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Agitator 第五章 王女の白騎士 by 桜崎紗綾 2009/06/05 (Fri) 12:35
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   第五章 王女の白騎士




「計画性に欠けてるね」


アリスが容赦なく呟いた。無論、それはアーサにも分かっていた。彼がヴァイオット達を脅したところで、その後どうなるわけでもない。といって他に何をすればいいのかも思い付かない。

「そこがアーサさんの弱点だよ。一見的確に見えても、その後は何もできない。隙だらけなのは分かってるだろうに。あなたは、ただの馬鹿なの?」

「………だが、その隙だらけな策は、時として何かを生み出すことがあるもんだ」


聞き慣れない声が聞こえて来た。


「それは大層阿呆みてぇな話だが、日頃の行いと運が善ければ自然といい結果に流れつくらしい。ま、俺の経験上の話だな」


アーサには足音が近付いて来ているのが分かった。
その足音の主は吉をもたらすか、凶をもたらすか――さすがにそこまでは分からなかったけれど。


「誰なの!?」


近付いて来たのは長身で精悍な体躯の男だった。薄い緑の髪に灰色の鎧、白い外套が闇夜に映える。


「あんたらに、名乗る名は用意してねぇよ。俺は姫様を命懸けで守ろうとして無謀な勝負に出てる、そっちの餓鬼に協力するべき立場だし、個人的にも協力したいってだけさ」

「あなたも倒してしまえば…」

「問題ナシってか? 俺を見くびるなよ、双鴉ヴァイオットさん」


ヴァイオットは短剣を抜く。投げ付けるも、男は剣でそれを叩き落とした。アリスの『波動』が飛んで来たが、彼はやはり剣でそれを叩き割った。


(速い!)

「貰ったな」


男は何気なく呟いた。アーサの方に近付いて、彼は『転移』のフォースを使った。


「逃げられちゃった」


アリスが小声で呟いた。彼らはやはり、傭兵だ。失敗したところで金が貰えないだけだ。しかし、傭兵だからこそ、金に執着するのだろう。


「しかし、あの男…規格外の強さでした。どうやら王国兵のようですし、この仕事、予想以上に大変なことになりそうですね」

「『あいつ』呼んじゃう?」

「呼んだところで来るかは微妙ですよ。何せ『彼』は物好きですからね。ともあれ、一応呼んでおきましょう。気が向けば来てくれるはずです。あの三人は、泳がせてやりましょうか。そのうち行動パターンが読めるはずですから」

「分かった。じゃ、反乱軍にはそう伝えとくね」


アリスは森へと姿を消した。


「旅人の心理というのは、よく分かりませんね。ヒロイズムにでも浸りたいのか…」


ヴァイオットは静かに呟いて、鷺の団本拠地に戻った。



   *



男が選んだ場所は、シイルの町があった屋敷だった。


「さっさとこっちへ! ここは俺らの家ですから」

「……家?」


空き家だ、という情報も嘘だったのだろう、とアーサは納得した。情報が錯綜し過ぎている。

ともあれ、いつ誰が現れるか分からない状態なので、彼らは屋敷の中に入った。

中には若い女がいた。アーサたちが入ると、その女が近付いて来た。


「よく連れて来てくれたわね、クリード」

「運良く、物分かりのいい餓鬼がいてくれたからな」


クリードと呼ばれた例の男が、アーサの方を指差した。アーサは自分の物分かりではないだろう、と内心突っ込みを入れながら、女に取りあえず礼をした。
女は三つ編みの赤い髪をしていた。薄手のローブを身にまとっている。


「私はエルよ。君は?」

「アーサ。ただの通りすがりだよ」

「いい眼をしてる。気に入ったわ」


エルと名乗った女は、アーサとナフィルカーナ姫、それにクリードを案内した。

王国兵第四隊長。それがクリードの肩書きだ。
エルは、彼の婚約者だとかで、よくサーショの兵士の世話をしているらしい。


「クリードが生きていてよかったわ。エル、あなたも逃げられたのね」


エルはアーサやナフィルカーナたちをそれぞれに用意した部屋に連れて行った。アーサには聞きたいことがあったが、時間が遅いのは事実なので明日にしよう、と割り切った。

アーサは用意された部屋に入った。



   *



翌朝、アーサが屋敷の広間に現れると、エルが食事を運び回っていた。

15人もいないくらいの少人数の兵士がいる。アーサが見慣れた、バーン正規兵の鎧を身に着けた者たちだ。
エルが何気なくアーサに近付いて、席を指示する。しばらくしてコーヒーが運ばれて来る。


「パンが焼けるまで、コーヒーでも飲んで待っててちょうだい」

「どうも」

「…君、色々聞きたいことがあるんでしょう? 私に答えられる範囲でよければ聞いてあげるけど」

「恥ずかしいことに、何一つ分からなくて困ってるんだ」


エルはアーサの向かい側の席に着きながら、笑顔で請け合った。


「知らないことは恥ずかしいことじゃないわ。
 そうね、この屋敷は鷺の団の第二拠点よ。今は生き残った兵士の隠れ家なんだけどね」

「どういうこと?」

「知ってのとおり傭兵は利益優先で動くでしょ。反乱軍に姫様を売れば金になるって思ったのが、あなたがあった二人。反面、私たちに強力した方が後々金になるって思った人を、こちら側で雇ってるわけ。
 彼ら、金で動くから使いやすいのよ。つまり、大金を注ぎ込めば身内も裏切ってくれるの」


アーサはコーヒーに角砂糖を入れてかき混ぜながら、エルの話を理解しようとした。
つまり、今ここにクリード始めとする王国兵が隠れていられるのは、鷺の団にいるうちのアーサが知らない誰かが、『金』を理由にヴァイオットやアリスを追い返しているからだ。恐らく、始めからいないと言うのだろう。

いつまで彼らに通用するか分からないが、今はそれしか打つ手がないのだろう。


「つまり、鷺の団だからって敵なわけではない、と」

「そうなるわ。他に分からないことは?」

「反乱軍って…何? 何のためにこの国を…」

「分からないわ。もしかしたら、今の政府に何らかの不満があるのかもしれない。単に、何か大きなモノを壊したいだけかもしれない。
 いずれにしても彼らは革命を起こして、私たちはそれを阻止するのが目的」


大きなモノを壊したい。

その言葉が、アーサの胸に槍のように突き刺さった。出来れば、反乱軍の目的が前者であって欲しい。
――それがナフィルカーナ姫や、彼女の両親を否定することに繋がるとしても。


「まぁ、とりあえずのんびりしてなさい。訓練場なら、地下にあるわ。クリードならあそこにいるんじゃないかしら? あなたのことは相当気に入ってたみたいだから、私や姫様だけと喋らないで、たまには顔を出したら良いわよ」

「そうする。ここの人にも嫌われたら、オレ、もう行く当てないし」


それはないわよ、とエルは呟きながら立ち上がった。
パンが焼けたらしい。












 あとがき

やっぱり更新速度は遅いままな桜崎です。

私事で忙しくてここに来れないでいたら、お絵かき板ではアサナナ祭り…
男性(というかむしろ人)の絵が描けない自分が悔しいぜ!

さて、ようやくクリードが登場しました。
実は次の話まで書き上げているので、シュナイダーも登場済みです。
エルはとりあえずメアリーと同じような仕事をしている人だと思っていただいて大丈夫です。

いつになったらアサナナ的展開が訪れてくれるのやら。
最近は「より悪質な方の」アサナナをちょっとひねってます。
この話も十分に悪質かもしれませんが…
もしかしたらそちらの方も別にアップしちゃうかもですね。
タイトルは…「悪質な話」(嘘ですよ)

また時間が空いたら来ることにしましょう。
ここまで読んでくださった方には本当に感謝です!
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