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削除 06/10 (21:24) 8038
  T−1 「噂の男」 <鳩羽 音路> 03/16 (19:39) 8039
  T−2 「KILLER」 <鳩羽 音路> 03/16 (19:42) 8045
  T−3 「森の奥深きにある屋敷」 <鳩羽 音路> 03/20 (13:54) 8053
  T−4 「トカゲの森」(a) <鳩羽 音路> 03/24 (09:06) 8054
  T−4 「トカゲの森」(b) <鳩羽 音路> 03/27 (21:54) 8057
  T−4 「トカゲの森」(c) <鳩羽 音路> 04/01 (22:17) 8066
  T−5 「手紙」 <鳩羽 音路> 04/05 (19:31) 8072
  T−6 「解明」(a) <鳩羽 音路> 04/22 (00:08) 8093
  T−6 「解明」(b) <鳩羽 音路> 05/23 (16:44) 8098
  T−6 「解明」(c) <鳩羽 音路> 05/23 (16:45) 8109
  T−7 「解明2」 <鳩羽 音路> 05/23 (16:44) 8123
  T−8 「真実」 <鳩羽 音路> 06/09 (02:53) 8129
  T−9 「暗黒からの目覚め」 <鳩羽 音路> 06/10 (21:17) 8137
  番外編@「 Ruke=Keynote 」 <鳩羽 音路> 04/10 (17:11) 8076
  感想 <もげ> 03/12 (19:14) 8040
  感謝 <鳩羽 音路> 03/13 (00:50) 8041
  感想U <もげ> 03/18 (12:37) 8049
  感謝U <鳩羽 音路> 03/19 (13:27) 8051
  感想 <もげ> 03/24 (15:58) 8055
  感謝 <鳩羽 音路> 03/25 (01:16) 8056
  かんそ。 <もげ> 03/29 (20:54) 8059
  かんしゃ。 <鳩羽 音路> 04/01 (21:54) 8065
  かんそう <もげ> 04/04 (00:25) 8068
  かんしゃ <鳩羽 音路> 04/05 (19:09) 8071
  感想。 <もげ> 04/06 (19:37) 8073
  感謝。 <鳩羽 音路> 04/07 (23:19) 8075
  感想ですよ <もげ> 04/14 (19:05) 8085
  感謝です; <鳩羽 音路> 04/21 (23:43) 8092
  感想と暴走と <ケトシ> 05/10 (23:25) 8110
  感謝と房総半島(何 <鳩羽 音路> 05/11 (00:20) 8112

8045
T−2 「KILLER」 by 鳩羽 音路 2009/03/16 (Mon) 19:42
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T−2 「KILLER」


 城から出ると、キルの荷物を預かっていた兵士2人が待っていた。
 城門で荷物を受け取ると、兵士は「次からは単身で王城に入れるように」とあらかじめ大臣から授かっていた許可書をキルに手渡し、また、「明日はサーショの兵士の詰め所に顔を出すように」と伝えた。
 キルは了解の言葉を返し、城を去った。

 その後キルはサーショに戻らず、リーリルを目指した。
 リーリルはサーショから見て南の方角に位置する。
 この国で最も賑やかな場所ともいえる大きな街であり、行商人がたくさん活動する商業都市である。
 また、国をあげての理力開発もこのリーリルを中枢として行われており、理力院(フォースアカデミー)という国内最大規模の学校もある。
 キルは広がる草原地帯を黙々と歩いていく。
 フードを被らないのは、被って顔を隠す必要もなく、風を肌に受けて感じたいからでもある。
 キルは「転移」の理力が使えたが、基本的には歩いた。
 理力を使って移動距離を短くすればそれは楽かもしれないが、地を踏みしめて歩き、なすがまま風を全身で感じるほうが、キルの性分に合っていた。
 この世界に自らの魂がとけ込んでいくように感じるとき、キルは己の存在を再確認できた。
 この世を構成する森羅万象のなかの一部としての己を見つけられた。

 少し行くと、小さな町が見えてきた。
 最近、新たな町というべきか、国の人々が住む地域が広がってきている。
 戦争の相手がいないことがこのことの最大の要因だろうが、この町もその動きの一部で、ここからリーリルまではこのような町が点在しているような状況である。
 それらを辿っていけば確実にリーリルにたどり着くという仕組みだ。
「おい、リーリルなんかへ行ってどうする? 聞き込みでもすんのか?」
 不意に隣から声がした。
 いつからいたのか、黒髪の少年がキルの隣を歩いている。
 見た感じはどこにでもいそうな少年であるが、それを異質なものにしているのは微かに透けた体。
「そのつもりだが…………おまえ、聞いていたのか?」
「まあな、たまたま。つーか人探しなんて馬鹿らしいと思わねえの? 俺なら絶対やらないね!」
 少年はけらけらと笑った。

 この世には、トーテムという者たちが存在している。
 その姿形は実に様々で、共通するのはおしなべて動物の姿をしており肉体が無いという点。
 そして特定の人間に宿るという点。
 トーテムに覚醒した人間は、身体能力・治癒力の向上、五感の強化が起こる。
 この少年も、実はトーテムである。
 普通トーテムは人外なのだが、例外的に彼は人間である。
 彼がトーテムであるのには深い訳があるのだが、なにかとそういう話題になると「ヒトも獣も動物だろ」と言い返す。
 ステレオタイプが嫌いらしい。
 彼の名はゴンベエ、略称ゴン。
 格好の良い名ではないが、「俺には選択権はなかった」と愚痴る。
 一言で言えば変わった奴だったが、キルと共に過ごした時間の長さは一番である。
 その点から言うと、良きパートナーと言うべきか。

「それよりゴン、留守番を頼んでいたはずだったが」
 キルには生活費を稼ぐための仕事のようなものがあった。
 あらゆる依頼を受け、それに対する報酬を受け取る仕事だ。
 どこかに雇用されているわけではなく、そもそもキルが自分で始めた仕事であり、決まった働き場などない。
 またゴンが「依頼請負業」とそのまま名付けたこの仕事が最近多くなってきたために、家を留守にすることが多くなっていた。
「おいおい……1週間も家空けといてそれはないだろ」
「それもそうか」
 宿屋に部屋を借りている間は3件あったが、どれも小規模なものばかりだった。
 あまり金にならない仕事を3件終わらせた後に、キルのもとに飛び込んできたのが「王の捜索」というわけである。
「で、ナナシはどうしてる?」
「ん? あいつならいつも通り本読んでたぞ。……あー、心配すんな。ちゃんと飯は毎日三食用意してるから」
 ナナシというのは、キルの家に住む少女の名である。
 孤児なので身寄りもなく、またキルになついているために預かっている。
「そうか。帰ったら今日中に一度帰ると伝えてくれ」
「わかった…………ってひとりで聞き込むのか?」
「そうだ。おまえと話していたら日が暮れる」
 別にそれほど時間を気にしているわけでもなかった。
 気にしているならリーリルまで歩くことはない。
 しかし、トーテムは常人に見ることはできないためにいろいろと面倒なことが起こる。
 例えば独り言をブツブツとつぶやき続けている「変な人」と思われたりするので、一般人との交流時には向かない。
 ゴンは人間のトーテムなので、キルは普通に会話など交わしているとトーテムだということ自体を忘れてしまい、「変な人」と思われてしまうことがよくあった。
 そこがトーテムの一番厄介な所だとキルは思っている。
「ひでえな。つーかもうじき日は暮れるだろ」
 ゴンはキルが時間以外のことを気にしていることに気づいていなかった。
 ゴンの言葉を無視し、キルは何かを考え込むように黙る。
 自分が失踪した王だとして、しかもリーリルに行ったとしたらどうするだろうか?
 長く留まることは自分ならしない。正体がばれてしまえば軍部に情報が伝わり、捕まってしまう。
 しかし人里を離れすぎても生活が困難になる…………。
「ちっ、もう推理モードかよ。…………わかったよ。ちゃんと今日中に帰れよ。お子様の面倒見るのは大変なんだからな!」
 やや怒鳴り気味でゴンは捨て台詞を吐いて消えた。


 リーリルに着いたのは夕暮れ時だった。
 絢爛な街並みが、夕日と共鳴して光っているようにも見える。
 朝昼と賑わった街が、この時間になってやっと落ち着いて、若干の気だるさを感じさせる空気を醸し出している。
 まず酒場へ行こうと思った。
 しかし、キルは考え直す。
 今の時間帯を考慮すると、客はそれほど入っていそうにない。
 酒場はやめて、街に出ている店を一つ一つまわった。
 しかしフードで顔を隠した不審な人間を見なかったか尋ねてみても、誰1人としてそんな者を見たことはないと答えた。
 キル自身フード付きのコートを着ているので、逆に店主から訝しげに眼を向けられた。
 やはりこの姿のままでは、国の兵士として聞き込むことはできず、突っ込んで話をすることもできない。
 最後の店から出て気づけば、既に日は落ち闇が訪れようとしていた。
 とはいえリーリルは晩も賑わう。特に最初に訪れようとしていた酒場はこの時間帯が最も賑やかになるので、最後にそこで聞き込むのも悪くない。
 キルは足を酒場へ進めた。

 酒場の戸を開け中に入ると、熱を帯びた空気に包まれた。
 カウンターはすべて埋まり、テーブルもほとんどが埋め尽くされている。
 女も少しいるが、大半は男で、兵士が多い。
 リーリルを含む王国南部の兵服は、中央部のものとは色に違いがあり、中央部は薄茶だが、ここでは浅緑である。
 キルはある事情によって南部の兵士や役人とはできるだけ関わらないようにしていたが、それも久しくなったので、「この程度なら問題ない」と判断し適当に空いている席へ座った。
 近くにいた兵士たちが一瞬仲間同士で語り合うのを止め、漆黒のコートに身を包んだキルを見たが、すぐにまた談話に戻った。
 横から聞いていると、他愛もない世間話や剣の扱い方の話などがされている。話題が国の警備の話に変わってまもなく、キルは口を挟んだ。
「南の警備はちゃんとやってるのか? この時間にわいわいやってるようだが」
 普通なら不自然な乱入だが、酒の入った連中の会話に入り込むのはそこまで難しくはない。
 ここでは、初めて会った人間と自己紹介などせず共に酒を飲むなどというのは日常茶飯事なのである。
 だが、次の日にはどんな奴と飲んだかを忘れてしまうということもよくあることであったので、聞き込む場所としてはキルにとって都合が良い。
 ただ、酔っ払いは事実を言うものの、その事実には誇張された内容が多いことが欠点だ。
「ああ…………それはさっき前半の警備担当が終わったからさ。今は後半のやつらがやってる」
 一番体の大きい兵士がビールを飲むのをやめてそう答えると、その隣の兵士が続いた。
「いつもこの時間はこんな感じで賑わってんだよ。まあ待遇は夜警の方がいいんだけどよ、やっぱ飲めなきゃやってらんねえ」
 兵士は一気に手元の酒を飲み干す。キルは、ビールの臭いが染みこんだ兵士の息に、顔をしかめた。
「ちゃんと警備はしているんだな。なら訊くが、最近この辺りで怪しい人物はいなかったか。紺色のコートを着てフードを被っているんだが」
 最初の兵士が首を傾げる。
「いんや、俺はそんなやつは見たことないけどなぁ。おまえらあるか?」
 他の兵士たちも顔を見合わせながら、口々に見たことが無いと言った。
 すると或る兵士がはっと思い出したように「ある」と呟いた。
 どこで見たかをキルはすかさず問う。
 すると兵士は一週間ほど前にトカゲの森へ向かう、フードを被った人物を見たと述べた。
 トカゲの森というのは、トカゲ人という種族(以前人間の戦争相手であった種族)が大陸からいなくなる前に、砦をその森の奥に築いていたことに由来する。
 リーリルからは北東の方角に位置する森だ。
 続いて兵士にその人物の身長を訊いたが、それは覚えていないという答えだった。
 トカゲの森。明日早速行ってみることにキルは決めた。
 ここまでうまく運んできたが、突然、端の方でずっと黙っていた兵士が、口を開いた。
「あんた、わざわざ兵士の俺たちにそんなこと訊いてどうすんだ? つーか何者だ?」
 冷静な者が一人いたようだ。
 キルは心の中で舌打ちをする。しかしすぐに返答を用意する。
「こんな格好だが、中央の兵士だ。向こうでその変な奴を前に見たが、こっちに来てないかと思ってな」
「…………なんか怪しいな。それにな、俺はあんたをどこかで見たことがあるような気がするんだよ」
 他の兵士がまたも顔を見合わせる。
 あいつ知ってるか? いや、俺は知らないと思うが…………。
 兵士達の間に何かきまずい空気が流れた。
「そうだ、ルークだ」
 ぽつりとさきほどの兵士が言った。
「ルーク…………ルーク=キーノート」
 その名前が出ると、その場にいた兵士達は急に静かになる。
 他の席ではがやがやと騒ぎながら飲んでいたが、キルの周辺だけに驚くほど冷えた沈黙の空気が漂った。
 キル――――すなわちルーク=キーノートの顔を知る者がまだいるという事実には、本人自身やはりと思う所もあった。
 数年隠れていようと過去の記憶を拭い去ることなどできはしないのだ。
 ……もちろんそんなことは最初から分かっていた。
 そいつがそいつで在る限り、そいつはそいつであるしかない。
 今まで生きてきて、嫌でも学んだことだ。
「理力院の天才、神童とまで呼ばれ、在学しながら最年少で、『五番目の部隊』の隊長に任命される。そして数々の危険因子を抹殺してきたが、しばらくして反逆的思想を同胞に密告され逆上。役人に死傷者を出し、逃亡。結局南部からは追放処置、アカデミーからは除名――――これがあんたの経歴じゃなかったか? 俺でもこのくらいは知ってるんだぜ?」
 キルは否定する気になれなかった。
 キルの知る真実と、広く兵士達などが知っている「事実」に多少の違いがあるにしても、真実などここではなんの意味も持たないことなのだ。
 それをわざわざ説明してやることは、さらに意味のない愚行といえる。それに――――多くの人間が事実だとしていることが、この世界では真実となり得てしまうのだ。
 個人にはどうしようもないことだ。
 それがこの世界の仕組みなのだ。
「ぼくがそのルーク=キーノートだとしたら、どうするというんだ? 今ここで捕まえてみるか? 殺人罪に、追放処置もないがしろ。ぼくのような奴を捕まえるのがおまえたちの仕事だろう。違うか?」
 その場にいた兵士がさらにいっそう黙り込む。
 キルの正体を明かした兵士も、この言葉には閉口せざるを得なかった。
 というのも、自分たちが束になってかかろうと、この男は捕まえることができない、とその場にいる誰もが思っているのだ。
 彼らはルーク=キーノートの実力を幾度も聞いてきたし、もしかすると実際に目にしたことがあるのかもしれない。
 キルはそのことを最初からわかっている。
 自分には力があるのだ。
 無論過信ではない。
 それは紛れもない事実であり、避けることの出来ない現実なのだ。
 重い沈黙が流れ続けた。
 周りの騒音をも、それはかき消した。
 ぼわぼわと無意味な音が、横臥する冷気に跳ね返された。
 キルはすっかり黙り込んでしまった一同を一瞥し、若干の寒い感情を胸中に覚えながら、逃げるように酒場を出た。
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