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  「 」 Blank    ――Zero volume――... <hirumi> 07/29 (20:44) 7826
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  渾身のファイナル感想返し <hirumi> 07/30 (10:38) 7830

7826
「 」 Blank    ――Zero volume――    ver……5.04〜5.08+10.16〜10.24+β by hirumi 2007/07/29 (Sun) 20:44
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私は音を立てないように気を配りながら少しだけ部屋の扉を開けた。

出来た間に首を突っ込んで辺りを伺う。

「誰も、というより彼は居ませんよね。」
と、小声で言ってから首を引っ込める。

自分の体が通り抜けられる分の隙間を作って、
体を上手く使いこなして潜り抜ける。

無事に廊下に出られたと安心して、胸を撫で下ろす……のも束の間、下手したら彼に見つかる恐れがある。
より一層に緊張しなければいけないと言い聞かせて、私は息を殺し始める。


抜き足、差し足、忍び足で廊下を静かにある一定方向に歩いていく。


(それにしても、どんな仕事を引き受けたのでしょうか。
 全く、私を除け者にしてさっさと話を進めるんですから。
 
 まぁ、彼がわざと私を除け者にしていると気付いていたのに、
 気付かない振りをしたさっきの私も私ですが。)

と、心で呟きながら。



そう、私がこうしているこの目的が彼が一体どんな仕事をやっているのかを知ること。
それに、彼がどんな騒動を巻き起こすのか判りませんし。




廊下の奥に着いて、引き戸に耳を当てる。
中からは喧騒が聞こえてくる。




息を大きく呑む。




私は廊下の奥にある引き戸を丁寧に開ける。


そこはこのサーショの街で一番大きな酒場。
しかも、今は夜の真っ盛りと一番酒場が繁盛する時間帯。
故に、店内は予想通りながら騒々しいこと。


酒場の中に入り込んで、壁にもたれかける。


私が僅かな異変に気付いたのは数十秒経ってからのこと。

普段は各々が卓について思い思いの話をしていて店内では店員さんが慌しくしています。





が、今日は全く違う。





誰もが何かに向かって称賛の言葉を飛ばしている。
それに、今日は満席御礼と言った所でしょうか。


その言葉の間から、聞こえてくるのは――、









「ピアノの、旋律。」








酒場の隅に置かれてあるピアノから次から次へと生まれていくのは、整った音の群れ。




音の群れが一つの旋律を紡ぎ、
旋律が更に群れていくことで一種の芸術をも生み出していく。


全ての音が自らを主張しあっているのでは無く、
他の音を補いながら突き進んでいく。


音が凄まじい勢いで私の耳を通過する。
この酒場で、テンポが異様に速い曲が演奏されている。

唯、聞き流しているだけの人には気付かない。
そんな目立たない間違いも何一つ無い。




正直言って、私は彼が現時点において演奏している曲は全然わかりません。
何かに引き込まれていくという感じだけはする。






このピアニストはかなりの腕前を持つ方でしょう。








激しく疾走感に溢れる軽快なその曲は、
息をつく暇も無く終わってしまった。


私の口は何時しか半開きになっていた。
が、そんなことはお構いなく私は拍手をし続けていた。


何としてでも、私はそのピアニストの顔を是非とも拝見したかった。
遠くから演奏を見る限りだと凡そ二十歳前後の活発な青年と思われます。


彼とは大違いですよ。
彼もああいうような人だったら良かったんです。

そうしたら私も手を焼かずに気楽にいけたんですが、はぁーっ。




ピアニストが壇上から降りて、挨拶をする。




「えー、ゴホン。皆様。
すさまじーく下手糞な俺の演奏を聞いて下さって誠に有難うございました。」







私は卓の間をすり抜けて、彼に向かって歩いていきました。





      *      *      *












「 」 Blank    ――Zero volume――    ver……5.04〜5.08+10.16〜10.24+β












      *      *      *


【以下、とある人の冒険日誌より原文のまま抜粋。】


世界一周の旅  4日目・夜〜5日目・朝
とある日の早朝にの広大な湖の周りのほとりにて。



それにしても、今日は色々と大変だった。
もしも一人だけで例の場所へ特攻したら、死んでいたかもしれない。
想像するだけであーコワいコワい。




その森は存在感を見せ付けるかの様に聳えていた。
正直言って、オレは初めてこの森に入る。
親父からは何度も聞かされていたが、まさかあそこまで凄かったとは。

ひえー、思い出すだけで鳥肌が立つ。


オレの様な『自称』冒険者達の間では、
悪い意味での愛称が数多く付けられてある森だとは知っていた。

愛称としての例は、
「心臓破りの森」とか「モンスターハウス」とか「生と死の境界線」等々。

まさかまさか、あそこまで恐ろしかったとは。

そん所そこらじゃお目に掛かれない火を吹く蛇や巨大な鳥、
何か特別変異で変わったとしか思えない狼やら何やらが大集合と如何考えても、
魔物のオールスター大集合で俺は荷物を持ったままずっと逃げるだけだった。



それにしても、オレは運が強いというのか何というか。
例の森を抜ける前に、ムーの村で食料調達をしようと行って良かったな。

アイツに会えてお陰で、今オレはこうして少なくとも冒険日誌を書けている。





生きていてこうやって書けていられる。
それだけでも十分に凄いとオレは思う。







『生きていられるって、素晴らしい。』







この旅でオレが学んだ一番重要なのはそれだろう。
旅を始める前も脳内では理解していたつもりだけどさ、
やっぱりこうやって身をもって知ることって大事なんだなぁ。




最初、この旅を計画した時は今のオレでは無茶だと思っていたが、
意外と大丈夫かもしれない。
いや、大丈夫だと信じる。

それはそうと、昨日の夜も緋色のマントの人と『スケイルさん』が焚き火をあたりにきた。
うんうん、之はちゃんと毎日書かないとな。



そういえば緋色のマントを何時も羽織っている人の名前って一体、





何なんだ。





結局、一度も名乗ってくれていない。
そこまで名前を名乗ることが嫌いなんだろうか。
とりあえず、考えても分からないんで放置しておくか。


あっー、それにしても今までずっと大事なことを書くのを忘れていた。



だけど、このページの行数が後五、六行しかない上に丁度区切りが良いから、
次のページへ書くことにするか。




【以下の空白の数行に渡って薄い文字が書かれてある。
 読み取れた部分のみ抜粋。

 『よ  く、5 目。
   日目 は ー   へ着け  ?
  後 し、
   少 で   無 もはら るだ う。』

所々ノートの下部は水滴が垂れた跡が残っており、
滲んでいる為に薄く書かれた文字の半分以上が読めなくなっている。
尚、次のページが何者かによって乱暴に破かれた為に解読不能。】






――それにしても、このノートは何処から入手したものなんですかねー。


――それは、気にしてはいけないお約束ですよ。(ブチブチ)



(抜粋……『シルフェイド録……バーン暦五百年』より。)



      *      *      *





「眠いっ。」



と、大声で叫びながら、
俺の上に掛けられてあった毛布を蹴っ飛ばした。

足に全ての力をこめて吹っ飛ばした毛布は、
見事に壁に当たって崩れ落ちた。

拾うのが面倒ので、
気付いていない振りをしてみる。
うん、振りをしている時点で気付いているんだけどね。


今の俺の体の状態を簡潔に言うならば、「眠い」。
「眠い」という言葉の以上でも以下でも無い。


口を開けたら、
欠伸が五回連続で出てきそうだぜ、コンチクショー。


『トーテム所持者は眠らなくたって大丈夫。
だって、トーテム所持者だもん。』


と、以前そうやって力説していた俺自身が恥ずかしく思える。

しかし、何だ。
起きた時の第一声が「眠いっ」って一体何ですか。
見事に矛盾していますよ、俺。

そういやぁ、
以前は昼飯を食い終わった直後なのに
「あー、お腹空いた。」って大きな声で叫んだなー。

その後に頭をはたかれたな、スケイルに。


このまま、二度寝でもしようかと思ったが流石にそれは不味い。
恐らくスケイルが短剣を振るいながら俺を追いかける羽目になりそうだ。
よし、二度寝は止めよう。
偉いぞ、俺。



何やら外から雨音が聞こえたので
軋んだベッドの上から寝ぼけた眼で枠付きの窓越しに外を眺めてみる。









降っていたのは、やはり雨だった。









「今日もまた雨、か。」






胸の奥から全部の空気を吐き出した。




俺は何時まで経っても部屋もといベッドの上から出て起き上がらなかった。


だから、スケイルが俺の客室に突然入り込み『祈りの短剣』を振りまくるまでの間。





何故なら、外の景色をずっと見ていたからだ。







      *      *      *





「あー、スケールさんが俺をもう少し早く起こしてくれれば、
大切な大切なシルバが俺の元から消えていかなかったのに。」

と文句を呟き、
尚且つふら付くながら歩いて行く彼。

「全ては二日目に貴方が
『トーテム所持者は眠らなくたって大丈夫!』って言ったからですよ。
私はその言葉を信じたんですよ。」


彼はぼんやりと遥か空の彼方を見ている。
心成しか、彼の眼に光が宿っていない。

眼に光が僅かしか宿っていないのは何時ものことですが、
今日は光その物が宿っていません。


やはり、昨日のことがトラウマとなっているのでしょうか。

アレが原因で、
起きていても布団の中にずっと潜っていた……と考えるのが。
それなら、本当に彼には悪いことをしましたね。



「いやー、昨日さー、布団に入ってからさー、ずーっと羊を数えていたんだよ。
何処までさー、数えたらさー、眠くなるのかってさー、幼い頃からずーっと気になっていてさー。
結局さー、三万九千七百五十二まで数えた時にさー、
突然さー、スケールさんがさー、怪しげな物体Iをさー、振りながらさー、突入してさーきたからさー、
目標のさー、五万のさー、達成がさー、
出来なかったんだよ。」



前言撤回。
この人は悩みなんか抱えていないでしょう。



今までも、これからも。









「……というのは冗談だ。」










―― その普段よりも半オクターブ低い彼の言葉は


        空耳だったのか、

    風の気まぐれだったのか、

   単なる思い込みだったのか、

    それとも真実だったのか。




      私にはさっぱり分かりません。




そう。
彼が一番最初に発した




「俺なんぞに名前なんて要らないさ。」




という言葉と同様に。――






彼は目を地面に向けながら私の方向を向いた。
その状態のまま彼は片手を柄に伸ばし、半分だけ剣を抜いていた。




私を貫き、射抜き、噛み殺す眼。

普段の死んだ魚の眼は何処にも存在せず、
そこには戦士の眼しか無かった。



驚きの声が、



喉に詰まって出てこない。





いや、呼吸が出来ない故に発声できないかもしれません。


銀色の何かが私の近くを弧を描いて飛んでいくのを目で追う。
それを剣だと認識したのは数秒後のこと。



重低音をたてて、
銀色の剣が胸に刺さったトカゲの兵士の死体が地面に落ちる。

トカゲの兵士の胸が、
ちっとも上下に運動していないことから死んでいるのは明らかです。


祈りの短剣を服についてある大きな胸ポケットから取り出して、
彼に顔だけ向けました。


彼の眼は普段の眼に戻っていて。

「敵襲っぽいですぜ。スケールさん。」


間の抜けた声でそう言いました。


私は胸を撫で下ろして、
ようやく呼吸をして体勢を整えました。




      *      *      *





たかだか、五日。





されど、五日。




五日とは何だろうか。
日が昇り降りした回数が合計五回終わった日のことではないか。

それはさておき、
漠然とした五日間という物を電卓を用いて目に映る物にして表してみよう。


五日を時間に直すと、百二十時間。
五日を分に直すと、七千二百分。
五日を秒に直すと、四十三万二千秒。


数字で表してみると、
五日は意外と短くて意外と長いのだ。

今、この時でさえ刻々と一秒が刻まれていく。
一秒の差は日常的に気にしないことが多い。
否、日常でも試験中とか大切な〆切の前日とかで、
切羽詰った時では大いに気にするだろう。


一秒を六十回数えると一分になり
一分を六十回数えると一時間になる。





やがて、何時しか時計の短針が二回転して日付が変わってしまう。




その五日の内、
大体の場合は四分の一から三分の一を睡眠に費やしてしまうのが、
欠陥を多く持っている我々人間だ。

それに、生存の為に食事だってしなくてはならない。

更に技術が発達している地域に住んでいる人間だと、
洗顔、歯磨き、洋服選び、掃除、洗濯、料理など等
様々なことをする。


五日分の【睡眠時間】と【その人にとっての最小限度の行動】の和をもとめ、
五日から引いて残った時間がその人の自由時間だ。

それに、
自由時間の半数以上が前々から決まっていた予定だろう。

しかも、自由時間にやらなければいけないことや、
計画を立てていることを思い出して行動したりもする。


それらを考慮してみると、
手元に残る実際の自由時間は雀の涙程度だ。

だが、その雀の涙程度の時間を手に入れようと、
必死になるのも人間だ。


そうして手に入れた自由時間は十人十色の用途に使われる。
その時間はその人にとって大きな厚みを持つだろう。





五日間とは誰にとっても大切なのだ。





今更であるが、此処で考えの方針を変えてみよう。

人間という種族は大抵の者が二十数年以上は生きる。
では、一人の人生においての五日間は一体どの位を占めるのか。

ともすると、今度はかけていくのではなくて、
割っていくことになる。

では、実際にやってみよう。
一週間に占める五日間は約七分の五.

一ヶ月間に占める五日間は約六分の一。


三ヶ月間に占める五日間は約一八分の一。



半年間に占める五日間は約七十三分の二。




一年間に占める五日間は約七十三分の一。





五年間に占める五日間は約三百六十五分の一。






十年間に占める五日間は約七百三十分の一。







二十年間に占める五日間は約千四百六十一分の一。








一人の人間という個体が、
一般的に大人として認められる期間は大抵二十年間だ。

その二十年間に占める五日間は約千四百六十一分の一しか占めない。
之を百分率で表すと、約六,八十四パーセントといった所か。






五日間は、人生においてほんの少ししか影響を与えないのだ。





まぁ塵も積もれば山となると言う。


が。


その五日間を過ごしている時は
「この五日間は後の自分の人生に影響を与えるだろう」
等とはほんの僅かも考えないだろう。

以前も言ったが、
受験や試験・結婚及び離婚に出産、それに家族や知人の死去
等と『道』の大きな分岐点は除く。










たかだが、五日。






されど、五日。










故に、








五日間を決して舐めることなかれ。






      *      *      *




湿った木の扉を勢い良く開けて、
衣服から滴る雨水やら宿屋の酒場の状況を気にしないでずかすかと入る彼。

その上に、足を少し折り曲げながら
「つー、かー、れー、たー。」
木で出来たカウンターの所に顎を乗せる彼。

金を支払ってサービスを受ける側としてでも、
幾ら何でもそれは無いと思います。

それに宿屋の受付の方だって困惑していますし。
行動をする際に時と場合を考えるのが普通ですが、
何故この人はそれを考えないのでしょう。


全く。既に呆れていますが更に呆れてしまいますよ。


「此処の場所、分かってますよね。」

少し気の抜けた声で彼は答えた。

「あったりめーだろ、サーショの町の宿屋に決まってんだろ。」

その彼の頭を片手で押しのけるようにして、
受付の方と話し始めました。

後ろで彼が何か文句を言っているようです。
ええ、それは何時もの様に無視をします。

引き攣っている営業スマイルをした受付の女性に目をあわせる。

「この人は存在そのものを放置、寧ろ無視して下さい。之が普通なんで。
えーっと、一人部屋を二つで一泊したいのですが、どの位でしょうか。」

そう聞くと、彼女は唐突に笑い始めて私たちの顔を交互に見ました。
それから、笑いながら一言を発した。

「ダブルの一部屋じゃなくて良いんですか。」

キョトンとしている私に対して、
彼は何かに気付いたかのように目を少し上げて、
おもむろに言いました。

「あぁ、あれだ。俺達は恋人同士なんかじゃない。
あれだな、寧ろ好敵手……スケールしゃーん。
一体、俺たちにはどういう言葉がドンピシャになりますかねぇ。」

答えてみる前に彼の頭を数度ほど叩いてみる。
叩いていく内に彼の不機嫌な独り言が耳に不協和音として入ってくる。


ああ、この不協和音は耳に障る。


「私に振らずに、自分でそんなことは考えて下さいよ。
それより、お金を出してください。
お金の管理は貴方なんですから。」


渋々と立ち上がって彼は懐から小さな布袋を出した。

それを乱暴な手つきで片結びされた紐を空中でほどき、
その中に静かに右手を突っ込んで銀貨を探し始める。

彼は最初、間抜けている普段の顔で探していました。
しかし、見る見る内に彼は焦って行く。

妙なことに、銀貨同士がぶつかり合う音が全然聞こえてこない。
所謂、金属音と言うものでしょうか。
そうそう、あの歯切れが良い音がさっぱりと。

となると、考えられる原因は一つのみ。





えっ、ちょっと待って下さいよ。
私の思考回路は絶対に可笑しい。
いや、そうとしか考えられない。
ともすると、彼は。






まっ、まさか。







「スケールさん。それに、宿屋のねーちゃん。」

と彼は空笑いをし始めた。
間を数秒ほど空けてから、彼は布袋を逆さにした。
あっ、当然カウンターの上にですよ。


常識的に考えれば、
中から少なくとも手足の指では数え切れない程の銀貨、ことシルバが出てきます。
倒したトカゲ兵から奪った金品を売っていましたから。
一つの金品は結構な値段で売れるんですよ。

ですから、本来なら大量のシルバが中から出てくるんですよ。
ええ、本来ならばそれこそ大量の。





――布袋の中から落ちて来たのは一枚の何か。
  小さく虚しい音が落ちた瞬間に響き渡った。
  木製のカウンターにそれは目に見えないへこみを作った。
  私はそれを右手の人差し指と親指で、ひょいっと摘み上げた。





「いっ、一シルバ硬貨。」





という私の言葉を境にして私達の間に沈黙が訪れる。
実質的には彼が一人で空笑いをしているので沈黙ではありません。

彼の笑い方は今にも死にそうで呼吸のみで笑っているんですよ。
気味悪くて背筋が震えています。



兎に角、今日は此処で寝泊りできません。
たかだか一シルバで寝泊りできる場所なんか存在しないでしょうし。

となると、久々に野宿になりますね。
寝ている間に、野犬の襲撃に遭わなければ幸いなんですが。

「済みませんが、この通り何処かの誰かさんのせいでお金が無いので。」
「あー、ねーちゃんに話があるけど。ちょっち良いかな。」

彼が割り込んできて、私の顔を暫し見つめた。
唐突に私の額に指差して、そのままトイレを指差した。


「スケイル、額に塵が付いているぞ。」


その言葉の裏には、

「あー、スケイル。ちょっと邪魔だから退いてくれないか。」

というのは明らかに目に見えています。


私を除け者にして怪しげな会話を行うのでしょう。
仕方がありません、腑に落ちませんがトイレに行きましょう。



廊下の引き戸に手をかける際に、私は何回か後ろに振り向いた。

仲良く話している二人を少し羨ましげに思いながら。



      *      *      *



「それにしても、俺があん時にピアノを弾いていることがバレルとは。
最後の締め位、ちゃんとやりたかったのによ。乱入して必要は無いと思うんだ。」


等と、傍目から見るとものすんげぇ痛々しい独り言を呟きながら暗闇の洞窟の中を駆ける。
そうでもしないと、何かに押し潰されそうな気がしちゃうんだよ、どうしても。
って、之も独り言じゃねーかコノヤロー。

この洞窟を通ったのは二回目だから今回はセタさんと戦わずに済んだのは良かった。
前回は散々迷った挙句に最後の最後でキツイ戦い。


あれは、どう考えてもナイぜ。
きっと何者かが俺を精神的にも肉体的にも殺そうと企んだに違いない。

って、これもナイな。
それから、やっぱり之も之で痛々しいな。はぁ、何で俺は痛々しいのでしょうか神様。


それと、神様。俺がちゃんと己を知っているのならそれを直せば良いと言わないで下さい。
もう、この性格だけはどーしよーも無いんで。



「それに、お前らもいい加減に襲ってくるんじゃねーよ。」

と、目の前に現れた数体の骨の塊で出来たトカゲの亡霊に言い放つ。


一体目は骨の繋ぎ目の間を真横に力を入れずに斬った。
んで結構高く前に飛んで、さり気なく集中し始める。


自由落下の地点に二体目が居たので、
落下の速度を利用して頭に突っ込――まずに頭だけを蹴って再び空へ舞い上がる。


いや、天井があるからそこら辺は考えているけどね。
俺が下降し始めた時に、体を半回転捻って両手を突き出す。




「くらえー、渾身のぉー衝撃のぉー。」
やっぱ、俺の頭は異常が多いな。既に、『衝撃』って言ってやがる。



両手から衝撃が発射されてから、
コンマ数秒後に華麗に着地して再び駆けて行く。



わざわざ確認しないのは、全部倒れているはずだからだ。
多分。



(あー、時間がちゃんと間に合うのだろーか。
日付が変わるまでには奴さんにご対面出来るか不安だ。)




ちなみに、
階段を通り過ぎたのに気付かずに俺が再びループにはまってしまったのを秘密にするのは、
お兄さんとの約束だぞ。



      *      *      *



「着いたな。」

バーンと聳え立っている封印のウンチャラにようやく着いた。
あぁ、俺はようやく判ったよ。そう、星空がこんなに美しかったなんて。


「さてと、俺は急いでいるからさっさと要件を済ませちゃいますか。」
と、封印の石版とかいうブツを無視して階段を下りる。

扉の封印は最初に来た時に解いているから、
単純に扉を開けていくだけだ。


ちなみに、リーリルの近くにある砦からも行けるけれど、
俺はあえてやらなかった。



だってさっ、
単身で洞窟を抜けていくってなーんか格好良いだろ。


俺がやると別に格好良くないと、
それが当たり前だと『彼方』はおっしゃるのですね。

あっそう、別に良いさ。


別に良いさ。



別に、良いさっ。



洞穴の奥にあったもう一つの階段を下りて行く。
この階段は結構長いな。

最初に来た時は砦との通路を切り開いたのと、
奉られている武器や防具を奪っただけだったからな。
之を下りるのは生まれて初めてだ。



階段を最後まで下りた瞬間に、悪寒がした。



剣をおもむろに取り出してみる。
尚、剣先は地面と接触しているんで一本の半直線を画いております。



それから、俺はそれこそ久々にご対面した。魔王さんと。











「お久しぶりだな、魔王さん。じゃなくて、サリムと呼んだほうが良いか。」






剣を確りと握り締める。
今や魔王となったサリムは俺に激しい敵意が宿った目を向けてきた。






何故か、悲しかった。




「そうか、もう其処まで進んじまったのか。
ははっ。サリム、お前なら今でも大丈夫だと信じていたのにな。」


俺は剣をサリムの目に向ける。



「悪く思うなよ、サリム。もう時間がねぇんだ。
さっさと事を片付けて、ある用事を済ませないといけないんだ。」




何故か、両手両足が小刻みに震えている。
駄目だぞ、俺。
脳内を全て戦いにシフトしなければ行けないんだ。

そうだ。
俺はクールに、冷静にならなければいけない。




絶対零度の如く冷血になり、
この戦闘限定で残虐にならなければならん。









――         私は剣なりき。         ――








――         私の存在価値はそれ以上でも、
         それ以下でもなくて剣そのものである。         ――
――       私は氷の矢を通さない氷の盾をかざし
        氷の剣を持ちて、相手の熱き心を射ぬかん。         ――









――                  そう。                  ――




















――             私は全てを断ち斬って無へと返す為にあるのだ。           ――



















「いざ、尋常に参ろうではないか。サリム。」


私は、その一言を言い終わると同時に呪文を詠唱し始めた。





そして――






      *      *      *




さてさて、此処で名も無き戦士のお話は終わり。


というのは、実は嘘だけど本当だったりする。
うん、この矛盾を正当化する為にちょっと屁理屈を言ってみる。


まず、「嘘」というのは
「あくまでも、付添い人から見た場面が多いので実質的には『名も無き戦士のお話』とは限らないこと。
 それと、実はまだ『名も無き戦士』についての大事な部分が明かされていない。」


「本当」というのは
「内容のまんま、『名も無き戦士』のお話だから。」


この言葉をどう受け取るのかも、全ては彼方次第ね。




私は、やっぱり「嘘」でもあるし「本当」だと思う。
そうじゃないと、面白くないでしょう。



      *      *      *



「百害あって一利なし。」ということわざがある。


意味は言葉通り。
利益は何も無くて、大きな損害を被ること。

故に、人はそれを無意識の内に嫌がっている。


逆に、もしも「百利あって一害なし。」ということわざが現実に存在していると仮定してみる。
そうすると、損害は何も無くて、大きな利益を得られるので人は大喜びするだろう。




現実は物語っている。
ことわざの中で「百害あって一利なし。」があるのに対して「百利あって一害なし。」は無い。

そこから、
``どんなに完璧な物や事柄でも必ず目には見えぬ小さな欠陥が生じている。``
等と読み取るのは容易でしょう。



ええ、『使用』者に様々なる恩恵をもたらしてくれるトーテムもそうなのです。
良い事尽くしに見えるトーテムも一つだけ欠陥があるのです。

トーテムにある欠陥は薬でいうならば副作用でしょう。
その副作用は薬とは違って無作為に起こるものではなくて、
ある条件化によって起こるもの。



ちなみに、その条件は二つあります。
ただ、如何考えても両方とも稀にしか条件に当てはまらない。
ので、今まで私は知らない振りをしていました。






運命とは恐ろしいものです。
女神である私ですら把握出来ない。



そう、その条件を満たしてしまった人が最近になって突如して一人現れたのです。
しかも、両方の条件を満たしてしまっている。





何らかの対処を打たなくてはいけないと、「私」は告げている。
しかし、今の私は何も出来ない傍観者にしか過ぎない。






歯痒いというレベルを通り越して、苦しい。
胸が苦しい。







ごめんなさい。

ごめんなさい、ごめんなさい。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。







空気に向かって謝ることしか出来ない。
そんな私はそこら辺に居る無力な人間よりも格が下に違いないでしょう。


To Be Continued……


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おそがき


遂にやりました。二ヵ月振りの投稿です。
前回に「一週間おきで〜」云々と言ってた自分は馬鹿ですね。
此処まで遅筆だともう立場がありませんね。

そして、今回は今までの中で一番長いでしょう。多分、恐らく。
二十三,四kbで行数が千四百弱です。


というより、異様に長いので見難いですね。
しかし、分けて投稿すると微妙なところで分かれるので面倒臭い。
どうしようもありませんね。


そして、之をもって再びアルバ編に突入していきます。
尚、アルバ編が終わり=「 」が終わりとは現時点では限らなかったりします。
色々と書きたい所が多くなったのでアルバ編でエンディングにならない可能性が強いです。
まぁ、「 」シリーズとして投稿し続けるのでしょう。

下手したら、「 」全体の容量が三百kbを超えそうで怖いです。
(今は百八kb弱)

まぁ、気ままにポチポチとやっていくので暇人な方はこれから宜しくお願い致します。
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