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春風 <もげ> 12/18 (01:02) 7713
  春風 ―2 <もげ> 12/15 (21:51) 8010
  春風 ―3 <もげ> 12/18 (00:45) 8012
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  感想です <冬馬> 05/08 (00:53) 7729
  感謝! <もげ> 05/12 (12:53) 7733
  感想でございますー。 <風柳> 07/29 (23:15) 7827
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  感想です。 <風柳> 08/19 (23:41) 7843
  感謝ですね <もげ> 08/26 (11:07) 7848
  感想です <風柳> 10/28 (19:08) 7908
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  感謝でおじゃる <もげ> 12/18 (01:40) 8014
  感想ザマース <asd> 12/24 (00:27) 8027
  感謝します <もげ> 12/24 (23:47) 8028
  やーわらかっ感想の心は一つ♪ <asd> 01/18 (02:12) 8032
  感想 <鳩羽 音路> 03/13 (18:01) 8043
  感謝 <もげ> 03/14 (15:27) 8044

8010
春風 ―2 by もげ 2008/12/15 (Mon) 21:51
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 <異世界 ---2--- >



 光を瞼の裏側に感じる。その感覚に後押しされるように、俺は静かに目を開いた。
 広大な森だった。今は朝なのか周囲は薄暗く、肌寒かった。背筋がシンと痺れるような感覚が新鮮で、清々しさに身体が震える。
 澄んだ大気が冷たく心地好かった。深く息を吸い込むと、取り込んだ酸素がそのまま血液に循環されていくような気さえする。それも、新鮮だった。
 二度三度と深呼吸を繰り返す。最後に大きく息を吐いて、前方の空間へと視線を向けた。淡く暗い森。その向こう側に彼女はいるはずだ。

「―――出てこいよ、リクレール」

 唐突に、世界が白んだ。
 それは比喩でも気取った言い回しでもない。一瞬のうちに、まるで全てが消失してしまったかのように、視界から白以外の色彩が褪せた。
 白い世界だった。無機質な空間はどことなく排他的で、なのに不思議な暖かさがある。その中心に佇むようにして、彼女の姿があった。

 白い少女―――。

 壮麗たる角を誇るかのように静かに立ち尽くすその姿は、軽々しく形容してしまうのも惜しまれるほど美しい。
 ともすれば言葉さえ失ってしまいそうになる自分を叱咤し、俺はその場で小さく息を吸い込んだ。深く、吐き出す。
「君がリクレール、だよな」
 確認の意味を込めた問いかけに、少女は「ええ」と頷いた。
『私の姿は見えているようですね?』
「君の姿は見えている」無意味に反復することで肯定した。
『それは、良かったです』
「正直言って、想像と違った。大仏みたいなおばさんが出てくるかと思っていたのに」
 冗談めかして言うと、リクレールは微かに眉をひそめた。『ダイブツ』と外来語のように発音する。
『そういう方がお好みでしたか?』
「どうだろう。面白そうな気もするけど」言いながら大仏顔のおばさんを想像してみた。「いや、やっぱりごめんだな」
 いくら俺でも、唐突に出現した大仏とまともに話をしようという気になれるかどうかは甚だ疑わしい。
『はぁ……?』
 急に顔をしかめた俺を見てリクレールは不思議そうな声を出した。
 曖昧に小首を傾げる仕草は無垢な少女のそれで、独特の愛嬌がある。
「まぁ、そんなことはどうでもいいとして」わざとらしく咳払いをして、俺はリクレールを見た。「訊かせて欲しいことがあるんだ」
 リクレールが静かに頷いた。銀髪が微かに揺れる、ただそれだけの挙動でさえ、幻想的だ。
『知りうる限りのことを、お答えします』
「ありがとう」俺は儀礼的に感謝の言葉を述べる。「それじゃあ、単刀直入に訊くけど」
『この世界に貴方を呼んだ理由、ですか』こっちの質問を先回りしてリクレールが言う。
 俺は頷く。「そうだよ。それだ」
「あの場所……『意識の海』だっけ? あそこで君から訊かれた質問にはすべて答えた。
 その結果がこれってわけなんだろ? 俺に身体をくれた上で、この場所に送った」
 自らを親指で示しながら、俺は言った。生身の肉体だ。ただ、自分のものではない。「何かをさせるために、だ」
『ええ。その通りです』
 リクレールは、問い詰めたこっちが驚くほどあっさりと肯定した。『理由があって、貴方を呼びました』
「その理由っての、教えて貰うぐらいの権利はある?」意識的に冷たく言い放つ。今なお地球上のどこかで事情も分からず面倒事に巻き込まれている全ての人を代表しての、皮肉だった。「そのくらいの人権は俺にもありますか?」
『もちろん。貴方にはその権利があります』
 リクレールは、権利、とことさら強く発音した。その二文字に込められた利己的な響きを嗤っているようにも思える。


『こちらも単刀直入に言わせていただきますが、貴方にはこの世界を救っていただきたいのです』


「この世界を何だって?」
『救っていただきたいのですよ、この世界を。そしてこの世界に生きる全ての人々を』
 リクレールの口調は平坦で、淡々としていた。けして軽々しいわけではなく、その毅然とした態度がむしろ少女の揺るぎない意志を表している。
 それに何と言い返すべきなのか、分からなかった。怒って喚き散らせばいいのか、それとも冷静に糾弾するべきなのか。
 そもそも現実の高校生であるところの俺が、「世界を救え」というあまりにも突飛な願いを受けて、まともな判断力を維持できている方がおかしいような気もした。
 最初から分かっていたことだけど、つくづく「意味不明」な状況に置かれているわけだ―――。
「頼む相手を、間違えている」声が震えないように注意しながら、どうにかそれだけを口にした。
 
 俺には無理だ、と。

『身勝手なお願いだということは、承知しています』
「承知しているなら、好んで言うべきでもない。俺はそう思うけど」
『それだけ状況が逼迫しているということですよ』まるでそれが自分の落ち度であるかのように、自嘲的に言う。『時間がないのです』
「それは、どういう意味で?」
『わかりません』
「ワカリマセン?」
『私に分かることは二つだけです』リクレールはわずかに俯く。『災いが起きることと、それが15日後だということ』
「そんな情報じゃ、興信所だって動かない」皮肉を口にすると、リクレールは『非協力的な機関ですね』と軽口を叩いた。
 非協力的なのはおまえだ、と言い返したいのをぐっとこらえる。ついでに非友好的だというのも、こらえる。
「そもそも、その情報が怪しい。災いだとか15日後だとか、妙に具体的なくせに、出所が曖昧だ」びっ、と指を突き付ける。
 ただ、これは自分でも不思議なことなのだが、俺は情報そのものが嘘だという疑いをまったく持っていなかった。何故だろう。
『それは、あれですよ』リクレールは困ったような笑みを浮かべ、視線を宙に泳がせた。説明する言葉を探しているようだ。『えぇっと』
「予知能力?」冗談半分で言ってやると、『そう、それです』と相好を崩した。
 正解なのかよ、と俺は自分で言ったにも関わらず、こける。
『私は予知能力が使えるんですよ』
「それは、素晴らしい特技をお持ちで」
『信じる信じないは自由ですが』リクレールは薄い笑みを浮かべた。すぐに、真剣な顔つきになる。『災いは起きます』
「信じるよ」
『信じていただけますか』
「今さら疑っても仕方がない」まず自分を指さし、リクレールを指さして、言った。「そうだろう?」
『そうですね』儀礼的に笑う。俺を見つめる瞳は……遠い。
 何故か、胸を締め付けられたような気がした。少女の瞳。責めるようではなく、懇願するようでもない。
 ただ重くて……取り繕うこともできないくらい深く綺麗なだけ。
 誰かの声が聞こえた。告発するような響きで頭の芯を揺らしている。「おまえはそれで良いのか?」と。
 多分、自分の声だ。


「酷いな。狡猾だ」


 しみじみと溜息を吐いたのち、俺はリクレールを睨み付けた。「一つ訊くけど」
『なんでしょうか?』突然睨まれ戸惑った様子ではあったが、リクレールは素直に頷く。
 ……俺はもう一度だけ、深く、溜息を吐いた。
「災いってのが起こったら、具体的にどうなる?」
『この世界の全ての人々に、とても悪いことが起こります』

「じゃあ、やるよ」俺の声は震えてはいなかった。と、思う。

『え?』
「君は災いを止めたいんだろ? そのために俺を呼んだって聞いたぞ」気恥ずかしさに目を逸らしながら、言った。「違ったっけ」
『――――――』
 そのとき、少女に去来した表情を、俺は何と表現すればいいのか。
 単純な喜びや驚きなどとは違う。もっと複雑で曖昧模糊とした感情が千々に混じり合った、何かだ。
『ありがとう、ございます』しばらくして、リクレールが噛みしめるように言った。深々と頭を下げる。
「やめてくれよ。照れる」
『意識の海から見つけられたのが貴方で、本当に良かった。そう思います』
「あまり褒めないでくれ」さすがに辛くなって、少し強めの語調で言った。どうも俺は賞賛されることに耐性がない。
『それでは、この辺でやめておきましょうか』俺の頬は紅くなっていたのかもしれない。リクレールがくすくすと笑った。
「とにかく俺は災いの原因を突きとめて、阻止する。それで良いんだろ?」自然と声が不機嫌になるのは、悔しさのせいだ。
 リクレールは「はい」と頷いた。もう笑ってはいない。『貴方の旅の無事を、祈っています』
「この間、辞書で『祈り』という単語を引いたら、『無意味』とあった」
 俺の心ばかりの軽口に、リクレールはにこりと笑った。花が開いたかのような可憐さにハッとする。
「そうだ、最後に訊きたいことがあったんだ」俺が言うと、リクレールは『なんでしょう?』と首を傾げた。
「君は……神様なのかな?」
 冗談というわけではなかった。目の前の少女を見ていると、そんな気もしてくるのだ。
『貴方は、どう思いますか?』リクレールはおかしそうに笑っている。
「昔の偉い人が言ってたよ。『神は死んだ』らしい」俺も、にこりと笑う。
『なら、私は神様ではありませんね』リクレールの言い方は、その響きを楽しむようだった。『生きていますから』
「そうだな、君は生きている」俺も―――と言いかけて、すぐにやめた。それを言っても仕方がない。「それじゃ、俺はもう行くよ」
 片手を上げると、リクレールはもう一度深く頭を下げた。



『これから15日間、どうか貴方にトーテムの加護がありますように』



 そう願いたいね、という言葉が消えゆく少女に聞こえたかどうかは分からない。





 <現実世界 ---2--- >



「時間はあるんだろ? 残り、一緒に見て回らないか」たっぷりとレッサーパンダを眺めた後、彼が言った。
 まだ園内の三分の一も見回っていない。携帯の時計で時間を確認すると、午前の11時になったばかりだった。
 私は軽く思案する。
 出会ったばかりの男子学生と二人で動物園を見回るというのは、あまり気乗りのする話でもない。
 彼がどうこうと言うつもりは無いけれど、色々と不都合があるに違いないのは分かるからだ。
「別にいいけど、あんまり乗り気にもなれない」
 本心から口にすると、彼は特に残念がる素振りも見せずに「それもそうか」と笑った。そりゃそうだよな、と。
「悪いとは思うけど」
「いや、俺も馴れ馴れしかったな。ごめん」
 彼は言って、すまなそうに頭を下げた。自分の非を潔く認める姿は美徳にも見えて、私は眩しいような思いに駆られる。
 美男子と言って問題のない外見をした青年が、そうした美徳も併せ持っているというのは素直な驚きでもあった。
「ああ、そうだ」彼はそこで重大なことに気付いた、とでも言うように手を叩いた。「名前を訊いてなかった」
「訊く必要もないんじゃない」ぞんざいに答える。というか、その質問は今さらすぎる。
「必要だよ。少なくとも、俺にとっては」彼の口調が意外にも真剣だったので、私は少し驚いた。
「どうして?」
「いや、ほら……」そこで彼はきまりが悪そうに視線を逸らした。「出会いと偶然は、大切にしていきたいだろ?」
「どうして?」
「充実した人生を送るためだ」びっ、と人さし指を立てて言う。
「そんなことで人生は充実しないと思う」
「生きていく上での、糧にはなる」
「出会いが?」
「出会いが」反復する口調には、噛みしめるような響きがあった。
 なんとなく馬鹿馬鹿しくなってきたので、私は適当に肩を竦めてみせた。
 他人の名前を訊く理由が「充実した人生を送るため」というのは、気の利いた冗談としか思えない。
「それで、名前は?」
「人に訊くときは自分からでしょ」呆れ半分で私は言った。そりゃそうだよな、と彼がまた笑う。


 彼は、晶、と名乗った。


「苗字は?」
「苗字は」彼はおどけたように目尻を下げる。「教えられない」
「は?」
「嫌いなんだよ。好んで言いたくないんだ」
「どっちにしても、転校したなら嫌でも分かると思うんだけど」
「だからせめて、サボり仲間ぐらいには黙っていたい」冗談めかしてはいたけど、それは本心に聞こえた。
「苗字は教えないなんて、フェアじゃないよ」
「そっちも名前だけでいいよ。それなら条件は同じだろ?」彼はきっぱりと言った。
 どうしてそんなに私の名前を知りたいんだ、と訊こうと思ったけど、やめた。
 どうせ、人生の充実のために決まってる。
「……奈緒」ぽつりと言った。
「え?」
「私の名前」
「奈緒」彼は味わうように発音した。「いい名前だ」
「それは、どうも」気恥ずかしさに、不親切な声が出た。「お褒めに預かり光栄です」
 何が楽しいのか、彼は憎らしいくらい満面の笑みを浮かべた。
「人生は充実した?」私が皮肉混じりに言うと、「もちろん」と大真面目に答えた。




















 あとがき


 はい、というわけで2話です。文章を見る限り当時の私は楽しく書いていたに違いありません。
 描写はアレですが勢いは伝わってきますね。あ、別に自画自賛じゃありません。自虐です。
 今回は形がいびつすぎて逆に修正し辛かったのでほとんどそのままです。ハッピー!

 物語的に幻想譚サイドは着々と進んでいく感じです。元々こちらが主軸なので当然ですが。
 ただ、オリジナルサイドが短いのでそろそろ長くしたいと思います(感想との整合性)。

 出来れば早いうちに修正分を投稿し、新しく書くところまで行きたいと思います。
 それから感想などありましたらお願いします。お返し文も書きます(あくまで整合性)。
 それでは駄文ですがこれにて。もげでした。


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