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削除 by 2009/06/10 (Wed) 21:24
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T−1 「噂の男」 by 鳩羽 音路 2009/03/16 (Mon) 19:39
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T−1 「噂の男」



 最近町に怪しい男がいる、という噂が立っていた。
 全身を薄汚れた黒い外衣に包み、寝静まった夜の町を歩き回っている…………。
 最初はそんな内容だったが、次第に噂は形を変え、夜に突然ドアを叩いて奇怪な言葉を呟くだとか、家の壁を傷つけるだとか、挙げ句の果てには、人をさらうなどと本当なのか嘘なのかわからないようなものになっていた。
 本当に家のドアを叩いたのか、家の壁を傷つけたのか、人をさらったのかはわからないが、そんな風に見えたとか聞いたとかの曖昧なものであったため、人々の噂としては何らかの価値があっても、しかし国からすれば放置すべき小さな町の戯言であった。

 噂が立ちだしてから2、3週間ほど経ったある日、町の宿屋に一風変わった男が現れた。
 足の付け根まである長い漆黒のコートを着て、さらにフードを被っており、顔は影に隠れてよく分からない。
 僅かに見える部分と声から判断して、歳はさほどいっておらず、むしろ若いくらいである。
 名をキルとだけ名乗り、受付を済ませると指定の部屋へすぐに引っ込んだ。

 黒コートに深く被ったフード。
 その場に居合わせた人は、誰もがキルと名乗るその人物を噂と結びつけた。
 …………服の色はぴったりだし、服が汚れているというのも夜は辺りが暗いためにどうにでもなる。
 もしかしたらあのコートの下に何か隠してるんじゃないか。
 そしてあのフード。きっと顔を隠すためだぜ…………噂は前よりも速く広まった。

 そのキルという男のほうはというと、その日の昼を過ぎるとどこかへ外出した。
 そして帰ってきたのは人々の寝静まった夜中だった。
 これは数日続いた。
 彼自身噂を知っているかどうかはわからないが、彼が夜遅くに帰ってきているという事実を知った人々は当然ながら、夜な夜な何か怪しいことをしているに違いない、と噂しあった。
 そのことについて宿屋の店主に質問する人間もいたが、店主自身キルのことを怪しく思いながらも一応は自分の客であるため外部の質問には誤解がないよう答えていた。
 しかし逆にその謎が人々の好奇の目を受けることとなり、キルのことを知る人は増えていった。

 また、キルの噂をさらに広げるようなことも一度あった。
 珍しく彼が朝方外出したと思うと、その足は町の武器屋に向かったのである。
 武器屋に行くということは、武具をそろえるということであるのは言うまでもなく、そういったものを扱う職業柄であるというのが噂に拍車を掛けたのだ。
 そもそもこの町をはじめとするほとんどの町では、軍の兵士や傭兵の資格をもっているものくらいしか武器を買うことはできないことになっている。
 もちろんそれは例外もあるが、兵士であるならば服装は兵服を着せられるため、町の人たちはキルが傭兵である可能性が高いと思った。
 彼は武器屋で剣をじっくりと眺め、ショートブレイドを2本、さらにグランドブレイドを1本購入した。
 かなりの買い物である。
 ショートブレイドは歩兵用であるため使い手は多くいるが、グランドブレイドとなると刀身は剣の中でも最高の長さであり重量も超級。
 腕力がなければ扱うことすらできない代物であるため、購入する人間も数少ない。
 しかし彼は楽々とそれらを持ち上げ、片手で担いで宿に帰ったということである。

 さて、次に新たな動きを見せたのは宿を借りてから一週間後である。
 晴れた昼下がり、その日は部屋に籠もっていたキルに、客人が現れた。
 いや、むしろこの場合客といえば語弊が生じることになるのだが、現れたのは国からの使いであった。
 近くにいた人間はやはり傭兵だったかと顔を見合わせひそひそとなにか話し合っている。
 部屋の奥から現れた、今日もまたフードを被ったキルに、使者が同行を頼むと、すんなりと受け入れ、一旦部屋に戻り武器やら他の荷物やらを担いで再び表に顔を出した。
 宿屋の店主にこれ以上部屋を借りるつもりはない旨を短く告げると、使者とともにその場を立ち去った。
 

          ◇


 キルが連れて行かれたのは、この辺り一帯をおさえ統治するバーン王の城だった。
 バーン王国は大陸を統治する最も大きな国家である。
 約5世紀前に建国されて以来、様々な事件はあったものの、依然として権威を保っている。
 現在では東西南北の地域を4人の有力者に任せ、バーン王自身はさきほどキルがいた最も城に近くに位置する町、サーショを含む中央部を治めていた。
 そのため、城までは短時間で行くことが出来、キルが城門を通されたとき、まだ日は落ちていなかった。
 使者は門をくぐるとキルに、一応武器を預かっておくことを伝えた。
 キルは素直に従い、雑多の荷物をどこからか現れた兵士二人に預け、何も言わずに使者について城に入っていった。

 城の内部にずんずんと入ってゆき、階段を3つ4つと上るうちに、やがて質素な扉のついた部屋にたどり着いた。
 こちらでしばらくお待ちください。使者はそういうと、ぺこりと頭を下げて視界から消えた。

 キルは部屋に入ると辺りを見回した。
 赤い絨毯が敷かれたその部屋は、狭くないし広くもない。
 また王城内とはいえどそれほど煌びやかでもなく、シンプルな様式と装飾が施されていた。
 部屋の中央には丸テーブルが置かれ、それを椅子が取り囲んでいる。
 次に、壁に飾ってある槍に近づいて、刃やその柄をじっくりと観察した。
 長さは約3メートルほどで、穂先には斧頭、その反対側には鋭利な突起(ピック)が設けられたハルバード型である。
 ハルバードには戦い方が少なくとも4つあり、その形状からわかるように「切る」「突く」「突起の鉤爪でひっかける」「鉤爪で叩く」と用途が広い。
 この槍の場合斧頭が比較的大きいのでこれを使った戦いがメインを占めるようだ――――
「…………――――!」
 不意に人の気配を感じ、キルは振り返った。
 そこには髭を生やした中背の男が立っていた。
 少し生え際が後退しており薄くなっているところから、若くはないようで、王冠も被っていないため少なくともバーン王ではない。
 キルの記憶だとたしか国王の年齢は30前後であり、かなり若いほうなのである。
「槍に興味があるのか?」
 男がキルに近づいた。しかしキルはさっと離れた。
 男は驚いた顔をしたが、すぐに微笑した。
「ああ、そうだった。君は用心深いんだったな。失礼、私は大臣のゴーゴルだ。この通り武器も持っていない」
 大臣は警戒を解くために衣服の内側を見せた。キルはようやく大臣に近づいた。ゴーゴルは椅子にキルを座らせ、自分も向かい側についた。
 ゴーゴル。最近、大臣の位に就いたということはキルの耳に入っている。
 そしてその才知も優れているということも聞いていた。
「さて、君についての話を聞いて呼び寄せたわけだが、どういうことかわかるか?」
 大臣は手で髭を弄びながらそう言った。しかしキルは黙っているだけだった。
「まあよい。その沈黙は『分かっている』と受け取っておく。……ところでそのフードはいつまでつけているつもりだ? 少々暑苦しくないかね」
 しかしキルは答えない。大臣は困ったような顔をするとまた言った。
「とりあえずは、ここではフードはとるように。それが最低限のマナーだ」
 そう言われるとやっとのことでキルはフードに手をかけ、素顔を見せた。
 黒い髪に、射抜くように鋭く開いた目。そして端整な顔立ち。若い青年の顔がフードから現れた。
 大臣は、予想以上に若いと思った。
 フードを取る前は漂わせる空気に物々しいものがあったが、それがこの青年から発せられたものだとわかると、妙な感じがした。
「これでよろしいですか。さあ、話の続きをしましょう」
 キルはフードをとると凛とした声で急に話し出した。
 まるでフードが彼の口のチャックになっているようだった。
「ふむ…………今回君と契約するわけだが、どんな内容かは分かるか?」
「一兵士としての雇用では?」
「もちろんそれもある。仮にも戦士として雇うなら、表面上兵士としての義務を負ってもらわなければならぬ。だが……それとはまた別に、頼みたい特別の任務があるのだ」
 大臣は眉間に深く刻まれた皺をよりいっそう深くした。
 雇い主がこういう顔をするとき、だいたいが厄介な仕事であるということをキルは経験をもって学んでいた。
 だが、厄介な仕事は金になるので、基本的にキルが断ることはない。
 その上これは国家直々の仕事である。その分見返りは倍以上になるだろう。
 しかし報酬の大小以前に、難しいことも、正体を明らかにしてみれば意外と簡単なものだとキルは考えていた。
「その任務とはなんでしょう」
「これは国としての恥部なのだが…………実をいえば人捜しなのだ」
 キルは少し拍子が抜けた気がした。
 だが、それもほんの一瞬であり、すぐに「恥部」というのに引っかかった。
「その恥部とは何ですか」
「うむ…………それがな」
 急に声が小さくなる。
「国王が行方不明なのだ…………」
 情けなさそうに大臣は言った。
 王が行方不明…………なるほど、たしかにそれは「恥部」である。
 この国を治める君主の失踪というのは、およそ世間に知れ渡ってしまっては困ることに違いない。
 しかしながら、一体何故その王がいなくなるのかがキルには理解できない。
 絶対的な地位を得た王が突然その立場を捨ててしまうとは考えづらい。
 捨てるにしても、よほど王に欲がないか、なにか外部からの要因があったか…………。
「王様はどのような格好を?」
「おそらくは君のようにコートを着ているだろう。色は紺色だ。国王がいなくなった後に、一着分が消えているからな。身長は君より少し高い。あと…………腕輪をしている」
「どんな腕輪ですか」
「赤い宝石が中央に埋め込まれた腕輪だ」
 そして、それ以上は思いつかない、と大臣は申し訳なさそうに言った。
 どうやらヒントになりそうなのはコートと腕輪くらいなようだ。
 もしも王が町中にいるとすればキルのように顔を隠しているだろう。
 しかしその確率はかなり低いとキルは考えた。
 町中は目立ちすぎるのだ。
 キルは真夜中に人知れずサーショの町を歩き回り、その全体構造の把握を試みたことが何度かあるが、それでも時折住民に見られたりもしている。
 サーショで立っていた噂はこれがもとであり、そのことはキル自身知っていた(内容がエスカレートするとまでは思わなかったが)。
 そのために王が姿を隠して町を歩き回ろうものなら比較的容易にその手の情報を得ることができる。
 そしてこの大臣も兵士を使って(もちろん王を捜すということは伏せて)情報を収集しようとしただろう。
 そうでなければわざわざキルに頼む理由がない。
 だがこれだけしか手がかりがないというのは、町にいる可能性が低いということに他ならない。
「報酬は高く積むつもりだ」
 大臣は言った。
「任務が遂行できれば一生抱えてやってもよいぞ」
「それはお断りします」
 キルはすかさず拒否した。大臣は不思議そうに首をかしげた。
「む…………なぜだ? 定職はないと聞いているが、生活の安定が第一ではないのか」
「長く飼われるのは苦手でしてね」キルはそそくさと席を立った。
「そうか…………あくまで野良がいいと? 面白いな、君は。まあいい、期待しているぞ」
 キルは部屋を出た。
8045
T−2 「KILLER」 by 鳩羽 音路 2009/03/16 (Mon) 19:42
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T−2 「KILLER」


 城から出ると、キルの荷物を預かっていた兵士2人が待っていた。
 城門で荷物を受け取ると、兵士は「次からは単身で王城に入れるように」とあらかじめ大臣から授かっていた許可書をキルに手渡し、また、「明日はサーショの兵士の詰め所に顔を出すように」と伝えた。
 キルは了解の言葉を返し、城を去った。

 その後キルはサーショに戻らず、リーリルを目指した。
 リーリルはサーショから見て南の方角に位置する。
 この国で最も賑やかな場所ともいえる大きな街であり、行商人がたくさん活動する商業都市である。
 また、国をあげての理力開発もこのリーリルを中枢として行われており、理力院(フォースアカデミー)という国内最大規模の学校もある。
 キルは広がる草原地帯を黙々と歩いていく。
 フードを被らないのは、被って顔を隠す必要もなく、風を肌に受けて感じたいからでもある。
 キルは「転移」の理力が使えたが、基本的には歩いた。
 理力を使って移動距離を短くすればそれは楽かもしれないが、地を踏みしめて歩き、なすがまま風を全身で感じるほうが、キルの性分に合っていた。
 この世界に自らの魂がとけ込んでいくように感じるとき、キルは己の存在を再確認できた。
 この世を構成する森羅万象のなかの一部としての己を見つけられた。

 少し行くと、小さな町が見えてきた。
 最近、新たな町というべきか、国の人々が住む地域が広がってきている。
 戦争の相手がいないことがこのことの最大の要因だろうが、この町もその動きの一部で、ここからリーリルまではこのような町が点在しているような状況である。
 それらを辿っていけば確実にリーリルにたどり着くという仕組みだ。
「おい、リーリルなんかへ行ってどうする? 聞き込みでもすんのか?」
 不意に隣から声がした。
 いつからいたのか、黒髪の少年がキルの隣を歩いている。
 見た感じはどこにでもいそうな少年であるが、それを異質なものにしているのは微かに透けた体。
「そのつもりだが…………おまえ、聞いていたのか?」
「まあな、たまたま。つーか人探しなんて馬鹿らしいと思わねえの? 俺なら絶対やらないね!」
 少年はけらけらと笑った。

 この世には、トーテムという者たちが存在している。
 その姿形は実に様々で、共通するのはおしなべて動物の姿をしており肉体が無いという点。
 そして特定の人間に宿るという点。
 トーテムに覚醒した人間は、身体能力・治癒力の向上、五感の強化が起こる。
 この少年も、実はトーテムである。
 普通トーテムは人外なのだが、例外的に彼は人間である。
 彼がトーテムであるのには深い訳があるのだが、なにかとそういう話題になると「ヒトも獣も動物だろ」と言い返す。
 ステレオタイプが嫌いらしい。
 彼の名はゴンベエ、略称ゴン。
 格好の良い名ではないが、「俺には選択権はなかった」と愚痴る。
 一言で言えば変わった奴だったが、キルと共に過ごした時間の長さは一番である。
 その点から言うと、良きパートナーと言うべきか。

「それよりゴン、留守番を頼んでいたはずだったが」
 キルには生活費を稼ぐための仕事のようなものがあった。
 あらゆる依頼を受け、それに対する報酬を受け取る仕事だ。
 どこかに雇用されているわけではなく、そもそもキルが自分で始めた仕事であり、決まった働き場などない。
 またゴンが「依頼請負業」とそのまま名付けたこの仕事が最近多くなってきたために、家を留守にすることが多くなっていた。
「おいおい……1週間も家空けといてそれはないだろ」
「それもそうか」
 宿屋に部屋を借りている間は3件あったが、どれも小規模なものばかりだった。
 あまり金にならない仕事を3件終わらせた後に、キルのもとに飛び込んできたのが「王の捜索」というわけである。
「で、ナナシはどうしてる?」
「ん? あいつならいつも通り本読んでたぞ。……あー、心配すんな。ちゃんと飯は毎日三食用意してるから」
 ナナシというのは、キルの家に住む少女の名である。
 孤児なので身寄りもなく、またキルになついているために預かっている。
「そうか。帰ったら今日中に一度帰ると伝えてくれ」
「わかった…………ってひとりで聞き込むのか?」
「そうだ。おまえと話していたら日が暮れる」
 別にそれほど時間を気にしているわけでもなかった。
 気にしているならリーリルまで歩くことはない。
 しかし、トーテムは常人に見ることはできないためにいろいろと面倒なことが起こる。
 例えば独り言をブツブツとつぶやき続けている「変な人」と思われたりするので、一般人との交流時には向かない。
 ゴンは人間のトーテムなので、キルは普通に会話など交わしているとトーテムだということ自体を忘れてしまい、「変な人」と思われてしまうことがよくあった。
 そこがトーテムの一番厄介な所だとキルは思っている。
「ひでえな。つーかもうじき日は暮れるだろ」
 ゴンはキルが時間以外のことを気にしていることに気づいていなかった。
 ゴンの言葉を無視し、キルは何かを考え込むように黙る。
 自分が失踪した王だとして、しかもリーリルに行ったとしたらどうするだろうか?
 長く留まることは自分ならしない。正体がばれてしまえば軍部に情報が伝わり、捕まってしまう。
 しかし人里を離れすぎても生活が困難になる…………。
「ちっ、もう推理モードかよ。…………わかったよ。ちゃんと今日中に帰れよ。お子様の面倒見るのは大変なんだからな!」
 やや怒鳴り気味でゴンは捨て台詞を吐いて消えた。


 リーリルに着いたのは夕暮れ時だった。
 絢爛な街並みが、夕日と共鳴して光っているようにも見える。
 朝昼と賑わった街が、この時間になってやっと落ち着いて、若干の気だるさを感じさせる空気を醸し出している。
 まず酒場へ行こうと思った。
 しかし、キルは考え直す。
 今の時間帯を考慮すると、客はそれほど入っていそうにない。
 酒場はやめて、街に出ている店を一つ一つまわった。
 しかしフードで顔を隠した不審な人間を見なかったか尋ねてみても、誰1人としてそんな者を見たことはないと答えた。
 キル自身フード付きのコートを着ているので、逆に店主から訝しげに眼を向けられた。
 やはりこの姿のままでは、国の兵士として聞き込むことはできず、突っ込んで話をすることもできない。
 最後の店から出て気づけば、既に日は落ち闇が訪れようとしていた。
 とはいえリーリルは晩も賑わう。特に最初に訪れようとしていた酒場はこの時間帯が最も賑やかになるので、最後にそこで聞き込むのも悪くない。
 キルは足を酒場へ進めた。

 酒場の戸を開け中に入ると、熱を帯びた空気に包まれた。
 カウンターはすべて埋まり、テーブルもほとんどが埋め尽くされている。
 女も少しいるが、大半は男で、兵士が多い。
 リーリルを含む王国南部の兵服は、中央部のものとは色に違いがあり、中央部は薄茶だが、ここでは浅緑である。
 キルはある事情によって南部の兵士や役人とはできるだけ関わらないようにしていたが、それも久しくなったので、「この程度なら問題ない」と判断し適当に空いている席へ座った。
 近くにいた兵士たちが一瞬仲間同士で語り合うのを止め、漆黒のコートに身を包んだキルを見たが、すぐにまた談話に戻った。
 横から聞いていると、他愛もない世間話や剣の扱い方の話などがされている。話題が国の警備の話に変わってまもなく、キルは口を挟んだ。
「南の警備はちゃんとやってるのか? この時間にわいわいやってるようだが」
 普通なら不自然な乱入だが、酒の入った連中の会話に入り込むのはそこまで難しくはない。
 ここでは、初めて会った人間と自己紹介などせず共に酒を飲むなどというのは日常茶飯事なのである。
 だが、次の日にはどんな奴と飲んだかを忘れてしまうということもよくあることであったので、聞き込む場所としてはキルにとって都合が良い。
 ただ、酔っ払いは事実を言うものの、その事実には誇張された内容が多いことが欠点だ。
「ああ…………それはさっき前半の警備担当が終わったからさ。今は後半のやつらがやってる」
 一番体の大きい兵士がビールを飲むのをやめてそう答えると、その隣の兵士が続いた。
「いつもこの時間はこんな感じで賑わってんだよ。まあ待遇は夜警の方がいいんだけどよ、やっぱ飲めなきゃやってらんねえ」
 兵士は一気に手元の酒を飲み干す。キルは、ビールの臭いが染みこんだ兵士の息に、顔をしかめた。
「ちゃんと警備はしているんだな。なら訊くが、最近この辺りで怪しい人物はいなかったか。紺色のコートを着てフードを被っているんだが」
 最初の兵士が首を傾げる。
「いんや、俺はそんなやつは見たことないけどなぁ。おまえらあるか?」
 他の兵士たちも顔を見合わせながら、口々に見たことが無いと言った。
 すると或る兵士がはっと思い出したように「ある」と呟いた。
 どこで見たかをキルはすかさず問う。
 すると兵士は一週間ほど前にトカゲの森へ向かう、フードを被った人物を見たと述べた。
 トカゲの森というのは、トカゲ人という種族(以前人間の戦争相手であった種族)が大陸からいなくなる前に、砦をその森の奥に築いていたことに由来する。
 リーリルからは北東の方角に位置する森だ。
 続いて兵士にその人物の身長を訊いたが、それは覚えていないという答えだった。
 トカゲの森。明日早速行ってみることにキルは決めた。
 ここまでうまく運んできたが、突然、端の方でずっと黙っていた兵士が、口を開いた。
「あんた、わざわざ兵士の俺たちにそんなこと訊いてどうすんだ? つーか何者だ?」
 冷静な者が一人いたようだ。
 キルは心の中で舌打ちをする。しかしすぐに返答を用意する。
「こんな格好だが、中央の兵士だ。向こうでその変な奴を前に見たが、こっちに来てないかと思ってな」
「…………なんか怪しいな。それにな、俺はあんたをどこかで見たことがあるような気がするんだよ」
 他の兵士がまたも顔を見合わせる。
 あいつ知ってるか? いや、俺は知らないと思うが…………。
 兵士達の間に何かきまずい空気が流れた。
「そうだ、ルークだ」
 ぽつりとさきほどの兵士が言った。
「ルーク…………ルーク=キーノート」
 その名前が出ると、その場にいた兵士達は急に静かになる。
 他の席ではがやがやと騒ぎながら飲んでいたが、キルの周辺だけに驚くほど冷えた沈黙の空気が漂った。
 キル――――すなわちルーク=キーノートの顔を知る者がまだいるという事実には、本人自身やはりと思う所もあった。
 数年隠れていようと過去の記憶を拭い去ることなどできはしないのだ。
 ……もちろんそんなことは最初から分かっていた。
 そいつがそいつで在る限り、そいつはそいつであるしかない。
 今まで生きてきて、嫌でも学んだことだ。
「理力院の天才、神童とまで呼ばれ、在学しながら最年少で、『五番目の部隊』の隊長に任命される。そして数々の危険因子を抹殺してきたが、しばらくして反逆的思想を同胞に密告され逆上。役人に死傷者を出し、逃亡。結局南部からは追放処置、アカデミーからは除名――――これがあんたの経歴じゃなかったか? 俺でもこのくらいは知ってるんだぜ?」
 キルは否定する気になれなかった。
 キルの知る真実と、広く兵士達などが知っている「事実」に多少の違いがあるにしても、真実などここではなんの意味も持たないことなのだ。
 それをわざわざ説明してやることは、さらに意味のない愚行といえる。それに――――多くの人間が事実だとしていることが、この世界では真実となり得てしまうのだ。
 個人にはどうしようもないことだ。
 それがこの世界の仕組みなのだ。
「ぼくがそのルーク=キーノートだとしたら、どうするというんだ? 今ここで捕まえてみるか? 殺人罪に、追放処置もないがしろ。ぼくのような奴を捕まえるのがおまえたちの仕事だろう。違うか?」
 その場にいた兵士がさらにいっそう黙り込む。
 キルの正体を明かした兵士も、この言葉には閉口せざるを得なかった。
 というのも、自分たちが束になってかかろうと、この男は捕まえることができない、とその場にいる誰もが思っているのだ。
 彼らはルーク=キーノートの実力を幾度も聞いてきたし、もしかすると実際に目にしたことがあるのかもしれない。
 キルはそのことを最初からわかっている。
 自分には力があるのだ。
 無論過信ではない。
 それは紛れもない事実であり、避けることの出来ない現実なのだ。
 重い沈黙が流れ続けた。
 周りの騒音をも、それはかき消した。
 ぼわぼわと無意味な音が、横臥する冷気に跳ね返された。
 キルはすっかり黙り込んでしまった一同を一瞥し、若干の寒い感情を胸中に覚えながら、逃げるように酒場を出た。
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T−3 「森の奥深きにある屋敷」 by 鳩羽 音路 2009/03/20 (Fri) 13:54
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T−3 「森の奥深きにある屋敷」



 闇夜の森には決まって静寂が横臥し、殆どの生物は何処かで寂々と息を殺している。
 動く物といえば、夜空を慌ただしく飛ぶコウモリ達や、風に応える楓の葉くらいなもので、地上を支配しているはずの人間ですら滅多にこの暗黒世界に足を踏み入れることはない。
 かつて人間と竜人が抗争を繰り返していた頃は、大体の森は竜人たちに支配されていた。
 そのため人間は森に入ることを恐れていたが、現在竜人は滅亡している。
 それにもかかわらず、夜の森が恐れられるのは、やはり森に住む野獣達の睡眠を妨げることは人間にとって自殺行為であるからに他ならない。
 彼らは単独で行動しているわけではなく、むしろ協力関係を作り上げ、侵入者を集団で攻撃するのだ。
 いくら自信のある理力使いや剣士がその渦中に巻き込まれたとしても、この暗闇で彼らの攻撃を防ぎきるのは容易くない。
 そんな森の中を、ある男が独りで進んでいく。
 辺りを警戒する様子もなく、物音がしても腰の剣の柄に手を掛けるという素振りは全く見せない。
 ただ、場所を確認するかのように時折立ち止まって木々の位置を把握し、そしてまた進んでいくのみ。
 随分奥まで進むと、木々の間から人家の灯火が漏れ出してくる。
 それを目指してまた進んでゆき、光源にたどり着くと、急に木々の少ないひらけた場所とその中央にある屋敷のような建物が現れ、彼を出迎える。
 その建物の壁は、その半分近くが適当に伸びた植物のつるに覆われており、かなり重々しい雰囲気を醸し出す佇まいである。
 屋根の部分は木々の葉が覆い被さってほとんどその肌を見せておらず、今も夜風に煽られはらはらと木の葉が舞っている。
 正面には頑丈そうで人の高さ以上の扉が来訪者を待ちかまえる。
 彼は屋敷の扉まで歩き、懐から大きな銅色の鍵を取り出した。
 扉についている鍵穴に鍵をねじこみ、解錠して中に入る。
 中は月光が通らない分、かなり暗くなっている。
 すると、屋敷の中から廊下を歩く音が聞こえてきた。
 こちらに向かってきている。
 彼は壁にいくつか設置してある燭台を見据える。
 次の瞬間、それらすべてに火が灯され、廊下全体が明るくなる。
 そして足音の主がはっきりと照らされる。


          ◇


「まだ起きてたのか。夜更かしは体に良くない」
 キルは目の前に現れた少女――――ナナシにまずそう言った。
「今日帰ってくるって聞いたから、起きてたの。それに、こういうときはまず『ただいま』だよね?」
 ナナシは少し不服そうに頬を膨らましてそう言った。
 彼女は、黒とまではいかないが、黒と紺の中間くらいの髪色をしている。
 髪が長いため普段は束ねているが、就寝前ということもあって今はおろしている。
 目鼻立ちは整っており、歳相応な愛らしい感じのする少女だ。
 キルは呆れながらも、数週間帰ってこずに、久しぶりに帰ってきて言った最初の言葉が「まだ起きてたのか」だった無神経な自分を少し悔いた。
 留守中はゴンに任せられるとはいえど、やはり最初にかけるべき言葉ではなかった。
 いくらナナシがしっかりしていようと、あたたかい言葉をかけるべきだったのだ。
 仕切り直して「ただいま」とキルが言うと、何がおかしいのか、口元に笑みを浮かべながら「おかえり」とナナシは返した。
「どうした? なにかおかしいか?」
「そうじゃないんだけど、やっとゴンと二人きりじゃなくてすむと思うと嬉しくて」
「なるほど。あいつは色々とうるさいからな」
「頭も弱いしね」
 ナナシはそう言うと今度は声を出して笑った。
 つられてキルも笑ったが、この前に笑ったのが一週間以上も前であり、いかに笑うことが少ないかということに気づくと、すぐに苦笑いに変わった。
「なんだとこらァ!」
 突然壁からゴンが飛び出してくる。
 トーテムは壁を貫通できる。
 こういう時は殆ど幽霊と変わらない、とキルは思うが、ゴンに対してそのことを言うのはタブーとも思えた。
「俺は頭弱くねえよ!」
 しかし大声を出して必死で否定する姿は、知的には見えなかった。
「じゃあ、うるさいのは認めるの?」
「うるさくもない! 頭悪くもない! 見た目が子どもなだけだ! 俺はな、もともと大人なんだよ!」
 だが、実際この場で一番うるさいのはゴンであり、見た目と同じくらいの精神年齢であるのも実をいえばゴンである。
 ナナシと比べてもかなり子どもだと言わざるをえない。
 頭もそれほど良くないので、ゴンは見た目は子ども、頭脳も子どもと言える。
 そうなるとただの子ども……いや、ただの人型子どもトーテム。
 しかしそこまで考えて、トーテムに「ただの」は似合わないことに気がつく。
「ちっ、これだからガキは」
 ゴンが舌打ちする。
「『ガキ』はゴンの方じゃない」
「未発達な『おこさま』に言われたくねえよ!」
「そろそろやめておけ。夜中なんだ」
 キルが仲裁に入る。
 森でいくら騒ごうとも隣家などどこにもないために、近所迷惑になることはないが、森で生活する獣たちに迷惑がいくのは必至である。
 辺りの獣はキルたちには慣れており、襲うということはないにしても良く思わないことは確かである。
 互いに迷惑はかけないのが、森でのルールだったのだ。
 そして今のように喧嘩が勃発し、ある程度まで進んだらキルが仲裁に入るというのがいつものパターンであり、しかもその頻度が非常に高い――――1日に最低1回は起こる――――ので、キルは意識するよりも先に言葉がでるくらいになってしまった。
 とはいえ、ゴンとナナシはそれほど仲が悪いわけではない。と、キルは思っている。
 端的に表現にするなら、「喧嘩するほど仲が良い」といった感じがしっくりくる。
 いつもいつも売り言葉に買い言葉で、言葉で殴り合う2人だが、本当に嫌いならもっとひどいか無視しあうかのどちらかなのだろう。
 実際、気のせいかもしれないが、キルには喧嘩する2人が微妙に楽しそうに見えることがよくあった。
「そういえばキル、王様は見つかったの?」
 ナナシが先ほどの小競り合いなどもはや無かったかのようにそう訊いた。
「もう聞いていたのか。一つだけ手がかりはつかんだが、殆どまだ手探り状態だ。でもこの任務が達成できたら、当分の間生活費には困らないだろうし、そしたら留守番も少なくなるだろう」
「ふーん、でもキルなら絶対できるよ。できないことなんてないもん」
 ナナシは何の躊躇いもなくそんなことを口にする。
 多分、本当にそう思っているのだ。
 実際、キルは殆どのことをやってのけている。
 今までも多種多様な依頼を受けてきたが、失敗したことはほぼないと言っていい。
 「ほぼ」というのは一部、特別な場合があって完全に遂行することが出来なかった依頼があるからであり、それらをのぞけばすべて成功させているのだ。
 その一方ゴンは、”俺に対する態度と全然違うよな”とでも言いたげに、留守番中は憂鬱そうだったのに、急に生き生きとしてキルと話しているナナシを流し目で見ていた。


 キルはひとまず荷物を片付けるために、自室へ行くことにした。
 この屋敷には、もともと人が住んでいなかった。
 もちろん昔は誰か住んでいたはずだが、キルがこの古い建物を見つけた時は少なくとも無人であり、住み込むあてなどなかったキルにとっては絶好の立地条件だった。
 人里からは十分すぎるほど離れており、殆ど人が来ることはない。
 森へ入ってきたとしても、森自体が広いため、正確に場所を知らないとたどり着くのは困難である。
 しかし、ただ一つ完璧ではないのは、屋敷の広さにあった。
 狭いのではない。
 むしろ広すぎるのだ。
 部屋が数多くあり、廊下なども迷路のように入り組んでいる。
 どういうわけか仕掛け扉や、秘密の抜け口のような隠し通路も多い。
 昔の金持ちが建てたのか。
 それとも滅びた竜人の遺産か。
 またはそれ以外の何かか。
 しかしゴンは割と興味がありそうだったが、キルは住めれば良しといった風に特に興味は示さなかった。

 入り組んだ廊下を右へ左へと曲がっていくと、直線に長く伸びた廊下が眼前に現れる。
 キルの部屋はその廊下の壁についているいくつものドアの中で、最も手前にあるものの奥にあった。
 ドアを開けて中に入ると、先ほどまで続いていた廊下の年期の入った壁とは違って、磨き上げられた木材で加工された壁を持った部屋が広がる。
 床も壁と同様の処置を施されており、部屋の外と中では全く違った空間が展開しているかのようである。
 最初キルがここへ来たときは、どの部屋も古いために所々禿げていたり埃まみれだったりと、とても住めたものではなかったが、なんとかいくつかの部屋を改修して出来上がったものの一つがこの部屋だ。
 ゴンとナナシの部屋もこれと同じになっている。
 キルは隅に置いてあるクローゼットのような家具の戸を開けた。
 中は衣服を掛ける場所――――ではなく、小さな武器庫である。
 長いものと短いものが規則正しく立てられている。
 持っていたグランドブレイドやショートブレイドをその中にしまい、ベッドに寝転がる。
 無規則に入り組んだ天井の木目をぼんやりと見つめる。
 王の失踪、か。
 変わったことが起きたものだ。
 何もかも放り出して、何者にも束縛されない自由の身になりたかったとでも言うのだろうか。
 たとえそうだとしても、王という地位を捨ててしまった王様は、このまま誰にも見つけられなかったなら、どういう生活を送るというのだろう。
 そしてバーン王国はこれから先どのような道筋を歩むことになるのだろう。
 また違った考えが脳裏に浮かぶ。
 自分が王を見つけたなら、それで依頼は達成され報酬が支払われる。
 しかし、逃げ出すような王を連れ戻して、そのまま再度王座につかせたとしても、また同じことが起こるのではないか。
 そうなるのなら、何の意味もないではないか。
 だが…………。
――――自分には関係のないことだ。
 キルは心の中で呟いた。
 もともと今の自分の目的は、金を稼いで生きることだ。
 国王が逃げて、それを捕まえろという者があればキルは依頼を遂行する。
 そこには契約以外のなにものも介さないドライな関係があるだけだ。
 なにか他のものに縛られるような関係があるにしても、依頼主、今の場合バーン王国の内部に干渉するのは良い判断とは思われない。
 とにかく――――考えても、仕方がない。
 できるだけ早く仕事を終わらせ、大きな街へナナシを連れて行き退屈を解消させてやろう。
 ナナシには狭い世界で毎日のように本ばかりを読むようなことはしてほしくない。
 自分とは違って、まだもっと広い世界があるはずなのだ。
 もう戻れない自分とは違って…………。
 コンコン――――
 ドアをノックする音が聞こえてくる。ゴンはいつもすり抜けて部屋へ入ってくるので、もちろんノックするのは1人しかいない。
「キル、ご飯どうする?」
 ナナシがドアを開けて中へ入ってきた。
「少し貰おうか。誰が作ったんだ?」
「ゴンよ。結果的に、だけど」
 ゴンは普通のトーテムではない。姿形はまず普通ではないのが明らかだが、そのほかに驚くべき能力を持っている。
 言葉で表すなら、『実体化』とでもいうのだろうか。
 触れられる実体として自らをこの世界に入り込ませることが可能なのだ。
 ゴンは、「もともと人間で、しかもトーテムになっている年月が浅いためにもとの自分を忘れていないという感じ」だと言っていた。
 それにしても、結果的に、とはどういうことだろう。
「もともとあたしが作ろうと思って、実際に作ったんだけど…………失敗しちゃって」
 ナナシは料理が上手なほうではないが、ゴンは外見に似合わず上手い。
 多分ナナシの料理を見かねたゴンが新しく作ったというパターンだろう。
 そこで喧嘩が勃発したのは言うまでもなさそうだが。

 その後、キルは屋敷の食堂でゴン特製のシチューを食べた。
 もちろん文句の付けようのない出来だ。
 ナナシも同じものを作っていたらしく、しかも捨てずに置いてあったので食べてみたが、しょっぱいような甘いような不思議な味がした。
 キルはあえて調味料については聞かなかった。
 この手の失敗は調味料を見境無く入れることに問題がある。
 寝る前に、空高く昇った月と、夜空に瞬く星たちを3人で見た。
 大きく欠けた月がキルを笑っているようだった。
 …………1日が終わっていく。
8054
T−4 「トカゲの森」(a) by 鳩羽 音路 2009/03/24 (Tue) 09:06
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T−4 「トカゲの森」(a)


「持ち物はここに入れてくれ。で、これが鍵だ。いいな?」
「剣はどうすればいいのですか?」
「君のは向こうの剣立てに入れておいてくれ。うちではみんな同じ剣を使うからな、まあそれは後で渡す」
「着替える兵服はどこにあるのです?」
「えーっと、そこだ。そこに掛かってるやつを使ってくれ。サイズが合わなかったらまた後で言ってくれよ」
 キルはサーショへ来ていた。
 サーショには1つ兵士達の詰め所がある。
 そこには狭いスペースにたくさんの兵士が入っているので、本当に「詰められている」ようになっており、今そこにいるキル自身暑苦しさを嫌と言うほど感じていた。
 ここを取り仕切っている兵士に渡された鍵を使ってロッカーを解錠し、掛かっていた兵服に着替えて今まで着ていたコートを中に入れる。
 特に持ち物は持ってきていないが、コートの内ポケットに入れておいた紙と羽根ペン、インクのはいった小さなケースを兵服のポケットに移し替えた。
 あまり使う機会はないかもしれないが、情報の整理くらいには使える。
 朝の集会(ここではいつも朝に集いが開かれる。隊長格の兵士が出欠や必要事項を確認する場である)ではキルについて「他の街から臨時でサーショの詰め所に派遣された者」として紹介した。
 もちろん嘘だが、おそらく大臣が不具合が生じないように取りはからったのだろうとキルは思った。
 突然募兵もしていないのに兵士が1人増えたとなると、周りに不信感をもたれてしまう。
 集会が終わると、短時間の訓練に入った。
 ランニング、筋肉トレーニング、木剣での素振り。
 黙々とキルはこなしたが、怪しまれないようにできるだけ周りの兵士達に合わせて、力を抑えて剣を振っていた。
 訓練が終了するとグループに分かれて警備に入った。
 場所は町の入り口周辺や大通り、ある程度距離をおいて町の外回りなどである。
 キルは大通りのグループに入れられた。
 警備場所に向かう途中、最初は見知らぬ新人をちらちらと伺うような兵士もいくつかいたが次第にそんな者もいなくなり、暇をもてあますような警備が始まる。
 しばらく本物の兵士のように警備をしていたが、他の兵士の目が届かないような所へ密かに移動すると、転移の理力を使ってサーショから出た。


 トカゲの森はリーリル北東に位置する森で、高く聳える山に囲まれるようにして形を成しており、森と山の境界は厳密には決められていない。
 単に、進んでいる地形にやや勾配が生じてくると山麓に入ったということになるのだ。
 生息している生物はそれほど多くなく、山から雨水が流れてくるので土壌は水分に富んで泥濘も点在し、苔は殆どの木々の根元付近を覆っている。

 キルは足下に注意しながら、森の中を歩いていた。
 それにしても森へ来たのは良いが、酒場で得た情報はただ「森へ向かっているのを見た」というだけだ。
 国王がここへ本当に来ていたとしても、今もここにいるだろうか。
 危険な野犬などは殆ど生息していないので住みやすさは悪くないだろうが、食料に富んでいるとは言い難い。
 しかも山まで行くと比較的凶暴な動物達が縄張りを持っているので能力者でない限り住むのはほぼ不可能と言っていい。
 とにかく森一帯を隈無く探す必要がある。
 次のことを考えるのはそれからでも遅くない。
「よっ、順調かぁ?」
 その時不意にゴンが現れて、キルに声を掛けた。
 いつもゴンは突然現れるのだが、キルは慣れているのと、こういう時も含めた色々な場面で感じる気配のおかげで驚くことはない。
「いいタイミングで現れたな。少し探すの手伝ってくれないか」
「なんかクソ悪いタイミングで来ちまったみたいだな俺は」
 ゴンが大袈裟に嘆息する。
「そういうなよ。なんかすることがあるのか?」
「まあねえけどよ…………」
 ゴンは言い渋った。
「ないけど何だ。ないならいいだろう」
「…………ちっ、しゃあねえな。つーかおまえそんなんだとな、友達減るぜ?」
「心配するな。ぼくには減ってしまうほど友人はいない」
 キルはやや自嘲の意味も込めてそう言った。
 ゴンがにやりと笑う。
「ははっ、確かに。片手で数えられるくらいだもんな」
「まあな。でも、それでいいと思っている。ぼくは今の生活が気に入っているから」
 本心だった。
 人里離れて3人で暮らす。
 それはそれでキルは満足していた。
「それは俺もだぜ。体が子どものせいで色々ストレス溜まることもあるけどな!」
 心も子どもだろう、とはキルはつっこまなかった。
「言っておくけどな、ゴン。実はおまえには割と感謝してるんだぞ」
「いや、割とじゃなくてもっと感謝しろよ! 留守番やって掃除して洗濯して子どもの面倒見て、あと――――」
「はいはい。じゃあおまえは向こう見てきてくれ。誰か居たらすぐ知らせてくれよ。じゃあまた後でな」
「……絶対そんなんだから友達少ねえんだよ」
 キルは無視して捜索に取りかかった。


 しばらくの間、森の中をキルは彷徨いた。
 しかしこれといって変わったことは無い。
 人影は見あたらず、柔らかくなった地面には足跡すら残っていない。
 錆びた剣など、使い物にならない武具などが捨てられていることもあったが、それを拾って細部を観察しても文字も書かれておらず何の手がかりにもならない。
 王はブレスレットをしていると言っていたが、そんなものを落としたり捨てたりするはずも無いだろう。
 金を得るために売却するというのは十分可能性があることだが、それが手がかりになるには持ち主を証明するような何かがなければならない。

 どんどん進んでいくと、やや森が開けてくる。
 これはトカゲ砦へ近づいているということの現れである。
 トカゲ砦は昔トカゲ人達の要塞としてこの森の最深部に作られたようだが、彼らが滅びた今現在は管理されていない。
 トカゲ人がいなくなって数年ほどは月に一度くらい数十人ほどから成る部隊をリーリルを中心として派遣していたが、完全にトカゲ人がいないという報告と、派遣することにあまりメリットがなくむしろ食糧費が多くかかるというデメリットによって、現在派遣は凍結されている。
 もしかするとあの砦にいるかもしれない。と、一瞬キルは考えたが、しかしそれは可能性は高くないとも考えた。
 中央の大臣ゴーゴルが砦をまだ探していないというのはありえないと思ったからである。
 もちろん行ってみなければわからないのだが……。

 完全に木が無くなり、ひらけた場所にキルは出た。
 少し先の方にトカゲ砦が構えている。
 植物の蔓が這うようにしてその壁を覆っており、管理が行き届いていないことがよく分かる状態だったが、逆にそれが何かの古代遺跡のような幻想的な雰囲気を醸し出していた。
 キルがここへくるとすぐに、後ろからゴンが来た。
 結果を聞いてみたが、誰もいなかったようだ。
 しかし少し気になることがあると言ったので、その内容をキルは訊ねた。
「いくつかバツ印が刻まれた木があったんだよな。傷は新しい。昔からあったもんじゃねえなあれは」
 ゴンはキルと同じくらい刃物やその他の武器に関する知識が深い。
 木に付いた傷の新旧を見極めるなど造作はない。
「まあ、あんま関係ねえだろうが……」
「確かにそうだが、調べておく価値はある」
 キルはそういって考えをめぐらせた。
「そもそも、無意味にバツ印を木に刻み込む理由がない。まずこの森には人はあまり来ないし、決闘が行われたならもっとたくさん傷が付いた木があってもおかしくない。もしもバツなんて木に印を付けるなら、そこには必ず何らかの意図があるはずだ。もちろんここへ偶々来た誰かが、道を間違えないように付けたということも十分あり得ることだが……」
「俺は何もねえと思うけどな……。一応、帰りに見てみるか?」
「そうすることにしよう。まずはこの砦だ」
 キルとゴンはトカゲ砦へ向かっていった。
 ガサリ。
 その時遠く後方で何かが森の中を動く音がしたが、2人はその音には気がつかなかった。
8057
T−4 「トカゲの森」(b) by 鳩羽 音路 2009/03/27 (Fri) 21:54
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「懐かしいな」
 トカゲ砦に入るとすぐにゴンはそんな感想を述べた。キルは訝しげにゴンを見た。
「来たことがあるのか?」
 一度だけキルはこの砦に入ったことがあったが、その頃は能力者ではなかったのでゴンはいなかった。
 それなのに懐かしいというのはどういう訳だろうか。
「おう。俺が初めてこの世界へ来たときに、1回だけな」
「……例の事件か」
 ゴンは昔の話、それも10年以上も前の話なのだが、その話になると急に寡黙になり、子どもっぽさが消える。
 キルは「例の事件」については大まかに聞かされていたが、知っていることは多くなかった。
 そもそも相手が話そうとしないことは、必要でない限りキルは問い詰めようとはしない。
 ただ、人間とトカゲ人の戦争を終わらせた張本人が誰であるかというのは、正確に把握していた。
「あれは俺がここへ呼ばれて2日目のこと……だったと思う。あの時は…………って昔話なんかしてる場合じゃねえな。悪い悪い、さっさと探そうぜ」
「話したいなら話せばいい。別にぼくはかまわない」
「…………じゃあ話しながら探すか」
 その後、キルは1階の大広間の床や天井、壁など細かい部分に人の生活した跡がないか調べながら、ゴンの話を聞いていた。
「俺はある存在から、使命を受けてこの世界へ来た、というのは結構前に言ったよな」
「ああ。記憶している」
 ”ある存在”というものが何なのかキルは聞いていなかったが、人ではない何かだと考えていた。
 人を超越した存在、例えば神のようなものだと。
 しかしそれはあくまで例えであり、実際には神は存在しない、という考えがキルの見解だった。
「15日後に起こる『災い』を未然に防ぐっていう使命だ。1日目に人間と竜人が敵対しているという事情を聞き、俺は竜人の存在が人間を脅かすことが『災い』と関係が深いと考え、ひとまずトカゲ砦に侵入することにした」
 そしてこの大広間で数人の竜人を斬り殺したのだという。ゴンはトカゲ人ではなく竜人という単語を使ったが、キルはあえてそれについて質問はしなかった。
「ほら、この壁の傷を見てみろよ。これは俺が壁際へ追い込んだときに振るったショートブレードの傷跡だ」
 堅い石から成る壁に、斜め一線に深々と刻まれた傷跡はその頃のゴンの剣がいかに鋭く速かったかを示している。
 それからしばらくゴンは何か考え込むようにして黙っていた。
 ここで起こった出来事が頭の中で映像のように流れているのだろうか。
 だとすれば、それは鮮やかなのか、霞んでいるのか。
「ゴン、先へ行こう。ここは調べ終わった」
 隅々まで見たが、これといって生活跡は見あたらなかった。
 どの場所も古くなって廃れてしまっていた。
「ん……おう、行くか」
 ゴンが曖昧に返事すると、キルは大広間の奥にある扉を開けてその奥へ進んだ。

 その後、砦の1階を隈無く調べたが、手がかりになるようなものは見つけられなかった。
 1階に無いのなら2階も無いだろうとキルは思ったが、可能性が無いわけではないので調べることにし、2階へ上がった。
 しばらく歩いていると、かなり横幅の広い通路に出た。
 その時ゴンが何かをふと思い出したように呟いたが、声が小さかったのでキルは聞き取ることができなかった。
 キルは後ろから着いてくるゴンに振り返った。
「どうした?」
「ここは…………戦場だった場所だ。俺はここで数十人の竜人兵と剣を交えた」
 よく見てみると、所々に血痕が付着していた。
 ここでの戦闘がどれだけ激しかったかを物語っているかのように、ひどい所では床全体が赤黒くくすんだように汚れているところもあった。
 それに、これはもともと10年以上前のものなので、それでもその跡が残っているというのは流れた血がどれほどの量であったかということも示していた。
「さすがにあのときは気分が悪かった。だけど、何故気分が悪いか……あのときは分からなかった」
 ゴンは血痕を近くで眺めていたが、しゃがんで指でなぞるようにした。
「でもな、今は説明できるぜ。俺は薄々気がついてたんだよ、竜人は姿形は人とは違っても、それを除けば人とはそれほど変わらないということにな」
「……どういうことだ」
「やつらには人間と同じ理性があった。話す言語は人と同じ。一人一人に個性があって、喜怒哀楽がある。理力も使えるやつはいた」
 キルはトカゲ人について書かれた書物は何冊も読んだことがあるが、人間側から書かれたものであるためか、ゴンが言ったようなことが書かれているものはなかった。
 そのために少し驚くところもあったが、よくよく考えてみればゴンの言ったことは当たり前のことなのかもしれない。
 人間に対抗できるものには、今のところ人間しかいない。
 なぜなら今この世界に存在する生物の中で、最も知性を有し、繁栄を続けているのは人間だからだ。
 その人間に対抗するためには、まさに人間と同じ能力、すなわち理性をもっていなければならず、対抗し得たトカゲ人は必然的にそれを持ち、結果感情を持つことになるのではないか。
 感情というものを、キルは初めから存在してはいないものだと考えている。
 感情は最初からあるのではなく、後から出現する。
 そして理性は感情を創り出す要因の一つだと考えていた。
 もちろん動物にも感情は認められるし、知性をもった動物もいるが、今最も感情を表す生き物が人間であるということが、キルの考えを根の部分で支えていた。
 それ故、理性をもつトカゲ人が感情をもつ、ということはキルにとって当然の考えであった。
 そんなトカゲ人がいなくなった今、人間は人間と争う機会を得た。
 いや……争うことはそれ以前にもあっただろう。
 ただ、それを抑えるものがいなくなっただけなのだ。
「そのことには砦を出て数日旅をしてからはっきり気づいた。だけどな、最終的に俺は竜人を滅ぼす結果になった。一つの種族を、この大陸から消し去っちまったんだ」
「何故そこまでする必要があったんだ。和解はなかったのか」
「これも話してなかったな。俺はそれからしばらくして、『災い』の正体を突き止めた。なんだと思う?」
 キルは少し推測したが、答えは見えそうになかった。
 わからない、と言った。
「竜人にはな、神が存在した。その神は人間を消滅させる術を長い間続けてきて、それがあと数日で完成するという事実を俺は知った」
 突然話が飛躍したとキルは思った。
 神、術? いかにも非現実的だ。
 しかし身近にいるこのゴンが非現実的でイレギュラーな存在なので、そんな話がついてくるのはあり得ない話ではないのかもしれない。
 まずは信じるしかない。
「説得は無駄だった。結局俺は神を止める……つまりは神を殺す選択肢しか与えられなかった。なぜなら俺は人だからだ。竜人の神を殺してしまうことは、詳しいことはよくわからねえが、竜人を滅ぼすことを意味した。どちらかが滅ぶなら、人を助けないと俺が存在する意味がねえからな」
 そこまで言って、ゴンはため息をついた。
 ゴンの広くない背中が、一瞬、老いた男のもののようにキルには見えた。
 長く生きた者が悲観的になった時に醸し出す、あの何とも言えない哀感がそこにあった。
 しかし、すぐにキルは何かがこみ上げてくるのを感じた。
 それは…………一種の笑いだった。
「……何でわらってんだよ。人が真面目な話をしてんのによ」
 突然声を上げて笑い出したキルに、ゴンが不服そうに言った。
「だからそれが笑えるんだよ。おまえが真面目そうにしてるのが、俺には笑えるんだ」
 キルは笑いを堪えきれないというように、腹を押さえてそう言った。
 重い話をしているときに笑うなど、不謹慎ではある。
 しかし、笑いを抑えることができなかった。
「俺はもともと真面目だ!」
「いや、悪い悪い。でも、似合わないんだよな。くくく……」
 まだキルは腹を押さえている。
 ゴンは不満なことがあるとすぐに怒るが、キルがこれほど笑っているのを見て、逆に自分がどれほどふざけた性格に受け取られているかを理解し、不安になった。
 だがその不安も彼の場合すぐに無くなる。
 彼は不安を抱えて過ごすのは嫌いであり、それ以上に不安などすぐに忘れる脳天気な性格の持ち主だったからだ。
 しかし誰にでも、心に闇があり、彼の場合それは自らが行ってきた所業に対する一種の後悔だったということだ。
 そのあとキルの笑いが収まると、2人は本来の目的を遂行すべく、歩き出した。
 できるだけ早く警備に戻らなければ、その分怪しまれてしまうということを忘れているわけではなかったので、手分けして2階全体を見回った。





▼お知らせ

里帰りのために少し次回の更新が遅れるかもしれないので、報告しておきます。
8066
T−4 「トカゲの森」(c) by 鳩羽 音路 2009/04/01 (Wed) 22:17
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T−4 「トカゲの森」(c)

 それから少し経って、キルとゴンは砦から出た。
 というのも、結局この場所には何の手がかりもなかったのだ。
 骨折り損といえばそこまでだが、誰のせいでもないので次の行動を考えるしかない。
 ふと、まだ例のバツ印を確認していないことに気がつく。
 ここまで何も無いとなると、最後まで何も無いような気がしている2人だったが、少しでも情報が必要になってくるこの依頼において、手を抜くことはあってはならない禁忌だ。
 最後の最後まで調べ尽くす根気がなければ、この仕事は務まらない。
「こっちのほうだぜ…………ほら、あの木の幹だ」
 ゴンの道案内で例の印の場所まで来てみると、たしかに木の幹に「×」印が刻んであった。
 ゴンの言うとおり傷は古くなく、さらにいえば傷が長く伸びていないので、多分、ナイフか何か小型の刃物で傷つけた跡だ。
 そのことからして、意図的なものだという予測がほぼ確実となった。
「他のはどこにあるんだ」
「この近くだ。もう少し行ったところにある」
 さらにゴンのあとに従い、3つのポイントで印の刻まれた木を確認した。
 どれも傷跡が似通っているので、間違いなく同一のものだ。
 しかしキルはまだ同じようなものがあるはずだと考えた。
 もし道しるべとして用意したものなら、もっとたくさんのポイントで印をつけてもおかしくないし、道しるべではないとしてもたった4つだけでは意味を成さないのではないか……?
 その推測は正しかった。
 ゴンが見落としていたのだろうが、周辺で6つのバツ印つきの木を発見した。
「ゴン……おまえ、ちゃんと見てなかっただろう」
「いや俺ちゃんと見てたし? つーかこんな細かい場所、普通気づかねえって」
 確かにそう言われればそうだった。
 新たに見つけた6つは、どれも木の幹ではなく枝や苔に覆われた根元の一部などわかりにくい場所にあったのだ。
 結果、合わせて10のポイントで印を得たことになるが…………。
 そのときキルはふと何かに気がついた。
「おまえはこの印なんだと思う?」
 キルはゴンにそう訊いた。
「道しるべじゃねえの? バツなんてありふれた印だしな」
「そうか……だが俺は、道しるべではないと断言できる」
「お、なんか分かったのかよ」
「ああ。よく印のあったポイントを確かめてみろ。普通に考えれば、分かるはずだ」
「場所か? …………あれがあそこで…………3つ目が…………」
 ゴンは、印を得た場所を頭の中で結んでみると、感覚的だが、直線ではなく、カーブ、特にかなり極端なカーブを描いていた。
「あ、なるほど、こりゃ道しるべにならないってことか」
「そういうことだ。道しるべなら、こんなに極端に曲がるなんてことはないってことだ。それに途中で途絶えている。そして…………これは多分ただ曲がっているだけじゃない」
 キルは紙と羽根ペンを取り出し、何かを描きだした。
 素早く手が動いて、すぐに大まかなトカゲの森の地図ができあがった。
 次に印のあるポイントを地図上に記入していく。
 常人なら森の大きさがわからず、正確に記入することができないが、キルの場合、地図や地形に関しては頭の中にその知識が詰まっており、また常人を凌駕する空間把握能力を有しているために、楽々とやってのける。
 ポイントの記入が終わると、今度は点を結んでいき、結んだ線を整えていく。
 するとある図形が紙の上に現れてきた。
「これは……円じゃねえか」
 ゴンは口をぽかんとあけて、そう言った。地図上にきっちりとした円が描かれていたのだ。
「そう、円だ。これは完全に道しるべなんかじゃない、何か、他のものを表したものだ。ところでゴン、円といえば何を思いつく?」
「…………丸い」
「当たり前だ。他には」
「スイカとかか?」
「もっとまじめに答えろ」
「うー……円だから……」
 ゴンはしばらく悩んでいたが、やがて口を開けた。
「中心、か?」
「そう、中心だ」
 キルはそう繰り返した。
「円には必ず中心がある。そしてこの円の中心は…………ここだ」
 キルは機械的に線を結び、円の中心を割り当てた。
「ぼくの推測では、ここに何かがあるはずだ。何のつもりで誰がやったのかは分からないし、もちろん王とは関係ないかもしれないが……」


 紙の上に記された場所へ行ってみると、そこは木が生えておらず、苔も多くない地面だった。
 キルは支給されていた剣を抜き、剣先でその場所を含めた辺り周辺を掘り始めた。
「理力使えばいいじゃねえか。おまえなら大穴くらい一発で空けられるだろ」
 ゴンがキルの作業をまじまじと見ながらそう言った。
 実際、それは「衝撃」の理力を使えば、キルなら可能だった。
「馬鹿だな、そんなことしたら埋まってる物も粉々になるだろ。何が埋まってるかもわからないのに、無茶はできない」
 ある程度埋まっている物が丈夫なら「衝撃」以外で使えそうな理力もあるが、キルはその性格から、確実に物事を進める方法をとったのだ。
 キルはいつも、石橋を叩いて渡るように自らが直面するであろうことを判断し確認する。
 キルは進むことを恐れた臆病者なのではなく、例えば、獲物を捕らえる確実なタイミングを見計らう獅子である。
 いや、もっとそれ以上に相手の動きまで分析し、地形やその他周囲の状況、そして自らの能力を十分に考慮した上で実行に移す――――それがキルのやり方だ。
 それからしばらく掘り返していると、剣先が土とは違う堅い物に当たった。
 表面の湿った土壌を手で払いのけると、埋まっている物の赤い表面が見えた。
 やはり推測は当たっていたようだが、一体これは……?
 さらに表面が見えている場所の周りを掘っていき、遂に全体を掘り出すことができた。
 埋蔵されていたものは、小さな赤い箱だった。
 かなり頑丈な造りで、鉄製の表面は赤鍍金が施されている。
「箱か…………。もしかして金とか入ってんじゃねえ?」
 ゴンが少し声を弾ませながらそう言ったが、多分それはないとキルは思った。
 箱は確かに重かったが、さらに金まで入っているならもっと重いはずだ。
 キルは静かに箱を開けた。
 もし危険なものが入っているならすぐにでも理力で遠くへ吹き飛ばすつもりだったが、中には意外なものが入っていた。
「……さいころだ」
 入っていたのは一般的な大きさのさいころだった。
 ゴンは中身が金じゃないと分かると、大きく息を吐いて落胆した。
「こういうときはやっぱ金だろ、分かってねえな」
「そう言うな。そこまで世の中は甘くない」
 キルはさいころを手に取ると、ためつすがめつ眺めた。
 表面は標準的なさいころと同じ白色で、何の変哲もないさいころに見える。
 表面を擦ったりしても何の変化もなく、本当に何の仕掛けも無さそうな立方体だ。
 使われている素材も、おそらくは動物の骨の一部だろうが、何の動物のものか分からないのでどれくらいの価値があるのかわからない。
 結局、得るところは何もなく、王の手がかりにはなりそうにない。
 しかし疑問が残る。
 何故このさいころは頑丈な箱に入れられてまで地中に埋められていたのだろうか。
 ただのさいころを、わざわざ場所が特定できるように埋めるだろうか。
 そしてこのさいころを埋めた人物は誰なのだろうか。
「キル、そろそろ時間やばいんじゃねえか?」
 ゴンが僅かに森に入り込んでくる日光を見ながらそう言った。
 確かに森に入ってかなり時間が経っている。
 そろそろ午前の警備が終わる頃かもしれない。
 キルは様々に思案を巡らせながら、一旦サーショに戻るため、さいころを紙及び羽根ペンと一緒にしまった。
 ガサリ。
 その時、近くで何かが動く音がした。
「…………!」
 キルは身構えた。
 確かに先ほど音がした。
 小さな音だったが、確実に聞こえた。
 それに何者かがいる気配がする。
 ゴンも音のした方向を見ていたので気づいているらしい。
 しばらくキルはじっと何者かの出方をうかがった。
 その何者かもじっとこちらの様子を見ているのがキルにははっきりと分かる。
 ぴりぴりと張り詰めた沈黙がこの空間を取り囲む。
 ガサリ。
 また音がした。今度はさっきより離れたところだ。
 そしてそれから数秒が経って、キルは人の気配を感じなくなった。
「おいおい、今のなんだったんだ?」
 ゴンも何者かがいなくなったのを察していた。
「わからない。転移で逃げたようだが…………。俺たちに見つかるとまずい奴らしい」
 キルがそう言うと、ゴンは閃いたような顔をした。
「ならおまえ、捜してる王様じゃねえの」
「その可能性もあるが……」
 確かに可能性はある。
 しかしキルはもう少し深く考えていた。
 一回目の音は近いところで鳴ったが、二回目は遠いところで鳴った。
 ということは移動しなければならないはずで、その間物音一つ立てていないことになる。
 この程度の距離なら、感覚を研ぎ澄ませば一般人の忍び足くらい楽に聞こえるので、特別な訓練を積んだ者でなければそんな挙動は不可能だと予想される。
 それにキルが気配を感じ取れたのは音が鳴ってからなので、気配を消して近づく必要があり、これも訓練が必要になる。
 兵士でもない王様が、気配を消して物音もなく移動できるものなのか。
 だがもういなくなってしまった以上、事実を確認する術は無い。
 キルはゴンにサーショへ戻ることを告げ、転移した。

8072
T−5 「手紙」 by 鳩羽 音路 2009/04/05 (Sun) 19:31
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T−5 「手紙」


 キルは兵士としての仕事を終えると、まだ太陽は辛うじて空に残っていたが、特に聞き込みなどはすることなく隠れ家の屋敷に戻っていた。
 地中に埋まっていたさいころと国王の関係はあるのか、そして不意に現れた「誰か」は一体誰で、何のためにトカゲの森にいたのか。
 キルには直感的に、それらの謎がこの依頼で重要な位置を占めるように感じられた。
 理屈ではなく、説明できるものでもない不鮮明な無形の黒雲がキルの脳裏を覆っていた。

 屋敷には大きな書庫がある。
 一部の書物はキルが以前持ってきた物だが、それ以外は全てもともとこの屋敷にあったものだ。
 キルは書庫の本を半数以上既に読破し、読んだ本は未読の本と分けて違う棚に整理していたが、今日あさっているのは既読の棚だった。
 王とさいころを結びつけて考えたとき、ふとキルの頭の中に張り巡らされている無数の蜘蛛の巣に何かが引っ掛かった。
 前にその線の内容が書かれた本を読んだ覚えがあったのだ。
 何の本かは記憶していないが、確実にそのような記述があったということは覚えていた。

 探し始めてからかなりの時間が経っていた。
 もう既に月は南東に昇っている。
 書物の半分は探し終えたが、全て終わるのはこのまま続けていれば明日の朝になりそうだ。
 数分後、黒いカバーの本をぱらぱらとめくっていると、ガチャリとドアを開けてナナシが入ってきた。
 夕飯ができあがったらしい。
 キルはまだ書庫を探したかったが、何も焦る必要はないと思い直し、ナナシと共に書庫を出た。
「ねえ、あんなに長い間何の本を探してたの?」
 食堂へ向かう廊下の途中でナナシはキルに訊ねた。
「いや……ぼくにもわからない。何の本だろうな」
「何よそれ。何が書いてある本なの?」
 キルはそう質問されるとトカゲの森で見つけたさいころを取り出した。
「言ってみればこのさいころと王の関係が書かれた本だな」
 何の変哲もなさそうな白いさいころを指先で弄びながら、キルは言った。
「さいころと王様かぁ……。あたしはおぼえないなぁ」
 ナナシもキルと同様よく本を読み記憶力もいいので、ナナシが知らないとなるとかなり目立たない本なのだろうか。
 しかしどちらにしろ全て本を調べれば片は付くし、一つずつやっていけばいい。
 常に平常心で冷静な対処をすべきだ。
「にしてもさ、このさいころって本当に普通のさいころなのかな。地中に埋めてあったんでしょ?」
 鋭い見解だった。
 そこが一番の問題でもある。
 普通のさいころがわざわざ埋められているわけがない。
 もしも普通のさいころだったとしても、何か王につながるメッセージが隠されている特別なさいころのはずなのだ。
 もちろん王とは何も関係がない可能性もあるが、キルは直感でこのさいころは王が埋めたものだと思っていた。
 キルらしからぬ根拠のないただの推測だが、そう考える他王を探す方法は無いように思えた。
 憶測の中から探すべき答えへ至るヒントを見つけ出すことはよくある。
 まずはさいころと国王に関係があると仮定して、それに関する書物を探すしかなさそうだった。

 夕飯を食べた後、キルは続けて書庫ではっきりしない記憶を頼りに書物を探していたが、結局その日のうちには見つからなかった。
 部屋で軽く睡眠をとった後、またサーショで兵士の真似事をするために時間に余裕をもって屋敷を出た。



「おまえ、ちょっとこっちへきてくれ」
 早朝の訓練を淡々とこなしていたキルに、突然見知らぬ兵士が声を掛けた。
 キルと共に大通りの警備へ行った兵士達の顔は覚えていたが、その中の誰でもない兵士だった。
 一瞬、過去にリーリルで顔を合わせたことのある者かもしれないと身構えたが、すぐにそうではないことが分かった。
「キル……といったか。おまえ宛てに手紙が届いている」
「手紙……?」
 一瞬、手紙と聞いて、ある見知った人物の顔を思い出した。
 シャノワール=クリスプ。
 キルの仕事を仲介するパイプマンでありながら、あらゆる情報を網羅する情報屋でもあり、鍛冶屋であり、道具屋であり……と多くの顔を持つ男だ。
 キルへの依頼は全てシャノワールが仲介するので、当然彼に報酬の一部が支払われるわけだが、独りで依頼者を探すよりは断然彼に探してもらったほうが効率が良く、キル自身彼の情報収集能力には一目を置いていた。
 今回の仕事も彼が探してきた依頼であり、サーショのあの宿で泊まるように指示したのも彼である。
 シャノワールからの手紙だろうか、とキルは思った。
 しかし彼はあまり手紙で依頼に関する連絡をよこすことはなかったので、何かおかしな事が起こったのかと思った。
 兵士はキルに茶封筒を手渡すと、特に何も言及せずどこかへ行った。
 封筒を見ると、ただ「キル殿」と宛名しか書かれておらず、どこにも差出人の記述が無かった。
 シャノワールなら差出人は書かないに違いない。
 キルは訓練の後で開けることにした。
 訓練が終わり、大通りでの警備が始まると、すぐにキルは封を切った。
 中には一枚の紙が入っていた。
 しかしそこに書かれた文章の冒頭を見たとき、シャノワールではない想像もしていなかった名をそこに認めた。

「   国王より   」

 キルは体中に電流が走ったような衝撃を受けた。
 国王……より? 何のいたずらなのだ?
 しかし続く文章はもっと衝撃的だった。

「   君が私を捜していることは既に知っている。おそらくはあのさいころも手にしていることだろう。   」

 脳をハンマーで思い切り殴ったような衝撃だった。
 何故だ。何故知っているのだ。
 いや、これは本当に国王が書いたものなのか。
 シャノワールの悪いいたずらではないのか。
 しかし奴だとしてもさいころまで知るはずはない。
 ふとあのトカゲの森にいた誰かがシャノワールなのではないかと思った。
 だがやつならこそこそする必要はない。
 じゃあ、やはりあれは王だったのか?
 まだ文章は続いている。

「   あのさいころは、君も考えているかもしれないが、私の大切で特別なさいころだ。そのさいころが私の場所を示すことになるだろう。   」

 さいころについて言及しているところをみると、これは本当に国王からの手紙かもしれなかった。
 もしそうならさいころと国王に関係があるというキルの推測は正しいことになる。
 だが何のために、こんな手紙を国王は送ってきたのだ?
 逃亡しているなら手紙などよこさずずっと逃げていればよいではないか。
 しかしそんなキルの疑問を国王は見透かしているようだった。

「   ところで君は何故私がこんな手紙をよこしたのかと疑問に思うかもしれない。もちろん私には意図があり目的がある。こうして逃亡生活を送るのにも訳がある。そして今回この手紙を送った理由は、君と勝負をしてみたくなったからだ。私はあの理力院の天才児と呼ばれていたルーク=キーノートの叡智が、どれほどのものなのか確かめてみたいのだ。   」

 相手がキルの正体まで知っていることには、その前の驚きが大きすぎてたいして驚かなかった。
 勝負がしたいから、ああやってさいころを埋めたというのか。
 そしてキルがさいころを発見することまで予想していたというのか。

「   ルールは簡単だ。今手紙を読んでいる日から3日後の日の入りまでに私を捜し出せば君の勝ち、できなければ私の勝ちだ。もちろん私を捜すことは頭を使えば十分可能だ。賭けるものは何も無いが、負ければ君の頭脳は私に及ばないということになろう。   」

 文章はそこで終わっていた。
 キルは理解に苦しんだ。
 一体何故送り主である「国王」がキルの受けた依頼を知っている?
 そしてさいころの件も知っているということは、今までずっと見張っていたのだろうか。
 今こうして手紙を読んでいるところも監視しているのだろうか。
 それに、何故勝負などをしたがるのだ。
 一国を治める王が統治を放棄して、どういう理由でこんな遊びをしようというのか。
 叡智を確かめたいなどと書いてあったが、当然キルにはただそれだけの理由とは思えなかった。
 この勝負には乗るべきだろうか。
 キルは自問した。
 裏で不穏な影が動いているような気がしてならなかった。
 しかし依頼された身として国王を捜さないわけにはいかない。
 だがキルは、いつも燃えることなく冷えていた心のどこかに、小さな炎が宿るのを感じていた。
『負ければ君の頭脳は私に及ばないということになろう』
 文末の言葉が脳裏をよぎった。
 キルは、少しでも自分にプライドと闘争心が残っていることに驚いた。
「3日か……」
 あてもない人捜しならかなり厳しい日数だが、キルは既にさいころというヒントを得ている。
 それが何を示すかはまだ分からないが、3日あれば十分だと思った。
 否、それだけではまだ不満だ。
 叡智を確かめたいだと?
 …………なら確かめさせてやるよ。
「1日で探して見せますよ。王様」
 キルは誰にも聞こえないほど小さな声でそう呟いた。
8093
T−6 「解明」(a) by 鳩羽 音路 2009/04/22 (Wed) 00:08
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 それは、すべてが闇に吸い込まれた深夜のことだった。
 短い剣を持った男が、とある家の庭に佇んでいた。
 暗くてどのような姿をしているのかはわからない。
 男は意を決したように頷くと、庭に植えられている植物を短剣で斬りつけ始めた。
 葉をたくさん付けていた木の枝が、ボロボロと崩れるように地に落ちていく。
 枝の殆どを切り落とすと、次は幹に傷をつけた。
 暴力的に振るわれた短剣は、僅かに届く月光を不気味なまでに反射する。
 暗闇の中を、狂気の精霊が静かに飛び回る。
 やがて男は地をも傷つけ、掘り返し――――

T−6 「解明」(a)

 キルはさいころを眺めていた。
 どこからどうみても普通のさいころが「1」の目をキルに向けている。
 「1」の目も他の目と同じく黒で塗られたタイプのさいころだが、これのどこが特別なのだ……?
 一瞬、中に何か別の物が入っているのではないかと思った。
 しかしそれを確かめるにはさいころを破壊する必要があるので、実行するのは躊躇われる。
 壊すことでさいころが意図された役割を果たさなくなるのなら、そこでキルの勝ちは遠くなってしまう。
 やはりまずはさいころの実体は問題にせず、他のヒントを探すべきだろう。
 頭を使えば十分可能だとまで「国王」は言っているのだから、まさかさいころだけがこの勝負の鍵ではないだろう。
 他に得るべき重要な鍵が隠されているはずだ。

 キルはそれから警備をするかのように大通りを見て回った。
 ここは喫茶店や小物屋などが軒を連ね、町で最も人通りが多い場所である。
 一つ昔のような雰囲気を醸し出している町並みを歩いている人々がどこか生き生きしているように見える。
「あの噂知ってる?」
 喫茶店の前で雑談していた若い女の二人組にすれ違ったとき、そんな会話が聞こえてきた。
 そういえば、サーショの宿で泊まっていたとき、キルの噂が広がっていた。
 真夜中町を徘徊する黒衣の男。
 あれはサーショ全体を把握しようと試みた事の結果だった。
 もちろん誰かを誘拐したり他人の家のドアを叩いたりしたことはないが、噂というものは根も葉もないもので勝手に作られていくのだろう。
 キルは「あの噂」の内容が気になり、ある程度距離をとって話を盗み聞きした。
 普通の人なら聞こえない距離でもキルの耳にははっきりと声が聞こえるのだ。
「ほら、例の夜に出てくる男の噂よ」
 どうやらこれもまたキルの噂だった。
 噂の力というものはこれほどにまで強いのかと呆れた。
「ああ、あの子供をさらっていくって奴ね」
「それそれ。あれ、昨夜出たらしいわよ」
「えっ、ほんとに?」
「ほんとよ。町外れに住んでる人の家の庭を荒らしたらしいわ」
 そこまで聞いて、キルは奇妙な気分になった。
 夜中にサーショを歩かなくてもキルの噂がたつのは分かるが、「人の家の庭を荒らす」という露骨に現実味のある噂が、一体どこから立つのだろうか。
 その人の荒れた庭を見れば本当に事が起こったかなんてすぐに分かるし、キルは当然そんなことはしていないので庭が荒らされるわけもない。
 なら、「荒らされた人」が話をでっち上げているのか?
 もしそうだとしたら、なんのために?
 それからしばらく二人の話を盗み聞いていると、具体的に誰の庭が荒らされたのかが明らかになった。
 ピムという人らしい。
 しかし被害者が誰なのかわかっても、何もすることがない。
 もしピムという人物が噂を立てるのが好きなら、自分の家の庭を荒らして話を広めようとする可能性もあるので、会って話をしても無駄だろう。
 もしくはキルとは違う人物が本当に庭を荒らしたくらいしか…………。
 キルはそこまで考えて、はっとなった。
「黒衣の男」
 確かにあのときキルは黒衣の男だった。
 キルについての噂が広がっていたのはほぼ確かだ。
 しかし、もしも黒衣の男がもう一人いるとしたら……?
 そしてその人物が「国王」だったとしたら?
 ありえない話ではない。
 庭を荒らす理由はよくわからないが、もう一人の黒衣の男がいるなら、こうして今も新たな噂が立つことにも説明がつく。
 それが国王なら手紙をサーショの詰め所に届けることも可能だ。
 キルは最初、国王は町にはいないと思いこんでいた。
 それは大臣ゴーゴルも同じだろう。
 町にいてはすぐに捕まってしまうと国王は考えている……と思うはずだ。
 しかし、町にいることが実は国王にとっては国の目を欺くのにちょうど良かったのではないか。
 そして欺くための能力を持ち合わせているのではないか。
 だとすれば、今もサーショのどこかで息を潜めていることになるが、外にいるわけではないだろう。
 外にいるなら必ず兵士に見つかる。
 最近は犯罪が増えてきているらしく、普段より多く兵士を動員しているのだ。
 ならどこかの屋内……範囲を狭めると誰かの家で匿われているのではないだろうか。
 国王は高価なブレスレットを持っている。
 一般市民ならブレスレットと引き替えに人を一人匿うなどすぐに承知するにちがいない。
 ひとまずピムという人物に会おう。
 国王が関わっているなら、場所を割り出すための鍵が転がっているかもしれない。
 まだ警備の時間は終わっていなかったが、兵士の真似事に時間を割くわけにいかず、大通りから密かに離れた。
8098
T−6 「解明」(b) by 鳩羽 音路 2009/05/23 (Sat) 16:44
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T−6 「解明」(b)


 ある一軒家の前にキルは立っていた。
 やわらかな春風がキルの黒い髪をさらさらと撫でた。
 以外とピムという人物の家は容易に見つかった。
 町の外れは大通りと違って家屋が少なく、人通りも多くないので一つずつ家を見て回るのにそれほど時間がかからない。
 ピムと分かる表記がされた家を見つけ、これだと思った。
 キルは例の庭に目をやった。
 確かにあの二人組の話通り、庭は荒れていた。
 土が無造作に掘り起こされ、小さな花壇でも見るも無惨に花が根を晒して横たわっている。
 これでピムがやったか、「黒衣の男」がやったかの二つに絞られた。
 ドアをノックしようとしたが、寸前に思い直してやめた。
 この家を探している間、他に考えていた可能性――――この家に国王が匿われている可能性があるからだ。
 もしそうならキルが訪ねていけば国王は絶対に身を隠す。
 ピムは居留守を使うか、応対したとしてもただ夜に起きた事を話すだけだろう。
 キルは庭に落ちていた小石を拾い上げ、躊躇うことなく窓に向けて軽く投げた。
 コツッと音が鳴ったことを確認し、身を隠す。
 それからしばらく何も反応が無かったが、辛抱強くキルは待った。
 沈黙が続いていたが、窓を開ける音がそれを破った。
 その瞬間キルは相手に分からないように顔を見た。
 窓を開けた人物は白髪だらけの、老いた男だった。
 老人は窓の外を見ても何もいなかったので、首を傾げて窓を閉めた。
 あれがピムという人物だろうか?
 いや、この際誰がピムであろうと問題はない。
 国王がいるかいないかが分かればそれでいい。
 とにかく家の中に人がいるということは分かった。
 ノックすれば相手側は応対することが必ずできる。
 キルは再びドアの前に立ってノックした。
 ずっとノックしていればいくら居留守を使おうといずれは出るに違いない。
 それでも、もし出ないならば、国王を匿っている可能性が高くなる。
 しかし居留守をすることなく、ドアは開いた。
 さっきの白髪の老人がキルの前に現れた。
 迷うことなく応対したということは、中に国王はいないということか?




 コツッ。
 ピムが椅子に座って物思いに沈んでいた時、突然窓のほうで音がした。
 何か硬い物が窓に当たったような音だ。
 例えば、石が当たったような音…………、石?
 石が独りでに飛んできて窓にぶつかるはずはないだろうから、誰かが投げたのだろう。
 ピムはそう判断して窓のほうに進んだが、途中でその動作を止めて椅子に戻る。
 安易な行動は慎まなければならない。
 彼はある人物から言われていたことを思い出す。
『ルーク=キーノートは頭が良い。だから、3日以内にはおまえ達の家のどれかに行き着くだろう。その時にはできるだけ彼の目を欺き、おまえ達が私とは関係の無い人間のように見せよ』
 あの方は最後にそう言ってこの家から姿を消した。
 しかし、とピムは思う。
 ルーク=キーノートの話を聞いたことはあったが、そのルークと言えども、いくらなんでも家にまでたどり着くことはないのではなかろうか。

 ピムはかつて、現在のバーン王の臣下兼教育係の役割を担っていた。
 そのためか、国王はバーン城から抜け出してくると、真っ先に彼の家にやってきた。
 しばらく滞在してから、国王はピムを含めたかつての臣下達を集め、これからやろうとしていることや、臣下を集めた理由について話した。
 ピムは、国王と長い付き合いだったので、その性格を把握しており、おそらく意味のない暇つぶしか何かをするのだと考えていたが、国王の話は予想を遙かに超えていた。
 思い返しても、とんでもない話だった。
 一つの国としては、あってほしくない、いや、あってはならない事が起こっている、というのだ。
 そしてそれを解決するには、ある方法が望ましいのだと言う。
 そこで持ち出された人物がルーク=キーノートだったが、それは残っている公式記録では、死亡している人間の名前だった。
『彼に解決してもらおうと思っている』
 国王は真剣な面持ちでそう言った。
 しかし現実に死んだ人間に依頼するなど不可能なので、臣下達は当惑を隠せない。
『確かに公式では処刑されたことになっている。しかしそれは南部の流した誤った情報だ。彼は生きている』
 どこから「ルークが生きている」という情報を得たのか、国王は語らなかった。
 国王は続けた。
『彼についての噂は皆聞いているだろうが、私はそれだけでは満足できない。彼を試そうと思う。ルーク=キーノートが、頼るにふさわしいかふさわしくないか…………。既にどう試すかは考えてある。おまえ達は私が指示することをこなせばいい』

 ピムは国王の言うとおりに行動した。
 そうすれば、ルーク=キーノートが臣下達の誰かの所に辿り着く可能性が出てくるのだと言う。
 しかし、どうしてもピムにはそれが限りなく小さな可能性だ、と思わざるを得なかった。
 そもそも、ルーク=キーノートが生存しているという情報自体、証拠を示されていないのでピムにとっては信憑性の薄い情報であるし、ピムの行動…………すなわち、「黒衣の男」についての噂を、自分を含めた臣下の名を絡ませながら広めるということが、それほどのヒントになるとも思えない。
 さらに、他の臣下がトカゲの森に埋めた「国王のさいころ」も見つかるとは思えない。
 結論すると、ルーク=キーノートが国王を見つけられるかどうか、という問いには、見つけられない、と答えるしかない。
 ならば。
 さっきの音は、ルーク=キーノートではなく、それ以外の誰かによるものなのではないか。
 そう考え直すと、さらに踏み込んだ可能性が頭に浮かぶ。
 外に国王がいるのではないか。
 もしいるのなら、早く出なければならない。
 しかしルークだったならば、その後に隠し通すことが難しくなる。
 しばらく悩んだ末、ピムは立ち上がって窓を開けた。
 そもそもこれはルークに対する試験のようなものだ。
 国王の信頼を失うことになるよりは、ルークと対話するほうがいくらかマシだというもの。
 それに、少しそのルークと会ってみたいという気持ちがあった。
 リーリル理力院で唯一無二の天才。
 公式には処刑されたはずの男。
 もし生きているなら、ピムのような身分に身を置いている者なら誰しも会ってみたいと思えるような存在――――それがルーク=キーノートだった。
 ピムは窓の外を見回した。
 荒れ放題の庭が、寒々とした様子で佇んでいる。
 しかし、予想に反してそこには誰もいなかった。
 もしかすると、風で木の小枝が飛んで窓にぶつかったのだろうか。
 ピムは首をかしげた。
 しかし今日は、枝を飛ばすほど強い風が吹いているような様子はない。
 窓を閉める。
 本当はさっきまで誰かがいて、待つのにくたびれて何処かへ行ったのかもしれない。
 本気でそう考え始めた時、玄関のほうでドアをノックする音がした。
 やられた。
 ピムはそう思った。
 おそらく今ドアを叩いているのは、小石を窓に当てた人物。
 そしてこのようなことをする必要があるのは、ルーク=キーノートただ一人だ。
 窓を開けてしまったので、既に中に人がいることは伝わっているはずだ。
 これならば、居留守など使うわけにもいかず、もし使ったならば、いっそう怪しまれることになる。
 そうならないためには、すぐにドアを開けなくてはならない。
 そしてその後は……国王に言われたとおりの行動をするだけだった。




「む、何かね?」
「ピムさんのお宅でしょうか?」
「……わしがピムじゃが」
 相手は怪訝そうにキルを見ながらそう言った。この人物がピム……。
「突然お伺いして申し訳ありません。現在サーショを警備している者ですが、先刻、お宅の庭が昨夜荒らされたということを聞きました。どうやらひどいことになっているようですね……」
 そういうと、ピムの表情は柔らかくなった。
「そうなんじゃよ……気づいたらあんな風になっておってな」
「それは災難でしたね……。では少しお聞きしますが、庭が荒らされる前の状態を見たのはいつ頃ですか?」
「昨日の夕方ころじゃ」
「じゃあ今の状態を発見したのは……?」
「もちろん朝になってからじゃよ。朝起きたらああなっておったわい」
 そうなると夕方から朝までの間に行われたということになるが……聞いた情報は夜中に行われたことになっている。
「私が聞いた情報によると夜中に荒らされたとされているのですが……何故特定されるのです?」
「それは噂の男がやったと思ったからじゃ。最近ある男の噂が流れておってな……あんたは知っとるか?」
「いいえ、知りませんが……」
 キルは嘘をついた。
「まあそうじゃろうな、兵士には届かんじゃろう。届いておればもっと夜の警備が多くなるはずだからの」
 その後にピムがした噂についての話はキルの知っているものとまったく同じだった。それ故に、この老人も庭を荒らしたのは黒衣の男だと思いこんだのだろうか。そしてそれは本当に事実なのか。
「犯人は庭を荒らしただけだったのですか?」
「そうじゃ。他はどこも荒らされておらん」
「金品を盗まれたということは……?」
「それもないのう」
 なら一体なんのためにやったというのか。国王なら意味のないことはしないはず……それではもう一人の黒衣の男は国王ではないただの愚人なのか。
 これではまた何の進展もないままになってしまう。何か手がかりを探り出さなければ…………。
 そう思った時、ピムの肩越しに家の中を見ると、紋章のようなものが飾ってあるのが見えた。よく見るとバーン王国の紋章だった。ということは元々この人は国に仕えていた人物なのだろうか…………。
「あの……噂の男とは関係ないことですが、家の中の紋章、国の紋章でしょう。何故あのようなものを?」
「ん、ああ、あれか」
 ピムはキルの見ていた紋章に振り返ると、言った。
「わしは昔国に仕えておったのじゃ。バーン城には何度も出入りしたことがある」
 思った通りだった。
「それも過去じゃ。妻に先立たれた今は老いぼれ独りで暮らしておるよ」
「そうでしたか……。つまらない質問をして申し訳ありませんでした」
「いや、いいんじゃよ。おまえさんを見ていると孫のことも思い出すしのう」
「お孫さんがいらしたんですね」
「ああ、おったよ。でも今はいない」
 そう言ってピムは悲しそうな顔をした。しかしすぐに穏やかな表情に戻った。
「良かったら中でお茶でも飲んでいかんか? なにせ人付き合いも最近殆どなくての」
 しめた、と思った。何とかして中を調べたかったが、向こうから中へ入れてくれるとは。警備の時間がまだまだあるが、もう既に放棄しているので関係なく、どちらにしろ1日で国王を見つけ出すつもりなのだ。見つければキルの仕事は終了し、兵士の真似事などしなくてすむ。
 キルは渋々誘われるままに家へ入っていくフリをした。
8109
T−6 「解明」(c) by 鳩羽 音路 2009/05/23 (Sat) 16:45
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T−6 「解明」(c)


 ピムにお茶を入れてもらう間、キルはさらに思考を働かせた。
 この老人が国王とは何の関係もない一般人だとすれば、お茶を飲みながら適当に話をして帰ればいい。
 そうすれば得ることなく振り出しに戻ることになる。
 だが、その線は少し薄くなった。
 以前国に仕えていたなら、国王が頼っていく理由も分かり、それは見知らぬ人の家に匿われるよりもずっといい手だ。
 上手く話を合わせて、大臣ゴーゴルのような追っ手を退けることができる。
 しかしそれにも欠点がある。
 それは、一般人とは違って、国王のことをよく知っているということだ。
 一般人なら一般人らしい答えが返ってくるだろうが、この場合そうではない。
 考えていく中、キルはピムが国王と関わりがあるかないかを確かめる絶好の手段を思いついていた。
「このお茶、おいしいですね。どこの茶葉ですか?」
 キルは入れられた茶をすすりながらそう言った。
「この町特産の茶葉じゃよ。サーショは武器で有名じゃが、茶葉も良いのを作っておってな……まあ少ししか採れんが」
「そうなんですか……にしてもこれはおいしい茶ですよ」
 キルはすぐに茶を飲み干した。すると、突然懐からさいころを出し、右手で弄び始めた。
「なんじゃ、そのさいころは……」
「ああ、これですか。これはさっき道端で拾った物ですよ」
 器用に指と指の間を移動させる。
「ただのさいころのようなので、処分しようと思っているのですが……少しゴミ箱を貸していただけますか」
「あそこにあるが……」
 ピムは渋々そう言って部屋の隅に置かれたゴミ箱を指さした。
「ちょっと借りますね」
 キルはそう言うとゴミ箱目がけてゆっくりとさいころを放った。
 キルは目の前の老人の反応を見た。
 そして、まもなく期待していた反応が老人に見られた。

 さいころが宙に舞うと、ピムは突然席を立ち必死で宙のさいころを取ろうとしたのだ。
 まるで、それがゴミ箱に入るのを防ぐかのように。

 しかしさいころはピムの手を逃れてゴミ箱に入った。
 ピムはそれを見ながら、唖然としていた。
「なるほど、やはりそうでしたか。あなたは国王と関係がおありのようだ。そして私のこともおそらく知っている」
 ピムは驚いたような、焦ったような顔をしてキルのほうを向いた。
「…………なぜ、そう思う」
「あなたにとってもあのさいころが大切なものだとわかったからですよ」
 キルは相手がもし国王と関係の深い人物なら……さいころのことも知っているはずだと思っていた。
 国王はトカゲの森で見つけたさいころを「大切で特別なさいころ」と手紙で言っていた。
 何が特別なのか考えていたが、今のキルにはわかっていない他と違う部分があるのだろうと思った。
 それならば、国王の大切なさいころをゴミ箱に投げるなど、専制的風潮のある王宮では許されるはずのないことだ。
 投げれば、それなりの反応を見せるはず、とキルは踏んでいた。
「しかし投げるまではしなくても良かったじゃろうに」
 ピムは辛そうに、ゴミ箱の中からキルの投げたさいころを拾い上げた。
「そのくらいしないと、最初から騙すつもりでいるあなたを動かすことなんて出来ません。それに心配しないでください。あれは正真正銘『普通』のさいころですから」
 キルはそう言うと懐から新たにさいころを取り出した。これこそが本物の国王のさいころだ。
 ピムは一瞬呆気にとられた後、感心したようにため息をついた。
「さすがはルーク=キーノート。ダミーまで用意しておったとはな」
 キル自身このつもりで用意していたのではなかった。
 外見の同じさいころと比べようと思い、別々に持っていたのだ。
「これであなたが反応しなければ、本物のさいころを投げるつもりでした。これは外見で判断がつくかどうか確かめるためでもありましたから」
 言い終えるとさいころをしまう。
 キルの投げたさいころを返したピムは、一息つくとキルに質問した。
「それにしてもどこから君は疑った?」
「あなたが国に仕えていたと言った時、あと私をお茶に誘うのに、『人付き合いが殆どない』と言った時からです」
「一つ目はわかるが……二つ目は何故それで疑えるのじゃ?」
「人付き合いの少ない御老人は若い世代との付き合いが非常に少ない、いや、少々失礼でしょうが、殆どゼロのことが多いといってもいいからですよ。しかもこの家は町外れにあってただでさえ人通りが少ない……それなのにしっかり若い世代に庭が荒らされたことは噂されていました。ちなみに私が聞いたのは若い女性二人からです。だとすればあなたはあなたより後の世代との交流がある可能性が高い。よって私はあなたが嘘をついている可能性が高いと判断しました。嘘をつく人間を疑うのは当然のことです」
「……本当にすごいな。その通りじゃ。わしは国王の言う通りに、様々な人に庭が荒らされた話をした。もっとも自分でやったことだが、黒衣の男の話を交えて」
 ピムはそこまで言うと、少し待っておれ、と部屋を出た。

 これで、やっと一つの謎を解いた。
 国王とピムが協力して今までゴーゴルを出し抜いていたというわけだ。



「お待たせした。国王から預かっている物がある」
 ピムはそう言って、キルに二枚の紙を手渡した。
 その紙を見ると、キルは国王の意図していることをすぐさま理解した。

 一枚目は大陸の地図だった。
 しかし普通の地図とは違って、大陸内部に小さくマス目が設けられている。
 一つだけ黒で塗りつぶされたマスがあったが、場所からしてそこはサーショだった。
 二枚目には数字が一定の間隔を空けてならんでいた。
 すべてを読むと、数字の種類は1〜6までであり、それがどうやらさいころの目であるということが分かる。
「国王によると、この二枚で居場所が分かるそうじゃ」
 思ったとおりだった。今持っているさいころと、この二枚を使って国王の居場所を探すのが最後の問題なのだ。
「じゃあ、ここに匿っているのではないんですね」
「それは少し前の話じゃよ。バーン城から抜け出してまもない時からしばらくはここで生活しておられたが……今はわしでも居場所は分からん」
 ここへ来るまでの推理は半分当たっていたようだ。
 しかし、おそらく国王の手助けをする者はピム独りではないだろうから、他の家を乗り継ぐようにして過ごしていたはずだ。
 そうするとあまり褒められた推理ではなかったことになる。

 …………衰えたのかもしれない。
 かつて理力院にいた頃は、頭で考えたことがほぼ現実にも当てはまっていた。
 それも今は些細な謎に躓くばかり。
 だがそれをキルは悪い兆候というより、むしろ逆の兆候として捉えていた。
 すべてが上手くいくことなど、何の面白さもないではないか。
 分からないことが多ければ多いほど、人の好奇心は高まっていくのだ。
 

 これでこの場は終わりのはずだったが、ふとこの場で解ける疑問が一つ残っていたことに気がついた。
「少し訊いていいですか」
「答えられる質問ならのう」
 キルはさいころを取り出した。
「このさいころはどこが他のさいころと違うのですか。見た目では、あなたの反応からして他と同じようですが……」
「ああ、そのことか。それはな、さいころの中じゃよ」
 一度キルが考えたことだった。しかし中はさいころを割るくらいしか確認できないのではないか。
「後で強い光にかざしてみるといい。今日は曇っておるから太陽光では無理じゃが……」

 キルはピムに別れを告げて外に出ると、手の中に「火炎」の理力で小さな炎を作った。火が移らないようにさいころをその近くへもっていくと、不思議なことに緑色の光がさいころの中から漏れ出た。さいころ全体がまばゆい緑に変わり、キルの目を奪った。
『王は腕の立つ職人に、ある賽を作らせた』
 突然、前々から頭に引っ掛かっていた王とさいころを結びつける本の一節がキルの脳裏に現れた。
『それは光を受ければ目映く緑を放つ宝石の賽』
 そうか、そういうことだったのか。このさいころの中には緑の宝石――――おそらくはエメラルドが入っているのだ。
 しかしそれだけではなく、確かその時の「王」は今の王ではなく、先代の王――――トカゲ人との戦争中に亡くなったと言われる王だ。
 つまりあれは先代の遺品。
 何故あれほどまでにピムがゴミ箱に入るのを防ごうとしたかが少し気に掛かってはいたが、今ではその理由が理解できた。









あとがき

こんにちは。いや、こんばんは。
なんだか忙しくなくなってきましたが、五月病にかかったっぽい音路です。
何もやる気でねー、な状態です。
でも一応こっちは投稿します。
あと、結構前にチャットで「二次創作の感想書くよ」的な発言をしたんですが、結局、感想投稿してなかった(汗
いまさら書いてもなぁ、って感じです。嗚呼、こんな僕をどうぞ殺してください。
あ、あとブログとか見てもらえたら嬉しいです(マジで殺したほうがいいかも

てかここまで普通にあとがきじゃないですね。
まあ、あとがきっぽいものとして受け取ってください。
音路でしたー
8123
T−7 「解明2」 by 鳩羽 音路 2009/05/23 (Sat) 16:44
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T−7 「解明2」


 とある喫茶店の、隅のほうのテーブルの上に例の地図を広げながら、キルは思索に耽っていた。
 兵士としての仕事は既に終わらせているために、見るものに刺客を思わせるあの黒装束を着て、頬杖をつきながら地図を見ていた。
 時折、コーヒーカップに手を伸ばして、それを口へ運ぶ。

 喫茶店に入ってから、数分考えて分かったことが一つあった。
 国王の場所を割り出すには、確実にこのマス目の設けられた地図とさいころを使うことが必要不可欠だということだ。
 さいころをマス目に合わせてみると、表面の大きさがぴったりだったことがその理由である。
 そしておそらくは黒く塗りつぶされたマス目の場所――――すなわちサーショ――――が出発点であり、もう一枚の紙に書かれた数字によってさいころを進ませるというルールがあるのだろう。
 しかし、1〜6の数字が何を示すかというのが一番の問題である。
 ひとつひとつが意味するものを正確に捉えた時、国王の場所が分かるということは明白なのだが、それ以上がまだ分からなかった。
 逆に数字全体で何かを示すのではないか、とキルは一瞬考えたが、どう見ても並んでいる数字に規則性が無く、そこから情報を取り出すのは無理があった。
 だとすれば、やはり数字ごとに意味があるのだろうか……?

 それから少し経って、キルはふと思いついた。
 全体を見てわからないなら、一種類の数字がいくつあるかを調べてみれば何かわかるのではないか。
 本当に思いつきだったが、キルは一つずつ数えだした。
 数え終えると、キルは新たにメモを取り出してそれに結果を書き付ける。
 「1」=29
 「2」=25
 「3」=35
 「4」=27
 「5」=25
 「6」=40
 結果を見てみると、まず一番数が多いのが「6」。そして最も少ないのが「2」と「5」。
 また「2」と「5」は同じ数だけあり、数で見ると「6」>「3」>「1」>「4」>「2」=「5」となる。
 法則があるのだろうか、と頭を回転させたが、規則性らしきものは見つからない。
 ここまで考えて分からないなら、考え方を変えるべきなのかもしれない。他の考え方は…………。
 そうやって考えを巡らすうちに、キルはふと疑問に思った。
 もしも数だけを見て判断できるなら、さいころなど必要ないのではないか。
 これは、さいころと数字を使って解く暗号。
 ならば、さいころの数字として1〜6の数字を捉えるべきではないか。
 そうに違いない――――キルの推測は確信に変わっていった。そう捉えるべきだ。
 もし数字だけの判断で十分なら、別の物を埋めていれば良かった。
 わざわざこのさいころを埋める必要など、本当にどこにもなかったはずだ。
 だとすれば、これはさいころだけが持つ1〜6の数字の意味を捉えればよいことになる。
 さいころの持つ、数字のイミを捉えれば……。

 キルははっとなった。

 さいころにおいては、一つ一つの数字が意味を持つということを思い出したのだ。
 キルは羽根ペンを持って、またメモに書き付けた。
 「1」=天
 「2」=西
 「3」=南
 「4」=北
 「5」=東
 「6」=地
 さいころの数字が持つ意味……それは方角である。
 さいころは方角を示す道具としても使われるのだ。
 このさいころの場合、雌さいころであるので「3」は南になる。
 雌さいころとは雄さいころと対になるさいころで、雄さいころの場合雌とは違って「3」は北である。
 ということは、この数字によって東西南北に進んでいけば国王の居場所が分かるというのだろうか。
 しかし、疑問が残る。
 もしもその通りなら、「1」と「6」の回数が同じになるはずではないだろうか。
 東西南北のどれかに動かす場合はその回数は何回でも構わないが、天を意味する「1」と、地を意味する「6」は、必然的にこのマス目のついた地図で把握できない場所へ移動させることになる。
 そうなれば、最終的に、地図上という意味での地上に戻ってこなくてはならないので、二つの数字は同じ回数だけある必要がある。
 しかし書き出した数からして、地下へ11回進むことになる(40−29=11)。まさか国王までもが地中に埋まっているわけでもあるまい。
 なら、この考えは間違っているのだろうか……?
 だがキルは間違っているとは思えない。
 それ以外に何か、見落としている重要なことがある気がしていた。
 この考え方をベースにしながらも、この謎を解くキーを忘れているのだ。
 キルはそう思いながら、再度さいころをじっと見た。
 国王が埋めたさいころ。
 国王が埋めた、特別なさいころ。
 中にはエメラルドと思しき宝石が……。

 その時、キルの頭の中で、カチリと音がした。

 それだ。「エメラルド」だ。それが、キーだ。
 このさいころを他と違うものにしているのは、内部のエメラルドだ。
 きっとそれ以外のさいころでは、いくら見た目が同じであっても、キーとして使えないのだ。
 だから、国王はこの大切なさいころを埋めた。
 謎を解明可能なものにするために埋めたのだ。
 エメラルドと言えば……もちろんのことながら最も高価な宝石の一つ。
 しかし、それ以外に数字と結びつけられる側面が存在する。
 例えばルビーは7、サファイアは9、ダイヤモンドは4。
 …………そう、誕生石だ。
 その方面で考えればエメラルドといえば5月の誕生石。つまりエメラルドは「5」だ。
 さいころを「1」の出た状態で机の真ん中に置く。
 推測が正しければ、次の動作ですべてがはっきりする。
 キルは「1」の目から「5」の目にさいころを回転させた。
 すぐにそこにでた結果をメモに書き取った。
 「1」→「5」
 「2」→「1」
 「3」→「3」
 「4」→「4」
 「5」→「6」
 「6」→「2」
 キルが書き取った結果は、「1」の目が出ている時の目の並び方に、「5」の目が出ている時の目の並び方を重ねたものである。
 キルはこれが正解だと確信した。「6」は「2」(「2」=地)、「1」は「5」(「5」=天)なので、抱いていた疑問、すなわち天と地の数が一緒にならないという疑問も解消する。したがって「2」と「5」は無視し、またメモに書くと……。
 「1」=西……29回
 「3」=南……35回
 「4」=北……27回
 「6」=東……40回
 南北では南が北より8回多く、東西では東が西より11回多い。すなわち、南へ8、東へ11行った場所が国王の潜んでいる場所だ。
 キルはサーショから1マスずつ移動させた。
 南へ1マス、2マス…………8マス。
 そして、東へも同じように1マスずつ進めていく。
 しかし終わりが近づくにつれて、キルは何か違和感を覚えていた。
 11マス目まで動かした時、そこが最もありえない場所であることにキルは混乱した。
 そんな、馬鹿な。そんなことがありえていいはずが……!
 キルはまたサーショから出発させ、同じように進ませたが、次も結果は同じだった。
 絶対にありえないはずの、あの場所を示していた。その場所は――――。





「あ、おかえり。今日は早いね」
 屋敷に帰ってきたキルをナナシが迎えていた。
 キルは喫茶店を出ると、真っ先に屋敷に向かったが、その足どりには何処か切迫したものがあった。
 逃げる者を追うようにして足早に森の中を進んできたので、わずかにその額には汗が滲んでいた。
「確かに早い。だが、まだ今日の仕事が終わったわけじゃないから、ただいまとは言えないようだ」
 そう言われるとナナシは不思議そうな顔をしたが、キルのほうはそんなことにはお構いなくナナシを横切って廊下を素早く歩き、部屋を目指した。
 キルが目指したのは自分の部屋ではないし、ナナシの部屋でもない。
 曲がりくねった廊下を幾度か右折左折してとある扉の前に辿り着く。
 勢いよく扉を開く。
 同時に扉の奥がキルの目に映し出される。
 その中央には、とある人物の姿があった。
 肩に掛かるか掛からないかという長さの茶髪に、その年齢にしては若く見える健康そうな肌。
 キルと同じような黒いコート。
「さすがは天才君だな、早いもんだね」
 失踪中の国王がそこにいた。













あとがき

今回は暗号解読っぽくしました。
なんだかこじつけっぽいですが、すぐに仕掛けが分かった人はある意味すごいです。
分かりにくかったかもしれないので改めて説明すると、
本来1の目を出した状態が初期状態(東西南北を示した状態)です。
つまりただのさいころは「1」です。
しかしこのさいころは中に入っているエメラルドが5月の誕生石であるために、「5」となっています。
「5」から連想したりすることは他にもあるはずですが、今回は方角が重要だったのでキルは1から5に転がす方法を取りました。
もっと言えば、頭の中ではすでに様々な方法が試されているので、もっとも辻褄の合う方法をキルは取ったわけです。決して僕が適当なのではなく・・・

ではまた次回もよろしくおねがいします。音路でした。
8129
T−8 「真実」 by 鳩羽 音路 2009/06/09 (Tue) 02:53
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T−8 「真実」


「説明してもらおうか」
 キルはできるだけ冷静を装って、静かに唇を動かした。
 ここにいるはずのない者が、平然とキルの住み家でくつろいでいるのだ。
 これまで探していたというのに、これほど近くに潜んでいたのだ。
 だから、冷静さを僅かでも失うのは当然のことだった。
「何故王様がここにいるのか、ぼくが納得のいくように」
 どうみても普通の若者のようにしか見えない国王を睨んでは、一緒にいるキルのトーテム、ゴンベエをも睨みつける。
 すると国王が口を開いた。
「そりゃあ、君との勝負に勝つためさ。オレはここが一番見つかりにくい場所だと判断したし、今でもそう思ってる。灯台もと暗しってよく言うだろう? まあ、どうやら速攻で負けたようだけど」
 正論と言えば正論だったが、キルが本当に知りたいのはそんなことではなかった。
 キルでも国王と同じことを考えるかもしれないが、現実に実行に移しているという事とは話が違った。
 さらに、部外者が知らない間に入り込み、しかもそれに気づかなかった自分自身に納得がいかなかった。
「…………まあいい、それでここに隠れた理由は納得するとしよう。だが、どうやってこの屋敷に入れた?」
「それは『どこから屋敷に潜り込んだか』ってことかい?」
「そうじゃないし、それにあなたのような人が潜り込める場所はない。手段を訊いている。この状況だと、あなたの横にいるぼくのトーテムがこの屋敷に他人を入れたように思えるが、それはぼくの勘違いか?」
 平然とくつろいでいるトーテム、ゴンの様子からして、国王にもトーテムを見る能力が備わっているらしい。時折、ゴンと目を交わしているのだ。
 国王がその質問に詰まったので、その隣にいたゴンが代わりに答えた。
「おまえの考えてる通り、俺がアーサを入れたぜ?」
 あっさりと認めるゴンの顔からは、およそ謝罪の念などは見受けられない。
「なぜ入れた」
「俺が寒さで凍えそうになってる可哀想な人を放っておくような奴に見えるか?」
「見える」
 期待していた答えと違っていたらしく、ゴンは少し不機嫌そうな顔をした。
「まあ、実を言うとアーサが俺の友達だからだよ」
 アーサというのは国王の名だ。
 国王はバーン王と普段呼ばれているために、アーサという実の名前を知る者はそれほど多くない。
「友人なら家主に秘密にして連れ込んでいいのか」
「常識的に考えて駄目だな」
 ゴンが現在の状況にもかかわらずそのように答えたので、キルは少々苛立ちを感じた。
「ということはおまえは非常識なことをしたということになるが」
「いいじゃねえか、存在自体が非常識なんだからよ」
 一瞬キルは思い切り蹴飛ばしたくなったが、それもトーテムに対しては無意味なので、さらに苛々は募る一方だった。
 しかしキルはもっと複雑な理由が、国王とキルの勝負、そして国王と結託しているゴン、という構図の裏側にあるに違いない、と思っていた。
「おまえたちが真面目に答えないのなら、ぼくが今推測していることを言ってやる。まずはゴン、おまえについてだが、おまえは多分殆ど最初から王様が失踪したことを知っていたんだ。どうやったのかは知らないが、多分そのとき王様が居る場所も知っていたのだろう。しかし大臣の依頼について聞いてもぼくに王様の居場所を教えようとはしなかった。それどころかまるで王様を捜すのが面倒で、何も知っていることは無いように振る舞っていたはずだ。トカゲの森では、わかりやすい部分以外に刻まれたバツ印をわざと無視してぼくに報告したことからほぼそれは明らかだ。おまえがぼくの捜査状況について詳しく王様に教えたことによって、王様が知っているはずのないぼくの状況を手紙に書くことが可能になる、ということも十分に裏付けとして機能する。結局のところトーテム『ゴン』は国王と共犯」
 屋敷に向かいながら考えていたことだった。
 何回地図上を移動させても、示していた場所は森の中にある屋敷の位置。
 最初は信じがたかったが、屋敷にいるとすれば全てに決着がつくことが逆に説得力を得ていた。
「まあ、全部当たってるな」
 ゴンが感心したように頷く。
 次にキルはアーサの方を向いた。
「次は王様の方だ。王様は城から失踪した後、昔からよく知っていて既に退職した役人の家でしばらく匿ってもらった。これについては既にピムから聞かされている。ゴンのことを知っていた王様は自らが作り出した謎解きゲームの仕上げとして、ピムに地図と数字の並んだ紙を渡した後、この屋敷に潜んだ。その後にゴンに頼んで手紙をサーショの詰め所に届けさせる。もしもぼくに偶然出くわしてしまったら困るし、ぼくの行動をある程度把握しているゴンが実体化して手紙を出しに行けば、確実に失敗はしないからな」
「こっちも面白いほど当たってる」
 アーサもゴンと同じ表情で頷いた。
「これだけのことをすぐに推理できるのも、やっぱり君が天才、いや大天才だからかい?」
「これくらいのことはゴンでも可能だ」
 キルは冷ややかに答える。
「それはオレがゴンベエ君の脳みそを過小評価してるということかな」
「なんか二人とも酷いこと言ってねえか」
 ゴンが割り込んできたが、キルもアーサも無視した。
「じゃあ、話を変えるけど、オレが書いた手紙、どう思った? 3日の制限時間は必ず達成できると思ったかい?」
「手紙を読んだ後、少々汚い表現だがあなたをどうにかしてやりたいと思った。3日はちょうどいい長さだとは思ったが、一刻も早く見つけ出して報復を与えてやろうと決心した」
「なるほど、挑発の一節が利いたらしい。オレに対する憤怒がひしひしと伝わってくる」
 アーサは不真面目にそう述べると、睨みつけるキルに手のひらを見せた。
「まあ待ってくれ。早まるな。オレは喧嘩しにきたんじゃないし、人を殴ったりしたら最悪の気分になるだけじゃないか。手も痛くなるかもしれない。まったくもってどちらにも不利益だと思わないかい」
「……」
 キルは何も言わず睨みつけている。
 しかしアーサはすぐに首をかしげた。
「それにしても、オレは仮にも王様なのに天才君は敬語のひとつも使わないんだな」
 キルの中で小爆発が起こった。
「ぼくはこの屋敷の主人だ。そしてあなたは居候、いや、むしろぼくにとっては不法侵入者と言ってもいい人間だ。そんな失礼な奴に敬語など使おうとは思わないし、ぼくが敬語を使うのはそれが必要だと判断したときだ。身分の高い人間に使っているんじゃない。あとあなたの命はぼくに握られているということを忘れるな。殺そうと思えば、すぐにでも殺せるんだ。これ以上つまらないことを言えば……」
「わかった。わかったからどこかから出してきたそのナイフをオレの喉元に突きつけるのはやめてくれよ、物騒すぎる」
 キルはすぐにナイフを閉まった。
 その動作は素早すぎてやっと目で追える程度だった。
「あなたに対する報復についての内容はこの場では言及しない。今からは殆どぼくの憶測でしかない話をする。あなたはぼくと勝負がしたい、と手紙に書いていたが、あれはあなたが本当に考えていることとは違うのではないか。あなたはぼくと勝負などがしたいわけではなく、もっと別の目的があったのではないか。ぼくは少なくともそう考えている。どこの世界にわざわざ逃亡までして謎解きゲームを押しつける王様がいるのか。知っていたら教えて欲しいくらいだ」
 キルがそこまで言うと、アーサは最初口の端を上げるような表情を見せたが、すぐに今までとは違った真剣な顔つきになった。
「そこまで考えているとは思わなかったよ。でも、もしそうじゃなかったらどうする? オレが本当に逃亡しながら意味のない謎解きゲームを出題する馬鹿な王様だったとしたら?」
「もちろんその可能性も考えている。だがもしそうだとすれば、もっと国は荒れているはずだ」
「確かに」アーサが笑う。
「だけど今回は全部君の考えている通りだ。本当はこの謎解きは勝負じゃない。むしろ試験とでもいうべきかな」
 「試験」という単語にキルは眉を顰める。
「ぼくを試していたとでもいうのか」
「そうさ。君の実力を計って、ある役割をやってもらおうと思ってね。まあ予想以上の実力だったけど」
 今度は「役割」という単語に反応する。
「国の役人をやらせようというならお断りだ。ぼくは飼い犬になりたくはない」
 昔はキルも飼われる身だった。
 右と言われれば右を向き、左と言われれば左を向く。
 上から言われたことを絶対に成功させる忠犬……。
 だが今ではその真逆の立場にキルは身を置き、自らの過去を忌まわしいとさえ考えていた。
 無かったことにするのが無理なら、憎むくらいしかキルには出来ない。
 いや、むしろそんな過去を憎んでいるからこそ、今を見つめられるのかもしれない。
「そうじゃないさ。それに君の素性を知っていてそんな仕事をさせるわけにはいかないだろう」
 キルの素性…………それは国に対する反逆者としての烙印だった。
 事実、役人を殺害していると報告されているので、それを完全に否定することはできない。
 そして、それが仕方の無かったことだとしても、未だにまとわりついて離れない罪悪感がそこにあった。
 しかしそのことがキルを大きく変えたことも彼自身分かっていた。
 ふと、キルは別の考えが浮かんだ。
 それにしても王様は誰からキルの情報を得たというのだろう。
 普通に考えるならゴンだが、二人が会ってからでないとキルについて知ることはできない。
 それに、いくら頭の無いゴンと言っても、キルのことを簡単に全部話すとは思えない。
 王様が無理にゴンから聞き出したのだろうか。



「君にやってもらいたいことは……」
 アーサは、本題に入ろうとしていた。
 これから話すことのために、苦労して城から脱出し、わざわざ仕掛けを用意してきた。
 たったそれだけのために、工夫を凝らしてきたのだ。
 そしてそれは予想以上とも言えるほど実を結び、計画は完全に達成されようとしている。
 興奮とも安堵ともつかない入り混じった感覚が、アーサの手に熱を帯びさせる。
 ルーク=キーノートなら、大概のことは楽々とやってのける。
 とある人物から得ていた情報。
 ルーク=キーノートは未だ生き続けている。
 あの人物はそのようにアーサに告げた。
 最初は確信には至らなかったものも、今では彼なら完全に遂行できると信じられた。

 ガチャリ。

 その時だった。
 ナナシが部屋に入ってきたのだ。
 この少女とは、アーサの存在をキルには内緒ということで何度か話したことがあった。
 もちろん、アーサが国王であるということは本人もゴンも伏せていた。
 そういうわけで、この部屋でアーサを見ても驚くということはない。
 しかしながら、ナナシの顔には驚きに近い困惑の表情が浮かんでいた。
「キル、なんだかお客さんが来てるみたいなんだけど」
「客だって?」
 キルは眉をしかめた。
 ここは森の奥深きにある屋敷だ。
 来訪者など、滅多に来るはずがないのに、なぜ。
「もしかしたら……」
 突然、アーサの顔に恐れの表情が露出し始めた。
「もしかしたら、やつらかもしれない」
 アーサは急に落ち着かなくなって立ち上がり、うろうろと隠れる場所が無いか探し回る。
「やつら? 誰のことだ」
 キルが訊ねたが、アーサは答えなかった。変わりにナナシが「客」の特徴を述べる。
「3人いるんだけど、そのうち2人は兵士。真ん中の人の側近みたいな感じかな」
「兵士? ……なるほど。そういうことか」
「どういうことなの?」
「それは、多分ぼくの雇い主さ。能力者か何かにぼくの後を常につけさせていたらしい。気づかないぼくもぼくだが、とんでもない契約違反でもある」
 キルの口調は、相手が不正をしたことに対する憤怒など表現されておらず、むしろ冷静だった。
 住処を知られたことに対してはなんらかの対策を立てねばならないが……。
「ふーん、でもその依頼主さんが何の用なの? だって王様はまだ見つかってないんでしょ」
「それが、見つかったんだ。何とかどこかに隠れようとしているあの人さ」
 キルがアーサを指差した。
「えっ――――?」
 一瞬、ナナシの思考が停止したらしい。しかしすぐに正常に戻る。
「……そうだったんだ。ごめん、キル。教えてあげられたら依頼もすぐに片付いたのに」
「別にナナシが謝ることはない」
「……じゃあ、これで依頼は終わりなのね。ところで、アーサ……王様はその後どうなるの?」
 素朴な質問だった。
 そして同時に、キルが依頼を受けた直後に考えていた問題でもあった。
 しかしそれについては干渉しない、という立場を取ることにもう決めていたので、キルはあえて何も言わなかった。

「殺されるんだよ」

 その時、アーサがポツリとつぶやいた。
 やけに真剣なのに小さな声。
「やつらは……、いや、大臣ゴーゴルはオレの地位を狙っているんだ。だから、オレは不要なんだよ。誰も知らないところで殺されて、闇に葬られる運命にあるんだよ」
「……なんだって?」
 キルはアーサの言ったことに耳を疑った。
 ゴーゴルが国王を殺して王になる?
「それは本当なのか」
「オレはこの耳で聞いたんだ。本当の話だ。だから、君にやってもらいたいことは、オレがゴーゴルに殺されないように取り計らうことなんだ」
 アーサがそう言い終えるか言い終えないかのうちに、遠くで扉を叩く音が聞こえてきた。



あとがき

こんばんは、音路です。
ありがちでなんかすいません(汗
そんでもって割りと長くてすいません(汗
1章がこれほど長くなる予定ではなかったのですが、かなーり長くなってる感じがします。
とりあえずそろそろ終わるので安心してください。
そのそろそろというのも正直言って信用できたものじゃないんですけどね・・・
まあ、2章があったら多分それは幻想譚のような感じだが少し違うみたいなやつになると思うんで、もしもここまで読んでいただいている方がいればそこんとこよろしくお願いしますね^^;



8137
T−9 「暗黒からの目覚め」 by 鳩羽 音路 2009/06/10 (Wed) 21:17
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T−9 「暗黒からの目覚め」


 廊下はいつもどおりにひっそりとしていた。
 所々古くなった部分に足を乗せると、板の軋む音が幾度か反響して消え入る。そしてそれが繰り返される。
 廊下に明かりは灯っていなかったが、いくつか屋敷に設けられた窓から午後の太陽が光線を注いでいる。
 太陽光は床や壁や天井で反射して分散し、明るくはないが、不自由がないくらいには廊下を照らし出していた。
 それは屋敷では当たり前の光景だった。
 しかし今のキルにとって、それはいつも見ているものとは違っていた。
 虚無感。そして体の奥から現れる倦怠感。
 それらが見えるものを殺伐としたものに変形させていた。
 彼はそれでもいつものようにしっかりとした足取りで、自室へ向かう。
 そんなものを感じるのは、自らの心が未熟だからだと言わんばかりに。

 キルは、ベッドの上で横になると、国王のさいころを取り出して手の上で弄び始めた。
 親指と人差し指で挟んだ状態からスタートし、指の間を移動させて薬指と小指の間に挟む。
 ピンと弾いて宙に浮かせ、戻ってきたところをすばやく受け止める。
「おまえさ、本当にこれで良かったのかよ」
 いつの間にかゴンが部屋であぐらをかいている。
「何が」
「とぼけんな。アーサのことだよ、アーサ」
 あの時……。そう、あの大臣ゴーゴルが突然現れた時、キルはアーサに対して冷淡な態度を取っていた。
 ぼくはあなたを大臣に届けなければならない。
 なぜなら、ぼくは大臣から依頼を受けているからだ。
 ぼくの中で依頼の遂行は絶対だ。
 たとえ事情がどうであっても。
 キルはただそう言うと、アーサに向けて催眠の理力を放ったのだった。
 ゴンやナナシが激しく反対したにも関わらず、キルはぐったりしたアーサを担いで玄関まで行き、案の定外にいたゴーゴルに預けた。
 その時キルは言った。
 なぜ私をつけたのですか。
 ゴーゴルは答えた。
 君は謎が多いからね。素性くらいは知っておきたいと思ったのだよ。それにしても大きな屋敷だ。
 上手いかわし方だった。
 自らが野望を抱えていることなど少しも覗かせない巧妙さ。表情。
 やがてゴーゴルともう二人の兵士は、アーサと共に転移して消えた。
「これで良かったんだよ。それに依頼を受けたのはぼくだ」
 キルの口調は氷のように冷たいものだった。
「良いわけねえだろ。アーサはもうすぐ殺されるんだぞ!」
 ゴンの怒声が部屋にぐわんと響いた。
「ぼくが悪いんじゃない。根本的には国王が悪いんだ。そもそも、ゴーゴルを大臣に採用したのが間違いだ。国王は野望高き男を身近に置いてしまったために、自分の首を絞める結果になったというわけさ」
「そういう問題じゃねえだろ。馬鹿」
 ゴンに馬鹿と言われると、沸々と怒りがこみ上げてくる。しかしそれを噴出させるほどキルは愚かではない。
「ともかくこの部屋から出て行け。最近あまり眠っていないから、ぐっすりと眠り込みたい。難しいことは起きてから考える」
 本当は眠りたいわけではない。
 ただ、静かにさまざまなことを考えるだけの時間が欲しかった。
「寝てるうちに殺されたらどうするんだよ!」
「……出て行け」
 表情が変わった。
 キルは大きく眼を開けてゴンを睨んでいた。
 これほどまでに大きくなるのかと思うほど見開かれた眼は、射抜くようにゴンを見ていた。
 殺気が空間を波紋状に広がっていく。
 色がついているとしたら、それはきっと黒だと思わせるような冷気。
 ゴンは久々に一種の恐れを感じた。
 前にキルがこんな目をしたのはいつだっただろう。少なくとも最近ではない。
 そして、このような状態になったキルに立ち向かえる者など誰もいないということを、ゴンは熟知していた。
 それ故ゴンはこれ以上何も言わずキルの部屋から立ち去った。




 目が覚めたのは真夜中だった。
 本当に寝るつもりはなかったが、疲労が溜まっていたのかもしれない。
 ゴンがいなくなった後、眼を閉じたら気を失うように眠ってしまっていた。
 夢など一切見ない完全な熟睡だったが、体を起こそうとすると、長く寝ていたせいか体が重かった。
 のろのろと起き上がると、キルはすぐに部屋を出て、とある場所に向かった。
 眠る前とは違って廊下が暗いので、明かりを灯そうと考えるが、暗闇に眼が慣れていることもあってそうするのはやめた。
 暗黒へと続く廊下を歩いていくと、不意に立ち止まって床を手のひらで触れる。
 しばらくそうやって床を探っていると、何かを見つけたように爪をカリカリと引っ掛ける。
 すると、部分的に床が外れて地下へと続く階段が現れる。
 その階段をキルは慎重に降りていく。

 階段の先は、キルの部屋より一回りほど大きな一室だった。
 しかし換気がきかないためか、埃っぽい空気が淀むようにそこに佇んでいた。
 木材で作られた部屋ではなく、硬い石で作られたひんやりとした空間。
 ただ、それよりも部屋を異質なものとしているのは、壁に飾られたものたちだった。
 鋭利な短剣や長剣。斧に槍。一般的にあまり使われていない武器。
 さまざまな長さ、形状の武器が、壁一面を覆っている。
 まさにコレクションとも呼べるほどの量と種類だった。
 使われている材料も、決して安価なものではない。
 キルはそれらの中でも、最も武器に見えないようなものを壁から外した。
 それは短く太い棒のようなものだった。
 色は灰褐色で、先はやや丸くなっている。
 ショートブレードよりも短いであろうその棒をコートのポケットにしまうと、すぐにキルはその部屋から立ち去った。







あとがき(※若干テンションが高めですが不快に思っても思うだけにしてください)


こんばんは、最近テキストBBSにおける存在意義が微妙になってきた音路です。
なんだかネット上で存在意義がどうこう言ってるのも可笑しな話なんですが、
個人的には「できる限り前衛的に」をモットーにしてるのでまあ仕方ないか……
ところで今はアサナナが流行ってる(?)らしいですね〜
でも僕の作品では展開上アサナナはできそうにない。リアルに悲しいぜ!
というか、僕はアサナナよりもアルナナなので書けるならアルナナを書きたいなというところ!
でもアルバートいないしな。アーサ年くってるしな。もうどうしようもねーですね。
そもそも恋愛っぽい内容を僕が書くのが困難というか無謀というか。
ここはアサナナが大好きなあの方(誰かは書きません笑)に頑張ってもらうしかないか。最近は忙しいみたいですけど。

ところでところで、話はぶんぶん変わりますが、最近村上春樹さんの小説にはまってます。
この人、思えばすげえよな。ほんとすげえ。内容とか高度すぎる。天才。神。仰ぐ。
それに新刊欲しいけど売ってないってどういうことだよ。マジすげえ。
短編とかも多義的というか何というか、考えさせられる。
とりあえず、彼はすごい。ぶっちゃけそれが言いたいことです(笑)

あ、そういえばまだ本編について何も言ってないですねー。
正直なところ、特筆することがないからなのですが……。
まあ最後のほう少々雑ですが、そんなに神経質になることもないかな、と思ったのでそのまんまです。
ちなみに最後の棒は……まあ武器ですよね。そろそろ今作「初めての」戦闘かもしれません。
にしても、これだけ書いておいてまだ初めての戦闘ってパターンはあんまり無いと思うんですがいかかでしょう(何がだ)。
でも、これからも戦闘のマンネリ化を防ぐために、あんまり戦闘シーンは出てこないだろうと思われます。
まあいざとなれば頭脳戦でもしてもらいます。僕の頭脳を使うのでどこまで書けたものかわかりませんがw

では、あとがきが結構長くなりました。
一部うざいところがありましたが、ブーイングと共にここらで失礼したいと思います。音路でしたー!
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番外編@「 Ruke=Keynote 」 by 鳩羽 音路 2009/04/10 (Fri) 17:11
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番外編@「 Ruke=Keynote 」




――あ、例の奴がきた。
――例の奴? だれだよ、それ。
――ほら、最近入学してきた運動神経抜群で頭も良い奴だよ。
――ああ、それか。どいつだい?
――あそこにいる黒い髪のやつさ。名前はルークとか言ったっけ。
――ふうん。顔も整ってるな。こりゃ騒がれるわけだ。

 リーリル理力院。
 国内最大規模である理力院(フォースアカデミー)の中核を担う学院だ。
 そこに入学できる人間は、高い理力のキャパシティがあるか、家が金持ちかのいずれかである。
 特に能力の高い者には入学料や学費の免除が受けられるシステムがあり、そういう待遇をされた者は入学後も他とは違うクラスに入れられる。
 理力院は徹底的に個人の能力にこだわった教育方針をとっていた。
 同じ学年でも5段階のレベルに分け、さらに段階ごとに得意な分野別のクラスを設ける。
 そうすることによってクラス内での相互の対抗意識を高め、学習効果を高めるというやり方だ。
 特に最高の段階では特別待遇をされた者によって構成されるクラスが一つだけ存在し、他とは一線を画している。
 学院内の学生たちはそのクラスを「白銀クラス」などと呼んでいた。
 他のクラスの校章は赤だったが、そのクラスのそれは白銀をしていたからだ。

 ルーク=キーノートは白銀クラスだった。
 白銀クラスには三十人近く生徒がいたので、普通ならただのその一人ということになるが、それだけではなかった。
 入学試験で二位を大きく突き放してトップの成績で入学してきたのだ。
 試験には理力の能力を試す理力科、総合的知識を試す知力科、そして身体的能力を試す体力科の三つの試験がある。
 大抵の者は理力科と知力科の二科目受験を選択していたが、ルークは三科目での受験だった。
 そしてその総合得点においても彼はトップの成績だったが、その三科目すべてが満点だった、という出所の分からない情報が密かに囁かれていた。
 その噂はすぐに学院全体に行き届き、誰もが「凄い奴が入学してきた」ということは一度は耳にしていた。

 学院内には一つ大きな食堂がある。
 全生徒が入っても空きが出るくらい大きいのではないかと思うような広さで、とても豪華な装飾がしてある。
 一般の学院の生徒は、金持ちの息子が何故この学校に入れるかは、学院側が食堂を代表とするこういった豪華さを維持する費用を援助してもらえるからだと考える者も少なくなかった。
 ルークはそんな食堂で、歩きながら空いた席を探していた。
 彼には周囲の者たちがしている小声での話が嫌でも聞こえていた。
 彼は生まれつき耳がよかったし、目も普通の人より遠くを見渡せた。
 そして他のどの部分も常人より優れていた。
 その理由はよくわからないし、むしろ理由など無いのかもしれない。
 彼はイシュテナという人物に保護されている孤児だったが、イシュテナとその夫以外の人たちは彼を「天才児」「奇跡の子」などと自分たちの間で呼んでいた。
 イシュテナにはセシルという一人息子がいた。
 セシルもルークと同じく頭が良く、ルークがイシュテナに保護されるようになってからは、「イシュテナさんのところには天才が集まる」と周りの人間は騒いだ。

 ルークは自分自身についてのひそひそ話を聞いても、これといった反応を示さなかった。
 彼はそのとき10歳程度の子供だった。
 しかし、その年齢の割には大人びていた。
 感情など殆ど顔に表さず、むしろ感情があるのかどうか疑わしいような無表情ぶりだった。
 そして、彼の目は顔以上に何も語らなかった。
 ただ、その無機質の目が語っていたのは、何事にも興味のなさそうなことだった。
 実際、彼は彼自身の話がされていても何の興味も持たなかった。
 だから、彼の話が聞こえようが、構うことはない。
 彼は、ただ昼食を取るための席を探していた。

 ようやく彼は空いた席を見つけ、そこに腰掛けた。
 すると、そのとき正面に座っていた少年が、あっ、と声をあげた。
「君、ルークでしょ。ルーク=キーノート。試験、全部満点だったんだってね。すごいね」
 その少年は彼と同じくらいの年頃だった。
 もしかしたら彼と同じ新入生かもしれなかったが、彼は少しだけ少年を見ると、反応することなく持っていた弁当箱をテーブルにおいた。
 少年は驚いた。
 同じ新入生で凄い奴がいると知っていて、しかも一度顔を見たことがあったのでこうして声をかけてみたが、間近で見ると申し分なく顔も整っていた。
 いや、しかしそれ以上に驚いたのは年齢に似合わない無機質な目。
 少年はルークに興味を持っていたが、ルークが少年に興味を持っていないことはその目から明白だった。
 しかし少年は続けた。
「いいなあ、君は頭良くて。実はぼくも君と同じ白銀クラスなんだけど、満点の君には及びそうにないよ」
 そして少年が「ぼくにもそんな頭があったらな」と付け加えたとき、弁当を食べていたルークは顔をあげた。
「もし神様がいるとすれば…………きっと彼は公平だ」
 突然ルークが喋ったので少年はびっくりした。
「え、何故だい?」
「ぼくには楽しいことなんて一つもないからだ。でもおまえには楽しむ力がある。だから神様は公平なんだ」
 ルークはそういうとまた弁当を食べ始めた。
 少年は彼との間に見えない壁のようなものを感じた。
 少年と彼の吸う空気を隔てる、不可視の壁がそこにあった。
 そしてその壁は、分厚く頑丈だった。
 





あとがき

こんにちはこんばんは、もしかしたらおはようございます。音路です。
今回は調整のため短い番外編です。
言うまでもなく主人公の未だ謎な少年時代の場面。
特に言及すべきところは無いんですが、本編のキルと雰囲気が違うのは仕様です。
それ以上は下手に言うと後々やりにくいので言いません。
それにしても今回あとがき書くのは初めてですね。
多分、本編では章ごとにあとがきを付けると思います。

ではではここらで失礼いたしますね。音路でした。
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感想 by もげ 2009/03/12 (Thu) 19:14
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多分お久しぶりですよね。お久しぶりです。
まずは大学合格本当におめでとうございます。
陰ながら応援しておりました私としても嬉しく思います。
テキストBBSに活気を取り戻す一環として私も今後は積極的な感想執筆に乗り出す所存でございます。目指せ投稿No.10000。そんなこんなでカラスさん、もとい音路さんの復活は大いに喜ばしいことです。ばんざーい。


内容に関して。
目次にて話の概略が既に決まってることを拝見して、素晴らしいなと思いました。話の筋道を立てられず執筆が滞りフェードアウトする人(例:私)がいるなか、展望をきちんと作っておられるところには胸をうたれます。
また、一話。三人称体で整然とした文章によりつまることなくスラスラと読み進めていけました。主人公についてなど、今後に期待を持たせる書き方をされていて感銘を受けました。見習いたいです。

短いですが今回はこんなところで。
ご復活を心から嬉しく思います。それでは。
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感謝 by 鳩羽 音路 2009/03/13 (Fri) 00:50
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 感想ありがとうございます。こんなに早く感想をいただけるとは思いませんでした。いやあ、感謝感謝。

 お久しぶりです。元カラスこと音路は帰って参りました! 受験勉強中の全身の重みが消えて、今にも宙に浮きそうですが、何とか地に足はついています(何)。あと陰ながらの応援ありがとうございます。おかげで奇跡的に引っ掛かったよ!
 これでかなり空いた時間が出来たので色々と活動できそうです。投稿数10000。かなり遠い感じですが、目指していきしょう!


 拙作に関して。
 目次のお話については、殆どもう話が決まってます。実は勉強で疲れた時間にちょっとずつ書きためた文章があって、しかももう既にまとめているので、ほぼ目次通りに進む予定です。ただ、後から題名を変えたりする可能性は十分ありますが。
 1話目については、できるだけわかりやすいように書いたつもりです。僕はあまり上手い表現などを思いつかないので、できるだけ分かりやすく濃い文章を書ければ、と考えていました。
 主人公については、そのうちに色々な側面がわかるようになるでしょう。期待しておいてくださいw

 ではこのあたりで失礼しますね。
 本当に感想ありがとうございました。音路でした。
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感想U by もげ 2009/03/18 (Wed) 12:37
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少し遅れましたが第二話、拝見させていただきました。
いやぁ相変わらず読ませる文章をお書きになる。さすがです。
今回はキルに若干焦点が当たりましたね。彼の過去に興味は尽きません。
また何かゴンベエがトーテムだったり家政婦だったりと面白そうな要素満載で楽しみです。
心情や情景がきっちりした描写で書かれていて、引き込まれるなぁと思いました。

変な感想で申し訳ありませんが、続き期待しております。それでは。
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感謝U by 鳩羽 音路 2009/03/19 (Thu) 13:27
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こんにちは、現在頭痛で苦しんでいる音路です。
嗚呼、またしても感想を頂けた僕はとんでもない幸せ者に違いない!

読ませる文章だなんてそんなたいそうなモノじゃないですが、難しい漢字の使用や文に漢字ばかりを使うことは出来る限り控えているので、割と読みやすかったのかもしれません。
それが評価に繋がったのかな、と思います。ありがとうございます。
キルの過去についてはそのうち明らかにされていきます。
どんなものかはある程度予想できるかもしれませんが……。
あとゴンベエがトーテムという設定は今までに無いっぽいし、本編の内容も盛り込めるのでそうしました。

ではこのあたりで失礼したいと思います。
感想ありがとうございました。音路でした。
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感想 by もげ 2009/03/24 (Tue) 15:58
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感想遅れましたが、三話四話まとめていきます。

まだまだ話の基盤というか、起承転結で言う起承あたりをぶらぶらしてる感じですね。
綿密な設定、緻密な描写によってどんどんと読んでいけるあたりさすがだと思います。
いやぁ、それにしてもゴンとナナシの掛け合いとか癒されますね。二人とも可愛いよ笑
次から物語が動きだしそうな予感がしてドキドキしています。どうなるトカゲ砦!

それでは短く拙い感想で申し訳ありませんが、これで失礼します。続きの執筆頑張ってください!
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感謝 by 鳩羽 音路 2009/03/25 (Wed) 01:16
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こんにちは、こんばんは、もしくはおはようございます。音路です。
いくら感想が遅くたって、僕はもらえれば幸せです。
全然謝る必要なんかないです。
というか、起伏の無い第三話に感想つけるのは正直言って難しいと思いますので、むしろそれが普通というかなんというか。
まあ、とにかく感想ありがとうございます!
今は確かに序盤で、つまらないところが多いですが、そのうち盛り上がるところがきます。多分(ぇ
でもT章全体が長くなるので、途中読むのがだるーくなるかもしれませんが、死力を尽くして出来れば最後までお付き合いいただければ、と思ってます。
ところでゴンとナナシは殆ど真逆な性格なので所々で衝突します。
殴り合いはもちろんできないので口喧嘩ということになりますが、だいたいナナシが勝つらしいです。
そして次回、トカゲ砦では物語が…………恐ろしい展開に!(嘘

混沌とした文章で意味不明でしたが、ここらで失礼したいと思います。音路でした。
(短編小説のほうは、諸事情により少し時間的余裕が無くなってきたので執筆速度が落ちるということをこの場で一応言っておきます)
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かんそ。 by もげ 2009/03/29 (Sun) 20:54
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読ませていただきました。いやいや相変わらず上手いです。
理路整然として読みやすく、と言って飽きさせる単調さでもない。
こんな描写が出来るようになるには何を読めばいいんでしょうか!
今回はトカゲ砦ということもあってゴンの回想だったわけですが、哀愁漂うゴンが普段とは違うイメージでよかったです。やはり幻想譚というベースがあってこその物語なんだなということも再確認した感じです。
あとキルのKYっぷりに限りなくラブ。この子空気読めないな!笑

なんか意味わかんない感想ですがこのあたりで。
お里帰り羨ましいです(´・ω・`)
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かんしゃ。 by 鳩羽 音路 2009/04/01 (Wed) 21:54
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こんばんは、音路です。
土日に高速道路が1000円ということで、10年ぶりくらいの里帰りが決行されたわけですが、走行距離が往復で日本列島横幅くらいの長さになってしまい、現在僕はこれ以上無くクタクタです。
もう目を瞑ったら死んだように眠れるような状態です。
だがしかし!
しかしこの疲労に負けて寝るより先に、やるべきことがある・・・!
そう、それは感想返し!(遅れてすいません)

今回の話ではゴンに焦点を当てました。
やはり元々の幻想譚の土台があってこそなので、そこは抜かすわけにはいきませんでした。
ちなみに既にトカゲ人が消えてしまっているのは、何でも上手くいくわけじゃないという僕個人の考えからでして、もうひとつ言えばそのほうが書くテーマがある程度決まってくるからです。
勝利する者がいれば敗北する者がいて、滅ぼす者がいれば滅ぼされる者がいる。
生きる者はコインの裏表のような関係の中に閉じられている存在なのだ…………と、思いついた適当なことを今書いています(ぇ
とにかくゴンは竜人を滅ぼしたことを後悔してるということですね。
しかし、もちろん後悔したところで時間は戻らないわけです。
ところで話が変わりますが、キルがKYかどうかは微妙です。
もちろん普通ならあの場面で笑うことはないはずですが、それほどゴンの日々の行いが悪かったのかもしれません。どうなんでしょう(何
まあ、確かに空気は読めてないので若干KYになりますか(ぁ

ではこの辺りで失礼いたします。
本当に感想ありがとうございました。音路でした。
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かんそう by もげ 2009/04/04 (Sat) 00:25
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拝読させていただきましたので感想を書きます。

奇妙なバツ印が描いた円、中心から出てきたサイコロ。そして謎の気配。
物語の重要な軸になりそうなパーツがごろごろ出てきてウキウキしてきました。
それにしてもキルは強いのに用意周到という、模範的な切れ者ですね。カッコいいです!
今後どのように展開が広がっていくのか一日千秋の思いで待たせていただきます。

それでは短く稚拙で申し訳ないですが、これにて。
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かんしゃ by 鳩羽 音路 2009/04/05 (Sun) 19:09
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こんばんは、音路です。
いつも感想ありがとうございます!

キルは普段は極めて合理的な思考をする性格なので、何をするにも無駄を嫌います。
ここでいう無駄はつまり「彼にとって」無意味な物ということです。
例えば徒歩で移動したりすることは彼にすれば有意味なので無駄ではありません。
しかし、これは言い直すと、彼は自分自身の考え方を基準として動くということなので、合理的であっても実際はかなり人間的なのかもしれません。
彼の用意周到さも、あらゆる可能性を考慮して最善の策を取ろうとする合理的、あるいは人間的な部分から来るのでしょう。

ところで作品とはズレますが、最近やっと新旧テキストBBS全体が盛り上がってきて純粋に嬉しいです。
これももげさんの人望のおかげだと思っているので、感謝したいです。
なんだか皆さんの短篇がハイレベルで僕の入る所がない状態になってるっぽいのがアレですが、まあ良い作品が読めるからいっか、という心境です。

それにしても旧板のほうは桜崎さんが復活したので息を吹き返しましたが、それでもまだ盛り上がりに欠けるなぁ、と思いながら、僕の頑張りが足りないんだろうか、とも思ったりします。
それともやっぱり旧板は使いにくいんでしょうか……。
まあ新板が盛り上がってるのでいいんですけどね。

それでは余分なことばかり書きましたがここらで失礼いたします。
本当に感想ありがとうございました。音路でした。
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感想。 by もげ 2009/04/06 (Mon) 19:37
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テキストBBS活性化しやがれー、と今回も感想でございます。

風雲急を告げる展開ですね! まさか国王から手紙が来るとは。
さいころと王の関係、突然持ち出された勝負と、見どころ満載で楽しみです。
そして小さな闘争心を燃やすキル…ヒートな彼を見ることが出来るのでしょうか。

あ、あとテキストBBSが活性化したっぽいというお話で嬉しい限り。
ただ私としては単に感想と感想返しの意見交換が多少活発になった程度だと解釈しております。
それでもかつてからすれば進歩には違いありませんが慢心することは避けるように心がけてます。

やはり純粋に短編だけを上げるなら新板の方が使いやすいです。個人的に。
レベルがどうこういうんじゃなく、音路さんもどんどん書けばいいと思いますよ。
そもそも音路さんのレベルで入る隙ないとかそれなんて皮肉なんですか笑

旧板に関してもそろそろ何とかなるんじゃないかと思います。
根拠はありませんが、春だから皆さんテンション上げてやってくるのではないかと笑

蛇足部分の方が感想より多いとかホント何なんだ自分…。
相変わらず空気読まずに申し訳ありませんが、これで失礼をば。
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感謝。 by 鳩羽 音路 2009/04/07 (Tue) 23:19
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こんばんは、今日入学式に行ってきた音路です。
割と友達も出来て安心してますが、履修登録とかのほうがよく分からなくて不安な状態です。
まあ、リアルはいいとして、今回も感想ありがとうございます。
今回の話は急展開っぽくしてみました。
多分初めて動きがあった話だったと思います。
あと、国王の手紙についてはあまり言及しすぎるとボロが出るかもしれないので言いませんが、この場合あらゆる可能性が考えられます。
キルは国王からの手紙として処理しましたが、それをもっと別の誰かからの手紙とする考えも実際成り立ちます。
なのでキルの考えに対立しながら読むことも可能というわけですね。
もちろん推理小説ではありませんが、適当に楽しんでいただければと思います。

ところでhirumiさんが復活して、ここも軌道に乗り始めましたね!
この調子で一人二人と増えれば繁栄の兆候といった感じでしょうか。
あと、そろそろ僕も再始動(感想とかを)するのでよろしくお願いします。
先輩に動いてもらうのは結構申し訳ない感じなので笑

ではここらで失礼します。音路でした。
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感想ですよ by もげ 2009/04/14 (Tue) 19:05
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遅ればせながら感想です。

今回はキルの幼少期にスポットを当てた掌編ということで、彼の素性の一部を垣間見ることができましたね。
理力院のシステムにテンションが上がりました。私も入学してみたい!
「楽しいことなんて何もない」と断じていたキルが現在に至るまでの諸々に焦点を当て、続きを期待しています。


あと、別に感想を書くのは義務じゃないですよとだけ。
忙しいのなら無理はせず、自分のペースでいきましょう!
それに私は別に率先してるわけじゃないので負い目感じないでいいですよ笑

拙い感想で失礼いたしました。それでは。
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感謝です; by 鳩羽 音路 2009/04/21 (Tue) 23:43
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こんばんは、音路です。
すいません、かなり感想返しが遅れてしまいました(汗
理由はリアルの事情です。
いろいろと忙しいのでネットにつなぐ機会がかなり少なくなりそうです;

今回のお話は、はっきり言って時間稼ぎ的な役割です。
キルの昔については結構考えてあるので、時々こんな感じの番外編が入るかもしれません。
あくまで番外編ですが……。

それではかなり短いですがここらで失礼します。
音路でした。
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感想と暴走と by ケトシ 2009/05/10 (Sun) 23:25
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深い思考に入るときに無呼吸になるケトシです。
こちらでは初めましてでしょうか。感想を送らせていただきます。

この文章の組み立て方、さすがです。
いい感じに謎が溶けていく快感を久しぶりに味わいました。

思わずのめりこみ
「原作にない槍の存在からするに、戦いのための理力は衰え始め別方向に進化をはじめた可能性を示唆しているのか!」
「さいころは重心の関係から5が出やすいはず。何かしら関係が」
とか考えてて軽く酸欠になりました。見当はずれでとほほです。



ではまじめな感想はもげさんに任せて軽く暴走開始でございます(ぇ)。

さいころがバーン王の遺産ということで、原作の設定をぶんぶん無視し
「お正月には真魔王もそれ振ってすごろくして遊んでいたんだろうなぁ!(輝く目)」
とシンマさん(真魔王のことらしい)への好感度がちょっぴりあがってしまいました。どうしようこの心のときめき。

王様と無性に羽子板がしたいです。結界を貫く勢いで額に肉って書きたいです・・・!


そんな思い(ぇ)を抱きながら続くお話を楽しみにしています。
では、乱文失礼いたしました。
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感謝と房総半島(何 by 鳩羽 音路 2009/05/11 (Mon) 00:20
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■Home
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こんばんは、最近甚だしく夜行性の音路です。
明日の授業でたくねー、と思っている常時五月病野郎ですが、こんな輩の駄文読んでいただき誠にありがとうございます。
本当に感謝感激です。抱きしめたい(やめれ
それじゃ久しぶりな感想返し行きます!

>「原作にない槍の存在からするに、戦いのための理力は衰え始め別方向に進化をはじめた可能性を示唆しているのか!」
理力は衰えてないですが、槍とかないとやっぱ面白くないじゃないですか(ぁ
原作の設定とかが、話を書くには少なすぎるために色々と加えたりしてます。
原作の設定にある部分は曲げずにそのまま使ってるつもりなので、まあ大丈夫でしょう。
ただ、東西南北中に分けたのは結構昔という設定にしているところは原作を曲げたことになるのかもしれません。(あまり作中では語られませんが)
でもあのバーン城だけを拠点として大陸全域を治めるのは無理があるので、もし現実的に見るなら(ファンタジーを現実的視点から見るのもどうかと思いますが)、分割統治くらいじゃないかと思います。

バーン王の遺産という設定については、まあ遺産くらい残してるだろう、という考えのもと作りました。
実は後々、もっと原作にない設定が出てくるんですが、ここまで来れば大丈夫・・・ですよね(汗
あと、一応さいころは王様の本物のほうが作らせました。
なので魔王さんがさいころで遊んでいたかは不明ですw


今回は本当に読んでいただきありがとうございました。
というか一気に全部読んだというのには恐れ入ります。普通にすごいw
ではここらで失礼したいと思います。音路でした。
p.ink