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削除 06/10 (21:24) 8038
  T−1 「噂の男」 <鳩羽 音路> 03/16 (19:39) 8039
  T−2 「KILLER」 <鳩羽 音路> 03/16 (19:42) 8045
  T−3 「森の奥深きにある屋敷」 <鳩羽 音路> 03/20 (13:54) 8053
  T−4 「トカゲの森」(a) <鳩羽 音路> 03/24 (09:06) 8054
  T−4 「トカゲの森」(b) <鳩羽 音路> 03/27 (21:54) 8057
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  T−6 「解明」(a) <鳩羽 音路> 04/22 (00:08) 8093
  T−6 「解明」(b) <鳩羽 音路> 05/23 (16:44) 8098
  T−6 「解明」(c) <鳩羽 音路> 05/23 (16:45) 8109
  T−7 「解明2」 <鳩羽 音路> 05/23 (16:44) 8123
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  感謝 <鳩羽 音路> 03/13 (00:50) 8041
  感想U <もげ> 03/18 (12:37) 8049
  感謝U <鳩羽 音路> 03/19 (13:27) 8051
  感想 <もげ> 03/24 (15:58) 8055
  感謝 <鳩羽 音路> 03/25 (01:16) 8056
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  かんしゃ <鳩羽 音路> 04/05 (19:09) 8071
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  感謝と房総半島(何 <鳩羽 音路> 05/11 (00:20) 8112

8053
T−3 「森の奥深きにある屋敷」 by 鳩羽 音路 2009/03/20 (Fri) 13:54
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T−3 「森の奥深きにある屋敷」



 闇夜の森には決まって静寂が横臥し、殆どの生物は何処かで寂々と息を殺している。
 動く物といえば、夜空を慌ただしく飛ぶコウモリ達や、風に応える楓の葉くらいなもので、地上を支配しているはずの人間ですら滅多にこの暗黒世界に足を踏み入れることはない。
 かつて人間と竜人が抗争を繰り返していた頃は、大体の森は竜人たちに支配されていた。
 そのため人間は森に入ることを恐れていたが、現在竜人は滅亡している。
 それにもかかわらず、夜の森が恐れられるのは、やはり森に住む野獣達の睡眠を妨げることは人間にとって自殺行為であるからに他ならない。
 彼らは単独で行動しているわけではなく、むしろ協力関係を作り上げ、侵入者を集団で攻撃するのだ。
 いくら自信のある理力使いや剣士がその渦中に巻き込まれたとしても、この暗闇で彼らの攻撃を防ぎきるのは容易くない。
 そんな森の中を、ある男が独りで進んでいく。
 辺りを警戒する様子もなく、物音がしても腰の剣の柄に手を掛けるという素振りは全く見せない。
 ただ、場所を確認するかのように時折立ち止まって木々の位置を把握し、そしてまた進んでいくのみ。
 随分奥まで進むと、木々の間から人家の灯火が漏れ出してくる。
 それを目指してまた進んでゆき、光源にたどり着くと、急に木々の少ないひらけた場所とその中央にある屋敷のような建物が現れ、彼を出迎える。
 その建物の壁は、その半分近くが適当に伸びた植物のつるに覆われており、かなり重々しい雰囲気を醸し出す佇まいである。
 屋根の部分は木々の葉が覆い被さってほとんどその肌を見せておらず、今も夜風に煽られはらはらと木の葉が舞っている。
 正面には頑丈そうで人の高さ以上の扉が来訪者を待ちかまえる。
 彼は屋敷の扉まで歩き、懐から大きな銅色の鍵を取り出した。
 扉についている鍵穴に鍵をねじこみ、解錠して中に入る。
 中は月光が通らない分、かなり暗くなっている。
 すると、屋敷の中から廊下を歩く音が聞こえてきた。
 こちらに向かってきている。
 彼は壁にいくつか設置してある燭台を見据える。
 次の瞬間、それらすべてに火が灯され、廊下全体が明るくなる。
 そして足音の主がはっきりと照らされる。


          ◇


「まだ起きてたのか。夜更かしは体に良くない」
 キルは目の前に現れた少女――――ナナシにまずそう言った。
「今日帰ってくるって聞いたから、起きてたの。それに、こういうときはまず『ただいま』だよね?」
 ナナシは少し不服そうに頬を膨らましてそう言った。
 彼女は、黒とまではいかないが、黒と紺の中間くらいの髪色をしている。
 髪が長いため普段は束ねているが、就寝前ということもあって今はおろしている。
 目鼻立ちは整っており、歳相応な愛らしい感じのする少女だ。
 キルは呆れながらも、数週間帰ってこずに、久しぶりに帰ってきて言った最初の言葉が「まだ起きてたのか」だった無神経な自分を少し悔いた。
 留守中はゴンに任せられるとはいえど、やはり最初にかけるべき言葉ではなかった。
 いくらナナシがしっかりしていようと、あたたかい言葉をかけるべきだったのだ。
 仕切り直して「ただいま」とキルが言うと、何がおかしいのか、口元に笑みを浮かべながら「おかえり」とナナシは返した。
「どうした? なにかおかしいか?」
「そうじゃないんだけど、やっとゴンと二人きりじゃなくてすむと思うと嬉しくて」
「なるほど。あいつは色々とうるさいからな」
「頭も弱いしね」
 ナナシはそう言うと今度は声を出して笑った。
 つられてキルも笑ったが、この前に笑ったのが一週間以上も前であり、いかに笑うことが少ないかということに気づくと、すぐに苦笑いに変わった。
「なんだとこらァ!」
 突然壁からゴンが飛び出してくる。
 トーテムは壁を貫通できる。
 こういう時は殆ど幽霊と変わらない、とキルは思うが、ゴンに対してそのことを言うのはタブーとも思えた。
「俺は頭弱くねえよ!」
 しかし大声を出して必死で否定する姿は、知的には見えなかった。
「じゃあ、うるさいのは認めるの?」
「うるさくもない! 頭悪くもない! 見た目が子どもなだけだ! 俺はな、もともと大人なんだよ!」
 だが、実際この場で一番うるさいのはゴンであり、見た目と同じくらいの精神年齢であるのも実をいえばゴンである。
 ナナシと比べてもかなり子どもだと言わざるをえない。
 頭もそれほど良くないので、ゴンは見た目は子ども、頭脳も子どもと言える。
 そうなるとただの子ども……いや、ただの人型子どもトーテム。
 しかしそこまで考えて、トーテムに「ただの」は似合わないことに気がつく。
「ちっ、これだからガキは」
 ゴンが舌打ちする。
「『ガキ』はゴンの方じゃない」
「未発達な『おこさま』に言われたくねえよ!」
「そろそろやめておけ。夜中なんだ」
 キルが仲裁に入る。
 森でいくら騒ごうとも隣家などどこにもないために、近所迷惑になることはないが、森で生活する獣たちに迷惑がいくのは必至である。
 辺りの獣はキルたちには慣れており、襲うということはないにしても良く思わないことは確かである。
 互いに迷惑はかけないのが、森でのルールだったのだ。
 そして今のように喧嘩が勃発し、ある程度まで進んだらキルが仲裁に入るというのがいつものパターンであり、しかもその頻度が非常に高い――――1日に最低1回は起こる――――ので、キルは意識するよりも先に言葉がでるくらいになってしまった。
 とはいえ、ゴンとナナシはそれほど仲が悪いわけではない。と、キルは思っている。
 端的に表現にするなら、「喧嘩するほど仲が良い」といった感じがしっくりくる。
 いつもいつも売り言葉に買い言葉で、言葉で殴り合う2人だが、本当に嫌いならもっとひどいか無視しあうかのどちらかなのだろう。
 実際、気のせいかもしれないが、キルには喧嘩する2人が微妙に楽しそうに見えることがよくあった。
「そういえばキル、王様は見つかったの?」
 ナナシが先ほどの小競り合いなどもはや無かったかのようにそう訊いた。
「もう聞いていたのか。一つだけ手がかりはつかんだが、殆どまだ手探り状態だ。でもこの任務が達成できたら、当分の間生活費には困らないだろうし、そしたら留守番も少なくなるだろう」
「ふーん、でもキルなら絶対できるよ。できないことなんてないもん」
 ナナシは何の躊躇いもなくそんなことを口にする。
 多分、本当にそう思っているのだ。
 実際、キルは殆どのことをやってのけている。
 今までも多種多様な依頼を受けてきたが、失敗したことはほぼないと言っていい。
 「ほぼ」というのは一部、特別な場合があって完全に遂行することが出来なかった依頼があるからであり、それらをのぞけばすべて成功させているのだ。
 その一方ゴンは、”俺に対する態度と全然違うよな”とでも言いたげに、留守番中は憂鬱そうだったのに、急に生き生きとしてキルと話しているナナシを流し目で見ていた。


 キルはひとまず荷物を片付けるために、自室へ行くことにした。
 この屋敷には、もともと人が住んでいなかった。
 もちろん昔は誰か住んでいたはずだが、キルがこの古い建物を見つけた時は少なくとも無人であり、住み込むあてなどなかったキルにとっては絶好の立地条件だった。
 人里からは十分すぎるほど離れており、殆ど人が来ることはない。
 森へ入ってきたとしても、森自体が広いため、正確に場所を知らないとたどり着くのは困難である。
 しかし、ただ一つ完璧ではないのは、屋敷の広さにあった。
 狭いのではない。
 むしろ広すぎるのだ。
 部屋が数多くあり、廊下なども迷路のように入り組んでいる。
 どういうわけか仕掛け扉や、秘密の抜け口のような隠し通路も多い。
 昔の金持ちが建てたのか。
 それとも滅びた竜人の遺産か。
 またはそれ以外の何かか。
 しかしゴンは割と興味がありそうだったが、キルは住めれば良しといった風に特に興味は示さなかった。

 入り組んだ廊下を右へ左へと曲がっていくと、直線に長く伸びた廊下が眼前に現れる。
 キルの部屋はその廊下の壁についているいくつものドアの中で、最も手前にあるものの奥にあった。
 ドアを開けて中に入ると、先ほどまで続いていた廊下の年期の入った壁とは違って、磨き上げられた木材で加工された壁を持った部屋が広がる。
 床も壁と同様の処置を施されており、部屋の外と中では全く違った空間が展開しているかのようである。
 最初キルがここへ来たときは、どの部屋も古いために所々禿げていたり埃まみれだったりと、とても住めたものではなかったが、なんとかいくつかの部屋を改修して出来上がったものの一つがこの部屋だ。
 ゴンとナナシの部屋もこれと同じになっている。
 キルは隅に置いてあるクローゼットのような家具の戸を開けた。
 中は衣服を掛ける場所――――ではなく、小さな武器庫である。
 長いものと短いものが規則正しく立てられている。
 持っていたグランドブレイドやショートブレイドをその中にしまい、ベッドに寝転がる。
 無規則に入り組んだ天井の木目をぼんやりと見つめる。
 王の失踪、か。
 変わったことが起きたものだ。
 何もかも放り出して、何者にも束縛されない自由の身になりたかったとでも言うのだろうか。
 たとえそうだとしても、王という地位を捨ててしまった王様は、このまま誰にも見つけられなかったなら、どういう生活を送るというのだろう。
 そしてバーン王国はこれから先どのような道筋を歩むことになるのだろう。
 また違った考えが脳裏に浮かぶ。
 自分が王を見つけたなら、それで依頼は達成され報酬が支払われる。
 しかし、逃げ出すような王を連れ戻して、そのまま再度王座につかせたとしても、また同じことが起こるのではないか。
 そうなるのなら、何の意味もないではないか。
 だが…………。
――――自分には関係のないことだ。
 キルは心の中で呟いた。
 もともと今の自分の目的は、金を稼いで生きることだ。
 国王が逃げて、それを捕まえろという者があればキルは依頼を遂行する。
 そこには契約以外のなにものも介さないドライな関係があるだけだ。
 なにか他のものに縛られるような関係があるにしても、依頼主、今の場合バーン王国の内部に干渉するのは良い判断とは思われない。
 とにかく――――考えても、仕方がない。
 できるだけ早く仕事を終わらせ、大きな街へナナシを連れて行き退屈を解消させてやろう。
 ナナシには狭い世界で毎日のように本ばかりを読むようなことはしてほしくない。
 自分とは違って、まだもっと広い世界があるはずなのだ。
 もう戻れない自分とは違って…………。
 コンコン――――
 ドアをノックする音が聞こえてくる。ゴンはいつもすり抜けて部屋へ入ってくるので、もちろんノックするのは1人しかいない。
「キル、ご飯どうする?」
 ナナシがドアを開けて中へ入ってきた。
「少し貰おうか。誰が作ったんだ?」
「ゴンよ。結果的に、だけど」
 ゴンは普通のトーテムではない。姿形はまず普通ではないのが明らかだが、そのほかに驚くべき能力を持っている。
 言葉で表すなら、『実体化』とでもいうのだろうか。
 触れられる実体として自らをこの世界に入り込ませることが可能なのだ。
 ゴンは、「もともと人間で、しかもトーテムになっている年月が浅いためにもとの自分を忘れていないという感じ」だと言っていた。
 それにしても、結果的に、とはどういうことだろう。
「もともとあたしが作ろうと思って、実際に作ったんだけど…………失敗しちゃって」
 ナナシは料理が上手なほうではないが、ゴンは外見に似合わず上手い。
 多分ナナシの料理を見かねたゴンが新しく作ったというパターンだろう。
 そこで喧嘩が勃発したのは言うまでもなさそうだが。

 その後、キルは屋敷の食堂でゴン特製のシチューを食べた。
 もちろん文句の付けようのない出来だ。
 ナナシも同じものを作っていたらしく、しかも捨てずに置いてあったので食べてみたが、しょっぱいような甘いような不思議な味がした。
 キルはあえて調味料については聞かなかった。
 この手の失敗は調味料を見境無く入れることに問題がある。
 寝る前に、空高く昇った月と、夜空に瞬く星たちを3人で見た。
 大きく欠けた月がキルを笑っているようだった。
 …………1日が終わっていく。
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