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削除 06/10 (21:24) 8038
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  T−5 「手紙」 <鳩羽 音路> 04/05 (19:31) 8072
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  T−6 「解明」(c) <鳩羽 音路> 05/23 (16:45) 8109
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  感謝U <鳩羽 音路> 03/19 (13:27) 8051
  感想 <もげ> 03/24 (15:58) 8055
  感謝 <鳩羽 音路> 03/25 (01:16) 8056
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  かんしゃ <鳩羽 音路> 04/05 (19:09) 8071
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  感謝。 <鳩羽 音路> 04/07 (23:19) 8075
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  感謝です; <鳩羽 音路> 04/21 (23:43) 8092
  感想と暴走と <ケトシ> 05/10 (23:25) 8110
  感謝と房総半島(何 <鳩羽 音路> 05/11 (00:20) 8112

8072
T−5 「手紙」 by 鳩羽 音路 2009/04/05 (Sun) 19:31
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T−5 「手紙」


 キルは兵士としての仕事を終えると、まだ太陽は辛うじて空に残っていたが、特に聞き込みなどはすることなく隠れ家の屋敷に戻っていた。
 地中に埋まっていたさいころと国王の関係はあるのか、そして不意に現れた「誰か」は一体誰で、何のためにトカゲの森にいたのか。
 キルには直感的に、それらの謎がこの依頼で重要な位置を占めるように感じられた。
 理屈ではなく、説明できるものでもない不鮮明な無形の黒雲がキルの脳裏を覆っていた。

 屋敷には大きな書庫がある。
 一部の書物はキルが以前持ってきた物だが、それ以外は全てもともとこの屋敷にあったものだ。
 キルは書庫の本を半数以上既に読破し、読んだ本は未読の本と分けて違う棚に整理していたが、今日あさっているのは既読の棚だった。
 王とさいころを結びつけて考えたとき、ふとキルの頭の中に張り巡らされている無数の蜘蛛の巣に何かが引っ掛かった。
 前にその線の内容が書かれた本を読んだ覚えがあったのだ。
 何の本かは記憶していないが、確実にそのような記述があったということは覚えていた。

 探し始めてからかなりの時間が経っていた。
 もう既に月は南東に昇っている。
 書物の半分は探し終えたが、全て終わるのはこのまま続けていれば明日の朝になりそうだ。
 数分後、黒いカバーの本をぱらぱらとめくっていると、ガチャリとドアを開けてナナシが入ってきた。
 夕飯ができあがったらしい。
 キルはまだ書庫を探したかったが、何も焦る必要はないと思い直し、ナナシと共に書庫を出た。
「ねえ、あんなに長い間何の本を探してたの?」
 食堂へ向かう廊下の途中でナナシはキルに訊ねた。
「いや……ぼくにもわからない。何の本だろうな」
「何よそれ。何が書いてある本なの?」
 キルはそう質問されるとトカゲの森で見つけたさいころを取り出した。
「言ってみればこのさいころと王の関係が書かれた本だな」
 何の変哲もなさそうな白いさいころを指先で弄びながら、キルは言った。
「さいころと王様かぁ……。あたしはおぼえないなぁ」
 ナナシもキルと同様よく本を読み記憶力もいいので、ナナシが知らないとなるとかなり目立たない本なのだろうか。
 しかしどちらにしろ全て本を調べれば片は付くし、一つずつやっていけばいい。
 常に平常心で冷静な対処をすべきだ。
「にしてもさ、このさいころって本当に普通のさいころなのかな。地中に埋めてあったんでしょ?」
 鋭い見解だった。
 そこが一番の問題でもある。
 普通のさいころがわざわざ埋められているわけがない。
 もしも普通のさいころだったとしても、何か王につながるメッセージが隠されている特別なさいころのはずなのだ。
 もちろん王とは何も関係がない可能性もあるが、キルは直感でこのさいころは王が埋めたものだと思っていた。
 キルらしからぬ根拠のないただの推測だが、そう考える他王を探す方法は無いように思えた。
 憶測の中から探すべき答えへ至るヒントを見つけ出すことはよくある。
 まずはさいころと国王に関係があると仮定して、それに関する書物を探すしかなさそうだった。

 夕飯を食べた後、キルは続けて書庫ではっきりしない記憶を頼りに書物を探していたが、結局その日のうちには見つからなかった。
 部屋で軽く睡眠をとった後、またサーショで兵士の真似事をするために時間に余裕をもって屋敷を出た。



「おまえ、ちょっとこっちへきてくれ」
 早朝の訓練を淡々とこなしていたキルに、突然見知らぬ兵士が声を掛けた。
 キルと共に大通りの警備へ行った兵士達の顔は覚えていたが、その中の誰でもない兵士だった。
 一瞬、過去にリーリルで顔を合わせたことのある者かもしれないと身構えたが、すぐにそうではないことが分かった。
「キル……といったか。おまえ宛てに手紙が届いている」
「手紙……?」
 一瞬、手紙と聞いて、ある見知った人物の顔を思い出した。
 シャノワール=クリスプ。
 キルの仕事を仲介するパイプマンでありながら、あらゆる情報を網羅する情報屋でもあり、鍛冶屋であり、道具屋であり……と多くの顔を持つ男だ。
 キルへの依頼は全てシャノワールが仲介するので、当然彼に報酬の一部が支払われるわけだが、独りで依頼者を探すよりは断然彼に探してもらったほうが効率が良く、キル自身彼の情報収集能力には一目を置いていた。
 今回の仕事も彼が探してきた依頼であり、サーショのあの宿で泊まるように指示したのも彼である。
 シャノワールからの手紙だろうか、とキルは思った。
 しかし彼はあまり手紙で依頼に関する連絡をよこすことはなかったので、何かおかしな事が起こったのかと思った。
 兵士はキルに茶封筒を手渡すと、特に何も言及せずどこかへ行った。
 封筒を見ると、ただ「キル殿」と宛名しか書かれておらず、どこにも差出人の記述が無かった。
 シャノワールなら差出人は書かないに違いない。
 キルは訓練の後で開けることにした。
 訓練が終わり、大通りでの警備が始まると、すぐにキルは封を切った。
 中には一枚の紙が入っていた。
 しかしそこに書かれた文章の冒頭を見たとき、シャノワールではない想像もしていなかった名をそこに認めた。

「   国王より   」

 キルは体中に電流が走ったような衝撃を受けた。
 国王……より? 何のいたずらなのだ?
 しかし続く文章はもっと衝撃的だった。

「   君が私を捜していることは既に知っている。おそらくはあのさいころも手にしていることだろう。   」

 脳をハンマーで思い切り殴ったような衝撃だった。
 何故だ。何故知っているのだ。
 いや、これは本当に国王が書いたものなのか。
 シャノワールの悪いいたずらではないのか。
 しかし奴だとしてもさいころまで知るはずはない。
 ふとあのトカゲの森にいた誰かがシャノワールなのではないかと思った。
 だがやつならこそこそする必要はない。
 じゃあ、やはりあれは王だったのか?
 まだ文章は続いている。

「   あのさいころは、君も考えているかもしれないが、私の大切で特別なさいころだ。そのさいころが私の場所を示すことになるだろう。   」

 さいころについて言及しているところをみると、これは本当に国王からの手紙かもしれなかった。
 もしそうならさいころと国王に関係があるというキルの推測は正しいことになる。
 だが何のために、こんな手紙を国王は送ってきたのだ?
 逃亡しているなら手紙などよこさずずっと逃げていればよいではないか。
 しかしそんなキルの疑問を国王は見透かしているようだった。

「   ところで君は何故私がこんな手紙をよこしたのかと疑問に思うかもしれない。もちろん私には意図があり目的がある。こうして逃亡生活を送るのにも訳がある。そして今回この手紙を送った理由は、君と勝負をしてみたくなったからだ。私はあの理力院の天才児と呼ばれていたルーク=キーノートの叡智が、どれほどのものなのか確かめてみたいのだ。   」

 相手がキルの正体まで知っていることには、その前の驚きが大きすぎてたいして驚かなかった。
 勝負がしたいから、ああやってさいころを埋めたというのか。
 そしてキルがさいころを発見することまで予想していたというのか。

「   ルールは簡単だ。今手紙を読んでいる日から3日後の日の入りまでに私を捜し出せば君の勝ち、できなければ私の勝ちだ。もちろん私を捜すことは頭を使えば十分可能だ。賭けるものは何も無いが、負ければ君の頭脳は私に及ばないということになろう。   」

 文章はそこで終わっていた。
 キルは理解に苦しんだ。
 一体何故送り主である「国王」がキルの受けた依頼を知っている?
 そしてさいころの件も知っているということは、今までずっと見張っていたのだろうか。
 今こうして手紙を読んでいるところも監視しているのだろうか。
 それに、何故勝負などをしたがるのだ。
 一国を治める王が統治を放棄して、どういう理由でこんな遊びをしようというのか。
 叡智を確かめたいなどと書いてあったが、当然キルにはただそれだけの理由とは思えなかった。
 この勝負には乗るべきだろうか。
 キルは自問した。
 裏で不穏な影が動いているような気がしてならなかった。
 しかし依頼された身として国王を捜さないわけにはいかない。
 だがキルは、いつも燃えることなく冷えていた心のどこかに、小さな炎が宿るのを感じていた。
『負ければ君の頭脳は私に及ばないということになろう』
 文末の言葉が脳裏をよぎった。
 キルは、少しでも自分にプライドと闘争心が残っていることに驚いた。
「3日か……」
 あてもない人捜しならかなり厳しい日数だが、キルは既にさいころというヒントを得ている。
 それが何を示すかはまだ分からないが、3日あれば十分だと思った。
 否、それだけではまだ不満だ。
 叡智を確かめたいだと?
 …………なら確かめさせてやるよ。
「1日で探して見せますよ。王様」
 キルは誰にも聞こえないほど小さな声でそう呟いた。
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