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春風 <もげ> 12/18 (01:02) 7713
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  感想です <冬馬> 05/08 (00:53) 7729
  感謝! <もげ> 05/12 (12:53) 7733
  感想でございますー。 <風柳> 07/29 (23:15) 7827
  響け感謝、届けマイソウル <もげ> 08/03 (11:38) 7833
  感想です。 <風柳> 08/19 (23:41) 7843
  感謝ですね <もげ> 08/26 (11:07) 7848
  感想です <風柳> 10/28 (19:08) 7908
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  感謝でおじゃる <もげ> 12/18 (01:40) 8014
  感想ザマース <asd> 12/24 (00:27) 8027
  感謝します <もげ> 12/24 (23:47) 8028
  やーわらかっ感想の心は一つ♪ <asd> 01/18 (02:12) 8032
  感想 <鳩羽 音路> 03/13 (18:01) 8043
  感謝 <もげ> 03/14 (15:27) 8044

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春風 ―5 by もげ 2008/12/23 (Tue) 19:50
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 <異世界 ---5--- >



 かりかりかり。小気味よい音を立てて、鉛筆の先端がノートの上を舞い踊る。
 教室内の空気はまるで背骨でも通されたようにピンと張り詰めていた。けして無音ではなく、静寂の中に身を置いている感覚のせいかひどく居心地が悪い。
 いったい何故、俺はこんなことをしているのだろうか。雑多に黒板を占拠していく数式や文字を無心でノートに書き写しながら、気付かれない程度に肩を竦めた。
 好奇心が第一に働いたんだと思う。
 ほんの些細な感情がまずあって、そこに成り行きやタイミングといった要素が加味された。ようするに偶然だ。
 リーリルの街に到着したとき、日は既に中天に差し掛かっていた。
 吹く風は優しく、整理された街並みは心地好かった。周囲に張り巡らされた水路が絶えず循環していて、独特の清潔感が街全体を包んでいた。
 サーショとはまた違った性質を持った街の様子に、多少なりとも浮かれていたのは否定しない。というか出来ない。
 そうして特に何を考えるでもなく街を歩いていたとき、1つの建物が視界に入った。
 『アナトリア理力学校』と銘打たれたそこは、世界でも数少ない教育機関として成立している…らしかった。
 この世界の教育実態、及びその内容に興味を持った俺は―――あとは多分言わなくても分かると思う。
 "初等理力教育"と呼称される学問の授業は非常に複雑かつ高度であり、周囲の学生が8歳未満であることも相まって、俺はその内容を理解することに必死だった。

A「(たびびとさん、まじめだねー)」
B「(うん、まじめまじめ)」
C「(のーといっぱい、とってるね)」
D「(あんなのかいても、わからないとおもうけど?)」
?「(そうだね。理論と実践の間には齟齬があるから)」
D「(セシルくん、むずかしいこといってるー)」
C「(たびびとさん、ほねおりぞんのくたびれもうけ?)」
B「(てゆか、むだぼね?)」
A「(ほねほね〜♪)」

 ……なんかヒソヒソされてる。限りなくイヤな方向に。
 ノートを書く手は止めず、視線だけをチラリと周囲に投げかけてみる。
 見れば5人の子供達が皆一様に顔を寄せ合い、好奇とも宴安ともつかない顔でこちらの様子を窺っていた。
 その様子を見る限りノートを取るという殊勝かつ勤勉な生徒は俺一人だったことが容易に理解できた。くそう。
 しかし内心の憤りはとりあえず抑えて、たまたま目が合った女の子に、にこりと軽く微笑んでみる。儀礼的に。

A「(〜〜〜〜〜ッ!)」
B「(どーしたの?)」
C「(たびびとさん、わらってたね)」
D「(なんか、さわやかだったー)」
B「(たびびとさん、かっこいー)」
C「(おとなのみりょく)」
A「(けっこんしたーい)」
?「(…………)」

 ……どうやらこの世界の子供達のテンションは非常に希有なものらしい。
 現実に生きるIT小学生たちとは、根幹からしてノリのベクトルが違うように思われた。
 限りなく子供らしい、純粋さと微量の背伸びを感じさせる会話は、微笑ましくて。

D「(たびびとさん、またわらったー)」
?「(思い出し笑いでもしてるのかな?)」
C「(さわやかすぎるかっこよさ)」
B「(あのこのはーともいちころさ)」
A「(けっこんしたーいー)」

 ……ノートを取る気が失せたのだけは、確かだった。
 狙い澄ましたように「本日の授業は終了です」と教師の口が動く。


 ―――そうして、放課後。
 学校の授業は午後6時で終了するが、その後に生徒の自習時間として教室が2時間ほど開放されるらしい。この辺りは世界間を問わず常識のようだった。学校が目と鼻の先にあるため、親が心配して出張るということもまずないという話である。
 けれど、もちろん俺には時間的な余裕というものがあまりない。授業終了と同時に速やかに学校を出る予定だったんだけど。

D「たびびとさん、どこからきたの〜?」
C「なんでりりょくをべんきょうするの?」
B「たびびとさんのまんとかっこいいね」
A「あたしのはーと、ときめいてるのー」

 ズラリと俺の周囲を取り囲む4人の子供達。男女比は5:5。ついでに、やや興奮気味。
 俺を捕まえ次々と楽しげに質問をしてくる様子は、転校生を前にした学生のそれと何ら変わらない。
 それは戸惑いと懐かしさを同時に想起させて……少しだけ、困ってしまう。
 仕方なく、というよりかは積極的に、俺は膝を曲げて子供達と目線を合わせた。
『ほう。優しいな、旅人さんは』クロウがおかしげにくっくっと笑う。少し黙ってろ。
「え〜とね、俺はサーショの方から来たんだ。理力を勉強するのは好奇心からだね」にこりと笑ってみせる。「ちなみに、マントは貰ったものだよ」
 年上の余裕を存分に滲ませた俺の返答に子供達は満足したようだった。ぱああ、と目を輝かせる。
「だれにー? だれにもらったのー?」男の子の1人が興味深げに袖を引いた。
「うん、実はね」俺は笑いながら答える。「女神様に貰ったんだよ」
 ええぇ〜! とどよめきにも似た声が上がった。

D「めがみさまにもらったってー」
C「ほんとに、めがみさま?」
B「こいびとかもしれないよ?」
A「そんなのやーだー!」

 目まぐるしいほどの興奮の伝播。やいのやいのと騒ぎ立てる子供達に、堪らず苦笑する。
 無垢で無邪気で、思想やものの見方に囚われなくて。よく言い換えれば自由なんだろう。
 それを羨ましいと感じる自分が妙に年老いて感じるのも、愉快だと言えばそう言えた。
「恋人じゃないよ。ホントの女神様」身振り手振りで説明する。「こう、角とか生えててさ。美人なんだけど」
 外見の綺麗さに反して、どこかが決定的に抜けている。いい意味で人間的だったという印象が強い。
 小首を傾げるリクレールの姿を思い浮かべて、俺はぷっと吹きだしたい心境に駆られた。
「(ひそひそひそひそ)」
「―――って、あれ?」
 へぇ〜と感心しているかと思いきや、子供達は身を寄せ合って何やらヒソヒソやっていた。
 耳をそばだてると流石にクロウの力なのか、小声の密談も聞き取れた。…何々…?
 
D「(―たびびとさん、もうそうへき?―)」
C「(―もしくはむゆーびょー?―)」
B「(―ゆめみがちな、としごろなのかも?―)」
A「(―でも、そんなところにめろめろ〜♪―)」

「…………」
 馬鹿にされてる。圧倒的に馬鹿にされてる。
 夢見がちな年頃の子どもに、夢見がちな年頃と判断されてしまった。
 時折チラリチラリと向けられる寒々とした視線が胸に痛い。1つだけ妙に熱っぽいが。
『…くくく、くくくく……』
 落ち込む俺とは対照的にクロウは笑いを堪えるので精一杯のようだった。
 もしも許されるのならこの場でサマーソルトの1つでもかましてやりたいところだが、今の俺にはそれより優先すべきことがある。
「みんな、お腹減ってない?」ごそごそと道具袋を漁りながら、密着している子供達に話しかける。「俺いま、スゴいの持ってるんだけど」

D「(―すごいの持ってるって―)」
C「(―それも、もうそうだったり?―)」
B「(―でも、なんかさがしてるよ?―)」
A「(―わたちあての、らぶれたーだったり?―)」

 1つだけ辛辣な意見もあったけど食い付きは上々なようだった。
 袋の中を漁っていた指先が目当てのものに触れて、俺はにやりと笑う。
 ゆっくりとそれを引き出す……途中で、盛大な歓声が上がった。
 子供達は既に密着状態を解除していて、その目は期待にキラキラと輝いている。
 鼻息も荒く俺の握り締めた物体を注視する様子は、完全に無邪気そのもの。
「そ、それは……!?」全員がわなわな震えながら、ごくりと喉を鳴らすちびっ子達。
 その視線の先にあるもの、それは。

 大きな大きなチョコレート―――。

 俺の手の中でずっしりとした存在感を示すそれは、重さ約2.5s(ありえない)。
 重戦車の特殊装甲みたいな分厚さと表面積は、既に魔性と言っていい領域に到達している。
 ちなみに俺の知る限り、現実で市販されている板チョコは大きくても80〜100gがせいぜい。
 それだけでこのチョコカイ(※チョコ塊。チョコ怪でも○)の異様さも分かろうというものだ。
 デカデカと「Chocolate」と書かれたパッケージの裏側には、さり気なく光るバーンの紋章。
 ノッポ氏曰く消化効率がよく手早いエネルギー変換に適したこのお菓子は、携帯食として重宝されるらしい。
 さすがに王侯直属の軍隊に支給されているだけあって、無骨な印象を拭えないのが残念だが。
 しかしそれを差し引いても、子供達にとって爆発的な価値を有したものであることは言うまでもない。
 ぱちぱちと瞬きを繰り返し、お互いの顔を見合わせ、ついでに上目遣いでチラリとこちらを確認する。
 俺がにっこりと笑って頷くと―――

「「「「でっかいちょこーーーー!!!!」」」」

 強行軍を彷彿とさせる、突撃。わらわらと俺の周りに集まって、ぴょんぴょん飛び跳ねるちびっ子達。
「落ち着きなって、いま分けるから」
 苦笑というよりも朗笑だった。動物を相手にするみたいに、どうどうと手で制す。
 俺が分厚い中身を素手で割るのに悪戦苦闘している間も、興奮は冷めないご様子で。

D「ちょこちょこ、ちょこだー♪」
C「あまくっておいしくてでりしゃすなかおり」
B「ちょこはとってもきちょうひんなんだって」
A「たびびとさんのあいがつまったちょこほしい〜」

 やはりお菓子を目前にした子どもの反応っていうのは、世界を問わず一定らしい。
 感極まった言葉の端々には、幼いが故の無垢な愛らしさが見え隠れする。
「よし、出来た」まだ飛び跳ねている子供達をよそ目に、何とか等分が完了した。
 半分に割ったチョコをさらに4等分しても、1つ1つが大人の拳ほども大きい。
 まさにチョコカイの名に恥じない怪獣っぷりである。
「ごくろーさまですー」ぺこり、と行儀よく頭を下げるちびっ子達。
 顔を上げれば、キラキラとした8つの目が俺の手元を熱心に見つめて。
 その頭には、既に『妄想癖』という言葉は微塵も残っていないに違いない。
『ちょっと待て、それが狙いか』あーあー、何も聞こえません。
「それじゃっ」どりゃー、と気合いを入れてチョコを渡す。「食べてよしっ!」
「わ〜〜〜〜い!」子供達は、我先にとみんなでそれを受け取って。
 ぱくりこ。

「「「「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」」」」

 まったりとした表情を見せたのだった。
 ……贈賄成功(ニヤリ)。





 <現実世界 ---5--- >



 窓の向こうに、視線を放る。明るい店内から暗い外は見えづらくて、そこには憮然とした表情の自分が映り込んでいるだけだった。
 時刻は午後7時30分。駅の東口から少し歩いた場所にある小さな書店。その店内に設置された壁時計を、私はぼうっと覗き込む。
 「晶」と名乗った彼とは、動物園を出てすぐに別れた。
「同じクラスになったらいいな」と去り際に彼は言っていたけれど、無視した。縁起でもないことだ。
 文庫本のコーナーをぼんやりと眺めて、気になった本をいくつか手に取ってみる。すれ違った婦人に、軽い会釈をした。
 この時間が、ほとんど私の日課になっていた。本を眺めて時間を潰す。場合によっては購入した本をどこかで読むこともある。そうすることが必要だから。
 推理ものの本に手を伸ばしかけたとき、ぽん、と不意に肩を叩かれた。次いで「ナーオナオっ♪」と馴れ馴れしい呼び声が耳に届く。

「…………」

 たっぷりと時間を掛けて振り返った先に、ショートカットの女子高生が1人、にへらっとした笑いを浮かべていた。
 高野 四季。高校2年生。元陸上部の現文芸部。よく言えば人懐こい、一般常識的に言えば非常に馴れ馴れしい性格の持ち主。
 高校入学時から今までたまたま同じクラスに編入されたことを理由に、何に付けても私にちょっかいを出してくる厄介な知人の1人だ。
「よ〜っす♪」馬鹿な小学生みたいに指でVサインを作って、笑う。「元気してましたぁ?」
「……シキ」軽い憤りを通り越した先にある呆れが、私の全身に充満しているのを感じた。「何でアンタがここにいるの」
「それはこっちのセリフだっつーの!」
 シキは、耳が隠れる程度にカッティングされた髪を大げさに振り乱した。隣の棚を見ていた先程の婦人がびくっと身体を揺らす。
 感情表現が大きいのは結構だけど、周囲の迷惑になるという思考も持つべきだ。
「ご丁寧に制服まで着といて、学校をサボるとはどういう了見か」
「アンタに、関係ない」
「いーえあります、大アリです」むしろオオアリクイです、とつまらないことを言う。
「何が関係あるって?」
「実はさ、今日、転校生の話が来たんだって!」
「文脈違う気がするんだけど」
「気にしない気にしない」シキは本当に気にしていないようだった。「でね、片方の転校生は何故か学校来なかったらしいよ」
「片方の?」微妙な言い回しが気になった。「転校生って、1人じゃないわけ」
「2人らしいよ。1年に1人と、タメ年に1人」思い返すように指を折る。「サボったのはタメ年の方だって」
「それはそれは」
 適当に返したつもりだったけれど、胸中穏やかではなかった。
 間違いなく私はその『サボった方』と会っていた。ばかりか、行動を共にしていたのだ。
「ナオナオも今日サボりだったよね」
 シキが意味ありげな視線を送ってきた。微妙なところで勘が鋭い。
「で? その、もう片方の転校生はどんな人?」私は無理矢理に話題を転換した。「男とか女とか」
「女の子だったよ。けっこ可愛い。まぁ、ナオナオほどじゃないけど」きっきっき、と低い声で笑う。「お嬢様タイプ」
「ふうん、そうなんだ」適当に返す。
「噂によると、サボった方は男らしいよ。もう片方とはいとこ同士なんだって」
「ふうん」いとこなんていたのか、とぼんやり思う。正直どうでもよかった。「そうなんだ」
「イケメンくんかと思うかね?」
「微妙なんじゃないの」実際に彼は整った顔立ちをしていたけど、私は鼻で笑う。肯定も否定も不自然だと思った。
「夢がないなぁ、ナオナオは」大げさに肩を竦めて、ため息をつくシキ。
「転校生をイケメンだと思うのが夢?」
「ボクにとってはね」
 余談ではあるけれど、シキは去年の夏休みにとある小説の主人公に影響を受けて以来、ずっと自分のことを『ボク』で通している。
 本人によれば『他人と異なった一人称をあえて用いることで、自我の確立を図っている』とのことだけど、私にはよく分からない。
「平和なアタマ」
「そりゃ、平穏無事な毎日よ」
「……はぁ」
 どうして私の周りに集まる人間は、こういう手合いばかりなんだろう。
 いくつかの人物を頭の中に思い浮かべながら、私は深くため息を吐いた。




















 あとがき

 5話目もようやく修正投稿ということで、ストックは完全に使い切りました。バンザーイ。
 今後は新規に書いていくので時間はかかるでしょうが見てくださるといいなぁ(願望)。

 今回はぶっちゃけると両パートとも手抜きです。
 修正で多少マシになりましたが、基本的に手抜きなのでご容赦くださいますよう。

 あとリクエスト小説やります。エログロ意外なら何でも書きます。どうぞリクエストください(感想との整合性)。
(〜※この企画は終了致しました。たくさんのご応募まことにありがとうございます〜)

 クリスマスをやり過ごしても年末年始、一人身には辛すぎるイベント目白押しですね(涙)。
 それでは駄文ですがこれにて。もげでしたご意見ご感想お待ちしておりますHAHAHA。


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