ノベル&テキストBBS

小説やショートストーリーの書き込みなど、長文系の書き込みはこちらへどうぞ!
タイトルの左にある■を押すと、その記事を全て見ることができます。

□BBSトップへ ■書き込み □過去ログ表示 ▲ログ検索
●選択した記事の表示・返信・修正・削除
春風 <もげ> 12/18 (01:02) 7713
  春風 ―2 <もげ> 12/15 (21:51) 8010
  春風 ―3 <もげ> 12/18 (00:45) 8012
  春風 ―4 <もげ> 12/21 (19:59) 8018
  春風 ―5 <もげ> 12/23 (19:50) 8024
  春風 ―6 <もげ> 01/15 (23:16) 8030
  春風 ―7 <もげ> 03/14 (15:32) 8042
  感想ですー。 <風柳> 05/07 (17:50) 7728
  感想発射! <カラス> 05/06 (15:35) 7716
  感想です <冬馬> 05/08 (00:53) 7729
  感謝! <もげ> 05/12 (12:53) 7733
  感想でございますー。 <風柳> 07/29 (23:15) 7827
  響け感謝、届けマイソウル <もげ> 08/03 (11:38) 7833
  感想です。 <風柳> 08/19 (23:41) 7843
  感謝ですね <もげ> 08/26 (11:07) 7848
  感想です <風柳> 10/28 (19:08) 7908
  感謝でござ候 <もげ> 11/04 (13:14) 7911
  感想でござーる <asd> 12/18 (00:53) 8013
  感謝でおじゃる <もげ> 12/18 (01:40) 8014
  感想ザマース <asd> 12/24 (00:27) 8027
  感謝します <もげ> 12/24 (23:47) 8028
  やーわらかっ感想の心は一つ♪ <asd> 01/18 (02:12) 8032
  感想 <鳩羽 音路> 03/13 (18:01) 8043
  感謝 <もげ> 03/14 (15:27) 8044

8012
春風 ―3 by もげ 2008/12/18 (Thu) 00:45
一覧を見る
 
 <異世界 ---3--- >



 困っている誰かを助けられる人間になりたい、と昔はよく思っていた。
 それはすごく単純な『善良さ』で分かり易かったし、事実として俺はそういうものに惹かれる傾向があったように思う。
 だからなんだろうか、小さな頃の夢は警察官か消防士で、ある意味で超が付くほど定型な子供だったわけだけども。
 まぁ、そういう幼年期を過ごしたことが俺の人格形成に少なからぬ影響を及ぼしたのは理解できる。
 電車やバスで年配の方に席を譲るのは昔から当然だったし、拾いものは必ず交番に届けた。
 泣いている小さい子を助けた。重そうな荷物を持っている人を助けた。忙しがっている人を助けた。


 そして、トカゲ人間に襲われている女の人を助けた。


 当たり前のことだ。
 ちなみにこの場合の当たり前は常識的な意味での「当たり前」じゃないから注意が必要だ。
 あくまで「そうすべき」というニュアンスにおいて当たり前だということを理解してほしい。
 そんな何処にも行きつかない思考に及んでしまうほど、今の俺は冷静さを欠いていた。
 目の前には一人の少女。線が細くたおやかで、どこか憂いを秘めた目をしている。灰色がかった黒髪が風に煽られて儚げに揺れる様子は、ユリの花を連想させた。 
 少女は地面にへたり込むように座っていて、剣を持った俺を探るような目で見上げている。

「…………」
「…………」

 というか、割と警戒されているように思えるのは気のせいではないんだろう。
 交錯する視線。場を覆う沈黙は鉛のように重く、お互いに現状を上回るアクションを起こせないでいる。
 牽制し合っていると言っても過言ではない状況は多分、俺に対する少女の不信感が大きいせいだろう。
 剣を持って突然現れた謎の男…文章に直してみると余計にその異様さが際立つ。そりゃ怖がるよ。
 なら俺から恐怖を緩和する動きを見せればいいだけなのだけど、思った以上に隙がなくて動きづらい。
 結果として、助けた相手と膠着状態になるという不可思議な事態が発生したわけである。


『何をやっているのだか―――』


 ため息混じりのクロウの声だった。『助けた相手とにらみ合っていてどうする』
 分かってるよ、そんなことは―――。俺は心の中で呟く。
 限りなく精神体に近いクロウとは実際に話さなくても意志の疎通が可能なのだ。
 クロウは俺がリクレールから授かった「トーテム」という名の実態を持たない神獣(らしい)である。
 ヒトに迫る思考能力・言語感覚を有し、対象者(俺)に憑依することでその身体能力などを高めることが出来るらしい。
 大層な肩書きではあるけど、俺としてはただの喋る犬くらいにしか考えていない。
『分かっているなら早く状況を動かしたらどうだ?』
 言われて出来るならこんな状況にはなってないって―――。
 あくまで客観であるクロウの物言いにげんなりしながら、俺は改めて少女に視線を向ける。
 正面に立つ俺を見つめる瞳は弱々しくも気丈だった。探るような目。しかし敵意は感じない。
「えっと、平気?」覚悟をきめて問いかけた。
 変に刺激しないように気を遣った笑顔を浮かべて、いかにも人畜無害な青年を装いながら。
 ……本当、自分でも笑ってしまうくらいの嘘吐きっぷりだった。
 いきなり均衡を破った俺に面食らったのだろう、少女は目をぱちくりさせた。戸惑いながら微かに頷く。
「そうか、ならよかった」
「あ、ありがとうございます…」少女は細々と言葉を発した。「その、助けてくださって……」
 緊張がほぐれたのか、少女の顔つきは見るからに安心したそれに変わっていた。
 膠着状態の息苦しさはお互いさまだったんだろう。俺も内心でほっとする。
「立てるかな? 手、貸すよ」
「あ……す、すみません」差し出した右手を、少女は申し訳なさそうに掴んだ。
 その手は思っていたよりも小さくて、俺は懐かしいような思いに駆られる。


「私の名前はシズナといいます…」
 挫いていたらしい足首の手当をしてあげていると、思い出したように少女が言った。
 足首の手当を終えて視線を上げる。少女は咄嗟に目線を逸らして顔を伏せた。
 まだ警戒されてるらしい……。それでも名乗ってくれたのは嬉しかった。
「シズナっていうのか」復唱して響きを確かめる。「うん、いい名前だ」
 柔らかく綺麗なその響きは少女の名前にふさわしいように思えた。
「あっ、ありがとうございます…」シズナは静かに微笑む。大きな目が細められて、ハッとするくらいそれは綺麗に映る。

 似た光景を見たことがあった。

 薄くぎこちない笑顔は、けれど世界の光源みたいに眩しくて。
 まるで見る人を無条件で温かい気持ちにしてしまうような。
 そんな光景を、見たことがあったんだ―――。
「…………」
「あの…?」
「あ、ごめん。何の話だったっけ」慌てて泳がせていた視線を彼女に戻す。
「その、貴方の名前をお聞きしたくて…」
「名前か…」ナマエ、と発音したことで瞬間的に意識が現実に立ち返る。「必要だよな」
 シズナは相変わらず目を伏せたまま、それでも穏やかな雰囲気で頷いた。
 それにしても、日常レベルで使用頻度の高い単語を耳にすることで思考が急速に汎用性を持ち始める辺り、俺もなんだかんだ言って現実の高校生なんだという気がして嬉しかった。
「俺の名前は」思わせぶりに咳払いをする。……途端、言いようのない使命感が浮かんできた。

 そう。ここはいっちょ、俺の溢れるユーモアセンスを見せておくべきでは―――。

 何を急に、と人は言うだろう。良識ある諸兄におかれては「馬鹿なことを」と冷笑するに違いない。
 しかし人間とは気分の生き物であり、何かの弾みで突発的な行動に走ってしまうことが希にあるのだ。
 そしてそんな突拍子もない『何か』が人生を豊かにしてくれる、というのが一応の持論でもあった。
 ……何より、彼女との関係改善に繋がるのではないかという浅はかな期待も含有されていて。
 俺は架空のメガネを中指で掛け直した。


「―――マスヲだ」


 ………。
 …………。
 ……………。

 しばらくの間、沈黙。しかし俺の胸には確固たる勝利の予感があった。
 何故なら日本国民なら誰でも抱腹絶倒間違いなしのナイスギャグだったからだ。
「マスヲさん…ですか」シズナはそのリズムを噛み締めるようにぽつりと呟く。
 次の瞬間、彼女は俺の放ったギャグのあまりのハイセンスぶりに耐えきれずツッコミを…入れず。

「よい…お名前ですね」それが本心からの言葉であることを疑わせない笑顔で、そう言った。

「なんてこった」俺は右手を額に押し当てて仰臥する。
「え?」
 シズナは首をかしげた。
 本来の予定では。


『―――マスヲだ』
『って、お婿さんかいっ』


 こんな感じで美しい予定調和が展開されるはずだったんだが。
 よく考えたらここは日本じゃないんだから、このテの冗談が通じるはずもなかったんだ。
 俺は自分の愚かさを呪うと同時に、国民的家族における義兄の名前が単なる発音の連鎖としか認識されない世界にただならぬショックを覚えていた。
 というか初対面の、しかも異世界の相手に対してそんなものを期待してる時点で何かがおかしい気がしたけど、それは考えないことにする。
「あの、マスヲさん……?」
「そんな澄んだ目で俺をみないでくれ…」
 疑うことを知らない無垢な少女を前に本気で落ち込みそうになる。
 やっぱり見ず知らずの人に何かを期待するのは危険なのかもしれない。
「ごめん。実は俺の名前はマスヲじゃないんだ」
「えっ、そうなんですか……?」聞き返す声に戸惑いの色が混じる。
「ちょっとした手違いがあって…本当にごめん」
「はぁ……」
 何か深い事情を想像したのかもしれない。シズナは神妙に頷いた。
 実際は単にギャグを成立させるためだと知ったらどんな顔をするだろう。
「あの、それじゃ…」おずおずと俺に視線を向ける。「本当のお名前をお聞きしても…?」
「アキラっていうんだ」
 心苦しさに俯きながら答える。
 それでも彼女は小さく復唱して、不意に微笑んだ。
「さっきよりも…」まるで花が咲いたように。「私、素敵なお名前だと思います」
「―――」
 気恥ずかしさで、何も言うことが出来なかった。
 呆然と直立する俺の耳元でクロウが何やら文句を言っているのが聞こえる。


『我も知力には自信がないが、オマエには勝てる気がするぞ』


 心配いらない。二秒後には記憶から消した。





 <現実世界 ---3--- >



 これはよく考えれば分かりそうなことなのだけど、たとえ順路の途中で別れても進む道は同じなのだ。歩きだして数分でそれに思い至った私たちは、何となく一緒に見て回ることになった。お互いの名前が分かったせいか不信感も弱まっている。
 しばらく歩くと円形に設けられた広場に出た。中央には猿山が設置されていて、柵の向こうの窪んだ敷地の中に人工の山がある。その上を、大小様々なニホンザル達が好き勝手に動き回っていた。
 示し合わすでもなく立ち止まって、2人一緒に猿山に目をやる。飛び跳ねたり吊るされた縄にぶら下がったり毛繕いをしたり。忙しない猿たちの様子は、見ている私たちをむしろのんびりとした気持ちにさせた。
「最近はニホンザルの生態についても研究が進んでてさ」
 少し経って、彼がゆっくりと口を開いた。
「彼らは人間に近い群構造を持っていることが解明されてきたんだ。何かっていうと」
「順位制と血縁制」
 呟くように答えると彼は意外そうな目を向けてきた。少しだけ嬉しそうでもある。「知ってたんだ?」
「前に、本で読んだことがあるから」私は肩に掛けていた鞄を持ち直しながら言う。「たまたま覚えてただけ」
「そうなのか、すごいな」
 彼が無暗に感心したようなトーンで言うので、私は僅かに苦笑してみせた。
 自分の中途半端な雑学に対して他人の賞賛を得るというのは何とも微妙な気分だ。
「まぁ、高崎山に知り合いもいるし」
「それはないだろ」私の嘘はあっさりと流される。
 彼はにこやかに笑って「でも意外だな」と呟いた。
「意外って、何が」
「本なんて読まないと思った」
「…よく言われるけど」私は軽くため息をついた。
 外見の問題上、他人からそういうイメージを持たれにくいことは分かっている。
 髪は金に染めているし、制服のスカートも丈をギリギリまで短くしている。ピアスもそのうち空けるつもりでいる。
 それだけ見れば確かに私は『読書』という分野から遠そうに思えるのかもしれなかった。納得はしないけれど。
「人を外見で判断するなってよく言われない?」
「うん。それはまったくもってその通りだ」彼は素直に頷いた。「要するに、人と接する時は先入観を捨てるべきだってことだな」
「いや、そこまで言うつもりはないけど」バツが悪いので、私は軽く目線を逸らす。
 矛盾するようだけど、第一印象がその人をある程度決定づけるようなところはあると思う。
「で、奈緒は読書が好きなんだ」
「まぁ、好きな方だと思うけど」答えてから眉をひそめる。「っていうか、呼び捨て?」
「だって名前しか聞いてないし」そんなこと言われても、と困ったように彼が言う。
 実際そのとおりではあったのだけど、私は何か釈然としないものを感じていた。
「もっと何かないの? 『さん』とか」
「俺に『さん』付けで呼ばれたいのか」
「……遠慮しとく」確かに妙な感じがする。寒気に近い。
「だろ?」彼はにこりと笑った。「そっちも俺のこと呼び捨てにして構わないし」
 何を言っても無駄な気がした。降参、とばかりに私は軽く両手を上げる。「好きにすれば」
「ああ。俺、あと半年は好きに生きるって決めてるんだよ」臆面もなくそう言った。
 その顔にどこか悲壮な面影が浮かんでいたような気がしたけれど、私はそれを見なかったことにする。




















 あとがき


 何とか3話までサルベージ出来ました。現行5話なので折り返し地点です。嬉しいです。
 この調子なら年が明ける頃には6話書けそうな気がします。気がします。あくまで。

 今回、異世界パートはシズナさんを助けるところまで。冒険は流れを重視するのでプレイを完全に再現はしません。
 また今まで短かった現実世界パートは中盤以降の関連性から徐々に長くなっていく予定です。予定です。あくまで。

 ところで最近シャーマンキングの完全版が欲しくて仕方ありません。
 それでは感想などありましたら嬉しいのでよろしくお願いします。
 駄文ですがこれにて。もげでした。


pass>>


選択した記事にこのフォームで返信します。
name
url
mail
title
mesage
pass

p.ink