるから大陸をぐるっと一回りする必要があるし…」
「案外、近場にいたりしてな」
「可能性はあるんじゃないか? 魔王がどこにいるのかはよく分かっていないし、もしかしたらリーリル辺りにいるかもしれない」
「リーリルか。ちょっと南に行った辺りにある街だったな?」
「そうだ。あそこの近くにはトカゲ人間の砦もあるし…」言いかけて、ノッポは気付いた顔になった。「用って、エージス隊長にか?」
「まぁ、近いな」正確には、エージス本人というより周りの情報に用がある。
「それじゃ、もし隊長がここに来たら伝えといてやるけど?」
「いや、自分で会わなきゃ意味がないんだ。ありがとな」俺は苦笑しながら、首を左右に振る。「それじゃ、もう行くから」
「ちょっと待てよ」歩き出した背中に、後ろから声を掛けられた。振り返ると、ノッポが無骨な長方形の塊を持っている。「アンタ、旅人だろ? これやるよ」
 渡されたのは、ずしりと重いチョコレート……だった。非常食だ。
 俺が苦笑しながら礼を言うと、ノッポは「頑張れよ」と白い歯を覗かせた。
 まったく、どこまでも親切な守兵なのだった。





 <現実世界 ---4--- >



 それほど大きな動物園でもなく、サービス精神という現代の商業に欠かせない心遣いも無かったけれど、それでも園内を見終わる頃には、時計の針は午後の2時を示していた。
 順路は時計回りに作られていて、終わりまで歩いていくと出入り口前の広場に出るようになっていた。近くには売店や軽食店などが軒を連ねている。この時間だからか、どの店もそれなりに賑わっているように見える。
「いや、それにしてもアライグマは可愛かったな」
 とりあえず売店に入り、ぬいぐるみなどの商品をぼんやりと眺めていると、彼がうっとりとした表情で言った。
「うん…まぁ、すごく」私はぼんやりと強く肯定する。
 アライグマの飼育場は順路のちょうど中間地点あたりにあった。人の腰より少し上くらいの位置に柵が張り巡らされていて、その向こう側に小さな池と芝生のスペースが設けられていた。
 飼育員から貰った餌を器用に「洗う」アライグマたちは本当に可愛くて、それを見ている間、私はとても優しい気持ちになった。それは彼も同じだったらしい。
「でも、アライグマって元々は夜行性なんだけどな」彼はさっきから同じことを言っている。まだ納得できないらしい。
「訓練されてるんでしょ。夜だけ起きてても意味ないし」
「郷に入っては郷に従えってヤツ?」
「そう、それ」
「納得できない」彼は子供がそうするみたいに、大げさに顔をしかめた。「俺はありのままの動物たちが見たいんだ」
「ありのままって、たとえば?」
「夜行性の動物は当然、寝てる。ライオンは狩りのとき以外は寝てるから、やっぱり寝てる。マンドリルは跳ね回っているべきだし、コンドルは屍肉を食べているべきだ」
「それ、もう動物園じゃないよ」彼の幼い発言に呆れと尊敬を感じながら、私は軽く笑ってみせる。「動物の王国って感じ」
「動物の王国、かぁ」彼は夢見るような表情になった。「行ってみたいな、それ」
 …北海道に実在するよと言ったら、どんな顔をするだろうか。


 そうやってしばらく店内をうろうろと見回っていると、その内に中年の女性店員に捕まり、店を出る頃には私の携帯にレッサーパンダのストラップが、彼の右手にはインスタントカメラがそれぞれ備わってしまっていた。
「近頃の売り子さんっていうのは、みんなああいった感じなのかな」インスタントカメラの包みを解きながら、彼が愉快そうに笑った。「押し売りの一歩手前みたいな印象を受けたけど」
「どうかな。裁判になったら勝てるような気もするけど」
 溜息を吐きながら、ストラップのレッサーパンダを指でつついてみる。ぬいぐるみの手触りはふにゃふにゃしていて、意外と心地いい。
 
 売り子の中年女性の勤労ぶりと言ったらなかった。

 制服姿で商品を眺める私たちを見るなり『あら、あなたたち学生さん?』とすぐに声を掛けてきた。礼儀や気配りを少しも感じさせない、世の中の酸いも甘いも噛み分けたヒト特有の馴れ馴れしさだった。
 女性は彼の顔を見るなり『格好いい』と称賛し、私の顔と恰好を見るなり『可愛い』と睥睨するような目で礼賛した。『平日にデートなんて羨ましいわね』と激しく激しい勘違いを口にして、大きな声で笑った。
 彼は困ったような顔で私を見たけれど、私も困っていたのだからどうしようもない。仕方なく『あの、僕たちは別にそう言う関係では』としどろもどろに弁解したのだけど、女性は『恥ずかしがることないのに』と分かり切ったような顔で(実際には何も分かってないのだけど)目尻に深く皺を寄せた。
 さらに、女性はその敏腕ぶりを発揮する。彼に詰め寄ると『彼女とのデートにプレゼントの1つもしないなんて、男が廃るわよ』とよく分からない理屈を口にして、商品の購入を促し始めたのだ。慣れた言い方だったので、実際に慣れていたのだろうと思う。
 彼は困り果てたような顔をしていたけれど、私はもっと困り果てていた。―――彼女って、なに。
 結局、女性の怒濤の販売口撃(誤字じゃない)に耐えきれず、私は彼にストラップをおごって貰うという苦渋の選択を余儀なくされたのだった。彼の方も『デートの記念に必要』という意味不明な理由でインスタントカメラを買わされていた。
 広場に戻ると、アイスの屋台が目に入った。今ではすっかり珍しくなった、くたびれたソフトクリームのプラスチック模型が脇に設置されていて、独特の歴史と哀愁を感じさせる。
「そういえば、ソフトクリームが食いたいな」
 私の視線の方向に気付いたのか、彼が思い出したように言った。
「そうだね。食べたい、かも」気付かれたことへの恥ずかしさを感じながらも、私は同意する。
「じゃあ、ちょっと行って買ってくるよ」
「いいよ、私が買うから」歩き出そうとした彼の腕を引いて、言った。ストラップに関しては少なからぬ負い目があった。「ソフトクリームくらい、おごるよ」
「そう?」彼は私の反応を楽しんでいるように、にこりと笑う。「優しいなぁ、奈緒は」
 私はむっとしたが、何とか表情だけに留めた。彼はまだ楽しそうに笑っている。
「種類についての希望があるなら聞くけど?」
「普通のがいいな。スタンダードのやつ」同じ意味のことを2回言う。
「分かった。ちょっと待ってて」
 私はバッグの中の財布を確認すると、ソフトクリームの屋台に大股で近づいていった。


 私はすぐに理解した。動物園内という閉塞空間において、あらゆるものは足元を見る料金設定になっている、と。
 一個500円という冗談としか思えない値段のソフトクリーム(無駄に大きい)を両手に持って戻ってきた私を、彼は爆笑という名の歓声で迎えてくれた。殴りたい。
「すごいな、それ。ソフトクリームっていうより」彼は、どう考えても食べ物を形容するものではない単語を口にした。「折り畳み傘みたいだ」
 確かに、コーンから白い尖塔の如く佇立しているソフトクリームは一見して畳んだ状態の傘に見えなくもない。
 怪獣みたいなソフトクリームを彼に渡す。
「ありがたく食べて。500円もしたんだから」
「500円も?」彼は呆気に取られた顔をした。「ストラップは480円しかしなかったのに」
「嘘でしょ」なに、その出鱈目な料金設定。
「すごい動物園だな」彼は言いながら、ソフトクリームに口をつける。「あ、美味い」
 私も自分のチョコソフトを軽く舐めてみた。……うん、悔しいけど、美味しい。
 しばらくの間、お互いに言葉は交わさなかった。ソフトクリームを食べるという単純な行為も、敵がここまで巨大になると一筋縄ではいかない。ひたすらに食べ続ける様子は、もはやソフトクリームとの格闘と言っても過言ではなかった。
 20分という時間をかけて、ようやく2人とも怪獣ソフトを完食した。
「あと3ヶ月はソフトクリームを食べなくていいな」彼が吐き出すように言った。「キツい」
「そっちはまだいいよ。こっちは…」チョコはさすがにこってりとしていた。「限界」
 幸い、広場には長方形のベンチが設置されていた。私たちはそれが暗黙の了解であるかのように、2人並んでそこに座る。
 同時に、歩いているときには感じなかった疲れがどっと押し寄せてきたような気がした。
「今日は楽しかったよ」彼も疲れているらしいけど、私よりは平気そうに見える。「奈緒のおかげだ」
「……あ、そう」面と向かって言われた言葉に、私は慌てて顔を背けた。
 彼の整った顔立ちは、真っ向から直視すると心臓に悪い。
「でも別に、私のおかげでも無いと思うけど」ちらりと横目で彼を見ながら言う。「偶然っていうか、成り行きだったわけだし」
「偶然とか成り行きの方がドラマチックじゃないか」彼は嬉しそうに笑っていた。「嘘じゃない気がする」
「嘘じゃない気がするって?」
「ホントっぽい気がする」
「表面上の意味なんて訊いてない」私はむっとする。
「俺も、口では説明しづらいんだよ」彼は困ったように笑った。「とにかく、俺は奈緒にありがとうと言いたいわけだ」
「それは、どういたしまして」やっぱり目線を逸らしながら、私。「まぁ、私も暇つぶしになったし」
 彼はにこりと笑うと、ベンチから腰を上げた。
「なぁ奈緒。今日の記念に、あれやらないか」何かを指さす。
 指の先に視線を向けると、そこには白いパネルがあった。比較的上の方に丸い穴が穿たれている。
「あれは、なに」答えは分かっていたのだけど、あえてそれを口に出す勇気がなかった。
「記念写真用パネルの裏側だな。あそこから顔を出すと表に描かれたイラストと自分の顔が一緒になって、大変コミカルな写真が撮れるという趣向の代物」
「それで?」私は頼むそれ以上は言わないで、と心の中で念じながら先を促すという離れ業をやってのけた。

「2人で撮ろう」

 彼は淡々と、それを口にした。
「嘘でしょ」まさかこの歳にもなって、記念写真も何もないだろうに。
 そんな私の呟きを無視して、彼は通行人の老婦人に「撮って貰えますか」と手際よくインスタントカメラを渡していた。
 手を引かれて、パネルの後ろへ連れて行かれる。嬉々とした表情で彼が左側の枠に顔を入れた。右手で、私を手招きする。
「嘘でしょ」もう一度言う。
 気が付くと、シャッターが下りる音が鳴っていた。嘘じゃない。彼が幸せそうに笑っていた。




















 あとがき


 時間があることと予定がないことは同じではないと思うんですよ。そんな感じ。もげです。
 というワケで4話目も無事修正完了です。自分でもどこ修正したのか分かりませんが多分大丈夫(何)。

 とりあえず前からの宣言通り今回はオリジナルパートを長めにしてみました。
 どうでしょう風柳さん。これでもまだ自然な文章だと言えるでしょうか(感想との整合性)。
 今回から両パートとも段々と動きを見せていく予定ですのでよろしくお願いします。

 クリスマスなんて干からびればいいと思います。
 それではご意見ご感想お待ちしてます。駄文ですがこれにて。もげでした。


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