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Agitator 第一章 双剣の鴉 by 桜崎紗綾 2009/04/29 (Wed) 12:49
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    第一章 双剣の鴉




町の配置は基本的に変わらないようだ。

サーショ、リーリル、ムー、滅びてしまったシイルの町。アーサの知らない地理はほとんどない。道の開発がなされていて、街道の整備がしっかりしていた。街道沿いに宿場なども点在してあるようだ。

アーサがサーショに向かおうとして歩いていたら、街道で誰かにぶつかった。

見ると、小柄な少女だ。肩につくくらいの黒髪に藍色のワンピースの、可愛らしい女の子だった。


「あ、ごめんなさい…」

「大丈夫? 怪我ない?」

「へ、平気です…。じゃあ、すみません」


その少女は、一礼してアーサが歩く方向とは反対方向に走り去って行った。


「急いでたのかな? うつむいて走ってんじゃ、またすぐに誰かにぶつかっちゃうと思うけど」

《そうでござるな…。しかし、あの娘、どこに向かおうとしておるのか》

「リーリルとかじゃん? お使いに行けなくもない距離だし」


無闇に追いかける必要はないと判断したアーサは、サーショに向かった。


「通行証の提示を」


アーサが知らない鎧の兵士二人が、剣を交差して立ちはだかる。


「通行証? オレ、旅してっからそんなの知らないんだけど」

「なら、この町には用はないな。帰られよ」

「宿屋に行きたい場合とかは?」

「街道沿いを使われよ。道具屋はリーリルにある。鍛冶職人の店はどこかに移転したらしいぞ」


アーサは首を傾げながらもその場から立ち去ることにした。


「どう言うことだ?」

《今の兵士殿の対応はそれほど悪くはなかったですな》

「一時的なものか」


アーサは深く気にしないでリーリルに向かうことにした。


「そこの旅人、止まれ!」


突然、アーサは誰かに呼び止められた。背後からで、先ほどサーショに入れてくれなかった兵士と同じような鎧を着たものがかなりの数だけいる。声を掛けたのは指揮官らしき者のようだ。


「…なに?」

「王国兵の残党だな。もしくは、鷺の団の一員か」

「残党って? 鷺の団って何?」

「問答無用、かかれっ!」

「…えっ!?」


兵士たちが剣を抜いて飛び掛かって来る。


《アーサ殿、剣を抜かれよ!》

「はっ、はい!」


訳も分からずアーサは剣を抜いた。一人を、水平斬りで迎え撃つ。何か嫌な感触を覚えたが、続け様に跳躍して来た一人を切り上げた。生命を奪う感覚を厭うような余裕はない。
彼は、トーテムによる力が異形のものだと、初めて知った。


(兵士だよな…殺っちゃってよかったのかな)

《これは、アーサ殿にも拙者にも身に覚えのない不当な武力行使でござる。正当防衛と言えますな。
 それよりも、次の相手を!》

(初陣じゃないだろ、この数!)


アーサは突っ込みを入れながら、素早く剣を振り、三人目を突き倒した。

相手は何人なのだろう? むしろ、いつ終わるのだろう?

そう思いながらアーサは四人目を切り上げて倒した。同時に、別の兵士に腕を切られた。その兵士を横薙に倒し、さらに次の相手に向かった。

疲労がピークに達しかけたが、息をつく暇もなかった。

アーサは跳躍して来た相手を突き上げた。

15回死ねるとか、そんなことは関係ない。
オレはもう、死にたくないんだ!



   *



「本当にサーショに向かっていたのですか?」


長身で細身の男が疑わしげに尋ねた。


「本当だよ! その金髪のお兄さん、サーショ方面に向かってったの」


小柄な少女が請け合う――先ほどアーサとぶつかった少女だ。

男の方は、灰色の髪に黒い外套を羽織っている。紺色の帽子の大きな鍔で顔半分が隠れていて、外套からは金の鎖がアクセサリーとして見えている。


「『盗賊』対策に封鎖されてから、偵察帰りにぶつかったんだけど…」

「これはまた。厄介なことになりそうですね。その旅の人が、事情も知らずに王国兵の残党か、我らの一員だと疑われかねません」

「どっ、どうしよう?」

「ふ〜む…」


男は考える素振りを一瞬足りとも見せずに、口許を歪めて笑った。


「考えても仕方ないですよ。サーショ行きの街道のどこかにいるに違いありません。行きましょう」

「うん!」


男は先に走り始めた。少女が後を追う。



   *



剣が、手のひらに滲んだ汗で滑りそうになる。

兵士は容赦なく刃向かって来る。アーサには自分の何が良くないのか分からなかったが、それでも倒さないと死んでしまう。悲鳴をあげる腕に檄を飛ばしながら、アーサは兵士を切り払う。


「やれやれ、全くどうしようもない連中ですね」


空耳?

アーサが思った時、目の前の兵士が突然倒れた。その背後に、鍔の大きな帽子を被る長身細身の男が両手に一振りずつ短剣を手に現れた。


「旅人一人にこの数とは、卑劣極まりない暴力ですよ」

「あんた…」

「後は自分達にお任せを。あなたは下がっていてください。大丈夫、この双鴉の歯牙にもかけぬ相手ばかりですから」


男は、兵士に向けて素早く短剣を投げ、合間に『波動』を叩き込む。

どこからともなく雷が降りて来る。不当な武力行使に対する天罰のようだ、とアーサは思った。

兵士たちの背後にいたのは、先ほどぶつかった少女だ。彼女が放った『雷光』が、さっきの雷の正体のようで、さらに『火炎』まで飛んで行った。彼女は笑みさえ浮かべて威力の高いフォースを飛ばした。

アーサは剣を握り直した。


(このチャンス、活かさない手はない!)


この二人組に委ねるのも、決して間違った選択ではない。それでいてアーサは、自ら戦場に飛び込むことを辞さなかった。


《アーサ殿!?》

(今がチャンスだよ、オーディ! 訳分かんないけどオレが招いたみたいだから、オレが責任を取らないとダメだろ?)


自分は戦える。

彼にはその自信があったのかもしれない。アーサは剣を振り下ろし、敵を切り倒した。



   *



「大丈夫ですか?」


兵士を全滅させた。

灰色の帽子の男が、アーサに近付いて来た。この男は巧みに兵士の攻撃を避けていたようで、無傷だった。アーサの方は、重くはないが傷だらけである。
強力なフォース攻撃で挟み撃ちしてくれた少女が現れた。彼女はアーサの傷を『治癒』のフォースで癒し始める。


「大丈夫だよ、ありがとう」


『治癒』のフォース一回で足りないかともう一度使おうとした少女を止めて、アーサは優しく笑いかけた。


「私のせいかと思ったの。サーショが封鎖されてたのを知ってたから、行かないでって言えば良かったのに」

「君のせいじゃない。オレも、(心当たりはないけど)何か変なことしたかもしれないし」


とんでもない目に遭ったな、などとアーサは思いながら、生きている証拠である腕の疲労による痛みを噛み締めた。


「それに、こうして生きてる訳だし、な?
 どっちみちオレが生きているのは二人が途中で助けてくれたからだ。ありがとう、本当に助かったよ」

「あなたも強いですね。歩けますか? 早く逃げた方がいいですよ。そのうち第二弾が来るでしょうから」


意味は分からなかったが、アーサはとりあえず二人組の後について行った。
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