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春風 <もげ> 12/18 (01:02) 7713
  春風 ―2 <もげ> 12/15 (21:51) 8010
  春風 ―3 <もげ> 12/18 (00:45) 8012
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  春風 ―6 <もげ> 01/15 (23:16) 8030
  春風 ―7 <もげ> 03/14 (15:32) 8042
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  感想発射! <カラス> 05/06 (15:35) 7716
  感想です <冬馬> 05/08 (00:53) 7729
  感謝! <もげ> 05/12 (12:53) 7733
  感想でございますー。 <風柳> 07/29 (23:15) 7827
  響け感謝、届けマイソウル <もげ> 08/03 (11:38) 7833
  感想です。 <風柳> 08/19 (23:41) 7843
  感謝ですね <もげ> 08/26 (11:07) 7848
  感想です <風柳> 10/28 (19:08) 7908
  感謝でござ候 <もげ> 11/04 (13:14) 7911
  感想でござーる <asd> 12/18 (00:53) 8013
  感謝でおじゃる <もげ> 12/18 (01:40) 8014
  感想ザマース <asd> 12/24 (00:27) 8027
  感謝します <もげ> 12/24 (23:47) 8028
  やーわらかっ感想の心は一つ♪ <asd> 01/18 (02:12) 8032
  感想 <鳩羽 音路> 03/13 (18:01) 8043
  感謝 <もげ> 03/14 (15:27) 8044

8030
春風 ―6 by もげ 2009/01/15 (Thu) 23:16
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 <異世界 ---6--- >



 上段からの斬り落としを右手の剣で受け止める。同時に反転して、体勢を崩した敵の首筋に背後からの手刀。
 脱力したそいつを盾にするかたちで抱え、残りの三人を牽制する。ジリ、と緊張の波が周囲を覆った。
 リーリルの街で一泊した、翌日の午前中だった。
 ぼんやりと街を出て、ぼんやりと当て所なく歩いているうちに、堅固そうな建物をぼんやりと見つけた。
 生来の体質が現在も継承されているのか、寝起きの俺の思考力は水準を大きく下回っていて。
 ぼんやりと入ったそこがトカゲ人間の砦だったということを、俺は彼らの迎撃によって知ったのだった。
 急襲を防げたのは運が良かったとしか言いようがない。それくらい、頭はぼんやりしていたのだ。
「…それにしても」気を失ったトカゲ人間を抱えながら肩をすくめる。「まさか、彼らの施設がこんなところにあるなんてなぁ」
 言語や兵装から文化レベルの高さは予想していたけど、まさか建築の技術まで人類と同水準に到達していようとは。
 交易による技術の伝播か、もしくは真っ当な共存共栄があったのか。ヒトと彼らの相違点は、外見上の違いくらいなものだ。
 そんな種族同士が対立する理由なんて、リアルに想像がつかないんだけど……。
 歴史という年輪の外側から透かし見るには、まだまだ情報も理解も足りないということだろうか。

「調子に乗ってんじゃねえぞ、この野郎……!」

 残った三…三人の中の一人が、低く唸るように言った。仲間が倒されて憤怒の形相だ。
「待ってくれ、俺は襲われた立場じゃないか。正当防衛だろ?」俺は咄嗟に口を開く。
「うるせえ! 先に手を出してきたのは貴様だろ、クソ野郎が!」
 トカゲの人はさらに語気を荒げて捲し立てた。「この野郎」が「クソ野郎」にランクアップしている。いやダウンなのか。
 彼ら的には、どうやら自分たちこそ正当防衛をしている側だという認識があるようだった。
 確かに不法侵入したあげく防衛に出た仲間の一人を倒しちゃったんだから、弁解の余地はない。
 でもこっちの立場的には不可抗力の主張を崩すことは出来ない。
 そもそも材質も造形も人類と同型の建築物を前にして、間違わない方がおかしいじゃないか。
 この場合における問題は不法侵入した事実の一点なわけだけども。
「確かに勝手に入ったのはホント悪かった。謝るよ」その場で静かに頭を下げる。「でも俺は君らとケンカする気、ないんだ」
 ケンカ、とあえて行為を貶めたのは、それがくだらない稚気に過ぎないという皮肉でもあった。
 同時にちょっとした責任転嫁でもあるのだけど、その程度のいたずら心は許されるはずだ。きっと。
「…………?」
 敵である俺が冷静なことに驚いたのか、俺の言い分に呆れたのか。彼らは首をかしげる。
 その仕草には人間らしさも動物としての愛嬌もあって、何となくほっとする。
 ほら、やっぱりケンカなんてしたくない。

「惑わされるな、おまえたち!」

 そんな空気の弛緩を敏感に感じ取ったのだろう。奥に控えた隊長格らしい赤いトカゲ人間が一喝した。
「ヤツは我々の動揺を誘っているだけだ! 早く排除しろ!」
「…ハハッ! 了解しました!」
 上官の叱咤を受けて、兵士たちの目に敵意がギラギラと光った。
 両手に捧げ持った剣をそれぞれに構えなおし、俺を見る目は敵に向けられる類のそれ。
 戦いの気配は、もう揺るぎようがなかった。
「勘弁してほしいんだけどな…」剣の柄を右手で握りしめて、呟く。「キライなんだよ、こういうの」
 暴力がどうとか言うつもりはない。ケンカは時に必要な手段だし、拳で分かり合う友情だって無くはない。
 ただ、相互が望まない暴力は本当にキライだった。暴力の押し付けは、押しつけた時点で理不尽に成り代わる。
 理不尽は、本当にやめて欲しかった。問答無用だけは。
「…ホント、キライなんだよ」
 唇を噛む。強く噛みすぎたせいか、ダラリと垂れた血が顎の輪郭をなぞった。
 フラッシュバックする過去の残滓は、真っ白な病室と泣いている彼女。
 そうさ、孤独だ。

「やれ―――っ!!」上官が声を張り上げる。同時に、三人の兵士が動いた。

 走ってくる。風。空気が擦れる音。剣を握る。薙ぎ払ってきた剣を屈んでかわした。
 同時に足払いをして、倒れかけた兵士の下顎を殴りつけると、ソレは気を失った。一人目。
 その兵士の影からもう一人が飛び出して来る。だが遅い。距離を詰めて側頭部を蹴った。二人目。
 最後に背後から襲ってきた兵士を背負うかたちで投げ飛ばして、優しく丁寧に首を絞めてオとした。三人目。
 時間を圧縮したような体感とは裏腹に、見ている側にとっては一瞬の出来事だったのだろう。
 上官の赤いトカゲ人間は呆然として、気を失った部下たちを見下ろしている。
「さぁ、残っているのはあんた一人なわけだけど」
 俺は不敵にクククと笑いながら、右手に持った剣をチャキリと上官に突き付けた。
 漫画とかでよくある「圧倒的に強いキャラ」みたいなノリを体中で表現する。
 いかにも『俺強いんだぜ。今からお前も一瞬でやっちまうぜ』みたいなオーラ。
「く、くそっ!」赤いトカゲ人間は明らかに狼狽した様子でジリジリと背後の扉に近付くと、素早く中に入り施錠して、一目散に駆け去って行った。「覚えていろっ!」という定型句まで持ち出していたから、たぶん一生の思い出になると思う。
 俺は安堵のため息をホッとついて、その場に座り込んだ。
 久しぶりのケンカは、思いのほか悪い後味でもなかった。


『―――で、結局おまえは何がしたいんだ?』

 倒れた兵士たちを介抱していると、それまで押し黙っていたクロウが唐突に口を開いた。
 言葉の意図が分からないので黙っていると『本当にやる気があるのか?』と続けてくる。
 …そろそろ文句を言ってきそうな雰囲気だったから、別段驚きはなかった。
「やる気はあるよ。やらなきゃいけないっていうのも、分かってるつもりだし」
『なら何故、襲ってきた敵を速やかに排除しない? 何故だらだらと時間をかける? 挙げ句に無用な情けまでかけて…』グウゥ、と獣本来の不満を表す唸り声を上げる。『おまえがしていることは、全て無駄で、蛇足で、時間の浪費だ』
「おまえ、そんな難しい単語ばっかり使いやがって…」
 クロウの言いたいことは、まぁ理解できる。
 自分の障害である敵は早めに排除すべきだし、時間も情けもかけるべきじゃない。
 特に俺には残り二週間ほどしか時間が残されていないのだから、なおさら。
 つまりクロウは、俺に効率を重視しろと言っている。RPGみたいに淡々と無駄のない冒険をしろと。
 理解はするけど、納得は出来ない。世の中にはそういうものが多すぎる気がする。
「時間云々については謝るけど」俺はため息をつく。「ただ、俺の世界だと殺人って重罪なんだよな」
『ここはおまえの世界じゃない』クロウは当たり前のことを言う。『それに、彼らは人ではない』
「いや、ヒトだろ」クロウは当たり前のことが分かっていない。「彼らは何の変哲もないヒトだ」
『人間を敵視しているのにか?』
「言葉と知性と感情があれば、それはヒトだよ」
『話し合いが成立するとでも思うのか』呆れと関心が入り混じった声で言う。『相手は敵だぞ』
「そんな先入観が対立を産むんだよ。そのテの設定の漫画とかでもよく言ってるだろ」
『向かってくる敵を、敵として認識できない者は殺されていくだけだ』

「ああ。15回くらい、殺されてやるよ」

『…………!』
 クロウが、息を呑むような気配があった。
「それで対立が無くなるなら、15回、俺は死んでもいい」
 別に、強がりを言っているわけではなかった。
 リクレールに15個の命を与えられた時から、何となくあった疑問の解答。
 つまり、それくらいの覚悟をして臨めってことなんだと思う。多分きっと。
『おまえ……』
「…俺は理由もなく敵なんか作らない。俺の敵は、俺が定めた敵だけだ」
 自分が心の底から、本当に敵だと思ったもの以外は、絶対に俺の敵じゃない。
 敵であってほしくないんだ。
 それは強がりでも覚悟でも何でもない、単なる願いに過ぎないけれど。
『……おまえは甘い』クロウはぼんやりと言った。『甘すぎる。理解すべきだ』
「何を?」
『生きることは。生き続けることは、おまえが考えている以上に問答無用だ』
「これでも分かってるつもりなんだけどな。そんなことは」俺は苦笑する。
 そんなことはずっと前から知っている。本当に、面白いくらい理解していた。
 ひょっとすると生まれた時から知っていたのかもしれない。それくらいに。
「でもさ……」そう。だから、さっきも言ったように。


「―――キライなんだよ、そういうの」







 <現実世界 ---6--- >



 朝。いつもどおり時間ギリギリに教室に入って、少し驚いた。クラスの半数以上が空席になっていた。
 疑問に思いながら窓際最後尾に確保した自分の席に着く。鞄から荷物を取り出していると、一人の女子高生がけたたましい音を立てて走り寄って来た。ズシャアァと派手にブレーキングをしたかと思うと、私の机をバンと叩いた。
「……シキ」朝から何の用、と続けようとした私を彼女の声が遮る。「ビッグニュース! 号外!」

「イケメンでハンサムで男前な二枚目が1組に転入してきましたーーーーっ!!!」

 いえす、と指を鳴らして、四季は満面の笑顔を私に向けた。
 それは本当に絵に描いたような『満面の笑み』で、少しだけ羨ましい。
 彼女は生きるのが楽しそうで本当にいいな、と真剣に思ってしまう。
「ああ、例の転入生…」それなら、クラスの人数が少ないことも納得できる。「野次馬してきたわけ」
「他にすることもないしねー」あっけらかんと言う。「でも、見る価値はあるよ。確実」
 四季は楽しそうにちろりと唇を舐めた。
 よくよく周囲を観察すると、残っているクラスメイトの何人かはどことなく浮き足立っているように感じる。その全員が女子なのは、野次馬組だったからと考えて間違いなさそうに思えた。
 確かに、彼の外見は人目を引くだろうと思う。均整のとれた顔立ちは作り物めいて無駄がなかった。事実、動物園で彼とすれ違ったほとんどの人がハッとしたように振り返っていたのを私は知っている。
「ナオナオは気になったりしないの? イケメン転校生」
「少しは気になるけど」私は体裁を繕っておく。本当はどうでもいい。「野次馬するほどじゃない」
「それぐらいの価値はあるって、絶対。同じクラスになんなかったのが悔しいくらい」
「…………」
 その何気ない言葉に、思わず鳥肌が立ちそうだった。彼が同じクラスになるなんて考えたくもない。
 携帯に付けたストラップを軽く握る。レッサーパンダの顔が、不自然にクニャリと歪んだ。
 四季がめざとく「ストラップなんか付けてたっけ?」と聞いてきたけど、私は無視をする。


 昼休み。戦場みたいな購買部から何とかパンを購入して、教室に戻る途中で彼を見かけた。
 2階の階段から廊下の左右に伸びる教室群を、端の6組から順に覗き込むようにして観察している。誰かを探している様子だった。
 転校したてで知り合いは少ないはずだけど、もしかしたら他のクラスに顔見知りでもいるのかもしれない。
 とりあえず、私は1階に引き返すことにした。出来るだけ彼と接点は持たないでいようと心に決めていた。
 朝からのクラスの様子を見る限り、彼と必要以上に接点を持つことが面倒くさそうなのは明白だった。

 中庭かグラウンドなら昼食も取れるはずなので、そこに向かうことにする。
 彼の視界に入らないように注意しながら階段まで戻る。彼は4組の教室を覗き始めたばかりのようで、気づかれる気配はない。
 早足で階段を下りる。途中で「奈緒じゃないか?」という声が聞こえた気がしたけど、空耳に間違いない。
 それは聞いたことがあるような、正確には最近聞いたばかりの声だったけれど、きっと気のせいだろう。
 というか、気のせい以外は認めない。
「おーい」空耳は続けて言葉を発した。私は歩みをさらに速める。「奈緒、無視されると傷つくんだけど」
 勘弁して。私はさらに速度を上げながら念じる。空耳は止むどころか、さらに大きくなりつつあった。
 階段を下りる音が軽やかに響く。徐々に音が重なってきているのも、気のせいに違いなかった。
「あのさ、俺、晶だけど」階段を下りきった。追いかける足音も早くなっている。「昨日一緒に動物園―――」

 私はもう走っていた。

 後ろからの制止の声を振り切って、一目散に廊下を駆ける。
 なんだなんだ、と降り掛かる好奇の視線から逃れるように昇降口へ向かう。本当に、逃げ出したい。
 下駄箱で靴を履き替えている途中、奥の廊下が不意にザワついた。どうやら向こうも走り始めたらしい。
 靴を履き替えて昇降口から外に出る。校舎をぐるっと迂回して、中庭のある部室棟に向かって走る。
「ちょっと待てって、奈緒ーっ!」後ろから追ってくる気配。「なんで逃げるんだーっ!?」
 大きな声で人の名前を呼ぶな、と、出来るなら大声で言ってやりたかった。
 とにかく私は走った。全力で走った。しかし向こうも早い。土地勘がないためか追跡にムラはあるけれど、体力的にはどう考えても敵わないのだ。
 校舎をぐるっと半周してグラウンドに出る。フェンスに囲われたグラウンドの脇には申し訳程度の細い道があって、そこを通ると部室棟への近道になる。走り抜けると、昼連のサッカー部や野球部が物珍しげな目を向けてきた。私は踏み込む足にさらに力を込める。出来るならこのまま消えてしまいたかった。
「奈緒! 逃げるな返事しろ、奈緒! 奈緒ー!」そして、そんなことは気にせず大声で追ってくる馬鹿者。
 どうして憑かれたように人の名前を連呼してくるのか、理解できない。したくもない。してたまるか。
 段々と集まってくる視線に耐えながら、私の学校生活はもうダメなんだろうな、と何となく考えていた。


 巡り巡って中庭に着くころには、私の体力はもう完全に尽きていた。
 全力で走り続けた苦しさに、好奇の目に耐えた気疲れが相まって、最低な気分。
「結局、なんだったんだ…?」彼も肩で息をしている。「鬼ごっこって…わけでも…ないだろ」
 質問に答えるだけの余裕はなかった。私はうつむいて、はぁはぁと荒い呼吸を繰り返す。
 実のところ、自分でもどうしてここまでむきになったのか分からなかった。
「にしてもさ…奈緒って体力あるんだな」彼は芝生の上に乱暴に座り込んで、息を吐いた。「足も速いし…」
「うるさい…っ」
 荒い息を吐きながら、私は悪態をつく。出来るなら殴りつけてやりたいくらいだった。
 中庭には他に人の気配がなかった。中庭と言っても、部室棟と校舎に囲われた隙間のようなスペースに芝生と池を置いただけの簡素なもので、人が訪れることは滅多にない。わざわざ目に留める人も、そういないと思う。
 私もその場に腰を下ろす。そうすると、呼吸も幾分か楽になった。
「…転校って初めてしたけど」彼は私の態度にため息をつきながら、言う。「なんか、動物園みたいだ」
「…動物園みたいって?」
「朝からずっとさ、見せもの扱いだよ」彼は肩をすくめる。
 確かに、他のクラスから彼を見物しに来る生徒が後を絶たない、という話は四季から聞いていた。そう言っていた彼女にしても休み時間の度に彼のクラスに出向いていたのだから、似たようなことをするヒマ人も少なからずいたんだろう。
「おまけに見るくせに誰も話しかけてこないんだ。同じクラスの人も何かよそよそしいし」
「動物園って、そういうものだよ」私は意識的に冷たく言い放つ。「眺めるのが目的。話す必要なんてない」
 そもそも、初対面の相手に馴れ馴れしく話しかけられるような人間は必ず何かがズレている。
 思い当たる節をいくつか考えて、私はげんなりとした。
「で、数少ない知人にはあからさまに逃げられるしさ」彼は不満げな顔をした。どうも皮肉らしい。
 私はあからさまに嫌な顔をして、迷惑げにため息をついて見せた。
 人懐っこい人間は苦手だし、大別すれば間違いなく嫌いな部類に入る。
 どうして人というのは小さな接点を過大に解釈して、他人と必要以上に交流したがるのか。
「馴れ馴れしいのは謝るよ」意外にも彼は苦笑して、頭を下げた。「こういう性格なんだ」
「…何で追いかけてきたわけ」口を開く。何だかひどく毒気を抜かれた。
 一緒に昼食を取ろう、と彼は提案してきた。
「誘おうにもどこのクラスか分からないから、探してたんだ。逃げられたけど」そう言って笑う。
「黙って一人で食べればいいのに。わざわざ探す必要もない」
「何で?」彼は不思議そうに首を傾げた。「知り合いがいるのに、一人で食べても仕方ないだろ?」
 それが至極まっとうな意見であるかのように言って、彼はそそくさと持っていた包みをほどく。
 どうやら高校二年生にもなって、他人と一緒に昼食をとる意味の一般常識的な解釈も出来ないらしい。
 今さら諭すつもりにもならなかったし、昼休みが残り短いこともあって、私は黙ってパンの袋を開けた。
「普段からパンなの?」
「別に。今日は、たまたま」
 購買のパンを珍しそうに眺める彼に振り向きもしないで、私は答える。
 普段は中村さんがお弁当を作ってくれるのだけど、今日は暇がなかったらしい。
 朝起きると、「昼食代に使え」と父の字で書かれたメモの上に千円札が置いてあった。
「パン一個で足りるんだ。燃費が良いんだな」
「…………」
 本当は一個しか買えなかったのだけど、とりあえず無言を通す。
 昼の購買部はまさに戦争で、慣れていないとまともな買い物は出来ない。
 小さなジャムパンを食べ終えてジッとしている私を、彼が横目で見てくる。
「あのさ、良かったら手伝わない?」弁当箱を差し出して、言う。「従妹がさ、作ってくれるんだけど、量が尋常じゃないんだよな」
「うわ……」
 見ると、確かに一人分の量ではなかった。
 通常の弁当箱をゴムバンドで束ね、無理矢理二段重ねにしていたらしい。一段には食べやすく分けられたご飯が詰め込まれ、もう一段には魚の照り焼きやだし巻き卵、ハンバーグにポテトサラダなど、手の掛かりそうなものが山のように入っていた。
「味は良いんだけど多すぎてさ。残すと怒られるし、助けてもらえるとありがたい」
 手際の良いことに、彼は前もって割り箸まで用意していた。渡されるまま、何となくそれを持つ。
 そのときだった。


「晶! こんなところにいたのね!」


 怒声が上げたのは、不機嫌そうに腰に手を当てた長い黒髪の少女だった。
「げっ―――!?」彼は悲鳴のような驚きの声を上げて、やってきた少女を見上げた。
 その顔には驚きの他に微かな不機嫌と憂鬱が見て取れて、私は違和感を覚える。
 少女は怒りを込めた目で彼を睨むと、キッとそのままの視線を私に向けた。

「はじめまして。晶の従妹です」

 とりあえず自分が嫌われてるんだな、ということだけは分かった。




















 あとがき

 6話目です。まさか6話目まで書けるとは思いませんでした。奇跡です。
 最近は突発性のスランプに陥ってまして、文章を形にするのが非常に困難です。
 そんな状況を乗り越えて完成した6話目には計り知れない価値がありますね。ええ。
 
 さて、今回から両パートが活発に動いてます。
 動きのある文章ではありませんが話は動いてます。
 特にオリジナルパートなんて妹キャラまで登場しました。これなんてギャルゲ?
 でもけして楽しくフワフワした話にまとめるつもりはないので安心してください。(何)

 あ、あとあけましておめでとうございます今年もよろしくお願いします。
 それでは駄文ですがこれにて。もげでした。


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