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Agitator 第三章 呪縛の理姫 by 桜崎紗綾 2009/04/29 (Wed) 13:08
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100年前、この地上にはトカゲ人がいた。オーディ曰く、その呼び名は差別用語で、本来は竜人と言うらしい。だからオレも竜人と呼ぶべきだと思う。

当時はオレら人間と彼ら竜人は長年の争いを続けていたが、一人の勇者によって竜人は一人残らず消えてしまった――つまり滅びた。勇者の名はナナシさん。彼女のことは、オーディよりもオレの方がよく知ってると思う。

彼女が竜人の神様を殺してしまったのが、彼らを滅ぼす要因になったらしい。よく分からないがそういうことなのだろう。

けれども、血で血を洗って手にする勝利に、平和に、利益を感じるのは勝利の美酒に酔い痴れるその瞬間にしかない。
人間が本当にしたかったのは、竜人を滅ぼすことではなく、誰かを殺し、また、誰かと争うことじゃないのかな。

結局、人間はあのあと、「正当な理由で誰かを殺せない」ことでストレスになって、人間同士で争ってしまったのだ。

一部の奴等が、竜人が消えた直後に無力な人への集団暴力に及んだそうだ。たぶん、オレは見事にその餌食になってしまったのだろう。

その殺戮本能みたいなのがこの100年間に、盗賊を作り、鷺の団を作り、反乱軍を生み出した。人は、誰かに打ち勝って優越感に浸りたがる生き物だから、らしい。オーディは流石に言い過ぎだと思うけど、否定できないオレの、強くなりたいと言う想いはなんなのだろう。

ヒトは、争いと言う名の業を背負わずには、生きていけないのかな?


            ――アーサの日記から




    第三章 呪縛の理姫




午前8時に、一行は鷺の団本部を抜けて外に出た。

ナフィルカーナ姫が見つかり次第、アーサは旅を再開する方針でいた。王女か、反乱軍か、どちらが敵か分からない状態で、鷺の団を簡単に信じる訳にはいかない。彼がここにいるのは、恩返しなのだ。

彼らが向かっていたのは、シイルの町に向かう方向だ。既に滅びた町だが、地名として残されているらしい。旅人向けの宿は経営者がいないせいで余り数が多くない。


「こっちには町はなくない?」

「自分がサーショやリーリルを探索しても足跡を掴めなかったと言うことは、姫や僅かな護衛たちは人里を避けている可能性が高いんです」


ヴァイオットの探索能力は、正直よく分からなかったが、アーサは言及しなかった。
もう、シイルは町としての原形を残していなかった。代わりに屋敷が建っている。ヴァイオット曰く、空き家のようだ。アーサは何となくやるせない気持ちに駆られながら、西の森に向かう。


「ここにもいないな」

「…誰か来ます」


ヴァイオットは元来た道を静かに振り返った。彼がわざとらしく音をたてて短剣を抜いたことに、アーサは気付いた。
そこにいたのは反乱軍の鎧を着た者たちだった。昨日よりも数が多い。


「反乱軍はここまで来てましたか…」


アーサはその数を見て辟易しながら剣を抜いた。


「3人相手に多くない?」

「私、この倍くらいは一人で相手できるよ。なんたって私は『アリス』だもの」

「アリスちゃん、そんなこと言ったら増援呼ばれちまうぞ」

「それも面倒だねぇ」


自分がアリスだからと言う言葉の意味は分からなかったが、アーサは自分が結構落ち着いていることに驚いた。適応性か、図太さか。


「な、何だ、この我らを見てものんびりとした様子は!」

「何なんでしょうね。自分が知りたいところですよ」

「ヴァイオットも落ち着いてるよね」

「いやぁ、お褒めに預かり光栄です」


褒めていない。
もちろんヴァイオットは気付いていただろうがが、不敵な笑みを浮かべていた。挑発行為だ。

予定通り攻撃して来た反乱軍を相手に、アーサは迎え撃ち始めた。しかし、何故か違和感がある。相手が弱い訳ではない。かといって彼が極端に強くなった訳でもない。

ヴァイオットが短剣を投げ始めた。兵士の攻撃を素早く避けている。その合間に近くの相手を切り倒し、『波動』のフォースを打ち込んだ。

アリスは『増幅』と『雷光』を繰り返して敵を攻めた。恐ろしい戦い方だ。時折『催眠』などで動きを封じていた。


「呪縛のアリスだ!」

「双鴉ヴァイオットもいるぜ! 勝てるわけねぇよ!」


反乱軍の誰かが叫んだ。何人かが逃げようとしている。


(えっ? 今、何て言った? オーディ、聞こえた?)

《『呪縛のアリス』と聞こえたでござるな。双鴉、というのは前に聞いたはずですぞ》


怯むな、かかれ。指揮官らしき男が叫んでいたが、兵士たちはアリスたちの姿を見るなり逃げ出していて、統率力はこれ以上ないくらいに乱れていた。

アーサは、違和感の正体を突き止めた。兵士たちは、ヴァイオットと、彼以上にアリスに畏怖を抱いていたのだ。

鷺の団は有名だと、昨日アリスが教えてくれた。人数も少ないため、団員の名前が有名になることも有り得るかもしれない。

確かに、アリスのフォースは天才と呼ばれてもおかしくないくらいに強力だ。それを、時折笑顔すら浮かべて放ち続ける。


なんたって私は『アリス』だもの。


彼女が先ほど言った意味が、ようやく分かった。
呪縛のアリスにかかれば、こんな奴等はただの雑魚だ。そう言って相手を萎縮したかったのか、挑発したかったのかまでは、分からないが。


(アリスちゃんって有名人なんだ…)


アーサは彼女が味方でよかった、と思った。

この戦いが恐ろしい早さで終わったのは、言うまでもない。



   *



《これで、よかったのですか?》


ただ、白に覆われた無垢な天上界。深緑の小さな竜が、白い少女を見つめていた。

その側には銀色の狼と、紫の鳥が控えている。


『私の力が多く残っていない以上、こうするほか、なかったのです。既に、裁きの時へのリミッターは外れかけている。もう、彼に賭けるしかない』

《人は一度、裁かれるべきだと、我は思うぞ》

『そうかも、知れません。ですが私は、人に賭けてみたい。
 …それとも、“親”が“子”に抱くものとしては、期待過多なのでしょうか』

《さあな、それは分からん。だが、我にはどうしても解せぬことがある》


銀色の狼が、低い声で唸る。少女は深窓の令嬢のような愁いを込めた表情で、話に耳を傾けた。


《何故、あの少年なのだ? もっと適任がいる、と本人が思っていたほどだ。彼の者の死後、集団暴力による死者は増加した。他に適任はいたであろう》

《そうですよ。あの男の子は一般的すぎる。妥協しちゃいけません。彼に世界の運命を託すなんて大それたこと、できゃしませんって》


紫の鳥が、さりげなく請け合った。


『生きたいと言う想いが、輝かしいくらいに強かったのです。あの子に任せられるかは、正直分かりませんが、私は彼を放っておけなかった』

《…甘いな、リクレール》

『ええ、私もそう思います』


少女――リクレールは、静かに答える。


『それでも、私はあの少年なら大丈夫だと、思っています』






 あとがき


3の倍数の章ではアーサの日記を付け加えよう!
なんて思いながら彼の日記にしちゃあ長すぎる日記を加えました。

いよいよここまで来てもヒロインのナナシ姫が現れない…。
しかもナナシ姫の本名(ナフィルカーナ姫)からいつナナシ姫に切り替えればいいのかしら。お姉さんわからない(えー)

予定していた章タイトル「邂逅」を、「出会ってねえよ!」と急きょ切り替えることに。そんなわけでこんな漕ぎ着けっぽいタイトル。

あとクリードとシュナイダーが出てきてない。
いや、彼らが出てくるタイミングは「姫の後」(爆笑)と決めてあるんですが。

彼らの登場に期待しつつ、ここまで読んでくださった方に感謝です。
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