ノベル&テキストBBS

小説やショートストーリーの書き込みなど、長文系の書き込みはこちらへどうぞ!
タイトルの左にある■を押すと、その記事を全て見ることができます。

□BBSトップへ ■書き込み □過去ログ表示 ▲ログ検索
●選択した記事の表示・返信・修正・削除
Agitator 覚書 <桜崎紗綾> 03/29 (20:48) 8058
  Agitator プロローグ <桜崎紗綾> 03/29 (21:15) 8060
  Agitator 第一章 双剣の鴉 <桜崎紗綾> 04/29 (12:49) 8061
  Agitator 第二章 鷺の団 <桜崎紗綾> 04/29 (12:49) 8067
  Agitator 第三章 呪縛の理姫 <桜崎紗綾> 04/29 (13:08) 8096
  Agitator 第四章 邂逅 <桜崎紗綾> 05/19 (11:43) 8120
  Agitator 第五章 王女の白騎士 <桜崎紗綾> 06/05 (12:35) 8126
  感想 <もげ> 03/29 (21:20) 8062
  感謝! <桜崎紗綾> 03/29 (21:59) 8063
  感想二 <もげ> 04/04 (00:35) 8069
  感謝弐 <桜崎紗綾> 05/24 (10:29) 8070
  感想です <LADEN> 05/19 (20:51) 8121
  感謝です <桜崎紗綾> 05/21 (23:47) 8122
  感想でう! <asd> 06/07 (18:10) 8127
  感謝でう! <桜崎紗綾> 06/08 (14:41) 8128
  感想をば… <白夜> 06/09 (00:55) 8135
  感謝をば… <桜崎紗綾> 06/09 (18:17) 8136

8067
Agitator 第二章 鷺の団 by 桜崎紗綾 2009/04/29 (Wed) 12:49
■Home
一覧を見る
 



    第二章 鷺の団




サーショから北西の森の奥の開けた場所に、木造の建物があった。アーサには知る由もないことだが、ここは以前異端とされた理力研究者たちが隠れ住んでいた場所だ。


「ここは?」

「まだお話していませんでしたね」


長身の男が静かに告げた。


「ここは『鷺の団』本部です」

「さっきから気になってたんだけど…。鷺の団って何?」

「中にお入りください」


よく見たら、建物の屋根は木より低かった。普通の生活よりも、隠れ住むのが目的なのだろう。

少女の案内に従ってアーサは建物の中にある椅子に腰を掛けた。


(鷺の団…何なのだろう。この二人もその一員みたいだし、少なくとも敵ではなさそうだ…)

《味方だと簡単に決めるのも良くないでござるな。決断するのはアーサ殿であるのに変わりはありませぬが》

「そんなに自分は不審ですか?」


突然、男が声を掛けて来た。何気ない表情で彼は、コーヒーが入ったマグをアーサの前に置いた。


《そなた、拙者の姿が…》

「えぇ、見えますよ。鷺の団の者は、ほとんど全員が見えるでしょうね」

「…あんたが強いわけだ。余計に不審なんだけど。まず、名前から教えてくれない? オレがなんて呼べばいいか分からない」


男はクスクスと笑い始めた。少女が近くの椅子を引き、机の上に地図を広げてから座った。


「人に名を聞く時はあなたの方から名乗りませんか?」

「…アーサ。こっちはオーディ」

「素直でいいですね。自分はヴァイオットと言います」

「私はアリスだよ」


間髪容れずにアリスは名乗り、間をおいてから呟いた。


「鷺の団は、今から五年くらい前に結成された傭兵団なの。
 国の目が届かないところで人を困らせる盗賊を倒すのがお仕事。たまに、公にはできないような仕事を国から引き受けてこなしてお金をもらったこともあるの。
 鷺の団は、国のために動く有名な傭兵団なんだ」

「ところが、バーン城は、突如現れた反乱軍によって制圧されたんですよ。誰も把握していなかったその勢力は、我々も対応し切れませんでした。
 …国王夫妻は既に亡くなられたと聞きます。一方で、辛くも城を逃れたと言われる一人娘のナフィルカーナ姫とその護衛の者たちは、未だ行方知れずです」


ヴァイオットは溜め息をついた。アリスが彼の前にコーヒーのマグを置いた。


「反乱軍は、鷺の団が国の為に動く組織だと知っているはずです。ナフィルカーナ姫は我々が匿っていると思い、連中は我々や王国兵の残党を探しているわけですよ。
 全く、姫の行方は自分が知りたいところなのに」


確かに、王女は鷺の団が匿っていると考えるのが自然かもしれないし、だとしたら団員を一人でも捕まえようと血眼になるのも無理はない。
王女が鷺の団を頼るのも、過去に彼らが行った義の行為からして適切なのは事実なのだ。


「サーショは、城から一番近い位置にありますから、自分が王女探索に当たって情報収集をしていたのです。
 そうしたら、鷺の団の者が町にいると反乱軍側に割れてしまい、封鎖して袋の鼠にしようと模索したんでしょうね。自分は『転移』のフォースで逃げてきましたが、結局王女の情報も掴めず、連中は相変わらず封鎖し続けています」

「それでも何とか、内通者を送ることに成功したんだ。その人達が見張りにいる時は合言葉で通してくれたんだけど、バレたみたい。
 たぶん、合言葉もバレてたみたいで、うまく対策も練っちゃって、それがわかって私は捕まらないように急いで帰ってたの」


その途中にアーサとぶつかった、ということだろう。


「その合言葉って、何だったの?」

「旅人を装ってる場合は、『宿屋に行きたい場合とかは?』で、私の場合は買い物帰りで…」

《申されましたな。アーサ殿は、間違いなくその一言を申されましたぞ》

「それで追いかけられて攻撃か…。知らなかったとは言え、うっかりしてたよ」


ああやっぱり、とアリスは盛大な溜め息をついた。
この場合、忠告しなかったアリスに非がある。それでもアーサを助けたという意味では、彼女はその責任を果たしたと言えなくもない。


「で、他の町は? 情報を掴むよりも、お姫様本人を直接探した方が、よほど建設的な気がするけど」

「ふ〜む、確かに」

「…それに、正直、まだあんたたちのことは信用できないんだ。オレは今、誰を味方するべきか見極めているところでさ」

「それは自由ですが、だとしても、すぐここを出て行くのは正しい判断ではありません」


ヴァイオットはサラリと言ってのけて、まだ湯気をあげるコーヒーを飲んだ。余程不味かったのか、彼は口を歪めた。


「先ほど言ったでしょう、あなたを狙う反乱軍の第二弾が来ると。一弾目の死体を見れば一旦は退くでしょうが、数を増やしてまた現れるに違いありません。あなたは今、鷺の団のメンバーだと疑われてるんですよ。
 ほとぼりが冷めるまでは、ここにいた方がいいでしょう。大丈夫、仕事をさせたりはしませんから。したければ別ですが」

「暇なのは嫌なんだ。オレの旅には、それなりに目的があるから」

「なるほど。仕事が欲しいわけですね」


別に欲しくはない。

アーサはそう言おうと思ったが、敢えて口を挟まなかった。それ以上下手なことを言っても仕方がない。それに、この男が「欲しい、けどいらない」という微妙な言い回しを理解するかは分からない。


「ところでアリス。このコーヒー、砂糖が少ないんじゃないですか?」

「……角砂糖三個でも足りないの?」


アリスの辟易した表情には、アーサも共感できた。甘党にも程がある。王女探しには協力する気になった彼は、とりあえず『お近付きの印』にヴァイオットに冗談を言おうと思った。


「血糖値あげすぎると将来に響くぜ、おっさん」

「自分はまだ20代です!」


アリスがぎりぎりね、と突っ込みを入れて笑い出した。アーサは彼女の姿を見て声をあげて笑った。

憤慨しているのは、ヴァイオットだけだった。


「あぁ、アリスちゃん。オレはこのくらい苦い方がちょうどいいや」


アーサは自分に出されたコーヒーを一口飲んで、笑った。
意外に打ち解けている、旅人特有の人懐こさに、オーディは密かに感心していた。



   *



翌朝。

アーサは一人、剣の素振りを行っていた。オーディは彼の頭上で武術指南をしている。何しろ彼は戦いなど馴れていない。


《アーサ殿、それ以上は避けた方がいいですな。余り体力を使いすぎると、今日の実戦に響きかねませんぞ》


アーサはそれに従って、ショートブレードを鞘に収めた。それから、アリスが現れた。


「アリスちゃん。おはよう」

「アーサさん、おはよう。朝から熱心ね。ウチの団員にはそんなに頑張る人はいないよ?」

「隠すつもりはなかったんだけど、実は昨日のあれが初陣だったんだ」

「本当? その割には強かったね」


アリスはアーサを中に導き入れて、コーヒーを淹れた。その間も二人は会話を続ける。


「…あれじゃん? 火事場の馬鹿力とか言う」

「その謙遜と向上心、ウチの団員にも見習わせたいな」


アリスはコーヒーが嫌いなようだ。彼女は自分の分を用意せずに、アーサの前にマグを置く。


「旅人に暇はタブーだろ。だから何かしてなきゃ落ち着かないんだ」

「仕事が趣味はいい傾向ではありませんよ。ある時突然冷めたりしますから」

「オレの場合は生きがいなの。あんた、ロマンが分からないな」


ヴァイオットは何気なく現れて、自分で角砂糖を小瓶から出していた。


「さて、アーサ。今日はあなたも加えて三人で、ナフィルカーナ姫の捜索をしますよ。仕事が欲しいのでしょう?」


アーサにしてみれば暇が嫌いなだけで仕事が欲しいわけではない。しかし、助けてもらった上に、しばらく匿ってくれた相手に何もしないというのは忍びない。


「分かった。オレもできる限り頑張るよ。どこ行くの?」









  あとがき

桜が咲くと小学生の頃は学年が100人もいなかったので「友達100人もできねぇよ!」とか思ってた時代を思い出します。

こんにちは、桜崎です。
ちなみにこのHNは秋にできたものです。春とかまるで関係ない。

以前から、章タイトルばかりに力を入れているところがあります。
趣味でオリジナルをアナログ書きしていたときから知ってますよ…章タイトルとかサブタイトルって意外と覚えてもらえませんよね。

友人「よく見たら深いね!」 よく見たらは余計じゃーい!
…件名に入れた方がいいのかな。

予定に反してなかなかナナシ姫(苦笑)が出てきませんねぇ。
次回も出てこない気がするのは単なる直感じゃなさそうです。

入学って楽しみだったっけと、高校の頃を思い出しましたが…
このあたりで失礼します!
pass>>


選択した記事にこのフォームで返信します。
name
url
mail
title
mesage
pass

p.ink