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ぐ・・・
身体が動かない・・・
おのれ・・・こんなところで死ぬというのか・・・
なぜだ・・・何故こんなところで・・・
あんな・・・人間どもに・・・
・・・おのれぇ・・・
〜プロローグ〜
・・・
・・・
・・・
・・・心地よい・・・
・・・ここは・・・どこだ?・・・
漂っているような感覚がする。 感覚がする、というだけで正確なことは分からない。 身体を動かそうとする気にもならなかった。 とても落ち着く場所にいるからだ。 まるで、一度来たことがあるような、 そんな気がした。 無論、それは錯覚だが・・・ ・・・だが、どうしてもそんな気がしてしまった。 このまま漂っているのだろうか、そう「私」が思ったとき どこからか声が聞こえた。
「もしもし・・・私の声が聞こえますか・・・」
声、という表現はおかしかったかもしれない。 その「声」は耳の鼓膜に響く「声」ではなく、 直接脳に語りかけてくるような「言葉」のように感じられたからだ。
(・・・誰だ)
無視しようかと思った。 せっかく気持ちの良い場所にいることが出来ているのに邪魔されたくなかったからだ。 そのためか少し、苛立っていたかもしれない。
「・・・聞こえているようですね。まずは自己紹介をしましょうか・・・私はリクレールと申します」
(・・・それはご丁寧にどう) (ご丁寧にどうも有難うございます!!)
リクレール、と言う存在の声を聞いて言葉を返した瞬間、すぐ右隣から大声が聞こえた。 突然のことに驚き思わず、反射的に右を見た。
(だ、誰だ・・・!?)
しかし、そこには声の主はいなかった。 いや、正確には見えないというべきか。 すぐ右隣になにかがいる。 自分には見えないが、そこになにかいるのは分かった。 理解はしていない。ただ感覚でそこに何かがいるのが分かった。 しかし、ここで初めて「目」を見開いて初めて分かったことがある。 ここは白い空間だった。 他に色は無い。ただ白い空間。 ある意味ここまで白だと逆に不気味だ。 そんなことを考えているうちに「声」がまた聞こえてきた。 リクレールではなく隣からだ。
(あれ?私の隣にもだれかいるんですか?)
「ああ・・・すみません。今説明しますね。貴方たちの隣には人がいるんです。ただ、貴方達は「意識」だけの存在ですけどね。その証拠に・・・自分の身体を見てください」
(身体・・・?)
視線を下に落としてみた。 そこにはあるべきはずのもの――胴体が無かった。 正確には胴体だけではなく四肢も見当たらなかった。 「私」は腕や足を動かしてみようとした。 だが、感覚が無い。 動かしたという感覚が伝わってこないのだ。 思い返してみれば先程から「声」を発したような気はしなかった。 ただ喋ったような気がしただけだった。 そうなると、この「目」も同じなのかもしれない。 ただ見たという気がするだけ。 それだけなのかもしれない。
(これはどういう――)
(わー!どういうことなんですかこれぇ!!)
耳があったら確実に耳をふさいでいただろう大音量の声が響いた。 そもそも耳がないのにどうして音が聞こえるのか疑問だったが今はそんな事は特に関係はないと心の中で思った。 そして未だにギャーギャーと騒いでいる隣を無視してリクレールの答えを待った。
「・・・あなた達には酷なことを言うかもしれませんが、あなた達は既に死んでいます」
(えっ、死、死んでいる・・・)
突然、隣が静かになった。 死という言葉に反応したようだった。 リクレールの言葉は続いた。
「・・・嫌なことを思い出させてしまってすみません・・・けれど、あなた達には頼みたいことがあるんです」
(なっ、なんですか・・・)
隣の声は先ほどまでとは打って変わって声が小さくなり、震えていた。 何があったかは知らない。というか知り様もない。更に言うなら興味もない。だから無視した。 「私」はリクレールの言葉を黙って待っていた。
「あなた達にはシルフェイドと言う世界に行ってもらいたいのです。そしてそこで起こる”災い”を止めて欲しいのです」
(災い?)
「はい。それが何かは分からないのですが・・・それが十五日後に起こることだけは分かっているのです」
(・・・つまりそれを止めるために私達を呼んだのか?)
「私」は口を開いた。 その言葉にリクレールは一瞬戸惑いながら、はい、と答えた。 続けて言葉をつないだのはやはり「私」だ。
(言いたいことは分かった。だがこんな体で何ができると言うのだ。肉体がないというのに)
「それは大丈夫です。体を用意しています」
手際がいいな、と思う。 最初からこの調子ならばまだ何か用意しているかもしれない。 それを探るためにあえて質問してみた。
(肉体だけでどうしろと言うのだ?それだけでどうにかできるほど甘い物なのか”災い”とは)
質問の内容がストレートすぎたかもしれない、だがリクレールは答えた。
「・・・他にもありますよ。まず――十五個の命です」
(十五個の命?)
この言葉は「私」ではなかった。 今まで黙って聞いていた隣の存在だ。 だが、「私」はそれを無視した。 いまはリクレールの言葉の意味を理解する方が先だった。
(十五個の命とはどういうことだ?)
「言葉の通りです。一度死んでも復活できる・・・それが最大十五回だと言うだけです」
(ほぉ・・・)
これは便利だ。十五回再生できるのならばその”災い”がなんであろうと一回挑戦してそれで終わり、という事にはならない。 「私」はリクレールの回答に半ば満足した――のだが
(納得できません!!)
再び大声が聞こえた。 もちろん隣からだ。しかし今度の声は先ほどのような雑音に近い音ではなかった。
「ど、どうしたんですか?」
リクレールが動揺した。 隣は声を続けた。 先ほどとは違う、凛とした決意のある声を。
(なんで・・・なんで十五個も命があるんですか!普通、命は一つでしょう!?それが十五個もあるだなんて卑怯です!)
(・・・?)
隣の声に疑問を抱く。 どうしてここまで必死なのだろうと。
(確かに十五個あった方が便利かもしれませんけど、私は人間として一個の命を大事にしていきたいんです!だから十五個も命なんていりません!)
「ええと・・・どうしましょう。あなたはどう考えますか?」
リクレールがこちらを向いた。 「私」に聞いているのだろう。 まぁ正直に言えば答えはNOだ。 もらえるものを減らすことはない。損なだけだ。 だから隣の意見を無視するつもりだった。
(・・・そうだな、私は)
そう、無視する――つもりだった。
(そこの奴のいう通り一つで良い)
(・・・えっ?)
「・・・えっ?」
リクレールと隣が呆けた声を出した。
(・・・なんだ。私が同意するのがそんなに不思議か?)
「だ、だってさっき納得したみたいに(ほぉ・・・)って言ってたから・・・」
(・・・)
確かに先ほど納得も満足もしていた。 だがその考えを撤回した理由は言うつもりはなかった。
私は人間として一個の命を大事にしていきたいんです!
なんだかコケにされた気分だった。
人間として一個の命を大事にしていきたいんです!
まさか――
人間として一個の命を大事に
クズのような存在が――
人間として一個の命を
そこまで言うとは思っていなかったから
人間として
人間ごときが・・・
人間
調子に乗るなよ・・・私は――!
「あ、あのう〜どうしたんですか」
リクレールの声に、はっとした。
(いやなんでもない・・・なんでもないさ)
意識を取り戻した「私」は改めて答えた。
(同意したのは・・・そうだな)
そして「私」は心にもないことを口にした。
(私も一個の命を大事にしていきたいからさ)
「・・・そうですか。それでは十五個の命は渡さないでおきますね。」
(あ〜りがとうございまーす!!貴方、話が分かりますね!!)
再び声の質が雑音に戻った。 耳を塞ぎたい想いだったが手がないので仕方ない。というか手がないのに耳の感覚は機能しているのはどうしてなのだろうか。まぁそんな事心の底からどうでも良かった。 雑音は続く。
(今度ゆっくりお話しませんか?なんだか気が合いそうです!あ、そういえば私達の自己紹介まだでしたね)
勝手に話を進めていく。止める隙すら与えない。 狙っているのか、素でやっているのか知らないがものすごいマイペースのようだ。
(私はノイって言います!あなたはなんて言うお名前なんですか?)
ノイは勝手に自己紹介して勝手に聞いてきた。 明確に無視しようかと思ったが、そうするのもなんだか馬鹿らしい気分になってきたので素直に「私」は「私」の名前を告げた。
(私の名前は・・・シンク。そう、シンクだ)
「私」は無表情に言い放った。
それに反して「私」は笑っていた。 心の奥底に今は眠り続けている、 死しても尚私の魂に憑いてきた、 魔王の――殺戮衝動は。
あとがき どうもasdと申します。 初めましての方初めまして。 そうでない方はお久し振りですね。 いやはや・・・ずいぶんと久し振りにテキストBBSに戻って参りました・・・
さて、今回投稿したものは主人公は元魔王です。 50年前にサリムたちに倒された魔王のことです。 前にもこの元魔王を主人公にして投稿したことがあるのですが、あの時とは違う結末、違う事実を用意しています。 ・・・ところで誤字があったらスミマセン。あと、結構急ピッチで書いたので文がおかしかったらスミマセン。多分ないとは思うけれど・・・。前はたくさんあったから心配です。
さてここからは余談です。 一年半ほど前にテキストBBSに書いてあった作品のほとんどが消えた事故が発生したため(知ってる人何人いるかな?)それ以来書くのを辞めていました。 ・・・のですが、その後一作品投稿したことがあったんですよ。 急に書きたくなったので。 だけど、その後学校が忙しくなって書くことができず結局その作品は作品の数による制限で消えてしまいました。 そこからさらに時間がたって今この作品を投稿したのですが、今度は続けます。ていうか、なんとか頑張ります。根性で。
では今日はこの辺で〜 あ〜そうだ。タイトルについては突っ込まないで、ね♪ その内分かるから・・・多分。 |
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